説明

気管チューブ

【課題】痰の吸引路を持つ気管チューブにおいて、痰の吸引時に痰の吸引口が気管粘膜を吸引してしまうことによる粘膜損傷、出血の危険性の低減を可能とした気管チューブの提供。
【解決手段】口あるいは鼻孔から挿管する気管内チューブあるいは、気管切開口から挿管する気管切開チューブで、特に気管内の痰の吸引ができるようにその呼吸路1に沿って痰吸引路2が設置された気管内チューブあるいは気管切開チューブ(以下、そのようなチューブを単に「気管チューブ」と呼ぶ)であって、前記痰吸引路2の吸引口として、気管粘膜と向かい合う側に開口する外側吸引口5と呼吸路側に開口する内側吸引口3の2つの吸引口を持ち、かつ外側吸引口5の機器端側(吸引装置と接続する側)の縁の位置6が内側吸引口の機器端側の縁の位置4より気管チューブ先端側に寄っていることを特徴とする気管チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は気管チューブを挿管している患者に対して、その気管チューブの痰吸引路を用いて痰を吸引する際に、痰とともに気管粘膜を吸引してしまうことによる粘膜損傷、出血の危険性を低減することを目的とした吸引口に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気管チューブを気管に挿管している患者は、しばしば気管、気管支内に貯留する痰により気道が閉塞し、呼吸困難に陥ることがある。これを防ぐために、体位ドレナージ・呼吸介助手技などの呼吸理学療法で末梢気管支の痰を主気管支・気管に集め、さらに吸引カテーテルを気管チューブの呼吸路を通して気管・主気管支まで挿入して、この集めた痰を吸引する必要がある。
【0003】
しかし、この気管内の痰の吸引は、吸引カテーテルを気管内に挿入することによる患者の苦痛、吸引装置による気道内の急激な陰圧による刺激、さらに人工呼吸器使用患者では、一時的に人工呼吸器との接続を解かなければならず、この痰の吸引操作の間、患者は呼吸できないといった問題があった。
【0004】
特許文献1によると呼吸路側と気管粘膜と向かい合う側に吸引口を持つ痰吸引路を設置した気管チューブでは、気管粘膜を吸引してしまうことなく痰の吸引を実現する気管カニューレの発明例がある。
【特許文献1】出願番号通知「PCT/JP2005/17742」、発明の名称「気管カニューレ」
【0005】
しかし、実際には外側吸引口と内側吸引口が存在するだけでは気管粘膜を外側吸引口に吸引してしまい粘膜からの出血を引き起こすようなケースが実際にあった。また実験により外側吸引口の機器端側の縁の位置と内側吸引口の機器端側の縁の位置の関係により気管粘膜を吸引しない安全なものとそうでない危険なものがあることが確認された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の気管内の痰の吸引に際して気管粘膜を吸引してしまうという危険性を、痰の吸引路の内側・外側の二つの吸引口の構造に工夫を凝らすことによって低減することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、口あるいは鼻孔から挿管する気管内チューブあるいは、気管切開口から挿管する気管切開チューブで、特に気管内の痰の吸引ができるようにその呼吸路に沿って痰吸引路が設置された気管内チューブあるいは気管切開チューブ(以下、そのようなチューブを単に「気管チューブ」と呼ぶ)であって、前記痰吸引路の吸引口として、気管粘膜と向かい合う側に開口する外側吸引口と呼吸路側に開口する内側吸引口の2つの吸引口を持ち、かつ外側吸引口の機器端側(吸引装置と接続する側)の縁の位置が内側吸引口の機器端側の縁の位置より気管チューブ先端側に寄っていることを特徴とする気管チューブである。
【発明の効果】
【0008】
本願発明では痰を吸引する痰吸引路の外側吸引口の機器端側(吸引装置と接続する側)の縁の位置を、内側吸引口の機器端側の縁の位置より気管チューブ先端側にずらすことによって、たとえ気管粘膜を吸引しても内側吸引口の機器端側は常に開いているので、痰は吸引されることとなり、気管粘膜を吸引に伴う危険性を著しく低減して痰を排出することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に述べる。
本発明にかかる気管チューブ自体は既存の気管チューブでよく使われているポリ塩化ビニルやポリウレタン、シリコーンゴム等で作成してよい。気管チューブの呼吸路と平行に痰吸引路が設けられている。
【0010】
