説明

気道炎症改善用製剤

【課題】抗ヒスタミン薬、アドレナリンα受容体作動薬又はステロイド系抗炎症薬による気道炎症の抑制作用を妨げることなく、ウイルスや、ほこり、雑菌、花粉等のアレルゲン等の異物に対して、粘膜線毛運動を促進させ、これらの異物を除去する機能を有する気道炎症改善用製剤を提供する。
【解決手段】気道炎症抑制成分及び揮発性線毛運動促進剤を含有する気道炎症改善用製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気道炎症改善用製剤に関するものである。より詳細には、抗ヒスタミン剤、アドレナリンα受容体作動薬又はステロイド系抗炎症薬による気道炎症の抑制作用を妨げることなく、ウイルスや、ほこり、雑菌、花粉等のアレルゲン等の異物に対して、気道粘膜線毛運動を促進させ、これらの異物を除去する機能を有する気道炎症改善用製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鼻、喉、気管支などの気道の炎症は、風邪等の感染症、花粉症等のアレルギー疾患、肺炎やCOPDなどの代表的な症状である。気道の炎症は、外部からの異物侵入によって引き起こされるが、生体の防御機構として侵入した異物を気道から除去する役割を、粘膜線毛運動が担っている。すなわち、気道粘膜の表面に分泌される粘液のゲル層に捕捉された異物は、その下側の粘液ゾル層内で毎分900〜1000回の鞭打ち運動する線毛により、粘液と共に喉頭方向へ輸送され、痰として口腔外へ、あるいは、食道へと排出される。この異物が輸送される速度は、線毛運動の鞭打ち運動の周波数(CBF)が高いほど、速い。例えば、アドレナリンβ受容体作動薬はCBFを上昇させる薬剤であるが、CBFを上昇させることにより粘膜線毛運動による移送を促進する(非特許文献1参照)。
一方、気道の炎症による諸症状としては、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、鼻腔内のかゆみ、咳、喉の痛みなどがあるが、これらの気道における諸症状を緩和するための既存技術として、抗ヒスタミン薬、アドレナリンα受容体作動薬、ステロイド系抗炎症薬が用いられており、具体的な例では、抗ヒスタミンではジフェンヒドラミンが、アドレナリンα受容体作動薬ではフェニレフリンが、ステロイド系抗炎症薬ではフルチカゾンが、よく用いられている。しかし、これらの炎症を抑える成分は、上記の気道炎症症状を緩和する一方で、気道粘膜の線毛運動を低下させる作用がある(非特許文献2〜4参照)。このため、抗ヒスタミン薬、アドレナリンα受容体作動薬、ステロイド系抗炎症薬を服用することにより、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、鼻腔内のかゆみ、咳などの症状は改善されるが、体外に異物を排出する気道粘膜の線毛運動を低下させるため、異物の侵入・蓄積を助長させ、風邪などの感染症や花粉症などのアレルギー疾患による諸症状からの快復を遅延させるという不具合があった。
上記のような風邪薬・鼻炎薬・抗アレルギー薬を服用することによる不具合を解決するためには、線毛運動を促進する薬剤を組み合わせることが考えられる。例えば、アドレナリンβ受容体作動薬はCBFを上昇させる薬剤であるが、粘液の分泌作用において抗ヒスタミン薬やアドレナリンα受容体作動薬と拮抗的に作用する。このため、アドレナリンβ受容体作動薬はジフェンヒドラミンやフェニレフリンやフルチカゾン等の炎症を抑える成分と組み合わせて使用することはできなかった。
このため、気道粘膜における線毛運動を低下させずに、風邪などの感染症や花粉症などのアレルギー疾患による炎症反応を改善する気道炎症改善用製剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】玉置淳、呼吸器科、11(6):587−594、2007
【非特許文献2】Karttunenら、Pharmacol. Toxicol.、67:159−161、1990
【非特許文献3】Philllipsら、Otolaryngol. Head Neck Surg.、103:558−565、1990
