気液混合液の生成方法及び気液混合液生成装置
【課題】液体中に気体が高密度で長期間に亘って安定なナノサイズの気泡となって存在する気液混合液の生成方法を提供する。
【解決手段】液体に気体を供給し、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合する。その際、液体の圧力を0.15MPa以上にして加圧状態の気液混合液を生成する。次に、生成した気液混合液を加圧状態を維持したまま密閉状態で貯液タンク5に所定量貯液する。次に、貯液タンクに貯液された気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧する。それによりナノサイズの気泡が液体に混合された気液混合液を生成することができる。
【解決手段】液体に気体を供給し、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合する。その際、液体の圧力を0.15MPa以上にして加圧状態の気液混合液を生成する。次に、生成した気液混合液を加圧状態を維持したまま密閉状態で貯液タンク5に所定量貯液する。次に、貯液タンクに貯液された気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧する。それによりナノサイズの気泡が液体に混合された気液混合液を生成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中にナノサイズの気泡が安定に存在する気液混合液の生成方法及び気液混合液生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な気泡が液体中に分散された気液混合液が知られている。特に、ナノオーダーサイズの気泡が水に混合されたナノバブル水は、気泡のサイズが通常の気泡に比べて極めて小さく、そのため特異な性質を有しており、様々な分野での利用が試みられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、液体中の微細な気泡は、溶解したり合体したりすることにより消滅しやすく液体中に安定に存在させることが難しかった。そのため、液体に気体を連続的に供給してバブリングしたり、強度の力をかけて撹拌して気泡を発生させ、その発生した気泡が消滅しないように液体を使用したりすることが行われている。また、気泡がナノオーダー程度になり、気泡のサイズが微細になればなるほど、気泡が生成しにくいと共に消滅しやすくなり、気泡を分散した液体を利用することが一層難しかった。
【0004】
特許文献2〜4には、微小気泡を急激に縮小させてナノバブルを安定化させることが開示されている。これらの文献の方法では、強度の力をかけてマイクロバブルの一部を縮小させ、気液界面に吸着したイオンと静電気的な引力により、界面近傍の水溶液に引き寄せられた反対符号を持つ両方のイオンが微小な体積の中に高濃度に濃縮することにより、微小気泡周囲を取り囲む殻の働きをし、微小気泡内の気体の水溶液への拡散を阻害することによってナノバブルを安定化させている。しかし、ナノバブルを安定化させるために、気液界面において静電気的な力を生成する必要があるため電解質の存在が不可欠であり、純水など、電解性物質が溶解していない溶液などではナノバブルを安定に存在させることができなかった。
【0005】
また、マイクロバブルの一部のみを縮小させるため、ナノバブルの分布量が少なく効果が得られにくいという問題もあった。さらに、気泡の周囲を取り囲んだイオンでナノバブルを安定化させているため、気泡を溶解させたり合体させたりして気泡の安定状態を制御することが容易にできず、気液混合液の利用が限定されたものであった。
【0006】
また、特許文献5には、水を電気分解した後、超音波を印加することによりナノ気泡を発生させることが開示されている。しかし、水の電気分解では気体が水素と酸素に限られ、また電気分解による気体の生成量は少なく、さらに生成した気泡が安定化されていないために気泡の自己収縮と拡散・溶解が短時間で生じて、気泡を長期間に亘って安定に維持することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−156320号公報
【特許文献2】特開2005−245817号公報
【特許文献3】特開2005−246293号公報
【特許文献4】特開2005−246294号公報
【特許文献5】特開2003−334548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、液体中に気体が高密度で長期間に亘って安定なナノサイズの気泡となって存在する気液混合液の生成方法、及び気液混合液生成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、液体に気体を供給し、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合し、液体の圧力を0.15MPa以上にすることによりナノサイズの気泡を形成して加圧状態の気液混合液を生成し、生成した気液混合液を加圧状態を維持したまま密閉状態で貯液タンク5に所定量貯液し、貯液タンク5に貯液された気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧することにより、ナノサイズの気泡が液体に混合された気液混合液を生成することを特徴とする気液混合液の生成方法である。
【0010】
請求項2の発明は、上記の気液混合液の生成方法において、ポンプ11により液体を加圧し混合することを特徴とする気液混合液の生成方法である。
【0011】
請求項3の発明は、上記の気液混合液の生成方法において、ポンプ11が、回転体21を用いて液体を剪断しながら加圧し混合するものであることを特徴とする気液混合液の生成方法である。
【0012】
請求項4の発明は、上記の気液混合液の生成方法において、ベンチュリ管12により液体を加圧し混合することを特徴とする気液混合液の生成方法である。
【0013】
請求項5の発明は、液体に気体を供給する気体供給部2と、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合して液体の圧力を0.15MPa以上にすることにより加圧状態の気液混合液を生成する加圧混合部1と、加圧混合部1で生成した気液混合液を密閉状態で貯液する貯液タンク5と、気液混合液の加圧状態を維持する圧力保持部3と、貯液タンク5に貯液された気液混合液の圧力を調整する圧力調整部4とを備え、圧力調整部4は、貯液タンク5に貯液された所定量の気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧するように圧力調整することを特徴とする気液混合液生成装置である。
【0014】
請求項6の発明は、上記の気液混合液生成装置において、圧力保持部3は、加圧混合部1の前段又は後段の液体を送り出す流路6に設けられ、気液混合液が所定量生成して加圧混合部1の駆動が停止したときに、気液混合液の加圧状態を維持することを特徴とする気液混合液生成装置である。
【0015】
請求項7の発明は、上記の気液混合液生成装置において、圧力調整部4は、貯液タンク5に貯液される加圧状態の気液混合液の圧力を、少なくとも加圧混合部1が駆動する間、一定に維持することを特徴とする気液混合液生成装置である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、気体が注入された液体を急激に加圧し混合することにより、強固な界面構造を有する気泡を発生させて、大気圧に戻したときにも安定に存在するナノサイズの気泡を生成することができ、また、界面構造が強固になった気泡を有する気液混合液を徐々に大気圧まで減圧することにより、強固な界面構造を維持して気泡を消滅させたり合体させたりすることなくナノサイズの気泡が混合した気液混合液を安定に得ることができ、気液混合液を効率よく簡単に生成することができるものである。そして、貯液タンクで減圧することにより、大量の気液混合液を一度に減圧することが可能であり、また生成した気液混合液を貯液タンクに貯液しておいて必要なときに外部に取り出して利用することが可能であり、気液混合液を簡単に大量に生成して利用することができるものである。また、貯液タンクで減圧をすれば配管が詰まるようなことがなく減圧することができ、安定して気液混合液を生成することができるものである。
【0017】
請求項2の発明によれば、ポンプにより液体を急激に加圧し混合することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができるものである。
【0018】
請求項3の発明によれば、回転体で急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断し混合してナノサイズの気泡に形成することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液をより確実に生成することができるものである。
【0019】
請求項4の発明によれば、ベンチュリ管により液体を急激に加圧し混合することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができるものである。
【0020】
請求項5の発明によれば、気体が注入された液体を急激に加圧し混合することにより、強固な界面構造を有する気泡を発生させて、大気圧に戻したときにも安定に存在するナノサイズの気泡を生成することができ、また、界面構造が強固になった気泡を有する気液混合液を徐々に大気圧まで減圧することにより、強固な界面構造を維持して気泡を消滅させたり合体させたりすることなくナノサイズの気泡が混合した気液混合液を安定に得ることができ、気液混合液を効率よく簡単に生成することができるものである。そして、貯液タンクで減圧することにより、大量の気液混合液を一度に減圧することが可能であり、また生成した気液混合液を貯液タンクに貯液しておいて必要なときに外部に取り出して利用することが可能であり、気液混合液を簡単に大量に生成して利用することができるものである。また、貯液タンクで減圧をすれば配管が詰まるようなことがなく減圧することができ、安定して気液混合液を生成することができるものである。
【0021】
請求項6の発明によれば、加圧混合部が停止したときも気液混合液の加圧状態が維持されるので、加圧状態の気液混合液が急激に減圧してナノサイズの気泡が崩壊して発泡したりするようなことがなく、ナノサイズの気泡を安定な状態で維持して気液混合液を生成することができるものである。
【0022】
請求項7の発明によれば、加圧混合部が駆動している間、気液混合液の加圧状態を一定にすることにより、気液混合液に不要な加圧がかかったりしてナノサイズの気泡が崩壊することを防止することができ、また圧力が一定に維持されているので加圧混合部でのナノサイズの気泡の生成量を安定にすることができ、ナノサイズの気泡の量が安定した気液混合液を生成することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】気液混合液生成装置の実施の形態の一例を示す概略図である。
【図2】同上の一部を示す概略図である。
【図3】同上の一部を示す概略図である。
【図4】同上の一部を示す概略図である。
【図5】気液混合液生成装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【図6】気液混合液生成装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【図7】気液混合液における気泡の気液界面の概念説明図である。
【図8】気液混合液生成装置の具体的な実施の形態の一例を示しており、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図9】窒素と水を用いた気液混合液と窒素飽和水との赤外吸収スペクトルの差分を示すグラフである。
【図10】気液混合液中に含まれる気体容量を示すグラフである。
【図11】走査型電子顕微鏡(SEM)による気液混合液の写真である。
【図12】気液混合液の安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明を実施するための形態について説明する。
【0025】
本発明の気液混合液の生成方法にあっては、液体に気体を供給し、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)で加圧しながら液体と気体とを混合する。その際、加圧により液体の圧力を0.15MPa以上にする。それによりナノサイズの気泡が形成され、加圧状態の気液混合液が生成される。そして、生成した気液混合液を加圧状態を維持したまま密閉状態で貯液タンク5に所定量貯液し、その後、貯液タンクに貯液された気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)で大気圧まで減圧する。それにより、気液混合液が徐々に大気圧にまで減圧され、ナノサイズの気泡を維持したまま気液混合液を生成することができるものである。気液混合液とは、ナノサイズの気泡が液体中にほぼ均一な分布密度で混合された液体をいう。
【0026】
気液混合液に含まれる気泡はナノサイズの気泡であり、具体的には1000nm以下の気泡(いわゆるナノバブル)である。気泡がナノサイズとなり微細なものになることで強固な気泡界面の構造を形成することができ、高濃度の気体を液体中に保持することができるものである。また、ナノオーダーサイズの気泡には浮力が働かないため、気泡が上昇して液体から分離することがないので気泡を長期に亘って安定に存在させることができるものである。気泡のサイズがナノサイズよりも大きくなると気泡を安定化させることができなくなるおそれがある。なお、気泡の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができ、気泡の平均粒径は、測定によって得た気泡の粒径を平均して求めることができる。ところで、マイクロバブルが混合された液体は白濁するため目視により判別可能であるが、ナノバブルが混合された液体は無色透明(あるいは液体が有色の場合は液体の色)になり目視では判別することができない。よって、気液混合液の判別はSEMや密度測定などによって行うこととなる。なお、ナノサイズの気泡の下限は1nmである。
【0027】
気液混合液の生成に用いる液体としては、水素結合を形成する分子からなる液体を用いることが好ましい。水素結合とは、電気陰性度の大きい原子と水素原子とを有している分子において、水素原子が他の分子の電気陰性度の大きい原子に接近し、系が安定化する結合のことである。そして、気液混合液を形成する液体中には気泡が存在し、この気泡の周囲、すなわち気泡との界面に存在する液体分子においては、分子の水素結合の距離が、この液体が常温常圧(25℃、1気圧(0.1013MPa))であるときの水素結合の距離よりも短いものとなっている。このように、気液混合液が常温常圧の条件で存在する場合において、気泡界面における水素結合の距離が常温常圧での通常の水素結合の距離よりも短くなることにより、気泡の周囲を強固な水素結合を形成した液体分子で取り囲むことになる。そして、この水素結合を形成した液体分子は強固な殻となって気泡を包み込む。それによって、気泡同士が衝突しても崩壊することがなくなり、また、液体からの圧力に対して気泡内部からの応力で対抗できるので、気泡を液体中で消滅させたり合体させたりすることなく保持することができるものである。つまり、従来の表面張力で安定している気泡とは異なるものである。このように、特に、液体として水素結合を形成する分子からなる液体を用いた場合は、液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離を、該液体が常温常圧であるときの水素結合の距離よりも短いものとすることができるので、ナノサイズの気泡をより安定に存在させることができるものである。
【0028】
気液混合液に好ましく用いられる液体の一つは水である。水分子は、O…Hの水素結合、つまり、ある水分子の酸素原子と他の水分子の水素原子との間に水素結合を形成するものであり、気液混合液の液体として水を用いると、気泡界面において液体中のこの水素結合が強固になって気泡をより安定化させることができる。また、水は、供給源が豊富で安定して得ることができ、さらに、気泡が分散した水は応用範囲が広いので、利用価値の高い気液混合液を得ることができるものである。すなわち、本発明において、水としては純度の高い水に限られることはなく、上下水道、池、海水などをはじめ、あらゆる水を使用することが可能である。すなわち、液体として水を含むものであれば良い。
【0029】
