説明

気管内及び気管開口チューブ用の痰溶解吸引溶液

デバイスの表面上の痰を溶解させるか又は痰の粘度を低減させるための組成物は、食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を含む。グリセロールの有効量は約30〜50%であり、デキストラン硫酸の有効量は約10〜30%である。組成物はさらに抗菌剤を含んでよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
この出願は、2009年1月27日に出願され、出願番号61/147,658を有する米国仮特許出願及び2009年2月6日に出願され、出願番号61/150,488を有する米国仮特許出願に対する優先権を主張する。これらの出願の開示は、参照によってその全体が本明細書に援用される。
(発明の分野)
本発明は、一般的に医療及び呼吸デバイスに関する。さらに詳しくは、本発明は、気管内又は気管開口チューブ並びにその表面上の粘液又は痰の減少のためのシステム、デバイス、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
この発明は、気管内又は気管開口チューブのような、痰と接触する医療デバイスに関連して使用する組成物に関する。機械的人工呼吸を要する患者は、気管内又は気管開口チューブが挿管されることが多い。気道内における粘液の形成は、生体防御の正常な現象である。痰は、正常な粘液線毛クリアランスによっては気道から容易に除去できない粘液の蓄積である。痰は、普通は深い咳によって取り除かれる。従って、機械的人工呼吸患者では、気管内挿管が粘液線毛輸送システムを大いに傷つけ、肺内における大量の痰の蓄積につながる。移植気道デバイスと関連する粘液の蓄積も排除チューブ内の封鎖をもたらす。
さらに、気管内チューブ(ETT)のカフ上に口腔からの分泌物が蓄積するようになることがある。気管内チューブを通じた多数の潜在的病原への下気道の連続的曝露及びカフ周囲の下気道への微量誤嚥(micro aspiration)(漏出)は、気道感染症又は人工呼吸器関連肺炎(VAP)につながり得る。
VAPは、最も深刻かつ費用のかかる院内感染の一つである。人工呼吸器を付けた患者の約8〜28%がVAPを発症し、治療費を少なくとも20,000〜40,000$増加させている。従って、挿入されたETTの上又はその周囲の痰の蓄積の除去はVAPを予防し、ひいては医療費を低減させることができる。さらに、痰を除去すると、排除チューブをうまく働かせることができる。
【0003】
この問題を解決するための既知の試みの結果、医療供給者が吸引溶液として食塩水を用いて粘液の蓄積を緩めるか又は溶解させることとなった。このような方法では、吸引カテーテルを気管内に挿入し、連続的若しくは間欠的減圧又は手動吸引を施してETTの内腔を通じて痰を除去する。ETTのカフ上に蓄積するようになる分泌物をも吸引を行なって除去する。多くの場合、蓄積した痰は濃厚かつ粘度が高すぎて容易に動かない。特に連続吸引の実施において声門下の吸引部、内腔、及びコネクター(すなわち、EVACチューブ)に関連してETTで起こる別の合併症は、ETTカフ上に乾燥した分泌物層の蓄積をもたらし得ることであり、これは声門下の吸引ETTの吸引部を完全に詰まらせる可能性がある。従って、食塩水の使用は不十分かつ厄介である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、挿管チューブ上の痰及び粘液の蓄積が肺炎を引き起こし、かつ食塩水を用いたその除去は不十分かつ厄介であるという挿管に関連する問題が存在する。従って、痰の粘度を低減させることによって、チューブから痰及び粘液の蓄積を効率的に除去できる、挿管チューブ上で用いられる痰溶解吸引溶液を提供することが望ましい。
従って、医療デバイスの表面上の痰を溶解させるための組成物及びその使用方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の概要)
上記要求は本発明によって大いに満たされる。本発明の一態様では、デバイスの表面上の痰を溶解させるか又は痰の粘度を低減させるための組成物を提供する。一部の実施形態では、本発明は、食塩水中の有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を提供する。グリセロールの有効量は約30〜50%であり、デキストラン硫酸の有効量は約10〜30%である。食塩水は少なくとも約0.85%である。本組成物はさらに1種以上の抗菌剤を含む可能性を提供する。
本発明の実施形態は、気管内のデバイスの表面から痰を除去するための方法に関する。本方法は、デバイスの表面に組成物を適用して粘液を溶解させる工程を含む。本組成物は、食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を含む。本方法はさらに、粘液を溶解させ、かつ該粘液を気管から除去する工程を含む。
