説明

気相接触酸化用の固定床反応器およびアクロレインまたはアクリル酸の製造方法

【課題】 気相接触酸化を行うにあたり、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業を可能にする気相接触酸化用の固定床反応器およびアクロレインまたはアクリル酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】 気相接触酸化用の固定床反応器は、気相酸化触媒を充填した反応管を有する固定床反応器であって、原料化合物および/または生成化合物を含むガス流路に酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸が配置されている。この固定床反応器は、例えば、アクロレインまたはアクリル酸の製造方法に用いられる。アクロレインまたはアクリル酸の製造方法は、気相接触酸化を行うにあたり、気相酸化触媒と、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸とを併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相接触酸化用の固定床反応器およびアクロレインまたはアクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気相反応には、触媒を充填した反応管に原料化合物を含むガスを流通させて反応を行う固定床反応器が広く用いられている。気相反応に用いられる固定床反応器としては、例えば、触媒を多数の細径反応管に充填した多管式反応器や、触媒を1本の太径反応管に充填した断熱型反応器などが挙げられる。いずれの反応器であっても、反応を連続的に行うと、原料ガスに含まれる不純物や反応により生じる副生成物などに起因して発生する固形の有機物や炭化物(以下、これらを総称して「触媒阻害物質」という。)が触媒に付着して、触媒性能が劣化し、また、圧力損失が上昇し、ひいては最終生成物の収率が低下する。それゆえ、このような触媒阻害物質を定期的に燃焼などにより除去して触媒を再生する必要がある。
【0003】
触媒を再生する方法としては、触媒を反応管から抜き出し、反応管外で再生する方法も知られているが、触媒の抜き出しや再充填などの作業時間を考慮すると、反応管内で再生することが好ましい。
【0004】
触媒を反応管内で再生する方法として、例えば、特許文献1および2には、触媒を反応管に充填したままで、分子状酸素と水蒸気とを含有する混合ガスを流通させながら所定の温度で熱処理することにより、触媒を安全かつ効率よく再生する方法が開示されている。
【0005】
しかし、これらの方法は、確かに触媒を反応管から抜き出すことなく再生することができるが、触媒を再生するたびに、反応を中止する必要がある。
【0006】
従って、定期的に反応を中止して触媒に付着した触媒阻害物質を除去するのではなく、触媒阻害物質の付着自体を抑制することにより、長期間にわたる安定的な連続操業を可能にする方法が求められている。
【特許文献1】特開平6−262081号公報
【特許文献2】特開平6−263689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、気相接触酸化を行うにあたり、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業を可能にする気相接触酸化用の固定床反応器およびアクロレインまたはアクリル酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、気相酸化触媒を充填した反応管を有する固定床反応器を用いて気相接触酸化を行うにあたり、原料化合物および/または生成化合物を含むガス流路に所定の酸強度を有する固体酸を配置すれば、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業が可能になることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、気相酸化触媒を充填した反応管を有する固定床反応器であって、原料化合物および/または生成化合物を含むガス流路に酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸を配置したことを特徴とする気相接触酸化用の固定床反応器を提供する。本発明の固定床反応器において、前記固体酸は前記反応管内に配置されていることが好ましい。
【0010】
本発明の固定床反応器は、好ましくは、原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管を有する固定床反応器、あるいは、原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して中間化合物を生成させる触媒を充填した反応管と、前記中間化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管とを有する固定床反応器である。
【0011】
