説明

気液分離容器、及びICP発光分析装置

【課題】 試液から水素化物は定常的に安定して分離させる。
【解決手段】 ICP発光分析装置は水素化物発生装置を内部に組み込んでおり、プラズマトーチに直接的に水素化物発生装置の気液分離容器21を接続する。気液分離容器21は、逆L字状の導入管23の管先端23cを容器本体22の傾斜した内壁面22dに対向配置し、導入管23から流出する試液を内壁面22dに衝突させて水素化物を試液から安定的に分離させると共に、試液が容器本体22の内壁を伝って静かに流れ落ちるようにして測定分析の安定化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象となる水素化物を効率良く且つ定常的に発生させて安定した測定分析を可能にした気液分離容器、及びICP発光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川水、湖水、上水等に含まれるヒ素(As)、セレン(Se)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)の元素に対する分析には、直接溶液噴霧法、又は水素化物発生法を用いてICP発光分析装置で行うことがある。水素化物発生法は、直接溶液噴霧法に比べて10〜30倍程度、分析に係る感度を向上でき、水素化物発生装置として具体化されている。
【0003】
図6は、従来の水素化物発生装置2を用いたICP発光分析装置1の概略図である。ICP発光分析装置1は、一つの独立したユニットとして存在する水素化物発生装置2に高周波コイル6が巻回されたプラズマトーチ5を接続し、プラズマトーチ5での励起発光の測定を分光器9で行う。水素化物発生装置2は、ボックス状の本体カバー2a(図中破線で示す)の内部に反応管3及び気液分離容器4を設けており、本体カバー2aの外部には、液体試料Sを入れた試料容器7、及びポンプPが介在する廃液タンク8を設けている。
【0004】
水素化物発生装置2の反応管3は一端側を三方に分岐し、チューブ7aを介して試料容器7と接続されて液体試料を導入する第1開口部3a、水素化剤を導入する第2開口部3b、及びキャリアガスを導入する第3開口部3cを設けている。また、反応管3は、導入した液体試料及び水素化剤を反応させて上述した元素の水素化物を生成する巻回形状の反応部3dを設けると共に、他端側に気液分離容器4へ差し込まれる差込部3eを有する。
【0005】
気液分離容器4は、所要の容量を確保した容器本体4aの上部から導出管4bを突出し、容器本体4a内で分離した上述した元素の水素化物M(気体)をプラズマトーチ5へ導いている。また、気液分離容器4は、容器本体4aの底部の一方の端からは屈折形状の排出管4cを突出して反応残留液Lを廃液タンク8へと排出し、底部の他方の端からもポンプPと接続された急速ドレイン管4dを突出し、ポンプPの駆動により反応残留液Lを強制的に廃液タンク8へ排出できるようにしている。なお、気液分離容器、水素化物発生装置、及びICP発光分析装置は下記の特許文献1、2にも開示されている。
【特許文献1】特公平6−19325号公報
【特許文献2】特開平6−249782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6に示す従来の水素化物発生装置2は独立したユニットであるため、水素化物の分析を行うには水素化物発生装置2をICP発光分析装置1の元へ運搬して所要の接続を行う必要があり、また、水素化物発生装置2の配置のためにICP発光分析装置1の周囲に所要のスペースも確保しなければならないと云う問題があった。ICP発光分析装置1は分析対象の試料に応じて、水素化物発生装置2以外に他の種類の装置及び機器等とも接続されることがあり、相異する種類の試料を分析する場合には、ICP発光分析装置1と分析対象の試料を供給する装置等との接続の切替を行う必要があるため、上記した問題は特に顕著となる。
【0007】
また、従来の水素化物発生装置2は、反応管3及び気液分離容器4が本体カバー2aで覆われるため、外部からでは装置内部でどのような反応が生じているかを確認できなかったと云う問題がある。
【0008】
さらに、気液分離容器4の内部に溜まる反応溶液(反応残留溶液L)が差込部3eの先端を越えていない状態では、差込部3eから反応溶液が滴状に滴下又は流れ落ちる衝撃により、導出管4bを通じてプラズマトーチ5へ導かれる水素化物Mの量が変動してプラズマトーチ5での励起発光が不安定となり、分光器9で安定した測定分析が行えないと云う問題がある。また、図6に示す程度に反応溶液(反応残留溶液L)が溜まった状態では、液面から抜け出て上昇する水素化物Mのみがプラズマトーチ5へ導かれるため、効率的に水素化物Mを得られず測定感度を良好にできないと云う問題がある。
