説明

気相成長装置の清浄度評価方法

【課題】 気相成長装置の清浄度を高感度で評価することができる清浄度評価方法を提供する。
【解決手段】 気相成長装置の清浄度を評価する方法であって、前記気相成長装置を用いて、シリコンウェーハ上に、該シリコンウェーハの厚みに対する割合が20%以上100%以下である厚みを有するシリコンエピタキシャル層を成長させたモニタウェーハを作製し、前記モニタウェーハのライフタイム値を測定し、前記測定したモニタウェーハのライフタイム値から前記気相成長装置の清浄度を評価することを特徴とする気相成長装置の清浄度評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウェーハを作製するために用いる気相成長装置の清浄度を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ中の金属不純物の検出方法として、ウェーハライフタイム(以下、略してWLTと呼ぶことがある。)法がある(例えば非特許文献1参照)。このWLT法の代表的な方法として、マイクロ波光導電減衰法少数キャリアライフタイム法(以下、略してμPCD法)がある。この方法は、例えば試料(基板)に対して光を当てて、発生する少数キャリアの寿命をマイクロ波の反射率の変化で検出することで、試料中の金属不純物を評価するものである。
【0003】
ウェーハ内に金属が取り込まれると、このWLT値が小さくなるため、熱処理や気相成長させたウェーハのWLT値を測定して評価することで、熱処理炉内の金属汚染の管理を行うことができる。つまり、汚染管理用のウェーハを準備して実工程で用いる熱処理炉で熱処理を行い、熱処理後のウェーハのWLT値を測定することで、熱処理炉が金属不純物に汚染されているかいないかを判定することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「シリコン結晶・ウエーハ技術の課題」(リアライズ社、平成6年1月31日発行)265頁〜269頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このWLT法は、簡便でありながら微量の汚染でも高感度に検出できるため、熱処理炉の汚染管理や気相成長装置(エピ成膜装置)の汚染管理に広く用いられている。特に気相成長装置の場合、PやNの導電型を持つシリコンウェーハを準備し、評価対象となる気相成長装置を用いてそのシリコンウェーハの上にシリコンエピタキシャル層を成膜し、そのエピタキシャルウェーハを上述のμPCD法でWLT値を測定することで気相成長装置の清浄度評価を行うことができる。
【0006】
しかしながら、ライフタイムモニタリング用のエピタキシャルウェーハ(以下、モニタウェーハと呼ぶことがある)を用いてWLT法により気相成長装置の清浄度の評価を行っても、実際の清浄度が反映されていないことがあり、高感度に清浄度を評価できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、気相成長装置の清浄度を高感度で評価することができる清浄度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、気相成長装置の清浄度を評価する方法であって、前記気相成長装置を用いて、シリコンウェーハ上に、該シリコンウェーハの厚みに対する割合が20%以上100%以下である厚みを有するシリコンエピタキシャル層を成長させたモニタウェーハを作製し、前記モニタウェーハのライフタイム値を測定し、前記測定したモニタウェーハのライフタイム値から前記気相成長装置の清浄度を評価することを特徴とする気相成長装置の清浄度評価方法を提供する。
【0009】
このように、シリコンエピタキシャル層の厚みを、シリコンウェーハの厚みに対する割合が20%以上100%以下である厚みとすることにより、モニタウェーハ全体の厚みに対するシリコンエピタキシャル層の厚みの比率が高くなり、気相成長装置の清浄度を高感度で評価することができる。
【0010】
また、本発明は、上記の気相成長装置の清浄度評価方法により評価した気相成長装置を用いて、シリコンエピタキシャルウェーハを製造することを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
【0011】