また、液体が、O−H結合、N−H結合、F−H結合やCl−H結合などの(ハロゲン)−H結合、S−H結合のいずれか一種以上を有する分子からなる液体であることも好ましい。これらの結合は、水素原子に対して電気陰性度が十分に大きい原子と水素原子との結合であり、O−H…O、N−H…N、F−H…FやCl−H…Clなどの(ハロゲン)−H…(ハロゲン)、S−H…Sといった強い水素結合を形成し、この水素結合により気泡を取り囲んで気泡を安定化させることができるものである。O−H結合を有する代表的な液体は水であるが、その他、過酸化水素やメタノール、エタノールなどのアルコール、グリセリンなどを例示することができる。また、N−H結合を有する液体としては、アンモニアなどを例示することができる。また、(ハロゲン)−H結合を有するものとしては、F−H結合を有するHF(フッ化水素)、Cl−H結合を有するHCl(塩化水素)を挙げることができる。また、S−H結合を有するものとしてはH2S(硫化水素)を挙げることができる。
【0030】
液体がカルボキシル基を有する分子からなる液体であることも好ましい。カルボキシル基には、電気陰性度が大きいカルボニルの酸素原子が存在しており、あるカルボキシル基中のカルボニルの酸素原子と他のカルボキシル基中の水素原子とが強い水素結合を形成して気泡を取り囲むので、安定に気泡が存在した気液混合液を得ることができるものである。カルボキシル基を有する分子からなる液体としては、ギ酸、酢酸などのカルボン酸などを例示することができる。
【0031】
気液混合液に用いる気体としては、特に限定されるものではなく、種々の気体を用いることが可能である。例えば、空気、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン、アルゴン、水素、ヘリウム、メタン、プロパン、ブタンなどの気体を単一で又は混合して用いることができる。
【0032】
液体に注入する気体の量は、生成された際に気液混合液に含有される気体の濃度が、液体の飽和溶解濃度以上になるような量であることが好ましい。飽和溶解量又はそれを超える多量の気体を液体中に保持すれば、液体中に含有された高濃度の気体を利用することができ、気液混合液の利用価値を高めることができるものである。さらに好ましくは、気液混合液の液体中には飽和溶解量の気体が溶解しており、その飽和溶解液に気泡が存在しているものである。飽和溶解量で気体が溶解していれば、気泡となった気体を溶解させることなく安定化して気泡として液体中に保持することがより可能となるものである。すなわち、飽和溶解量以上に気体が存在する気液混合液は、液体中に飽和濃度で気体が溶解しており、気泡が崩壊したり溶解したりすることがなく、より安定に気泡を液体中に存在させることができるものである。また、さらに気体の溶解濃度が、飽和溶解濃度であることが好ましい。このように気体の濃度が高くなると、水素結合の距離を短くした状態で気泡を安定化することができ、また各種の活性(生理活性、洗浄力等)の作用が強力になって、利用価値をさらに上げることができるものである。気液混合液中の気体量は、後述の実施例で示すように気液混合液から気体を分離し、質量変化量から算出することができる。
【0033】
気液混合液の生成にあっては、気泡を形成している気体の圧力、すなわち気泡の内圧が、0.12MPa以上になるように生成することが好ましく、さらにヤングラプラスの式(次式)で与えられる気泡の内圧より高い圧力であることが好ましい。
【0034】
ヤングラプラスの式
ΔP=2σ/r
[ΔP:気泡内部の上昇圧力、 σ:表面張力、 r:気泡半径]
気泡の内圧がこのような圧力になると気泡が高い内部圧で維持されることになり、より強固な界面構造を形成することができるので、静置状態において安定な気泡を形成することができる。一方、一旦、気液混合液に衝撃が加えられると、内部圧の力の均衡が崩されて水素結合が形成された液体の殻が崩壊し、気泡が合体し発泡して液体中から抜け出ようとするため、この発泡を利用することができるものである。気液混合液中の気泡の内圧は、後述の実施例で示すように気液混合液中の気体総量と密度から計算した気体容量とを気体の状態方程式に当てはめることにより算出することができる。
【0035】
また、気泡との界面における液体分子の水素結合の距離としては、用いる液体により適宜のものとなるが、常温常圧での水素結合の距離を100%とした場合に、99%以下となるように気液混合液を生成することが好ましい。水素結合の距離がこの範囲になることにより、気泡を水素結合の硬い殻で取り囲んで安定化させることができるものである。水素結合の距離がこれより長いと気泡を安定化させて存在させることができなくなるおそれがある。原子間距離を考慮すると、水素結合の距離の下限は95%である。気液混合液中の気泡界面における水素結合の距離は、後述の実施例で示すように、気液混合液の赤外吸収スペクトル(IR)を解析することにより算出することができる。
【0036】
ところで、水素結合の距離が上記の距離にある水は、通常、氷のように固体やハイドレート結晶構造になるものであるが、本発明により生成した気液混合液においては、気泡界面において局所的に上記のような距離の短い水素結合を形成し、それ以外の液体中は通常の水素結合を形成している。すなわち、気泡界面では距離の短い水素結合により液体分子の硬い殻を形成して、気泡同士が合体することや消滅することを防止すると共に、気泡界面以外では通常の状態で液体が存在して常温常圧では流動性を確保しており、安定な気泡が存在している液体を利用しやすくするものである。
【0037】
また本発明により生成する気液混合液は、液体として水を用いた場合、ゼータ電位がマイナスとなり、体積1cm3中に存在する気泡界面の面積は1.2m2程度となる。このような特性を各分野で利用することも可能である。
【0038】
図1は、本発明の気液混合液生成装置の実施の形態の一例を示す概略図である。この装置により、上記のような気液混合液を生成することができる。
【0039】
この気液混合液生成装置は、気液混合液をバッチ式で生成する装置であり、液体供給源から送られてくる液体に気体を供給する気体供給部2と、気体が供給された液体を加圧しながら液体と気体とを混合して加圧状態の気液混合液を生成する加圧混合部1と、加圧混合部1で生成した気液混合液を密閉状態で貯液する貯液タンク5と、気液混合液の加圧状態を維持する圧力保持部3と、貯液タンク5に貯液された気液混合液の圧力を調整する圧力調整部4とを備え、貯液タンク5には液体が流れる流路6が接続されている。
【0040】
流路6の上流側(貯液タンク5と反対側)は水道配管や液体貯留槽などの液体供給源に接続されており、この液体供給源から供給される液体が流路6を通って下流側(貯液タンク5側)に向かって送られる。液体を流路6に送り出すための圧力としては水道配管のように加圧された液体供給源の圧力を用いてもよいし、後述のポンプ11の汲み上げの圧力を用いてもよい。
【0041】
気体供給部2は、流路6に接続されることにより液体供給源から送られた液体に気体を供給して注入するものである。例えば、気体として空気を注入する場合には、一端を大気中に開放させた管体の他端を流路6に接続して気体供給部2を形成することができ、この場合、液体が送られる際の負圧により気体を液体に供給することができる。あるいは気体として酸素、オゾン、水素、窒素、二酸化炭素、アルゴン等を供給する場合には、これらの気体を封入したボンベなどを流路6に接続して気体供給部2を形成することができる。あるいは気体としてオゾンを使用する場合は、オゾン発生器を気体供給部2に接続してもよい。流路6への気体供給部2の接続位置は、加圧混合部1よりも上流側の位置であればよく、この装置のように圧力保持部3よりも上流側の位置であることが好ましい。
【0042】
加圧混合部1は、流路6に設けられ、気体供給部2によって気体が供給された液体を加圧しながら液体と気体とを混合し、気体を微細なナノサイズの気泡にして液体中に分散・混合させて、加圧状態の気液混合液を生成するものである。この装置ではポンプ11で加圧混合部1を形成してある。加圧混合部1としては、流路の断面積変化などで撹拌力を与えるもので構成することもできるし、また液体が撹拌された状態で流路6を流れているのであれば単に流路6で構成することもできるが、気液の加圧及び混合をポンプ11により行った場合、液体を急激に加圧・混合することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができる。また、ポンプ11を用いる場合は、液体供給源に貯蔵されている大気圧の液体を汲み上げることもできる。
【0043】
図2は、ポンプ11の具体的な形態の一例を示す要部の概略図である。このポンプ11aは回転体21の回転により液体を加圧するものであり、回転体21に取り付けられた回転翼22が連続的に回転してポンプ入口26からポンプ流路室23を介してポンプ出口27への流れ方向へ液体を送り出し加圧するものである。図において白抜き矢印は液体の流れ方向を示し、実線矢印は回転体21の回転方向を示している。このポンプ11aでは4枚の回転翼22が備えられている。また回転体21の回転軸25は、円筒状に形成されたポンプ壁24の円筒中心よりもポンプ出口27側に偏って配置され、偏心軸となって設けられている。そして、回転軸21の偏心によりポンプ流路室23の第二流路室23bの容積は、第一流路室23aの容積よりも小さく形成されており、液体の流れ方向に沿ってポンプ流路室23の容積が順次小さくなっている。
【0044】
そして、ポンプ流路室23に送り出された液体は、回転翼22で送り出され加圧され、急激な圧力変化により大きな気泡BBが細分化されて微細なナノサイズの気泡BNが生成される。すなわち、回転体21の回転と共に第一流路室23aから第二流路室23bに送られた液体は、ポンプ流路室23の容積が小さくなることにより急速に圧縮されて加圧され、この加圧力によりナノサイズの気泡BNが生成される。また、図示のポンプ11aでは、ポンプ壁24の内面と回転翼22の先端部との間を液体が通過するときに剪断力が与えられて、液体をクリアランスで剪断しながら加圧する。このとき、液体に混合されている気体(大きな気泡BB)は液体に与えられた剪断力によって剪断されて、より微細なナノサイズの気泡(BN)になる。ここで、ポンプ壁24の内面と回転翼22の先端部との間の最も狭くなる部分の距離、すなわちクリアランス距離LCは、5μm〜2mmであることが好ましい。このように、回転体21を用いたポンプ11aによれば、回転体21で急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断してナノサイズの気泡を形成することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液をより確実に生成することができるものである。
【0045】
ポンプ11の回転体21の回転数は100rpm以上であることが好ましい。このとき、0.3秒に1/2回転以上となる。このような回転数となることにより、飽和溶解濃度以上の気体を液体に注入させて水素結合距離が短縮したナノサイズの気泡を確実に生成することができるものである。
【0046】
ここで、図3のように、加圧混合部1の上流側の流路6にベンチュリ管12を設け、このベンチュリ管12の側管を気体供給部2として機能させて気体を液体に供給すると共に、ベンチュリ管12の本体を加圧混合部1の一部(又は全部)として機能させて気体が供給された液体を加圧し混合することも好ましい。その場合、簡単な構成で気体を液体に供給すると共に液体を急激に加圧・混合することができる。また、ポンプ11とベンチュリ管12という複数の加圧機構により液体を加圧した場合、液体を強力に加圧して、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができる。なお、ポンプ11を用いずにベンチュリ管12のみで加圧混合部1を構成してもよく、その場合、装置構成をより簡単なものにすることができる。
【0047】
図示のベンチュリ管12は、流入側から流出側に向かって断面積が徐々に小さくなる流入側管部12aと、ベンチュリ管12内において断面積が最も小さくなる絞り管部12bと、流入側から流出側に向かって断面積が徐々に大きくなる流出側管部12cとからなる。絞り管部12bには気体供給部2として機能する側管の一端が接続してあり、この側管から供給された気体は、絞り管部12b内において液体に注入されるようになっている。この例では、流出側管部12cの長さ(T2)は流入側管部5aの長さ(T1)よりも長く形成されており、それにより、流入側管部12aで断面積が小さくなることにより減圧され、絞り管部12bで気体と混合した後、流出側管部12cで急激に加圧されながら下流側に送り出され、液体と気体が激しく混合されることになる。
【0048】
貯液タンク5は生成した気液混合液を貯液するためのものである。貯液タンク5は、加圧状態で送られる気液混合液の圧力を維持できるように密閉性のあるタンクとして形成されており、例えば、耐圧性タンクなどで構成される。
【0049】
そして、加圧混合部1であるポンプ11の駆動の開始と停止とにより所定量の気液混合液が生成される。すなわち、ポンプ11に接続されたポンプ電源をオンにするとポンプ11の駆動が開始し、加圧混合部1内において液体と気体が高圧条件で混合される。それにより、気泡の周囲に強固な界面構造が形成され、この強固な界面構造の殻で気泡を覆うことができ、気体を微細な気泡として安定化することができる。生成した気液混合液は、流路6を通って順次に貯液タンク5に送り出される。そして、貯液タンク5に貯液された気液混合液の量が所定量に達するとポンプ電源をオフにしてポンプ11の駆動を停止し、液体の送り出しをストップする。なお、加圧混合部1が電源制御する機構のものでない場合(例えばベンチュリ管12のみの場合)は、流路6への液体の送出の開始又は停止によって加圧混合部1の駆動が自動的に開始又は停止される。
【0050】
上記のような加圧混合部1により、気体が注入された液体に急激に強力な圧力が加わって、液体中に存在している気泡は微細なナノサイズの気泡へと細分されて液体に分散される。また、急激な圧力変化により高圧になった気泡の界面には液体分子により強固な界面構造が形成される。その際、加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)が0.17MPa/sec以上になることにより、気泡を細分化させて微細なナノサイズの気泡を生成することができ、加圧混合部1から貯液タンク5に送り出される際の気液混合液の圧力が0.15MPa以上になることにより、気泡の界面が強固な構造となったナノサイズの気泡を生成することができるものである。実質的な加圧条件を考慮すると、加圧速度ΔP1/tの上限は167MPa/secであり、加圧された気液混合液の圧力の上限は50MPaである。
【0051】
生成した気液混合液は貯液タンク5に送り出されるが、その際、貯液タンク5への流出に伴って気液混合液が急激に減圧したりすることがある。加圧状態の気液混合液が急激に減圧するとナノサイズの気泡が崩壊して気体が分離してしまうおそれがある。そこで、上記の気液混合液生成装置にあっては、加圧混合部1から送り出されて貯液タンク5に貯液される気液混合液の加圧状態を維持するように圧力保持部3を流路6に設けてある。
【0052】
圧力保持部3は、上記の装置では、加圧混合部1よりも上流側(前段)の流路6に設けてあるが、これに限らず、圧力保持部3を加圧混合部1と貯液タンク5との間の流路6、すなわち加圧混合部1の後段の流路6に設けるようにしてもよい。このように圧力保持部3を設けることによって、気液混合液が加圧状態を維持したまま送り出されて貯液タンク5に貯液されるので、ナノサイズの気泡が崩壊されることを防止できる。
【0053】
この圧力保持部3は、気液混合液が所定量生成されて加圧混合部1の駆動が停止したときに、気液混合液の加圧状態を維持することが好ましい。すなわち、ポンプ11などの加圧混合部1の駆動が停止すると、液体を送り出す圧力が消失して気液混合液が上流側に逆流して気液混合液が急減に減圧することがある。気液混合液が急激に減圧するとナノサイズの気泡が崩壊して気体が分離してしまうおそれがある。そこで、ポンプ11の駆動が停止した後も、圧力保持部3が気液混合液の加圧状態を維持して急激に減圧することを防止するものである。
【0054】
圧力保持部3としては、例えば、電気的に弁の開閉の制御を制御する電気開閉手段を備えたものにすることができ、図1の装置では、電動バルブ31により圧力保持部3が構成されている。電動バルブ31によれば、電気制御により確実に弁の開閉を制御することができるので、気液混合液の加圧状態を確実に維持し、気液混合液が逆流で不用意に減圧してナノサイズの気泡が崩壊するようなことを防止することができる。
【0055】
