説明

気相膜成長装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は化合物半導体結晶等の成長膜を製造する気相膜成長装置に係り、特に膜厚の均一性を改善したもので、例えば有機金属気相成長装置(MOCVD)に適用できる。
【0002】
【従来の技術】気相膜成長装置、例えば薄膜形成に有効なMOCVDにおいては、図2に示すように成長炉20を縦型のパンケーキ型とし、低速回転するサセプタ25に載せた基板24に垂直に原料ガスを吹き付けてエピタキシャル成長させるものがある。しかし、この縦型MOCVDでは図示するようにガス流22が大きく曲げられる。その結果、基板24上のガス流境界層23が平坦にならず、エピタキシャル層の厚さの分布は凹面状になる。
【0003】そこで従来、基板を載せたサセプタを高速回転(1000〜1500rpm)しながらエピタキシャル成長を行う方式が提案された( 例えば、米国EMCORE社のTurboDisk(商品名))。この方式では上部よりサセプタに垂直に吹き付けた原料ガス流が、サセプタの回転によりサセプタ中心に引きよせられた後、外周方向へ吐き出されるためサセプタ上に均一なガス流境界層が形成され、これにより均一なエピタキシャル層が基板上に成長するとされている。
【0004】この均一なエピタキシャル層が成長するとされる理由は次の原理によっている。半無限平面にガス流が衝突した場合ガス流境界層は均一となる。サセプタを高速回転すると、あたかも半無限平面にガス流が衝突した場合と同様な効果がもたらされる。図3に理想的にいったときのガス流32とガス流境界層33の様子を示す。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、実際の高速回転型の縦型MOCVDでは、図4に示すように排気口が成長炉20の下方に設けられているので、サセプタ25の外周辺へ向かう原料ガス流42が曲げられて下方へ排気されることになり、その曲げられた部分で「エッジ効果」が生じ、サセプタ25周辺部のガス流境界層43が薄くなる。その結果、通常の低速回転型成長炉ほどではないが、周辺部のエピタキシャル膜厚が厚くなって均一性が悪くなるという問題があった。
【0006】この問題は縦型のものに限定されることなく、原料ガスが基板に垂直に吹き付けられるものであれば、成長炉が横型配置のものにも共通する。また、薄膜のみならず厚膜であっても同様である。
【0007】本発明の目的は、半無限平面と同様なガス流状態を強制的に作ることによって、上述した従来技術の欠点を解消し、成長膜の均一性に優れ、しかも原料利用効率の高い膜を成長できる気相膜成長装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は実施例で示した図1のように、成長炉10内に導入される原料ガスが成長炉10外へ吸引排気される際に、成長炉10内でサセプタ15を回転しつつサセプタ15に載せた基板14に原料ガスを垂直に吹き付けて膜を成長させる気相膜成長装置に適用される。
【0009】基板14に垂直に吹き付けられて吸引排気される原料ガスを、その排気流量を制御しつつサセプタ15の径方向外方に導いて水平に吐き出す排気整流部30を設け、この排気整流部30をサセプタ面の略延長面上の成長炉10の周壁に沿って設けるようにしたものである。ここでサセプタ面の略延長面上とは、サセプタ面と面一の延長面上以外にサセプタ面近傍の、サセプタ面と平行な面の延長面上も含まれることを意味している。
【0010】また、排気整流部30は、排気流速を上げるためのオリフィス16と、粒子など排気物質の逆流を防止する網17と、排気流量を調整する弁18と、排気流量を測定しその測定結果に応じて上記弁を制御する弁制御手段19とから構成することが好ましい。
【0011】さらに、排気整流部30は、成長炉壁の全周に設けるようにしてもよいが、サセプタ15の回転中心軸9に対して回転対称の位置に放射状に設けることが技術的にも経済的にも望ましい。この場合、各排気整流部30を流れる排気流量を各々調節できるようにする。
【0012】
