説明

水および空気ろ過用ナノファイバメンブレン層

本発明は、坪量が0.01〜50g/m2で、孔隙率が60〜95%のナノファイバメンブレン層であって、数平均径が50〜600nmで、かつC/N比が5.5以下の半結晶性ポリアミドを含むポリマー組成物からなる高分子ナノファイバから作られたナノウェブを含むナノファイバメンブレン層に関する。本発明はまた、そのようなナノファイバメンブレン層を含む水および空気ろ過装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明はナノファイバメンブレン層に関し、より詳しくは、水または空気のろ過に使用し得る、高分子ナノファイバから作られたナノウェブを含むナノファイバメンブレン層に関する。本発明はまた、高分子ナノファイバから作られたナノウェブを含むメンブレン層を含む、水ろ過用および空気ろ過用それぞれのフィルタ装置に関する。
【0002】
メンブレン層は、本明細書では、薄く柔軟なシート状の多孔質層であると理解される。ナノファイバメンブレン層は、本明細書では、基本構造がナノファイバからなるメンブレン層であると理解される。ファイバを基本構造とする層はウェブ層と呼ぶことができる。同様に、ナノファイバを基本構造とする層はナノウェブとも呼ばれる。
【0003】
メンブレンは異なる形状、例えば、チューブや層の形状を有することができる。メンブレンは天然に生成するが、工業的には人工メンブレンがより重要である。合成メンブレンの重要なクラスは高分子メンブレンのクラスである。その例としては、高分子ナノファイバから形成されたナノウェブを含むメンブレン、およびいわゆる相反転メンブレンが挙げられる。メンブレンは相間物質として生成するか、または使用される。孔隙率が高く、かつ孔径が小さいという特有の構造のために、メンブレンはある種の化学種を他のものに優先して選択的に移動させることができる。
【0004】
人工メンブレン、すなわち合成メンブレンは、合成により製造されたメンブレンであり、通常、実験室または工業における分離目的を意図したものである。合成メンブレンは、20世紀半ば以来、小規模および大規模な工業プロセス用として成功裡に使用されてきた。様々な合成メンブレンが知られている。それらはポリマー、液体などの有機材料、および無機材料から製造することができる。分離産業分野で商業的に使用されている合成メンブレンは、殆どが高分子構造からなる。それらは、表面化学、バルクの構造、モルフォロジーおよび製造法に基づいて分類することができる。合成メンブレンと分離される粒子の化学的および物理的特性と、推進力の選択により、特定のメンブレン分離プロセスが定義される。工業的メンブレンプロセスの推進力として最も広く使用されているのは、圧力および濃度勾配である。個々のメンブレンプロセスは、したがって、ろ過として知られている。分離プロセスで使用される合成メンブレンは、異なる幾何学的形状および流れ構造をとることができる。それらはまた、用途および分離システムに基づいて分類することができる。最もよく知られた合成メンブレン分離プロセスとしては、水の精製、逆浸透、天然ガスの脱水素、精密ろ過および限外ろ過による細胞粒子の除去、乳製品からの微生物の除去、並びに透析が挙げられる。
【0005】
清浄な水の入手は人間にとって必要不可欠なことである。水の精製は地球規模で重要な問題になりつつある。大きな公共インフラストラクチャーを建設することは1つの解決策である。近年、使用場所で解決すること、より詳しくは比較的小型の装置を含む個人的な解決策がより注目されている。ナノファイバメンブレンは水の精製に使用され得るであろうが、基本的な要件はそのようなメンブレンが高いフラックスと分離能を有する必要があることである。特に、細菌やその他の健康を脅かす種に対する後者の特性については、妥協は許されない。しかしながら、個人用ろ過装置をよりよく達成するためには、高分離能を維持しながら水フラックスを増加させる必要がある。
【0006】