このようにしてシリコンエピタキシャルウェーハを製造すれば、汚染の少ない高品位なエピタキシャルウェーハを歩留まり良く製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る気相成長装置の清浄度評価方法によれば、モニタウェーハの厚みに対するシリコンエピタキシャル層の厚みの比率が高くなり、従来の薄いシリコンエピタキシャル層の厚みでのモニタリングよりも、効果的にシリコンエピタキシャル層の汚染を検出できるため、気相成長装置の清浄度を高感度で評価することができる。また、本方法では、特に、シリコン中で拡散速度が小さい高融点金属による汚染を高感度に正確に評価できる。また、本発明に係る方法で汚染がないことを評価した気相成長装置でシリコンエピタキシャルウェーハを製造することにより、汚染の少ない高品位なシリコンエピタキシャルウェーハを歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の気相成長装置の清浄度評価方法の概略を示すフロー図である。
【図2】二層構造を有するエピタキシャルウェーハ(モニタウェーハ)の断面模式図である。
【図3】本発明を適用した実施例、及び比較例のモニタウェーハのウェーハライフタイム値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
上記のように、従来通りにモニタウェーハを用いてWLT法により気相成長装置の清浄度の評価を行っても、高感度に清浄度を評価できないという問題があった。
【0016】
本発明者は、上記問題点について検討を重ねた。その結果、本発明者は、拡散速度が小さい高融点金属の場合、エピタキシャルウェーハ内の汚染は、主にシリコンエピタキシャル層内に集中して留まっていると考えた。そうであるならば、金属汚染のあるシリコンエピタキシャル層の厚みを増やすことで検出感度が上がるはずである。さらに、シリコンエピタキシャル層を成長させるための基板であるシリコンウェーハの厚みを薄くすることによっても相対的にシリコンエピタキシャル層のライフタイムに関する情報が増えることになり、結果的に拡散速度の遅い金属の検出感度が上がると考え、本発明に至った。
【0017】
このことを具体的な数値を挙げて説明すると以下の通りである。従来の一般的なライフタイムモニタリング用のエピタキシャルウェーハの構造は、700μm程度の厚みのシリコンウェーハの上に10μm程度のシリコンエピタキシャル層を成膜したものである。この場合、シリコンウェーハの厚みに比べてシリコンエピタキシャル層の厚みが約1.4%程度と非常に薄い。このため、気相成長装置に汚染があり、エピタキシャル層に不純物が入り込んだとしても、モニタリング用のエピタキシャルウェーハ全体に対するその影響度は非常に低く、影響度が薄まってしまっていたのである。特に、拡散の遅い高融点の不純物金属元素(例えば、Ti、W、Mo)は基板となるシリコンウェーハ側に拡散することがほとんどなく、大部分はシリコンエピタキシャル層中のみに滞在する。そのため、モニタリング用エピタキシャルウェーハ全領域の中で、不純物汚染がある層は実質的にシリコンエピタキシャル層のみとなってしまう。すなわち、汚染があっても全体への影響度は1%程度しかなく、その影響度が薄まることで検出感度が落ちてしまっていた。また、高融点不純物金属元素に限らず、その他の不純物元素でも程度の差があるものの、同様の傾向があった。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
図1に、本発明に係る気相成長装置の清浄度評価方法の概略を示した。
【0020】
本発明の気相成長装置の清浄度を評価する方法では、まず、図1(a)に示したように、評価対象の気相成長装置を用いて、シリコンウェーハ上に、該シリコンウェーハの厚みに対する割合が20%以上100%以下である厚みを有するシリコンエピタキシャル層を成長させたモニタウェーハを作製する。図2に、2層からなるモニタウェーハ(エピタキシャルウェーハ)の構造を示した。モニタウェーハ10は、シリコンウェーハ11及びシリコンエピタキシャル層12からなる。シリコンウェーハ11及びシリコンエピタキシャル層12の直径、面方位、導電型、及び抵抗率等は特に制限されない。
【0021】
なお、シリコンエピタキシャル層12は必ずしも1層からなるものとする必要はなく、2層以上からなるものとしてもよい。その場合は、2層以上からなるシリコンエピタキシャル層12全体の厚みを、シリコンウェーハ11の厚みに対して20%以上100%以下の割合とする必要がある。
【0022】