【作用】サセプタ周辺の径方向外方の空間でガス流が下方に曲がると、その影響を受けてサセプタ面上のガス流がサセプタ面と平行にならず、特にサセプタ周辺部では外側に向かって斜め下方に速度ベクトルを持った流れとなる。従って、サセプタ周辺部のガス流境界層は中心部に比べて薄くなり、形成膜厚は中心部に比べ厚くなってしまう。これがいわゆる「エッジ効果」といわれるものであり、膜厚の均一性を悪くする。この原因は、サセプタ周辺部でガス流が下方に曲げられるためであり、これは排気口がサセプタより下方にあることに起因する。
【0013】従って、これを解決するためには、サセプタ面上を中心から外方に向かって流れるガス流から見て、その速度ベクトルの行先がサセプタ面と平行な径方向外方にあるようにすればよい。
【0014】即ち、図1に示すように排気整流部30がサセプタ15面の延長面外方上の成長炉壁に設けられていれば、サセプタ15上のガス流12はサセプタ15、即ち基板14上をこの面に平行に中心から外方に流れる。さらに、その排気流量が制御されれば原料ガス流の均一性が確保され、周辺部でも厚くならず均一なガス流境界層13ができる。
【0015】このように基板14上の原料ガス流をサセプタ15面に平行に外周へ吐き出すことにより、回転型の特徴である原料利用効率の向上を損なうことなく成長膜の均一性を大幅に向上させることができる。
【0016】
【実施例】以下、本発明の実施例を図1および図7を用いて説明する。
【0017】図1は縦型MOCVDに適用した本実施例の原理構成図を示す。縦型成長炉10は、ガス導入口11との接続部にあたる肩部19が下がっているパンケーキ型ではなく、肩部19が水平なフラット型構成をしている。この成長炉10内に、サセプタ15が回転自在かつその面を水平にして設けられている。成長炉10内に導入され排気口31より炉外へ吸引排気されることになる原料ガスは、まずサセプタ15の中心部上方のガス導入口11よりサセプタ15の中心に向かって吹きつけられ、次いでサセプタ15の高速回転(例えば1000rpm)によりサセプタ中心部へ吹き寄せられる。サセプタ15上には基板14が載せられサセプタ15と共に回転する。
【0018】サセプタ15の基板載置面の延長面外方の成長炉10の炉壁には原料ガスを炉外に排出するための排気口31が設けられる。この排気口3の途中には、サセプタ中心部に吹き寄せられた原料ガスを、その排気流量を制御しつつサセプタ15の径方向外方に導いて水平に吐き出す排気整流部30が設けられている。この排気整流部30は上流から下流に向って順次設けられたオリフィス16、逆流防止網17、弁18、弁制御手段19から構成される。オリフィス16は排気流速を速くするために、また逆流防止網17は粒子等の逆流を防止するために設けられている。弁18は排気流量を調整するために、弁制御手段19は排気流量を測定しその測定結果に応じて弁18を制御するために設けられている。
【0019】このように構成される排気整流部30は、排気ガス流12をサセプタ回転面と平行で径方向外方に案内させるために、サセプタ回転面の延長面上に放射状に又は全周に渡って設ける。
【0020】サセプタ中心に垂直にぶつかった原料ガスはサセプタ15の径方向外方に向かって基板14上を水平に流れ、そのまま水平かつ径方向外方にある排気整流部30に吸い込まれ成長炉10から外部に排気される。排気口31から排出される排気流量は、それが多いと弁制御手段19により制御される弁18の弁開度が小さくなって減量され、逆に排気流量が少ないと弁制御手段19により制御される弁18の弁開度が大きくなって増量される。この過程で、エピタキシャル膜は加熱された基板14上で分解した原料がガス流境界層13を拡散し基板14上に堆積して成長する。
【0021】次に、上記した縦型MOCVDの具体例について図5及び図6を用いて説明する。
