説明

気管カニューレ

【課題】看護者及び患者の負担を軽減することが可能な気管カニューレを提供する。
【解決手段】湾曲した円管状の通気管10と、通気管10の内表面に設けられた複数の突起16と、通気管10の体外側開口部12の近傍に設けられたフレーム20と、通気管10の気管側開口部14の近傍に設けられたカフ22とを備える気管カニューレ1。通気管10の内腔には、複数の突起16が存在している。複数の突起16は、当該突起の先端が体外側開口部12寄りに向くように傾斜配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管カニューレに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、呼吸機能が低下した患者の気道確保等を目的として、気管とその上部の皮膚を切開し、その切開した部分に気管カニューレを挿入する気管切開術が行われている。気管切開術によって気管カニューレを挿管したとき、気管内に痰や分泌物等(以下「痰等」という。)が溜まってしまうことがあるため、このような痰等を除去する手段について様々な技術的検討がなされている。
【0003】
例えば特許文献1には、気管カニューレ内に挿通可能な吸引チューブを有する随時吸引ラインと、気管カニューレに接続され、随時吸引ラインの吸引圧よりも低い吸引圧で持続的に吸引する持続吸引ラインと、持続吸引ライン及び随時吸引ラインに接続された吸引装置とを備える吸引システムが開示されている。持続吸引ラインの末端は気管カニューレの肺側端部に位置しており、気管カニューレの肺側端部付近に溜まっている痰等を持続的に吸引除去することができる。また、持続吸引ラインの吸引圧では吸引できずに痰等が溜まった場合には、随時吸引ラインの吸引チューブを気管カニューレ内に挿通させることによって、吸引チューブの先端を気管内まで到達させることができるため、気管内に溜まった痰等を効果的に吸引除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−220717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された吸引システムのように吸引チューブを用いて痰等を吸引除去するにあたって、患者自身で吸引チューブを操作して痰等を吸引除去するのは容易ではないことから、通常は患者の看護をする者(以下「看護者」という。)が必要に応じて吸引チューブを操作して痰等の吸引除去を行うこととなる。
【0006】
しかしながら、痰等を吸引除去する作業は昼夜時間を問わず必要とされるものであり、患者の状態にもよるが看護者が患者に付きっきりとなることも少なくなく、看護者にかかる肉体的負担や精神的負担は多大なものである。特に看護者が家族である場合、24時間365日、常に付きっきりで看護にあたることからその負担は計り知れない。また、このような負担を感じるのは看護者だけではない。家族の疲弊してゆく姿を目の当たりにしながらも、その家族の手を借りなければ生きてゆけない患者の精神的苦痛は、筆舌に尽くしがたい。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、看護者及び患者の負担を軽減することが可能な気管カニューレを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記の目的を達成するにあたって、看護者の手をなるべく借りなくても気管内の痰等を自然な形で体外に排出することが可能な気管カニューレ、換言すれば「自己排出型の気管カニューレ」を開発コンセプトとして鋭意研究を積み重ねた。その結果、気管カニューレを構成する通気管として、管内に複数の突起が設けられた通気管を用いれば、複数の突起がいわゆる「返し」の役割を果たすことにより、結果として気管内の痰等を自然な形で体外に排出することが可能となることに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の気管カニューレ(1)は、体外側開口部(12)と気管側開口部(14)とを有する通気管(10)を備える気管カニューレであって、前記通気管(10)の内腔には、複数の突起(16)が存在しており、前記複数の突起(16)は、当該突起の先端が前記体外側開口部(12)寄りに向くように傾斜配置されていることを特徴とする。
【0010】
このため、本発明の気管カニューレによれば、通気管の内腔に複数の突起が存在しているため、気管に溜まった痰等が肺からの圧力によって通気管内に進入すると、当該痰等は複数の突起に引っ掛かることとなる。さらに、複数の突起は、突起の先端が体外側開口部寄りに向くように傾斜配置されているため、突起がいわゆる「返し」の役割を果たすこととなり、突起に引っ掛かった痰等が肺方向に移動してしまうのを抑制することが可能となる。つまり、気管カニューレ内に一旦進入した痰等は、突起が備える機能と肺からの圧力とによって通気管の体外側開口部に向けて徐々に移動し、最終的には体外側開口部より排出されることとなる。その結果、看護者の手をなるべく借りなくても気管内の痰等を自然な形で体外に排出することが可能となり、看護者の肉体的、精神的負担を軽減することができるとともに、今まで患者が感じていた精神的苦痛から開放することが可能となる。また、本発明の気管カニューレを用いることによって、吸引チューブを用いて痰等を吸引除去する頻度を大幅に減らすことができるため、患者の肉体的負担も軽減することが可能となる。