次に、図1(b)に示したように、作製したモニタウェーハのライフタイム値を測定する。ウェーハライフタイム値の測定方法は、公知の方法によることができ、特に制限されないが、簡単に測定を行えるμPCD法で行うことが好ましい。
【0023】
次に、図1(c)に示したように、測定したモニタウェーハのライフタイム値から評価対象の気相成長装置の清浄度を評価する。モニタウェーハのシリコンエピタキシャル層に不純物、特に金属が取り込まれるとライフタイム値が小さくなる。そのため、評価対象となる気相成長装置を用いてモニタウェーハを製造した結果、そのモニタウェーハが汚染されてライフタイム値が小さくなっている場合には、気相成長装置の清浄度が低いと評価できる。逆に、ライフタイム値の減少が小さければ、気相成長装置に由来するモニタウェーハの汚染は少ないと評価でき、気相成長装置の清浄度は高いと評価できる。
【0024】
以下では、本発明において気相成長装置を用いてモニタウェーハを作製する際に、シリコンウェーハ上に、該シリコンウェーハの厚みに対する割合が20%以上100%以下である厚みを有するシリコンエピタキシャル層を成長させる理由を説明する。
【0025】
図2のように層状に積み重なったエピタキシャルウェーハ(モニタウェーハ)10の構造の場合、各層の厚みを無視すると、ウェーハライフタイム値は、以下のように、近似的には各層のライフタイム値の逆数結合で表される(以下の数式では、図2のようにエピタキシャルウェーハが2層からなる場合を示している)。
1/T = 1/T + 1/T
: エピタキシャルウェーハ10全体でのウェーハライフタイム値
: シリコンウェーハ11のライフタイム値
: シリコンエピタキシャル層12のライフタイム値
【0026】
このため、図2のようにいくつかの層が積み重なっている場合、最もライフタイム値の低い層が、ウェーハライフタイム値に対し支配的になる。
【0027】
但し、実際には各層の厚みもウェーハライフタイム値には影響を及ぼす。例えば厚みが薄い層はウェーハライフタイム値全体への寄与度も小さくなり、厚みが厚い層は寄与度が大きくなる。そこで、基板の厚みに対して各エピタキシャル層の厚みをウェーハライフタイム寄与度Rと定義した。
=t / t
: 第iエピタキシャル層のウェーハライフタイム寄与度
: 第iエピタキシャル層の厚み
: 基板(シリコンウェーハ)の厚み
【0028】
このウェーハライフタイム寄与度Rは、図2に示したように、シリコンエピタキシャル層が1層からなる場合には以下のように表される。
=t / t
: シリコンエピタキシャル層12のウェーハライフタイム寄与度
: シリコンエピタキシャル層12の厚み
: シリコンウェーハ11の厚み
【0029】
本発明では、シリコンエピタキシャル層のウェーハライフタイム寄与度、すなわち基板であるシリコンウェーハの厚みに対するシリコンエピタキシャル層の厚みの比率を高く、具体的には20%以上にすることで、シリコンエピタキシャル層の汚染レベルを感度良く検出することができる。
【0030】
さらに、本発明ではこのシリコンエピタキシャル層のウェーハライフタイム寄与度は100%以下にする。寄与度が100%まで、すなわち、基板であるシリコンウェーハと同じ厚みまでで、十分にシリコンエピタキシャル層の汚染レベルを評価することができる。そのように上限を決めることで、シリコンエピタキシャル層をむやみに厚く成膜する必要がなくなり、モニタウェーハ作製時の使用ガス量や電気代、機器占有時間を抑えることができ、結果としてコストを抑えることができる。
【0031】
さらに、以上のような本発明の気相成長装置の清浄度評価方法により評価した気相成長装置を用いて、シリコンエピタキシャルウェーハを製造することができる。本発明に係る清浄度評価方法で汚染がないことを評価した気相成長装置でシリコンエピタキシャルウェーハを製造することにより、汚染の少ない高品位なシリコンエピタキシャルウェーハを高歩留まりで製造することができる。特に、シリコン中での拡散速度が小さい高融点金属の汚染が十分に反映された評価に基づいて、シリコンエピタキシャルウェーハを製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0033】
(実施例)
まず、シリコンウェーハとして、直径が200mm、抵抗率が10Ωcm、厚みが500μmのP型シリコンウェーハを多数枚準備した。
【0034】
次に、評価対象の気相成長装置を大気開放し、いわゆるメンテナンス作業を行った。なお、一般に、メンテナンス作業を行うと気相成長装置の反応器内が若干汚染され、メンテナンス後から、汚染源がほとんど除去されて汚染による影響がほぼ無くなる(汚染が枯れる)まで数日間を要する。
