説明

気象レーダシステムとその降水強度算出方法

【課題】これまでは不可能であった高分解能かつ高精度な降水強度の算出を可能とする。
【解決手段】水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信する送受信装置(11〜16)と、前記送受信装置の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出する信号処理装置(17)と、前記複数の観測パラメータのうち、低空間分解能であるが降水強度との相関が高い性質を持つ観測パラメータと空間分解能が高いが降水強度との相関が低い観測パラメータそれぞれに基づいて降水強度を総合判断するデータ変換装置(18)とを備え、低空間分解能であるが降水強度との相関が高い性質を持つ比偏波間位相差(KDP)と、空間分解能が高いが降水強度の絶対値との相関は低く、その地点付近の相対的な値となるレーダ反射因子(Z)とを組み合わせて総合的に降水強度(R)を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチパラメータレーダ(別名、二重偏波ドップラーレーダ)を用いて、ダム・河川・道路・下水道管理等における雨量算出などの気象防災に資する気象レーダシステムに係り、特に降水強度算出の分解能及び精度を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の気象レーダシステムでは、比偏波間位相差(KDP)、レーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)のいずれかの観測パラメータに基づく方式によって降水強度算出が行われていた。また、予想される降水強度の強弱、あるいはクラッターレベルなどにより、3つの方式を切り替えることにより降水強度算出が行われていた(非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、比偏波間位相差(KDP)は得られる距離分解能が粗いこと、レーダ反射因子(Z)は降水強度の強弱の相対関係は維持するものの絶対的な精度が低いこと、レーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)は電波減衰時の精度が悪いことなどの問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】V.N.Bringi and V.Chandrasekar, POLARIMETRIC DOPPLER WEATHER RADAR, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS, p.517, 2001.
【非特許文献2】「気象と大気のレーダーリモートセンシング」深尾、浜津著、京都大学学術出版会、2005年3月発行。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如く、従来の気象レーダシステムでは、比偏波間位相差(KDP)、レーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)のいずれかの観測パラメータに基づく方式によって降水強度算出が行われ、また、予想される降水強度の強弱、あるいはクラッターレベルなどにより、3つの方式を切り替えることにより降水強度算出が行われていたが、各観測パラメータには一長一短があり、精度のよい結果が安定してえられるものではないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、これまでは不可能であった高分解能かつ高精度な降水強度の算出を可能とする気象レーダシステムとその降水強度算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る気象レーダシステムは、以下のように構成する。
【0008】
(1)水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信する送受信装置と、前記送受信装置の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出する信号処理装置と、前記複数の観測パラメータのうち、低空間分解能であるが降水強度との相関が高い性質を持つ観測パラメータと空間分解能が高いが降水強度との相関が低い観測パラメータそれぞれに基づいて降水強度を総合判断する降水強度算出手段とを具備する一態様とする。
【0009】
(2)(1)の構成において、前記降水強度算出手段は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])を算出した後、高い分解能で算出したレーダ反射因子(Z)を算出し、この2つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出する一態様とする。
【0010】
(3)(1)の構成において、前記降水強度算出手段は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])を算出した後、高い分解能で算出したレーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)を算出し、この3つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出する一態様とする。