したがって、本発明の気管カニューレは、看護者及び患者の負担を軽減することが可能な気管カニューレとなる。
【0011】
本発明の気管カニューレ(2)においては、前記通気管(30)の外表面に設けられたカフ(22)をさらに備え、前記気管側開口部(34)の管内径(D1)は、前記通気管(30)における前記カフ(22)が設けられた位置の管内径(D2)よりも大きいことが好ましい。
【0012】
カフ付きの気管カニューレである場合、上記のように構成することにより、気管の内壁から気管側開口部までの距離が近くなるため、気管に溜まった痰等が気管カニューレ内に進入しやすくなり、結果として体外への痰等の排出をより効果的に行うことが可能となる。
【0013】
本発明の気管カニューレ(1)においては、前記複数の突起(16)の傾斜角度(α)は、プラス5度以上プラス85度以下であることが好ましい。
【0014】
「突起の傾斜角度」とは、通気管の管壁に対して垂直な軸(屈曲部分においては法線)を基準軸としたときの、当該基準軸と傾斜配置された突起の中心軸とのなす角度のことをいう。
例えば傾斜角度が0度とは、通気管の管壁に対して垂直に突出する突起のことを意味する。傾斜角度が0度よりも大きくプラス90度よりも小さければ、先端が体外側開口部寄りに向くように傾斜配置された突起のことを意味する。傾斜角度が0度よりも小さくマイナス90度よりも大きければ、先端が気管側開口部寄りに向くように傾斜配置された突起のことを意味する。
【0015】
なお、本明細書においては、先端が体外側開口部寄りに向くように傾斜配置された突起の傾斜角度は「プラス(+)」で表記し、先端が気管側開口部寄りに向くように傾斜配置された突起の傾斜角度は「マイナス(−)」で表記する。
【0016】
突起の傾斜角度がプラス5度よりも小さいと、「返し」としての役割を十分に果たすことができず、突起に引っ掛かった痰等の肺方向への移動を抑制するのが困難となる。一方、突起の傾斜角度がプラス85度よりも大きいと、気管カニューレ内に進入した痰等が突起に引っ掛かりにくくなる。
これに対し、本発明の気管カニューレによれば、複数の突起の傾斜角度は、プラス5度以上プラス85度以下であるため、「返し」としての機能を十分に発揮することができ、痰等のスムーズな排出を実現することが可能となる。
【0017】
本発明の気管カニューレ(1)においては、前記複数の突起(16)の突出長さ(L)は、0.2mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0018】
「突起の突出長さ」とは、突起の根元から先端までの長さのことをいう。
突起の突出長さが0.2mmよりも小さいと、気管カニューレ内に進入した痰等が突起に引っ掛かりにくくなり、「返し」としての役割を十分に果たすことができない。一方、突起の突出長さが3.0mmよりも大きいと、通気管の内腔を占める突起の割合が必要以上に増えてしまい、通気管内における痰等のスムーズな移動を阻害しかねない。
これに対し、本発明の気管カニューレによれば、複数の突起の突出長さは、0.2mm以上3.0mm以下であるため、「返し」としての機能を十分に発揮することができ、痰等のスムーズな排出を実現することが可能となる。
【0019】
本発明の気管カニューレ(1)においては、前記複数の突起(16)は、前記通気管(10)の内表面に設けられていることが好ましい。
【0020】
このように構成することにより、比較的部品点数が少なく、組み立ての容易な気管カニューレとなる。
【0021】
本発明の気管カニューレ(1)においては、前記通気管(10)と前記複数の突起(16)とは、同一の樹脂材料をもとに一体成形されていることが好ましい。
【0022】
このように構成することにより、複数の突起が設けられた通気管の製造が容易となり、製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【0023】
本発明の気管カニューレ(4)においては、前記通気管(50)の管内に配置され、前記通気管(50)における前記気管側開口部(54)から前記体外側開口部(52)までの長さに対応する長さを有する棒状部材(60)をさらに備え、前記複数の突起(62)は、前記棒状部材(60)の外表面に設けられていることも好ましい。
【0024】