ナノファイバメンブレンにおける他の問題は襞加工性に関するものである。襞加工は伝統的に日本の技術である。襞加工によって、プリーツとして知られている特殊なパターンが形成される。アコーディオンタイプのプリーツは、最も広く使用されているパターンである。これらのパターンは、布をアコーディオン様の形状に折り重ねながら、熱、圧力および張力を加えて形成される。このプロセスに続いて、布を加熱したチャンバーに入れ、形を永久的なものにすることができる。襞加工および襞加工条件については、H.K.Rouette、Springer著の本、「Encyclopedia of textile finishing」、ISBN 3−540−65031−8により、さらに詳しく知ることができる。ろ過の用途では、流体の衝突に有効な表面積を増加させるために、フィルタ媒体に襞を付けることが広く知られている。フィルタ材料の襞加工は、例えば、粒子用空気フィルタおよび化学物質用空気フィルタなどの空気フィルタで広く用いられている。粒子用空気フィルタは、空気中から埃、花粉、カビおよび細菌などの固体粒子を除去する繊維性材料からなる装置である。化学物質用空気フィルタは、揮発性有機化合物またはオゾンなどの空気中に浮遊の分子状汚染物質を除去するための吸収剤または触媒からなる。空気フィルタは、空気の質が重要となる用途、特にビルの換気システムおよびエンジンに使用される。通常、空気フィルタは、幾重にも襞が付けられた単一層のフィルタ材料から作られる、多くの密に充填された平行な層を含む。小さいフィルタ装置で最大のフィルタ表面積を得るには、フィルタ材料の襞加工が必要である。そのようなフィルタのフィルタ材料は、不織基材に被覆、積層またはカレンダー加工したナノファイバメンブレン層から構成されていてもよい。ナノファイバメンブレン層および不織基材は共に高分子で構成されていてもよい。そのような材料の襞加工は、通常、高温高圧下で行われる。襞加工工程中にメンブレン層に欠陥を生じ、その結果、分離性が低下することがある。
【0007】
ナノウェブの損傷に対する脆弱性の問題もまた、例えば、米国特許出願公開第2010/0025892号明細書および米国特許出願公開第2010/0107578号明細書により知られている。米国特許出願公開第2010/0025892号明細書からは、軽量のナノファイバ層が、機械的応力が大きい用途で、特にナノファイバ層が直径500ナノメートル(nm)未満、より典型的には100nm未満のファイバから形成されている場合に損傷を受けやすいことが知られる。極性引力に頼る従来の電界紡糸ファイバでは、ナノファイバとベース媒体の間の引力による結合が比較的弱いため、ナノファイバがフィルタ媒体から脱落するという「脱落」問題があることが知られる。また、公知の電界紡糸ナノファイバ層は、2次元構造、すなわち厚さにおいて単一のファイバ層であり、ナノファイバ層にクラックが入るか、または破損したときに、ダストがベース媒体の基材に容易に貫入し得る。ナノファイバ層が損傷を受けると、ダストがベース媒体へ貫入し、フィルタ運転時の圧力低下を増大させる。さらに、公知の媒体基材もまた、機械的応力が小さく、大量のダストの負荷により変形しやすい。米国特許出願公開第2010/0025892号明細書では、解決策として特定の方法を提案しており、その方法では、ポリエステルポリマーや、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,6−6,10などのポリアミドポリマーなどの、あらゆる種類の異なるポリマーからなるナノファイバを使用することができる。
【0008】
米国特許出願公開第2010/0107578号明細書には、ナノファイバを得るための熱可塑性ポリマーの静電紡糸法が記載されている。熱可塑性ポリマーは、ポリスチレン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、並びにポリプロピレンおよびポリエチレンなどのポリオレフィン、並びにポリアミド−6、ポリアミド−6.6、ポリアミド−6.10、および例えばポリアミド−6/6.6/13.6などのブロックコポリマーポリアミドから選択されるポリアミドなどの異なるポリマーからなる群より選択することができるが、好ましくはポリスチレンである。米国特許出願公開第2010/0107578号明細書によれば、これらの熱可塑性ポリマーのナノおよび/またはマイクロファイバをフリース用コーティングとして使用した場合、電界紡糸法により堆積したファイバは、フリース担体に対する接着性に比較的劣ることが明らかになっている。これは、特に構造化(スタッド)媒体の場合にあてはまる。ナノファイバの接触面は極めて小さく、隆起部だけがそれでカバーされる。そのような構造化媒体を使用した場合、弱い力(例えば、コーティングしたフリースの巻き取り、または巻き戻し)でナノファイバを剥離させることができる。コーティングされたフリースが襞加工またはそれに類似した加工方法により機械的応力を受けると、担体のフリース上のナノおよび/またはマイクロファイバは大きな損傷を受ける。これは、例えば製造に必要なローラーシステムにより加えられる研磨性剪断力の場合に、特にあてはまる。米国特許出願公開第2010/0107578号明細書で述べられている前記問題の解決策は、熱可塑性ポリマーを含む紡糸溶液に熱可塑性エラストマー(TPE)を加えることである。
