説明

気相酸化触媒用の担体およびその製造方法、気相酸化触媒ならびにアクリル酸の製造方法

【課題】 取り扱いが容易であり、気相酸化触媒を簡便に調製することができ、得られた気相酸化触媒を用いて気相接触酸化を行えば、触媒性能が向上して、その結果、最終生成物を高い収率で得ることを可能にする気相接触酸化用の担体およびその製造方法、気相酸化触媒ならびにアクリル酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】 気相酸化触媒用の担体は、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸を含む。気相酸化触媒は、前記担体にモリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物を担持してなる。アクリル酸の製造方法は、前記気相酸化触媒の存在下で、アクロレインの気相接触酸化を行う。担体の製造方法は、前記担体を構成する固体酸を調製する際に焼成温度を調節することにより、前記固体酸の酸強度(H0)を−5.6≦H0≦1.5に調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相酸化触媒用の担体およびその製造方法、気相酸化触媒ならびにアクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、気相接触酸化は、低コストであり大量生産が可能であることから、石油化学系の原料から有用な基礎化学品を工業的規模で製造するのに広く利用されている。例えば、エチレンの気相接触酸化により酸化エチレンが製造され、ベンゼンまたはn−ブタンの気相接触酸化により無水マレイン酸が製造されている。また、プロパンもしくはプロピレン、または、イソブチレン、tert−ブタノールおよびメチル=tert−ブチル=エーテルから選択される少なくとも1種の化合物から(メタ)アクロレインを経由して(メタ)アクリル酸に至る気相接触酸化により(メタ)アクリル酸が製造されている。
【0003】
これらの気相接触酸化には、通常、アルミナやシリカなどの不活性な担体に、複合酸化物やヘテロポリ酸などの活性な触媒成分を担持してなる触媒が用いられる。
【0004】
しかし、不活性な担体を用いた従来の気相酸化触媒は、工業的規模の製造に用いる場合には、最終生成物の収率が不充分であることや、活性の低下が速く触媒寿命が短いことなどから、必ずしも充分に満足できる触媒性能を有するものではなかった。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、アクロレインを気相接触酸化してアクリル酸を製造するにあたり、モリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物触媒に、酸強度(H0)がH0≦−11.93である固体超強酸を含有させることにより、触媒の活性および安定性を向上させる方法が開示されている。また、特許文献2には、メタクロレイン、イソブチルアルデヒドおよびイソ酪酸から選択される少なくとも1種の化合物を気相接触酸化または気相接触酸化脱水素してメタクリル酸を製造するにあたり、モリブデンとリンとを必須成分とする複合酸化物触媒に、酸強度(H0)がH0≦−11.93である固体超強酸を含有させることにより、触媒の活性および安定性を向上させる方法が開示されている。
【0006】
しかし、このような固体超強酸を用いる方法は、調製方法が煩雑であり、固体超強酸を別調製しているためコストがかかり、必然的に触媒の製造コストが上昇する。
【特許文献1】特開平8−47641号公報
【特許文献2】特開平8−47643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、取り扱いが容易であり、気相酸化触媒を簡便に調製することができ、得られた気相酸化触媒を用いて気相接触酸化を行えば、触媒性能が向上して、その結果、最終生成物を高い収率で得ることを可能にする気相酸化触媒用の担体およびその製造方法、気相酸化触媒ならびにアクリル酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、原料化合物を分子状酸素で気相接触酸化して最終生成物を製造するにあたり、固体超強酸より酸強度が低い所定の酸強度を有する固体酸を担体とする気相酸化触媒を用いれば、触媒性能が向上して、その結果、最終生成物が高い収率で得られること、および、所定の酸強度を有する固体酸を含む担体は、焼成温度を調節することにより、簡便に調製できることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸を含むことを特徴とする気相酸化触媒用の担体を提供する。
【0010】
本発明の担体において、前記固体酸は、好ましくは、アルミニウム、ケイ素、チタンおよびジルコニウムから選択される少なくとも1種の元素を含む(複合)酸化物である。ここで、「(複合)酸化物」とは、酸化物または複合酸化物を意味する。