ここで、「原料化合物」とは、気相接触酸化を受ける原料の化合物を意味し、「生成化合物」とは、原料化合物の気相接触酸化により生成する化合物を意味し、「最終生成物」とは、原料化合物の気相接触酸化により最終的に得られる目的生成物を意味する。
【0012】
本発明の固定床反応器は、例えば、アクロレインまたはアクリル酸の製造方法に用いられる。
【0013】
本発明は、原料化合物のプロピレンを分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物のアクロレインまたはアクリル酸を製造するにあたり、気相酸化触媒と、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸とを併用することを特徴とするアクロレインまたはアクリル酸の製造方法も提供する。
【0014】
本発明の製造方法において、最終生成物のアクロレインは、原料化合物のプロピレンを分子状酸素で気相接触酸化することにより製造される。この製造には、好ましくは、原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管を有する固定床反応器が用いられる。
【0015】
また、本発明の製造方法において、最終生成物のアクリル酸は、原料化合物のプロピレンを分子状酸素で気相接触酸化して中間化合物のアクロレインを生成させ、次いで、前記中間化合物のアクロレインを分子状酸素で気相接触酸化することにより製造される。この製造には、好ましくは、原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して中間化合物を生成させる触媒を充填した反応管と、前記中間化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管とを有する固定床反応器が用いられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の固定床反応器を用いれば、触媒阻害物質の付着を抑制することができるので、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたり連続して安定的な気相接触酸化を行うことができる。それゆえ、本発明の製造方法によれば、アクロレインまたはアクリル酸の大幅な製造コスト低下が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の固定床反応器は、気相酸化触媒(以下、単に「触媒」ということがある。)を充填した反応管を有する固定床反応器であって、原料化合物および/または生成化合物を含むガス流路に(以下、単に「反応器内に」ということがある。)酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸(以下、単に「固体酸」ということがある。)を配置したことを特徴とする気相接触酸化用の固定床反応器である。
【0018】
ここで、「固定床反応器」とは、反応管に静止充填された気相酸化触媒の存在下で、前記反応管のガス入口から供給された原料ガスを気相接触酸化して、前記反応管のガス出口から最終生成物含有ガスを排出する容器を意味し、それ自体が独立した容器であっても、あるいは、製造プラントに組み込まれた容器であってもよい。
【0019】
本発明の固定床反応器は、反応器内に固体酸が配置されていること以外は、一般的な気相接触酸化用の固定床反応器と実質的に同様の構成を有するものであり、特に限定されるものではない。それゆえ、本発明の固定床反応器は、例えば、触媒を多数の細径反応管に充填した多管式反応器や、触媒を1本の太径反応管に充填した断熱型反応器のいずれであってもよい。
【0020】
本発明において、固体酸の酸強度(H0)は、下記実施例に記載した方法で測定するものとする。なお、「酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である」とは、固体酸の酸強度(H0)が前記範囲内に含まれること、すなわち固体酸の酸強度(H0)が−5.6以上であり、かつ1.5以下であることを意味する。それゆえ、固体酸は、酸強度(H0)が前記範囲内に含まれる1種類の固体酸から構成されていてもよいし、酸強度(H0)が前記範囲内に含まれる限り、酸強度(H0)が同一または異なる2種類またはそれ以上の固体酸から構成されていてもよい。
【0021】
本発明に用いられる固体酸は、所定の酸強度を有する限り、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)から選択される少なくとも1種の元素を含む(複合)酸化物が例示され、具体的には、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリカ・アルミナ、シリカ・チタニア、シリカ・酸化バナジウム、シリカ・酸化亜鉛、シリカ・ジルコニア、シリカ・酸化モリブデン、シリカ・酸化タングステン、アルミナ・チタニア、アルミナ・酸化バナジウム、アルミナ・酸化亜鉛、アルミナ・ジルコニア、アルミナ・酸化モリブデン、アルミナ・酸化タングステン、チタニア・ジルコニア、チタニア・酸化タングステン、酸化亜鉛・ジルコニア、ゼオライト、ケイ素アルミノリン酸塩などが挙げられる。ここで、「(複合)酸化物」とは、酸化物または複合酸化物を意味する。これらの固体酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの固体酸のうち、アルミニウム、ケイ素、チタンおよびジルコニウムから選択される少なくとも1種の元素を含む(複合)酸化物、中でもアルミニウムとケイ素とを含む複合酸化物が特に好適である。
