説明

気象レーダシステムとその信号処理方法

【課題】受信信号から高精度に干渉波成分を除去する。
【解決手段】気象レーダ装置は、観測対象に向けてレーダ波を送信し、その反射波を受信し、反射波の受信信号を主系統と少なくとも1つの他系統とに分配する。そして、他系統の信号から他の無線局からの干渉波信号を抽出し、主系統の信号から上記抽出された干渉波信号を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、降雨測定などを行う気象レーダシステムに係り、特に受信信号から干渉波成分を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置で使用される送信周波数は、用途によって決められ、一般的に高い分解能や精度が要求される場合には高い周波数が用いられる。気象レーダ装置の送信周波数は、周波数範囲の分類の中で、CバンドやXバンドが用いられ、2.5MHz間隔などの一定の周波数毎に免許制で割り当てられている。しかしながら、自局と他局の送信周波数が異なっていても設置位置が近い場合には、お互いの受信信号に電波干渉を与えることがある。他のレーダサイト等からの信号などが干渉波として受信信号に混入すると、受信信号の感度が低減し、受信電力やドップラ速度を正しく測定できないという問題があった。
【0003】
なお、本願に関連する公知文献として次のようなものがある(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−139565公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、受信信号から高精度に干渉波成分を除去することができる気象レーダシステムとその信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る気象レーダシステムとその信号処理方法は、上記目的を達成するために、以下のような手段を講じている。
【0007】
第1の態様は、観測対象に向けてレーダ波を送信し、その反射波を受信する送受信手段と、前記反射波の受信信号を主系統と少なくとも1つの他系統とに分配する分配手段と、前記他系統の信号から他の無線局からの干渉波信号を抽出する抽出手段と、前記主系統の信号から前記抽出された干渉波信号を除去する除去手段とを具備するものである。
【0008】
第2の態様は、上記第1の態様において、前記除去手段は、前記干渉波信号の振幅及び位相の少なくとも一方を調整して、前記受信信号から減算するものである。
【0009】
第3の態様は、上記第1又は第2の態様において、前記抽出手段は、前記他系統の信号に前記他の無線局の送信周波数に対応する発振信号を与えるものである。
【0010】
第4の態様は、上記第1又は第2の態様において、前記抽出手段は、前記他系統の信号のうち前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域を通過させるフィルタを備えるものである。
【0011】
第5の態様は、上記第1又は第2の態様において、前記抽出手段は、前記他系統の信号を周波数成分に変換した後の信号から前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域を抽出するものである。
【0012】
第6の態様は、上記第1又は第2の態様において、前記抽出手段は、前記他系統の信号を直交検波し、複素平面上で周波数成分に変換した後の信号から前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域を抽出するものである。
【発明の効果】
【0013】
したがってこの発明によれば、受信信号から高精度に干渉波成分を除去することができる気象レーダシステムとその信号処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る気象レーダシステムの一実施形態を示すブロック構成図。
【図2】干渉波による混信を示す概念図。
【図3】図1の信号処理装置の第1実施例の処理系統を示す図。
【図4】図1の信号処理装置の第2実施例の処理系統を示す図。
【図5】図1の信号処理装置の第3実施例の処理系統を示す図。
【図6】図1の信号処理装置の第4実施例の処理系統を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の図において、同符号は同一部分または対応部分を示す。
【0016】
図1は、本発明に係る気象レーダシステムの一実施形態を示すブロック構成図である。このシステムは、空中線装置(アンテナ)11、送信装置12、受信装置13、周波数変換装置16、信号処理装置17、監視制御装置18、データ変換装置19、データ表示装置20、データ蓄積装置21、データ通信装置22、遠隔監視制御装置23、及び遠隔表示装置24を備える。
【0017】
上記構成において、遠隔監視制御装置23からの監視制御信号が監視制御装置18を通して信号処理装置17に送られると、信号処理装置17内では、内部に格納されている種信号のデジタルデータが発生され、D/A変換された後、送信IF信号として周波数変換装置16に送られ、それぞれRF信号にアップコンバートされる。
【0018】
周波数変換装置16で得られた送信RF信号は、送信装置12、14により遠距離の観測可能な送信電力に増幅される。増幅された送信電波は、空中線装置11より空間に送出される。
【0019】
空間上の降水からの送信電波による反射波はいずれも上記空中線装置11にて捕捉され、それぞれ受信装置13にて受信され、周波数変換装置16でIF信号に変換された後、共に信号処理装置17に送られる。
【0020】
信号処理装置17は、受信IF信号をA/D変換し、I/Q検波した後、受信電力及びドップラ速度を算出する機能を持つ。さらに、この信号処理装置17は、他のレーダサイトなどからの電波干渉の影響を低減し受信信号の感度を向上させるための干渉波除去機能を有する。干渉波除去機能の詳細については後述する。
【0021】