【0035】
このように、メンテナンス作業を行った気相成長装置を準備し、この装置を使って、上記のように準備したシリコンウェーハの上に、抵抗率10ΩcmのP型シリコンエピタキシャル層を100μm堆積し、一日一枚の頻度でモニタウェーハを作製した。この場合のシリコンウェーハの厚みに対するシリコンエピタキシャル層の厚みの割合は20%である。なお、モニタウェーハを作製していない間は、シリコンエピタキシャル層の成長を行うのと同じシーケンスで気相成長装置の加熱を行い、汚染源を除去する処理を行い続けた。
【0036】
このようにして作製したモニタウェーハについて、ケミカルパッシベーションによる表面処理を行い、μPCD法によるウェーハライフタイム測定装置を使用して、ウェーハライフタイム値を測定した。図3中に、実施例におけるウェーハライフタイム値の日間推移を示した。メンテナンス直後に作製したモニタウェーハでは、ウェーハライフタイム値は約50μsecであるが、その後日数の経過と共にウェーハライフタイム値は高くなり、ほぼ8日目で2000μsec程度に落ち着いた。このことから、本実施例ではメンテナンスによる汚染源が除去されるまでに約8日間かかることがわかった。
【0037】
(比較例)
次に、比較例として、シリコンウェーハの厚みに対するシリコンエピタキシャル層の厚みが相対的に小さいモニタウェーハを作製する例を示す。
【0038】
まず、シリコンウェーハとして、直径が200mm、抵抗率が10Ωcm、厚みが725μmのP型シリコンウェーハを多数枚準備した。
【0039】
実施例と同じメンテナンス作業を行った気相成長装置を準備し、メンテナンス後からの経過時間が実施例のモニタウェーハ作製と同じときに、比較例のモニタウェーハを作製した。このモニタウェーハ作製の際の条件は、シリコンウェーハの上に、抵抗率10ΩcmのP型シリコンエピタキシャル層を10μm堆積するというものである。この場合、シリコンウェーハの厚みに対するシリコンエピタキシャル層の厚みの割合は、1.4%である。
【0040】
このようにして作製したモニタウェーハについて、ケミカルパッシベーションによる表面処理を行い、μPCD法によるウェーハライフタイム装置を使ってウェーハライフタイム値を測定した。図3中に、比較例におけるウェーハライフタイム値の日間推移を示したものである。メンテナンス直後に作製したモニタでは、ウェーハライフタイム値は約800μsecであるが、その後日数の経過と共にウェーハライフタイムは高くなり、ほぼ2日目で2000μsec程度に落ち着いた。
【0041】
実施例と比べると、比較例では2日目以降、汚染レベルには変化がないように見える。これはすなわち、比較例は2日以降の汚染レベルの低減が検出できていないことを示している。つまり、実施例の方が不純物の検出能力が高いことが確認された。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0043】
10…モニタウェーハ(エピタキシャルウェーハ)、
11…シリコンウェーハ、 12…シリコンエピタキシャル層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長装置の清浄度を評価する方法であって、
前記気相成長装置を用いて、シリコンウェーハ上に、該シリコンウェーハの厚みに対する割合が20%以上100%以下である厚みを有するシリコンエピタキシャル層を成長させたモニタウェーハを作製し、
前記モニタウェーハのライフタイム値を測定し、
前記測定したモニタウェーハのライフタイム値から前記気相成長装置の清浄度を評価することを特徴とする気相成長装置の清浄度評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の気相成長装置の清浄度評価方法により評価した気相成長装置を用いて、シリコンエピタキシャルウェーハを製造することを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−105914(P2013−105914A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249030(P2011−249030)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】