通気管自体に複数の突起を設けずに、棒状部材に複数の突起を設けて当該棒状部材を通気管内に配置したとしても、通気管の内腔に複数の突起が存在することとなり、複数の突起が「返し」の役割を果たす結果、気管内の痰等を自然な形で体外に排出することが可能となる。また、通気管の内表面に複数の突起を設けるのに比べると、棒状部材の外表面に複数の突起を設けた後で当該棒状部材を通気管の管内に配置する方が、製造が容易であるため、本発明の気管カニューレは比較的製造が容易な気管カニューレとなる。
【0025】
本発明の気管カニューレ(4)においては、前記棒状部材(60)と前記複数の突起(62)とは、同一の樹脂材料をもとに一体成形されていることが好ましい。
【0026】
このように構成することにより、複数の突起が設けられた棒状部材の製造が容易となり、気管カニューレの製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【0027】
なお、特許請求の範囲及び本欄(課題を解決するための手段の欄)に記載した各部材等の文言下に括弧をもって付加された符号は、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容の理解を容易にするために用いられたものであって、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態に係る気管カニューレ1を説明するために示す図。
【図2】突起16を説明するために示す部分拡大図。
【図3】通気管10内を移動する痰等SPの動きを説明するために示す図。
【図4】第2実施形態に係る気管カニューレ2を説明するために示す図。
【図5】第3実施形態に係る気管カニューレ3を説明するために示す図。
【図6】第4実施形態に係る気管カニューレ4を説明するために示す図。
【図7】通気管50内を移動する痰等SPの動きを説明するために示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の気管カニューレについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0030】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る気管カニューレ1を説明するために示す図である。図1(a)は気管カニューレ1の外観図であり、図1(b)は気管カニューレ1の内部構造を説明するために示す図であり、図1(c)は気管側開口部14の端面を示す図である。なお、図1(b)においては、カフ22部分のみを断面構造として図示している。また、図1(c)においては、突起16も図示している。
図2は、突起16を説明するために示す部分拡大図である。
図3は、通気管10内を移動する痰等SPの動きを説明するために示す図である。
【0031】
第1実施形態に係る気管カニューレ1は、図1に示すように、湾曲した円管状の通気管10と、通気管10の内表面に設けられた複数の突起16と、通気管10の体外側開口部12の近傍に設けられたフレーム20と、通気管10の気管側開口部14の近傍に設けられたカフ22とを備える。気管カニューレ1は、いわゆる単管タイプのカフ付きカニューレである。
【0032】
通気管10は、体外側開口部12と、気管側開口部14とを有する。図示による説明は省略するが、気管切開術によって気管カニューレ1を挿管したとき、体外側開口部12が体外(皮膚の上)に位置することとなり、気管側開口部14が気管内に位置することとなる。体外側開口部12は、吸引器に繋がるチューブ(図示せず。)と接続可能に構成されている。
【0033】
突起16は、図1(b)に示すように、通気管10の内腔(内部空間)に複数存在している。なお、図1(b)においては通気管10におけるカフ22周辺部分のみの内部を図示しているが、カフ22周辺部分以外の内部においても、通気管10の内表面に突起16が設けられている。
【0034】
突起16は、例えば規則的に配置されている。具体的には、図1(c)に示すように、通気管10の中心軸に沿った方向から見たときに、6個の突起16が当該中心軸を中心として60度の配置間隔で配置されている。この6個の突起16を一群として、気管側開口部14から体外側開口部12に向かって、通気管10の内表面に等間隔で配列されている。
【0035】
複数の突起16は、図2及び図3に示すように、突起の先端が体外側開口部12寄りに向くように傾斜配置されている。図2において、一点鎖線で示す軸A1は、突起16の根元を通り、通気管10の管壁に対して垂直な軸である。また、破線で示す軸A2は、傾斜配置された突起16の中心軸である。突起の傾斜角度とは、軸A1と軸A2とのなす角度αのことをいう。突起16の傾斜角度αは、例えばプラス(+)45度に設定されている。
【0036】
複数の突起16の突出長さ(突起16の根元から先端までの長さ)Lは、例えば1.6mmに設定されている。また、突起16の先端は、尖っておらず丸め処理が施されている。
【0037】