【0011】
(4)(1)の構成において、前記降水強度算出手段は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])及び、レーダ反射因子(Z)または差分レーダ反射因子(ZDR)を算出した後、高い分解能でレーダ反射因子(Z)を算出し、この3つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出する一態様とする。
【0012】
(5)(3)または(4)の構成において、前記レーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)を算出する際に、偏波間位相差(φDP)により水平偏波及び垂直偏波それぞれにおける当該地点までの電波減衰量を加味する一態様とする。
【0013】
(6)(3)乃至(5)のいずれかの構成において、前記比偏波間位相差(KDP)または差分レーダ反射因子(ZDR)またはレーダ反射因子(Z)、あるいはこれらの複合により降水強度の概算値を算出し、これをもとに低い分解能での処理における一定領域の大きさを決定する一態様とする。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る気象レーダシステムの降水強度算出方法は、以下のように構成する。
【0015】
(7)水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信し、前記反射波の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出し、前記複数の観測パラメータのうち、低空間分解能であるが降水強度との相関が高い性質を持つ観測パラメータと空間分解能が高いが降水強度との相関が低い観測パラメータそれぞれに基づいて降水強度を総合判断する一態様とする。
【0016】
(8)(7)の構成において、前記降水強度の算出は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])を算出した後、高い分解能で算出したレーダ反射因子(Z)を算出し、この2つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出する一態様とする。
【0017】
(9)(7)の構成において、前記降水強度の算出は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])を算出した後、高い分解能で算出したレーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)を算出し、この3つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出する一態様とする。
【0018】
(10)(7)の構成において、前記降水強度の算出は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])及び、レーダ反射因子(Z)または差分レーダ反射因子(ZDR)を算出した後、高い分解能でレーダ反射因子(Z)を算出し、この3つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出する一態様とする。
【0019】
(11)(9)または(10)の構成において、前記レーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)を算出する際に、偏波間位相差(φDP)により水平偏波及び垂直偏波それぞれにおける当該地点までの電波減衰量を加味する一態様とする。
【0020】
(12)(9)乃至(11)のいずれかの構成において、前記比偏波間位相差(KDP)または差分レーダ反射因子(ZDR)またはレーダ反射因子(Z)、あるいはこれらの複合により降水強度の概算値を算出し、これをもとに低い分解能での処理における一定領域の大きさを決定する一態様とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、これまでは不可能であった高分解能かつ高精度な降水強度の算出を可能とする気象レーダシステムとその降水強度算出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る気象レーダシステムの一実施形態を示すブロック構成図。
【図2】本発明に係る気象レーダシステムの他の構成例を示すブロック構成図。
【図3】上記レーダシステムに用いられる降水強度算出処理の流れを示す処理系統図。
【図4】上記降水強度算出処理に用いられる比偏波間位相差算出処理の流れを示す処理系統図。
【図5】図4で説明した比偏波間位相差算出処理におけるフィルタ処理を説明するための波形図。
【図6】本発明において2次元データへ拡張する様子を示す図。
【図7】上記レーダシステムに用いられる降水強度算出処理の他の実施例を示す処理系統図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の一実施形態として、マルチパラメータレーダを用いた気象レーダシステムの構成を示すブロック図である。このシステムは、空中線装置(アンテナ)11、送信装置(水平偏波)12、受信装置(水平偏波)13、送信装置(垂直偏波)14、受信装置(垂直偏波)15、周波数変換装置(垂直偏波)16、信号処理装置17、監視制御装置18、データ変換装置19、データ表示装置20、データ蓄積装置21、データ通信装置22、遠隔監視制御装置23、遠隔表示装置24から構成される。