【0009】
また、屈折した排出管4cに溜まっている反応溶液(反応残留溶液L)の中で、水素ガスが発生することがあり、反応溶液中の水素ガスが多くなると、排出管4c内を移動して溜まっている反応溶液(反応残留溶液L)の液面を揺らすため、安定した測定分析を妨げると云う問題も生じる。
【0010】
本発明は、斯かる問題に鑑みてなされたものであり、反応溶液を静かに安定して気液分離容器の内部へ導入することで、安定した試料の測定分析を行えるようにした気液分離容器及びICP発光分析装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、排出管の水素ガスが溜まりやすい箇所から水素ガスを抜くようにすることで、液中に発生する水素ガスによる測定分析に対する悪影響を排除した気液分離容器及びICP発光分析装置を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、省スペースであり、且つ、ICP発光分析装置との接続切替も従来に比べて容易に行えるようにした気液分離容器及びICP発光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、第1発明に係る気液分離容器は、試液から気体を分離させる容器本体へ試液を導入する導入管と、導入した試液から分離する気体を導き出す導出管と、過剰に導入した試液を排出する排出管とを備える気液分離容器において、前記導入管は、前記容器本体の外方から内方へ延出してあり、延出側の管先端より流出する試液が該容器本体の内壁面に届くように該管先端を該内壁面に対向配置しており、前記内壁面は、届いた試液の流れる方向に沿って前記容器本体の内側へ傾斜してあることを特徴とする。
【0012】
第1発明にあっては、導入管の管先端を容器本体の内壁面に対向配置することで、導入管より容器本体の内部へ導入される試液は、容器本体の内壁面に降りかかるようになる。このように試液が内壁面に降りかかる衝撃で、分析対象の気体(水素化物)が試液から定常的に分離発生し、測定分析に対する水素化物の供給の安定化を図り、供給量の変動による測定分析データのバラツキを抑制できる。また、管先端が対向する内壁面は、容器本体の内側に傾斜してあるので、内壁面に降りかかった試液は内壁面を伝わって流れ落ちることになり、試液が滴状に滴下することにより生ずる測定分析に対する悪影響を極力抑えることができる。
【0013】
第2発明に係る気液分離容器は、前記導出管は、前記容器本体から外方へ突出してあり、突出端に外部機器との接続部が形成してあることを特徴とする。
第2発明にあっては、導出管の突出端に接続部を形成することにより、外部機器との接続及び切り離しを容易且つ迅速に行えるようになる。
【0014】
第3発明に係る気液分離容器は、前記排出管は、容器本体から外方へU字状に湾曲して突出してあり、湾曲した内周側の箇所よりガス抜き管部を突設してあることを特徴とする。
第3発明にあっては、排出管に溜まった試液中に発生する水素ガスが溜まりやすい湾曲の内周側にガス抜き管部を設けるので、発生した水素ガスがガス抜き管部を通じて外部へ排出されるようになり、排出管に溜まった試液中に発生した水素ガスの不規則な移動等により測定分析に対する悪影響が生じることを防止できる。
【0015】
第4発明に係る気液分離容器は、前記導入管の管先端は、屈曲して前記容器本体の内壁面に対向してあることを特徴とする。
第4発明にあっては、導入管の管先端を屈曲して内壁面に対向させることで、導入管の取り回しをスムーズにすると共に、管先端付近で試液の流れを内壁面へ向けて確実に試液を衝突させることができる。
【0016】
第5発明に係るICP発光分析装置は、前記気液分離容器と、プラズマトーチと、該プラズマトーチでの励起発光に対する測定を行う分光器とを備え、前記プラズマトーチは、前記導出管の接続部に直接的に接続される被接続部を備えることを特徴とする。
第5発明にあっては、プラズマトーチに気液分離容器の導出管の接続部に対応した被接続部を設けることにより、プラズマトーチと気液分離容器とのワンタッチ接続を実現し、両者を直接接続して水素化物供給の安定化を確保でき、従来に比べて測定分析に対する準備負担を低減できると共に、プラズマトーチの下方に気液分離容器を配置して水素化物発生装置の配置スペースもICP発光分析装置の内部に確保できるようになる。
