説明

気相成長装置

【課題】黄燐を含む付着物を成膜構成部材から確実に除去し、大気に暴露しても発火することがない安全な物質に確実に変化させることができる気相成長装置を提供する。
【解決手段】反応炉12をグローブボックス11内に収納するとともに、グローブボックス内の酸素濃度を測定する酸素濃度計15と、グローブボックス内に酸素含有ガスを導入する酸素導入経路16と、酸素導入経路から導入する酸素含有ガスの流量を調整する流量調整器16Vと、グローブボックス内に不活性ガスガスを導入する不活性ガス導入経路17と、グローブボックス内からガスを排気する排気経路18とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置に関し、詳しくは、リンを含む原料ガスを用いて基板面に半導体薄膜を成膜する気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リンを含む半導体薄膜、例えばInP(燐化インジウム)等を成膜する半導体製造装置では、成膜に使用する原料の分解生成物が反応炉の成膜構成部材に付着する。通常、この付着物は黄燐を多く含んでおり、大気に暴露すると容易に酸化し、付着量が多いと酸化反応が激化して発火に至る。さらに、同じ反応炉でヒ素を含む材料を成膜した場合、分解生成物にもヒ素が含まれるため、燐を含む分解生成物が発火すると、非常に毒性の強い三酸化ヒ素を生成することがあり、危険性が非常に高くなる。
【0003】
通常、定期的なメンテナンスの際には、反応炉の成膜構成部材を分解して前記分解生成物を除去するが、メンテナンスの際には反応炉内を大気に暴露する必要があり、発火の危険性が非常に高くなっていた。
【0004】
このため、反応炉内を大気に暴露する前に、反応管の内壁面に付着した堆積物(付着物)を剥離してから反応管内に酸素含有ガスを導入し、付着物表面の黄燐を酸化して五酸化燐等の安全な物質に変化させてから反応管を取り外す方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、成膜室にグローブボックスを連設し、成膜構成部材からの付着物の除去を大気に接触させずに行えるようにした気相成長装置も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−283429号公報
【特許文献2】特開2005−236093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法では、反応管を取り外す前に堆積物を剥離するため、反応管を含む成膜構成部材の形状によっては、堆積物を完全に剥離することが困難であった。また、特許文献2に記載された装置では、黄燐を含む付着物を成膜構成部材から除去したときには、グローブボックスを安全な場所に移動させてからグローブボックス内に大気を導入しなければならなかった。
【0006】
そこで本発明は、黄燐を含む付着物を成膜構成部材から確実に除去し、大気に暴露しても発火することがない安全な物質に確実に変化させることができる気相成長装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の気相成長装置は、成膜構成部材を組み合わせた反応炉に原料ガスを導入し、前記反応炉内に加熱状態で保持された基板面に半導体薄膜を成膜する半導体製造装置において、前記反応炉をグローブボックス内に収納するとともに、該グローブボックス内の酸素濃度を測定する酸素濃度計と、該グローブボックス内に酸素含有ガスを導入する酸素導入経路と、該酸素導入経路から導入する酸素含有ガスの流量を調整する流量調整器と、前記グローブボックス内に不活性ガスガスを導入する不活性ガス導入経路と、前記グローブボックス内からガスを排気する排気経路とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の気相成長装置によれば、グローブボックス内で反応炉を構成する各部材を分解し、グローブを介して手作業により各部材から付着物を確実に除去することができ、また、除去した付着物を細分化することができるので、酸素導入経路から導入した所定量の酸素によって付着物中の黄燐を確実に五酸化燐等の安全な物質に変化させることができる。したがって、メンテナンス等で反応炉を大気に暴露する前に、グローブボックス内で成膜構成部材から付着物を除去するとともに、所定量の酸素をグローブボックス内に導入することにより、付着物中の黄燐が大気暴露時に発火することを確実に防止することができ、メンテナンス等の作業を大気中で安全に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の気相成長装置の一形態例を示す説明図、図2はグローブボックス内に収納される反応炉の要部を示す断面図である。
【0010】
この気相成長装置は、グローブボックス11内に、基板上に薄膜を形成するための反応炉12を収納したものであって、グローブボックス11には、複数のグローブ13と覗き窓14とが設けられている。さらに、グローブボックス11内には、酸素濃度計15が設けられるとともに、グローブボックス11内に酸素含有ガスを導入するための酸素導入経路16と、不活性ガスガスを導入するための不活性ガス導入経路17と、グローブボックス11内からガスを排気するための排気経路18とが設けられている。また、前記酸素導入経路16及び不活性ガス導入経路17には、各経路から導入するガス量を調整するための弁16V,17Vがそれぞれ設けられている。
【0011】