【0011】
本発明は、前記担体にモリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物を担持してなることを特徴とする気相酸化触媒も提供する。
【0012】
本発明の気相酸化触媒において、前記複合酸化物は、好ましくは、下記式(1):
Mo12abCucdex (1)
[式中、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Aはコバルト、ニッケル、鉄、クロム、鉛およびビスマスから選択される少なくとも1種の元素、Bはアンチモン、ニオブおよびスズから選択される少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、eおよびxは各々V、W、Cu、A、BおよびOの原子比を表し、2≦a≦15、0≦b≦10、0<c≦6、0≦d≦30、0≦e≦6であり、xは各元素の酸化状態により定まる数値である]
で示される複合酸化物である。
【0013】
本発明は、アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を製造するにあたり、前記気相酸化触媒の存在下で気相接触酸化を行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法も提供する。
【0014】
本発明は、前記担体を製造する方法であって、前記担体を構成する固体酸を調製する際に焼成温度を調節することにより、前記固体酸の酸強度(H0)を−5.6≦H0≦1.5に調節することを特徴とする担体の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の担体は、固体超強酸より低い所定の酸強度を有するので、取り扱いが容易であり、気相酸化触媒を簡便に調製することができ、得られた気相酸化触媒を用いて気相接触酸化を行えば、担体が酸点を有するので、触媒上における反応物および生成物の吸脱着が容易となり、完全酸化が抑制されると考えられ、その結果、原料化合物の転化率を高く維持しながら、最終生成物を高い収率で得ることを可能にする。また、本発明による担体の製造方法は、前記担体を構成する固体酸を調製する際に焼成温度を調節するだけで前記固体酸の酸強度を簡便に調節することを可能にする。それゆえ、本発明の担体およびその製造方法、気相酸化触媒ならびにアクリル酸の製造方法によれば、例えば、アクリル酸など、気相接触酸化により得られる基礎化学品の製造コストの大幅な低下が期待できる。なお、前述の内容によって、本発明は何ら制約を受けるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の担体は、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸(以下、単に「固体酸」ということがある。)を含むことを特徴とする気相酸化触媒用の担体である。
【0017】
ここで、「担体」とは、気相接触酸化に活性な触媒成分を担持させるための支持材を意味し、必ずしも前記気相接触酸化に不活性である必要はない。実際、本発明の担体は、気相酸化触媒に用いれば、酸点を有するので、触媒上における反応物および生成物の吸脱着が容易となり、完全酸化が抑制されると考えられ、その結果、原料化合物の転化率を高く維持しながら、最終生成物を高い収率で得ることを可能にする。しかし、気相接触酸化の触媒として実質的に作用するのは、活性な触媒成分であり、所定の酸強度を有する固体酸ではない。それゆえ、本発明では、所定の酸強度を有する固体酸を担体と呼び、活性な触媒成分と区別している。
【0018】
また、「原料化合物」とは、気相接触酸化を受ける原料の化合物を意味し、「最終生成物」とは、気相接触酸化により最終的に得られる目的生成物を意味する。
【0019】
本発明において、固体酸の酸強度(H0)は、下記実施例に記載した方法で測定するものとする。なお、「酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である」とは、固体酸の酸強度(H0)が前記範囲内に含まれること、すなわち固体酸の酸強度(H0)が−5.6以上であり、かつ1.5以下であることを意味する。それゆえ、固体酸は、酸強度(H0)が前記範囲内に含まれる1種類の固体酸から構成されていてもよいし、酸強度(H0)が前記範囲内に含まれる限り、酸強度(H0)が同一または異なる2種類またはそれ以上の固体酸から構成されていてもよい。
【0020】