また、圧力保持部3を逆流防止弁32で構成することもできる。図5の気液混合液生成装置の実施の形態では、圧力保持部3が逆流防止弁32により構成されている。このように、圧力保持部3を逆流防止弁32で構成すれば、簡単な構成で気液混合液が逆流して減圧することを防ぐことができ、容易に気液混合液の加圧状態を維持してナノサイズの気泡を崩壊することを防止できるものである。なお、図5の装置において、圧力保持部3以外の装置構成は図1の装置と同じである。
【0056】
こうして、加圧混合部1の駆動の開始と停止とにより生成した気液混合液は、貯液タンク5に所定の量で貯液される。そして、気液混合液を外部に取り出して利用するために貯液タンク5で大気圧まで減圧を行う。
【0057】
圧力調整部4は、貯液タンク5に貯液された気液混合液の圧力を調整するものであり、加圧状態の気液混合液の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させるものである。上記のようにして加圧・混合により生成した気液混合液は、高圧な状態にありそのまま大気圧下にある外部に排出されると、急激な圧力低下によって、気液混合液中の気泡が合体して気体になって液体から排出されるおそれがあり、またキャビテーションが発生することがある。そこで、圧力調整部4を設け、加圧された状態の気液混合液を大気圧まで低下させる際に、圧力調整部4で圧力調整をしながら大気圧まで徐々に減圧をし、外部に吐出可能にするようにしているものである。圧力調整部4は、貯液タンク5の上側に設けられてタンク上部に滞留した気体を徐々に外部に放出する減圧開閉弁33などにより、減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)の上限を2000MPa/sec以下にして気液混合液を減圧するように構成されている。それにより、強固な気泡界面の構造を維持させたまま、ナノサイズの気泡を消滅させたり合体させたりすることなく気液混合液を取り出すことができるものである。
【0058】
減圧開閉弁33で気体を放出する際には、直径0.1〜1mm程度、長さ1mm以上(好ましくは5mm以上)程度の細管(緩減圧管)を減圧開閉弁33に接続してこの細管から気体を放出することが好ましい。細管で気体を放出することにより容易に徐々に減圧することができる。すなわち、緩減圧管14(後述の図8参照)は貯液タンク5の圧力をΔP2/tで減圧させるため、急な減圧にならないよう細管で緩やかに高圧の気体を少しずつ抜くためのものである。圧縮された気体を抜くので緩やかな減圧ができる。液体を抜いてしまうと少しの液体を抜いただけでも急な減圧が起こるため、ナノサイズの気泡が崩壊する問題が発生してしまうおそれがある。よって液体よりも気体を抜くことが好ましいのである。
【0059】
このように、上記の気液混合液生成装置では、貯液タンク5で減圧することにより、大量の気液混合液を一度に減圧することが可能であり、また生成した気液混合液を貯液タンク5に大気圧の状態で(又は大気圧近傍の圧力で、あるいは加圧状態で)貯液しておいて必要なときに外部に取り出して利用することが可能であり、気液混合液を簡単に大量に生成して利用することができるものである。また密閉状態を形成する貯液タンク5で減圧するので、減圧後も密閉状態を維持することができ、気液混合液を安定に貯液することができるものである。すなわち、連続式で液体を送りながら減圧して気液混合液を生成した場合、保存タンクに気液混合液を入れる際の衝撃でナノサイズの気泡が崩壊したり、保存タンクが開放状態となっていて気体が分離しやくなったりして、液体中に気体を長期に安定に保持できないおそれがある。また、保存タンクを圧力調整で密閉状態にしようとすると圧力変化の衝撃を気液混合液に与えて気泡が崩壊してしまうおそれがある。しかしながら、上記の気液混合液生成装置のようにバッチ式で生成する場合は、貯液タンク5をそのまま保存タンクとして用いることができ、連続式の場合に比べて、大量の気液混合液をナノサイズの気泡を崩壊させることなく安定に長期に保存することが可能になるものである。また、気液混合液の減圧を細い流路管などで行う場合、流路管にゴミなどが詰まって故障が発生してしまうおそれがあるが、貯液タンク5で減圧をすれば配管が詰まるようなことがなく安定して気液混合液を生成することができるものである。
【0060】
圧力調整部4は、さらに貯液タンク5に貯液される加圧状態の気液混合液の圧力を、少なくとも加圧混合部が駆動する間、一定に維持するものであることが好ましい。加圧混合部1で生成した気液混合液は生成した後、順次に貯液タンク5に送られるので、貯液タンク5では加圧状態の気液混合液が徐々に量を増しながら貯液される。一方、貯液タンク5は密閉状態になっており、加圧状態の気液混合液が増えるとタンク内の圧力が次第に上がる。気液混合液の圧力が上がりすぎるとナノサイズの気泡が圧力変化の衝撃により崩壊するおそれがある。また、加圧混合部1での加圧よりも高い加圧が不均一にかけられた場合は、気泡径を変化させるなどしてナノサイズの気泡を不安定化させるおそれがある。また、貯液タンク5の圧力上昇が伝わって加圧混合部1で加圧する圧力が高くなって加圧混合部1で生成するナノサイズの気泡の量が変化するおそれがある。しかし、圧力調整部4で加圧混合部1の駆動中、貯液タンク5に貯液された気液混合液の加圧状態を一定にすることにより、気液混合液に不要な加圧がかかったりしてナノサイズの気泡が崩壊することを防止することができ、また、ナノサイズの気泡の生成量を安定にすることができ、ナノサイズの気泡の量が安定した気液混合液を生成することができるものである。
【0061】
圧力調整部4で、気液混合液の圧力を一定に維持するには、貯液タンク5の上部に設けられた気体排出弁34の弁の開閉によって行うことができる。上記の装置では、減圧開閉弁33と気体排出弁34とが兼用されて設けられた形態を示しているが、減圧開閉弁33とは別に気体排出弁34を設けて、貯液タンク5の上部に貯留する気体を貯液タンク5内の圧力が一定になるように排出して圧力調整してもよい。気体排出弁34を別に設けた場合は、それぞれの弁によって気液混合液の貯液時と減圧時の圧力調整を適切な条件で行うことが簡単になり、圧力維持と減圧とを容易に行うことができるものである。
【0062】
気液混合液を生成する際には、貯液タンク5で貯液された加圧状態の気液混合液から、ナノサイズを超える気泡、すなわち直径1μmを超える気泡を取り除くようにすることが好ましい。上記のようにしてナノサイズの気泡が形成された液体にはマイクロサイズ以上の気体も一緒に混合して存在している。しかし、マイクロサイズ以上の気泡は安定に液体中に存在することができないのに加え、液体中に存在しているとナノサイズの気泡を合体させたり崩壊させたりしてナノサイズの気泡をも不安定にしてしまう。そこで、マイクロサイズ以上の気泡を気液混合液から取り除いて気泡をナノサイズのものだけにしてナノサイズの気泡を安定化させるものである。
【0063】
マイクロサイズの気泡の除去は、気泡をそれ自身の浮力で上昇させて取り除くようにして行うことができる。直径1μmを超えるサイズの気泡(マイクロサイズの気泡)は、浮力により上昇するので、この浮力を利用してマイクロサイズの気泡を取り除くのである。液体から取り除かれ放出された気泡は気体となってタンク上部に集積する。このようにして放出された気体は、気体を排出する管などで排出することができ、例えば、上記の気体排出弁34により取り除くことができる。このような比較的大きい気泡が取り除かれて微細な気泡であるナノサイズの気泡が液体中に存在することにより、界面構造が強固で安定な気液混合液を得ることができるものである。
【0064】
図4は、貯液タンク5でマイクロサイズの気泡Bを取り除く様子を示す概略図である。なお、説明の便宜のため気泡Bを拡大して描写してある。貯液タンク5に貯液された液体Lq中の気泡Bには浮力が働き、気泡Bが液面まで上昇する。液面に到達した気泡Bは液体外に放出されタンク上部の気体と一体になってタンク上部に滞留する。こうして滞留した気体は気体排出弁34から排出される。
【0065】
貯液タンク5の深さD、すなわち所定量の気液混合液を貯液したときの貯液タンク5の底面から気液混合液の上面までの距離は、10〜900mmであることが好ましい。下記の気泡の上昇速度を考慮すると、貯液タンク5の深さがこの範囲になることで、貯液量を十分にするとともに、マイクロサイズの気泡を浮力で簡単に取り除くことができる。圧力保持容器30の深さがこの範囲になることで、貯留量を十分にするとともに、マイクロサイズの気泡を浮力で簡単に取り除くことができる。
【0066】
気泡の上昇速度Vは、ストークスの法則から、
V(m/s)=1/18×g×d/γ
[g(m/s2):重力加速度、 d(m):気泡の直径、 γ(m2/s):水の動粘性係数]
である。
【0067】
また、気液混合液を貯液タンク5に加圧状態(0.15MPa以上)を維持して0.1〜1.0秒程度以上保持して貯液することが好ましい。気液混合液を貯液タンク5に所定時間、静置条件で保持して貯液することにより、マイクロサイズの気泡を浮力で確実に取り除くことができる。なお、貯液タンク5の容量としては、0.5〜10L程度にすることができる。
【0068】
ところで、ストークスの式にあてはめると、気泡の上昇速度Vは、気泡直径が20μmの場合、V=0.243mm/secとなり、気泡直径が10μmの場合、V=0.06mm/secとなり、気泡直径が1μmの場合、V=0.0006mm/secとなる。
【0069】
例えば内径100mmの円筒形状のタンクの場合、20μmの気泡が水と完全に分離するためには、気泡上昇速度から、気泡は10分(600秒)放置で0.243×600=145mm浮上移動するので、タンク底から水面までの距離が145mm以下であれば、20μmの気泡が分離できることになる。この場合、タンク容量は約1Lになる。
【0070】
1μmの気泡の分離について同じように計算すると、10分放置で0.06×600=0.36mm、1時間放置で2.16mm、24時間放置で51mm、気泡が上昇することになる。
【0071】
したがって、ナノサイズを超える大きさの気泡(1μm以上の気泡)は、D(深さ)<V(気泡上昇速度)×T(静置時間)となるように圧力保持容器30の深さDを設定したり、T(静置時間)>D(深さ)/V(気泡上昇速度)となるように圧力保持容器30内で気液混合液を静置する時間Tを設定したりすることによって取り除くことができるものである。
【0072】
大気圧まで減圧された気液混合液は、貯液タンク5の下部に設けられ、取出弁7aと取出流路7bとから構成された液体取出部7により外部に取り出される。この取出弁7aは貯液タンク5を密閉状態にして貯液する際には閉じられており、気液混合液を外部に取り出す際に開かれる。そして、気液混合液は取出流路7bを通って吐出口から外部に取り出される。
【0073】
上記のように構成された気液混合液生成装置にあっては、液体供給源から送られた液体に、気体供給部2で気体を供給して注入する。そして、気体が注入された液体を、加圧混合部1によって0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)で加圧し、液体の圧力を0.15MPa以上にする。すなわち、加圧混合部1から貯液タンク5へ送り出される際の液体の圧力は0.15MPa以上になっている。その後、貯液タンク5内で気液混合液中のナノサイズを越える気泡を取り除いた後、該液体を圧力調整部4の圧力調整により最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)で徐々に大気圧まで減圧する。それにより、ナノサイズの気泡が安定に存在した気液混合液を生成することができるものである。
【0074】
図6は、気液混合液生成装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。この気液混合液生成装置は、図1の装置に加えて、貯液タンク5の下部に圧力調整部4として液体排出部8が設けられている。また、圧力保持部3は加圧混合部1の後段に設けられている。その他の構成は図1の装置と同じである。
【0075】
液体排出部8は、開閉により気液混合液の一部(又は全部)を外部に排出して貯液タンク5内の圧力を調整する排出弁8aと、圧力調整に用いられた気液混合液を外部に排出する排出流路8bとにより構成される。そしてこの装置にあっては、図1の装置と同様に、加圧状態の気液混合液を生成して貯液タンク5に貯液した後、液体排出部8で気液混合液を徐々に排出しながら貯液タンク5内の圧力を調整して、気液混合液の圧力を最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)で大気圧まで減圧する。この装置によれば、減圧を気液混合液の排出により行うことができるので、タンク上部の気体が急激に発散して気液混合液の圧力が急減圧するようなことなくタンク内の圧力を容易に徐々に低下させることができ、ナノサイズの気泡の崩壊を防止することができるものである。減圧した気液混合液は液体取出部7から外部に取り出すことができる。
【0076】
なお、気体排出弁34を減圧開閉弁33として機能させたり気体排出弁34とは別に減圧開閉弁33を設けたりして、圧力調整部4を液体排出弁8と減圧開閉弁33とで構成して気液混合液の減圧の際の圧力調整を行うこともできる。また、液体取出部7と液体排出部8とを兼用し、液体を排出する流路を一つにして、液体取出部7で圧力を調整して気液混合液を減圧してもよい。その場合、装置構成が簡単になる。
【0077】
図7は、気液混合液が安定化されるメカニズムを説明する概念説明図である。図示のように、気泡Bと液体Lqの界面には水素結合距離が通常よりも短い氷やハイドレートのような強固な水分子の結合で境膜構造(結晶構造体)の保護膜Mが形成されており、気液相互の物質移動が阻止されて気泡が安定な状態になったものと考えられる。そして、窒素、メタン、アルゴンの気液混合液内の気泡(ナノバブル)の内圧は、ヤングラプラスの式から求められる圧力よりも約2倍以上である。このように気泡界面の水素結合距離が短く、気泡の内圧が高くなることによって、気泡が安定した気液混合液となるものである。
【0078】
本発明により生成される気液混合液は、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン、アルゴンなどの気体を微細な気泡として液体中に保持するものであり、これらの気体を高濃度で安定に液体中に存在させることができるので、環境分野、製造・産業分野、エネルギー分野、農林水産分野、食品分野、家庭用分野、医療分野や、その他の各種の分野において利用することができるものである。
【0079】
例えば環境分野では、海、河川、湖、池、ダム湖等の閉鎖水域に、酸素が気泡となって高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、水域における酸素存在量を高めて水浄化を行なうことができるものであり、同様に浄化槽、下水道施設、し尿処理施設において、酸素供給に利用することができる。また土壌への酸素供給によって有害物質や油汚染等を処理することができる。
【0080】
製造・産業分野では、酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を噴射や浸漬することによって、精密部品の洗浄などに利用することができる。また、工場排水処理施設に、酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、酸素量の向上による排水処理を行なうことができ、あるいはオゾンの気泡が高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、排水をオゾン処理することができる。また食品工場での発酵食品の発酵と培養促進のための、酸素供給に利用することができる。また業務用浴場、プール、水族館等の循環水ろ過システムへの酸素やオゾンの供給に利用することができ、工場の塗装工程循環水、工場の洗浄工程循環水、冷却循環水への酸素やオゾン供給による浄化に利用することができる。さらに工場等で発生した有毒ガスを気泡として水に混合させることにより気液混合液を生成して、この高濃度の有毒ガスが存在する気液混合液を処理することにより有毒ガスを処理することもできる。
【0081】
エネルギー分野では、天然ガス、メタン、ブタン、エタン、プロパン等の炭化水素、酸素、窒素、水素、オゾンなどを気泡として液体中に存在させることにより、これらの気体を安定して高濃度に保持することができる。そして、このような気液混合液を冷却又は圧縮するなどして固形化又はスラリー化することによりガスハイドレートを生成し、このガスハイドレートにより、ガスの運送、生鮮食料品の保存と運搬、植物栽培、炭酸飲料への利用や、燃料としての利用を図ることができる。
【0082】
