説明

気液相反応器装置

【課題】気相と液相の両方を伴う反応を行うのに有用な反応器装置を提供する。
【解決手段】反応容器の上方部分(ヘッドスペース領域)に配置されたスリンガーを含む気液相反応器装置。スリンガーは、反応器容器のまわりに液体を効果的に分配する、湾曲した形状で外側へ放射状に延びる複数の垂直に立った羽根を含む上方水平面を含む。気液相反応器装置を用いて酸化反応を行う方法も開示する。開示された反応器装置および方法は広範囲の用途を有するが、テレフタル酸の製造に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液相反応器装置および気液相反応を行う方法に関する。そのような反応は、液相反応媒体中の芳香族アルキル(たとえばp−キシレン)の酸化のように、同一の反応容器内に液相および気相成分の両方を含む。
【背景技術】
【0002】
気液相反応器装置は当技術分野においてよく知られており、典型的には所望により付属装置を備えた反応容器を含む。撹拌装置を含む反応容器は時には「撹拌槽型反応器」または単に「STR」とも呼ばれ、そして酸素含有気体スパージャーを含むものは「液相酸化反応器」または「LOR」と呼ばれる(たとえば米国特許第5,108,662号明細書および米国特許第5,536,875号明細書参照)。そのような反応器装置は、一般に、液相成分と気相成分の間の密な接触が必要な、発酵、水素化、ホスゲン化、中和、塩素化および酸化反応に用いられる。液相成分と気相成分の間の物質移動を向上させるために、多くの場合、反応容器の中に撹拌装置が含まれる。たとえば、2001年6月14日に公開されたケイ・カー(K. Kar)およびエル・ピラス(L. Piras)の国際公開第01/41919号には、気相成分と液相成分の混合を向上させるために、通風管および軸羽根車と遠心羽根車の組合わせからなる撹拌装置を含む気液相反応器装置が記載されている。同様に、2006年1月10日に発行されたエイ・グナグネッチ(A. Gnagnetti)、ケイ・カーおよびエル・ピラスの米国特許第6,984,753号明細書には、軸羽根車の先端の近くのノズルを通して酸素含有気体が散布される、下降ポンプ様式で作動する軸羽根車(たとえばピッチ羽根タービン)と組み合わせた複数の放物線形状の羽根(たとえばバッカータービン(Bakker Turbine)BT6型)を有する気体分散遠心羽根車を含む撹拌装置を装備した反応容器内でジメチルベンゼンを酸化するための気液相反応器装置が記載されている。1つの実施態様において、p−キシレン、酢酸、触媒(すなわちコバルトおよびマンガン)および開始剤(臭化物イオン)の液相反応媒体を通して、空気が散布される。発熱酸化反応によって発生した熱は、溶媒、およびp−キシレンの酸化によって生成した水(すなわち「反応水」)の蒸発によって消散する。反応容器中の温度は、溶媒および反応水の蒸発によって、ならびに塔頂蒸気の凝縮液流れの再循環によって制御される。容器内の反応条件は、通常、約180〜205℃および約14〜18バールの圧力に維持される。未精製のテレフタル酸は結晶化および濾過によって反応生成物流出液から回収される。
【0003】
リー(Lee)の米国特許第5,102,630号明細書には、蒸発した溶媒および反応水が反応器から塔頂の凝縮器装置に上昇し、凝縮器装置において蒸気の少なくとも一部が凝縮し反応容器の塔頂から導管を通って反応容器に戻される、類似の反応器装置および酸化反応が記載されている。フーバー(Huber)らの米国特許第5,099,064号明細書は、凝縮液から溶媒の多い部分を分離するための分離装置と凝縮器が組み合わされ、溶媒の多い部分は、その後、新しい液体供給蒸気と混合され、反応容器内の液位より下の位置の反応容器の下部または底部に再度導入される、類似の方法を開示している。同様に、フースリー(Housley)らの米国特許第6,949,673号明細書には、流出スリンガーを通して反応容器のヘッドスペースに凝縮液を戻し、および/または別個の供給ラインを通して容器中の液位より下の位置で液相反応媒体に凝縮液を戻し、または既存の供給流れに混合することによって液相反応媒体に凝縮液を戻すことができる改良された装置が記載されている。
【0004】
多くの気液相化学反応は固相反応生成物を発生させる。たとえば、酢酸中のp−キシレンの接触酸化は、テレフタル酸の結晶を生成し得る。工業規模反応器装置においては、テレフタル酸結晶の大部分は液相中に浮遊したままである。しかし、結晶が反応容器の壁に堆積(「壁汚損」)したり、上昇する蒸気中の他の固体の破片と共に結晶が浮遊して運ばれ、凝縮器入口の閉塞(「凝縮器閉塞」)をもたらす場合がある。これらの問題の多くは2004年11月25日に公開された米国特許出願公開第2004/0234435号明細書に記載されている。