【0022】
また、固体酸は、所定の酸強度を有する限り、上記(複合)酸化物を2種以上含む混合物の形態や、上記(複合)酸化物を異種の上記(複合)酸化物に担持させた形態、あるいは、上記(複合)酸化物とそれ以外の固体との混合物の形態や、上記(複合)酸化物をそれ以外の固体に担持させた形態であってもよい。
【0023】
固体酸は、(複合)酸化物の構成元素を含む原料から調製すればよい。例えば、上記(複合)酸化物のうち、アルミニウムとシリカとを含む複合酸化物である固体酸は、例えば、アルミナ粉体とアルミナゾルとコロイド状シリカとの混合物を所望の形状に成形した後、焼成することにより調製することができる。この場合、アルミナ粉体とアルミナゾルとコロイド状シリカとの合計量100質量部に対して、アルミナ粉体とアルミナゾルとの合計量は、60質量部以上、97質量部以下、好ましくは70質量部以上、95質量部以下、より好ましくは80質量部以上、90質量部以下であり、コロイド状シリカの配合量は、3質量部以上、40質量部以下、好ましくは5質量部以上、30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上、20質量部以下である。また、アルミナ粉体とアルミナゾルとの合計量100質量部に対して、アルミナ粉体の配合量は、60質量部以上、97質量部以下、好ましくは70質量部以上、96質量部以下、さらに好ましくは85質量部以上、95質量部以下であり、アルミナゾルの配合量は、3質量部以上、40質量部以下、好ましくは4質量部以上、30質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上、15質量部以下である。焼成温度は、好ましくは600℃以上、1300℃以下、より好ましくは650℃以上、1200℃以下、さらに好ましくは700℃以上、1100℃以下である。焼成時間は、好ましくは0.5時間以上、50時間以内、より好ましくは1時間以上、20時間以内である。
【0024】
固体酸の酸強度を調節する方法としては、固体酸が所定の酸強度を有するように調節できる方法である限り、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、固体酸を調製する際に焼成温度を調節する方法、複合酸化物の構成元素の種類および/または比率を変える方法などが挙げられる。
【0025】
固体酸の形状は、特に限定されるものではなく、任意の形状を選択すればよいが、具体的は、例えば、球状、円柱状、円筒状、星形状、リング状、タブレット状、ペレット状など、通常の打錠成形機、押出成形機、造粒機などで成形されるものが挙げられる。固体酸の寸法は、小さすぎると、圧力損失が大きくなり、反応を効率的に行えないことがあり、逆に大きすぎると、触媒阻害物質の付着が充分に抑制されないことがある。それゆえ、固体酸の寸法は、その平均直径で、好ましくは1mm以上、15mm以下、より好ましくは2mm以上、12mm以下、さらに好ましくは3mm以上、10mm以下である。
【0026】
固体酸の使用量は、固体酸の種類、比重、形状および酸強度、ならびに、触媒の種類、比重、形状および使用量などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、少なすぎると、触媒阻害物質の付着が充分に抑制されないことがあり、逆に多すぎると、必要以上に固体酸を用いることになり、製造コストが上昇することがある。それゆえ、固体酸の使用量は、固体酸:触媒の比率(体積比)で、好ましくは1:0.5〜100、より好ましくは1:2〜50、さらに好ましくは1:3〜30である。
【0027】
本発明の固定床反応器において、反応器内に固体酸を配置する箇所は、触媒阻害物質の付着を抑制するのに適した箇所である限り、特に限定されるものではない。反応器内に固体酸を配置する方法としては、特に限定されるものではないが、好ましくは反応管内に配置され、具体的には、例えば、反応管の端部または触媒層間に充填して少なくとも1つの固体酸層を形成するか、あるいは、触媒に混合することが挙げられる。これらの方法は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、固体酸を触媒に混合した場合には、触媒の活性を調節するために一般的に希釈剤として用いられている不活性担体の役割を兼ねることができる。
【0028】
原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管を有する固定床反応器の場合、固体酸は、少なくとも、ガス流通方向において、触媒の上流側に配置されているか、あるいは、触媒に混合されていることが好ましい。
【0029】