本発明の別の実施形態は、患者の気管内の気管カフチューブの表面又はチューブの内腔の表面から、蓄積した痰又は粘液を除去するための方法に関する。本方法は、気管カフチューブの表面又はチューブの内腔の表面に組成物を適用して、蓄積した痰又は粘液を溶解させる工程を含む。本組成物は、食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を含む。本方法はさらに、蓄積した痰又は粘液を溶解させる工程及び蓄積した痰又は粘液を表面から吸引する工程を含む。
本発明のさらに別の実施形態はキットに関する。キットは、吸引カテーテルと、食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を有する痰溶解溶液とを含む。
本発明のさらに別の実施形態は、VAP予防キットに関する。VAP予防キットは、食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を有する痰溶解溶液と、歯口清掃物品とを含む。歯口清掃物品は、少なくとも歯ブラシ、スワブ、及び消毒マウスリンスを含む。
【0006】
本発明の詳細な説明をよく理解できるように、かつ本発明の当該技術への貢献をよく認められるように、本発明の特定の実施形態について、かなり広く概要を述べた。当然に、後述し、かつ添付の特許請求の範囲の主題を構成する本発明のさらなる実施形態がある。
この点で、本発明の少なくとも一つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、本発明の適用において以下の説明で述べるか又は図面に示す構成の詳細又は成分の配置に限定されないことを理解すべきである。本発明は、記載したものに加えて実施形態が可能であり、かつ種々のやり方で本発明を実施かつ実行することができる。また、当然のことながら、本明細書、及び要約書で使用する表現及び技術用語は、説明の目的のためであり、限定とみなすべきでない。
そういうわけで、当業者は、本発明のいくつかの目的を実施するための他の構造、方法及びシステムの設計の基礎として、この開示が基礎としている概念を容易に利用し得ることを認めるであろう。従って、このような等価な構成が本発明の精神及び範囲から逸脱しない限りにおいて、特許請求の範囲がこのような等価な構成を含むものとみなすことが重要である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1に記載のプロセスの種々の処理による第3サイクルの完了後に撮った一連のマイクロタイタープレートの顕微鏡写真である。
【図2】実施例2に記載のプロセスの種々の処理による第3サイクルの完了後に撮った一連のマイクロタイタープレートの顕微鏡写真である。
【図3】種々の濃度の食塩水中の40%グリセロールと10%デキストラン硫酸の混合物への5分の曝露後に撮った一連のマイクロタイタープレートの顕微鏡写真である。
【図4】2分の曝露後のプランクトン肺炎桿菌(K. pneumoniae )に及ぼすヨウ素及びヨウ化カリウムの濃度を変える効果を示すチャートである。
【図5】2分の曝露後のいくつかのプランクトン細菌種に及ぼすヨウ素の濃度を変える効果を示すチャートである。
【図6】15分の曝露後のいくつかの細菌種の成熟バイオフィルムに及ぼすヨウ素の濃度を変える効果を示すチャートである。
【図7】15分の曝露後の肺炎桿菌の成熟バイオフィルムに及ぼすヨウ素の濃度を変える効果を示すチャートである。
【図8】15分の曝露後の気管内チューブカフ上で成長した肺炎桿菌の成熟バイオフィルムに及ぼすヨウ素の濃度を高める効果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(詳細な説明)
本発明の実施形態は、医療デバイスの表面上の痰を溶解させるか又は痰の粘度を低減させるための組成物を含む。本組成物は、食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を含む。本明細書で示しかつ述べるように、グリセロールの有効量は約30〜50%である。デキストラン硫酸の有効量は約10〜30%である。食塩水の有効量は少なくとも約0.85%である。開示される組成物は、食塩水中に約40%で有効量のグリセロール及び約20%で有効量のデキストラン硫酸を有し得る。この組成物では、グリセロールは、粘液を湿らせるか又は粘液が乾燥沈着物を形成した場合に粘液を再び湿らせるための乾燥防止剤として用いられ、デキストラン硫酸は、気管内チューブ(ETT)上の痰の粘度を低減させるための溶解剤として用いられる。このグリセロール、デキストラン硫酸、及び食塩水のユニークかつ新規な組合せが相乗的に働いて、気管の表面又は気管開口チューブの表面上の粘液の蓄積を効率的に緩め、かつ世話人が吸引デバイスを用いて容易に粘液を除去できるようにする。さらに、この組成物の使用は、「微量誤嚥」連鎖的人工呼吸器関連肺炎(VAP)エピソードを最小限にし、かつ気道管理を改善する。
【0009】