農林水産分野では、農業排水、水産排水、畜産排水に酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、酸素存在量を向上させて水浄化や汚物の浮上分離に利用することができる。また酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を農業用水や水産用水として用いることによって、植物の発芽促進や成長促進、魚介類の成長促進を図ることができる。さらに生簀に高濃度で酸素の気泡が存在する気液混合液を供給することによって、活魚輸送などの際の酸素供給を行なうことができる。また、農業廃水処理にも利用することができる。
【0083】
食品分野では、酸素や二酸化炭素などの気泡が存在する気液混合液を食品加工水や食品洗浄水として利用することができ、また、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性気体の気泡が存在する気液混合液を用いて食品の腐敗防止などに利用することができる。
【0084】
家庭用分野では、生活排水の浄化槽などに酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、酸素量の向上による排水処理を効率良く行なうことができる。また二酸化炭素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を浴槽に供給することによって、炭酸ガス風呂を形成することができる。また、気液混合液を飲料用に、美容用に利用することができる。
【0085】
医療分野では、酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液や、二酸化炭素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を、飲料用、癌治療用、結石破壊用などに利用することができる。
【0086】
その他の分野では、飲料用の酸素水、飲料用の炭酸水として気液混合液を利用することができる。さらに殺菌用、脱色用、脱臭用、有機物分解用など多分野で使用されるオゾン水として気液混合液を利用することができる。
【0087】
そして、本発明の気液混合液生成装置は、上記のような各種の分野に用いられる気液混合液を生成する装置として利用することができるものであり、家庭用の機能水生成装置として利用することもできるし、工業用に気液混合液を製造する装置(気液混合液製造装置)として利用することもできる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0089】
図8は、気液混合液生成装置の具体的な形態の一例である。図8では装置の内部が見えるように、(a)では上側の、(b)では前側のハウジング10を除去して図示している。
【0090】
この気液混合液生成装置Aは、気体供給部2がエゼクタ35で、加圧混合部1がポンプ11で、圧力保持部3が逆流防止弁32で構成されている。圧力調整部4は減圧開閉弁33で構成され、減圧開閉弁33には外部と連通する緩減圧管14が設けられている。気体排出弁34には気体用ホース15が取り付けられている。ポンプ11は、図2で示すようなポンプ11aが用いられており、モーター16の回転により駆動するように構成されている。流路6と取出流路7bとはいずれも液体用のホースで形成されている。流路6の上流側の先端には水道配管にホースを取り付けるための取付金具13が設けられている。そして、エゼクタ35、逆流防止弁32、ポンプ11、モーター16、減圧開閉弁33、気体排出弁34、貯液タンク5、及び流路6の一部がハウジング10に収容されている。この気液混合液生成装置Aは、水に空気などの気体を注入して気液混合水を生成することができ、生成した気液混合水は飲料用などの水として使用することができる。
【0091】
以下、装置構成の詳細を示す。
【0092】
モーター16: AC100Vインダクションモーター
ポンプ11: ベーンポンプ
貯液タンク5: 貯水タンク、1MPa耐圧、容積1L密閉タンク(SUS314)
気体排出弁34: 逃がし弁(0.5MPa以上で開放)
緩減圧管14: 内径1mm、長さ1mmの細管(圧縮された気体を緩やかに抜き減圧する管)。
【0093】
図8の装置を用いて、液体として純水を用い、気体として後述する各種の気体を用い、気液混合液を生成した。以下に装置の動作の様子を示す。
【0094】
初期状態は
・減圧用開閉弁33は閉状態
(貯水タンク5内を0.5MPaに維持する設定)
・ポンプは停止
・取出弁7a(取り出し用バルブ)は閉状態
とした。
【0095】
気液の混合
(1)水道配管を開いた。これにより水が装置に入った。
(2)装置に水が入ったことを検知して、モーター16によりポンプ11を駆動させた。
(3)水がエゼクタ35を通過する際に気体が吸引され、気体が液体に注入された。
(4)ポンプ11で水と気体とを圧力0.5MPaの条件で混合してナノサイズの気泡を液体中に生成した。気液混合の条件は次の通りである。
【0096】
・ポンプ11の回転数: 1700rpm
・水の流量: 6L/min
・気体の吸気量 6L/min
・ポンプ11の入口の圧力: 0.1MPa
・ポンプ11の出口の圧力: 0.6MPa
・加圧速度: ΔP1/t=28.3MPa
(5)生成した気体混合液を貯液タンク5に貯液した。タンク内の圧力を気体排出弁34により0.6MPaに維持した。
(6)タンクが満杯になったことを検知してポンプ11を停止した。このとき、タンク内は0.6MPaで維持された。
(7)0.5秒以上経過させた。
(8)減圧用開閉弁33を開放して緩減圧管14で徐々に減圧した。減圧速度の条件は、
減圧速度: ΔP2/t=−5MPa
とした。
【0097】
なお、減圧時間の条件として、0.6MPaから大気圧0.1MPaに戻す時間が、0.5秒以上であれば、ナノサイズの気泡がマイクロサイズに成長したり合体したりしないことが判明した。ナノサイズの気泡を含む気液混合液は無色透明であるが、気泡が成長や合体してマイクロサイズになると白濁するので判別できる。
(9)タンク内が大気圧まで減圧したことを検知した後、取出弁7aを開放して気液混合水を取り出した。
【0098】
次に、上記により生成した気液混合液の物性について説明する。
【0099】
[水素結合の距離]
図9は、気体として窒素を用い、液体として純水を用いた気液混合液(窒素混合水)と、窒素が純水に飽和溶解濃度で溶解した窒素飽和水との赤外吸収スペクトルとの差分を示すグラフである。水のOH収縮振動による赤外吸収帯としては通常3400cm−1付近に吸収極大があることが知られているが、グラフに示されるように本発明の気液混合液はOH収縮振動の吸収極大が3200cm−1付近にずれている。吸収極大が3400cm−1にある場合、水素結合の距離は0.285nmである。一方、吸収極大が3200cm−1にある場合、水素結合の距離は0.277nmであることが知られており、常温常圧下における通常の水素結合の距離よりも短くなり構造化された氷またはハイドレートに近い水と結論づけられた。
【0100】
[気体量]
液体として純水を、気体として窒素、水素、メタン、アルゴン、二酸化炭素のいずれかを用いた気液混合液中に気泡として存在する気体量を次の方法により測定した。
(1)25℃、導電率0.1μS/cmの純水に、各種の気体を混合させ気液混合液を得た。
(2)直径1μm以上の大きな気泡を水から分離するために、気液混合液を25℃で1日静置した。なお、静置時間について、ストークスの法則から
気泡上昇速度: V=d2×g/(18×γ)
(d:気泡直径、g:重力加速度、γ:動粘性係数)
の式が成立し、この式より1μmの気泡の上昇速度は約2.4×10−4m/sであるので、例えば静置時の容器の水深が50mmの場合、1日静置すれば気泡を除去することができる。
(3)最小測定値1mgの分析天秤で気液混合液の質量を測定した。
(4)ガス透過度及び透湿度の低いPE+ナイロン樹脂製のビニル袋に気液混合液とスタラーの撹拌子を入れ、空気を追い出して袋に空気が無い状態でシーラーにてビニル袋を密封した。
(5)密封直後に、分析天秤で気液混合液が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(6)ホットスタラーにより25℃の気液混合液が密封されたビニル袋を45℃に昇温して気液混合液を約5時間撹拌した。この昇温と撹拌により、微細気泡や、45℃の飽和溶解濃度以上で溶解していた気体が気液混合液から分離されビニル袋の上部に集まった。
(7)室温25℃の条件でホットスタラーの設定温度を25℃にし、25℃の飽和溶解度の液体になるよう数時間撹拌を行った。
(8)分析天秤で、気体と液体が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(9)計3回の質量測定から気液混合液の質量と、昇温および撹拌によって気液混合液から分離された気体による浮力によって生じる液体の質量変化量とを得た。質量変化量は、気液混合液から分離された気体容積と同容積の空気の質量と同じであり、この値から分離された気体の容量と質量を算出することができる。
【0101】
図10は、このようにして測定された気体容量を示すグラフである。各棒グラフの下部領域は、測定された気泡として存在していた気体の量であり、上部領域はヘンリー則に従う気体の飽和溶解量である。グラフに示すように、例えば水素と水を用いた気液混合液の場合、25℃の純水1Lに水素が、飽和溶解量として17.6mL溶解し、528mLの気体が微細な気泡として存在することが確認された。すなわち、気液混合液に含有する気体量は過飽和溶解量の30倍であった。また同様に、過飽和溶解量に対して気液混合液に含有する気体量は、窒素では36倍、メタンでは17倍、アルゴンでは16倍、二酸化炭素では1.9倍であった。このように、気液混合液は飽和溶解濃度以上の高濃度で気体を液体中に保持することが可能であり、この高濃度の気液混合液を各種の分野に利用することができるものである。
【0102】
[気泡のサイズ]
上記と同様にして生成した気液混合液を瞬間凍結し、真空中においてカッターで割断し、その割断面にメタン・エチレンを流し放電させ、凹凸を転写した炭化水素膜(レプリカ膜)を作製した。このレプリカ膜に導電性オスミウム薄膜を張り、十分乾燥させて、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した。
【0103】
図11は、窒素と純水の気液混合液について、SEMにより観測された写真の一例である。同様に写真観察することにより、気体として窒素、水素、メタン、アルゴン、二酸化炭素を用いた場合、いずれも気液混合液の気泡サイズは、直径の分布ピークが100nmであることが確認された。なお、上記の気体と純水の気液混合液の気泡はレーザーを用いた動的散乱法等の粒子径分布測定装置では正確な検知ができなかった。
【0104】
[気泡の内圧]
気液混合液中の気体総量から気泡内部の圧力を算出した。表1は、窒素、メタン、又はアルゴンと25℃の純水との気液混合液における、気体総量と、気体総量から算出した気泡の内圧を示している。
【0105】
気泡における気体の内部圧力は次の方法で算出される。
気体の状態方程式は、
PV/T=(const)
(P:内部圧力、V:容積、T:内部温度)
で表され、Tが一定の場合、特に
PV=(const)
で表される。
【0106】
そして、気液混合液の密度から気液混合液中の気泡の容積が計算でき、上式から、
大気圧 × 気体総体積量 = 気泡の内圧 × 液中の気体総体積量
の関係が成立し、この関係式に上記で測定した気体量を当てはめて気泡における気体の内圧が計算され、表1のような圧力値となる。
【0107】
例えば気体が窒素の場合、
気液混合液1リットル中における、水体積がw1リットル、水中での気体体積がw2リットルであると仮定すると、
体積については次の関係式が成り立つ。
【0108】
w1 + w2 =1リットル (式A)
また、質量については次の関係式が成り立つ。
【0109】
w1 × 水の密度 + w2÷22.4(リットル)×28(窒素分子量)=測定質量 (式B)
水の密度 :常温常圧の純水では997.1g/L
22.4リットル :気体1モルの体積
測定質量 :表1の値で988.3
上記の2式(式A,B)の方程式を解くと、
w2=8.84×10^(-3) が算出されるので、
気体の内圧=大気圧 × 気体総体積量 ÷ 液中の気体総体積量
=0.1×(表1の値)÷w2
=0.1×0.56÷(8.84×10^(-3))
=6.3MPa
となる。
【0110】
なお、上記の計算では、気泡の内部温度が一定(常温)であるとして考えたが、実際の気泡の内部温度は大気の温度(常温)よりも高いことも予想され、その場合、気泡の内部圧は上記算出結果より更に高いことが気体の状態方程式から予測できる。
【0111】
ところで、一般には、気泡の内圧は次のようにして算出される。気泡は気液相界面間の界面張力により加圧され、この界面張力はヤングラプラスの式(下記式)で導かれる。
【0112】
ΔP=2σ/r
(ΔP:上昇圧力、σ:表面張力、r:気泡半径)
この式によれば、例えば、直径100nmのサイズの気泡の場合、気泡内部圧力は3MPaになる。
【0113】
一方、気液混合液中の内部圧力は、表1の通り、例えば窒素の場合6.3MPaであり、この気液混合液はSEM写真にて示されるように直径100nmサイズの気泡が分散しているものであることから、気液混合液の気泡は、ヤングラプラスの式から算出される値の約2倍以上の内部圧力を有していることが確認された。したがって、より強固な界面構造が気泡界面において形成されていると結論づけられた。
【0114】
【表1】
【0115】
[気泡の分布量]
気泡の分布量(個数)は表1から算出した。
【0116】
気体が窒素の場合、大気中(0.1MPa)に戻した気泡総量が0.56Lであり、気泡の内圧が6.3MPaであるので、水中での気泡総体積量V1は、等温変化と仮定し、PV=constより
V1=0.56×0.1÷6.3
となる。
【0117】
また、気泡は半径r=50nmの球体であるから、気泡1個当たりの体積V2は
V2=4/3×π×r^3
となる。
【0118】
以上より、水1L当たりの気泡の個数n=V1÷V2=1.7×10^16個と算出される。
【0119】
同じように水1L当たりの気泡の個数は、気体がメタンの場合は1.8×10^16個、アルゴンの場合は1.7×10^16個と算出される。
【0120】
[気液混合液の安定性]
図12は、空気を純水に混合させて生成した気液混合液について、ガラスビンに密封し一定温度で保管した場合の、飽和溶解濃度に対する気液混合液中の気体存在量比を過飽和度として表示するグラフである。グラフから、過飽和度は400時間経過してもほぼ一定であり、ほとんど変化していないことが分かる。よって、気液混合液が安定であることが確認された。
【符号の説明】
【0121】
1 加圧混合部
2 気体供給部
3 圧力保持部
4 圧力調整部
5 貯液タンク
6 流路
7 取出部
8 液体排出部
11 ポンプ
12 ベンチュリ管
21 回転体
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中にナノサイズの気泡が安定に存在する気液混合液の生成方法及び気液混合液生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な気泡が液体中に分散された気液混合液が知られている。特に、ナノオーダーサイズの気泡が水に混合されたナノバブル水は、気泡のサイズが通常の気泡に比べて極めて小さく、そのため特異な性質を有しており、様々な分野での利用が試みられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、液体中の微細な気泡は、溶解したり合体したりすることにより消滅しやすく液体中に安定に存在させることが難しかった。そのため、液体に気体を連続的に供給してバブリングしたり、強度の力をかけて撹拌して気泡を発生させ、その発生した気泡が消滅しないように液体を使用したりすることが行われている。また、気泡がナノオーダー程度になり、気泡のサイズが微細になればなるほど、気泡が生成しにくいと共に消滅しやすくなり、気泡を分散した液体を利用することが一層難しかった。
【0004】
特許文献2〜4には、微小気泡を急激に縮小させてナノバブルを安定化させることが開示されている。これらの文献の方法では、強度の力をかけてマイクロバブルの一部を縮小させ、気液界面に吸着したイオンと静電気的な引力により、界面近傍の水溶液に引き寄せられた反対符号を持つ両方のイオンが微小な体積の中に高濃度に濃縮することにより、微小気泡周囲を取り囲む殻の働きをし、微小気泡内の気体の水溶液への拡散を阻害することによってナノバブルを安定化させている。しかし、ナノバブルを安定化させるために、気液界面において静電気的な力を生成する必要があるため電解質の存在が不可欠であり、純水など、電解性物質が溶解していない溶液などではナノバブルを安定に存在させることができなかった。
