説明

気管内痰の吸引装置

【課題】吸引流量が低量で連続的に痰吸引ができるようにし、通常の使用状態で人工呼吸器の吸気が漏洩することがないようにして、呼吸に悪影響を与えず、気管内に挿入した吸引カテーテルからの吸引により気管内壁を傷つける心配がなく、自動吸引時の異常を検知し、通報して、患者の安全を確保することができる課題を解決しようとするものである。
【解決手段】患者の気管内に、吸引カテーテルと、痰が収集される収集容器と、負圧力を発生するポンプ手段と前記収集容器がホースを介して連通し、前記吸引カテーテルと前記ポンプ手段が前記収集容器を介して連通する気管内痰の吸引装置であって、さらに気管カニューレとを備えたものは、痰吸引器として吸引流量が低量のシリンジポンプ方式を採用し、シリンジ式ポンプの吸気弁と排気弁の開放圧力を20kpa以上にし、吸引路の一部に絞り部を設け吸引路の圧力幅を常時計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管内痰の吸引装置に関するものである。より詳しくは、気管内痰を連続的に吸引する手段と吸引時の圧力を測定し制御する手段と異常通報手段からなる吸引装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工呼吸器を使用した患者や燕下障害等で排痰機能が低下した患者の気管内痰の排出は、気管内に挿管した気管カニューレを介して吸引カテーテルを挿入して、用手吸引による方法が一般的である。気管部に切開した穴に気管カニューレを挿入し、気管カニューレのアダプタ部と人工呼吸器から延びた呼吸管を連通することにより人工換気を施す。人工呼吸では気管に溜まった痰が気道を塞ぐために定期的に痰の排出処置が必要である。また、燕下障害等で排痰機能が低下した患者は、人工呼吸器を使用しなくても、前記気管カニューレを挿管し、気管カニューレに吸引カテーテルを通して気管内の痰を吸引排出している。
痰の処置方法の汎用例としては、まず介護者が気管カニューレからアダプタ部を外し、
気管カニューレの開口部に吸引カテーテルを挿入して痰を吸引する方法が知られている。しかしながら、気管内痰の吸引は1〜2時間おきに必要で、この方法では介護者に昼夜を問わぬ労働を強いること及び気管閉塞等の事故を起こすことの危険性が大きく、本人や介護者への負担が大きかった。
【0003】
これを解消する従来技術として、例えば特開2002−219175号広報(特許文献1)のような人工呼吸システムがある。特許文献1では、人工呼吸器からの呼吸管の接続部に呼吸管開閉弁を設け、吸引管の接続部に吸引管開閉弁を設け、一方の弁が開けば他方の弁が閉じる操作を行う弁開閉機構を設けた人工呼吸吸引両用アダプタを人工呼吸用カニューレに接続する。これらを経由して、気道内圧計が異常に高い値を感知した場合などにおいて、自動制御装置により自動的に吸引を行う。
その結果、人工呼吸器による患者の呼吸の確保と、痰吸引器(気管内痰の吸引装置)による気管内の痰の吸い出しとを行うことができる。人工呼吸吸引両用アダプタを用いることにより、それまでの痰処置法であった、呼吸管のアダプタを介護者が外して人工呼吸を短時間休止し、その合間に吸引カテーテルにより痰を吸い取るという手間が省ける。
【0004】
また、従来の気管内痰の吸引装置としては、ダイヤフラム式の痰吸引器が知られている。
(非特許文献1 在宅人工呼吸マニュアル 発行 日本在宅医療福祉協会・在宅医療部会 発行者 保志順一。 非特許文献2 NEW人工呼吸器ケアマニュアル 出版 学研)
この痰吸引器は、ダイヤフラムにより内部空間が上下に仕切られ、ダイヤフラムが3000回/分程度の往復動することで負圧を発生する装置である。この場合に、吸引流量が10L/分〜40L/分と大きい流量を発生する。
負圧ケーシングは、ダイヤフラムの上下動に応じて上部空間が負圧化する時に排気弁が閉じた状態で吸気弁開き、内部空間を負圧化する。この排気弁と吸気弁は、約2kpa以下で開弁する。
【0005】
【特許文献1】特開2002−219175号公報
【非特許文献1】在宅人工呼吸マニュアル 発行 日本在宅医療福祉協会・在宅医療部会 発行者 保志順一
【非特許文献2】NEW人工呼吸器ケアマニュアル 出版 学研
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の痰吸引器は、人工呼吸器からの呼吸管の接続部に呼吸管開閉弁を設け、吸引管の接続部に吸引管開閉弁を設け、一方の弁が開けば他方の弁が閉じる操作を行う弁開閉機構を有しているため高価となり、患者の呼吸が短時間であるが中断するため、人工呼吸を継続したまま気管内の痰を処置することはできなく、気道内圧計が異常に高い値を感知した場合などにおいて自動制御装置により自動的に吸引を行う方式は、患者の姿勢や咳で気道内圧が変動するために正確な計測ができず、自動的に吸引することはできず、自動吸引時に異常が発生した場合の検知通報ができないという問題点があった。