本発明に用いられる固体酸は、所定の酸強度を有する限り、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)から選択される少なくとも1種の元素を含む(複合)酸化物が例示され、具体的には、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリカ・アルミナ、シリカ・チタニア、シリカ・酸化バナジウム、シリカ・酸化亜鉛、シリカ・ジルコニア、シリカ・酸化モリブデン、シリカ・酸化タングステン、アルミナ・チタニア、アルミナ・酸化バナジウム、アルミナ・酸化亜鉛、アルミナ・ジルコニア、アルミナ・酸化モリブデン、アルミナ・酸化タングステン、チタニア・ジルコニア、チタニア・酸化タングステン、酸化亜鉛・ジルコニア、ゼオライト、ケイ素アルミノリン酸塩などが挙げられる。これらの固体酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの固体酸のうち、アルミニウム、ケイ素、チタンおよびジルコニウムから選択される少なくとも1種の元素を含む(複合)酸化物、中でもアルミニウムとケイ素とを含む複合酸化物が特に好適である。
【0021】
また、固体酸は、所定の酸強度を有する限り、上記(複合)酸化物を2種以上含む混合物の形態や、上記(複合)酸化物を異種の上記(複合)酸化物に担持させた形態、あるいは、上記(複合)酸化物とそれ以外の固体との混合物の形態や、上記(複合)酸化物をそれ以外の固体に担持させた形態であってもよい。
【0022】
固体酸は、(複合)酸化物の構成元素を含む原料から調製すればよい。例えば、上記(複合)酸化物のうち、アルミニウムとケイ素とを含む複合酸化物である固体酸は、例えば、アルミナ粉体とアルミナゾルとコロイド状シリカとの混合物を所望の形状に成形した後、焼成することにより調製することができる。この場合、アルミナ粉体とアルミナゾルとコロイド状シリカとの合計量100質量部に対して、アルミナ粉体とアルミナゾルとの合計量は、60質量部以上、97質量部以下、好ましくは70質量部以上、95質量部以下、より好ましくは80質量部以上、90質量部以下であり、コロイド状シリカの配合量は、3質量部以上、40質量部以下、好ましくは5質量部以上、30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上、20質量部以下である。また、アルミナ粉体とアルミナゾルとの合計量100質量部に対して、アルミナ粉体の配合量は、60質量部以上、97質量部以下、好ましくは70質量部以上、96質量部以下、さらに好ましくは85質量部以上、95質量部以下であり、アルミナゾルの配合量は、3質量部以上、40質量部以下、好ましくは4質量部以上、30質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上、15質量部以下である。焼成温度は、好ましくは600℃以上、1300℃以下、より好ましくは650℃以上、1200℃以下、さらに好ましくは700℃以上、1100℃以下である。焼成時間は、好ましくは0.5時間以上、50時間以内、より好ましくは1時間以上、20時間以内である。
【0023】
固体酸の酸強度を調節する方法としては、固体酸が所定の酸強度を有するように調節できる方法である限り、特に限定されるものではないが、本発明者らが見出した方法、すなわち固体酸を調製する際に焼成温度を調節する方法が好適である。また、固体酸の酸強度は、例えば、複合酸化物の構成元素の種類および/または比率を変える方法などを用いて調節することもできる。
【0024】
担体の形状は、活性な触媒成分を担持できる限り、特に限定されるものではなく、粉末状、粒状、顆粒状、球状、塊状、ペレット状、破砕状、繊維状、針状、柱状、板状など、従来公知のいかなる形状であっても良い。担体の寸法は、使用形態に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0025】
本発明の担体は、好ましくは、担体にモリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物を活性な触媒成分として担持してなる気相酸化触媒に用いられる。
【0026】
本発明の気相酸化触媒において、活性な触媒成分の前記複合酸化物は、好ましくは、下記式(1):
Mo12abCucdex (1)
[式中、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Aはコバルト、ニッケル、鉄、クロム、鉛およびビスマスから選択される少なくとも1種の元素、Bはアンチモン、ニオブおよびスズから選択される少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、eおよびxは各々V、W、Cu、A、BおよびOの原子比を表し、2≦a≦15、0≦b≦10、0<c≦6、0≦d≦30、0≦e≦6であり、xは各元素の酸化状態により定まる数値である]
で示される複合酸化物である。
【0027】
本発明の気相酸化触媒において、担体に担持される複合酸化物の量は、下記式:
担持率(%)=[複合酸化物の質量/(複合酸化物の質量+担体の質量)]×100
で表され、具体的には、好ましくは5%以上、70%以下、より好ましくは10%以上、60%以下、さらに好ましくは15%以上、55%以下である。