【0005】
凝縮液を分配し反応容器に戻すスリンガーを使用すると、壁汚損および凝縮器閉塞の両方を減少させることができるが、従来のスリンガーのデザインはわずかな改善を提供するにすぎない。たとえば、そのような用途に用いられる従来のスリンガーは、回転する平らな円盤と、円盤の中心ハブからその外周まで外側へ放射状に延びる、複数の垂直に立った真っすぐな羽根を含む。スリンガーは、容器の上方の「ヘッドスペース」部分の中に配置される。凝縮液は、回転するスリンガーの上方に配置した導管を通して容器に戻される。凝縮液はスリンガー上に供給され、次いで外側へ放射状に容器のまわりに「投げられ」すなわち分配される。このスリンガーの1つの欠点は、大部分の凝縮液は容器の限られた断面積にしか分配されず、実際に反応器の壁に達する凝縮液はほとんどないことである。第二の欠点は、液体は微細に分かれた液滴ではなく大きな液滴で分配される傾向があることである。結果的に、そのような装置は、壁汚損、凝縮器閉塞、および凝縮液と液相反応媒体の不十分な混合の問題がある。さらに、本発明者らは、前述のスリンガーが、液位より下の位置にある液体注入口を通して(たとえば入って来る新しい液体反応媒体とともに)凝縮液を容器に戻すのと比較して、発熱反応によって発生した熱を消散するのにそれほど有効ではないことを見いだした。たとえば、発熱を伴う芳香族アルキルの酸化の場合は、反応によって発生する熱の多くは、液体反応媒体の中央部分に集中する。これらの「ホットスポット」は、望ましくない反応、溶媒の消費および蒸気生成の増加をもたらし、それらはすべて、より高い運転費用およびより低い効率に寄与する場合がある。本発明者らによるさらなる研究は、容器中の液位より下にある液体供給ラインを通して、たとえば新しい液体反応媒体の導入のために用いられる供給ラインに凝縮液を戻すのと比較して、そのようなスリンガーの使用は凝縮液と液相反応媒体の混合にそれほど有効でないこともまた実証した。
【0006】
上述のスリンガーは、気液相反応器装置に用いられるような液体の分配に関係する。スリンガーは、また、砂と他の固形物の混合に関するもののような非類似技術にも用いられる(たとえば、米国特許第4,453,829号明細書および米国特許第4,808,004号明細書参照)。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの実施態様は、反応容器、液体注入口およびスリンガーを含む気液相反応器装置である。スリンガーは、液体(たとえば新しい原料、凝縮液など)を反応容器に効果的に分配する、外側へ放射状に湾曲した形状で延びる複数の垂直に立った羽根を含む上方水平面からなる。さらに別の実施態様において、本発明は、気液相反応器装置内で有機反応物を酸化する方法である。他の実施態様も開示される。本発明が、気相と液相の両方を伴う反応(たとえば発酵、水素化、ホスゲン化、中和、塩素化)を行うのに広い有用性を見いだすが、本発明は、p−キシレンのような芳香族アルキルの酸化に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は気液反応器装置の1つの実施態様の概略図である。
【図2】図2は本発明のスリンガーの1つの実施態様の透視図である。
【図3】図3は本発明のスリンガーの別の実施態様の透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、気液相反応器装置および気液相反応器装置内で有機反応物を酸化する方法を含む。反応器装置は、反応容器を含む。反応容器は、本明細書において、単に「容器」または「反応器」ともいう。容器それ自体は、本発明にとって特に重要でなく、多くの沸騰型反応器形態からなることができる。たいていの反応装置の場合のように、化学プロセスの性質が、容器および付属装置の形態および建設材料を決定するであろう。たとえば、非常に腐食性の化学プロセスでは多くの場合ステンレス鋼またはチタン材料が用いられるが、非腐食環境には炭素系鋼鉄が適用できる。ほとんどの用途では、容器は、ヘッドスペース領域に対応する上方部分と容器内の液相反応媒体の液位に対応する下方部分が垂直に配置された円筒のような円形断面を含む。
【0010】
本発明のいくつかの実施態様のさらなる説明を容易にするために、ここで、図1について言及する。図1は気液相反応器装置の単純化された概略図であり、気液相反応器装置は通常10で示される。装置10は、内径「T」、上方部分12および下方部分14を有する垂直に配置された円筒状の形態を有する容器11を含む。容器11が液相反応媒体16を含むことが示されており、液相反応媒体は、典型的には、溶媒、1種以上の反応物、ならびに恐らく触媒および他の成分を含む。液相反応媒体16は、溶解した気体と共に、浮遊固形物、分散体および混ざらない液体の組合わせを含んでもよい。図1の目的のためには、上方の液位18は容器の上方部分12と下方部分14の境をなす。