【非特許文献4】Hofmannら、Arch. Otolaryngol. Head Neck Surg.、130(4):440−445、2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、炎症を抑制する成分の薬効を妨げることなく、気道粘膜線毛運動を活性化させ、気道粘膜における線毛運動を低下させずに、風邪などの感染症や花粉症などのアレルギー疾患による諸症状を改善する機能を有する気道炎症改善用製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、抗ヒスタミン薬、アドレナリンα受容体作動薬又はステロイド系抗炎症薬からなる群より選ばれる1種以上の薬剤と特定の揮発性線毛運動促進剤とを併用することにより、抗ヒスタミン薬、アドレナリンα受容体作動薬、ステロイド系抗炎症薬の炎症抑制作用を妨げることなく、気道粘膜の線毛運動の低下を抑制あるいは維持できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。上記揮発性線毛運動促進剤とは、揮発または蒸発しやすい性質をもち、かつ、粘膜線毛運動を促進する物質のことをいう。また、上記抗ヒスタミン薬、アドレナリンα受容体作動薬、ステロイド系抗炎症薬を総称して、炎症抑制成分と表記することがある。
【0006】
従って、本発明は下記気道炎症改善用製剤を提供する。
[1].気道炎症抑制成分及び揮発性線毛運動促進剤を含有する気道炎症改善用製剤。
[2].気道炎症抑制成分が、抗ヒスタミン薬、アドレナリンα受容体作動薬又はステロイド系抗炎症薬からなる群より選ばれる1種以上を含有する[1]記載の気道炎症改善用製剤。
[3].揮発性線毛運動促進剤が、2−トリデセン−1−オール、テトラハイドロゲラニオール、デュピカル、イソシクレモン、シトラールジメチルアセタール、アセトフェノン、カルボン、ヘキシルシクロペンタノン、メントフラン、ブルボーネン、β−メチル−デカラクトン、ムスコン、イソオイゲノール、γ−ドデカラクトン又はγ−ヘキサデカラクトンからなる群より選ばれる1種以上である[1]又は[2]記載の気道炎症改善用製剤。
[4].抗ヒスタミン薬が、ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸プロメタジン、ヒドロキシジン、塩酸シプロヘプタジン、ロラタジン、塩酸フェキソフェナジン、塩酸セチリジン又は塩酸エピナスチンからなる群より選ばれる1種以上である[1]〜[3]記載の気道炎症改善用製剤。
[5].アドレナリンα受容体作動薬が、フェニレフリン、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン又はクロニジンからなる群より選ばれる1種以上である[1]〜[3]記載の気道炎症改善用製剤。
[6].ステロイド系抗炎症薬が、吸入ステロイド薬であるフルチカゾン、ベクロメタゾン又はブデソニドからなる群より選ばれる1種以上である[1]〜[3]記載の気道炎症改善用製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炎症抑制成分の薬効を妨げることなく、気道粘膜線毛運動を活性化させ、気道粘膜における線毛運動の低下を抑制し、風邪などの気道の感染症や花粉症などのアレルギー疾患による気道の諸症状を改善する機能を有する気道炎症改善用製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の気道炎症改善用製剤に用いる炎症抑制成分としては、例えば、抗ヒスタミン薬は、ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート、クロルフェニラミン、プロメタジン、ヒドロキシジン、シプロヘプタジン、ロラタジン、フェキソフェナジン、セチリジン及びエピナスチン及びこれらの薬学的に許容される塩等が挙げられ、アドレナリン受容体作動薬の一種であるα受容体作動薬は、フェニレフリン、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、クロニジン及びこれらの薬学的に許容される塩等が挙げられ、ステロイド系抗炎症薬は、吸入ステロイド薬であるフルチカゾン、ベクロメタゾン、ブデソニド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記の医薬成分は、塩酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩、マレイン酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩等を挙げることができる。これらの医薬成分は、一般的な合成法により合成することもできるし、市販品を用いることもできる。