【0028】
本発明の気相酸化触媒の形状は、担体の形状に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0029】
本発明において、担体にモリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物を担持してなる気相酸化触媒は、この種の触媒を調製するのに一般的に用いられている方法によって調製することができる。触媒の調製に用いる出発原料は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる各金属元素のアンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物などが用いられるが、複数の金属元素を含む化合物を用いてもよい。担体にモリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物を担持させる方法は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられている方法を用いることができる。例えば、出発原料を含む水溶液、懸濁液または粉体を、予め調製しておいた担体に、含浸、吹き付け、あるいは蒸発乾固などにより担持させ、必要に応じて乾燥させた後、好ましくは300℃以上、600℃以下、より好ましくは320℃、550℃以下、さらに好ましくは350℃以上、500℃以下の温度で1時間〜10時間程度焼成することにより得ることができる。
【0030】
本発明の気相酸化触媒には、強度や粉化度などを改善する目的で、従来公知の補強剤を添加してもよい。
【0031】
本発明の気相酸化触媒は、アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を製造するのに好適である。ここで、気相接触酸化の触媒として実質的に作用するのは、モリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物、好ましくは上記式(1)で示される複合酸化物であり、所定の酸強度を有する固体酸ではない。それゆえ、本発明では、前記複合酸化物を活性な触媒成分、前記固体酸を担体として区別している。
【0032】
そこで、本発明によるアクリル酸の製造方法は、アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を製造するにあたり、上記のような気相酸化触媒の存在下で気相接触酸化を行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法である。
【0033】
本発明によるアクリル酸の製造方法は、上記のような気相酸化触媒を用いること以外は、アクロレインを気相接触酸化してアクリル酸を製造する一般的な方法と実質的に同様にして行うことができる。それゆえ、本発明によるアクリル酸の製造方法に用いる反応器、反応条件などは、特に限定されるものではない。例えば、反応器としては、固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器などの一般的な反応器を用いることができる。また、反応条件については、例えば、原料ガスとして、1体積%以上、15体積%以下、好ましくは4体積%以上、12体積%以下のアクロレインと、0.5体積%以上、25体積%以下、好ましくは2体積%以上、20体積%以下の酸素と、1体積%以上、30体積%以下、好ましくは3体積%以上、25体積%以下の水蒸気、および、20体積%以上、80体積%以下、好ましくは50体積%以上、70体積%以下の窒素などの不活性ガスとからなる混合ガスを、200℃以上、400℃以下、好ましくは220℃以上、380℃以下の温度で、0.1MPa以上、1MPa以下、好ましくは0.1MPa以上、0.8MPa以下の圧力下、300h-1以上、5000h-1以下、好ましくは500h-1以上、4000h-1以下の空間速度(STP)で、気相酸化触媒と接触させて反応させればよい。原料ガスとしては、アクロレイン、酸素および不活性ガスからなる上記のような混合ガスの他、プロピレンを直接酸化して得られるアクロレイン含有ガスに、必要に応じて、空気または酸素、さらに水蒸気を添加して得られる混合ガスを用いることもできる。プロピレンを直接酸化して得られるアクロレイン含有ガスに含まれる未反応のプロピレンまたは副生成物のアクリル酸、酢酸、二酸化炭素、プロパンなどは、本発明の気相酸化触媒を実質的に阻害するものではない。
【0034】
このような条件下で気相接触酸化を行うことにより、アクリル酸含有ガスが得られる。得られたアクリル酸含有ガスは、捕集、脱水、分離、精製など、アクリル酸の製造プロセスで一般的に行われている後工程に付すことにより、最終生成物のアクリル酸が得られる。
【0035】