【発明の効果】
【0017】
第1発明にあっては、導入管の管先端を容器本体の内壁面に対向配置することで、導入管より流れ出る試液が容器本体の内壁面に降りかかり、分析対象の気体(水素化物)を試液から定常的に分離発生させることができ、測定分析データのバラツキを抑制できる。また、導入管の管先端が対向する内壁面は、容器本体の内側に傾斜してあるので、内壁面に降りかかった試液は内壁面を伝わって流れ落ち、試液の滴下による測定分析に対する悪影響を抑制して、安定した測定分析に貢献できる。
【0018】
第2発明にあっては、導出管の突出端に接続部を形成することにより、外部機器との接続及び切り離しを容易且つ迅速に行える。
第3発明にあっては、排出管の湾曲箇所の内周側にガス抜き管部を設けるので、排出管に溜まった試液中に発生した水素ガスがガス抜き管部を通じて外部へ排出でき、水素ガスの移動による測定分析に対する悪影響が排除できる。
第4発明にあっては、導入管の管先端を屈曲して内壁面に対向させることで、導入管を無理なく設けることができ、さらに、管先端付近で試液の流れを内壁面へ向けて確実に試液を衝突させて、気体(水素化物)を安定して発生させることができる。
【0019】
第5発明にあっては、プラズマトーチに気液分離容器の導出管の接続部に対応した被接続部を設けることにより、プラズマトーチと気液分離容器との接続をワンタッチで行えるようになり、従来に比べて測定分析に対する準備負担を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るICP発光分析装置10の斜視図である。ICP発光分析装置10は横長のボックス状であり、図中の左上に位置する遮光窓10aが設けられた前面上部パネル10bの中にプラズマトーチ11を設置しており、前面下部パネル10cの中に水素化物発生装置20を配置し、水素化物発生装置20を分析装置内部に組み込んでいる。また、ICP発光分析装置10は、図1中の中央から右側へ至る上部10dの内部に分光器50を配置し、プラズマトーチ11での励起発光を分光器50で測定するようにしている。
【0021】
本実施形態のICP発光分析装置10は、水素化物発生装置20をICP発光分析装置10の内部に配置するため、従来のような水素化物発生装置の運搬及び移動と云う作業を解消している。なお、前面上部パネル10b及び前面下部パネル10cは容易に取り外し可能であり、メインテナンス性を向上させると共に、水素化物発生装置20での水素化物の発生状況等を確認できるようにしている。
【0022】
図2は、ICP発光分析装置10の内部に固定されるプラズマトーチ11を示す。プラズマトーチ11は図2に示す垂直方向の姿勢で固定されており、上方から順番にトーチ先端管部11a、大径の外筒部11c、及び水素化物の導入管部11dにより構成されており、トーチ先端管部11aの周囲には高周波コイル11bが巻回されている。導入管部11dは横方向に管継ぎ手12を取り付けた分岐管部11gを突設し、下方には小径の接続管部11eを突設している。
【0023】
接続管部11eは下方の端部に、水素化物発生装置20の後述する気液分離容器21との被接続部に相当する球面状のボールジョイント部11fを形成している。このボールジョイント部11fに気液分離容器21をぶら下げるように直接的に接続して、クリップ13で挟持固定することで、プラズマトーチ11は水素化物発生装置20との接続を確立する。
【0024】
また、プラズマトーチ11はクリップ13の挟持を解放することで水素化物発生装置20との接続を容易に切り離すことができる。ICP発光分析装置10は、上述したようなプラズマトーチ11の接続構成を採用することで、プラズマトーチ11を水素化物発生装置20の以外の他の機器、例えば、別の試料用のサイクロンチャンバー及び超音波ネブライザー等とも容易に接続を切り替えることができ、相異する種類の試料測定に対する準備作業の段取り替えを効率的に行える。
【0025】
図3は、ICP発光分析装置10の内部でプラズマトーチ11の下方に配置される水素化物発生装置20の構成を示す概略図である。水素化物発生装置20は、プラズマトーチ11と接続される気液分離容器21と、試薬(本実施形態ではNaBH4 )を入れた試薬容器35、及び試料等を入れた試料容器38とをポンプ39、各種チューブ31、33等を介して接続すると共に、気液分離容器21から排出される廃液を蓄える廃液タンク44等を備えている。
