説明

気管挿管練習用模型

【課題】頭部、回動する下顎部、気管及び食道に連続する咽頭部を備えた気管挿管練習用模型において、患者の顔面の筋肉が硬直している場合における気管挿管の訓練にも対応できるようにする
【解決手段】顎骨の基端部を上下方向への回動と前後方向への移動とを可能にして頭部に支持させると共に、下顎と頭部との間にベルトを架け渡したこと

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部、回動する下顎部、気管及び食道に連続する咽頭部を備えた気管挿管練習用模型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の模型としては、特許文献1に開示された気道確保実習シミュレーションモデルが知られている。
このモデルは、頭蓋骨に設けた突起(点)を支点として上下方向に回動する下顎骨を口腔部の構成要素とし、下顎骨の先端より突設された弾性を有する支柱で下歯列を支持する構成となっている。下歯列を下方に押し下げると弾性を有する支柱が折れ曲がって口が大きく開いて気管への挿管をし易くしてあり、弾性材料からなる口角部分が裂けることをも防止できるとしている。
【0003】
しかしながら、上記のモデルでは、下顎骨を下方向に回動させて口腔を開き、その状態からさらに下歯列を下方に押し下げると、通常の場合より口腔が大きく開いてしまうことになる。そのため、気管挿管を行う技能水準が低くなって、実践的な訓練からはかけ離れてしまう不都合がある。
【0004】
気管挿管を必要とする救急患者の症状の中には、神経性、外傷、顎関節などに起因する開口障害によって口腔が十分開かない場合がある。このような開口障害がある患者に遭遇すると、咽頭部の狭い視野で気管挿管を行うことが余儀なくされることになる。
気管挿管のトレーニングにおいては、通常の訓練、すなわち口腔を開け、喉頭の軸線と咽頭の軸線とを一致させると共に、声門を確認しながら挿管チューブを挿入する挿管訓練だけではなく、開口障害のある患者に対する処置についても訓練をしておく必要がある。
【0005】
前記公知のモデルだけで訓練をしてきた場合には、開口障害によって口腔が十分開かない患者への対応が困難となり、往々にして患者の前歯を折ってしまう事故が発生することになる。
残念ながら、口腔が十分開かない患者に対する処置の訓練を行える模型は、いまだお目見えしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4152027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、頭部、回動する下顎部、気管及び食道に連続する咽頭部を備えた気管挿管練習用模型において、患者が開口障害を起こしている場合における気管挿管の訓練にも対応できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を解決するための第一の技術的手段は、イ)下顎骨の基端部を上下方向への回動と前後方向への移動とを可能にして頭部に支持させ、ロ)下顎と頭部との間にベルトを架け渡したこと、である。
【0009】
第二の技術的手段は、上記の左右の下顎骨の基端部間又は左右の可動部材間を跨設板で連結し、この跨設板にベルトの一端を取付けたことであり、第三の技術的手段は、頭部及び/又は下顎に対する上記ベルト側の取付け位置の変更を可能としたことである。
また、第四の技術的手段は、鼻部を咽頭部に鼻腔を連通させて取り付けたことであり、第五の技術的手段は、舌部の基端部を短尺パイプの上部外側に固着させ、パイプを気管内へ挿脱可能に取り付けたことである。
【0010】
第一の技術的手段において、下顎骨の基端部は上下方向への回動と前後方向への移動とを可能にして頭部に支持されているから、下顎を動作させることによって、人の自然な口腔の開閉を実現することができる。
下顎と頭部との間にはベルトが架け渡されていて、下顎骨の押下げが一定の範囲に抑制されて口腔を大きく開くことはできない。したがって、開口障害を起こしている患者を想定した気管挿管の訓練を行うことができる。
ベルトの取付けは、その着脱が不能であってもよいが、着脱を可能にしておくと、ベルトを外すことによって開口障害のない患者向けの訓練を選択的に行うことができる。
【0011】
第二の技術的手段では、上記の左右の下顎骨の基端部間又は基端部を枢着させた左右の可動部材間が跨設板で連結され、この跨設板にベルトの一端が取り付けられているので、一本のベルトで左右の下顎骨の動きをバランスよく規制することができる。