【0011】
本発明のすべての実施態様に必要ではないが、図1の反応器装置は、上方部分12から下方部分14まで容器11の軸に沿って延びる駆動軸20を含む撹拌装置を含む。軸は、好ましくは、垂直に、そして容器内の中心に配置される。容器11の外に配置した従来のモーター22によって動力を駆動軸20に供給することができる。駆動軸20は、典型的には、円形断面を有する円筒状であるが、他の形態、たとえば多角形、楕円などを用いてもよい。撹拌装置は、容器11の下方部分14において、駆動軸20に固定された上羽根車24および下羽根車26を含む。2つの羽根車が示されているが、1つ、2つまたはそれ以上の羽根車が一般に用いられ、それらが本発明に適用できる。一般的なものだけが示されているが、様々な特定の型の羽根車が、当技術分野において普通に用いられ、それらは本発明の種々の実施態様に適用できる。たとえば、米国特許第6,984,753号明細書には、非対称の遠心羽根車と軸羽根車の組合わせ(たとえば、上方のピッチブレード羽根車(pitched blade impeller)と、各羽根は上方の弧がその底部の弧より長い、円盤から放射状に延びる、複数の放物線状の羽根を含む、下方の遠心羽根車)を含む撹拌装置が記載されている。この種の撹拌装置は下向流式(downward pumping mode)で作動し、本発明のいくつかの実施態様に適用可能であり、そして引用によってここに組み入れられる。図2に関してより詳細に記述するように、反応装置10は、容器11の上方部分12において駆動軸20に固定された直径「D」を有するスリンガー28をさらに含む。したがって、一本の駆動軸20がスリンガー28と混合羽根車24/26の両方を作動させることができる。
【0012】
容器11は、凝縮器32と流体が流れるように連結された蒸気出口30を含み、凝縮器32は次に第一の液体注入口34および第二の液体注入口36を通して容器11と流体が流れるように連結されている。凝縮器32は、典型的に、容器11の外に配置される。第二の液体注入口36は、液位18より下の位置で容器11に入る前に連結バルブ「V」に、新しい液体反応媒体注入口38と流体が流れるように連結されていることが示されている。2つの液体注入口34/36を含むことが示されているが、本発明のいくつかの実施態様は、凝縮器32(または新しい液体供給原料のような他の液体供給源)からの第一の液体注入口34のみを必要とする。他の実施態様は、容器11の液位より下の位置で液体注入口を通して、新しい液体反応媒体の供給原料と混ぜ合わせてまたは混ぜ合わせずに、容器に凝縮液が戻される形態を含む追加の注入口を有する。蒸気出口30、第一の液体注入口34および第二の液体注入口36、新しい液体反応媒体38、連絡配管および圧力弁(単に概略的に示される。)ならびに凝縮器32は、特定の化学プロセスに適用されるように、当技術分野において従来から用いられているものから選択することができる。図示されていないが、凝縮器は、溶媒ストリッパー、蒸留装置および/または蒸気成分を凝縮し分離するための他の従来からある分離装置などの他の単位操作と組み合わせまたは結びつけてもよい。1つの実施態様においては、溶媒の多い相は容器に戻されるが、溶媒の少ない相は廃棄物処理に送られる。廃棄物処理は、触媒回収などの付加的な単位操作を含んでもよい。非凝縮性成分は、放出され、および/またはガス精製装置、焼却炉およびガスエキスパンダーのような付加的な単位操作に送られてもよい。
【0013】
反応器装置は、容器への凝縮液の流れを制御するために凝縮液制御手段39を含んでもよい。そのような流体制御手段は当技術分野においてよく知られており、手動で制御できる、または所望により内部操作温度、供給量、壁汚損などのような操作条件に基づいて流れの量および方向を調節するためにコンピューターのような制御機構に連結することができる弁を含んでもよい。より具体的には、凝縮液は、液相反応媒体16中で測定されるような容器の内部温度に基づいて液体注入口34と36の間で凝縮液制御手段39によって分割されてもよい。すなわち、容器に戻される凝縮液(「戻される凝縮液」)のより高い割合が、より多くの内部熱を消散するために第二の液体注入口36に向けられてもよいし、あるいは壁汚れまたは凝縮液閉塞が検出される場合は、第一の液体注入口34を通して容器に向けられてもよい。1つの実施態様においては、凝縮液制御手段39は、反応器装置10の至る所に配置され、そして弁(図示せず)を介して凝縮器32からの凝縮液の流れを制御するコンピューター(図示せず)に連結された内部検出器を含む。