上記抗ヒスタミン薬とは、ヒスタミンの作用を抑制する薬物であり、とくにH1受容体拮抗薬を指す。風邪や花粉症などのアレルギーの諸症状は、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン等の放出が契機となって起こる。ヒスタミンには、血管拡張作用があり、これによって、アレルギーの諸症状であるくしゃみ、鼻水等が発生する。この作用を担うヒスタミン受容体はH1受容体と呼ばれ、抗ヒスタミン薬は、この受容体の作用を抑制してアレルギー症状を抑える。抗ヒスタミン薬は、第一世代と第二世代に分類され、第一世代はさらに、エタノールアミン系、プロピルアミン系、フェノチアジン系、ピペラジン系、ピペリジン系に分類される。エタノールアミン系には、鎮静作用が強いジフェンヒドラミン、抗めまい薬としてもつかわれるジメンヒドリナートが含まれる。プロピルアミン系には、マレイン酸クロルフェニラミンが含まれる。フェノチアジン系には、塩酸プロメタジンが含まれる。ピペラジン系には、ヒドロキシジンが含まれる。ピペリジン系には、塩酸シプロヘプタジンが含まれる。第二世代には、ロラタジン、塩酸フェキソフェナジン、塩酸セチリジン、塩酸エピナスチンが含まれる。
抗ヒスタミンはヒスタミンの遊離を抑制し、気道粘液の減少作用がある。風邪薬としての医薬品への配合効果としては、アレルギー諸症状である、くしゃみ、鼻水、かゆみの緩和である。
上記アドレナリン受容体作動薬とは、アドレナリン受容体に作用し、アドレナリン作動性神経を刺激したときと同様の作動を示す薬物である。アドレナリン受容体の型は、αとβがあり、それぞれの型に対して、あるいは共通して、作動薬と拮抗薬がある。α受容体作動薬には、フェニレフリン、メトキサミン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、クロニジンが含まれる。α受容体作動薬にはα1とα2があり、α1受容体作動薬の場合は血管収縮作用により粘液の粘性低下作用があり、α2受容体作動薬の場合はサイクリックAMPの減少作用がある。
風邪薬としての医薬品への配合効果としては、アレルギー諸症状である鼻水の緩和や、鼻水が原因で起こる咳や充血の緩和である。
上記ステロイド系抗炎症薬とは、主な成分として副腎皮質ステロイドが含まれている抗炎症作用や免疫抑制作用などをもつ薬物である。剤型としては、経口剤、注射剤、外用剤がある。外用剤では、噴霧剤、吸入剤に用いられる吸入ステロイド薬は、強力な抗炎症作用をもち、風邪、花粉症によるアレルギー諸症状およびそれらを契機に発症する喘息や咳の緩和に使用される。吸入ステロイド薬には、フルチカゾン、ベクロメタゾン、ブデソニドなどが含まれる。特にフルチカゾンの場合は、ヒスタミンの遊離を抑制し、気道粘液の減少作用がある。
本発明の気道炎症改善用製剤の含有する揮発性線毛運動促進剤は下記成分からなるものである。これらは単独で用いてもよいし、一種以上を組み合わせてもよい。
(1)2−トリデセン−1−オール(CASNo.68480−25−1、別名:トリデカ−2−エン‐1−オール、トリデセノール、トリデセニルアルコール)。
(2)テトラハイドロゲラニオール(CASNo.106−21−8、別名:テトラヒドロゲラニオール、ジヒドロシトロネロール、3,7−dimethyl−1−octanol)。
(3)デュピカル(CASNo.30168−23−1、別名:デュピカール、ドゥピカル、ドゥピカール、(4−(tricyclo[5,2,1,0]−decylidene−8)butanal)。
(4)イソシクレモン(CASNo.54464−57−2、別名:イソサイクレモン、イソEスーパー、1−(tetramethyl−hexahydronaphthalen−2−yl)ethanone)。
(5)シトラールジメチルアセタール(CASNo.7549−37−3、別名:geranial dimethyl acetal、(2E)−1,1−dimethoxy−3,7−dimethylocta−2,6−diene)。
