説明

気象レーダ装置及びレーダ信号処理方法

【課題】レーダ受信信号の処理負荷を軽減することができる気象レーダ装置を提供する。
【解決手段】気象レーダ装置は、複数のアンテナ素子から位相制御により仰角方向に複数のレーダビームを形成すると共に方位方向を順次変化させて電波を送信し、気象目標からの反射波を受信する空中線装置1と、反射波の受信信号による複数の受信ビームを形成するDBF処理部21と、受信ビームを三次元の直交座標メッシュにマッピングし、メッシュに複数の受信ビームが含まれる場合は1つを選択した後にビーム合成し直交座標系の受信データを出力する信号処理装置2とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、雨や雲などの気象現象を観測する気象レーダ装置及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパラボナアンテナ型の気象レーダは、ペンシルビームと呼ばれる細いビームを形成して、水平方向に360°回転して1平面の観測データを取得した後に、アンテナ仰角を上げて次の1平面を取得することを続けて、三次元の降水データを収集する。そして、信号処理装置では極座標データを出力し、各サイトのレーダデータを合成する際に直交座標変換を実施していた(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】吉田 孝 監修、「改訂 レーダ技術」、社団法人電子情報通信学会、平成8年10月1日、初版、“第9章 気象レーダ”、P238−253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、フェーズドアレイアンテナを用いて気象レーダを構成した場合、マルチビームを同時に処理することが可能となる。しかしながら、レーダ受信信号の信号処理のデータレートが高くなるため、信号処理装置の処理負荷が増大し、処理が追いつかなくなるという問題がある。
【0005】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、レーダ受信信号の処理負荷を軽減することができる気象レーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためにこの発明に係る気象レーダ装置は、複数のアンテナ素子から位相制御により仰角方向に複数のレーダビームを形成すると共に方位方向を順次変化させて電波を送信し、気象目標からの反射波を受信するアンテナ部と、前記反射波の受信信号による複数の受信ビームを形成する受信ビーム形成部と、前記受信ビームを三次元の直交座標メッシュにマッピングし、前記メッシュに複数の受信ビームが含まれる場合には1つを選択した後にビーム合成し直交座標系の受信データを出力する信号処理部とを具備する。
【0007】
また、この発明に係るレーダ信号処理方法は、複数のアンテナ素子から位相制御により仰角方向に複数のレーダビームを形成すると共に方位方向を順次変化させて電波を送信し、気象目標からの反射波を受信するアンテナ部を備えるレーダ装置に用いられるレーダ信号処理方法であって、前記反射波の受信信号による複数の受信ビームを形成し、前記受信ビームを三次元の直交座標メッシュにマッピングし、前記メッシュに複数の受信ビームが含まれる場合には1つを選択した後にビーム合成し直交座標系の受信データを出力するものである。
【発明の効果】
【0008】
したがってこの発明によれば、レーダ受信信号の処理負荷を軽減することができる気象レーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る気象レーダ装置の構成例を示す図。
【図2】図1に示す信号処理装置の動作を示すフローチャート。
【図3】直交座標メッシュへのマッピング処理例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る気象レーダ装置の構成例を示したものである。
図1において、この気象レーダ装置は、空中線装置1と、信号処理装置2と、データ処理装置3と、監視制御装置4とを備える。
【0011】
空中線装置1は、例えば、複数のアンテナ素子を鉛直方向に配列した1次元フェーズドアレイアンテナを備える。空中線装置1は、信号処理装置2からの制御信号に従って、上記複数のアンテナ素子から電波を送信し、位相制御により仰角方向に複数のビームを形成して走査を行い、降水などの気象目標からの反射波を受信する。
【0012】
また、気象レーダ装置は任意空間の気象目標を観測する必要があるため、空中線装置1は、監視制御装置4からの制御信号に従って、駆動モータの回転等によりアンテナの方位方向を順次変化させる。
【0013】
一方、空間上の気象目標からの反射波を受信すると、空中線装置1は、受信されたアナログ信号をA/D変換して、I/Q検波し、検波したI/Q信号を信号処理装置2に与える。
【0014】