通気管10と複数の突起16はともに、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を材料として一体成形されている。なお、通気管10及び複数の突起16を構成する材料としては、例えばシリコーン樹脂など、生体適合性に優れた他の公知の材料を好適に用いることができる。
【0038】
以上のように構成された第1実施形態に係る気管カニューレ1によれば、通気管10の内腔に複数の突起16が存在しているため、気管に溜まった痰等が肺からの圧力によって通気管10内に進入すると、当該痰等は複数の突起16に引っ掛かることとなる(図3参照。)。さらに、複数の突起16は、突起の先端が体外側開口部12寄りに向くように傾斜配置されているため、突起16がいわゆる「返し」の役割を果たすこととなり、突起16に引っ掛かった痰等が肺方向に移動してしまうのを抑制することが可能となる。つまり、気管カニューレ1内に一旦進入した痰等は、突起16が備える機能と肺からの圧力とによって通気管10の体外側開口部12に向けて徐々に移動し、最終的には体外側開口部12より排出されることとなる。その結果、看護者の手をなるべく借りなくても気管内の痰等を自然な形で体外に排出することが可能となり、看護者の肉体的、精神的負担を軽減することができるとともに、今まで患者が感じていた精神的苦痛から開放することが可能となる。また、第1実施形態に係る気管カニューレ1を用いることによって、吸引チューブを用いて痰等を吸引除去する頻度を大幅に減らすことができるため、患者の肉体的負担も軽減することが可能となる。
したがって、第1実施形態に係る気管カニューレ1は、看護者及び患者の負担を軽減することが可能な気管カニューレとなる。
【0039】
第1実施形態に係る気管カニューレ1によれば、複数の突起16の傾斜角度αは、プラス5度以上プラス85度以下であるため、「返し」としての機能を十分に発揮することができ、痰等のスムーズな排出を実現することが可能となる。
【0040】
第1実施形態に係る気管カニューレ1によれば、複数の突起16の突出長さLは、0.2mm以上3.0mm以下であるため、「返し」としての機能を十分に発揮することができ、痰等のスムーズな排出を実現することが可能となる。
【0041】
第1実施形態に係る気管カニューレ1においては、複数の突起16は、通気管10の内表面に設けられているため、比較的部品点数が少なく、組み立ての容易な気管カニューレとなる。
【0042】
第1実施形態に係る気管カニューレ1においては、通気管10と複数の突起16とは、同一の樹脂材料をもとに一体成形されているため、複数の突起16が設けられた通気管10の製造が容易となり、製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【0043】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態に係る気管カニューレ2を説明するために示す図である。図4(a)は気管カニューレ2の外観図であり、図4(b)は気管カニューレ2の内部構造を説明するために示す図であり、図4(c)は気管側開口部34の部分拡大端面図である。
なお、図4において、図1と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0044】
第2実施形態に係る気管カニューレ2は、基本的には第1実施形態に係る気管カニューレ1と良く似た構成を有するが、通気管の形状が、第1実施形態に係る気管カニューレ1とは異なる。
【0045】
すなわち、第2実施形態に係る気管カニューレ2においては、図4に示すように、通気管30の気管側開口部34の形状は、ラッパ状に広がっている。具体的にいえば、通気管30における気管側開口部34の管内径D1は、通気管30におけるカフ22が設けられた位置の管内径D2よりも大きい。
【0046】
このように、第2実施形態に係る気管カニューレ2は、第1実施形態に係る気管カニューレ1とは通気管の形状が異なるが、第1実施形態に係る気管カニューレ1の場合と同様に、通気管30の内腔に複数の突起36が存在しているとともに、これら複数の突起36が、突起の先端が体外側開口部32寄りに向くように傾斜配置されているため、第1実施形態に係る気管カニューレ1の場合と同様、看護者及び患者の負担を軽減することが可能な気管カニューレとなる。
【0047】
第2実施形態に係る気管カニューレ2においては、気管側開口部34の管内径D1は、通気管30におけるカフ22が設けられた位置の管内径D2よりも大きい。これにより、気管の内壁から気管側開口部34までの距離が近くなるため、気管に溜まった痰等が気管カニューレ2内に進入しやすくなり、結果として体外への痰等の排出をより効果的に行うことが可能となる。
【0048】