【0007】
また、ダイヤフラム式の痰吸引器は、吸引流量が大きく人工呼吸器の吸気を吸引し呼吸に悪影響を与えるとともに、通常の使用状態で負圧ケーシングに設けた吸気弁、排気弁から人工呼吸器の吸気が漏洩し呼吸に悪影響を与え、気管内に挿入した吸引カテーテル先端の吸引流速が速いために気管内壁を吸い寄せ傷つける恐れがあるという問題点があった。
【0008】
本発明は、吸引流量が低量で連続的に痰吸引ができるようにし、通常の使用状態で人工呼吸器の吸気が漏洩することがないようにして、呼吸に悪影響を与えず、気管内に挿入した吸引カテーテルからの吸引により気管内壁を傷つける心配がなく、自動吸引時の痰の詰まりや吸引カテーテルの折れ曲がり、外れ、破れ等の異常を検知し、通報して、患者の安全を確保することができる課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、鋭意研究の結果、患者の気管内に先端部が留置され痰を吸引する吸引カテーテルと、吸引した痰が収集される収集容器と前記吸引カテーテルが吸引チューブを介して連通し、負圧力を発生するポンプ手段と前記収集容器がホースを介して連通し、前記吸引カテーテルと前記ポンプ手段が前記収集容器を介して連通する気管内痰の吸引装置であって、さらに気管カニューレとを備えたものは、痰吸引器として吸引流量が低量のシリンジポンプ方式を採用し、シリンジ式ポンプの吸気弁と排気弁の開放圧力を20kpa以上にし、吸引路の一部に絞り部を設け吸引路の圧力幅を常時計測することにより発明を完成し、上記課題を解決した。
【0010】
気管カニューレとは、気管切開手術により気管に形成された孔を通し、気管に挿入され
る短尺な管部材である。気管カニューレは、内部通路が1つしかないものでも、複数ある
ものでもよい。また、気管カニューレの気管側の端部の外周囲には、気管と気管カニュー
レとの隙間を塞ぐため、空気の出し入れにより拡縮自在なカフを取り付けてもよい。
【0011】
吸引カテーテルは、気管カニューレの通路壁の内周直に固定しても、外周面に固定してもよい。吸引カテーテルは、吸引カテーテルに固定された部分と、そこからポンプ手段まで延出される部分とに、着脱自在に分割されたものでもよい。吸引する痰は、気管支および/または気管内で発生した痰であるが、口腔内で発生した液状物が含まれても良い。
正常な痰吸引圧力は、患者個体により適正な圧力をあらかじめ設定したものであり、通常、5〜15Kpaの範囲である。
【0012】
請求項1に記載の発明は、患者の気管内に先端部が留置され痰を吸引する吸引カテーテルと、吸引した痰が収集される収集容器と前記吸引カテーテルが吸引チューブを介して連通し、負圧力を発生するポンプ手段と前記収集容器がホースを介して連通し、前記吸引カテーテルと前記ポンプ手段が前記収集容器を介して連通する気管内痰の吸引装置であって、前記収集容器から配した吸引チューブと吸引カテーテルの間に流路の開口面積を調節する絞り部を設けたことにより、収集容器に負圧力を蓄積し常時安定した吸引圧力を保持できる新規な気管内痰の吸引装置を実現したものである。
【0013】
請求項2に記載の発明は、ポンプ手段と収集容器の流路に分岐管を設けて圧力センサに連通し、該圧力センサにより吸引路の内圧を計測し、前記圧力センサの計測値が設定値を超えたときに、前記ポンプ手段の吸引量を増加する制御手段を設けることにより、前記シリンジ式ポンプの吸引量を増加する作用により、痰の吸引中に、例えば痰が多量に発生した場合や高粘度な痰を吸引した場合に吸引圧が正常な痰吸引時より高まる。この異常な状態を圧カセンサが検出すると、制御部からシリンジ式ポンプに作動指令が出され、シリンジ式ポンプの吸引流量が増加する。その結果、このような異常状態を回避し、気管閉塞事故などを自動的に防ぐことができる。また、圧力センサにより吸引チューブの内圧を検出するようにしたので、痰の有無を確実かつ即座に検出することができる新規な気管内痰の吸引装置を実現したものである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、上記圧力センサによる計測値が、正常な痰吸引圧力から一定幅で超えかつ一定時間超えたとき、または、一定幅下回りかつ一定時間超えときに、アラーム信号を発生する制御手段を設けることにより、痰の詰まりや吸引チューブの折れ曲がり、外れ、破れ等のトラブルを圧力変化で検知し、安全を確保できることを知見する新規な気管内痰の吸引装置を実現したものである。