原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して中間化合物を生成させる触媒を充填した反応管と、前記中間化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管とを有する固定床反応器の場合、固体酸は、少なくとも、ガス流通方向において、最終生成物を生成させる触媒の上流側に配置されていているか、あるいは、最終生成物を生成させる触媒に混合されているか、あるいは、中間化合物を生成させる触媒の下流側に配置されていることが好ましい。なお、固体酸は、上記以外の箇所、例えば、ガス流通方向において、中間化合物を生成させる触媒の上流側に配置されているか、あるいは、中間化合物を生成させる触媒に混合されていてもよい。
【0030】
本発明の固定床反応器を用いて行う気相接触酸化は、触媒性能が反応時間の経過と共に低下する可能性がある気相接触酸化、特に原料ガスに含まれる不純物や反応中に生成する副生成物に起因する固形の有機物や炭化物などの触媒阻害物質が触媒性能に悪影響を与える可能性がある気相接触酸化である限り、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、オレフィンなどから不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する気相接触酸化、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造する気相接触酸化、オレフィンとアンモニアとから不飽和ニトリルを製造する気相接触酸化などが挙げられる。
【0031】
これらの気相接触酸化のうち、オレフィンなどから不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する気相接触酸化、および、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造する気相接触酸化が好ましく、なかでも、プロピレンからアクロレインを製造する気相接触酸化、および、プロピレンからアクロレインを経由してアクリル酸を製造する気相接触酸化が特に好適である。
【0032】
気相接触酸化に用いる触媒としては、この種の反応に一般的に用いられている触媒である限り、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、モリブデン(Mo)とビスマス(Bi)とを必須成分とする複合酸化物触媒、モリブデン(Mo)とバナジウム(V)とを必須成分とする複合酸化物触媒などが挙げられる。
【0033】
なかでも、例えば、プロピレンからアクロレインを生成させる気相接触酸化に用いる触媒としては、下記式(1):
MoabBicFedefghx (1)
[式中、Moはモリブデン、Wはタングステン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはニッケルおよびコバルトから選択される少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選択される少なくとも1種の元素、Cはリン、ヒ素、ホウ素およびニオブから選択される少なくとも1種の元素、Dはケイ素、アルミニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、e、f、g、hおよびxは各々Mo、W、Bi、Fe、A、B、C、DおよびOの原子比を表し、2≦a≦10、0≦b≦10、a+b=12のとき、0.1≦c≦10.0、0.1≦d≦10、1≦e≦20、0.005≦f≦3.0、0≦g≦4、0≦h≦15であり、xは各元素の酸化状態により定まる数値である]
で示される複合酸化物触媒が好適である。
【0034】
また、アクロレインからアクリル酸を生成させる気相接触酸化に用いる触媒としては、下記式(2):
Momnqrsty (2)
[式中、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Qはタングステンおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素、Rは鉄、銅、ビスマス、クロムおよびアンチモンから選択される少なくとも1種の元素、Sはアルカリ金属およびアルカリ土類金属から選択される少なくとも1種の元素、Tはケイ素、アルミニウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、m、n、q、r、s、tおよびyは各々Mo、V、Q、R、S、TおよびOの原子比を表し、m=12のとき、2≦n≦14、0≦q≦12、0≦r≦6、0≦s≦6、0≦t≦30であり、yは各元素の酸化状態により定まる数値である]
で示される複合酸化物触媒が特に好適である。
【0035】
気相接触酸化の反応条件としては、反応器内に固体酸を配置すること以外は、一般的な気相接触酸化の反応条件と実質的に同様の反応条件を採用すればよく、特に限定されるものではない。
【0036】
本発明の製造方法は、原料化合物のプロピレンを分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物のアクロレインまたはアクリル酸を製造するにあたり、気相酸化触媒と、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸とを併用することを特徴とするアクロレインまたはアクリル酸の製造方法である。