【0009】
このように、襞加工性が改善されたナノファイバメンブレン層、およびそのような層を含むメンブレン材料に対するニーズもまた明らかに存在する。
【0010】
本発明の1つの目的は、細菌などに対する高分離能を保持しながら、水フラックスの大きいメンブレン材料を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、襞加工特性が改善されたメンブレン材料を提供することである。
【0012】
本発明においては、坪量が0.01〜50g/m2で、孔隙率が60〜95%のナノファイバメンブレン層であって、数平均径が50〜500nmで、かつC/N比が5.5以下の半結晶性ポリアミドを含むポリマー組成物からなる高分子ナノファイバから作られたナノウェブを含むナノファイバメンブレン層が提供される。
【0013】
ナノファイバメンブレン層は、その中に溶解されたC/N比が5.5以下の半結晶性ポリアミドを含むポリマー溶液を電界紡糸することにより製造することができる。
【0014】
本発明においては、また、前記ナノファイバメンブレンからなる第1の層と、第2の多孔質層とを含む多層メンブレン構造体が提供される。さらにまた、ナノファイバメンブレンが2つの多孔質層に挟まれた多層構造体も可能である。
【0015】
本発明はさらに、場合により多層メンブレン構造中の1つの層として含んでもよい前記ナノファイバメンブレン層を含む水または空気ろ過装置により具体化される。
【0016】
本発明のナノファイバメンブレン層は、細菌に対する高分離能を保持しながら、大きい水フラックスを有し、また、良好な襞加工特性を有している。
【0017】
驚いたことに、前記ナノファイバメンブレン層は、特により厚い厚さで使用すると、大きい水フラックスを保持しつつ、水からの細菌などの分離が非常に効率的になることがわかった。これは、既に低水圧で有効な小型の水ろ過装置を作製する可能性を拓くものである。本発明のメンブレン層のさらなる利点は、水フラックスを改善するために界面活性剤または他の表面活性剤で処理する必要がなく、したがって、そのような物質が飲料水に浸出するのを防止できることにある。
【0018】
水フラックス(単位は、l/m・h・bar)は、本明細書では、1barで1時間当たり、水が通過するメンブレン材料の1m当たり、メンブレン材料を通過する清浄な水の量(単位は、l)であると定義される。メンブレン材料は、例えば、ナノファイバメンブレン層、メンブレン構造体または支持層であり得る。この目的のために、水フラックスは、特定のメンブレン表面積(単位はm2)を、特定の時間(単位は時間)に、0〜1barの異なる膜間差圧(単位は、bar)で通過する水の量(単位はl)を測定することにより決定される。メンブレンの一方の側の圧力(P1)を、メンブレン上の水柱の高さ、および/または水柱に対する空気圧を変化させることにより変え、その間、同時にメンブレンの他方の側の圧力(P2)を一定に維持する。P2は、通常、周囲の大気圧力である。そして、膜間差圧(Pt)を、Pt=P1−P2として計算する。各測定で、l/m・hの単位で算出された実際のフラックスを、Pt値に対してプロットし、、原点を通る線形回帰線を算出する。得られた線からその線の傾きを求める。これは1barでの水フラックス(単位は、l/(m・h/bar))を示す。
【0019】
他方で、また、前記ナノファイバメンブレン層は、特にアニーリングを行った後は、非常に良好な襞加工特性を有しており、厚さが薄いとなおさらそうであることがわかった。これは、厚さがより薄いか、または効率がより高い空気フィルタを製造する可能性を拓くものである。
【0020】
用語「ナノファイバ」は、本明細書中で使用されるとき、数平均径が1000nm(1μm)以下のファイバをいう。