(6)アセトフェノン(CASNo.98−86−2、別名:メチルフェニルケトン、1−Phenylethanone、Acetylbenzene)。
(7)カルボン(CASNo.6485−40−1、別名:l−カルボン、カルボール、2−methyl−5−prop−1−en−2−ylcyclohex−2−en−1−one)。
(8)ヘキシルシクロペンタノン(CASNo.13074−65−2、別名:2−hexylcyclopentan−1−one)。
(9)メントフラン(CASNo.494−90−6、別名:メンソフラン、3,9−epoxy−p−Mentha−3,8−diene、3,6−dimethyl−4,5,6,7−tetrahydro−1−benzofuran)。
(10)ブルボーネン(CASNo.5208−59−3、別名:β−ブルボネン、β−ブルボーネン)。
(11)β−メチル−デカラクトン(CASNo.7011−83−8、別名:β−メチル−γ−デカラクトン、5−hexyl−4−methyloxolan−2−one、5−hexyl−4−methyldihydro−2(3H)−furanone)。
(12)ムスコン(CASNo.541−91−3、別名:3−methylcyclopentadecan−1−one)。
(13)イソオイゲノール(CASNo.97−54−1、別名:2−methoxy−4−[(E)−prop−1−enyl]phenol)。
(14)γ−ドデカラクトン(CASNo.2305−05−7、別名:4−ドデカノライド)。
(15)γ−ヘキサデカラクトン(CASNo.730−46−1、別名:4−ヘキサデカノライド)。
上記揮発性線毛運動促進剤は、精製品を用いてもよく、これらを含む精油などの混合物を用いてもよい。また市販されているものをそのまま用いてもよいし、市販品を加工精製して用いてもよい。
上記揮発性線毛運動促進剤の中でも、2−トリデセン−1−オール、テトラヒドロゲラニオール、デュピカル、イソシクレモン、シトラールジメチルアセタール、カルボン、ヘキシルシクロペンタノン、メントフラン、ブルボーネン、β−メチル−デカラクトン、ムスコン、イソオイゲノール、γ−ドデカラクトン、γ−ヘキサデカラクトンが好ましく、さらには2−トリデセン−1−オールがより好ましい。
上記揮発性線毛運動促進剤は、揮発性を持つ物質であるが、このほかにも揮発性を持つことが知られる物質は多く存在する。しかしながら、それらが必ずしも線毛運動促進効果をもつものとは限らない。
【0009】
一般に、鼻、喉といった気道の粘膜は常に外気に接していることから、いろいろなトラブルのリスクに曝されている。本発明において、気道とは、鼻から鼻腔、鼻咽腔、咽頭及び喉頭等の上気道、ならびに肺側の気管、気管支等の下気道をいう。気道異物の除去剤は、ウイルスや、ほこり、雑菌、花粉等のアレルゲン等の異物に対して、粘膜線毛運動を促進させて異物を除去する。粘膜線毛運動促進効果は、線毛を含む気道粘膜層を用いた培養系での線毛運動周波数(CBF値)において、例えば、通常の培養液等に対し、これに試料を添加したものが、線毛運動活性が向上することにより確認することができる。本発明の上記特定の揮発性線毛運動促進剤が、いかなる作用機序で粘膜線毛運動を促進させ、気道異物の除去効果を示すかは明確ではないが、気道リスクの低減効果に対して有効である。
【0010】
上記線毛を含む気道粘膜層を用いた培養系での線毛運動周波数(CBF値)とは、後述の試験例において示すように、気管(ウサギ由来)から調製した粘膜層を10質量%子牛血清、ペニシリン、ストレプトマイシンを含むダルベッコイーグルMEMで培養し、この培養物の線毛部分を顕微鏡観察し、その画像情報の輝度変化を数値データとして保存した後、フーリエ変換することで線毛の運動周波数(CBF値)を解析し、算出したものである。
気道炎症改善用製剤の適応量は、炎症抑制成分及び揮発性線毛運動促進剤の有効量であり、適宜選定される。
例えば、1回の適応量は、炎症抑制成分を作用させる場合には、基本的に炎症抑制成分の使用方法に準ずる。
例えば、ジフェンヒドラミンの場合は、1回の適応量は0.01mg〜300mgであり、好ましくは、成人の1日量として0.1mg〜200mgである。通常、内服では1回50mgを1日3回使用し、噴霧では1回0.4mgを1日4回使用する。