第2実施形態に係る気管カニューレ2は、通気管の形状が異なる点以外では、第1実施形態に係る気管カニューレ1と同様の構成を有するため、第1実施形態に係る気管カニューレ1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0049】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態に係る気管カニューレ3を説明するために示す図である。図5(a)は気管カニューレ3の外観図であり、図5(b)は気管カニューレ3の内部構造を説明するために示す図である。
なお、図5において、図1と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0050】
第3実施形態に係る気管カニューレ3は、基本的には第1実施形態に係る気管カニューレ1と良く似た構成を有するが、カフを備えていない点で、第1実施形態に係る気管カニューレ1とは異なる。
【0051】
第3実施形態に係る気管カニューレ3は、図5に示すように、カフなしの単管タイプのカニューレであり、いわゆるスピーチカニューレである。詳細な説明は省略するが、通気管40の体外側開口部42は、スピーチバルブ(図示せず。)と接続可能に構成されている。なお、通気管40の一部には、呼気時に空気穴として機能する側孔48が形成されている。
【0052】
このように、第3実施形態に係る気管カニューレ3は、第1実施形態に係る気管カニューレ1とはカフを備えていない点で異なるが、第1実施形態に係る気管カニューレ1の場合と同様に、通気管40の内腔に複数の突起46が存在しているとともに、これら複数の突起46が、突起の先端が体外側開口部42寄りに向くように傾斜配置されているため、第1実施形態に係る気管カニューレ1の場合と同様、看護者及び患者の負担を軽減することが可能な気管カニューレとなる。
【0053】
第3実施形態に係る気管カニューレ3は、カフを備えていない点以外では、第1実施形態に係る気管カニューレ1と同様の構成を有するため、第1実施形態に係る気管カニューレ1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0054】
[第4実施形態]
図6は、第4実施形態に係る気管カニューレ4を説明するために示す図である。図6(a)は気管カニューレ4の外観図であり、図6(b)は気管カニューレ4の内部構造を説明するために示す図であり、図6(c)は気管側開口部54の端面を示す図である。なお、図6(c)においては、棒状部材60及び突起62も図示している。
図7は、通気管50内を移動する痰等SPの動きを説明するために示す図である。
なお、図6において、図1と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0055】
第4実施形態に係る気管カニューレ4は、基本的には第1実施形態に係る気管カニューレ1と良く似た構成を有するが、棒状部材をさらに備えている点及び複数の突起が設けられている部材が、第1実施形態に係る気管カニューレ1とは異なる。
【0056】
すなわち、第4実施形態に係る気管カニューレ4は、図6に示すように、湾曲した円管状の通気管50と、通気管50の管内に配置された棒状部材60と、棒状部材60の外表面に設けられた複数の突起62と、通気管50の体外側開口部52の近傍に設けられたフレーム20と、通気管50の気管側開口部54の近傍に設けられたカフ22とを備える。
【0057】
棒状部材60は、図示による説明は省略するが、通気管50における気管側開口部54から体外側開口部52までの長さに対応する長さを有しており、通気管50と同様に湾曲した形状を有する。棒状部材60は、例えば断面円形の棒状部材である。
【0058】
棒状部材60は、通気管50の内部において、図示しない固定部材により、通気管50の中心軸に沿って棒状部材60が位置するように固定されている。
【0059】
突起62は、図6(b)に示すように、通気管50の内腔(内部空間)に複数存在している。なお、図6(b)においては通気管50におけるカフ22周辺部分のみの内部を図示しているが、カフ22周辺部分以外の内部においても、棒状部材60の外表面に突起62が設けられている。
【0060】
突起62は、例えば規則的に配置されている。具体的には、図6(c)に示すように、通気管50の中心軸に沿った方向から見たときに、4個の突起62が当該中心軸を中心として90度の配置間隔で配置されている。この4個の突起62を一群として、気管側開口部54から体外側開口部52に向かって、棒状部材60の外表面に等間隔で配列されている。
【0061】
なお、複数の突起62の傾斜角度及び突出長さは、第1実施形態で説明した突起16と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0062】
棒状部材60と複数の突起62はともに、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を材料として一体成形されている。なお、棒状部材60及び複数の突起62を構成する材料としては、例えばシリコーン樹脂など、生体適合性に優れた他の公知の材料を好適に用いることができる。