痰吸引路は幅3mm、高さ1mm程度の断面が長方形あるいは半楕円形状の内腔を持つものが呼吸路の肉厚部分に内蔵されていてもよいし、内径3mm程度のチューブ、あるいはこれと同程度の内腔を持つ半楕円形状のチューブが、呼吸との外側あるいは内側に取り付けられていてもよい。痰吸引路の内腔は大きい方が痰の吸引のためにはよいが、内蔵している場合あるいは呼吸路を形成するパイプの内側に貼り付けられている場合には、その分呼吸路の内腔が小さくなり換気量が十分に得られないという問題が発生し、呼吸路を形成するパイプの外側に貼り付けた場合は大きく出っ張ることになるので気管粘膜への刺激となり問題になる。
【0011】
痰吸引路の機器端側は接続チューブを介して、痰を吸引するための吸引装置に接続される。
【0012】
痰吸引路は気管チューブの先端近くで気管粘膜と向き合う側の外側吸引口と呼吸路側に開口している内側吸引口との2つの吸引口を有する。これらの吸引口の径は3mm程度でよい。径が1mm程度では粘性の高い痰の場合に抵抗が大きすぎて吸引できない恐れがある。また痰吸引路の断面積よりも極端に大きな断面積の吸引口となるような径は意味がない。外側および内側吸引口の形状は円形、楕円形、長方形などの痰の吸引の妨げにならない形状であればよい。
【0013】
外側吸引口の機器端側の縁の位置は、内側吸引口の機器端側の縁の位置より少なくとも1mm程度は気管チューブ先端側に位置している。気管チューブと気管の隙間をシールするためのカフはあってもなくてもよい。カフがある場合には、外側吸引口および内側吸引口はカフよりも気管チューブ先端側に開口している。
痰の吸引に使用する装置は種類は問わないが、特許文献1にあるように、例えばチューブポンプを用いる。
【0014】
図を以て本発明を説明する。図1は本発明に係る気管チューブの全体図である。図1において、気管チューブの呼吸路1に沿って痰吸引路2が設けられており、痰吸引路2の一方はコネクター9を介して痰を吸引するための吸引装置に接続されている。痰吸引路2の他端は閉鎖されていて気管チューブ先端と一体となって気管支内に挿入されている。そして、痰吸引路2の気管チューブ先端側に内側吸引口3と外側吸引口5が設けられている。本発明では外側吸引口5の機器端側の縁6の位置は内側吸引口3の機器端側の縁4の位置取り気管先端側に寄っているのである。なお、図1において7は気管、8は気管粘膜を示す。
【0015】
図2は内側吸引口の機器端側の縁の位置が外側吸引口の機器端側の縁の位置よりも先端にある場合を示す。このような吸引口の構造では、偶発的に気管粘膜が外側吸引口に触れた場合、容易に気管粘膜が痰吸引路を閉塞してしまえる構造である。一度痰吸引路が閉塞してしまうと痰吸引路内は連続的に動いている吸引装置の働きにより吸引路内は高い陰圧になり、気管粘膜はずっと痰吸引路に強く吸着したままとなる。その結果、粘膜損傷や出血が起きることがある。
【0016】
この課題について鋭意検討の結果、図3のように外側吸引口の機器端側の縁の位置が内側吸引口の機器端側の縁の位置よりも気管チューブ先端側に位置している吸引口の配置では、気管粘膜によって痰吸引路を閉塞させる可能性はきわめて小さいことを見出し、本発明を完成させた。本発明は模擬実験により見出されたものであって、理由は明確ではないが、この吸引口の構造の場合に痰吸引路を塞ぐには気管粘膜がきわめて大きく変形する必要があるが、現実には気管粘膜がそこまで大きく変形できないためと予想している。気管粘膜が偶発的に外側吸引口を塞いでも、内側吸引口から痰または空気が吸引され続ける隙間が生じることができ、痰吸引路内に強い陰圧がかかることはない。よって、気管粘膜が痰吸引路に吸着してしまうことはなく、損傷を受けることはない。
【0017】
図4は外側吸引口の機器端側の縁の位置と内側吸引口の機器端側の縁の位置が同じ位置にある場合を示す。即ち、図4に示すような外側吸引口と内側吸引口が同じ形状、大きさで、痰吸引路と直角方向に一直線上に配置した構造のものも考えられるが、これは図2の吸引口の構造よりは危険度は低いが、図3の吸引口の構造よりは危険度が高いことが推測される。
【0018】
上述の図2ないし図4の現象を模擬実験をもって試してみた。
鶏卵の卵白および卵黄をビーカーに入れ、そのビーカーに気管チューブの先端を差し入れ、外側吸引口が卵黄に押し当てられた状態にして、チューブポンプを停止状態から作動させ、300ml/分で吸引するという実験を行った。卵黄膜を気管粘膜に、卵白を痰と想定し、卵黄膜を損傷せずに卵白のみを吸引できるかを観察した。
実験の結果、図2に示す痰の吸引口の構造の気管チューブではチューブポンプを作動させた直後に卵黄膜が痰吸引路に引き込まれて破裂し、卵白とともに卵黄が吸引されたが、図3、図4に示す吸引口の構造の気管チューブでは卵黄膜に損傷を与えず、卵黄を破裂させることなく、卵白のみを吸引し続けた。
【0019】