第三の技術的手段においては、頭部及び/又は下顎に対する上記ベルト側の取付け位置の変更が可能となっているので、これによって下顎骨の回動範囲の選択が可能となり、口腔の開け具合を相違させた状態で気管挿管を訓練することができる。
【0012】
また、第四の技術的手段では、咽頭部に鼻腔を連通させて鼻部が取り付けられているので、口腔からの気管挿管及び経鼻挿管の双方の訓練を行うことができる。
なお、鼻部は着脱を不能にして取り付けてもよいが、着脱を可能にしておくと、先天的に鼻腔に異常があるか、鼻中隔湾曲症などの病気、或いは吐瀉物などにより鼻腔が狭くなっている鼻部を形成しておいて、それらを適宜交換することによって挿管条件の異なる場合を想定した挿管訓練を選択的に行うことができる。したがって、気管挿管前の必要な処置についても訓練を行えることになる。
【0013】
第五の技術的手段では、舌部の基端部を短尺パイプの上部外側に固着させ、パイプを気管内へ挿脱可能に取り付けられているから、舌部の交換を用意に行うことができる。舌部に海綿状血管腫、甲状腺機能低下症などに起因する巨大舌の症状のある患者への挿管訓練を行う場合には、通常の舌を巨大舌に交換する場合に好適である。
【0014】
下顎と頭部との間に架け渡すベルトは、伸縮しない材質、例えば織物、皮革などの素材で形成しておくことが望ましいが、硬直度があまり強くない状況にも対応できるように、若干の伸縮性を備えたベルトを用いてもよい。
頭部の内側に配置するレールは長孔を利用したものでもよいし、断面がU字状或いはC字状の溝レールで構成したものでもよい。レールには下顎骨の基端部を直接係合させ、或いはレールに沿って進退する可動部材に下顎骨の基端部を回動可能にして取付けることになる。
可動部材としては、板部材、駒部材、車輪などが好適である。それ自身滑り難い材質であれば、適宜滑子を取り付けておけばよい。また、可動部材の進退を安定させるためには、若干長尺の部材を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる模型においては、開口障害を起こしている患者に対する気管挿管の訓練にも対応できる結果、手技向上のためにより困難な条件下での気管挿管を経験できるから、トレーニングをより実践的に行える利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る模型の正面図
【図2】表装を取り除いた骨格模型の正面図
【図3】頭蓋骨の一部を切り欠いた模型の頭部斜視図
【図4】頭部内側の平面図
【図5】頭蓋骨の背面図
【図6】表装を取り除いた頭部の正面図
【図7】鼻部の側面図
【図8】鼻部を外した頭部の要部正面図
【図9】舌部の斜視図
【図10】舌部の平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1、2は本発明に係る模型の正面図である。図2は、上半身の骨格と関係する内臓を組み合わせた状態の骨格模型10の正面図、図1は骨格模型10に軟質樹脂で形成した表装2を被着させた人の上半身模型1を架台3に載置し、その上の首から下を透明樹脂製のカバー4を被せ、これを架台3にビス5、5を用いて固定している。
なお、符号6、6は、図示しない診察台やテーブルなどに架台3をおいて訓練を行う際に、模型が動くのを防止するために使用する吸盤である。
【0018】
骨格模型10は、頭部の基台11を頸部12にボルト20を用いて枢着して頭部全体を上方向へ傾動させられるようにしている。支持台11には台座13が設けてあり、その前部の下面に上顎骨14を形成している(図3参照)。
台座13の左右の側壁には前後方向に向けて断面コ字形のレール15、15が取付けてあり、滑子16、16を備えたやや長尺の可動板17をレール15の内側に装入していて、可動板17は前後方向に円滑に進退することができる。この構造によって下顎骨の取付け部を強化すると共に、下顎骨の基端部に大きな力がかかっても、これを枢着させた可動部材をレールに支持させながらベルトが許容する範囲で進退させられる。
また、左右の可動板17、17の間には、両者を連結する跨設板18が取付けてあり、左右の可動板17、17と跨設板18とが一体となって進退するようにしている。
【0019】
下顎骨21は、その基端部を可動板17に枢着させてあり、下顎骨21は上下方向に回動すると共に可動板17の進退に伴って前後方向に移動できるから、人の口腔部の開閉に近い動きができるようにしている。