痰を溶解させるか又は痰の粘度を低減させることに加えて、本組成物はさらに、感染症を予防する薬剤(例えば、抗菌剤及び抗生物質)、化学療法薬、消毒薬、抗菌色素、又は他の殺生物剤の化合物を含むことができる。本組成物で使う薬剤の化合物としては、とりわけ、タウリンアミド誘導体、フェノール、四級アンモニウム界面活性剤、塩素含有、キノリン、キナルジニウム、ラクトン、色素、チオセミカルバゾン、キノン、スルファ、カルバマート、尿素、サリチルアミド、カルバニリド、アミド、グアニド、アミジン、キレート、イミダゾリン殺生物剤、酢酸、安息香酸、ソルビン酸、プロピオン酸、ホウ酸、デヒドロ酢酸、亜硫酸、バニリン酸、p-ヒドロキシ安息香酸のエステル、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、ヨウ素(種々の溶媒中)、ポビドン-ヨウ素、ヘキサメチレンテトラミン、ノキシチオリン、1-(3-コロアリル)-3,5,7-トリアゾ-1-アゾニアアダマンタンクロリド、タウロリジン、タウルルタム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、N(5-ニトロ-2-フルフリリデン)-1-アミノ-ヒダントイン、5-ニトロ-2-フルアルデヒドセミカルバゾン、3,4,4'-トリクロロカルバニリド、3,4',5-トリブロモサリチルアニリド、サリチルアニリド、3-トリフルオロメチル-4,4'-ジクロロカルバニリド、8-ヒドロキシキノリン、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-3-キノリンカルボン酸、1,4-ジヒドロ-1-エチル-6-フルオロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-3-キノリンカルボン酸、過酸化水素、過酢酸、フェノール、ナトリウムオキシクロロセン、パラクロロメタキシレノール、2,4,4'-トリクロロ-2'-ヒドロキシジフェノール、チモール、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、銀、ナノ銀、銀スルファジアジン、硝酸銀、5-フルオロウラシル、フェノール系消毒薬、ゲンチアンバイオレット、メチレンブルー、ブリリアントグリーン、及びビスマス化合物から成る群より選択される化合物が挙げられる。
【0010】
(使用方法)
実施では、医療供給者は、食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を有する本発明の組成物を気管内チューブ又は気管開口チューブの表面に適用する。組成物は、約5〜15分の時間をかけて如何なる乾ききった痰をも溶解させ及び湿らせる。完全には乾燥していない濃厚な痰では、本発明の組成物を痰に適用すると、触れるとすぐ又は即座に痰を薄くする。痰が溶解するか又は薄くなったら、吸引デバイスを用いて痰を除去する。
本発明の組成物は、気管カフチューブの表面又はチューブの内腔の表面から、乾燥した痰又は粘液を溶解させることもできる。例えば、本組成物を気管カフチューブの表面又はチューブの内腔の表面に適用し、乾燥した痰を溶解及び軟化させる。痰を溶解又は軟化させるのに応じて、吸引デバイスを用いて痰を除去することができる。
【0011】
(キット)
本発明の別の実施形態は、本組成物と、医療供給者又は患者が使う装置とを含むキットを包含する。特定の例では、キットは吸引カテーテル及び痰溶解溶液を含む。好ましい実施例では、使用後に吸引カテーテルを処分して、汚染を減らすか又は予防し、かつ感染のリスクを低減させることができる。
本発明の別の実施形態では、キットは痰溶解溶液及び歯口清掃物品、例えば歯ブラシ、スワブ、及び消毒マウスリンス等を含む。これらの物品の痰溶解溶液との併用は、患者の口腔衛生を改善する。
【0012】
(方法及び再利用)
実施例1:痰の水和/溶解についての薬剤の評価
種々の濃度のグリセロール及びデキストラン硫酸(w/v)を含む試験溶液を0.85%の生理食塩水中で調製した。特に断らない限り、全工程を37℃で行なった。48ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルを試験溶液で2時間予め湿らせた。次に、予め湿らせた表面上で2時間ヒト痰(20μl)を乾燥させた後、100μlの試験溶液と15分間インキュベーションを行なって乾燥痰を溶解させ、引き続き溶液を除去した。痰の乾燥、試験溶液とのインキュベーション及び除去の全サイクルを3回繰り返した。3回目かつ最後のサイクルでは、15分の代わりに一晩、乾燥痰を試験溶液とインキュベートした。目視観測を各サイクルで記録し、顕微鏡下で写真を撮った。
図1は、実施例1に記載のプロセスの種々の処理による第3サイクルの完了後に撮った一連のマイクロタイタープレートの顕微鏡写真である。図1に示す結果及び下表1〜3は、40%のグリセロールと20%のデキストラン硫酸の組合せが食塩水、グリセロール又はデキストラン硫酸のみを含む溶液に比し、乾燥した痰を溶解させるのに最も有効な溶液であることを示している。
【0013】
表1:グリセロールのみ

【0014】
表2:デキストラン硫酸(8kDa)のみ

【0015】
表3:デキストラン硫酸と組み合わせた40%グリセロール

【0016】