【0025】
ここで、図2に示すように、送信装置12を水平偏波、垂直偏波共通とする構成にしてもよい。図1、図2ともに、例えば周波数変換装置16を分離できるなどの構成もさらに考えられる。
【0026】
上記構成において、遠隔監視制御装置23からの監視制御信号が監視制御装置18を通して信号処理装置17に送られると、信号処理装置17内では、内部に格納されている種信号のデジタルデータが発生され、D/A変換された後、水平偏波、垂直偏波の送信IF信号として周波数変換装置16に送られ、それぞれRF信号にアップコンバートされる。
【0027】
周波数変換装置16で得られた水平偏波、垂直偏波の送信RF信号は、送信装置12、14により遠距離の観測可能な送信電力に増幅される。増幅された水平偏波、垂直偏波の2波は、空中線装置11より空間に送出される。
【0028】
空間上の降水からの水平偏波、垂直偏波による反射波はいずれも上記空中線装置11にて水平偏波/垂直偏波別に捕捉され、それぞれ受信装置13,15にて受信され、周波数変換装置16でIF信号に変換された後、共に信号処理装置17に送られる。
【0029】
信号処理装置17は、水平偏波/垂直偏波に送られた水平偏波/垂直偏波の受信IF信号をそれぞれA/D変換し、I/Q検波した後、受信電力(水平偏波、垂直偏波)、偏波間位相差、偏波間相互相関、ドップラ速度を算出する機能を持つ。
【0030】
データ変換装置19は、信号処理装置17で得られる受信電力からレーダ反射因子などの算出機能をもつ。具体的には後述の複数の手法が考えられる。
【0031】
データ表示装置20はデータ変換装置19で解析されたデータを表示する。データ蓄積装置21はデータ変換装置19で解析されたデータを蓄積する。データ通信装置22はレーダサイト外に通信手段を講じてデータ変換装置19で解析されたデータを転送する。遠隔表示装置24はレーダサイトから転送されてきたデータを表示、または解析等を実施する。また、遠隔監視制御装置23は監視制御装置19と同様にレーダシステムの監視が可能である。
【0032】
上記構成による気象レーダシステムにおいて、図3を参照して本発明に係る第1の降水強度算出方法を説明する。
【0033】
図3は上記気象レーダシステムのデータ変換装置20に用いられる第1の降水強度算出方法の処理の流れを示す処理系統図である。この方法は、比偏波間位相差(KDP)と降水強度(R)との関係を用いて降水強度を算出する方法であり、レーダ反射因子(Z)によって比例配分することを特徴とする。
【0034】
図3において、通常の算出方式は、非特許文献2の「気象と大気のレーダーリモートセンシング(深尾ほか)」に準ずる。レーダ反射因子算出処理101では、受信電力(Pr)からレーダ反射因子(Z)を算出する。(Z)の分解能は、方位方向は水平ビーム幅、距離方向はパルス幅に相当する。(Z)の算出に際しては、当該領域までの水平偏波、垂直偏波それぞれの電波減衰量を偏波間位相差(φDP)から推定し、これを補正する。
【0035】
比偏波間位相差算出処理102では、偏波間位相差(φDP)から比偏波間位相差(KDP)を算出する。比偏波間位相差算出処理について図4に示す。偏波間位相差(φDP)は、可能な限り高周波成分を取り除くため、方位方向のヒット平均数を多く取ることとなる。この影響で、方位方向にもレーダの一定のヒット数を取ることで、水平ビーム幅以上のビーム幅にてデータが生成される。さらに、距離方向に高周波成分が存在するため、このまま偏波間位相差(φDP)の距離微分である比偏波間位相差(KDP)を算出すると、ノイズ成分の多く含むデータとなる。このため、ローパスフィルタ処理111にて、高周波成分を取り除く。この様子を図5に示す。図5において、(a)がフィルタ処理前、(b)がフィルタ処理後を示している。
【0036】
高周波成分を取り除く際には距離方向の分解能が低下するので、比偏波間位相差算出処理112での2点間の距離をローパスフィルタ通過後の距離方向の分解能に設定する。また、偏波間位相差(φDP)、レーダ反射因子(Z)、差分レーダ反射因子(ZDR)、偏波間相互相関(ρHV)の値の分布から分解能の設定も可能である。また、可能な限り高周波成分を取り除くため、偏波間位相差(φDP)は方位方向のヒット平均数を多く取ることとなる。この影響で方位方向にもレーダの一定のヒット数を取ることで、水平ビーム幅以上のビーム幅にてデータが生成される。このように比偏波間位相差(KDP)を算出すると、距離方向にも方位方向にも分解能の低下した値が記録される。
【0037】
すなわち、ローパスフィルタを通過させた偏波間位相差(φDP)は分解能が落ちているため、比偏波間位相差(KDP)の算出の差異の2点間の距離を分解能に合わせれば、2点間の総雨量に相当する比偏波間位相差(KDP)が次式より求まる。
KDP={φDP(r2)-φDP(r1)}/2(r2−r1
降水強度算出処理103では、図6に示す通り比偏波間位相差(KDP)は低空間分解能であるが、降水強度との相関が高い性質と、空間分解能が高いが降水強度の絶対値との相関は低く、その地点付近の相対的な値となるレーダ反射因子(Z)とを組み合わせることで、高空間分解能で高精度な降水強度(R)を算出する。
【0038】
具体的に図6の例で説明すると、KDP法により距離1.5km、方位2度当たりの総雨量を求め、レーダ反射因子を知らずに、ZH元の距離150m、方位1度単位の雨量に振り分ける。ここで求められた総雨量の情報は、比偏波間位相差(KDP)に各地点のレーダ反射因子(ZH)の比率を掛け合わせたものをその地点の(KDP)とし、(KDP)から降水強度(R)を算出する。最後に、方位、距離ごとにデータのスムージング処理114を行ってつなぎ目の段差のないデータとする。
