説明

気液接触用充填塔

【課題】従来技術における充填塔のフラッディングを防止し、気液接触効率を高めることができる充填塔を提供する。
【解決手段】塔上部から液体を流下させ、塔下部から上昇する気体と向流接触させる充填塔内の軸方向に、充填材として所定ピッチの波形溝を有する薄層物を、上下に隣接する薄層物が平面方向から見てそれらの波形溝が互いに交差するように、多段に配置された充填塔であって、該充填塔の最下層の充填材の薄層物3の波形溝の高さ1bが、その接触する上側の充填材の薄層物8の波形溝の横幅2aよりも小さく、かつ、最下層の充填材の薄層物3の波形溝の横幅1aが、その接触する上側の充填材の薄層物8の波形溝の高さ2bよりも大きくした気液接触用充填塔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液接触用充填塔に係り、特に規則充填材を充填した、二酸化炭素の吸収に適した充填塔に関する。
【背景技術】
【0002】
充填材を使用した反応塔は、蒸留、吸収等の気液二相反応の分野で広く用いられている。充填材には、ラシヒリング、カスケードミニリングなどの不規則充填材と、フレクシパック、メラパックなどの規則充填材があるが、低い圧力損失と高い気液接触効率を図るため、近年は後者の規則充填材が普及し始めている。
向流気液二相流の反応塔に充填材を使用する場合の課題の一つに、フラッディングの防止があげられる。フラッディングは、充填材の間の空隙が液で塞がれ、ガスの上昇流の圧損が急増する現象であり、その防止のために、塔の形状や運転条件が制約を受ける。反応塔の性能は気液接触部分の面積に影響されるため、規則充填材として波形溝を有する薄層物を用いる場合、薄層物の波形溝のピッチを小さくすると充填材の空隙が低下し、気体の上昇流から液体が上向きに受ける力が大きくなるため、液体が塔内に溜まりやすい。従って波形溝のピッチができるだけ小さく、比表面積の大きいものを用いた方が高い反応効率を得やすい。
上述のようなフラッディングを防止する方法として、これまでに、充填塔の途中部分の液流れを促進してフラッディングを起きにくくする方法(特許文献1)や、液溜まりの発生しやすい充填塔最下部の液流れを促進する方法(特許文献2および3)などが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-312101号公報
【特許文献2】特開平8-57292号公報
【特許文献3】特開平9-802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術、特に特開平6-312101号公報に記載の方法は充填塔最下部のフラッディング防止のために優れた効果をもつものであるが、波形溝の形状について言及されていないため、最下部の層で液の流下促進を図っても、場所によってはその効果が十分ではなくフラッディング抑制の効果が小さい場合があった。すなわち、所定ピッチで平行に配列された波形溝を多数有する充填材をそれらの波形溝が互いに交差するように多段に配置した充填塔での気液接触反応においては、充填材の表面積を大きくして高い反応効率を得るため、波形溝のピッチは許される限り小さい充填材が使用される。しかしながら、その場合は、図3に示すように、充填材の薄層物3の下側で形成された液溜まり6が、ガスの上昇流で上向きの力を受ける時、隣接する充填材の設置間隔5で隣り合う液溜まり同士が接触しやすく、波形溝を塞ぎ、フラッディングを起こしやすい。このため、図4に示すように充填塔の最下層の充填材の薄層物3の波形溝形状の高さ1bが、その接触する上側の充填材に配置された薄層物8の波形溝形状の横幅2aよりも大きい場合、例えば図4(b)に示す範囲9のように、最下層とその上側の充填材の薄層物同士が接触しない波形溝が約50%存在するため、液の流下促進効果が十分ではなく、フラッディングを十分防止できないことがあった。
本発明の課題は、上記従来技術における充填塔のフラッディングを防止し、気液接触効率を高めることができる充填塔を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本願で特許請求される発明は下記のとおりである。
(1)塔上部から液体を流下させ、塔下部から上昇する気体と向流接触させる充填塔内の軸方向に、充填材として所定ピッチの波形溝を有する薄層物を、上下に隣接する薄層物が平面方向から見てそれらの波形溝が互いに交差するように、多段に配置された充填塔であって、該充填塔の最下層の充填材の薄層物の波形溝の高さが、その接触する上側の充填材の薄層物の波形溝の横幅よりも小さく、かつ、最下層の充填材の薄層物の波形溝の横幅が、その接触する上側の充填材の薄層物の波形溝の高さよりも大きくしたことを特徴とする気液接触用充填塔。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、充填塔の、最下層に前述のように液流れを促進させる効果のある充填材を設置したことにより、液体を充填材の波形溝から下方に滑らかに流下させることができ、そのため、塔最下層の充填材の下端で液の滞留が無くなり、その結果、圧力損失が少なく、運転操作範囲が広い充填塔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の塔最下層の充填材の薄層物3とその接触する上側の充填材の薄層物8の平面概略図。