【0015】
請求項4に記載の発明は、外部の人工呼吸器から延出された呼吸管に連通され、患者の気管に挿入される気管カニューレとを備えた人工呼吸システムに利用され、患者の気管内に先端部が留置され痰を吸引する吸引カテーテルと、吸引した痰が収集される収集容器と前記吸引カテーテルが吸引チューブを介して連通し、負圧力を発生するポンプ手段と前記収集容器がホースを介して連通し、前記吸引カテーテルと前記ポンプ手段が前記収集容器を介して連通する気管内痰の吸引装置であって、前記ポンプ手段は、シリンジ構造でシリンジ外筒とシリング外筒内を往復動する隔壁とからなり、シリンジ外筒に吸気弁を設け、隔壁に排気弁を設け、前記吸気弁と前記排気弁は、圧力が20kpa以上でないと開弁しないポンプ手段としたことにより、人工呼吸器の吸気に影響を与えず、吸気の漏洩を防止する新規な気管内痰の吸引装置を実現したものである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明の気管内痰の吸引装置を用いることにより、吸引流量が低量で連続的に痰吸引ができるようにし、通常の使用状態で人工呼吸器の吸気が漏洩することがないようにして、呼吸に悪影響を与えず、気管内に挿入した吸引カテーテルからの吸引により気管内壁を傷つける心配がなく、自動吸引時の痰の詰まりや吸引カテーテルの折れ曲がり、外れ、破れ等の異常を検知し、通報して、患者の安全を確保することができる。
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、前記収集容器から配した吸引チューブと吸引カテーテルの間に流路の開口面積を調節する絞り部を設けることにより、吸引路内の負圧力を保持し均一化することができるので、吸引流量が低量で連続的に痰吸引ができるという利点がある。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、ポンプ手段と収集容器の流路に分岐管を設けて圧力センサに連通し、該圧力センサにより吸引路の内圧を計測し、前記圧力センサの計測値が設定値を超えたときに、前記ポンプ手段の吸引量を増加する制御手段を設けることにより、
痰の吸引中、例えば痰により吸引チューブが詰まって吸引圧が痰吸引の正常植より高まった場合には、それを圧力センサが検出し、これに基づいてシリンジ式ポンプの吸引力を高める。その結果、痰吸引中の異常事態を回避し、気管閉塞事故などを自動的に防止することができる。また、圧力センサにより吸引チューブの内圧を検出するようにしたので、痰の有無を確実かつ即座に検出することができるという利点がある。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、上記圧力センサによる計測値が、正常な痰吸引圧力を一定幅で一定時間超えたとき、または、一定幅で一定時間下回ったときに、アラーム信号を発生する制御手段を設けることにより、吸引チューブの内圧の上昇が所定時間継続する状態を圧力センサにより検出して警報信号を発生する。したがって、異常を検知し第三者に通報することで、患者の安全を確保することができるという利点がある。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、外部の人工呼吸器から延出された呼吸管に連通され、患者の気管に挿入される気管カニューレとを備えた人工呼吸システムに利用され、患者の気管内に先端部が留置され痰を吸引する吸引カテーテルと、吸引した痰が収集される収集容器と前記吸引カテーテルが吸引チューブを介して連通し、負圧力を発生するポンプ手段と前記収集容器がホースを介して連通し、前記吸引カテーテルと前記ポンプ手段が前記収集容器を介して連通する気管内痰の吸引装置であって、前記ポンプ手段は、シリンジ構造でシリンジ外筒とシリング外筒内を往復動する隔壁とからなり、シリンジ外筒に吸気弁を設け、隔壁に排気弁を設け、前記吸気弁と前記排気弁は、圧力が20kpa以上でないと開弁しないポンプ手段としたので、通常の使用状態で人工呼吸器の吸気が漏洩することがないようにして、呼吸に悪影響を与えないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施例に基づいて気管内痰の吸引装置を具体的に説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1に係る気管内痰吸引システムの全体構成図を図1に示す。1は痰吸引器で、ポンプ部10と回転手段15と制御部20と圧力センサ30と収集容器40とホース116と吸引チューブ50で構成されている。60は人工呼吸器で、人工呼吸器60から延出された呼吸管61のアダプタ62が気管カニューレ70の基部71に接続されている。気管カニューレ70は患者80の気管部81に留置されている。吸引チューブ50の先端は絞り弁51を介して吸引カテーテル52に接続され、吸引カテーテル52の先端521は、気管カニューレ70を貫通して気管部81に留置されている。