フェニレフリンの場合は、1回の適応量は0.002mg〜16mgであり、好ましくは、成人の1日量として0.02mg〜8mgである。
フルチカゾンの場合は、1回の適応量は1μg〜50μgであり、好ましくは、成人の1日量として、400μgである。通常、1回50μgを1日8回使用する。
揮発性線毛運動促進剤を適応させる場合には、通常0.1mg〜10mgであり、1日1回〜6回である。
処理の方法としては、炎症抑制成分は、内服してもよいし吸入や噴霧によって気道粘膜へ外的に接触してもよい。揮発性線毛運動促進剤は、トローチやシロップのように口中に含ませるか、喉や鼻に噴霧させる剤によって、揮発した揮発性線毛運動促進剤が気道に接触できればよい。
【0011】
気道炎症改善用製剤としては、医薬品、医薬部外品、食品等の分野の製剤があげられる。具体的には、シロップ、点鼻薬、鼻・喉洗浄剤(うがい薬)、点喉薬、内服薬、ネブライザ−、吸入薬、ミスト、キャンディ、グミ、飲料水等が挙げられる。
【0012】
上記揮発性線毛運動促進剤の気道炎症改善用製剤中の配合濃度は特に限定されるものではなく、製剤の設計に影響がなければ任意の濃度の配合が可能であるが、気道異物の除去効果の点から、粘膜に直接適用する液体製剤の場合では、0.0001〜0.1質量%が好ましく、0.001〜0.05質量%がより好ましい。揮発性線毛運動促進剤を吸入して作用させる場合には、揮発させる空間の体積や揮発させる手段にもよるが、製剤中に0.001〜10質量%、あるいは気相中に0.001〜100ppm(体積)となることが好ましく、0.005〜100ppmがより好ましく、0.01〜50ppmが更に好ましく、0.1〜10ppmが特に好ましい。揮発性線毛運動促進剤濃度が高すぎると、臭いを不快に感じて使用感が損なわれるおそれがある。
【0013】
本発明の気道炎症改善用製剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、既知の薬効成分や通常製剤に配合される任意成分を必要に応じて適宜配合することができ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて、適量用いることができる。これらの成分としては、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、油分、アルコール類、ポリオール類、殺菌剤、抗炎症剤、鎮咳薬、鎮痛剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、糖類、ビタミン類、アミノ酸類、生薬類、水等が挙げられる。
【実施例】
【0014】
以下、試験例、実施例、比較例及び確認例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0015】
[試験例1](実施例1〜45、比較例1〜19)
[線毛運動機能評価試験(気相)]
(薬液(培地)+ 揮発性線毛運動促進剤(気相))
(1)評価液の調製:
コントロール溶液:10質量%子牛血清、ペニシリン、ストレプトマイシンを含むダルベッコイーグルMEM(シグマ社製:D6046)
薬液:
薬液は、以下のように調製した。
試薬として入手した塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学(株)製)の場合は生理食塩水に溶解し、10mg/mLとなるよう調製した。
塩酸フェニレフリン(和光純薬工業(株)製)の場合は生理食塩水に溶解し、500mg/mLとなるよう調製した。
プロピオン酸フルチカゾン(東京化成工業(株)製)の場合はジメチルスルホキシドに溶解し、100mg/mLとなるよう調製した。
線毛運動の評価に用いるために、それぞれの薬液から1μLをとり99μLのダルベッコイーグルMEMに添加して、100倍に希釈して用いた。
揮発性線毛運動促進剤:
揮発性線毛運動促進剤となる揮発性成分の試験物質は、試薬として入手した2−トリデセン−1−オール(東京化成工業(株)製)を、エタノールに1質量%溶解させた。
(2)粘膜片調製
気管(ウサギ、NZW種、オス、16−21週齢、日本エスエルシー(株)製)を生理食塩水中でシート状に切り開き、ピンセットを用いて粘膜片を剥離した。得られた粘膜片を、メスを用いて適度な大きさに細片化し、10質量%子牛血清、ペニシリン、ストレプトマイシンを含むダルベッコイーグルMEMの中に入れ、5体積%炭酸ガス条件にて、37℃でインキュベートした。