【0037】
本発明の製造方法において、最終生成物のアクロレインは、原料化合物のプロピレンを分子状酸素で気相接触酸化することにより製造される。この製造には、好ましくは、原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管を有する固定床反応器が用いられる。この固定床反応器において、固体酸は、少なくとも、ガス流通方向において、前記触媒の上流側に配置するか、あるいは、前記触媒に混合することが好ましく、いずれの場合にも、前記触媒への触媒阻害物質の付着を抑制することができる。
【0038】
また、本発明の製造方法において、最終生成物のアクリル酸は、原料化合物のプロピレンを分子状酸素で気相接触酸化して中間化合物のアクロレインを生成させ、次いで、前記中間化合物のアクロレインを分子状酸素で気相接触酸化することにより製造される。この製造には、好ましくは、原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して中間化合物を生成させる触媒を充填した反応管と、前記中間化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管とを有する固定床反応器が用いられる。この固定床反応器において、固体酸は、少なくとも、ガス流通方向において、最終生成物を生成させる触媒の上流側に配置するか、あるいは、最終生成物を生成させる触媒に混合するか、あるいは、中間生成物を生成させる触媒の下流側に配置することが好ましく、いずれの場合も、前記触媒への触媒阻害物質の付着を抑制することができる。なお、固体酸は、上記以外の箇所として、少なくとも、ガス流通方向において、中間生成物を生成させる触媒の上流側に配置するか、あるいは、中間生成物を生成させる触媒に混合した場合には、原料ガス中の不純物に起因する触媒阻害物質の付着を抑制することができる。
【0039】
気相接触酸化の反応条件としては、反応器内に固体酸を配置すること以外は、気相接触酸化によるアクロレインまたはアクリル酸の製造に一般的に用いられている反応条件と実質的に同様の反応条件を採用すればよく、特に限定されるものではない。例えば、原料ガスとして、1体積%以上、15体積%以下、好ましくは4体積%以上、12体積%以下の原料化合物と、この原料化合物に対する体積比で1倍以上、10倍以下、好ましくは1.5倍以上、8倍以下の分子状酸素と、希釈剤として、不活性ガス(例えば、窒素、二酸化炭素、水蒸気など)とからなる混合ガスを、250℃以上、450℃以下、好ましくは260℃以上、400℃以下の温度で、常圧以上、1MPa以下、好ましくは0.8MPa以下の圧力下、300h-1以上、5000h-1以下、好ましくは500h-1以上、4000h-1以下の空間速度(STP)で、触媒と接触させて反応させればよい。
【0040】
本発明の固定床反応器を用いれば、下記実施例で示すように、気相接触酸化を行うにあたり、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、少なくとも8000時間程度の長期間にわたる安定的な連続操業が可能である。それゆえ、本発明の製造方法によれば、アクロレインまたはアクリル酸を高い収率で効率的かつ安定的に得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
下記の実施例1〜4および比較例1〜3では、原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して中間化合物を生成させる触媒を充填した反応管と、前記中間化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管とを有する固定床反応器を用いて、まず、プロピレンを分子状酸素で気相接触酸化してアクロレインを生成させ、次いで、このアクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を生成させる実験を、8000時間連続して行った。この際、酸強度(H0)が異なる種々の固体酸または磁性リングを反応器内の様々な箇所に配置して気相接触酸化を行うことにより、全触媒性能の変化および圧力損失の増加を評価した。
【0043】
<気相酸化触媒の調製>
実験に用いた気相酸化触媒、すなわちプロピレンを分子状酸素で気相接触酸化してアクロレインを生成させるのに用いたプロピレン酸化用触媒(以下「前段触媒」という。)およびアクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を生成させるのに用いたアクロレイン酸化用触媒(以下「後段触媒」という。)は、特開昭64−63543号公報の実施例1に記載の方法に準じて調製した。これらの触媒の担体を除く酸素以外の組成は、原子比で、前段触媒はCo4Fe1Bi12Mo10Si1.350.06であり、後段触媒はMo124.6Cu2.2Cr0.62.4であった。
【0044】
<酸強度の測定>