本発明の担体は、下記実施例で示すように、取り扱いが容易であり、気相酸化触媒を簡便に調製することができ、得られた気相酸化触媒を用いて気相接触酸化を行えば、原料化合物の転化率を高く維持しながら、最終生成物を高い収率で得ることを可能にする。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
下記の実施例1〜2および比較例1〜2では、アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を生成させる実験を行った。この際、酸強度(H0)が異なる種々の固体酸を担体とする触媒を用いて気相接触酸化を行うことにより、触媒性能を評価した。
【0038】
<酸強度の測定>
固体酸の酸強度(H0)は、測定する試料が白色の場合、試料をベンゼン中に浸漬し、これにpKa値が既知の酸塩基変換指示薬を含むベンゼン溶液を添加し、試料表面における指示薬の酸性色への変化を観察し、酸性色に変化しない指示薬のpKa値のうち最も大きいpKa値と、酸性色に変化する指示薬のpKa値のうち最も小さいpKa値との間の範囲内にあるとする。なお、用いた指示薬がすべて酸性色に変化する場合、酸強度(H0)は指示薬のpKa値のうち最も小さいpKa値より小さく、用いた指示薬がすべて酸性色に変化しない場合、酸強度(H0)は指示薬のpKa値のうち最も大きいpKa値より大きいとする。酸強度の測定に用いた指示薬は、以下のとおりである。指示薬名(pKa):ベンザルアセトフェノン(−5.6)、ジシンナマルアセトン(−3.0)および4−ベンゼンアゾジフェニルアミン(1.5)。
【0039】
測定する試料が白色でない場合には、まず、ガスの排気および導入ラインを有する容器に試料を入れ、空気を充分に排気した後、アンモニアガスを導入し、試料にアンモニアを吸着させる。次いで、このアンモニアガスを排気しながら、試料の温度を上昇させ、各温度で排気されるアンモニアガスを液体窒素で捕集し、試料の質量あたりの捕集アンモニア量を測定する。得られた測定値から、別に酸強度(H0)既知の固体酸を用いて作成した検量線に基づいて、試料の酸強度(H0)を算出する。
【0040】
<触媒性能の評価>
触媒性能は、下記式で定義されるアクロレイン転化率およびアクリル酸収率により評価した。
アクロレイン転化率(%)=(反応したアクロレインのモル数/供給したアクロレインのモル数)×100
アクリル酸収率(%)=(生成したアクリル酸のモル数/供給したアクロレインのモル数)×100。
【0041】
<実施例1>
まず、平均粒径2〜10μmのγ−アルミナ粉体75質量部と、有機結合剤としてのメチルセルロース5質量部とを混練機に投入し、充分に混合した。次いで、この混合物に、平均粒径2〜20nmのアルミナゾル8質量部(Al23含有量として)と、平均粒径2〜20nmのコロイド状シリカ17質量部(SiO2含有量として)とを添加し、さらに水を投入し、充分に混合して、シリカを添加したアルミナ混合物を得た。次いで、この混合物を押出成形し、乾燥させた後、1000℃で2時間焼成して、平均粒径7.5mmの粒状複合酸化物からなる固体酸を得た。得られた固体酸の酸強度(H0)は、−3.0≦H0≦1.5であった。
【0042】
水2Lを加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム350g、メタバナジン酸アンモニウム96.6g、パラタングステン酸アンモニウム44.6gおよび重クロム酸アンモニウム12.5gを加え、充分に混合して、水溶液を調製した。別に水0.2Lを加熱攪拌しながら、その中に硝酸第二銅87.8gおよび三酸化アンチモン4.8gを加えた。両方の液を混合した後、得られた混合液を湯浴上の磁性蒸発器に入れ、担体として上記固体酸1.2Lを加え、攪拌しながら蒸発乾固した後、400℃で6時間焼成して、酸強度(H0)が−3.0≦H0≦1.5である固体酸を含む担体に、モリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物を担持してなる気相酸化触媒を調製した。この触媒の担体を除く酸素以外の組成は、原子比で、Mo124.6Cu2.2Cr0.62.4Sb0.2であった。また、担持率は23%であった。
【0043】
気相酸化触媒1Lを直径25mmのステンレス製反応管に充填し、反応管のガス入口から、アクロレイン5体積%、酸素5.5体積%、水蒸気25体積%および窒素64.5体積%からなる混合ガスを空間速度1500h-1(STP)で導入し、気相接触酸化を行った。このとき、反応温度は260℃であった。
【0044】
触媒性能は、アクロレイン転化率98.9%、アクリル酸収率95.1%であった。
【0045】
<実施例2>
実施例1において、固体酸の焼成温度を1000℃から700℃に変更して固体酸を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、気相酸化触媒を調製し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。なお、固体酸の酸強度(H0)は、−5.6≦H0≦−3.0であった。