【0026】
試薬容器35及び試料容器38から気液分離容器21への接続は、試薬容器35及び試料容器38より第1、第2チューブ34、37(内径0.86mm)を延出し、ポンプ39及び図示しないポンプチューブを介して第3、第4チューブ33、36(内径1.0mm)と接続する。第3チューブ33と第4チューブ36との端部同士はT字ジョイント32で接続されると共に、T字ジョイント32からは巻回形状にしていない第5チューブ31(内径2.0mm、長さ300mm)を延出し、異径ジョイント30を介して気液分離容器21の導入管23の端部23aに接続している。なお、ポンプ39は、図1に示すようにICP発光分析装置10の略中央の手前側に取り付けられている。
【0027】
上述した接続構成により、試薬容器35からポンプ39により汲み上げられる試薬(NaBH4 )と、試料容器38からポンプ39により汲み上げられる試料及び塩酸(HCL)との混合液は、第5チューブ31の内部で混合され、第5チューブ31内を通過する間に反応が進行して水素化物が生成される。なお、水素化物発生法において、水素化物ホウ素ナトリウム(NaBH4)を用いた場合の水素化物MHy (y=2,3,4,5,6・・・)の生成に係る反応は、下記の化学式で示す通りである。
NaBH4+HCl+3H2 O→H3 BO3 +NaCl+8H
Mx++8H→MHy↑+1/2(8-y)H2
【0028】
図4は、本発明に係る気液分離容器21の概略断面図である。気液分離容器21はガラス製であり、円筒カップ状の容器本体22の上部閉鎖部22aを貫通させて容器本体22の外方から内方へ延出する逆L字状の導入管23を設けると共に、上部閉鎖部22aの中央から容器本体22の内部と連通する導出管24を上方へ突設している。また、気液分離容器21は、容器本体22の下方の半球状底部22fの下底頂部22gからU字状の排出管25を突設し、さらに、容器本体22の上壁部22bを貫通する屈折形状のガス導入管26も設けている。
【0029】
気液分離容器21の容器本体22は導入された試液から水素化物(気体)を分離させるものであり、上側の上壁部22bに相当する箇所の径を、上壁部22bの下方に位置して垂直方向に所要の長さを確保した中壁部22eに相当する箇所の径に比べて大きくしており、上壁部22bと中壁部22eとを繋ぐ部分に縮径壁部22cを設けている。
【0030】
縮径壁部22cは上壁部22bに相当する部分から中壁部22eに相当する部分へと容器本体22の径を縮小させており、そのため、縮径壁部22cは下方へ行くほど(後述する試液の流れる方向に沿って)容器本体22の内側へ傾斜した逆円錐の周面形状になっている。また、縮径壁部22cの傾きに伴い、縮径壁部22cの内壁面22dも垂直下方側が容器本体22の内側へ傾斜している。なお、容器本体22の高さは約100mm前後、外径は約50mm前後であり、気液分離容器21の接続及び取り外し等を容易に行える寸法にしている。
【0031】
気液分離容器21の導入管23は容器本体22へ試液を導入するものであり、異径ジョイント30が接続される端部23aより略90度で屈曲する屈曲部23bまでを水平にして、屈曲部23bから垂直下方へ伸びて容器本体22の中へ延出する。また、導入管23は、延出側の管先端23cが容器本体22の縮径壁部22cの内壁面22dに直交的に対向するように先端近接部23dで容器本体22の外方へ屈曲している。なお、導入管23は、管先端23cから流出する試液が容器本体22の傾斜した内壁面22dに届く距離となるように管先端23cを配置した状態で気液分離容器21の容器本体22に設けられている。
【0032】
気液分離容器21の導出管24は分離した水素化物(気体)をプラズマトーチ11へ導き出すものであり、垂直上方に突出した突出管部24aの突出端に外部機器(プラズマトーチ11)との接続部に相当する半球状の大径ボールジョイント部24bを形成している。大径ボールジョイント部24bは、図2に示すプラズマトーチ11の下方に設けたボールジョイント部11fの外形寸法に合致した内径を有する半球状に形成されており、大径ボールジョイント部24bをプラズマトーチ部11fのボールジョイント部11fに外嵌し、クリップ13で挟持することで気液分離容器21とプラズマトーチ11との接続が行われる。
【0033】
気液分離容器21の排出管25は容器本体22に過剰に導入された試液を排出するものであり、図4に示すように容器本体22の内部と連通する全体がU字状に湾曲したU字管部25aの湾曲した内周側の下頂部25bより垂直上方へガス抜き管部25dを突設している。また、U字管部25aの開口端部25cに近接した湾曲に対する外周側の分岐箇所25fから右斜め下方へドレインチューブ接続用の接続用管部25gを突設している。