固体酸の酸強度(H0)は、測定する試料が白色の場合、試料をベンゼン中に浸漬し、これにpKa値が既知の酸塩基変換指示薬を含むベンゼン溶液を添加し、試料表面における指示薬の酸性色への変化を観察し、酸性色に変化しない指示薬のpKa値のうち最も大きいpKa値と、酸性色に変化する指示薬のpKa値のうち最も小さいpKa値との間の範囲内にあるとする。なお、用いた指示薬がすべて酸性色に変化する場合、酸強度(H0)は指示薬のpKa値のうち最も小さいpKa値より小さく、用いた指示薬がすべて酸性色に変化しない場合、酸強度(H0)は指示薬のpKa値のうち最も大きいpKa値より大きいとする。酸強度の測定に用いた指示薬は、以下のとおりである。指示薬名(pKa):ベンザルアセトフェノン(−5.6)、ジシンナマルアセトン(−3.0)および4−ベンゼンアゾジフェニルアミン(1.5)。
【0045】
測定する試料が白色でない場合には、まず、ガスの排気および導入ラインを有する容器に試料を入れ、空気を充分に排気した後、アンモニアガスを導入し、試料にアンモニアを吸着させる。次いで、このアンモニアガスを排気しながら、試料の温度を上昇させ、各温度で排気されるアンモニアガスを液体窒素で捕集し、試料の質量あたりの捕集アンモニア量を測定する。得られた測定値から、別に酸強度(H0)既知の固体酸を用いて作成した検量線に基づいて、試料の酸強度(H0)を算出する。
【0046】
<全触媒性能の評価>
全触媒性能は、下記式で定義されるプロピレン転化率およびアクリル酸収率により評価した。
プロピレン転化率(%)=(反応したプロピレンのモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
アクリル酸収率(%)=(生成したアクリル酸のモル数/供給したプロピレンのモル数)×100。
【0047】
<実施例1>
まず、平均粒径2〜10μmのγ−アルミナ粉体75質量部と、有機結合剤としてのメチルセルロース5質量部とを混練機に投入し、充分に混合した。次いで、この混合物に、平均粒径2〜20nmのアルミナゾル8質量部(Al23含有量として)と、平均粒径2〜20nmのコロイド状シリカ17質量部(SiO2含有量として)とを添加し、さらに水を投入し、充分に混合して、シリカを添加したアルミナ混合物を得た。次いで、この混合物を押出成形し、乾燥させた後、1000℃で2時間焼成して、平均粒径7.5mmの粒状複合酸化物からなる固体酸を得た。得られた固体酸の酸強度(H0)は、−3.0≦H0≦1.5であった。
【0048】
前段触媒1.2Lを内径25mm、長さ3000mmの鋼鉄製反応管(以下「第1反応管」という。)に充填した。別に後段触媒1.0Lを内径25mm、長さ3000mmの鋼鉄製反応管(以下「第2反応管」という。)に充填した。第2反応管のガス入口側に、すなわち第2反応管内のガス流通方向において後段触媒の上流側に、上記固体酸を500mm充填した。2つの反応管は、内径20mm、長さ4000mmの鋼鉄製パイプで連結した。
【0049】
次いで、第1反応管のガス入口から、プロピレン5体積%、酸素10体積%、水蒸気25体積%および窒素60体積%からなる混合ガスを原料ガスとして、前段触媒に対する空間速度2000h-1(STP)で導入し、気相接触酸化を行った。このとき、第1反応管における反応温度は325℃、第2反応管における反応温度は260℃であり、2つの反応管を連結するパイプは170℃に保温した。
【0050】
気相接触酸化を8000時間連続して行ったところ、後段触媒および固体酸を充填した部分における圧力損失は、反応初期に比べて、0.67kPa増加していた。また、全触媒性能は、反応初期では、プロピレン転化率98%、アクリル酸収率92%であったのに対し、8000時間後では、プロピレン転化率95%、アクリル酸収率87%であった。
【0051】
<実施例2>
実施例1において、焼成温度を1000℃から700℃に変更して固体酸を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、固定床反応器を準備し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。なお、固体酸の酸強度(H0)は、−5.6≦H0≦−3.0であった。
【0052】
<比較例1>
実施例1において、固体酸を用いる代わりに、酸強度(H0)がH0>1.5である直径7.5mmの磁性リングを第2反応管内のガス流通方向において後段触媒の上流側に充填したこと以外は、実施例1と同様にして、固定床反応器を準備し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。
【0053】
<比較例2>
実施例1において、焼成温度を1000℃から1400℃に変更して固体酸を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、固定床反応器を準備し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。なお、固体酸の酸強度(H0)は、H0>1.5であった。
【0054】
<比較例3>