データ変換装置19は、信号処理装置17で得られる受信電力から降水強度を算出し、ドップラ速度の補正を行う。データ表示装置20はデータ変換装置19で解析されたデータを表示する。データ蓄積装置21はデータ変換装置19で解析されたデータを蓄積する。データ通信装置22はレーダサイト外に通信手段を講じてデータ変換装置19で解析されたデータを転送する。遠隔表示装置24はレーダサイトから転送されてきたデータを表示、または解析等を実施する。また、遠隔監視制御装置23は監視制御装置18と同様にレーダシステムの監視が可能である。
【0022】
次に、上記構成による気象レーダシステムの信号処理装置17で行う干渉波除去処理について各実施例にしたがって説明する。
図2は、干渉波による混信を示した概念図である。図2において、実線は、送信周波数f0を用いた場合の自局の受信信号を示し、破線は、送信周波数f1(例えば、f1=f0+2.5MHz)を場合の他局の受信信号を示したものである。図2中の斜線部分は、他局からの干渉波が混入した信号として得られる。受信信号の感度を向上させるには、この不要な干渉波信号を除去することが必要である。
【0023】
(実施例1)
図3は、図1の信号処理装置17の第1実施例の処理系統を示したものである。帯域10MHzの受信IF信号を2系統に分配し、主系統には自局の送信周波数f0の発振信号をミキシングし、他系統には他局の送信周波数f1の発振信号をミキシングして、60MHzのクロックで受信IF信号をA/D変換する。デジタル化された各受信データの帯域を例えば帯域1.2MHzのバンドパスフィルタ(BPF)に通過させて波形整形し、送信周波数f0,f1に対応する受信データをそれぞれ抽出する。抽出された送信周波数f0,f1に対応する受信データは、直交検波され、I成分(同相;In-phase成分)、Q成分(直交;Quadrature成分)の信号にそれぞれ分離され、干渉波除去が行われる。
【0024】
干渉波除去は、例えば、次のような手法で行う。第1の手法として、他局の送信周波数f1の受信データに閾値(例えば−100dBm)以上のデータが算出された場合に干渉波が到来したとみなし、自局の送信周波数f0に対応するIQ信号を方位平均対象から除去する。第2の手法として、除去の対象となったデータを1つ前のヒットのデータで置き換える。第3の手法として、除去の対象となったヒットの自局の送信周波数f0に対応するIQデータと他局の送信周波数f1に対応するIQデータとをそれぞれ複素平面上で高速フーリエ変換(FFT)する。そして、自局のスペクトル波形からあらかじめ取得しておく相手局の送信波の周波数スペクトルを用いて、相手局のf1の入力レベルから干渉波の周波数スペクトルを計算し、干渉波の分を周波数ごとに減算した後、逆フーリエ変換(IFFT)する。なお、減算処理の際には、必要に応じて振幅補正や位相補正を行う。
このように、干渉波除去されたIQ信号を用いて、受信電力の算出及びドップラ速度の算出を行う。
【0025】
(実施例2)
図4は、図1の信号処理装置17の第2実施例の処理系統を示したものである。干渉波の周波数は、例えばf0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzと想定されているものとする。
【0026】
帯域10MHzの受信IF信号を60MHzのクロックでA/D変換する。デジタル化された信号を5系統に分配する。主系統の信号は、自局の送信周波数f0に対応する1.2MHzの帯域に通過特性を有するBPFを通過した後に直交検波される。その他の4系統の信号は、干渉波の周波数f0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzにそれぞれ対応する帯域に通過特性を有するBPFを通過した後に直交検波される。そして、上記実施例1と同様の手法で、干渉波の周波数f0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzにそれぞれ対応するIQ信号をもとに自局の送信周波数f0に対応するIQ信号から干渉波と判定されたデータを除去または減算する。
【0027】
(実施例3)
図5は、図1の信号処理装置17の第3実施例の処理系統を示したものである。上記実施例2と同様に、干渉波の周波数は、f0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzと想定されているものとする。
【0028】
帯域10MHzの受信IF信号を60MHzのクロックでA/D変換する。デジタル化された信号を高速フーリエ変換(FFT)し周波数軸上のスペクトル波形を表すデータに変換し、5系統に分配する。主系統のデータは、自局の送信周波数f0に対応する1.2MHzの帯域に通過特性を有するBPFを通過した後に逆フーリエ変換(IFFT)により時間軸上のデータに変換される。その他の4系統の信号は、干渉波の周波数f0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzにそれぞれ対応する帯域に通過特性を有するBPFを通過した後に逆フーリエ変換(IFFT)される。そして、干渉波の周波数f0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzにそれぞれ対応するデータについて閾値(例えば−100dBm)を設けて干渉波の有無を判定する。干渉波有りと判定された周波数について、あらかじめ取得しておく相手局の送信波の周波数スペクトルを用いて、相手局のf1の入力レベルから干渉波の周波数スペクトルを計算し、自局の送信周波数f0に対応するデータから干渉波を減算して除去する。なお、減算処理の際には、必要に応じて振幅補正や位相補正を行う。干渉波が除去されたデータに対して直交検波を行い、I成分、Q成分に分離された信号を用いて、受信電力の算出及びドップラ速度の算出を行う。
【0029】
(実施例4)
図6は、図1の信号処理装置17の第3実施例の処理系統を示したものである。上記実施例2と同様に、干渉波の周波数は、f0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzと想定されているものとする。
【0030】