【0063】
このように、第4実施形態に係る気管カニューレ4は、第1実施形態に係る気管カニューレ1とは、棒状部材をさらに備えている点及び複数の突起が設けられている部材が異なるが、第1実施形態に係る気管カニューレ1の場合と同様に、通気管50の内腔に複数の突起62が存在しているとともに、これら複数の突起62が、突起の先端が体外側開口部52寄りに向くように傾斜配置されているため、第1実施形態に係る気管カニューレ1の場合と同様、看護者及び患者の負担を軽減することが可能な気管カニューレとなる。
【0064】
第4実施形態に係る気管カニューレ4においては、上記した棒状部材60をさらに備え、複数の突起62は、棒状部材60の外表面に設けられている。つまり、第1〜第3実施形態に係る気管カニューレ1〜3のように通気管自体に複数の突起を設けずに、棒状部材60に複数の突起62を設けて棒状部材60を通気管50内に配置したとしても、通気管50の内腔に複数の突起62が存在することとなり、複数の突起62が「返し」の役割を果たす結果、気管内の痰等を自然な形で体外に排出することが可能となる(図7参照。)。また、通気管の内表面に複数の突起を設けるのに比べると、棒状部材60の外表面に複数の突起50を設けた後で棒状部材60を通気管50の管内に配置する方が、製造が容易であるため、第4実施形態に係る気管カニューレ4は比較的製造が容易な気管カニューレとなる。
【0065】
第4実施形態に係る気管カニューレ4においては、棒状部材60と複数の突起62とは、同一の樹脂材料をもとに一体成形されているため、複数の突起62が設けられた棒状部材60の製造が容易となり、気管カニューレの製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【0066】
第4実施形態に係る気管カニューレ4は、棒状部材をさらに備えている点及び複数の突起が設けられている部材が異なる点以外では、第1実施形態に係る気管カニューレ1と同様の構成を有するため、第1実施形態に係る気管カニューレ1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0067】
以上、本発明の気管カニューレを上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0068】
(1)上記各実施形態においては、通気管の内腔において複数の突起が規則的に配置されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の突起が不規則に配置されていてもよい。また、突起の傾斜角度及び突出長さについても、すべての突起において必ずしも同一でなくてもよく、異なる傾斜角度及び異なる突出長さの突起が規則的又は不規則に配置されていてもよい。
【0069】
(2)上記第1〜第3実施形態においては、通気管の中心軸に沿った方向から見たときに、6個の突起が当該中心軸を中心として60度の配置間隔で配置されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、5個以下又は7個以上の突起が等間隔で又は等しくない間隔で配置されていてもよい。上記第4実施形態においても同様に、3個以下又は5個以上の突起が等間隔で又は等しくない間隔で配置されていてもよい。
【0070】
(3)上記各実施形態においては、各突起の先端は、尖っておらず丸め処理が施されていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、各突起の先端は鋭く尖っていてもよい。
【0071】
(4)上記第1〜第3実施形態においては、通気管と複数の突起とがともに同一材料をもとに一体成形されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。通気管と複数の突起とが異なる材料からなり、例えば通気管を形成した後で複数の突起を設けたものであってもよい。上記第4実施形態においても同様に、棒状部材と複数の突起とが異なる材料からなり、例えば棒状部材を形成した後で複数の突起を設けたものであってもよい。
【0072】
(5)上記第2実施形態においては、気管側開口部34がラッパ状に広がった通気管30を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、カフの膨張状態に応じて気管側開口部の形状が変化するような構造を有する通気管であってもよい。すなわち、カフを膨張させる前においては、通気管における気管側開口部の管内径D1は、通気管におけるカフが設けられた位置の管内径D2と同じであり、カフを膨張させたときには、そのカフの膨張量にあわせて気管側開口部の管内径D1が徐々に大きくなり、気管側開口部がラッパ状に広がるように構成された通気管であってもよい。この場合、体内に気管カニューレを挿管する際に挿管しやすいという効果がある。