【0005】
また、マイクロバブルの一部のみを縮小させるため、ナノバブルの分布量が少なく効果が得られにくいという問題もあった。さらに、気泡の周囲を取り囲んだイオンでナノバブルを安定化させているため、気泡を溶解させたり合体させたりして気泡の安定状態を制御することが容易にできず、気液混合液の利用が限定されたものであった。
【0006】
また、特許文献5には、水を電気分解した後、超音波を印加することによりナノ気泡を発生させることが開示されている。しかし、水の電気分解では気体が水素と酸素に限られ、また電気分解による気体の生成量は少なく、さらに生成した気泡が安定化されていないために気泡の自己収縮と拡散・溶解が短時間で生じて、気泡を長期間に亘って安定に維持することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−156320号公報
【特許文献2】特開2005−245817号公報
【特許文献3】特開2005−246293号公報
【特許文献4】特開2005−246294号公報
【特許文献5】特開2003−334548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、液体中に気体が高密度で長期間に亘って安定なナノサイズの気泡となって存在する気液混合液の生成方法、及び気液混合液生成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、液体に気体を供給し、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合し、液体の圧力を0.15MPa以上にすることによりナノサイズの気泡を形成して加圧状態の気液混合液を生成し、生成した気液混合液を加圧状態を維持したまま密閉状態で貯液タンク5に所定量貯液し、貯液タンク5に貯液された気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧することにより、ナノサイズの気泡が液体に混合された気液混合液を生成することを特徴とする気液混合液の生成方法である。
【0010】
請求項2の発明は、上記の気液混合液の生成方法において、ポンプ11により液体を加圧し混合することを特徴とする気液混合液の生成方法である。
【0011】
請求項3の発明は、上記の気液混合液の生成方法において、ポンプ11が、回転体21を用いて液体を剪断しながら加圧し混合するものであることを特徴とする気液混合液の生成方法である。
【0012】
請求項4の発明は、上記の気液混合液の生成方法において、ベンチュリ管12により液体を加圧し混合することを特徴とする気液混合液の生成方法である。
【0013】
請求項5の発明は、液体に気体を供給する気体供給部2と、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合して液体の圧力を0.15MPa以上にすることにより加圧状態の気液混合液を生成する加圧混合部1と、加圧混合部1で生成した気液混合液を密閉状態で貯液する貯液タンク5と、気液混合液の加圧状態を維持する圧力保持部3と、貯液タンク5に貯液された気液混合液の圧力を調整する圧力調整部4とを備え、圧力調整部4は、貯液タンク5に貯液された所定量の気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧するように圧力調整することを特徴とする気液混合液生成装置である。
【0014】
請求項6の発明は、上記の気液混合液生成装置において、圧力保持部3は、加圧混合部1の前段又は後段の液体を送り出す流路6に設けられ、気液混合液が所定量生成して加圧混合部1の駆動が停止したときに、気液混合液の加圧状態を維持することを特徴とする気液混合液生成装置である。
【0015】
請求項7の発明は、上記の気液混合液生成装置において、圧力調整部4は、貯液タンク5に貯液される加圧状態の気液混合液の圧力を、少なくとも加圧混合部1が駆動する間、一定に維持することを特徴とする気液混合液生成装置である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、気体が注入された液体を急激に加圧し混合することにより、強固な界面構造を有する気泡を発生させて、大気圧に戻したときにも安定に存在するナノサイズの気泡を生成することができ、また、界面構造が強固になった気泡を有する気液混合液を徐々に大気圧まで減圧することにより、強固な界面構造を維持して気泡を消滅させたり合体させたりすることなくナノサイズの気泡が混合した気液混合液を安定に得ることができ、気液混合液を効率よく簡単に生成することができるものである。そして、貯液タンクで減圧することにより、大量の気液混合液を一度に減圧することが可能であり、また生成した気液混合液を貯液タンクに貯液しておいて必要なときに外部に取り出して利用することが可能であり、気液混合液を簡単に大量に生成して利用することができるものである。また、貯液タンクで減圧をすれば配管が詰まるようなことがなく減圧することができ、安定して気液混合液を生成することができるものである。
【0017】
請求項2の発明によれば、ポンプにより液体を急激に加圧し混合することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができるものである。
【0018】
請求項3の発明によれば、回転体で急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断し混合してナノサイズの気泡に形成することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液をより確実に生成することができるものである。
【0019】
請求項4の発明によれば、ベンチュリ管により液体を急激に加圧し混合することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができるものである。
【0020】
請求項5の発明によれば、気体が注入された液体を急激に加圧し混合することにより、強固な界面構造を有する気泡を発生させて、大気圧に戻したときにも安定に存在するナノサイズの気泡を生成することができ、また、界面構造が強固になった気泡を有する気液混合液を徐々に大気圧まで減圧することにより、強固な界面構造を維持して気泡を消滅させたり合体させたりすることなくナノサイズの気泡が混合した気液混合液を安定に得ることができ、気液混合液を効率よく簡単に生成することができるものである。そして、貯液タンクで減圧することにより、大量の気液混合液を一度に減圧することが可能であり、また生成した気液混合液を貯液タンクに貯液しておいて必要なときに外部に取り出して利用することが可能であり、気液混合液を簡単に大量に生成して利用することができるものである。また、貯液タンクで減圧をすれば配管が詰まるようなことがなく減圧することができ、安定して気液混合液を生成することができるものである。
【0021】
請求項6の発明によれば、加圧混合部が停止したときも気液混合液の加圧状態が維持されるので、加圧状態の気液混合液が急激に減圧してナノサイズの気泡が崩壊して発泡したりするようなことがなく、ナノサイズの気泡を安定な状態で維持して気液混合液を生成することができるものである。
【0022】
請求項7の発明によれば、加圧混合部が駆動している間、気液混合液の加圧状態を一定にすることにより、気液混合液に不要な加圧がかかったりしてナノサイズの気泡が崩壊することを防止することができ、また圧力が一定に維持されているので加圧混合部でのナノサイズの気泡の生成量を安定にすることができ、ナノサイズの気泡の量が安定した気液混合液を生成することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】気液混合液生成装置の実施の形態の一例を示す概略図である。
【図2】同上の一部を示す概略図である。
【図3】同上の一部を示す概略図である。
【図4】同上の一部を示す概略図である。
【図5】気液混合液生成装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【図6】気液混合液生成装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【図7】気液混合液における気泡の気液界面の概念説明図である。
【図8】気液混合液生成装置の具体的な実施の形態の一例を示しており、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図9】窒素と水を用いた気液混合液と窒素飽和水との赤外吸収スペクトルの差分を示すグラフである。
【図10】気液混合液中に含まれる気体容量を示すグラフである。
【図11】走査型電子顕微鏡(SEM)による気液混合液の写真である。
【図12】気液混合液の安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明を実施するための形態について説明する。
【0025】
本発明の気液混合液の生成方法にあっては、液体に気体を供給し、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)で加圧しながら液体と気体とを混合する。その際、加圧により液体の圧力を0.15MPa以上にする。それによりナノサイズの気泡が形成され、加圧状態の気液混合液が生成される。そして、生成した気液混合液を加圧状態を維持したまま密閉状態で貯液タンク5に所定量貯液し、その後、貯液タンクに貯液された気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)で大気圧まで減圧する。それにより、気液混合液が徐々に大気圧にまで減圧され、ナノサイズの気泡を維持したまま気液混合液を生成することができるものである。気液混合液とは、ナノサイズの気泡が液体中にほぼ均一な分布密度で混合された液体をいう。
【0026】
気液混合液に含まれる気泡はナノサイズの気泡であり、具体的には1000nm以下の気泡(いわゆるナノバブル)である。気泡がナノサイズとなり微細なものになることで強固な気泡界面の構造を形成することができ、高濃度の気体を液体中に保持することができるものである。また、ナノオーダーサイズの気泡には浮力が働かないため、気泡が上昇して液体から分離することがないので気泡を長期に亘って安定に存在させることができるものである。気泡のサイズがナノサイズよりも大きくなると気泡を安定化させることができなくなるおそれがある。なお、気泡の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができ、気泡の平均粒径は、測定によって得た気泡の粒径を平均して求めることができる。ところで、マイクロバブルが混合された液体は白濁するため目視により判別可能であるが、ナノバブルが混合された液体は無色透明(あるいは液体が有色の場合は液体の色)になり目視では判別することができない。よって、気液混合液の判別はSEMや密度測定などによって行うこととなる。なお、ナノサイズの気泡の下限は1nmである。
【0027】
気液混合液の生成に用いる液体としては、水素結合を形成する分子からなる液体を用いることが好ましい。水素結合とは、電気陰性度の大きい原子と水素原子とを有している分子において、水素原子が他の分子の電気陰性度の大きい原子に接近し、系が安定化する結合のことである。そして、気液混合液を形成する液体中には気泡が存在し、この気泡の周囲、すなわち気泡との界面に存在する液体分子においては、分子の水素結合の距離が、この液体が常温常圧(25℃、1気圧(0.1013MPa))であるときの水素結合の距離よりも短いものとなっている。このように、気液混合液が常温常圧の条件で存在する場合において、気泡界面における水素結合の距離が常温常圧での通常の水素結合の距離よりも短くなることにより、気泡の周囲を強固な水素結合を形成した液体分子で取り囲むことになる。そして、この水素結合を形成した液体分子は強固な殻となって気泡を包み込む。それによって、気泡同士が衝突しても崩壊することがなくなり、また、液体からの圧力に対して気泡内部からの応力で対抗できるので、気泡を液体中で消滅させたり合体させたりすることなく保持することができるものである。つまり、従来の表面張力で安定している気泡とは異なるものである。このように、特に、液体として水素結合を形成する分子からなる液体を用いた場合は、液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離を、該液体が常温常圧であるときの水素結合の距離よりも短いものとすることができるので、ナノサイズの気泡をより安定に存在させることができるものである。
【0028】
気液混合液に好ましく用いられる液体の一つは水である。水分子は、O…Hの水素結合、つまり、ある水分子の酸素原子と他の水分子の水素原子との間に水素結合を形成するものであり、気液混合液の液体として水を用いると、気泡界面において液体中のこの水素結合が強固になって気泡をより安定化させることができる。また、水は、供給源が豊富で安定して得ることができ、さらに、気泡が分散した水は応用範囲が広いので、利用価値の高い気液混合液を得ることができるものである。すなわち、本発明において、水としては純度の高い水に限られることはなく、上下水道、池、海水などをはじめ、あらゆる水を使用することが可能である。すなわち、液体として水を含むものであれば良い。
【0029】
また、液体が、O−H結合、N−H結合、F−H結合やCl−H結合などの(ハロゲン)−H結合、S−H結合のいずれか一種以上を有する分子からなる液体であることも好ましい。これらの結合は、水素原子に対して電気陰性度が十分に大きい原子と水素原子との結合であり、O−H…O、N−H…N、F−H…FやCl−H…Clなどの(ハロゲン)−H…(ハロゲン)、S−H…Sといった強い水素結合を形成し、この水素結合により気泡を取り囲んで気泡を安定化させることができるものである。O−H結合を有する代表的な液体は水であるが、その他、過酸化水素やメタノール、エタノールなどのアルコール、グリセリンなどを例示することができる。また、N−H結合を有する液体としては、アンモニアなどを例示することができる。また、(ハロゲン)−H結合を有するものとしては、F−H結合を有するHF(フッ化水素)、Cl−H結合を有するHCl(塩化水素)を挙げることができる。また、S−H結合を有するものとしてはH2S(硫化水素)を挙げることができる。
【0030】
液体がカルボキシル基を有する分子からなる液体であることも好ましい。カルボキシル基には、電気陰性度が大きいカルボニルの酸素原子が存在しており、あるカルボキシル基中のカルボニルの酸素原子と他のカルボキシル基中の水素原子とが強い水素結合を形成して気泡を取り囲むので、安定に気泡が存在した気液混合液を得ることができるものである。カルボキシル基を有する分子からなる液体としては、ギ酸、酢酸などのカルボン酸などを例示することができる。
【0031】
気液混合液に用いる気体としては、特に限定されるものではなく、種々の気体を用いることが可能である。例えば、空気、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン、アルゴン、水素、ヘリウム、メタン、プロパン、ブタンなどの気体を単一で又は混合して用いることができる。
【0032】
液体に注入する気体の量は、生成された際に気液混合液に含有される気体の濃度が、液体の飽和溶解濃度以上になるような量であることが好ましい。飽和溶解量又はそれを超える多量の気体を液体中に保持すれば、液体中に含有された高濃度の気体を利用することができ、気液混合液の利用価値を高めることができるものである。さらに好ましくは、気液混合液の液体中には飽和溶解量の気体が溶解しており、その飽和溶解液に気泡が存在しているものである。飽和溶解量で気体が溶解していれば、気泡となった気体を溶解させることなく安定化して気泡として液体中に保持することがより可能となるものである。すなわち、飽和溶解量以上に気体が存在する気液混合液は、液体中に飽和濃度で気体が溶解しており、気泡が崩壊したり溶解したりすることがなく、より安定に気泡を液体中に存在させることができるものである。また、さらに気体の溶解濃度が、飽和溶解濃度であることが好ましい。このように気体の濃度が高くなると、水素結合の距離を短くした状態で気泡を安定化することができ、また各種の活性(生理活性、洗浄力等)の作用が強力になって、利用価値をさらに上げることができるものである。気液混合液中の気体量は、後述の実施例で示すように気液混合液から気体を分離し、質量変化量から算出することができる。
【0033】