【0021】
ファイバの数平均径(d)を決定するために、各ナノファイバメンブレン試料、またはそのウェブ層について、倍率5,000×で十(10)枚の走査電子顕微鏡(SEM)像を撮影した。各写真で十(10)個の明瞭に識別できるナノファイバの直径を測定、記録して、全部で百(100)の個別の測定値を得た。欠陥のあるものは含めなかった(すなわち、ナノファイバ塊、ポリマー滴、ナノファイバ交差部)。ファイバの数平均径(d)を、百(100)の個別の測定値から計算した。
【0022】
本発明との関連では、高分子ナノファイバから作られたナノウェブとは、高分子ナノファイバを主として含むか、または高分子ナノファイバのみを含む不織ウェブを意味する。ナノファイバメンブレン層は、ナノファイバの不織ウェブとは別に、例えば、ナノウェブに吸収、付着、または含有された他の成分を含んでいてもよい。しかしながら、高フラックスを達成するためには、ナノファイバ以外の成分の量は、皆無にすることはないにしても、制限すべきである。
【0023】
ポリマー系ナノファイバは、ナノファイバメンブレン層の全重量に対して、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90、特に好ましくは95〜100重量%の範囲で含まれる。
【0024】
ナノファイバメンブレン層の「坪量」という表現は、1平方メートル当たりの平均重量を意味する。坪量は、参照することにより本明細書中に組み込まれるASTM D−3776を用いて測定することができる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、ナノファイバメンブレン層の坪量は、0.01〜2.0g/m2の範囲であり、より好ましくは0.05〜1.0g/m2、より一層好ましくは0.1〜0.5g/m2である。このような比較的薄いメンブレン層の利点は、粒子分離特性を保持しながら、襞加工特性が向上することにある。そのような薄い層は、不織基材上へのコーティングとして適切に製造され、空気ろ過装置に使用される。
【0026】
本発明の他の好ましい実施形態では、ナノファイバメンブレン層の坪量は、1〜50g/m2であり、より好ましくは2〜20g/m2の範囲であり、より一層好ましくは3〜10g/m2である。このような中間の厚さを持った層の利点は、細菌などに対する分離能が向上し、かつ水フラックスが高いレベルに保持されることにある。この層は多層メンブレン構造体に組み込み、水ろ過に使用することが適切である。さらに、メンブレンフィルタは、それぞれが特定のファイバ平均径を有し、かつナノファイバに勾配があるメンブレンを形成する多数のナノウェブで構成することができる。国際公開第08/142023A2号パンフレットには、例えば、多層勾配ナノウェブの紡糸方法が記載されている。例えば1つの層が500〜600nmの範囲の数平均径を有するナノファイバから製造されていて、上層が100〜200nmの範囲の数平均径を有するナノファイバから製造されている2層ナノウェブを、例えば、使用することができる。
【0027】
「メンブレン構造体」という表現は、少なくとも1層のメンブレン層と第2の多孔質層を含む層が集合して、全体でメンブレン構造体を形成するものをいう。「多層」という表現は少なくとも2層を意味する。各層は、流れ細孔平均径および/または材料の種類が、他の1つの層または他の複数の層と異なる。
【0028】
例えば、移動担持層(コーティング)上にナノファイバを紡糸したり、担持層にメンブレン層を積層したりすることにより、多層を含むメンブレン構造体を製造する方法は、当業者には知られている。メンブレン層を他の1層または他の複数層に貼り付けるために、ホットラミネート加工を使用してもよく、かつ/または、例えば担持材料に接着剤を塗布してもよく、かつ/または、メンブレン層を貼り付けるときに担持層をホットメルト状態にしてもよい。
【0029】
本発明のナノファイバメンブレン層におけるナノファイバの数平均径は、広い範囲で変えることができるが、好ましくは80〜400nm、より好ましくは100〜300nmの範囲である。ナノファイバの数平均径は、例えば、150〜200nmの範囲である。
【0030】
ナノファイバの直径は、例えば、溶液濃度の低下、または加工条件(印加電圧、溶液の流量、紡糸距離)の調節などにより、減少させることができる。
【0031】