【0034】
なお、接続用管部25gがU字管部25aから分岐する分岐箇所25fの垂直方向の高さが、容器本体22に溜まる試液の液面高さを規定することになる。また、図3に示すように排出管25の開口端部25c及びガス抜き管部25dの開口した端部25eには短尺(本実施形態では40mm)のビニルチューブ42が夫々取り付けられ、接続用管部25gには廃液タンク44と繋がれた廃液用チューブ43が取り付けられる。
【0035】
また、気液分離容器21のガス導入管26は、図4に示すように凹凸面を形成した端部26aから略90度で屈折する屈折部26bまでを水平に形成し、屈折部26bから垂直下方へ容器本体22の内壁に沿って中壁部22eと底部22fとの境目付近まで延出し、先端部26cが少し容器本体22の内側へ向くように端部近傍26で屈曲させている。
【0036】
なお、ガス導入管26の端部26aは、図3に示すように端部にワンタッチコネクタ41を設けたシリコンチューブ40が取り付けられ、図示しないICP発光分析装置10に設けられたキャリアガス供給部と接続されてキャリアガス(本実施形態ではArガス)をガス導入管26を通じて容器本体22の内部へ供給できるようにしている。このようなガス導入管26の構成により、ガス導入管26を通じて気液分離容器21の内部に導入されるキャリアガスが下方へ流れる勢いを維持した状態で放出され、容器本体22の内部で水素化物(気体)をスムーズに下方から上方(導出管24)へ向かう流れを形成し、水素化物(気体)が容器本体22に留まることを防止している。
【0037】
次に、上述した構成の気液分離容器21における試液の流れ、及び試液から発生する水素化物(気体)の流れ等を詳説する。
図4に示すように、導入管23を通じて容器本体22の内部へ流入する試液(図中、黒矢印で示す)は、導入管23の管先端23cから流れ出て容器本体22の内壁面22dへ衝突する。この内壁面22dへの衝突により試液から水素化物(気体)が分離して効率良く定常的に発生し、発生した水素化物(図中、白矢印で示す)は導出管24を通じてプラズマトーチ11へと流れる。
【0038】
また、内壁面22dへ衝突した試液は、容器本体22の中壁部22eに相当する内壁を伝わって下方へ流れ落ちるが、この際も水素化物(気体)が分離し、また内壁を伝わることで試液の流れがスムーズに安定し、試液を底部22f方向へ滴状に直接滴下する場合のようになり、導出管24へ向かう水素化物の流れを乱すことも無い。さらに、中壁部22eは所要の寸法が確保されているため、試液が中壁部22eの内壁を伝わって流れる間も水素化物が発生し、従来に比べて多くの気体量を確保して分光器50による測定感度の向上を実現している。
【0039】
さらに、中壁部22eの内壁を伝わって流れ落ちた試液は、容器本体22の半球状底部22f及び排出管25の中に溜まることになるが、排出管25の中で溜まった試液から水素ガスが発生したとしても、水素ガスが留まりやすいU字管部25aの下頂部25bにはガス抜き管部25eが設けられているため、ガス抜き管部25eから容易に水素ガスを排出でき、発生した水素ガスにより測定に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、排出管25は、開口端部25cからも水素ガスを排出することができるので、どのような箇所で水素ガスが発生しても効率良く水素ガスの排出を行える。
【0040】
また、水素化物の測定が終了すると、図2に示すクリップ13を外すだけで、気液分離容器21をプラズマトーチ11から分離でき、ポンプ39はICP発光分析装置10に取り付けられているため、各チューブ31、33、36等を取り外すことで、次の測定へ移行でき、水素化物発生装置20自体を移動及び運搬に係る手間を解消している。
【0041】
なお、本発明に係るICP分光装置10、及び気液分離容器21は、上述した形態に限定されるものではなく、種々の変形例の適用が可能である。例えば、図4に示す気液分離容器21の縮径壁部22cの内壁面に、試薬の下方への流れを導くようにガイドを立設、又は溝部を形成するようにしてもよく、さらには、中壁部22eの内壁面にも同様に、試薬の滴状の滴下流れを案内する垂直方向に延在したガイド又は溝部を形成してもよい。また、図3に示す水素化物発生装置20では、試料及び塩酸(HCL)を一つの試料容器38に入れているが、試料及び塩酸を別々の容器にいれてポンプ39で汲み上げるような接続形態にすることも可能である。