【0014】
気体注入口40は容器11内の所望の位置に気体を分配する。本発明のすべての実施態様において必要とされるわけではないが、気体注入口40は酸化反応において一般に用いられ、典型的には下羽根車26の近くの1つ以上の位置に酸素含有気体、たとえば酸素、空気、酸素に富んだ空気などを配達する。容器11内の複数の位置に気体を導入するために複数の気体注入口40を含む、種々の形態が適用できる。気体スパージャー(gas sparger)40は、典型的には、容器への注入口および吐出ノズルあるいは「スパージャー」(図示せず)と共に遠隔の気体貯蔵槽およびポンプ(図示せず)を含む。
【0015】
生成物出口41は、典型的には、容器から反応生成物流出液を取り出すために、容器11の下方部分14に配置される。そのような反応生成物流出液は、多くの場合、スラリー、分散液あるいは乳濁液の状態でいくらかの固形分を含む液体からなる。
【0016】
図2は、本発明のスリンガー28の1つの実施態様の透視図を示す。スリンガー28は、通常、円盤状の構造体を含む。円形のものが示されているが、スリンガーは他の形状、たとえば、楕円、直交する形などの形状をとってもよく、ここで、以下、用語「放射状」という場合は、中心の近くの点から外周へ延びることを意味すると理解されるであろう。スリンガー28または上方水平面46に関して用いる用語「中心」は回転軸を取り巻く領域を含むと理解され、それは幾何学的中心と異なってもよい。スリンガー28は、垂直軸「A」のまわりに同心的に配置された中心開口部42を含み、その中に駆動軸20が通される。スリンガー28を駆動軸20に固定するために、ハブ44またはそれに類似した手段を用いてもよい。円形のものとして図示されているが、中心開口部42は代替の形、たとえば楕円、直交する形など、を有していてもよいが、好ましくは駆動軸20の断面形状に一致するものである。スリンガー28は上方水平面46を含む。平らで平滑なものとして図示されているが、その表面は畝、溝または他の形態を含んでいてもよい。ハブ44が上方水平面46の表面の上に配置された状態が図示されているが、ハブ44は、上方水平面46の下などの代替の位置に配置されていてもよい。複数の垂直に立った羽根48すなわち「ブレード」は、上方水平面46の中心から外側へ放射状に湾曲した形状で延びている。各羽根の湾曲した形状は、好ましくは、図2に大きな矢印によって示されるように、(垂直軸「A」のまわりの)回転方向に関して凸状の弧の輪郭を示す。羽根48は、好ましくは、水平面46に垂直な方向に向けられた、均一の高さ「H」および均一の湾曲状態を有する肉薄の構造体である。しかし、羽根48は、それらの長さに沿って高さが変わってもよいし、羽根間で高さが異なってもよいし、傾けられまたは他の方法で上方水平面46に対して垂直でない方向に向けられてもよいし、そして、それらの長さに沿っておよび/または各羽根間で湾曲状態が異なってもよい。羽根48は、上方水平面46の中心に隣接して位置する第一の端50から上方水平面46の外周に隣接して位置する第二の端52まで、外側へ放射状に湾曲した形状で延びている。羽根48の第一の端50は中心開口部42またはハブ44から直接延びていてもよいが、第一の端50は、好ましくは、そこから間隔を置かれており、上方水平面46の中心のまわりに同心的に位置する液体受入れ帯域54の外周の輪郭を定めている。羽根48の第一の端50の縁は水平面46に垂直であってもよいが、垂直である必要がないことに注意されたい。第一の液体注入口34は、好ましくは、液体受入れ帯域54の上方に直接配置され、その結果、凝縮液または容器11に導入される他の液体がスリンガー28の液体受入れ帯域54上に供給される。当然のことながら、液体受入れ帯域54の複数の位置に液体を分配するために、複数の液体注入口が用いられてもよい。平滑な表面として図示されているが、液体受入れ帯域54に相当する上方水平面46の部分は、液体の分配を容易にするために、同心の溝またはそれに類似した構造を含んでいてもよい。液体受入れ帯域54は、上方水平面46の上の、そして特に各羽根48間の、液体の分配を容易にする。
【0017】