【0046】
<比較例1>
実施例1において、固体酸の焼成温度を1000℃から1400℃に変更して固体酸を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、気相酸化触媒を調製し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。なお、固体酸の酸強度(H0)は、H0>1.5であった。
【0047】
<比較例2>
実施例1において、固体酸の焼成温度を1000℃から500℃に変更して固体酸を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、気相酸化触媒を調製し、実施例1と同様の条件下で気相接触酸化を行った。結果を表1に示す。なお、固体酸の酸強度(H0)は、H0<−5.6であった。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から明らかなように、酸強度(H0)が−3.0≦H0≦1.5である固体酸を担体として用いた実施例1、および、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦−3.0である固体酸を担体として用いた実施例2は、いずれも、アクロレイン転化率が高く、かつ、アクリル酸収率が高い。これに対し、酸強度(H0)がH0>1.5である固体酸を担体として用いた比較例1、および、酸強度(H0)がH0<−5.6である固体酸を担体として用いた比較例2は、いずれも、アクリル酸収率は比較的低い。このことから、酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸を担体として用いれば、高いアクロレイン転化率を維持しながら、アクリル酸を高い収率で製造可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の担体は、取り扱いが容易であり、気相酸化触媒を簡便に調製することができ、得られた気相酸化触媒を用いて気相接触酸化を行えば、触媒性能が向上して、その結果、最終生成物を高い収率で得ることを可能にする。また、本発明による担体の製造方法は、担体を構成する固体酸の酸強度を簡便に調節することを可能にする。それゆえ、本発明の担体およびその製造方法、気相酸化触媒ならびにアクリル酸の製造方法は、例えば、アクリル酸など、気相接触酸化により得られる基礎化学品の製造コストを大幅に低下させることができるので、これら基礎化学品の製造分野および利用分野に多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸強度(H0)が−5.6≦H0≦1.5である固体酸を含むことを特徴とする気相酸化触媒用の担体。
【請求項2】
前記固体酸がアルミニウム、ケイ素、チタンおよびジルコニウムから選択される少なくとも1種の元素を含む(複合)酸化物である請求項1記載の担体。
【請求項3】
請求項1または2記載の担体にモリブデンとバナジウムとを必須成分とする複合酸化物を担持してなることを特徴とする気相酸化触媒。
【請求項4】
前記複合酸化物が下記式(1):
Mo12abCucdex (1)
[式中、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Aはコバルト、ニッケル、鉄、クロム、鉛およびビスマスから選択される少なくとも1種の元素、Bはアンチモン、ニオブおよびスズから選択される少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、eおよびxは各々V、W、Cu、A、BおよびOの原子比を表し、2≦a≦15、0≦b≦10、0<c≦6、0≦d≦30、0≦e≦6であり、xは各元素の酸化状態により定まる数値である]
で示される複合酸化物である請求項3記載の気相酸化触媒。
【請求項5】
アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を製造する方法であって、請求項3または4記載の気相酸化触媒の存在下で気相接触酸化を行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の担体を製造する方法であって、前記担体を構成する固体酸を調製する際に焼成温度を調節することにより、前記固体酸の酸強度(H0)を−5.6≦H0≦1.5に調節することを特徴とする担体の製造方法。


【公開番号】特開2006−297232(P2006−297232A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120243(P2005−120243)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】