また気管粘膜の代用として生のタコ、なまこ等をサンプルとしてその表面に外側吸引口を押し当ててチューブポンプで300ml/分で吸引させてみたが、図3の構造のものはサンプル表面を吸引しても吸引路を閉塞することはなかったが、図4の構造のものはサンプル表面が吸引路に引き込まれ吸引路を閉塞することがあった。
前記、二種類の実験から気管粘膜をもっとも吸い込みにくい構造は図3の構造、次点が図4の構造、もっとも吸い込みやすいのは図2の構造と判断できる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例として図面に基づいて更に具体的に説明する。
実施例1
図5は本発明にかかるカフ付き気管切開チューブの断面図であり、気管切開口から患者の気管に挿管された状態を示す。痰吸引路は呼吸路を形成するパイプ部の肉厚部分に内蔵されている。外側吸引口および内側吸引口は同じ形状、大きさであるが、外側吸引口が内側吸引口よりも気管切開チューブ先端側に寄っている。気管の気管支側から移動してきた痰は気管粘膜に沿って口・鼻側に移動するとともに、呼吸による空気の流れに乗って気管チューブの呼吸路の中にも入り込む。気管チューブと気管粘膜の間に貯留した痰は外側吸引口から、呼吸路に入り込んだ痰は内側吸引口から吸引される。
【0021】
実施例2
製造上の観点からは実施例1に示されるような外側吸引口と内側吸引口の位置をずらして製造するのは困難である。吸引路の軸に対して斜めに、気管チューブ先端外側から気管チューブ機器端内側に向けて直線上に開口させてもよい。(図6)ドリルもしくは打ち抜き器等で痰吸引路を貫通させることにより外側吸引口および内側吸引口を作成する。
【0022】
実施例3
実施例1および2では外側吸引口と内側吸引口の形状、大きさは同じであったが、必ずしもそうでなくともよい。外側吸引口の気管チューブ軸方向の径よりも内側吸引口の同方向の径を大きくして、外側吸引口の機器端側の縁の位置が内側吸引口の機器端側の縁の位置よりも気管チューブ先端側にすることができる。
【0023】
実施例4
痰吸引路は気管チューブの呼吸路を形成するパイプ部内側に貼り付けられていてもよい。その典型的な例の気管チューブの断面を図8に示す。
【0024】
実施例5
痰吸引路は気管チューブの呼吸路を形成するパイプ部外側に貼り付けられていてもよい。その典型的な例の気管チューブの断面を図9に示す。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明品の全体図。
【図2】内側吸引口の機器端側の縁の位置が外側吸引口の機器端側の縁の位置よりも先端側にある場合。
【図3】外側吸引口の機器端側の縁の位置が内側吸引口の機器端側の縁の位置よりも先端側にある場合。
【図4】外側吸引口の機器端側の縁の位置と内側吸引口の機器端側の縁の位置とが同じ位置にある場合。
【図5】本発明品と痰の流れ
【図6】外側吸引口と内側吸引口が斜めに直線上に開いている場合。
【図7】外側吸引口の径と内側吸引口の径が違う場合。
【図8】痰吸引路が呼吸路を形成するパイプ部内側に貼り付けられている場合。
【図9】痰吸引路が呼吸路を形成するパイプ部外側に貼り付けられている場合。
【符号の説明】
【0026】
1 呼吸路 2 痰吸引路 3 内側吸引口
4 内側吸引口機器端側の縁 5 外側吸引口
6 外側吸引口機器端側の縁 7 気管 8 気管粘膜
9 接続チューブをつなげるためのコネクタ 10 カフ 11 痰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口あるいは鼻孔から挿管する気管内チューブあるいは、気管切開口から挿管する気管切開チューブで、特に気管内の痰の吸引ができるようにその呼吸路に沿って痰吸引路が設置された気管内チューブあるいは気管切開チューブ(以下、そのようなチューブを単に「気管チューブ」と呼ぶ)であって、前記痰吸引路の吸引口として、気管粘膜と向かい合う側に開口する外側吸引口と呼吸路側に開口する内側吸引口の2つの吸引口を持ち、かつ外側吸引口の機器端側(吸引装置と接続する側)の縁の位置が内側吸引口の機器端側の縁の位置より気管チューブ先端側に寄っていることを特徴とする気管チューブ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−23105(P2008−23105A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199592(P2006−199592)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(502131442)株式会社徳永装器研究所 (9)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)