気液混合液の生成にあっては、気泡を形成している気体の圧力、すなわち気泡の内圧が、0.12MPa以上になるように生成することが好ましく、さらにヤングラプラスの式(次式)で与えられる気泡の内圧より高い圧力であることが好ましい。
【0034】
ヤングラプラスの式
ΔP=2σ/r
[ΔP:気泡内部の上昇圧力、 σ:表面張力、 r:気泡半径]
気泡の内圧がこのような圧力になると気泡が高い内部圧で維持されることになり、より強固な界面構造を形成することができるので、静置状態において安定な気泡を形成することができる。一方、一旦、気液混合液に衝撃が加えられると、内部圧の力の均衡が崩されて水素結合が形成された液体の殻が崩壊し、気泡が合体し発泡して液体中から抜け出ようとするため、この発泡を利用することができるものである。気液混合液中の気泡の内圧は、後述の実施例で示すように気液混合液中の気体総量と密度から計算した気体容量とを気体の状態方程式に当てはめることにより算出することができる。
【0035】
また、気泡との界面における液体分子の水素結合の距離としては、用いる液体により適宜のものとなるが、常温常圧での水素結合の距離を100%とした場合に、99%以下となるように気液混合液を生成することが好ましい。水素結合の距離がこの範囲になることにより、気泡を水素結合の硬い殻で取り囲んで安定化させることができるものである。水素結合の距離がこれより長いと気泡を安定化させて存在させることができなくなるおそれがある。原子間距離を考慮すると、水素結合の距離の下限は95%である。気液混合液中の気泡界面における水素結合の距離は、後述の実施例で示すように、気液混合液の赤外吸収スペクトル(IR)を解析することにより算出することができる。
【0036】
ところで、水素結合の距離が上記の距離にある水は、通常、氷のように固体やハイドレート結晶構造になるものであるが、本発明により生成した気液混合液においては、気泡界面において局所的に上記のような距離の短い水素結合を形成し、それ以外の液体中は通常の水素結合を形成している。すなわち、気泡界面では距離の短い水素結合により液体分子の硬い殻を形成して、気泡同士が合体することや消滅することを防止すると共に、気泡界面以外では通常の状態で液体が存在して常温常圧では流動性を確保しており、安定な気泡が存在している液体を利用しやすくするものである。
【0037】
また本発明により生成する気液混合液は、液体として水を用いた場合、ゼータ電位がマイナスとなり、体積1cm3中に存在する気泡界面の面積は1.2m2程度となる。このような特性を各分野で利用することも可能である。
【0038】
図1は、本発明の気液混合液生成装置の実施の形態の一例を示す概略図である。この装置により、上記のような気液混合液を生成することができる。
【0039】
この気液混合液生成装置は、気液混合液をバッチ式で生成する装置であり、液体供給源から送られてくる液体に気体を供給する気体供給部2と、気体が供給された液体を加圧しながら液体と気体とを混合して加圧状態の気液混合液を生成する加圧混合部1と、加圧混合部1で生成した気液混合液を密閉状態で貯液する貯液タンク5と、気液混合液の加圧状態を維持する圧力保持部3と、貯液タンク5に貯液された気液混合液の圧力を調整する圧力調整部4とを備え、貯液タンク5には液体が流れる流路6が接続されている。
【0040】
流路6の上流側(貯液タンク5と反対側)は水道配管や液体貯留槽などの液体供給源に接続されており、この液体供給源から供給される液体が流路6を通って下流側(貯液タンク5側)に向かって送られる。液体を流路6に送り出すための圧力としては水道配管のように加圧された液体供給源の圧力を用いてもよいし、後述のポンプ11の汲み上げの圧力を用いてもよい。
【0041】
気体供給部2は、流路6に接続されることにより液体供給源から送られた液体に気体を供給して注入するものである。例えば、気体として空気を注入する場合には、一端を大気中に開放させた管体の他端を流路6に接続して気体供給部2を形成することができ、この場合、液体が送られる際の負圧により気体を液体に供給することができる。あるいは気体として酸素、オゾン、水素、窒素、二酸化炭素、アルゴン等を供給する場合には、これらの気体を封入したボンベなどを流路6に接続して気体供給部2を形成することができる。あるいは気体としてオゾンを使用する場合は、オゾン発生器を気体供給部2に接続してもよい。流路6への気体供給部2の接続位置は、加圧混合部1よりも上流側の位置であればよく、この装置のように圧力保持部3よりも上流側の位置であることが好ましい。
【0042】
加圧混合部1は、流路6に設けられ、気体供給部2によって気体が供給された液体を加圧しながら液体と気体とを混合し、気体を微細なナノサイズの気泡にして液体中に分散・混合させて、加圧状態の気液混合液を生成するものである。この装置ではポンプ11で加圧混合部1を形成してある。加圧混合部1としては、流路の断面積変化などで撹拌力を与えるもので構成することもできるし、また液体が撹拌された状態で流路6を流れているのであれば単に流路6で構成することもできるが、気液の加圧及び混合をポンプ11により行った場合、液体を急激に加圧・混合することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができる。また、ポンプ11を用いる場合は、液体供給源に貯蔵されている大気圧の液体を汲み上げることもできる。
【0043】
図2は、ポンプ11の具体的な形態の一例を示す要部の概略図である。このポンプ11aは回転体21の回転により液体を加圧するものであり、回転体21に取り付けられた回転翼22が連続的に回転してポンプ入口26からポンプ流路室23を介してポンプ出口27への流れ方向へ液体を送り出し加圧するものである。図において白抜き矢印は液体の流れ方向を示し、実線矢印は回転体21の回転方向を示している。このポンプ11aでは4枚の回転翼22が備えられている。また回転体21の回転軸25は、円筒状に形成されたポンプ壁24の円筒中心よりもポンプ出口27側に偏って配置され、偏心軸となって設けられている。そして、回転軸21の偏心によりポンプ流路室23の第二流路室23bの容積は、第一流路室23aの容積よりも小さく形成されており、液体の流れ方向に沿ってポンプ流路室23の容積が順次小さくなっている。
【0044】
そして、ポンプ流路室23に送り出された液体は、回転翼22で送り出され加圧され、急激な圧力変化により大きな気泡BBが細分化されて微細なナノサイズの気泡BNが生成される。すなわち、回転体21の回転と共に第一流路室23aから第二流路室23bに送られた液体は、ポンプ流路室23の容積が小さくなることにより急速に圧縮されて加圧され、この加圧力によりナノサイズの気泡BNが生成される。また、図示のポンプ11aでは、ポンプ壁24の内面と回転翼22の先端部との間を液体が通過するときに剪断力が与えられて、液体をクリアランスで剪断しながら加圧する。このとき、液体に混合されている気体(大きな気泡BB)は液体に与えられた剪断力によって剪断されて、より微細なナノサイズの気泡(BN)になる。ここで、ポンプ壁24の内面と回転翼22の先端部との間の最も狭くなる部分の距離、すなわちクリアランス距離LCは、5μm〜2mmであることが好ましい。このように、回転体21を用いたポンプ11aによれば、回転体21で急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断してナノサイズの気泡を形成することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液をより確実に生成することができるものである。
【0045】
ポンプ11の回転体21の回転数は100rpm以上であることが好ましい。このとき、0.3秒に1/2回転以上となる。このような回転数となることにより、飽和溶解濃度以上の気体を液体に注入させて水素結合距離が短縮したナノサイズの気泡を確実に生成することができるものである。
【0046】
ここで、図3のように、加圧混合部1の上流側の流路6にベンチュリ管12を設け、このベンチュリ管12の側管を気体供給部2として機能させて気体を液体に供給すると共に、ベンチュリ管12の本体を加圧混合部1の一部(又は全部)として機能させて気体が供給された液体を加圧し混合することも好ましい。その場合、簡単な構成で気体を液体に供給すると共に液体を急激に加圧・混合することができる。また、ポンプ11とベンチュリ管12という複数の加圧機構により液体を加圧した場合、液体を強力に加圧して、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができる。なお、ポンプ11を用いずにベンチュリ管12のみで加圧混合部1を構成してもよく、その場合、装置構成をより簡単なものにすることができる。
【0047】
図示のベンチュリ管12は、流入側から流出側に向かって断面積が徐々に小さくなる流入側管部12aと、ベンチュリ管12内において断面積が最も小さくなる絞り管部12bと、流入側から流出側に向かって断面積が徐々に大きくなる流出側管部12cとからなる。絞り管部12bには気体供給部2として機能する側管の一端が接続してあり、この側管から供給された気体は、絞り管部12b内において液体に注入されるようになっている。この例では、流出側管部12cの長さ(T2)は流入側管部5aの長さ(T1)よりも長く形成されており、それにより、流入側管部12aで断面積が小さくなることにより減圧され、絞り管部12bで気体と混合した後、流出側管部12cで急激に加圧されながら下流側に送り出され、液体と気体が激しく混合されることになる。
【0048】
貯液タンク5は生成した気液混合液を貯液するためのものである。貯液タンク5は、加圧状態で送られる気液混合液の圧力を維持できるように密閉性のあるタンクとして形成されており、例えば、耐圧性タンクなどで構成される。
【0049】
そして、加圧混合部1であるポンプ11の駆動の開始と停止とにより所定量の気液混合液が生成される。すなわち、ポンプ11に接続されたポンプ電源をオンにするとポンプ11の駆動が開始し、加圧混合部1内において液体と気体が高圧条件で混合される。それにより、気泡の周囲に強固な界面構造が形成され、この強固な界面構造の殻で気泡を覆うことができ、気体を微細な気泡として安定化することができる。生成した気液混合液は、流路6を通って順次に貯液タンク5に送り出される。そして、貯液タンク5に貯液された気液混合液の量が所定量に達するとポンプ電源をオフにしてポンプ11の駆動を停止し、液体の送り出しをストップする。なお、加圧混合部1が電源制御する機構のものでない場合(例えばベンチュリ管12のみの場合)は、流路6への液体の送出の開始又は停止によって加圧混合部1の駆動が自動的に開始又は停止される。
【0050】
上記のような加圧混合部1により、気体が注入された液体に急激に強力な圧力が加わって、液体中に存在している気泡は微細なナノサイズの気泡へと細分されて液体に分散される。また、急激な圧力変化により高圧になった気泡の界面には液体分子により強固な界面構造が形成される。その際、加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)が0.17MPa/sec以上になることにより、気泡を細分化させて微細なナノサイズの気泡を生成することができ、加圧混合部1から貯液タンク5に送り出される際の気液混合液の圧力が0.15MPa以上になることにより、気泡の界面が強固な構造となったナノサイズの気泡を生成することができるものである。実質的な加圧条件を考慮すると、加圧速度ΔP1/tの上限は167MPa/secであり、加圧された気液混合液の圧力の上限は50MPaである。
【0051】
生成した気液混合液は貯液タンク5に送り出されるが、その際、貯液タンク5への流出に伴って気液混合液が急激に減圧したりすることがある。加圧状態の気液混合液が急激に減圧するとナノサイズの気泡が崩壊して気体が分離してしまうおそれがある。そこで、上記の気液混合液生成装置にあっては、加圧混合部1から送り出されて貯液タンク5に貯液される気液混合液の加圧状態を維持するように圧力保持部3を流路6に設けてある。
【0052】
圧力保持部3は、上記の装置では、加圧混合部1よりも上流側(前段)の流路6に設けてあるが、これに限らず、圧力保持部3を加圧混合部1と貯液タンク5との間の流路6、すなわち加圧混合部1の後段の流路6に設けるようにしてもよい。このように圧力保持部3を設けることによって、気液混合液が加圧状態を維持したまま送り出されて貯液タンク5に貯液されるので、ナノサイズの気泡が崩壊されることを防止できる。
【0053】
この圧力保持部3は、気液混合液が所定量生成されて加圧混合部1の駆動が停止したときに、気液混合液の加圧状態を維持することが好ましい。すなわち、ポンプ11などの加圧混合部1の駆動が停止すると、液体を送り出す圧力が消失して気液混合液が上流側に逆流して気液混合液が急減に減圧することがある。気液混合液が急激に減圧するとナノサイズの気泡が崩壊して気体が分離してしまうおそれがある。そこで、ポンプ11の駆動が停止した後も、圧力保持部3が気液混合液の加圧状態を維持して急激に減圧することを防止するものである。
【0054】
圧力保持部3としては、例えば、電気的に弁の開閉の制御を制御する電気開閉手段を備えたものにすることができ、図1の装置では、電動バルブ31により圧力保持部3が構成されている。電動バルブ31によれば、電気制御により確実に弁の開閉を制御することができるので、気液混合液の加圧状態を確実に維持し、気液混合液が逆流で不用意に減圧してナノサイズの気泡が崩壊するようなことを防止することができる。
【0055】
また、圧力保持部3を逆流防止弁32で構成することもできる。図5の気液混合液生成装置の実施の形態では、圧力保持部3が逆流防止弁32により構成されている。このように、圧力保持部3を逆流防止弁32で構成すれば、簡単な構成で気液混合液が逆流して減圧することを防ぐことができ、容易に気液混合液の加圧状態を維持してナノサイズの気泡を崩壊することを防止できるものである。なお、図5の装置において、圧力保持部3以外の装置構成は図1の装置と同じである。
【0056】
こうして、加圧混合部1の駆動の開始と停止とにより生成した気液混合液は、貯液タンク5に所定の量で貯液される。そして、気液混合液を外部に取り出して利用するために貯液タンク5で大気圧まで減圧を行う。
【0057】
圧力調整部4は、貯液タンク5に貯液された気液混合液の圧力を調整するものであり、加圧状態の気液混合液の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させるものである。上記のようにして加圧・混合により生成した気液混合液は、高圧な状態にありそのまま大気圧下にある外部に排出されると、急激な圧力低下によって、気液混合液中の気泡が合体して気体になって液体から排出されるおそれがあり、またキャビテーションが発生することがある。そこで、圧力調整部4を設け、加圧された状態の気液混合液を大気圧まで低下させる際に、圧力調整部4で圧力調整をしながら大気圧まで徐々に減圧をし、外部に吐出可能にするようにしているものである。圧力調整部4は、貯液タンク5の上側に設けられてタンク上部に滞留した気体を徐々に外部に放出する減圧開閉弁33などにより、減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)の上限を2000MPa/sec以下にして気液混合液を減圧するように構成されている。それにより、強固な気泡界面の構造を維持させたまま、ナノサイズの気泡を消滅させたり合体させたりすることなく気液混合液を取り出すことができるものである。
【0058】
減圧開閉弁33で気体を放出する際には、直径0.1〜1mm程度、長さ1mm以上(好ましくは5mm以上)程度の細管(緩減圧管)を減圧開閉弁33に接続してこの細管から気体を放出することが好ましい。細管で気体を放出することにより容易に徐々に減圧することができる。すなわち、緩減圧管14(後述の図8参照)は貯液タンク5の圧力をΔP2/tで減圧させるため、急な減圧にならないよう細管で緩やかに高圧の気体を少しずつ抜くためのものである。圧縮された気体を抜くので緩やかな減圧ができる。液体を抜いてしまうと少しの液体を抜いただけでも急な減圧が起こるため、ナノサイズの気泡が崩壊する問題が発生してしまうおそれがある。よって液体よりも気体を抜くことが好ましいのである。
【0059】