所望のナノファイバ数平均径は、ルーチンの実験により達成することができる。ナノファイバの数平均径に影響を及ぼし得る因子は、ナノファイバ作製時に使用するポリマー溶液の粘度(通常、200〜1000mPa・s)、電圧、ポリマー溶液の流量およびポリマーの選択である。
【0032】
本発明のメンブレン層中のナノファイバは、様々な形状であってよいが、リボン状より円形または半円形状の断面を有することが好ましい。この円形または半円形状の形状は、カレンダー加工または襞加工の後もメンブレン層の孔隙率がよりよく維持されるという利点を有する。ファイバの形状は断面の寸法により定義することができる。ファイバの断面が最大径(L)および最小径(S)を有し、S/L比が少なくとも0.5であるとき、ファイバは半円形状の形状を有する。円形断面では、S/Lは最大値の1である。リボン状断面では、S/Lは、通常、0.2以下である。
【0033】
本発明のナノファイバメンブレン層は、60〜95%、より適切には70〜90%の範囲の孔隙率を有する。高い孔隙率は、より細いマイクロファイバで適切に得られ、より低い孔隙率は一般に比較的太いファイバで得られる。孔隙率はまた、ナノファイバメンブレン層を高圧下のカレンダー工程にかけることにより減少させ得る。孔隙率を減少させる一方で、カレンダー加工は、メンブレンの強度、並びに、ナノウェブ層内の異なるナノファイバ間の密着性、および、ナノファイバと、場合により存在する基材、または他のナノウェブ層との間の密着性を向上させる。
【0034】
ナノファイバメンブレン層の孔隙率(P)(ナノファイバメンブレン層の体積に対するパーセントで表される)は、100%とナノファイバメンブレン層の固体率(S)の差であり、孔隙率=100%−固体率%である。固体率(S)は式1で計算することができる。
【数1】



ここで、本明細書中に記載したように測定したナノファイバメンブレン層試料の坪量(W)(単位はg/m)を、ナノファイバを形成しているポリマー組成物の密度(ρ)(単位はg/cm)および試料の厚さ(T)(単位はμm)で除し、100が乗じられる。
【0035】
試料の厚さ(T)は、ASTM D−645(またはISO 534)(この方法は参照することにより本明細書中に組み込まれる)により、荷重50kPaおよびアンビル表面積200mmの条件で測定される。ポリマー組成物の密度(ρ)はISO 1183−1:2004に記載の通り測定される。
【0036】
本発明のナノファイバメンブレン層は、適切には、流れ細孔平均径が0.01〜2μmの範囲の細孔を有する。ナノファイバメンブレン層の流れ細孔平均径は、好ましくは0.05〜1μm、より良くは0.1〜0.5μmの範囲である。
【0037】
流れ細孔平均径は、ASTM E 1294−89、「standard test method for pore size characteristics of membrane filters using automaed liquid porosimeter」により、キャピラリーフローポロシメータ(型番CFP−34RTF8A−3−6−L4、Porous Materials,Inc.(PMI)、Ithaca、N.Y.)を使用するASTM designation F316の自動バブルポイント法を使用して測定される。
【0038】
ナノファイバメンブレン層の流れ細孔平均径は、ナノファイバメンブレン層および/または支持層と組み合わせたナノファイバメンブレン層をカレンダー加工することにより減少させてもよい。これにより、ナノファイバメンブレン層および/または支持層と組み合わせたナノファイバメンブレン層の強度を増大させ得る。カレンダー加工は、シート状材料(この場合、ナノウェブ、またはナノウェブを組み込んだナノファイバメンブレン層)をロールまたはプレートの間隙に通すプロセスである。
【0039】
流れ細孔平均径(ナノファイバメンブレン層の)は、ナノファイバメンブレン層の厚さとナノファイバの数平均径との組み合わせに影響される。例えば、厚さを増加させることにより、流れ細孔平均径を減少させてもよい。流れ細孔平均径はまた、ナノファイバの数平均径を小さくすることにより、減少させることができる。
【0040】
半結晶性ポリマーは、本明細書中では、固体状態で存在するときに、結晶相とアモルファス相を含む多相構造を有するポリマーであると理解される。そのようなポリマーは、加熱すると、通常、アモルファス相のガラス転移と結晶相の融点を示す。