表1は、0.1%、10%、30%、及び40%の濃度のグリセロールのみを使用することによって、乾燥、溶媒とインキュベート及び溶媒の除去の3サイクル後に、マイクロタイタープレートが痰の残渣を含むことを示す。表2は、1%、5%、10%、及び20%の濃度のデキストラン硫酸のみを使用することによって、乾燥、溶媒とインキュベート及び溶媒の除去の3サイクル後に、マイクロタイタープレートが痰の残渣を含むことを示す。表1及び2とは対照的に、表3は、40%のグリセロールを0.1%、1%、5%、又は20%のデキストラン硫酸と併用することによって、マイクロタイタープレートのウェル内の痰の残渣の予想外かつ相乗的減少又は排除を果たすことを示す。40%のグリセロールと20%のデキストラン硫酸の組合せが、乾燥した痰を溶解させるのに最も有効である。
【0017】
実施例2:有効濃度のグリセロール
診療を厳密に模倣するため、実施例1で用いた方法にいくつかの修正を加えた。各サイクルの2時間の代わりに4時間、痰を乾燥させ、かつ第3サイクルでは、乾燥した痰を一晩のインキュベーションの代わりに15分間だけ試験溶液とインキュベートした。方法の残りは実施例1と同一である。
図2は、実施例2に記載のプロセスの種々の処理による第3サイクルの完了後に撮った一連のマイクロタイタープレートの顕微鏡写真である。全て試験溶液は0.85%のNaClを含有した。
0.85%の食塩水のみを使用することによって、プレートは乾燥した痰の残渣を含む。同様に、50%のグリセロールを用いるプレートも乾燥した痰の残渣を含む。相対的に、グリセロールとデキストラン硫酸(35%のグリセロール+10%のデキストラン硫酸、40%のグリセロール+10%のデキストラン硫酸、45%のグリセロール+10%のデキストラン硫酸、及び50%のグリセロール+10%のデキストラン硫酸)の組合せは、食塩水のみよりずっと優れる。グリセロールとデキストラン硫酸の組合せによって、長期間にわたって乾燥した痰の溶解を相対的に短時間で達成することができる。グリセロールの最も有効な範囲は30〜50%であり、デキストラン硫酸では10〜20%である。
【0018】
実施例3:NaClの有効濃度
塩化ナトリウムの有効濃度範囲を見つけるため、40%のグリセロール、10%のデキストラン硫酸及び種々の量の塩化ナトリウムを含む溶液を調製し、引き続き実施例2と同じ方法を実施した。
図3は、実施例2に記載のプロセスのサイクル2にて種々の濃度の食塩水中の40%グリセロールと10%デキストラン硫酸の混合物への5分の曝露後に撮った一連のマイクロタイタープレートの顕微鏡写真である。図3に示すように、40%のグリセロールと10%のデキストラン硫酸を有し、いずれの食塩水もないプレートは痰の残渣が最も多い。相対的に、0.85%の食塩水を添加したプレートは最も有効な結果を示す。乾燥した痰の残渣を効率的に溶解させるのに必要な最小量は、0.5%(w/w)を超える塩化ナトリウム濃度である。
【0019】
実施例4:ブタモデルにおける痰溶解吸引溶液の安全性の評価
Sheridan/HVT 9.6mmの気管内チューブ(ETT)を50kgのメスのYorkshireブタ内に入れた。パルスオキシメトリによってベースライン酸素飽和を記録した。種々の試験溶液を気管内チューブを介して10Fr吸引カテーテルで投与した。5分の時間後に10Frカテーテルを用いて溶液をETTから吸引した。
吸引の直前と直後、次いでベースラインに達するまで1分間隔で酸素飽和を決定した。ベースラインに達したら、次の溶液を直接、又は吸引エピソード間の食塩水で肺を洗浄した後に試験した。
【0020】
表4:ブタモデルにおけるグリセロール濃度の比較

【0021】
グリセロールとデキストラン硫酸を含む溶液は、表4に示すように、酸素飽和レベルに悪影響を与えず、安全だった。従って、食塩水中の有効量のグリセロールと有効量のデキストラン硫酸の組合せは、乾燥した痰をうまく溶解させ得る。特に、0.85%の食塩水中の30〜40%のグリセロール+10〜20%のデキストラン硫酸の組合せを痰の水和/溶解吸引溶液として使用することができる。この溶液は、ETTカフ上の分泌物の乾燥を防止し、かつ濃厚な呼吸分泌物を薄くすることで効率的な除去を促進することによって、人工呼吸器関連肺炎(VAP)のリスクを最小限にすることができる。
【0022】
実施例5:ヨウ素を含有する痰溶解吸引溶液のプランクトン微生物に及ぼす効果
日常的に消毒用に使われているルゴール溶液は、水中に1:2比でヨウ素とヨウ化カリウムを含む。グラム陰性VAP病原である肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)に対して変動濃度のヨウ素(I2)とヨウ化カリウム(KI)を含む溶液を試験して、痰溶解溶液と組み合わせたヨウ素とヨウ化カリウムの有効比を決定した。