図3は、スリンガー28の代替の実施態様を示す。図3の実施態様は図2の実施態様と多くの共通の特徴を共有し、便宜のために、類似の特徴は同一の参照数字で示される。図2とは違って、図3の実施態様は、液体注入口34がその端の近くで曲げられ、液体が駆動軸20の方に向けられるようになっている。また、ハブ(図示せず)は上方水平面46の下に配置されている。図2の実施態様とのさらなる相違は、図3の実施態様が、上方水平面46に隣接する位置から上に延びる垂直な壁からなり、スリンガーの中心のまわりに同心的に配置されたカップ56を含む点である。カップ56は、液体注入口34から液体を受け入れるための開放された上方部分、およびスリンガー28の上方水平面46のまわりに液体を分配するために上方水平面46に隣接して位置する少なくとも1つの開口部58を含む。カップは、液体受入れ帯域54のまわりに部分的な障壁または包囲を提供する。カップ56は、羽根48の第一の端50に固定(たとえば溶接)することができる。カップ56は羽根48とほぼ同一の高さを有しているが、図示された実施態様においては、カップは下方へ上方水平面46まで途中ずっと延びているわけではなく、それにより上方水平面46に隣接する開口部58を形成している。したがって、カップ56の中に導入される液体は、液体受入れ帯域の中に集められ、上方水平面46のまわりに比較的均一の態様で開口部58を通して外側へ放射状に分配される。図示されていない代替の実施態様においては、カップは羽根と異なる高さを有してもよいし、下方へ上方水平面46と接触するところまで延びていてもよい。その場合には、開口部58は、液体が上方水平面46のまわりに外側へ放射状に通過することを可能にするために、カップの垂直壁を貫通する1つ以上の細長い切れ目、孔または他の開口からなるものでもよい。
【0018】
気液相反応器装置において用いられる従来のスリンガーと比較して、本発明の液体受入れ帯域54は、スリンガー28の上方水平面46の大部分のまわりにより多くの液体を分配し、その結果、各羽根48間に液体をより均一に分配する。操作中、スリンガー28の湾曲した羽根48は、容器11の全断面積にわたって改善された液体の分配を提供し、それによって壁汚損を減少させる。さらに、湾曲した羽根48は、より均質な液滴の分配を提供し、次の点を向上させる。
i)容器の中の液相反応媒体との混合、
ii)容器11の上方部分において蒸気の中に浮遊して運ばれた固形物との凝集、および
iii)蒸気との熱および物質移動。
本発明のスリンガーは容器の断面積のまわりに液体を分配するのにより効率的なので、壁汚損および/または凝縮液閉塞の管理に必要な液体の量がより少なくなる。したがって、本発明のいくつかの実施態様においては、容器に導入される液体のかなりの部分は、容器の液位より下に配置された液体注入口に進路を変えることができる。本発明のこの態様は、水性の酸(たとえば酢酸)のような溶媒の共存下で、キシレン(p−キシレン、m−キシレン、o−キシレンおよびそれらの各組合わせを含むが、これらに限定されない。)のような芳香族アルキルの酸化に特に有用であり、それらを総称的に「液体反応媒体」と呼ぶ。そのような反応では、分子酸素源(たとえば酸素含有気体、酸素過酸化物など)が反応容器内の液体反応媒体に導入される。生じる反応は発熱を伴い、発生した熱が反応水および溶媒を蒸発させ、液体反応媒体の液位の上方の容器の上方部分に集められる。蒸気は凝縮されそして少なくとも2つの経路、すなわち容器の上方部分に配置されたスリンガーおよび液体反応媒体の液位より下の容器の下方部分に配置された液体注入口、によって液体反応媒体に戻される。そのような発熱反応は、液体反応媒体内の「ホットスポット」すなわち局在化した高温域を発達させる傾向がある。湾曲した羽根を含む本発明のスリンガーを装備したときは、壁汚損および/または凝縮液閉塞を効果的に減ずるためにスリンガーを通して戻す必要があるのは、容器に戻される凝縮液の50%未満、より好ましくは30%未満である。結果的に、戻される凝縮液の50%超、より好ましくは70%超を、容器の下方部分に配置された液体注入口を通って液体反応媒体の中に導入することができる。すでに述べたように、容器の下方部分に配置された液体注入口経由の凝縮液の導入は、液体反応媒体内の「ホットスポット」を減少させるのにより有効である。したがって、著しい壁汚損または凝縮液閉塞なしで、温度、質量勾配および物質移動係数従属変数のような反応パラメーターの最適化によって、反応装置を一定の化学ポテンシャル状態により近づけることができる。そのような最適化された反応条件下で操作することは、所望の操作温度を維持するのに必要な蒸発の総量を減少させながら、望ましくない反応および溶媒の消費を減少させる。
【0019】