符号31は、骨格模型10の頭部に被着させた頭蓋骨であり、台座13に着脱可能に支持させている。
【0020】
上顎骨14と下顎骨21とで形成する口腔の奥に位置する咽頭部30は、食道23及び気管25に連通していて、食道23の先端には模擬胃袋24を、気管25の先端には模擬肺袋26をそれぞれ取り付けている。これらの袋は、気管挿管が正しく行われた場合には模擬肺袋26が膨れ、誤って食道23に挿管された場合には模擬胃袋24が膨れることになるから、挿管位置が正しいかどうかを容易に確認できるようにしている。
【0021】
跨設板18には織物製のベルト35の一端を固定している。ベルト35の他端は、頭蓋骨31に穿設した孔32を通って外側に臨み、頭蓋骨31の背面側の下部に固定するようになっている。この実施形態においては、ベルトの他端側に複数の孔34、34を形成し、選択した孔34を頭蓋骨31に穿設した取付け孔33に臨ませて図示しない係止ピンで係止する方式でベルト35を固定するようにしている。
【0022】
図6における符号41は、骨格模型10の台座13の上面中央に着脱可能に取り付けた鼻部であり、比較的軟らかい樹脂で形成している。この鼻部41には一つの鼻の穴42が形成されているが、勿論二つ形成するようにしてもよい。
鼻の穴42につながる鼻腔43はアーチ状に穿設してあって、鼻部41を取り付けた場合に、鼻腔43他端開口部44が、台座13上に形成され咽頭部30に連通する孔45の位置に一致するようになっている。
鼻腔43内に吐瀉物を装入しておくことによって、経鼻挿管の前処置における吐瀉物の除去の訓練を行うことができる。
【0023】
図9に示した舌部46は、透明なアクリル樹脂からなる長さ約5cmのパイプ47の上部周囲に、軟質塩化ビニル樹脂からなる舌模型48の基端部を固定させてあって、パイプ47を利用して咽頭部30から気管25への挿脱を可能にしている。
舌模型48の基端部には、図10に示したように、咽頭部30の下部に位置する喉頭部50を形成していて、喉頭蓋51、声門52及び声帯53を備えており、気管25に挿入した状態では舌模型48の奥に位置するパイプ47の内側から喉頭部50の内側が見えることになる。
なお、図9、10に示した舌模型48は、大人の標準的な舌の大きさのものである。
【符号の説明】
【0024】
1上半身模型、 2模型の表装、 3架台、 4模型のカバー、 5カバー固定用ビス、 6架台固定用の吸盤、 10骨格模型、 11支持台、 12頸部、 13台座、 14上顎骨、
15レール、 16滑子、 17可動板、 18跨設板、 20基台固定用ボルト、 21下顎骨、 23食道、 24模擬胃袋、 気管、 26模擬肺袋、 30咽頭部、 31頭蓋骨、 32頭蓋骨のベルト挿通用孔、 33頭蓋骨のベルト固定用孔、 34ベルトの取り付け孔、 35ベルト、
41鼻部、 42鼻の穴、 43鼻腔、 44鼻の穴の他端、 45咽頭部に連通する孔、 46舌部、 47アクリル樹脂製パイプ、 48舌模型、 50喉頭部、 51喉頭蓋、 52声門、 53声帯



【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部、回動する下顎部、気管及び食道に連続する咽頭部を備えた気管挿管練習用模型において、下顎骨の基端部を上下方向への回動と前後方向への移動とを可能にして頭部に支持させると共に、下顎と頭部との間にベルトを架け渡した気管挿管練習用模型。
【請求項2】
左右の下顎骨の基端部間又は可動部材間を跨設板で連結し、この跨設板にベルトの一端を取付けた請求項1に記載の気管挿管練習用模型。
【請求項3】
頭部及び/又は下顎に対するベルト側の取付け位置の変更を可能とした請求項1又は2に記載の気管挿管練習用模型。
【請求項4】
咽頭部に鼻腔を連通させて鼻部が取り付けてある請求項1、2又は3に記載の気管挿管練習用模型。
【請求項5】
舌部の基端部を短尺パイプの上部外側に固着させ、パイプを気管内へ挿脱可能に取り付けてある請求項1、2、3又は4に記載の気管挿管練習用模型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−88453(P2013−88453A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225658(P2011−225658)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(591179639)株式会社京都科学 (10)
【Fターム(参考)】