簡潔には、48-ウェルプレートのウェルを、50%グリセロール+0.85%NaCl+10%デキストラン硫酸+0.001〜2mg/mLのI2+0.001〜2mg/mLのKIを含む抗菌性痰溶解溶液又は0.85食塩水であるコントロール溶液それぞれ1mLで満たし、次に肺炎桿菌1mL当たり106コロニー形成単位(CFU/mL)を添加した。引き続き、2分のインキュベーション後、各ウェルから10μLのアリコートを取り出してPBSで段階希釈した。10μLの各希釈物をDey Engley中和寒天(D/E)の表面上に塗布した。プレートを裏返しにして37℃で24時間インキュベートした。引き続き、プレート毎のコロニー数を記録し、CFU/mLを決定した。各試験を三通り行なった。
図4に示すように、ヨウ素とKIを1:1又は1:2の比で含む痰溶解溶液は2分以内の曝露で肺炎桿菌を死滅させるのに同様に有効だった。
全てのさらなる試験では1:2の比のヨウ素とKIを選択した。
50%グリセロール+0.85%NaCl+10%デキストラン硫酸+0.1〜1mg/mLのI2+0.2〜2mg/mLのKIを含む溶液をさらに他のVAP病原、例えば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(SA)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)(AB)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)(EF)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(PA)、及び肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)(KP)に対して試験した。
肺炎桿菌以外の全ての他の6種の細菌株は、0.75mg/mLのヨウ素/KI(1:2)を含む溶液への曝露2分以内で死滅した。肺炎桿菌の完全な死滅のためには、図5に示すように、わずかに高い濃度のヨウ素(1mg/mLの濃度)が必要だった。
【0023】
実施例6:ヨウ素を含む痰溶解吸引溶液が、予め形成されたバイオフィルムに及ぼす効果
上記7種の生物の予め形成された成熟バイオフィルムを50%グリセロール+0.85%NaCl+10%デキストラン硫酸+0.1〜1mg/mLのI2+0.2〜2mg/mLのKI又は0.85食塩水であるコントロール溶液に15分間さらした。簡潔には、106CFU/mLの試験生物をポリスチレン96-ペグプレートの各ウェル中に添加した。蓋のペグ上にバイオフィルムを24時間成長させた。引き続きプレートからペグと共に蓋を除去し、種々のI2/KI溶液を含有する別の96ウェルプレートに15分間浸した。そしてペグ蓋を再び取り出して、各ウェル内に1mLのD/Eブロスを含む別の96ウェルプレート上に置いた。プレートを20分間超音波処理してから各ウェルから10μlを取り出してD/E寒天の表面上に塗布した。プレートを裏返しにして37℃で24時間インキュベートした。引き続きプレート毎のコロニー数を記録し、CFU/mLを決定した。各試験を三通り行なった。
図6に示すように、0.75mg/mLのヨウ素とKI(1:2)を含む溶液への15分以内の曝露で肺炎桿菌及び緑膿菌以外の全ての細菌のバイオフィルムを根絶することができた。図7に示すように、ヨウ素の濃度を2mg/mLに増やした場合に肺炎桿菌のバイオフィルムが根絶された。
【0024】
実施例7:ヨウ素を含む痰溶解吸引溶液が気管内チューブ(ETT)カフバイオフィルムに及ぼす効果
ヨウ素を含む痰溶解吸引溶液の性能を評価するため、無菌条件下で、ETTを100mLのシリンダーに挿入し、20ccの空気を用いてカフを膨張させた。その後、膨張したカフ上に、106CFUの肺炎桿菌とインキュベートした5mlのトリプシン大豆ブロスを置いた。材料一式を無菌パウチに入れ、37℃で24時間インキュベートしてETTカフ上にバイオフィルムを成長させた。24時間後、媒体を除去し、カフを部分的にしぼませた。部分的にしぼんだカフを次に、30mLの食塩水、5mg/mLのI2/KI(1:2)、又は10mg/mLのI2/KI(1:2)のいずれかを含有する50mLの円錐管に移した。15分のインキュベーション後、35mLのD/Eブロスを含む別の50mLの円錐管にカフを移し、20分間超音波処理してから100μlをD/E寒天上に塗布した。プレートを裏返しにして37℃で24時間インキュベートした。引き続きプレート毎のコロニー数を記録し、CFU/mLを決定した。各試験を三通り行なった。
ETTカフ上で成長している肺炎桿菌の成熟バイオフィルムは、図8に示すように、少なくとも5mg/mLのヨウ素/KI(1:2)を含む痰溶解溶液への15分以内の曝露で完全に根絶された。
【0025】
本発明の多くの特徴及び利点が詳細な仕様から明白なので、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲内に入る本発明のこのような特徴及び利点を全て包含することを意図している。さらに、当業者には多くの修正及び変形が容易に思いつくであろうことから、説明及び記述したのと全く同一の構成及び実施に本発明を限定することは望ましくなく、従って、全ての適切な修正及び等価物が本発明の範囲内に入ることもやむなしとされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスの表面上の痰を溶解させるか又は痰の粘度を低減させるための組成物であって、食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を含む組成物。