【0073】
(6)上記第4実施形態においては、棒状部材として、断面円形の棒状部材を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、断面楕円形の棒状部材や、断面多角形(例えば四角形など)の棒状部材であってもよい。
【0074】
(7)上記第4実施形態においては、通気管50の内表面に複数の突起が設けられていない場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、通気管の内表面に複数の突起が設けられていてもよい。つまり、棒状部材の外表面及び通気管の内表面の両方に複数の突起が設けられていてもよい。
【0075】
(8)本発明は、いわゆる単管式の気管カニューレだけではなく、内管と外管からなる複管式の気管カニューレにも適用可能である。複管式の気管カニューレであれば、例えば内管の内側に複数の突起を設けることにより、本発明と同様の効果を得ることが可能となる。
【0076】
(9)本発明は、気管切開術が行われたときに挿管される気管カニューレのみならず、痰等の排出を目的として経口的又は経鼻的に挿管される気管内チューブにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の気管カニューレは、気道確保等を目的として気管に挿入するためのカニューレとして利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1,2,3,4 気管カニューレ
10,30,40,50 通気管
12,32,42,52 体外側開口部
14,34,44,54 気管側開口部
16,36,46,62 突起
20 フレーム
22 カフ
48 側孔
60 棒状部材
A1 管壁に垂直な軸
A2 突起の中心軸
D1 気管側開口部の管内径
D2 通気管におけるカフが設けられた位置の管内径
L 突起の突出長さ
SP 痰等
α 突起の傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外側開口部(12)と気管側開口部(14)とを有する通気管(10)を備える気管カニューレであって、
前記通気管(10)の内腔には、複数の突起(16)が存在しており、
前記複数の突起(16)は、当該突起の先端が前記体外側開口部(12)寄りに向くように傾斜配置されていることを特徴とする気管カニューレ(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の気管カニューレにおいて、
前記通気管(30)の外表面に設けられたカフ(22)をさらに備え、
前記気管側開口部(34)の管内径(D1)は、前記通気管(30)における前記カフ(22)が設けられた位置の管内径(D2)よりも大きいことを特徴とする気管カニューレ(2)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の気管カニューレにおいて、
前記複数の突起(16)の傾斜角度(α)は、プラス5度以上プラス90度以下であることを特徴とする気管カニューレ(1)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の気管カニューレにおいて、
前記複数の突起(16)の突出長さ(L)は、0.2mm以上3.0mm以下であることを特徴とする気管カニューレ(1)。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の気管カニューレにおいて、
前記複数の突起(16)は、前記通気管(10)の内表面に設けられていることを特徴とする気管カニューレ(1)。
【請求項6】
請求項5に記載の気管カニューレにおいて、
前記通気管(10)と前記複数の突起(16)とは、同一の樹脂材料をもとに一体成形されていることを特徴とする気管カニューレ(1)。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の気管カニューレにおいて、
前記通気管(50)の管内に配置され、前記通気管(50)における前記気管側開口部(54)から前記体外側開口部(52)までの長さに対応する長さを有する棒状部材(60)をさらに備え、
前記複数の突起(62)は、前記棒状部材(60)の外表面に設けられていることを特徴とする気管カニューレ(4)。
【請求項8】
請求項7に記載の気管カニューレにおいて、
前記棒状部材(60)と前記複数の突起(62)とは、同一の樹脂材料をもとに一体成形されていることを特徴とする気管カニューレ(4)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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