【0039】
したがって、上記の降水強度算出方法によれば、低空間分解能であるが降水強度との相関が高い性質を持つ比偏波間位相差(KDP)と、空間分解能が高いが降水強度の絶対値との相関は低く、その地点付近の相対的な値となるレーダ反射因子(Z)とを組み合わせて総合的に降水強度(R)を算出するようにしているので、高空間分解能でかつ高精度な降水強度(R)を算出することができる。
【0040】
続いて、図7を参照して本発明に係る第2の降水強度算出方法を説明する。
【0041】
図7は上記気象レーダシステムのデータ変換装置20に用いられる第2の降水強度算出方法の処理の流れを示す処理系統図である。レーダ反射因子算出処理201では、水平偏波の受信電力PrHからレーダ反射因子Zを求める。差分レーダ反射因子算出処理202では、水平偏波、垂直偏波それぞれの受信電力PrH, PrV及び偏波間位相差φDPから差分レーダ反射因子ZDRを求める。比偏波間位相差算出処理203では、偏波間位相差φDPから比偏波間位相差KDPを求める。
【0042】
降水強度算出処理204では、上記の処理201〜203で得られたレーダ反射因子Z、差分レーダ反射因子ZDR、比偏波間位相差KDPから降水強度Rrを算出する。ここで得られた降水強度Rrは選択的にスムージング処理205を受けて出力される。
【0043】
すなわち、図7に示す方法は、レーダ反射因子(Z)と降水強度(R)との関係を用いて降水強度算出する方法であり、低分解能として方位角Θ[deg]、距離L[m]における降水量をKDPにより算出する。同様の領域でZ及びZDRを算出する。Z及びZDRの算出に際しては、当該領域までの水平偏波、垂直偏波それぞれの電波減衰量をφDPから推定し、これを補正する。
【0044】
ここで、レーダ反射因子Zを用いた降水量算出においては式(1)が知られている。
Z=B×Rβ …(1)
Bは下記2−1〜2−3の方法で決定する。
2−1:降水強度算出式Z=B・RβのBを予めB=200等に設定する。Bについては、Zの値に応じて予めテーブルを持っておき、そのテーブルの値を利用してもよい。
2−2:BをZから決定する方法であり、aを定数としてB=a×ZでBを決定する。Bを求める際の分解能は、KDPの分解能とする場合と、Z本来の分解能の2つの形態が考えられる。
2−3:BをZDRから決定する方法であり、aを定数としてB=a×ZDRでBを決定する。Bを求める際の分解能は、KDPの分解能とする場合と、ZDR本来の分解能の2つの形態が考えられる。
【0045】
次に高分解能として方位角θ[deg]、距離l[m]によりレーダ反射因子(Z)を算出する。低分解能との関係は次のように考える。
Θ=m×θ …(3)
L=n×l …(4)
ここで、高分解能の方位方向のメッシュ番号i=1〜m、距離方向のメッシュ番号j=1〜nとすると、式(1)は次のように変換される。
Zi,j=B×Ri,jβ …(5)
ここで低分解能でも高分解能でも方位角Θ[deg]、距離L[m]の領域における総降水量は同じであると仮定すると、一定領域の平均降水強度をRaveとすれば、
m×n×Rave=ΣRi,j …(6)
ここで、式(5)と式(6)からβを解析的に推定する。βを求める際の分解能は、KDPの分解能(低分解能)とする場合と、ZまたはZDR本来の分解能(高分解能)の2つの形態が考えられる。
【0046】
mとnの決め方については、KDP算出時のフィルタリング分解能から割り出す方法、m,nをβと同列のパラメータとして連立方程式を解析的に解く方法が考えられる。
【0047】
最後に推定された定数B、βをもとに、式(5)により高分解能のRi,jを算出する。
【0048】
以上の処理により、第2の降水強度算出方法によっても第1の方法と同様に、低空間分解能であるが降水強度との相関が高い性質を持つ比偏波間位相差(KDP)と、空間分解能が高いが降水強度の絶対値との相関は低く、その地点付近の相対的な値となるレーダ反射因子(Z)と、定常時は高精度であるが電波減衰時の精度が悪い差分レーダ反射因子(ZDR)とを組み合わせて総合的に降水強度(R)を算出するようにしているので、高空間分解能でかつ高精度な降水強度(R)を算出することができる。
【0049】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、本発明によれば、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0050】
11…空中線装置(アンテナ)、12…送信装置(水平偏波)、13…受信装置(水平偏波)、14…送信装置(垂直偏波)、15…受信装置(垂直偏波)、16…周波数変換装置(水平偏波)、17…信号処理装置、18…監視制御装置、19…データ変換装置、20…データ表示装置、21…データ蓄積装置、22…データ通信装置、23…遠隔監視制御装置、24…遠隔表示装置、101…レーダ反射因子算出処理、102…比偏波間位相差算出処理、103…降水強度算出処理、104…スムージング処理、111…ローパスフィルタ、112…比偏波間位相差算出処理、201…レーダ反射因子算出処理、202…差分レーダ反射因子算出処理、203…比偏波間位相差算出処理、204…降水強度算出処理、205…スムージング処理。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信する送受信装置と、