【図2】充填材の薄層物3、8の形状の一例を示す部分斜視図。
【図3】塔最下層の充填材の薄層物3とその接触する上側の充填材の薄層物8との重なりの位置関係および液溜まりの形成部分6を示す説明図。
【図4】従来技術における塔最下層の充填材の薄層物3とその接触する上側の充填材の薄層物8の平面概略図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に用いる充填材の薄層物とは、図2に示すように、縦寸法11および横寸法12を有する薄層物3または8の側部に対して角度を持つ所定ピッチの波形溝10を有するものであり、また充填材とは、このような薄板物3または8を交互に裏返して積層してなる構造物をいう。このような薄層物は、その表面に凹凸加工が施されていてもよく、また薄層物の一部に表裏に貫通する孔が開いていてもよい。
本発明においては、図1に示すように、充填塔の最下層の充填材の薄層物3の波形溝形状の高さ1bを、その接触する上側の充填材の薄層物8の波形溝形状の横幅2aよりも小さく、かつ、最下層の充填材の薄層物3の波形溝の横幅1aが、その接触する上側の充填材の薄層物8の波形溝の高さ2bよりも大きくすることにより、最下層と該上側の充填材の薄層物同士が接触しない波形溝を低減して液の流下を促進し、その部分のフラッディングの発生を防止することができる。すなわち、最下層の充填材の薄層物3の形状が平行に近い場合図1(a),(b))、最下層に接する上側の充填材の薄層物8の流路は、その100%が最下層の充填材の薄層物3と接し、最もこの割合の小さい図1(c)の場合でも、75%は接するのに加え、接しない部分の流路9が互いに離れているため、液面の波立ちが隣接する流路に及ぼす影響が小さくて済む。このため、最下層の充填材に接する上側の充填材の下端に形成される液溜まりをスムーズに流下させることができ、また、最下層の充填材は薄層物の設置間隔が広いため、その下端に形成される液溜まりに起因するフラッディングを抑えることができる。
以下、本発明を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0009】
図2に示した形状で、縦方向に対して45°の傾きの波形溝の横幅が25mm、高さが20mmの薄層物を、縦寸法11が20.5mm、横寸法12は適当な長さで切断し、交互に裏返して14枚積層し、充填材1を得た。
一方、図2の形状で縦方向に対して45°の傾きの波形溝の横幅が30mm、高さが22mmの薄層物を、縦寸法11が20.5mm、横寸法12は適当な長さで切断し、交互に裏返して13枚積層し、充填材2を得た。
充填材2を内径300mmの円筒内に充填した後、その上に、充填材2の薄層物の向きに対して90°ずらして、それらの充填材1を断面部分が接するように円筒内に充填し、本発明の充填塔Aを得た。
【実施例2】
【0010】
図2に示した形状で、縦方向に対して30°の傾きの波形溝の横幅が20mm、高さが12mmの薄層物を、縦寸法11が23mm、横寸法12は適当な長さで切断し、交互に裏返して24枚積層して充填材3を得、これを内径300mmの円筒内に充填した。
一方、図2の形状で縦方向に対して20°の傾きの波形溝の横幅が15mm、高さが7.5mmの薄層物を、縦寸法11が23mm、横寸法12は適当な長さで切断し、交互に裏返して37枚積層して充填材4を得、これを充填材3の薄層物の向きに対して90°ずらして断面部分が接するように円筒内に充填した。さらにこの上側に接するように、充填材3を薄層物の向きが90°ずれるように設置して本発明の充填塔Bを得た。
【符号の説明】
【0011】
1a … 塔最下層の充填材の薄層物の波形溝形状の横幅
1b … 塔最下層の充填材の薄層物の波形溝形状の高さ
2a … 塔最下層の接触する上側の充填材の薄層物の波形溝形状の横幅
2b … 塔最下層の接触する上側の充填材の薄層物の波形溝形状の高さ
3 … 塔最下層の充填材の薄層物
4 … 最下層の充填材の上側に接した充填材の薄層物の設置間隔
5 … 最下層の充填材の薄層物の設置間隔
6 … 塔最下部の液溜り
8 … 塔最下層の接触する上側の充填材の薄層物
9 … 最下層の接触する上側の充填材最下端の流路のうち、最下層の薄層物と接しない部分
10 … 薄層物の波型溝
11 … 薄層物の縦寸法
12 … 薄層物の横寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔上部から液体を流下させ、塔下部から上昇する気体と向流接触させる充填塔内の軸方向に、充填材として所定ピッチの波形溝を有する薄層物を、上下に隣接する薄層物が平面方向から見てそれらの波形溝が互いに交差するように、多段に配置された充填塔であって、該充填塔の最下層の充填材の薄層物の波形溝の高さが、その接触する上側の充填材の薄層物の波形溝の横幅よりも小さく、かつ、最下層の充填材の薄層物の波形溝の横幅が、その接触する上側の充填材の薄層物の波形溝の高さよりも大きくしたことを特徴とする気液接触用充填塔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−147837(P2011−147837A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8823(P2010−8823)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】