信号処理装置2は、DBF(Digital Beam Forming)処理部21において、空中線装置1から与えられたI/Q信号による複数の受信ビームを形成する。受信電力やドップラ速度等の受信データを算出する。信号処理装置2は、三次元の極座標メッシュと三次元の直交座標メッシュとを変換可能な座標変換マップ22を予め記憶している。信号処理装置2は、この座標変換マップ22を用いて、上記形成された複数の受信ビームを三次元の直交座標メッシュにマッピングし、メッシュに複数の受信ビームが含まれる場合には1つのビームを選択した後にビーム合成し受信電力やドップラ速度等を算出する。つまり、信号処理装置2からは直交座標系の受信データが出力される。
また、信号処理装置2は、監視制御装置4からの制御信号に従って、レーダ電波の送出角度を決める位相制御信号を空中線装置1に送信する。
【0015】
データ処理装置3は、信号処理装置2から出力された受信データをもとに、受信電力から降雨強度を算出し、ドップラ速度から補正後のドップラ速度を算出する。
監視制御装置4は、所定の観測手順に基づいて、各装置に制御信号を送出するほか、各装置の監視情報を一括して管理する。
【0016】
次に、このように構成された気象レーダ装置におけるレーダ信号処理について説明する。図2は、信号処理装置2の動作を示すフローチャートである。
空中線装置1から信号処理装置2にI/Q信号が入力され、DBF処理部21においてI/Q信号による受信ビーム形成が行われる(ステップS2a)。信号処理装置2は、ステップS2aで形成された受信ビームを座標変換マップ22を用いて直交座標系にマッピングする(ステップS2b)。そして、直交座標メッシュのうち受信ビームが重複する場合は1つの受信ビームを選択する(ステップS2c)。図3は、直交座標メッシュへのマッピング処理例を示したものである。ここでは、例えば、直交座標メッシュに対して占める割合が最も大きい受信ビームを選択する。その他にも、メッシュの中心に位置する受信ビームを選択するようにしてもよい。信号処理装置2は、上記ステップS2cで選択された受信ビームをもとにビーム合成し(ステップS2d)、直交座標系の受信データを出力する(ステップS2e)。
【0017】
一般的なレーダ装置においては、信号処理装置2では極座標系で処理を行っていたため、その後のデータ処理装置3で直交座標系のデータに変換して表示等を行っていた。これに対し、上記実施形態では、信号処理装置2においてDBF処理により形成された受信ビームを直交座標系にマッピングし、直交座標メッシュ上で重複する受信ビームのデータを予め間引くようにすることで処理対象のデータを削減することができる。
したがって上記実施形態によれば、レーダ受信信号の処理負荷を軽減することが可能なレーダ装置を実現することができる。
【0018】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0019】
1…空中線装置、2…信号処理装置、21…DBF処理部、22…座標変換マップ、3…データ処理装置、4…監視制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子から位相制御により仰角方向に複数のレーダビームを形成すると共に方位方向を順次変化させて電波を送信し、気象目標からの反射波を受信するアンテナ部と、
前記反射波の受信信号による複数の受信ビームを形成する受信ビーム形成部と、
前記受信ビームを三次元の直交座標メッシュにマッピングし、前記メッシュに複数の受信ビームが含まれる場合には1つを選択した後にビーム合成し直交座標系の受信データを出力する信号処理部と
を具備することを特徴とする気象レーダ装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記メッシュに対して占める割合が最も大きい受信ビームを選択することを特徴とする請求項1記載の気象レーダ装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記メッシュの中心に位置する受信ビームを選択することを特徴とする請求項1記載の気象レーダ装置。
【請求項4】
複数のアンテナ素子から位相制御により仰角方向に複数のレーダビームを形成すると共に方位方向を順次変化させて電波を送信し、気象目標からの反射波を受信するアンテナ部を備えるレーダ装置に用いられるレーダ信号処理方法であって、
前記反射波の受信信号による複数の受信ビームを形成し、
前記受信ビームを三次元の直交座標メッシュにマッピングし、前記メッシュに複数の受信ビームが含まれる場合には1つを選択した後にビーム合成し直交座標系の受信データを出力することを特徴とするレーダ信号処理方法。
【請求項5】
前記メッシュに対して占める割合が最も大きい受信ビームを選択することを特徴とする請求項4記載のレーダ信号処理方法。
【請求項6】
前記メッシュの中心に位置する受信ビームを選択することを特徴とする請求項4記載のレーダ信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−21983(P2011−21983A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166852(P2009−166852)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】