帯域10MHzの受信IF信号を60MHzのクロックでA/D変換する。デジタル化された信号を直交検波し、I成分、Q成分の信号に分離する。分離されたIQ信号は、複素平面上でFFTされ、このIQスペクトルデータは5系統に分配される。主系統のIQスペクトルデータは、自局の送信周波数f0に対応する1.2MHzの帯域に通過特性を有するBPFを通過した後に逆フーリエ変換(IFFT)により時間軸上のデータに変換される。その他の4系統のIQスペクトルデータは、干渉波の周波数f0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzにそれぞれ対応する帯域に通過特性を有するBPFを通過した後に逆フーリエ変換(IFFT)される。そして、干渉波の周波数f0+2.5MHz、f0+5MHz、f0−2.5MHz、f0−5MHzにそれぞれ対応するデータについて閾値(例えば−100dBm)を設けて干渉波の有無を判定する。干渉波有りと判定された周波数について、あらかじめ取得しておく相手局の送信波の周波数スペクトルを用いて、相手局のf1の入力レベルから干渉波の周波数スペクトルを計算し、自局の送信周波数f0に対応するデータから干渉波を減算して除去する。なお、減算処理の際には、必要に応じて振幅補正や位相補正を行う。干渉波が除去されたIQ信号を用いて、受信電力の算出及びドップラ速度の算出を行う。
【0031】
以上述べたように、上記実施形態では、受信IF信号を主系統と少なくとも1つの他系統とに分配して、他系統の信号から他の無線局の送信周波数に対応する帯域の信号を抽出して、主系統の信号から抽出した信号を除去又は減算するものである。これにより、他のレーダサイト等からの信号などが干渉波として受信信号に混入した場合でも、干渉波を確実に除去することができるため、受信信号の感度を向上させ、受信電力やドップラ速度を正しく測定できるようになる。
【0032】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0033】
11…空中線装置(アンテナ)、12…送信装置、13…受信装置、16…周波数変換装置、17…信号処理装置、18…監視制御装置、19…データ変換装置、20…データ表示装置、21…データ蓄積装置、22…データ通信装置、23…遠隔監視制御装置、24…遠隔表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象に向けてレーダ波を送信し、その反射波を受信する送受信手段と、
前記反射波の受信信号を主系統と少なくとも1つの他系統とに分配する分配手段と、
前記他系統の信号から他の無線局からの干渉波信号を抽出する抽出手段と、
前記主系統の信号から前記抽出された干渉波信号を除去する除去手段と
を具備することを特徴とする気象レーダ装置。
【請求項2】
前記除去手段は、前記干渉波信号の振幅及び位相の少なくとも一方を調整して、前記受信信号から減算することを特徴とする請求項1記載の気象レーダ装置。
【請求項3】
前記抽出手段は、前記他系統の信号に前記他の無線局の送信周波数に対応する発振信号を与えることを特徴とする請求項1又は2に記載の気象レーダ装置。
【請求項4】
前記抽出手段は、前記他系統の信号のうち前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域を通過させるフィルタを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の気象レーダ装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、前記他系統の信号を周波数成分に変換した後の信号から前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域を抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載の気象レーダ装置。
【請求項6】
前記抽出手段は、前記他系統の信号を直交検波し、複素平面上で周波数成分に変換した後の信号から前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域を抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載の気象レーダ装置。
【請求項7】
観測対象に向けてレーダ波を送信し、その反射波を受信する気象レーダ装置に用いられる方法であって、
前記反射波の受信信号を主系統と少なくとも1つの他系統とに分配する分配ステップと、
前記他系統の信号から他の無線局からの干渉波信号を抽出する抽出ステップと、
前記主系統の信号から前記抽出された干渉波信号を除去する除去ステップと
を具備することを特徴とする信号処理方法。
【請求項8】
前記除去ステップは、前記干渉波信号の振幅及び位相の少なくとも一方を調整して、前記受信信号から減算することを特徴とする請求項7記載の信号処理方法。
【請求項9】
前記抽出ステップは、前記他系統の信号に前記他の無線局の送信周波数に対応する発振信号を与えることを特徴とする請求項7又は8に記載の信号処理方法。
【請求項10】
前記抽出ステップは、前記他系統の信号のうち前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域に通過特性を有するフィルタを用いることを特徴とする請求項7又は8に記載の信号処理方法。
【請求項11】
前記抽出ステップは、前記他系統の信号を周波数成分に変換した後の信号から前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域を抽出することを特徴とする請求項7又は8に記載の信号処理方法。
【請求項12】
前記抽出ステップは、前記他系統の信号を直交検波し、複素平面上で周波数成分に変換した後の信号から前記他の無線局の送信周波数に対応する帯域を抽出することを特徴とする請求項7又は8に記載の信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−59016(P2011−59016A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210923(P2009−210923)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】