【請求項2】
前記グリセロールの有効量が約30〜50%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記デキストラン硫酸の有効量が約10〜30%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記食塩水が少なくとも約0.85%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記グリセロールの有効量が約40%であり、かつ前記デキストラン硫酸の有効量が約20%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記食塩水が少なくとも約0.5%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
さらに1種以上の抗菌剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗菌剤が、タウリンアミド誘導体、フェノール、四級アンモニウム界面活性剤、塩素含有、キノリン、キナルジニウム、ラクトン、色素、チオセミカルバゾン、キノン、スルファ、カルバマート、尿素、サリチルアミド、カルバニリド、アミド、グアニド、アミジン、キレート、イミダゾリン殺生物剤、酢酸、安息香酸、ソルビン酸、プロピオン酸、ホウ酸、デヒドロ酢酸、亜硫酸、バニリン酸、p-ヒドロキシ安息香酸のエステル、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、ヨウ素(種々の溶媒中)、ポビドン-ヨウ素、ヘキサメチレンテトラミン、ノキシチオリン、1-(3-コロアリル)-3,5,7-トリアゾ-1-アゾニアアダマンタンクロリド、タウロリジン、タウルルタム、EDTA、N(5-ニトロ-2-フルフリリデン)-1-アミノ-ヒダントイン、5-ニトロ-2-フルアルデヒドセミカルバゾン、3,4,4'-トリクロロカルバニリド、3,4',5-トリブロモサリチルアニリド、サリチルアニリド、3-トリフルオロメチル-4,4'-ジクロロカルバニリド、8-ヒドロキシキノリン、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-3-キノリンカルボン酸、1,4-ジヒドロ-1-エチル-6-フルオロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-3-キノリンカルボン酸、過酸化水素、過酢酸、フェノール、ナトリウムオキシクロロセン、パラクロロメタキシレノール、2,4,4'-トリクロロ-2'-ヒドロキシジフェノール、チモール、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、銀、ナノ銀、銀スルファジアジン、硝酸銀、5-フルオロウラシル、フェノール系消毒薬、ゲンチアンバイオレット、メチレンブルー、ブリリアントグリーン、及びビスマス化合物から成る群より選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記1種以上の抗菌剤が、ヨウ素とヨウ化カリウムの混合物を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記ヨウ素とヨウ化カリウムの混合物が1:2の比である、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記デバイスが、気管内チューブ又は気管開口チューブである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
気管内のデバイスの表面から粘液を除去するための方法であって、以下の工程、
食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を含む組成物を前記粘液を溶解させるために前記デバイスの表面に適用する工程、
前記粘液を溶解させる工程、及び
前記粘液を前記気管から除去する工程
を含む方法。
【請求項13】
前記グリセロールの有効量が約30〜50%である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記デキストラン硫酸の有効量が約10〜30%である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記食塩水が少なくとも約0.85%である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記グリセロールの有効量が約40%であり、かつ前記デキストラン硫酸の有効量が約20%である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記食塩水が少なくとも約0.5%である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