【0042】
さらに、気液分離容器21は、図4に示すようなU字状に湾曲した排出管25を設ける代わりに、直線状の排出管を設けて、この排出管と廃液タンクとの間に排出用ポンプを介在させることにより、強制的に試料を廃液タンクへ排出する構成を適用することも可能である。
【0043】
図5は、変形例の気液分離容器51を示す概略断面図である。変形例の気液分離容器51は、容器本体52を円錐の底面を垂直上方にしたような形態にして、周囲の壁部52c全体を試液が流れる方向に沿って容器本体52の内側へ傾斜させている。それに伴い、導入管53の管先端53cが対向する内壁面52dも同様に傾斜しており、内壁面52d全体が同様に傾斜することで、試液の流れ落ちる具合を一様にしている。
【0044】
気液分離容器51は、容器本体22の上部閉鎖部52aに図4の気液分離容器21と同様に導入管53、及び導出管54を設け、その他の排出管56、及びガス導入管56も同様に設けている。導入管53は管先端53cの先端部分53fの内径を管先端53cへ向けて細径化することで試液の流出に係る速度及び勢いを増加させている。また、ガス導入管56の容器本体22の内部に配置される管部56dは、一部を容器本体22の内壁面52cと共用した構成にしており、また先端56cを下方へ向けた形状にして、キャリアガスを下方へ排出するようにしている。このような変形例の気液分離容器51を適用しても、安定して水素化物は試液から分離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態に係るICP発光分析装置の全体的な構成を示す斜視図である。
【図2】プラズマトーチの概略図である。
【図3】水素化物発生装置の概略図である。
【図4】本実施形態に係る気液分離容器の概略断面図である。
【図5】変形例に係る気液分離容器の概略断面図である。
【図6】従来の水素化物発生装置を接続したICP発光分析装置の全体的な構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0046】
10 ICP発光分析装置
11 プラズマトーチ
13 クリップ
20 水素化物発生装置
21 気液分離容器
22 容器本体
22d 内壁面
23 導入管
23c 管先端
24 導出管
24b 大径ボールジョイント部
25 排出管
25d ガス抜き管部
26 ガス導入管
39 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試液から気体を分離させる容器本体へ試液を導入する導入管と、導入した試液から分離する気体を導き出す導出管と、過剰に導入した試液を排出する排出管とを備える気液分離容器において、
前記導入管は、前記容器本体の外方から内方へ延出してあり、延出側の管先端より流出する試液が該容器本体の内壁面に届くように該管先端を該内壁面に対向配置しており、
前記内壁面は、届いた試液の流れる方向に沿って前記容器本体の内側へ傾斜してあることを特徴とする気液分離容器。
【請求項2】
前記導出管は、前記容器本体から外方へ突出してあり、突出端に外部機器との接続部が形成してある請求項1に記載の気液分離容器。
【請求項3】
前記排出管は、容器本体から外方へU字状に湾曲して突出してあり、湾曲した内周側の箇所よりガス抜き管部を突設してある請求項1又は請求項2に記載の気液分離容器。
【請求項4】
前記導入管の管先端は、屈曲して前記容器本体の内壁面に対向してある請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の気液分離容器。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか1つに記載の気液分離容器と、
プラズマトーチと、
該プラズマトーチでの励起発光に対する測定を行う分光器と
を備え、
前記プラズマトーチは、前記導出管の接続部に直接的に接続される被接続部を備えることを特徴とするICP発光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−10415(P2006−10415A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185578(P2004−185578)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】