実施例1において、焼成温度を1000℃から500℃に変更して固体酸を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、固定床反応器を準備し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。なお、固体酸の酸強度(H0)は、H0<−5.6であった。
【0055】
<実施例3>
実施例1において、固体酸を第2反応管内のガス流通方向において後段触媒の上流側に充填する代わりに、固体酸を第2反応管内において後段触媒に実質的に均一混合したこと以外は、実施例1と同様にして、固定床反応器を準備し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。なお、固体酸の酸強度(H0)は、−3.0≦H0≦1.5であった。
【0056】
<実施例4>
実施例1において、固体酸を第2反応管内のガス流通方向において後段触媒の上流側に充填する代わりに、固体酸を第1反応管内のガス流通方向において前段触媒の下流側に充填したこと以外は、実施例1と同様にして、固定床反応器を準備し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。なお、固体酸の酸強度(H0)は、−3.0≦H0≦1.5であった。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかなように、酸強度(H0)が−3.0≦H0≦1.5である固体酸を用いた実施例1、3および4、ならびに、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦−3.0である固体酸を用いた実施例2は、いずれも、8000時間後に、アクリル酸収率が高く、かつ圧力損失の増加が小さい。これに対し、固体酸を用いなかった比較例1、および、酸強度(H0)がH0>1.5である固体酸を用いた比較例2は、8000時間後に、アクリル酸収率が低く、かつ圧力損失の増加が大きい。また、酸強度(H0)がH0<−5.6である固体酸を用いた比較例3は、8000時間後に、圧力損失の増加が小さいものの、アクリル酸収率が大幅に低下している。このことから、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸を反応器内に配置すれば、高いアクリル酸収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業が可能になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の固定床反応器は、気相接触酸化を行うにあたり、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業を可能にする。それゆえ、本発明の固定床反応器を用いれば、例えば、アクロレインやアクリル酸など、気相接触酸化により得られる基礎化学品の製造コストを大幅に低下させることができる。従って、本発明の固定床反応器および製造方法は、これらの基礎化学品の製造分野および利用分野に多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相酸化触媒を充填した反応管を有する固定床反応器であって、原料化合物および/または生成化合物を含むガス流路に酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸を配置したことを特徴とする気相接触酸化用の固定床反応器。
【請求項2】
前記固体酸が前記反応管内に配置されている請求項1記載の固定床反応器。
【請求項3】
原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管を有する請求項1または2記載の固定床反応器。
【請求項4】
原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して中間化合物を生成させる触媒を充填した反応管と、前記中間化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を生成させる触媒を充填した反応管とを有する請求項1または2記載の固定床反応器。
【請求項5】
プロピレンを分子状酸素で気相接触酸化してアクロレインを製造するにあたり、請求項1、2または3記載の固定床反応器を用いることを特徴とするアクロレインの製造方法。
【請求項6】
プロピレンを分子状酸素で気相接触酸化してアクロレインを生成させ、次いで、前記アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を製造するにあたり、請求項1、2または4記載の固定床反応器を用いることを特徴とするアクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−298797(P2006−298797A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120244(P2005−120244)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】