さらに1種以上の抗菌剤を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記抗菌剤が、タウリンアミド誘導体、フェノール、四級アンモニウム界面活性剤、塩素含有、キノリン、キナルジニウム、ラクトン、色素、チオセミカルバゾン、キノン、スルファ、カルバマート、尿素、サリチルアミド、カルバニリド、アミド、グアニド、アミジン、キレート、イミダゾリン殺生物剤、酢酸、安息香酸、ソルビン酸、プロピオン酸、ホウ酸、デヒドロ酢酸、亜硫酸、バニリン酸、p-ヒドロキシ安息香酸のエステル、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、ヨウ素(種々の溶媒中)、ポビドン-ヨウ素、ヘキサメチレンテトラミン、ノキシチオリン、1-(3-コロアリル)-3,5,7-トリアゾ-1-アゾニアアダマンタンクロリド、タウロリジン、タウルルタム、EDTA、N(5-ニトロ-2-フルフリリデン)-1-アミノ-ヒダントイン、5-ニトロ-2-フルアルデヒドセミカルバゾン、3,4,4'-トリクロロカルバニリド、3,4',5-トリブロモサリチルアニリド、サリチルアニリド、3-トリフルオロメチル-4,4'-ジクロロカルバニリド、8-ヒドロキシキノリン、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-3-キノリンカルボン酸、1,4-ジヒドロ-1-エチル-6-フルオロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-3-キノリンカルボン酸、過酸化水素、過酢酸、フェノール、ナトリウムオキシクロロセン、パラクロロメタキシレノール、2,4,4'-トリクロロ-2'-ヒドロキシジフェノール、チモール、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、銀、ナノ銀、銀スルファジアジン、硝酸銀、5-フルオロウラシル、フェノール系消毒薬、ゲンチアンバイオレット、メチレンブルー、ブリリアントグリーン、及びビスマス化合物から成る群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記1種以上の抗菌剤が、ヨウ素とヨウ化カリウムの混合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記ヨウ素とヨウ化カリウムの混合物が1:2の比である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記デバイスが、気管内チューブ又は気管開口チューブである、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
患者の気管内の気管カフチューブの表面又はチューブの内腔の表面から、蓄積した痰又は粘液を除去するための方法であって、以下の工程、
食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を含む組成物を前記蓄積した痰又は粘液を溶解させるために前記気管カフチューブの表面又はチューブの内腔の表面に適用する工程、
前記蓄積した痰又は粘液を溶解させる工程、及び
前記蓄積した痰又は粘液を前記表面から吸引する工程
を含む方法。
【請求項24】
前記グリセロールの有効量が約40%であり、前記デキストラン硫酸の有効量が約20%であり、かつ前記食塩水が約0.85%である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
吸引カテーテル、及び
食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を有する痰溶解溶液
を含んでなるキット。
【請求項26】
食塩水中に有効量のグリセロール及び有効量のデキストラン硫酸を有する痰溶解溶液、及び
歯口清掃物品
を含んでなるVAP予防キット。
【請求項27】
前記歯口清掃物品が、少なくとも歯ブラシ、スワブ、及び消毒マウスリンスを含む、請求項26に記載のVAP予防キット。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−516334(P2012−516334A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548200(P2011−548200)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/022041
【国際公開番号】WO2010/088191
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(500552489)テレフレックス・メディカル・インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】