本発明の反応器装置は、主として図に示された好ましい実施態様に関して記述してきたが、当業者は様々な異なる形態もまた適用可能でありかつ本発明の範囲内にあることを認識するであろう。たとえば、米国特許第6,984,753号明細書に記載されたような一般的な装置形態が、芳香族アルキルの酸化のために特に好ましく、引用によってここに組み入れられるが、異なる型の撹拌羽根車、ポンピングモード(すなわち下向流に対して上向流)、気体スパージャー、通風管なども適用可能である。さらに、本発明のいくつかの実施態様は、撹拌装置のようなある種の付属装置を含まない。その場合には、駆動軸は、好ましくは、スリンガーを回転させるために、容器の上方部分に延びているだけである。さらに、駆動軸はスリンガーの中心開口部の中に挿入されていなくともよく、代替手段、たとえば突合せ溶接によってスリンガーの上方水平面に固定されていてもよい。さらなる例として、第一の液体注入口34は凝縮液ではなく新しい液体反応媒体を導入するために用いられてもよい。すなわち本発明の1つの実施態様においては、凝縮器環状回路(30、32、36)は本発明の必須の態様ではない。別の実施態様においては、凝縮液はすべてスリンガー経由で容器11に戻され、第二の液体注入口36を通して戻される凝縮液はない。本発明のさらに別の実施態様においては、分子酸素源として液相酸素過酸化物を利用する酸化反応の場合のように、気体注入口40が含まれていない。その場合には、酸素過酸化物は液体注入口を通して導入することができる。
【0020】
特定の気液相反応器装置の形態は、特定の化学プロセスおよび操業規模に依存するであろう。しかしながら、一般的には、スリンガーは典型的には2〜16枚の羽根を有しているが、好ましくはスリンガーの上方水平面のまわりに等しい間隔を置いて6枚、7枚、8枚、9枚または10枚の羽根を有する。スリンガーは好ましくは直径「D」の円形であり、容器は好ましくは内径「T」の実質的に円筒状であり、D/Tは約0.05〜0.7、より好ましくは約0.1〜0.5である。羽根は、好ましくは、スリンガーの上方水平面から垂直に測定した、均一の垂直高さ「H」を共有し、H/Dは約0.01〜1である。各羽根は、好ましくは、曲率半径「R」および弧の長さ「L」を有する実質的に一定の曲率の湾曲した形状で延び、関係R/Dは約0.01〜1000であり、L/Dは約0.01〜3.14である。好ましい実施態様においては、R/D、L/DおよびH/Dはお互いに同一でもよいし、異なってもよいが、独立して約0.1〜1の間から選択され、より好ましくは独立して約0.1〜0.5の間から選択される。
【0021】
本発明のスリンガーは、従来の材料、たとえば鋼鉄、チタン、プラスチックなどから、従来の製作方法、たとえば鋳造、溶接などを用いて、製作することができる。すでに述べたように特定の建設材料は化学プロセスの性質によって決まるであろう。たとえば、腐食環境は、典型的には、チタンまたはステンレス鋼の使用を必要とするが、非腐食環境は、炭素系鋼鉄のようなより安価な材料を用いる機会を与える。容器の寸法および形態によっては、スリンガーはいくつかの部品から組み立てられてもよく、たとえば部品を一緒にボルトで締めるか溶接することによって、種々の部品が容器内で組み合わせられる。羽根は、好ましくは、容器内で種々の円盤部品の組み立てに先立って、たとえば溶接、ボルト締め、接着剤の使用などによって、スリンガーの上方水平面に固定される。多くの工業規模装置においては、スリンガーは鋼鉄から製作され、羽根はスリンガーの上方水平面に溶接され、そしてスリンガーの種々の円盤部品は容器内でボルト締めされる。スリンガーは、容器内の駆動軸に、ボルトおよび慣用のハブ内の対応する受入れ口を使用して固定される。
【0022】
本発明の気液相反応器装置は、同一の容器内に液相成分と気相成分の両方を伴う広範囲の化学プロセスを行うのに有用である。たとえば、本発明の反応器装置は、発酵、水素化、ホスゲン化、中和、塩素化および酸化反応に、特に芳香族アルキルの酸化に用いることができる。
【0023】
容器の中に存在する気相は、たとえば気体スパージャー経由で外部源から加えられたものでもよいし、直接の反応生成物として発生したものでもよいし、液相反応媒体の一部を蒸発させる反応熱に起因したものでもよい。同様に、容器の中に存在する液相は、たとえば液体注入口経由でのような外部源から加えられたものでもよいし、凝縮によってその場で発生したものでもよいし、p−キシレンの酸化による反応水の生成のような反応の結果として発生したものでもよい。特定の反応のための反応物は、液相、気相またはそれらの組合わせのいずれで容器に導入されてもよい。液相は、典型的には、溶媒、1種以上の反応物、触媒、開始剤などの反応媒体からなる。
【0024】
例として、本発明の反応器装置は、芳香族アルキルの酸化に特に適している。用語「芳香族アルキル」とは、各々1〜4個の炭素原子を有する1つ以上のアルキル基(たとえばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、およびブチル)で置換された芳香環を意味するものである。特定の例としては、限定するものではないが、トルエン、p−キシレン、m−キシレン、o−キシレンおよびトリメチルベンゼンが挙げられ、p−キシレンが好ましい芳香族アルキルである。