【0022】円盤状のサセプタ51の下面側にヒータ52を設け、このヒータ52によりサセプタ51の温度を450℃〜800℃とする。このサセプタ51上にはφ4インチのGaAs基板59を回転対称の位置に3枚載せた円形トレイ58が載置され、サセプタ51と共に回転する。ここでは500rpm〜2000rpmの回転数でトイレ58を載せたサセプタ51を回転した。なお、基板59とトレイ58とは面一とする( 図5( a) 参照) 。原料はトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、アルシン、ジシランを用いた。キャリアガスは水素を用い、上記原料と混合して原料ガスとし計100 1/minの流量を、成長炉60の上部中央に設けたガス導入口50より成長炉60内へ導入した。成長炉60は天井部内壁がフラットタイプの円筒体で構成されている。導入された原料ガスは成長炉60に設けた複数の排気管55から炉外へ排気される。排気管55は、トレイ58面の延長面上の成長炉壁にサセプタ51の回転中心軸63に対して回転対称の位置に放射状に設けられている。図示例では8本設けた場合を示している。原料ガスを炉外へ吸引排気するために成長炉内の圧力は20torr〜大気圧とした。
【0023】上記した排気管55の設置場所は、より正確にはサセプタ51上のトレイ58に載った基板59面と平行で、その延長面と交わる炉壁64上に描いた円よりやや上方に設けられる。この排気管55の排気経路上に排気整流部61が介設され、これは上流側から下流側に向って設けられたオリフィス53と、逆流防止網54と、ニードルバルブ68と、流量制御計69とから構成される。
【0024】基板59に垂直に吹き付けられた原料ガスを水平方向外方に案内して、排気管55に排出させるオリフィス53が形成されている。このオリフィス53は排気流速を上げるためにガス流路を狭くすることにより形成されている。オリフィス53の出口側にはダスト等の逆流を防ぎ排気を放射状に均一に行うための網54が設けられる。なお、網54はオリフィス53の入口側に設けてもよい。
【0025】排気管55内には上流側に排気流量を調節するためのニードルバルブ68と、下流側に排気流量を監視してその監視結果に応じてニードルバルブ68の弁体を制御して排気流量を調節するための流量制御計69とが介設される。これらにより各排気管55から排気される排気流量は個別に調節され得るようになっている。このオリフィス53と網54との存在により、ガス流は基板59に対して平行に流れ、オリフィス53、網54を通過した後に成長炉外へ排気される。また、ニードルバルブ68と流量制御計69との存在により、成長炉外へ排気される排気流量の均一化が図れ、基板59上のガス流境界層が均一になる。なお、排気ガス流を基板59に平行に流すために成長炉60の天井部内壁も水平にしておくことは重要である。
【0026】このように排気整流部61により基板59上のガス流境界層の厚さは均一となり、その結果エピタキシャル膜厚が均一となる。また、逆流を防ぐ網54の存在により粒子の舞い上がりがなくなるとともに、排気がサセプタから外側に向ってサセプタ面上で放射状に均一に行なわれるため表面欠陥のないエピタキシャル結晶が得られる。さらにニードルバルブ68,流量制御計69によりサセプタ面状の排気流即ちガス流れの均一性を調整できるため、エピタキシャル特性の均一性を調整、制御することができる。また、この排気整流部65があるため基板59上の空間で対流が発生せず炉内での原料ガスの切り替えが高速に行われる。従って急峻な界面を有するヘテロ接合エピタキシャル結晶を成長させることができる。次に具体例について述べると、成長温度650℃、アルシンとトリメチルガリウム及びトリメチルアルミニウム、n型のドーパントとしてSi2 H6 を用いて図7に示すようなn型GaAlAs/GaAs選択ドープ構造のエピタキシャル結晶を成長した結果、φ4インチウェハにおける膜厚バラツキは±1%以下であり、同時成長した3枚のφ4インチウェハのバラツキは±2%以下であった。
【0027】n型GaAlAsのキャリア濃度のバラツキは±2%以下、Al混晶比のバラツキは±0.3%以下であった。シートキャリア濃度は1.2×1012cm2 ±1%であり移動度は6200±2%と非常に均一であった。
【0028】なお、InGaAsの成長においても膜厚バラツキはGaAsと同等であり、キャリア濃度や混晶比の均一性も良好であった。
【0029】本実施例において、原料の利用効率を効果的に高めるためにサセプタ回転数を500rpm以上とすることが望ましいが、原料の利用効率をそれ程望まず、非常に均一なエピタキシャル膜成長を安定に行わせることのみを目的とするのであれば、本発明は、サセプタ回転数が500rpm以下でも、あるいは2000rpm以上でも基本的に有効である。