このように、上記の気液混合液生成装置では、貯液タンク5で減圧することにより、大量の気液混合液を一度に減圧することが可能であり、また生成した気液混合液を貯液タンク5に大気圧の状態で(又は大気圧近傍の圧力で、あるいは加圧状態で)貯液しておいて必要なときに外部に取り出して利用することが可能であり、気液混合液を簡単に大量に生成して利用することができるものである。また密閉状態を形成する貯液タンク5で減圧するので、減圧後も密閉状態を維持することができ、気液混合液を安定に貯液することができるものである。すなわち、連続式で液体を送りながら減圧して気液混合液を生成した場合、保存タンクに気液混合液を入れる際の衝撃でナノサイズの気泡が崩壊したり、保存タンクが開放状態となっていて気体が分離しやくなったりして、液体中に気体を長期に安定に保持できないおそれがある。また、保存タンクを圧力調整で密閉状態にしようとすると圧力変化の衝撃を気液混合液に与えて気泡が崩壊してしまうおそれがある。しかしながら、上記の気液混合液生成装置のようにバッチ式で生成する場合は、貯液タンク5をそのまま保存タンクとして用いることができ、連続式の場合に比べて、大量の気液混合液をナノサイズの気泡を崩壊させることなく安定に長期に保存することが可能になるものである。また、気液混合液の減圧を細い流路管などで行う場合、流路管にゴミなどが詰まって故障が発生してしまうおそれがあるが、貯液タンク5で減圧をすれば配管が詰まるようなことがなく安定して気液混合液を生成することができるものである。
【0060】
圧力調整部4は、さらに貯液タンク5に貯液される加圧状態の気液混合液の圧力を、少なくとも加圧混合部が駆動する間、一定に維持するものであることが好ましい。加圧混合部1で生成した気液混合液は生成した後、順次に貯液タンク5に送られるので、貯液タンク5では加圧状態の気液混合液が徐々に量を増しながら貯液される。一方、貯液タンク5は密閉状態になっており、加圧状態の気液混合液が増えるとタンク内の圧力が次第に上がる。気液混合液の圧力が上がりすぎるとナノサイズの気泡が圧力変化の衝撃により崩壊するおそれがある。また、加圧混合部1での加圧よりも高い加圧が不均一にかけられた場合は、気泡径を変化させるなどしてナノサイズの気泡を不安定化させるおそれがある。また、貯液タンク5の圧力上昇が伝わって加圧混合部1で加圧する圧力が高くなって加圧混合部1で生成するナノサイズの気泡の量が変化するおそれがある。しかし、圧力調整部4で加圧混合部1の駆動中、貯液タンク5に貯液された気液混合液の加圧状態を一定にすることにより、気液混合液に不要な加圧がかかったりしてナノサイズの気泡が崩壊することを防止することができ、また、ナノサイズの気泡の生成量を安定にすることができ、ナノサイズの気泡の量が安定した気液混合液を生成することができるものである。
【0061】
圧力調整部4で、気液混合液の圧力を一定に維持するには、貯液タンク5の上部に設けられた気体排出弁34の弁の開閉によって行うことができる。上記の装置では、減圧開閉弁33と気体排出弁34とが兼用されて設けられた形態を示しているが、減圧開閉弁33とは別に気体排出弁34を設けて、貯液タンク5の上部に貯留する気体を貯液タンク5内の圧力が一定になるように排出して圧力調整してもよい。気体排出弁34を別に設けた場合は、それぞれの弁によって気液混合液の貯液時と減圧時の圧力調整を適切な条件で行うことが簡単になり、圧力維持と減圧とを容易に行うことができるものである。
【0062】
気液混合液を生成する際には、貯液タンク5で貯液された加圧状態の気液混合液から、ナノサイズを超える気泡、すなわち直径1μmを超える気泡を取り除くようにすることが好ましい。上記のようにしてナノサイズの気泡が形成された液体にはマイクロサイズ以上の気体も一緒に混合して存在している。しかし、マイクロサイズ以上の気泡は安定に液体中に存在することができないのに加え、液体中に存在しているとナノサイズの気泡を合体させたり崩壊させたりしてナノサイズの気泡をも不安定にしてしまう。そこで、マイクロサイズ以上の気泡を気液混合液から取り除いて気泡をナノサイズのものだけにしてナノサイズの気泡を安定化させるものである。
【0063】
マイクロサイズの気泡の除去は、気泡をそれ自身の浮力で上昇させて取り除くようにして行うことができる。直径1μmを超えるサイズの気泡(マイクロサイズの気泡)は、浮力により上昇するので、この浮力を利用してマイクロサイズの気泡を取り除くのである。液体から取り除かれ放出された気泡は気体となってタンク上部に集積する。このようにして放出された気体は、気体を排出する管などで排出することができ、例えば、上記の気体排出弁34により取り除くことができる。このような比較的大きい気泡が取り除かれて微細な気泡であるナノサイズの気泡が液体中に存在することにより、界面構造が強固で安定な気液混合液を得ることができるものである。
【0064】
図4は、貯液タンク5でマイクロサイズの気泡Bを取り除く様子を示す概略図である。なお、説明の便宜のため気泡Bを拡大して描写してある。貯液タンク5に貯液された液体Lq中の気泡Bには浮力が働き、気泡Bが液面まで上昇する。液面に到達した気泡Bは液体外に放出されタンク上部の気体と一体になってタンク上部に滞留する。こうして滞留した気体は気体排出弁34から排出される。
【0065】
貯液タンク5の深さD、すなわち所定量の気液混合液を貯液したときの貯液タンク5の底面から気液混合液の上面までの距離は、10〜900mmであることが好ましい。下記の気泡の上昇速度を考慮すると、貯液タンク5の深さがこの範囲になることで、貯液量を十分にするとともに、マイクロサイズの気泡を浮力で簡単に取り除くことができる。圧力保持容器30の深さがこの範囲になることで、貯留量を十分にするとともに、マイクロサイズの気泡を浮力で簡単に取り除くことができる。
【0066】
気泡の上昇速度Vは、ストークスの法則から、
V(m/s)=1/18×g×d/γ
[g(m/s2):重力加速度、 d(m):気泡の直径、 γ(m2/s):水の動粘性係数]
である。
【0067】
また、気液混合液を貯液タンク5に加圧状態(0.15MPa以上)を維持して0.1〜1.0秒程度以上保持して貯液することが好ましい。気液混合液を貯液タンク5に所定時間、静置条件で保持して貯液することにより、マイクロサイズの気泡を浮力で確実に取り除くことができる。なお、貯液タンク5の容量としては、0.5〜10L程度にすることができる。
【0068】
ところで、ストークスの式にあてはめると、気泡の上昇速度Vは、気泡直径が20μmの場合、V=0.243mm/secとなり、気泡直径が10μmの場合、V=0.06mm/secとなり、気泡直径が1μmの場合、V=0.0006mm/secとなる。
【0069】
例えば内径100mmの円筒形状のタンクの場合、20μmの気泡が水と完全に分離するためには、気泡上昇速度から、気泡は10分(600秒)放置で0.243×600=145mm浮上移動するので、タンク底から水面までの距離が145mm以下であれば、20μmの気泡が分離できることになる。この場合、タンク容量は約1Lになる。
【0070】
1μmの気泡の分離について同じように計算すると、10分放置で0.06×600=0.36mm、1時間放置で2.16mm、24時間放置で51mm、気泡が上昇することになる。
【0071】
したがって、ナノサイズを超える大きさの気泡(1μm以上の気泡)は、D(深さ)<V(気泡上昇速度)×T(静置時間)となるように圧力保持容器30の深さDを設定したり、T(静置時間)>D(深さ)/V(気泡上昇速度)となるように圧力保持容器30内で気液混合液を静置する時間Tを設定したりすることによって取り除くことができるものである。
【0072】
大気圧まで減圧された気液混合液は、貯液タンク5の下部に設けられ、取出弁7aと取出流路7bとから構成された液体取出部7により外部に取り出される。この取出弁7aは貯液タンク5を密閉状態にして貯液する際には閉じられており、気液混合液を外部に取り出す際に開かれる。そして、気液混合液は取出流路7bを通って吐出口から外部に取り出される。
【0073】
上記のように構成された気液混合液生成装置にあっては、液体供給源から送られた液体に、気体供給部2で気体を供給して注入する。そして、気体が注入された液体を、加圧混合部1によって0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP1/t(ΔP1:圧力増加量、t:時間)で加圧し、液体の圧力を0.15MPa以上にする。すなわち、加圧混合部1から貯液タンク5へ送り出される際の液体の圧力は0.15MPa以上になっている。その後、貯液タンク5内で気液混合液中のナノサイズを越える気泡を取り除いた後、該液体を圧力調整部4の圧力調整により最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)で徐々に大気圧まで減圧する。それにより、ナノサイズの気泡が安定に存在した気液混合液を生成することができるものである。
【0074】
図6は、気液混合液生成装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。この気液混合液生成装置は、図1の装置に加えて、貯液タンク5の下部に圧力調整部4として液体排出部8が設けられている。また、圧力保持部3は加圧混合部1の後段に設けられている。その他の構成は図1の装置と同じである。
【0075】
液体排出部8は、開閉により気液混合液の一部(又は全部)を外部に排出して貯液タンク5内の圧力を調整する排出弁8aと、圧力調整に用いられた気液混合液を外部に排出する排出流路8bとにより構成される。そしてこの装置にあっては、図1の装置と同様に、加圧状態の気液混合液を生成して貯液タンク5に貯液した後、液体排出部8で気液混合液を徐々に排出しながら貯液タンク5内の圧力を調整して、気液混合液の圧力を最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP2/t(ΔP2:減圧量、t:時間)で大気圧まで減圧する。この装置によれば、減圧を気液混合液の排出により行うことができるので、タンク上部の気体が急激に発散して気液混合液の圧力が急減圧するようなことなくタンク内の圧力を容易に徐々に低下させることができ、ナノサイズの気泡の崩壊を防止することができるものである。減圧した気液混合液は液体取出部7から外部に取り出すことができる。
【0076】
なお、気体排出弁34を減圧開閉弁33として機能させたり気体排出弁34とは別に減圧開閉弁33を設けたりして、圧力調整部4を液体排出弁8と減圧開閉弁33とで構成して気液混合液の減圧の際の圧力調整を行うこともできる。また、液体取出部7と液体排出部8とを兼用し、液体を排出する流路を一つにして、液体取出部7で圧力を調整して気液混合液を減圧してもよい。その場合、装置構成が簡単になる。
【0077】
図7は、気液混合液が安定化されるメカニズムを説明する概念説明図である。図示のように、気泡Bと液体Lqの界面には水素結合距離が通常よりも短い氷やハイドレートのような強固な水分子の結合で境膜構造(結晶構造体)の保護膜Mが形成されており、気液相互の物質移動が阻止されて気泡が安定な状態になったものと考えられる。そして、窒素、メタン、アルゴンの気液混合液内の気泡(ナノバブル)の内圧は、ヤングラプラスの式から求められる圧力よりも約2倍以上である。このように気泡界面の水素結合距離が短く、気泡の内圧が高くなることによって、気泡が安定した気液混合液となるものである。
【0078】
本発明により生成される気液混合液は、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン、アルゴンなどの気体を微細な気泡として液体中に保持するものであり、これらの気体を高濃度で安定に液体中に存在させることができるので、環境分野、製造・産業分野、エネルギー分野、農林水産分野、食品分野、家庭用分野、医療分野や、その他の各種の分野において利用することができるものである。
【0079】
例えば環境分野では、海、河川、湖、池、ダム湖等の閉鎖水域に、酸素が気泡となって高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、水域における酸素存在量を高めて水浄化を行なうことができるものであり、同様に浄化槽、下水道施設、し尿処理施設において、酸素供給に利用することができる。また土壌への酸素供給によって有害物質や油汚染等を処理することができる。
【0080】
製造・産業分野では、酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を噴射や浸漬することによって、精密部品の洗浄などに利用することができる。また、工場排水処理施設に、酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、酸素量の向上による排水処理を行なうことができ、あるいはオゾンの気泡が高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、排水をオゾン処理することができる。また食品工場での発酵食品の発酵と培養促進のための、酸素供給に利用することができる。また業務用浴場、プール、水族館等の循環水ろ過システムへの酸素やオゾンの供給に利用することができ、工場の塗装工程循環水、工場の洗浄工程循環水、冷却循環水への酸素やオゾン供給による浄化に利用することができる。さらに工場等で発生した有毒ガスを気泡として水に混合させることにより気液混合液を生成して、この高濃度の有毒ガスが存在する気液混合液を処理することにより有毒ガスを処理することもできる。
【0081】
エネルギー分野では、天然ガス、メタン、ブタン、エタン、プロパン等の炭化水素、酸素、窒素、水素、オゾンなどを気泡として液体中に存在させることにより、これらの気体を安定して高濃度に保持することができる。そして、このような気液混合液を冷却又は圧縮するなどして固形化又はスラリー化することによりガスハイドレートを生成し、このガスハイドレートにより、ガスの運送、生鮮食料品の保存と運搬、植物栽培、炭酸飲料への利用や、燃料としての利用を図ることができる。
【0082】
農林水産分野では、農業排水、水産排水、畜産排水に酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、酸素存在量を向上させて水浄化や汚物の浮上分離に利用することができる。また酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を農業用水や水産用水として用いることによって、植物の発芽促進や成長促進、魚介類の成長促進を図ることができる。さらに生簀に高濃度で酸素の気泡が存在する気液混合液を供給することによって、活魚輸送などの際の酸素供給を行なうことができる。また、農業廃水処理にも利用することができる。
【0083】
食品分野では、酸素や二酸化炭素などの気泡が存在する気液混合液を食品加工水や食品洗浄水として利用することができ、また、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性気体の気泡が存在する気液混合液を用いて食品の腐敗防止などに利用することができる。
【0084】
家庭用分野では、生活排水の浄化槽などに酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を供給することによって、酸素量の向上による排水処理を効率良く行なうことができる。また二酸化炭素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を浴槽に供給することによって、炭酸ガス風呂を形成することができる。また、気液混合液を飲料用に、美容用に利用することができる。
【0085】
医療分野では、酸素の気泡が高濃度で存在する気液混合液や、二酸化炭素の気泡が高濃度で存在する気液混合液を、飲料用、癌治療用、結石破壊用などに利用することができる。
【0086】
その他の分野では、飲料用の酸素水、飲料用の炭酸水として気液混合液を利用することができる。さらに殺菌用、脱色用、脱臭用、有機物分解用など多分野で使用されるオゾン水として気液混合液を利用することができる。
【0087】
そして、本発明の気液混合液生成装置は、上記のような各種の分野に用いられる気液混合液を生成する装置として利用することができるものであり、家庭用の機能水生成装置として利用することもできるし、工業用に気液混合液を製造する装置(気液混合液製造装置)として利用することもできる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0089】
図8は、気液混合液生成装置の具体的な形態の一例である。図8では装置の内部が見えるように、(a)では上側の、(b)では前側のハウジング10を除去して図示している。
【0090】
この気液混合液生成装置Aは、気体供給部2がエゼクタ35で、加圧混合部1がポンプ11で、圧力保持部3が逆流防止弁32で構成されている。圧力調整部4は減圧開閉弁33で構成され、減圧開閉弁33には外部と連通する緩減圧管14が設けられている。気体排出弁34には気体用ホース15が取り付けられている。ポンプ11は、図2で示すようなポンプ11aが用いられており、モーター16の回転により駆動するように構成されている。流路6と取出流路7bとはいずれも液体用のホースで形成されている。流路6の上流側の先端には水道配管にホースを取り付けるための取付金具13が設けられている。そして、エゼクタ35、逆流防止弁32、ポンプ11、モーター16、減圧開閉弁33、気体排出弁34、貯液タンク5、及び流路6の一部がハウジング10に収容されている。この気液混合液生成装置Aは、水に空気などの気体を注入して気液混合水を生成することができ、生成した気液混合水は飲料用などの水として使用することができる。