前記送受信装置の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出する信号処理装置と、
前記複数の観測パラメータのうち、低空間分解能であるが降水強度との相関が高い性質を持つ観測パラメータと空間分解能が高いが降水強度との相関が低い観測パラメータそれぞれに基づいて降水強度を総合判断する降水強度算出手段と
を具備することを特徴とする気象レーダシステム。
【請求項2】
前記降水強度算出手段は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])を算出した後、高い分解能で算出したレーダ反射因子(Z)を算出し、この2つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出することを特徴とする請求項1記載の気象レーダシステム。
【請求項3】
前記降水強度算出手段は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])を算出した後、高い分解能で算出したレーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)を算出し、この3つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出することを特徴とする請求項1記載の気象レーダシステム。
【請求項4】
前記降水強度算出手段は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])及び、レーダ反射因子(Z)または差分レーダ反射因子(ZDR)を算出した後、高い分解能でレーダ反射因子(Z)を算出し、この3つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出することを特徴とする請求項1記載の気象レーダシステム。
【請求項5】
前記レーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)を算出する際に、偏波間位相差(φDP)により水平偏波及び垂直偏波それぞれにおける当該地点までの電波減衰量を加味することを特徴とする請求項3または4記載の気象レーダシステム。
【請求項6】
前記比偏波間位相差(KDP)または差分レーダ反射因子(ZDR)またはレーダ反射因子(Z)、あるいはこれらの複合により降水強度の概算値を算出し、これをもとに低い分解能での処理における一定領域の大きさを決定する請求項3乃至5のいずれか記載の気象レーダシステム。
【請求項7】
水平偏波と垂直偏波のレーダ波を同時に送信し、その反射波を受信し、
前記反射波の受信出力から二重偏波観測を行って複数の観測パラメータを算出し、
前記複数の観測パラメータのうち、低空間分解能であるが降水強度との相関が高い性質を持つ観測パラメータと空間分解能が高いが降水強度との相関が低い観測パラメータそれぞれに基づいて降水強度を総合判断することを特徴とする気象レーダシステムの降水強度算出方法。
【請求項8】
前記降水強度の算出は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])を算出した後、高い分解能で算出したレーダ反射因子(Z)を算出し、この2つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出することを特徴とする請求項7記載の気象レーダシステムの降水強度算出方法。
【請求項9】
前記降水強度の算出は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])を算出した後、高い分解能で算出したレーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)を算出し、この3つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出することを特徴とする請求項7記載の気象レーダシステムの降水強度算出方法。
【請求項10】
前記降水強度の算出は、前記観測パラメータとして得られる比偏波間位相差(KDP)をもとに低い分解能で一定領域の平均降水強度(Rave [mm/h])及び、レーダ反射因子(Z)または差分レーダ反射因子(ZDR)を算出した後、高い分解能でレーダ反射因子(Z)を算出し、この3つの情報から高い分解能の降水強度(R[mm/h])を算出することを特徴とする請求項7記載の気象レーダシステムの降水強度算出方法。
【請求項11】
前記レーダ反射因子(Z)と差分レーダ反射因子(ZDR)を算出する際に、偏波間位相差(φDP)により水平偏波及び垂直偏波それぞれにおける当該地点までの電波減衰量を加味することを特徴とする請求項9または10記載の気象レーダシステムの降水強度算出方法。
【請求項12】
前記比偏波間位相差(KDP)または差分レーダ反射因子(ZDR)またはレーダ反射因子(Z)、あるいはこれらの複合により降水強度の概算値を算出し、これをもとに低い分解能での処理における一定領域の大きさを決定する請求項9乃至11のいずれか記載の気象レーダシステムの降水強度算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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