【0023】
本発明の実施例1に係る気管内痰吸引システムのポンプ手段の構造図を図2、図3に示す。ポンプ部10に回転手段15が取り付けられ、回転手段15は制御部20により回転制御されている。ポンプ部10は、外筒11の内部に内筒12が配置され、回転手段15の回転軸151に取り付けられた偏芯カム152が内筒104に嵌合し、偏芯カム152が回転することにより、内筒12が左右方向に往復動する。
外筒11の両端は隔壁110と空室111を設け、隔壁110には吸気弁112が設けられ、バネ113により一定圧力がかかると開弁する。なお、吸気弁112は材質を弾性ゴム等の弾性材料にして、バネ113を用いずに一定圧力で開弁してもよい。
空室111の先端にチューブ114を接続して吸気を取り込む吸引路115に接続される。外筒11の両端が上記構造を形成し、吸引路115に接続されている。
【0024】
内筒12は胴板121の両端に隔壁122が配置されている。胴板121の中央部に長穴121aが設けられ、該長穴121aは、前記偏芯カム152が嵌合されている。隔壁122は外筒11の内周面11aに沿った形状で、隔壁122周面にOリング123等のシール面を形成して、外筒11の内周面11aをシールして摺動する。隔壁122は排気弁123が設けられ、バネ124により一定圧力がかかると開放可能となる。なお、排気弁123は材質を弾性ゴム等の弾性材料にして、バネ124を用いずに一定圧力で開放可能にしてもよい。隔壁122に設けられた排気弁は、吸気した気体を大気へ排出する。以上の構造を内筒の両端で成して大気へ排出している。
ポンプ部10から延出された吸引路115は、分岐管112を介して圧力センサ30と、ホース116を介して収集容器40とに連通されている。
【0025】
収集容器40は、さらに吸引接続口401を設け、吸引接続口401に吸引チューブ50を接続し、吸引チューブ50の途中に絞り弁51が配設され、絞り弁51の気管部81側に吸引カテーテル52が接続されている。
気管カニューレ70は、患者80の気管切開部82を通して気管部81に配置され、気管カニューレ70の基部71は人工呼吸器60から延出された呼吸管61を通して接続アダプタ62で接続され、人工呼吸器60により吸気と排気をしている。
吸引カテーテル52は、気管カニューレ70の内部を貫通し気管部81に配設され、吸引カテーテル52の先端部521は、気管内の痰81aを吸引する位置に配設されている。制御部20は回転手段15と圧力センサ30に回路接続され、回転手段15の回転制御と圧力センサ30の信号を取り込み、設定圧力を超えると回転手段15の回転数を上げ、アラーム信号出力の制御をする。
【0026】
人工呼吸器60は、内蔵したコンプレッサを一定時間毎に作動させ、患者の呼吸を確保
する装置である。呼吸管61は、人工呼吸器60の送排気口と気管カニューレ70の元部に装着された接続アダプタ62を連通している。呼吸管61の途中には、排気を行う排気弁63が設けられている。
気管カニューレ70は、気管切開手術により患者の気管部81に形成された孔に挿入される賂Jの宇形状に湾曲したプラスチック製の管である。気管カニューレ70の内径は9mmであり、先端は気管内に開口している。
【0027】
気管カニューレ70の管内には、前記アダプタ62を介して、痰吸引器1から延出された吸引チューブ50を通じて接続された吸引カテーテル52の先部521が留置されている。吸引カテーテル52の先端位置は気管カニューレ70の先端より突出している。吸引カテーテル52の外径は3〜4mmである。気管カニューレ70の内径は、8mm〜12mmであり、気管カニューレ70の内部通路には、断面積5.1mm2という大きな呼吸路が確保される。これにより、患者は楽に呼吸することができる。
【0028】
また、吸引カテーテル52は痰の吸引路が形成され先部521には、気管内の痰を吸い込む複数個の痰吸引口が形成されている。
【0029】
次に、この発明の実施例1に係る気管内痰吸引システムの作動を、図1〜図6に基づいて説明する。
【0030】
回転手段15は電動モータで、電動モータの回転軸151に偏芯カム152取り付けて回転し、内筒12の隔壁122を左右に往復動する。これにより、排気弁123が閉じた状態で吸気弁112が開き、その分だけ、吸引路115を通して痰の収集容器40の内部空間を負圧化する。痰の収集容器40に連通された吸引チューブ50に大きな負圧力が作用し、吸引カテーテル52を通して気管部81内の痰81aが痰の収集容器40内に吸引される。偏芯カム152は1分間に2〜20回転の調節器により回転し、痰の吸引量は、50cc〜500cc/分である。