【0091】
以下、装置構成の詳細を示す。
【0092】
モーター16: AC100Vインダクションモーター
ポンプ11: ベーンポンプ
貯液タンク5: 貯水タンク、1MPa耐圧、容積1L密閉タンク(SUS314)
気体排出弁34: 逃がし弁(0.5MPa以上で開放)
緩減圧管14: 内径1mm、長さ1mmの細管(圧縮された気体を緩やかに抜き減圧する管)。
【0093】
図8の装置を用いて、液体として純水を用い、気体として後述する各種の気体を用い、気液混合液を生成した。以下に装置の動作の様子を示す。
【0094】
初期状態は
・減圧用開閉弁33は閉状態
(貯水タンク5内を0.5MPaに維持する設定)
・ポンプは停止
・取出弁7a(取り出し用バルブ)は閉状態
とした。
【0095】
気液の混合
(1)水道配管を開いた。これにより水が装置に入った。
(2)装置に水が入ったことを検知して、モーター16によりポンプ11を駆動させた。
(3)水がエゼクタ35を通過する際に気体が吸引され、気体が液体に注入された。
(4)ポンプ11で水と気体とを圧力0.5MPaの条件で混合してナノサイズの気泡を液体中に生成した。気液混合の条件は次の通りである。
【0096】
・ポンプ11の回転数: 1700rpm
・水の流量: 6L/min
・気体の吸気量 6L/min
・ポンプ11の入口の圧力: 0.1MPa
・ポンプ11の出口の圧力: 0.6MPa
・加圧速度: ΔP1/t=28.3MPa
(5)生成した気体混合液を貯液タンク5に貯液した。タンク内の圧力を気体排出弁34により0.6MPaに維持した。
(6)タンクが満杯になったことを検知してポンプ11を停止した。このとき、タンク内は0.6MPaで維持された。
(7)0.5秒以上経過させた。
(8)減圧用開閉弁33を開放して緩減圧管14で徐々に減圧した。減圧速度の条件は、
減圧速度: ΔP2/t=−5MPa
とした。
【0097】
なお、減圧時間の条件として、0.6MPaから大気圧0.1MPaに戻す時間が、0.5秒以上であれば、ナノサイズの気泡がマイクロサイズに成長したり合体したりしないことが判明した。ナノサイズの気泡を含む気液混合液は無色透明であるが、気泡が成長や合体してマイクロサイズになると白濁するので判別できる。
(9)タンク内が大気圧まで減圧したことを検知した後、取出弁7aを開放して気液混合水を取り出した。
【0098】
次に、上記により生成した気液混合液の物性について説明する。
【0099】
[水素結合の距離]
図9は、気体として窒素を用い、液体として純水を用いた気液混合液(窒素混合水)と、窒素が純水に飽和溶解濃度で溶解した窒素飽和水との赤外吸収スペクトルとの差分を示すグラフである。水のOH収縮振動による赤外吸収帯としては通常3400cm−1付近に吸収極大があることが知られているが、グラフに示されるように本発明の気液混合液はOH収縮振動の吸収極大が3200cm−1付近にずれている。吸収極大が3400cm−1にある場合、水素結合の距離は0.285nmである。一方、吸収極大が3200cm−1にある場合、水素結合の距離は0.277nmであることが知られており、常温常圧下における通常の水素結合の距離よりも短くなり構造化された氷またはハイドレートに近い水と結論づけられた。
【0100】
[気体量]
液体として純水を、気体として窒素、水素、メタン、アルゴン、二酸化炭素のいずれかを用いた気液混合液中に気泡として存在する気体量を次の方法により測定した。
(1)25℃、導電率0.1μS/cmの純水に、各種の気体を混合させ気液混合液を得た。
(2)直径1μm以上の大きな気泡を水から分離するために、気液混合液を25℃で1日静置した。なお、静置時間について、ストークスの法則から
気泡上昇速度: V=d2×g/(18×γ)
(d:気泡直径、g:重力加速度、γ:動粘性係数)
の式が成立し、この式より1μmの気泡の上昇速度は約2.4×10−4m/sであるので、例えば静置時の容器の水深が50mmの場合、1日静置すれば気泡を除去することができる。
(3)最小測定値1mgの分析天秤で気液混合液の質量を測定した。
(4)ガス透過度及び透湿度の低いPE+ナイロン樹脂製のビニル袋に気液混合液とスタラーの撹拌子を入れ、空気を追い出して袋に空気が無い状態でシーラーにてビニル袋を密封した。
(5)密封直後に、分析天秤で気液混合液が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(6)ホットスタラーにより25℃の気液混合液が密封されたビニル袋を45℃に昇温して気液混合液を約5時間撹拌した。この昇温と撹拌により、微細気泡や、45℃の飽和溶解濃度以上で溶解していた気体が気液混合液から分離されビニル袋の上部に集まった。
(7)室温25℃の条件でホットスタラーの設定温度を25℃にし、25℃の飽和溶解度の液体になるよう数時間撹拌を行った。
(8)分析天秤で、気体と液体が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(9)計3回の質量測定から気液混合液の質量と、昇温および撹拌によって気液混合液から分離された気体による浮力によって生じる液体の質量変化量とを得た。質量変化量は、気液混合液から分離された気体容積と同容積の空気の質量と同じであり、この値から分離された気体の容量と質量を算出することができる。
【0101】
図10は、このようにして測定された気体容量を示すグラフである。各棒グラフの下部領域は、測定された気泡として存在していた気体の量であり、上部領域はヘンリー則に従う気体の飽和溶解量である。グラフに示すように、例えば水素と水を用いた気液混合液の場合、25℃の純水1Lに水素が、飽和溶解量として17.6mL溶解し、528mLの気体が微細な気泡として存在することが確認された。すなわち、気液混合液に含有する気体量は過飽和溶解量の30倍であった。また同様に、過飽和溶解量に対して気液混合液に含有する気体量は、窒素では36倍、メタンでは17倍、アルゴンでは16倍、二酸化炭素では1.9倍であった。このように、気液混合液は飽和溶解濃度以上の高濃度で気体を液体中に保持することが可能であり、この高濃度の気液混合液を各種の分野に利用することができるものである。
【0102】
[気泡のサイズ]
上記と同様にして生成した気液混合液を瞬間凍結し、真空中においてカッターで割断し、その割断面にメタン・エチレンを流し放電させ、凹凸を転写した炭化水素膜(レプリカ膜)を作製した。このレプリカ膜に導電性オスミウム薄膜を張り、十分乾燥させて、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した。
【0103】
図11は、窒素と純水の気液混合液について、SEMにより観測された写真の一例である。同様に写真観察することにより、気体として窒素、水素、メタン、アルゴン、二酸化炭素を用いた場合、いずれも気液混合液の気泡サイズは、直径の分布ピークが100nmであることが確認された。なお、上記の気体と純水の気液混合液の気泡はレーザーを用いた動的散乱法等の粒子径分布測定装置では正確な検知ができなかった。
【0104】
[気泡の内圧]
気液混合液中の気体総量から気泡内部の圧力を算出した。表1は、窒素、メタン、又はアルゴンと25℃の純水との気液混合液における、気体総量と、気体総量から算出した気泡の内圧を示している。
【0105】
気泡における気体の内部圧力は次の方法で算出される。
気体の状態方程式は、
PV/T=(const)
(P:内部圧力、V:容積、T:内部温度)
で表され、Tが一定の場合、特に
PV=(const)
で表される。
【0106】
そして、気液混合液の密度から気液混合液中の気泡の容積が計算でき、上式から、
大気圧 × 気体総体積量 = 気泡の内圧 × 液中の気体総体積量
の関係が成立し、この関係式に上記で測定した気体量を当てはめて気泡における気体の内圧が計算され、表1のような圧力値となる。
【0107】
例えば気体が窒素の場合、
気液混合液1リットル中における、水体積がw1リットル、水中での気体体積がw2リットルであると仮定すると、
体積については次の関係式が成り立つ。
【0108】
w1 + w2 =1リットル (式A)
また、質量については次の関係式が成り立つ。
【0109】
w1 × 水の密度 + w2÷22.4(リットル)×28(窒素分子量)=測定質量 (式B)
水の密度 :常温常圧の純水では997.1g/L
22.4リットル :気体1モルの体積
測定質量 :表1の値で988.3
上記の2式(式A,B)の方程式を解くと、
w2=8.84×10^(-3) が算出されるので、
気体の内圧=大気圧 × 気体総体積量 ÷ 液中の気体総体積量
=0.1×(表1の値)÷w2
=0.1×0.56÷(8.84×10^(-3))
=6.3MPa
となる。
【0110】
なお、上記の計算では、気泡の内部温度が一定(常温)であるとして考えたが、実際の気泡の内部温度は大気の温度(常温)よりも高いことも予想され、その場合、気泡の内部圧は上記算出結果より更に高いことが気体の状態方程式から予測できる。
【0111】
ところで、一般には、気泡の内圧は次のようにして算出される。気泡は気液相界面間の界面張力により加圧され、この界面張力はヤングラプラスの式(下記式)で導かれる。
【0112】
ΔP=2σ/r
(ΔP:上昇圧力、σ:表面張力、r:気泡半径)
この式によれば、例えば、直径100nmのサイズの気泡の場合、気泡内部圧力は3MPaになる。
【0113】
一方、気液混合液中の内部圧力は、表1の通り、例えば窒素の場合6.3MPaであり、この気液混合液はSEM写真にて示されるように直径100nmサイズの気泡が分散しているものであることから、気液混合液の気泡は、ヤングラプラスの式から算出される値の約2倍以上の内部圧力を有していることが確認された。したがって、より強固な界面構造が気泡界面において形成されていると結論づけられた。
【0114】
【表1】
【0115】
[気泡の分布量]
気泡の分布量(個数)は表1から算出した。
【0116】
気体が窒素の場合、大気中(0.1MPa)に戻した気泡総量が0.56Lであり、気泡の内圧が6.3MPaであるので、水中での気泡総体積量V1は、等温変化と仮定し、PV=constより
V1=0.56×0.1÷6.3
となる。
【0117】
また、気泡は半径r=50nmの球体であるから、気泡1個当たりの体積V2は
V2=4/3×π×r^3
となる。
【0118】
以上より、水1L当たりの気泡の個数n=V1÷V2=1.7×10^16個と算出される。
【0119】
同じように水1L当たりの気泡の個数は、気体がメタンの場合は1.8×10^16個、アルゴンの場合は1.7×10^16個と算出される。
【0120】
[気液混合液の安定性]
図12は、空気を純水に混合させて生成した気液混合液について、ガラスビンに密封し一定温度で保管した場合の、飽和溶解濃度に対する気液混合液中の気体存在量比を過飽和度として表示するグラフである。グラフから、過飽和度は400時間経過してもほぼ一定であり、ほとんど変化していないことが分かる。よって、気液混合液が安定であることが確認された。
【符号の説明】
【0121】
1 加圧混合部
2 気体供給部
3 圧力保持部
4 圧力調整部
5 貯液タンク
6 流路
7 取出部
8 液体排出部
11 ポンプ
12 ベンチュリ管
21 回転体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に気体を供給し、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合し、液体の圧力を0.15MPa以上にすることによりナノサイズの気泡を形成して加圧状態の気液混合液を生成し、生成した気液混合液を加圧状態を維持したまま密閉状態で貯液タンクに所定量貯液し、貯液タンクに貯液された気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧することにより、ナノサイズの気泡が液体に混合された気液混合液を生成することを特徴とする気液混合液の生成方法。
【請求項2】
ポンプにより液体を加圧し混合することを特徴とする請求項1に記載の気液混合液の生成方法。
【請求項3】
ポンプが、回転体を用いて液体を剪断しながら加圧し混合するものであることを特徴とする請求項2に記載の気液混合液の生成方法。
【請求項4】
ベンチュリ管により液体を加圧し混合することを特徴とする請求項1に記載の気液混合液の生成方法。
【請求項5】
液体に気体を供給する気体供給部と、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合して液体の圧力を0.15MPa以上にすることにより加圧状態の気液混合液を生成する加圧混合部と、加圧混合部で生成した気液混合液を密閉状態で貯液する貯液タンクと、気液混合液の加圧状態を維持する圧力保持部と、貯液タンクに貯液された気液混合液の圧力を調整する圧力調整部とを備え、圧力調整部は、貯液タンクに貯液された所定量の気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧するように圧力調整することを特徴とする気液混合液生成装置。
【請求項6】
圧力保持部は、加圧混合部の前段又は後段の液体を送り出す流路に設けられ、気液混合液が所定量生成して加圧混合部の駆動が停止したときに、気液混合液の加圧状態を維持することを特徴とする請求項5に記載の気液混合液生成装置。
【請求項7】
圧力調整部は、貯液タンクに貯液される加圧状態の気液混合液の圧力を、少なくとも加圧混合部が駆動する間、一定に維持することを特徴とする請求項5又は6に記載の気液混合液生成装置。
【請求項1】
液体に気体を供給し、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合し、液体の圧力を0.15MPa以上にすることによりナノサイズの気泡を形成して加圧状態の気液混合液を生成し、生成した気液混合液を加圧状態を維持したまま密閉状態で貯液タンクに所定量貯液し、貯液タンクに貯液された気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧することにより、ナノサイズの気泡が液体に混合された気液混合液を生成することを特徴とする気液混合液の生成方法。
【請求項2】
ポンプにより液体を加圧し混合することを特徴とする請求項1に記載の気液混合液の生成方法。
【請求項3】
ポンプが、回転体を用いて液体を剪断しながら加圧し混合するものであることを特徴とする請求項2に記載の気液混合液の生成方法。
【請求項4】
ベンチュリ管により液体を加圧し混合することを特徴とする請求項1に記載の気液混合液の生成方法。
【請求項5】
液体に気体を供給する気体供給部と、気体が供給された液体を0.17MPa/sec以上の加圧速度で加圧しながら液体と気体とを混合して液体の圧力を0.15MPa以上にすることにより加圧状態の気液混合液を生成する加圧混合部と、加圧混合部で生成した気液混合液を密閉状態で貯液する貯液タンクと、気液混合液の加圧状態を維持する圧力保持部と、貯液タンクに貯液された気液混合液の圧力を調整する圧力調整部とを備え、圧力調整部は、貯液タンクに貯液された所定量の気液混合液の圧力を、2000MPa/sec以下の減圧速度で大気圧まで減圧するように圧力調整することを特徴とする気液混合液生成装置。
【請求項6】
圧力保持部は、加圧混合部の前段又は後段の液体を送り出す流路に設けられ、気液混合液が所定量生成して加圧混合部の駆動が停止したときに、気液混合液の加圧状態を維持することを特徴とする請求項5に記載の気液混合液生成装置。
【請求項7】
圧力調整部は、貯液タンクに貯液される加圧状態の気液混合液の圧力を、少なくとも加圧混合部が駆動する間、一定に維持することを特徴とする請求項5又は6に記載の気液混合液生成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図11】
【公開番号】特開2011−88076(P2011−88076A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243698(P2009−243698)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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