【0025】
酸化は、好ましくは、分子酸素源の添加によって遂行される。これは、典型的には、気体スパージャー経由で容器内の液体反応媒体の中に酸素含有気体を導入することによって遂行される。純酸素または高酸素含量空気を用いることができるが、空気が好ましい。他の適用可能な経路としては、液体注入口経由で容器内の液体反応媒体の中に液相酸素過酸化物を添加するものが挙げられる。当業者であれば、他の分子酸素源もまた本発明において使用できることを十分に理解するであろう。
【0026】
好ましい酸化生成物としては、安息香酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸(たとえば1,4−ベンゼンジカルボン酸)、ベンゼントリカルボン酸、トリメリト酸(1,2,4−ベンゼントリカルボン酸)、2,6−ナフタレンジカルボン酸のような芳香族カルボン酸が挙げられる。
【0027】
芳香族アルキルの酸化は、典型的には、安息香酸またはC−C脂肪酸、たとえば酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、n−吉草酸、トリメチル酢酸、カプロン酸およびそれらの混合物のような純粋なまたは水性の酸溶媒の中で行われる。好ましい酸溶媒は酢酸水溶液である。
【0028】
芳香族アルキルの酸化反応は触媒の使用によって促進することができる。たとえば、p−キシレンの酸化は、しばしば、選択された溶媒に可溶の、コバルトおよびマンガン化合物または錯体の混合物によって触媒される。臭化物イオンも開始剤として用いられる。通常の臭化物源としては、テトラブロモエタン、HBr、MeBr(ここで「Me」はアルカリ金属および/またはCoおよび/またはMnから選択される金属である。)、およびNHBrが挙げられる。
【0029】
p−キシレンの酸化は、好ましくは、約180〜205℃の温度で約14〜18バールで、酢酸水溶液中で空気で行われる。
【0030】
本発明は多くの実施態様に関して記述してきた。しかし、特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から外れずに、本発明に修正や変形を加えてもよいことは、当業者であれば当然に理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方部分および下方部分を含む反応容器、
反応容器の上方部分に配置された第一の液体注入口、
反応容器の上方部分の少なくとも一部を通って延びる駆動軸、
外側へ放射状に湾曲した形状で延びる複数の垂直に立った羽根を含む上方水平面を含み、駆動軸に固定され、そして反応容器の上方部分で第一の液体注入口より下に配置されたスリンガー
を含む気液相反応器装置。
【請求項2】
スリンガーが上方水平面の中心のまわりに配置された液体受入れ帯域を含み、そして、羽根が、液体受入れ帯域の外周に隣接して位置する第一の端からスリンガーの外周に隣接して位置する第二の端まで、湾曲した形状で外側へ放射状に延びている、請求項1に記載の反応器装置。
【請求項3】
第一の液体注入口を出た液体が液体受入れ帯域の中に導入されるように、第一の液体注入口が液体受入れ帯域の上方に配置されている、請求項1または2に記載の反応器装置。
【請求項4】
スリンガーが、上方水平面の中心のまわりに同心的に配置され、液体受入れ帯域の少なくとも一部を包囲する垂直な壁からなるカップを含み、カップが上方水平面に隣接して配置された少なくとも1つの開口部を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項5】
スリンガーが中心開口部を含み、駆動軸が中心開口部の中に延びている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項6】
スリンガーの上方水平面が直径(D)の実質的に円形であり、各羽根が曲率半径(R)および弧の長さ(L)の実質的に一定の曲率の湾曲した形状で延びており、関係R/Dが約0.01〜1000であり、L/Dが約0.01〜3.14である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項7】
関係R/DおよびL/Dが互いに同一または異なり、そして各々約0.1〜1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項8】