(3)線毛運動解析:
得られた前培養した粘膜片を6穴培養皿の連続する2つのウェルの片側に入れ、気相と粘膜片が接するように量を調整しながら、コントロール液を加え密封し、30℃で10分程度馴化させた。6穴培養皿のウェルのうち、空の4つのウェルはポリエチレンフィルムで蓋をした。
その後、10倍の対物レンズを用いた透過型倒立顕微鏡(オリンパスIX70、オリンパス(株)製)にて線毛部分を観察し、アクアコスモス(浜松ホトニクス(株)製)を用いて一定区画の画像情報を70Hz程度の頻度で連続的にコンピューターに取り込んだ。アクアコスモスは、カメラ(C−4742−95(浜松ホトニクス(株)製))をオリンパスIX70に取り付けたものであり、以下の設定で観察した。
露光時間:0.0005〜0.001秒
ゲイン:0(最小)
サブアレイ:64×64(最小)
サブアレイ内ビニング:1×1
サンプリング間隔:0.014sec(約71Hz)
サンプリング数:1024(約15秒間)
周波数解析用ROI:25ヵ所(サイズ:2×2pixel)
1024点の画像情報の輝度変化を数値データとして保存した後、フーリエ変換することで線毛の運動周波数(CBF値)を測定した。
薬液単独の効果を評価する場合、まずコントロール溶液にて測定し(コントロールCBF)、続いて薬液評価液に交換し、10分間静置した後、同様にCBFを測定した(薬液CBF)。
揮発性線毛運動促進剤単独の効果を評価する場合、コントロールCBFを測定後、粘膜片の入ったウェルの隣のウェルに、密封状態のまま揮発性線毛運動促進剤評価液を50μL滴下した。試験物質を気化させ、粘膜片を入れたウェルまで充満させた。本試験例における培養皿内の空間体積は、約50mLであることから、エタノールに溶解した試験物質がすべて気化した場合の濃度は、例えばエタノールに1質量%溶解した場合には10ppmである。15分後、同様に線毛の運動周波数(CBF値)を測定した(揮発性線毛運動促進剤CBF)。
コントロールCBF値に対する、薬液CBF、揮発性線毛運動促進剤CBF、および、薬液+揮発性線毛運動促進剤CBFの比率を算出し、線毛運動活性比として評価した。
【0016】
線毛運動活性比(薬液)=薬液CBF/コントロールCBF
線毛運動活性比(揮発性線毛運動促進剤)=揮発性線毛運動促進剤CBF/コントロールCBF
薬液と揮発性線毛運動促進剤の併用効果は、コントロールCBFを測定後、薬液培地に交換して密封後、密封状態のまま揮発性線毛運動促進剤評価液を50μL滴下した。15分後、CBFを測定した(併用CBF)。その場合の線毛運動活性比(併用)は、コントロールCBFに対する相対値で評価した。得られた線毛運動活性比は表中に示した。
線毛運動活性比(併用)=併用CBF/コントロールCBF
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示すように、コントロール(比較例1)の線毛運動活性比が1.00であるのに対し、薬液単独(比較例2〜4)では線毛運動活性比が減少し、線毛運動が抑制されていることが示された。また、揮発性線毛運動促進剤の2−トリデセン−1−オール単独(比較例5)では、線毛運動活性比が1・52まで増大する効果が確認された。薬液と揮発性線毛運動促進剤との併用(実施例1〜3)においては、それぞれの薬液の影響である線毛運動活性比の減少を、揮発性線毛運動促進剤である2−トリデセン−1−オールの促進作用によって抑制できるという結果が得られた。
【0019】
【表2】

【0020】
さらに、表2の実施例4〜17に示すように、薬液の塩酸ジフェンヒドラミンと揮発性線毛運動促進剤のテトラハイドロゲラニオール、デュピカル、イソシクレモン、シトラールジメチルアセタール、アセトフェノン、カルボン、ヘキシルシクロペンタノン、メントフラン、ブルボーネン、β−メチル−デカラクトン、ムスコン、イソオイゲノール、γ−ドデカラクトン又はγ−ヘキサデカラクトンとを併用すると、塩酸ジフェンヒドラミン単独では、比較例2(表1)に示すように線毛運動活性比が0.25まで減少する影響を、揮発性線毛運動促進剤の効果によって抑制できるという結果が得られた。
【0021】
【表3】

【0022】