反応炉12は、例えば図2に示すように、フローチャンネル21、サセプタ22、ヒーター23、リフレクター24等の成膜構成部材を組み合わせたものであって、フローライナー21内に原料ガスを導入し、サセプタ22に基板ホルダー25を介して載置した基板26上に所定の半導体薄膜を形成する。なお、フローチャンネル21の上流側及び下流側には、原料導入管及び排気管(いずれも図示せず)がそれぞれ接続されている。
【0012】
また、サセプタ22は、基板26に形成する薄膜の均一性を図るために回転軸27により回転駆動されており、基板26は、サセプタ22の裏面に配置したヒーター23によりサセプタ22を介して所定温度に加熱され、ヒーター23の外周及び裏面は、ヒーター23の発熱を有効に利用するためのリフレクター24で覆われている。
【0013】
通常の成膜操作を行うときには、前記不活性ガス導入経路17からグローブボックス11内に不活性ガス、例えば窒素ガスを導入して排気経路18から排気することにより、グローブボックス11内は不活性ガス雰囲気に保たれている。
【0014】
反応炉12でリンを含む半導体薄膜を成膜した後、フローチャンネル21等の成膜構成部材のメンテナンスを行う際には、まず、グローブボックス11内を不活性ガス雰囲気に保った状態のまま、グローブ13に手を挿入してグローブボックス11内で反応炉12を開放する。そして、前記酸素濃度計15の測定値を確認しながら、前記酸素導入経路16から所定量の酸素含有ガス、例えば空気をグローブボックス11内に導入する。
【0015】
このとき、酸素濃度計15の測定値が数%程度となるように酸素含有ガスを導入することにより、付着物の表面に露出した黄燐を少量の酸素と緩やかに反応させることができるので、発火させることなく黄燐を徐々に酸化して五酸化燐等の安全な物質に変化させることができる。
【0016】
さらに、グローブボックス11内で成膜構成部材に付着した付着物を剥離し、剥離面に露出した黄燐も少量の酸素で緩やかに反応させて安全な物質に変化させる。成膜構成部材からの付着物の剥離は、グローブボックス11内にあらかじめブローノズルを設けておき、このブローノズルから付着物に向けて窒素ガス等を高速で噴射したり、グローブボックス11内にあらかじめ収納しておいたスクレーパーで削ぎ落としたりすることで行うことができる。
【0017】
また、ブローノズルから付着物に向けて窒素ガス等に同伴させた微細な固体粒を高速で噴射することによって付着物を除去することもでき、ブローノズルから酸素を低濃度で含んだ不活性ガスを噴射して剥離と反応とを同時に行うことも可能である。
【0018】
さらに、剥離した付着物が塊状である場合には、付着物を適宜な手段により砕いて付着物中の黄燐を表面に露出させ、これらの黄燐も低濃度の酸素で安全な物質に変化させる。この作業と並行して、あるいは、大部分の黄燐が安全な物質に変化したと思われた後、酸素導入経路16からの酸素含有ガスの導入量を徐々に増加させ、最終的にはグローブボックス11内を大気と同等の酸素濃度にする。
【0019】
グローブボックス11内が大気と同等の酸素濃度になったら、グローブボックス11及び反応炉12を大気に開放しても黄燐が発火することはなく、成膜構成部材を外部に取り出して点検や清掃等の作業を安全に行うことができる。
【0020】
さらに、前記グローブボックス11に、黄燐と酸素とが反応する際の温度上昇を検出する温度測定手段を設けておき、この温度測定手段の測定値があらかじめ設定した温度を超えないようにして剥離作業や破砕作業を進めたり、酸素含有ガスの導入量を調整することもできる。
【0021】
また、グローブボックス11内に導入する酸素含有ガスは、空気の使用が簡便で最適であるが、酸素ボンベ等からの酸素をそのまま、あるいは、窒素等の不活性ガスで希釈して使用することもでき、酸素導入経路16と不活性ガス導入経路17とを合流させてグローブボックス11に接続し、両経路16,17のガス流量を調整しながらグローブボックス11に導入してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の気相成長装置の一形態例を示す説明図である。
【図2】グローブボックス内に収納される反応炉の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
11…グローブボックス、12…反応炉、13…グローブ、14…覗き窓、15…酸素濃度計、16…酸素導入経路、17…不活性ガス導入経路、18…排気経路、21…フローチャンネル、22…サセプタ、23…ヒーター、24…リフレクター、25…基板ホルダー、26…基板、27…回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜構成部材を組み合わせた反応炉に原料ガスを導入し、前記反応炉内に加熱状態で保持された基板面に半導体薄膜を成膜する半導体製造装置において、前記反応炉をグローブボックス内に収納するとともに、該グローブボックス内の酸素濃度を測定する酸素濃度計と、該グローブボックス内に酸素含有ガスを導入する酸素導入経路と、該酸素導入経路から導入する酸素含有ガスの流量を調整する流量調整器と、前記グローブボックス内に不活性ガスガスを導入する不活性ガス導入経路と、前記グローブボックス内からガスを排気する排気経路とを備えていることを特徴とする気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−208097(P2007−208097A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26689(P2006−26689)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】