反応容器が内径(T)の実質的に円筒状であり、スリンガーの上方水平面が直径(D)の実質的に円形であり、そして関係D/Tが約0.05〜0.7である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項9】
スリンガーが上方水平面からの垂直高さ(H)を各々有する2〜16枚の羽根を含み、そして関係H/Dが約0.01〜1である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項10】
反応容器の下方部分に配置された第二の液体注入口、
反応容器の上方部分に配置された蒸気出口、
蒸気出口、第一の液体注入口および第二の液体注入口と流体が流れるように連結された少なくとも1つの凝縮器、および
凝縮器から第一および第二の液体注入口経由で反応容器への凝縮液の流れを制御するための凝縮液制御手段
をさらに含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項11】
内径(T)の垂直円筒状内表面ならびに上方部分および下方部分を有する反応容器、
反応容器の上方部分に配置された第一の液体注入口、
反応容器の下方部分に配置された第二の液体注入口、
反応容器の下方部分に配置された生成物出口、
反応容器の上方部分に配置された蒸気出口、
蒸気出口、第一の液体注入口および第二の液体注入口と流体が流れるように連結された少なくとも1つの凝縮器、
凝縮器から第一および第二の液体注入口経由で反応容器への凝縮液の流れを制御するための凝縮液制御手段、
反応容器の上方部分および下方部分を通って垂直に延びる駆動軸、
駆動軸に固定され、反応容器の下方部分に配置された少なくとも1つの混合羽根車、
直径(D)を有する実質的に円形の上方水平面、中心開口部、中心開口部のまわりに同心的に配置された液体受入れ帯域、液体受入れ帯域の外周のまわりに位置する第一の端からスリンガーの外周に隣接して位置する第二の端まで延び、実質的に均一の高さH、曲率半径(R)の一定の曲率および弧の長さ(L)の湾曲した形状で外側へ放射状に延びる、複数の垂直に立った羽根を含むスリンガー
を含む気液相反応器装置であって、
駆動軸は、中心開口部を通って垂直に延び、そして第一の液体注入口を出た液体が液体受入れ帯域の中に導入されるように第一の液体注入口より下で、反応容器の上方部分中のスリンガーに固定され、
関係R/DおよびL/Dは互いに同一または異なり、各々約0.1〜1であり、
関係D/TおよびH/Dは互いに同一または異なり、各々約0.1〜0.5である、気液相反応器装置。
【請求項12】
上方部分および下方部分を有する容器を準備する工程、
容器の中に芳香族アルキルを含む液体反応媒体を導入する工程、
容器内の液体反応媒体に分子酸素源を導入する工程、
液体反応媒体の上に生成する蒸気の少なくとも一部を凝縮する工程、
凝縮液の少なくとも一部を容器内の液体反応媒体に戻す工程
を含む気液相反応器装置内で芳香族アルキルを酸化する方法であって、
戻される凝縮液の50%超が容器内の液体反応媒体の液位より下の容器の下方部分に配置された液体注入口経由で液体反応媒体に導入され、戻される凝縮液の50%未満が容器内の液体反応媒体の液位より上の反応容器の上方部分に配置されたスリンガー経由で液体反応媒体に導入される、方法。
【請求項13】
戻される凝縮液の70%超が容器の下方部分に配置された液体注入口経由で液体反応媒体に導入され、戻される凝縮液の30%未満が容器内の液体反応媒体の液位より上の反応容器の上方部分に配置されたスリンガー経由で戻される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
スリンガー経由で凝縮液の一部を戻す工程が垂直の軸のまわりに回転しているスリンガーの上に凝縮液を供給する工程を含み、スリンガーが湾曲した形状で垂直の軸から外側へ延びる複数の垂直に立った羽根を含む上方水平面を含む、請求項12および13に記載の方法。
【請求項15】
芳香族アルキルがp−キシレンを含み、液体反応媒体はさらに酢酸を含む、請求項12、13または14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−75292(P2013−75292A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253312(P2012−253312)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2009−529240(P2009−529240)の分割
【原出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】