【0030】また、上記実施例では成長炉を縦に配置した例を説明したが、横に配置した場合であっても原料が基板に垂直に吹き付けられるものであれば本発明を適用することは可能である。また、薄膜に限らず厚膜にも適用できることはもちろんである。
【0031】また、本実施例では排気管をサセプタ面の略延長面上に設けるようにしたが、サセプタ面の略延長面上に設けるのは排気整流部のみで足り、排気整流部を経た後に排気ガスがどの様に引き回されるかは本発明ではあまり重要ではなく、従って排気管への経路が設けられているのであれば、排気管は従来同様に成長炉の下方に設けられていてもよい。
【0032】
【発明の効果】本発明によれば、排気整流部を設けて基板に垂直に吹き付けた原料ガスを排気流量を制御しつつ水平に吐き出すようにしたので、半無限平面と同様なガス流状態を強制的に作ることが可能となり、均一性に優れた膜を成長できる。
【0033】特にサセプタの回転数を100rpm以上とすることにより原料利用効率の高い膜を成長できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】縦型成長炉におけるガス流と排気方法の関係を示す説明図であって、本実施例の原理構成図。
【図2】縦型成長炉におけるガス流と排気方法の関係を示す説明図であって、一般例の構成図。
【図3】縦型成長炉におけるガス流と排気方法の関係を示す説明図であって、理想例の構成図。
【図4】縦型成長炉におけるガス流と排気方法の関係を示す説明図であって、従来例の構成図。
【図5】本発明の気相膜成長装置の実施例を示す構成図。
【図6】本発明の気相膜成長装置の実施例を示す断面図。
【図7】本実施例の成長特性評価に用いたGaAlAs/GaAs選択ドープ構造のエピタキシャル結晶断面図。
【符号の説明】
9 サセプタの回転中心軸
10 成長炉
11 ガス導入口
12 ガス流
13 ガス流境界層
14 基板
15 サセプタ
15 オリフィス
17 逆流防止網
18 弁
19 弁制御手段
30 排気整流部
50 ガス導入口
51 サセプタ
52 ヒータ
53 オリフィス
54 逆流防止網
55 排気管
58 トレイ
59 基板
60 成長炉
61 排気整流部
63 サセプタの回転中心軸
68 ニードルバルブ
69 流量制御計

【特許請求の範囲】
【請求項1】 成長炉内に導いた原料ガスを成長炉外へ吸引排気する際に、回転するサセプタに載せた基板に原料ガスを垂直に吹き付けて膜を成長させる気相膜成長装置において、サセプタ面の略延長面上の成長炉壁に、基板に垂直に吹き付けられて吸引排気される原料ガスを、その排気流量を制御しつつサセプタの径方向外方に導いて水平に吐き出す排気整流部を設けたことを特徴とする気相膜成長装置。
【請求項2】 上記排気整流部が、排気流速を上げるオリフィスと、粒子の逆流を防止する網と、排気流量を調整する弁と、排気流量を測定しその測定結果に応じて上記弁を制御する弁制御手段とから構成されていることを特徴とする請求項1に記載の気相膜成長装置。
【請求項3】 上記排気整流部がサセプタの回転中心軸に対して回転対称の位置に放射状に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の気相膜成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】第2745819号
【登録日】平成10年(1998)2月13日
【発行日】平成10年(1998)4月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−409748
【出願日】平成2年(1990)12月10日
【公開番号】特開平4−209794
【公開日】平成4年(1992)7月31日
【審査請求日】平成7年(1995)9月22日
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【参考文献】
【文献】特開 平2−208927(JP,A)
【文献】特開 昭61−4222(JP,A)