さらに、表3の実施例18〜31に示すように、薬液の塩酸フェニレフリンと揮発性線毛運動促進剤のテトラハイドロゲラニオール、デュピカル、イソシクレモン、シトラールジメチルアセタール、アセトフェノン、カルボン、ヘキシルシクロペンタノン、メントフラン、ブルボーネン、β−メチル−デカラクトン、ムスコン、イソオイゲノール、γ−ドデカラクトン又はγ−ヘキサデカラクトンとを併用すると、塩酸フェニレフリン単独では比較例3(表1)に示すように線毛運動活性比が0.41まで減少する影響を、揮発性線毛運動促進剤の効果によって抑制できるという結果が得られた。
【0023】
【表4】

【0024】
さらに、表4の実施例32〜45に示すように、プロピオン酸フルチカゾンと揮発性線毛運動促進剤のテトラハイドロゲラニオール、デュピカル、イソシクレモン、シトラールジメチルアセタール、アセトフェノン、カルボン、ヘキシルシクロペンタノン、メントフラン、ブルボーネン、β−メチル−デカラクトン、ムスコン、イソオイゲノール、γ−ドデカラクトン又はγ−ヘキサデカラクトンとを併用すると、プロピオン酸フルチカゾン単独では比較例4(表1)に示すように線毛運動活性比が0.60まで減少する影響を、揮発性線毛運動促進剤の効果によって抑制できるという結果が得られた。
【0025】
[試験例2](実施例46〜90、比較例20〜35)
[線毛運動機能評価試験(培地)]
(薬液(培地)+揮発性線毛運動促進剤(培地))
(1)被検液の調製:
コントロール溶液:試験例1と同様
被検液:コントロール溶液980μLに対し、薬液10μLと、揮発性線毛運動促進剤0.1質量%を含有するエタノール溶液10μLを添加して、1000μLの被検液とした(薬液濃度は、100質量ppm(ジフェンヒドラミン)、5000質量ppm(フェニレフリン)、1000質量ppm(フルチカゾン)、揮発性線毛運動促進剤濃度は、10質量ppm)。
(2)線毛運動解析:
試験例1(2)と同様に調製した粘膜片を35mmシャーレに移し、コントロール液中に30℃のステージ上で約10分馴化させた。その後、試験例1(3)と同様にCBFを測定した(コントロールCBF)、続いて被検液に交換し、10分間静置した後、同様にCBFを測定した(被検液CBF)。
(3)線毛運動活性比の算出
コントロールCBFに対する被検液CBFの比率を線毛運動活性比
(線毛運動活性比=被検液CBF/コントロールCBF)
とした。得られた線毛運動活性比を表中に示した。
【0026】
【表5】

【0027】
表5に示すように、塩酸ジフェンヒドラミンと線毛運動を促進する揮発性線毛運動促進剤とを併用すると、比較例2(表1)の塩酸ジフェンヒドラミン単独では線毛運動活性比が0.25まで減少する影響を、揮発性線毛運動促進剤の効果によって抑制できるという結果が得られた。
【0028】
【表6】

【0029】
表6に示すように、塩酸フェニレフリンと線毛運動を促進する揮発性線毛運動促進剤とを併用すると、比較例3(表1)の塩酸フェニレフリン単独では線毛運動活性比が0.41まで減少する影響を、揮発性線毛運動促進剤の効果によって抑制できるという結果が得られた。
【0030】
【表7】

【0031】
表7に示すように、プロピオン酸フルチカゾンと線毛運動を促進する揮発性線毛運動促進剤とを併用すると、比較例4(表1)のプロピオン酸フルチカゾン単独では線毛運動活性比が0.60まで減少する影響を、揮発性線毛運動促進剤の効果によって抑制できるという結果が得られた。
【0032】
以下に、本発明の気道炎症改善用製剤を配合した実施例91、実施例92を示す。これらは常法により調製した。いずれも、優れた気道異物除去効果が確認された。
【0033】
【表8】

【0034】
【表9】

【0035】
[試験例3](確認例1〜3)
[ヒスタミン皮内投与試験]
揮発性線毛運動促進剤と抗ヒスタミン薬とを混合した場合に、揮発性線毛運動促進剤存在下で抗ヒスタミン薬の効果が保たれていることを確認するために、定法に従い、動物を用いたヒスタミン皮内投与試験を行った。
ヒスタミンを注射により皮内投与することによって、投与部位に膨疹が発生し膨疹周辺に紅斑が出現する皮内反応が観察される。
ヒスタミンと抗ヒスタミン薬を混合した場合の紅斑出現の有無を、抗ヒスタミン薬の効果の有無、として評価した。
(1)薬液の調製:
皮内投与試験に用いた薬液は、表10の組成に従い調製した。
揮発性線毛運動促進剤としては2−トリデセン−1−オールを用い、抗ヒスタミン薬としては塩酸ジフェンヒドラミンを用い、ヒスタミンとしてはヒスタミン二塩酸塩(シグマ社製、H7250、CASNo.56−92−8、FW184.07)を用いた。
薬液(1)は、50μL中、ヒスタミン50nmolとなるよう生理食塩水に溶解して調製した。薬液(2)は、50μL中、ヒスタミン50nmol、塩酸ジフェンヒドラミン0.1質量%、エタノール0.1容量%となるよう生理食塩水に溶解して調製した。薬液(3)は、50μL中、ヒスタミン50nmol、塩酸ジフェンヒドラミン0.1質量%、1質量%2−トリデセン−1−オール/エタノール溶液0.1容量%となるよう生理食塩水に溶解して調製した。
(2)供試動物:
動物は、ハートレー系雄性モルモット5週齢(日本エスエルシー(株))を使用し、恒温恒湿下(温度23±1℃,湿度55±5%)の環境下で、固形試料(モルモット飼育用ラボGスタンダード、日本農産工業(株))および水道水を自由に摂取させ、6〜8日間予備飼育した後、毛並、体重増加などの一般症状の良好な状態であることを確認して試験に供した。
(3)薬液の投与:
モルモットの背部を毛刈りし、被験部位(1)〜(3)を定め、薬液(1)〜(3)をそれぞれ50μL皮内注射し、ただちに膨疹周辺を観察して紅斑の出現の有無を確認した。結果を表10に併記した。
【0036】
【表10】

【0037】
表10に示すように、確認例1のヒスタミン単独によっては紅斑が出現したが、確認例2のヒスタミンと塩酸ジフェンヒドラミンを混合した場合には、紅斑の出現が抑制された。さらに、確認例3のヒスタミン、2−トリデセン−1−オール及び塩酸ジフェンヒドラミンを混合した場合にも、紅斑の出現が抑制された。これらの結果から、揮発性線毛運動促進剤存在下でも抗ヒスタミン薬の効果が保持されていることを確認できた。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
気道炎症抑制成分及び揮発性線毛運動促進剤を含有する気道炎症改善用製剤。
【請求項2】
気道炎症抑制成分が、抗ヒスタミン薬、アドレナリンα受容体作動薬又はステロイド系抗炎症薬からなる群より選ばれる1種以上である請求項1記載の気道炎症改善用製剤。
【請求項3】
揮発性線毛運動促進剤が、2−トリデセン−1−オール、テトラハイドロゲラニオール、デュピカル、イソシクレモン、シトラールジメチルアセタール、アセトフェノン、カルボン、ヘキシルシクロペンタノン、メントフラン、ブルボーネン、β−メチル−デカラクトン、ムスコン、イソオイゲノール、γ−ドデカラクトン又はγ−ヘキサデカラクトンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の気道炎症改善用製剤。
【請求項4】
抗ヒスタミン薬が、ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸プロメタジン、ヒドロキシジン、塩酸シプロヘプタジン、ロラタジン、塩酸フェキソフェナジン、塩酸セチリジン又は塩酸エピナスチンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜3記載の気道炎症改善用製剤。
【請求項5】
アドレナリンα受容体作動薬が、フェニレフリン、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン又はクロニジンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜3記載の気道炎症改善用製剤。
【請求項6】
ステロイド系抗炎症薬が、吸入ステロイド薬であるフルチカゾン、ベクロメタゾン又はブデソニドからなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜3記載の気道炎症改善用製剤。

【公開番号】特開2012−116834(P2012−116834A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228147(P2011−228147)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】