このときに吸気弁112と排気弁123の開放圧が20kpa以上になるようにバネ113とバネ124の弾性力を設定しているために、人工呼吸器60からの吸気が漏洩することはない。
【0031】
次にこの発明の実施例1に係る気管内痰吸引システムの吸引路の一部を調節する絞り弁51の作用について、図4,図5、図6に基づいて説明する。
痰の吸引時には、図4に示すように吸引カテーテル52の先部521にある吸引口522で、表面張力により痰の膜が断続的に生じる。この現象は、吸引口522に痰が接触し人工呼吸器60の換気動作で痰81aが流動するときに起きやすい。これら痰81aの膜81bを、従来のダイヤフラム式の痰吸引器によって吸引しようとすると、図5に示すように、その速い吸引流速で痰の膜81bが破れ、吸引カテーテル52の内周壁に飛散し、空気のみを吸引するようになり、低量で連続的に痰吸引することができない。
【0032】
また、前記シリンジ式のポンプ10では、図6に示すように内筒11の隔壁122の往復動で吸引力が脈動を起こし上記の現象を生じて痰の膜が破れやすく、空気のみを吸引すること場合があり、低量で連続的に痰吸引することができないことがある。
【0033】
そこで、吸引チューブ50の途中に絞り弁51を設けることにより、収集容器内に負圧力が蓄積され、図7に示すように脈動が低減され平均化された負圧力となる。本手段では、負圧力が一定で流量が少なく、吸引路内の流速は遅い条件が整う。そして、吸引路内の痰の膜が破れず負圧力を維持することができ、痰は排出側に徐々に移行し吸引カテーテル52内の痰がしだいに排出側に圧送される。最終的に、痰は吸引カテーテル52を経由して収集容器に排出される。その結果、簡単でかつ低コストな構造で、吸引流量が低量で連続的に痰吸引が可能で、気管内壁を傷つける心配がない、痰吸引器1を得ることができる。
その際、痰の吸引時に限らず、気管カニューレ70の内部通路と人工呼吸器60とは常に連通しているので、痰の吸引中でも常時呼吸は確保される。また、吸引器1の吸引流量は低量で人工呼吸器60の換気量に影響することもなく、呼吸に悪影響をすることがない。
【0034】
次に、前記制御部20と圧力センサ30による痰吸引の制御を図7に基づいて説明する。通常の痰吸引時には、痰吸引器1の吸引圧力は、あらかじめ設定した上限設定値20Kpa以下で作動させ、圧力センサ30により検出された検出値が、該上限設定値20Kpaを超えた時、回転手段15に対して回転数増加の指令を出してポンプ出力を所定時間だけ高める。すなわち、痰吸引器1の通常運転中は、回転手段15を低速で作動させ、吸引カテーテル52内で痰が詰まるなどの異常状態が発生した場合には、吸引圧が上昇する。そして、上限設定値20Kpaを超えた時に、回転手段15の出力を高め、痰吸引流量を増加させことで、痰による閉塞事故を防止する。
【0035】
仮に、通常運転時において、ポンプ部10の通常運転の吸引流量では処理できない程の多量の痰が発生した場合や、高粘度の痰で吸引チューブが詰まった場合には、吸引チューブの内圧が異常に高まる。それを圧カセンサ30が検知し、その検出値が前記上限設定値20Kpaを超えた時に、制御部20から回転手段15に出力増加指令が出される。
【0036】
このように、痰の吸引圧が上限設定値を超えた場合において、ポンプ部の吸引流量を高めることにより痰の詰まりを防止し、安全で快適な吸引を提供することができる。
【0037】
次に、この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置の安全機構に関する作動を、図8に基づいて説明する。
痰の詰まりやチューブの折れ曲がり等で圧力センサの検出値が高くなる。該吸引圧が上限設定値20kpaを超え、一定時間t1を超えた時に、制御部20に電気的に接続されたアラーム手段により、警報音とナースコール信号とを発する。ここで、一定時間t1は患者個体により異なるが、呼吸停止による危険な時間を超えない時間であればよいが、15〜40S、好ましくは20〜30Sである。
【0038】
また、通常の吸引状態では、絞り弁により吸引路の圧力が一定幅A(10kpa〜20kpa)の範囲内あるが、吸引路が外れたり破れたりする異常発生の場合は、圧力センサの吸引圧が低くなる。該吸引圧が下限設定値10kpaを下回り、一定時間t2を超えた時に、制御部20に電気的に接続されたアラーム手段により、警報音とナースコール信号とを発する。ここで、一定時間t2は患者個体により異なるが、吸気不足による危険な時間を超えない時間であればよいが、15〜90S、好ましくは20〜50Sである。
【0039】
これにより吸引器の異常として、例えば吸引チューブ50の詰まり状態、または、痰の粘度が高すぎてチューブ内での吸引速度が低い状態などが検出され、または、吸引器の停止や吸引路の外れ・漏洩などが検出され、一定時間が経過すると制御部20からアラーム手段が発せられ、警報音やナースステーションにコール信号が発信される。すなわち、アラーム手段には、警報音とコール信号発信部とがそれぞれ組み込まれている。その結果、この異常状態を患者の近辺にいる医者や第三者、ナースステーション内に待機している看護士などに、確実かつ速やかに通報する。これにより、痰吸引時の異常を検知し通報して、患者の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置が適用された人工呼吸システムの全体構成図である。
【図2】この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置の内部構造図を示す。
【図3】この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置のポンプ部分図を示す。
【図4】この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置の痰吸引の状態図を示す。
【図5】この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置の従来の吸引器を使用した痰吸引の状態図を示す。
【図6】この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置の絞り弁がない構造の作動図を示す。
【図7】この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置の絞り弁を設けた構造の作動図を示す。
【図8】この発明の実施例1に係る気管内痰の吸引装置の異常通報の場合の作動図を示す。
【符号の説明】
【0041】
1 痰吸引器、
10 ポンプ部
15 回転手段
115 吸引路、
116 ホース
112 分岐
20 制御器
30 圧力センサ
40 収集容器
401 収集口
50 吸引チューブ
51 絞り弁
52 吸引カテーテル
521 先部
522 吸引口
60 人工呼吸器
61 呼吸管
62 アダプタ
63 呼気弁
70 吸引カテーテル
71 基部
80 患者
81 気管部
81a 痰
81b 膜
82 気管切開部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の気管内に先端部が留置され痰を吸引する吸引カテーテルと、
吸引した痰が収集される収集容器と、
前記吸引カテーテルが吸引チューブを介して連通し、負圧力を発生するポンプ手段と、
前記収集容器がホースを介して連通し、前記吸引カテーテルと前記ポンプ手段が前記収集容器を介して連通する気管内痰の吸引装置であって、
前記収集容器から配した吸引チューブと吸引カテーテルの間に流路の開口面積を調節する絞り部を設けたことを特徴とする気管内痰の吸引装置。
【請求項2】
請求項1に記載の気管内痰の吸引装置において、ポンプ手段と収集容器の流路に分岐管を設けて圧力センサに連通し、該圧力センサにより吸引路の内圧を計測し、前記圧力センサの計測値が設定値を超えたときに、前記ポンプ手段の吸引量を増加する制御手段を設けたことを特徴とする気管内痰の吸引装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の気管内痰の吸引装置において、上記圧力センサによる計測値が、正常な痰吸引圧力から一定幅で超えかつ一定時間超えたとき、または、一定幅で下回りかつ一定時間超えたときに、アラーム信号を発生する制御手段を設けたことを特徴とする気管内痰の吸引装置。
【請求項4】
人工呼吸システムに利用される、外部の人工呼吸器から延出された呼吸管に連通される、患者の気管に挿入される気管カニューレをさらに具えた気管内痰の吸引装置であって、
前記ポンプ手段は、シリンジ構造でシリンジ外筒とシリング外筒内を往復動する隔壁とからなり、シリンジ外筒に吸気弁を設け、隔壁に排気弁を設け、前記吸気弁と前記排気弁が、負圧力20kpa以上で開弁するポンプ手段であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の気管内痰の吸引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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