【0041】
本発明で使用する半結晶性ポリアミドは、少なくとも260℃、好ましくは少なくとも280℃の溶融温度を有することが適切である。溶融温度は330℃の高さであってもよいが、適切には310℃以下である。
【0042】
また、本発明のナノファイバメンブレン層における半結晶性ポリアミドは、少なくとも70J/gの溶融エンタルピーを有することが適切である。溶融エンタルピーは、少なくとも85J/gであることが好ましく、少なくとも100J/gであることがより好ましい。
【0043】
結晶性ポリマーは溶融温度(T)を有するが、ガラス転移温度(T)は有さない。半結晶性ポリマーは溶融温度(T)およびガラス転移温度(T)の両方を有し、アモルファスポリマーはガラス転移温度(T)のみを有し、溶融温度(T)は有さない。
【0044】
用語のガラス転移温度(Tg)は、本明細書では、ASTM E 1356−91に準拠して、DSCにより加熱速度10℃/分で測定した温度であって、親熱曲線の一次微分(時間についての)がピークを示す温度(親熱曲線の変曲点に対応)として決定された温度であると理解される。
【0045】
用語の融点(溶融温度)は、本明細書では、ASTM D3418−97に準拠して、DSCにより加熱速度10℃/分で測定した温度であって、第1の加熱曲線の溶融範囲内で、最大の溶融速度を示す温度であると理解される。
【0046】
用語の溶融エンタルピーは、本明細書では、ASTM D3418−97に準拠して、DSCにより加熱速度10℃/分で測定したエンタルピーであって、第1の加熱曲線の260〜330℃の範囲の溶融範囲に入る溶融ピークに伴うエンタルピーであると理解される。
【0047】
ガラス転移温度(T)の測定(変曲点)と溶融温度(T)の測定は、示差走査熱量測定法(DSC)により、Mettler ToledoのTA DSC821を使用し、N雰囲気中、加熱速度5℃/分で実施する。溶融温度(T)とガラス転移温度(T)は第2の加熱曲線を使用して決定した。
【0048】
これらのDSC測定は、予備乾燥させた試料質量約3〜5mgを使用し、窒素中で行う。予備乾燥は、窒素下、90℃で24時間行った。
【0049】
熱可塑性ポリアミドの重量平均分子量(Mw)は、少なくとも10,000、例えば少なくとも25,000および/または50,000以下、例えば40,000以下、例えば35,000g/mol以下であることが好ましい。
【0050】
本発明のナノファイバメンブレン中の半結晶性ポリアミドは、C/N比が5.5以下であれば、組成は幅広く変化していてもよい。C/N比は、本明細書では、ポリアミド中の炭素原子(C)の数とポリアミド中の窒素原子(N)の数との比であると理解される。半結晶性ポリアミドのC/N比は、4.5〜5.5の範囲であることが好ましい。
【0051】
このようなポリアミドは、ポリアミド46(C/N=5)、ポリアミド44(C/N=4)およびポリアミド26(C/N=4)、並びにこれらの混合物、およびこれらを組み合わせたコポリマー、さらには、これらと、例えばポリアミド6(C/N=6);ポリアミド6,6(C/N=6);ポリアミド4,10(C/N=7);ポリアミド6,10(C/N=8):並びにポリアミド6,T(C/N=7)およびポリアミド4T(C/N=6)との混合物およびコポリマーから製造し得る。
【0052】
好ましい実施形態では、半結晶性ポリアミドは、ポリアミド46ホモポリマー、あるいは(i)1,4ブタンジアミンおよびアジピン酸から誘導される繰り返し単位が少なくとも50重量%と、(ii)他のジアミン、他のジカルボン酸、およびそれらのエステルまたは無水物、並びに/または、アミノ酸およびその環状ラクタムから誘導される繰り返し単位50重量%以下を含むポリアミドコポリマーである。繰り返し単位(i)は、ポリアミドの全重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%含まれていることがより好ましい。
【0053】
ポリアミド46ホモポリマーは、4個のC原子と2個のN原子を有する1,4ブタンジアミンと6個のC原子を有するアジピン酸から誘導される繰り返し単位からなる。ナノウェブが、これらの好ましい熱可塑性ポリアミドから作製されたナノファイバから作製されるならば、ナノファイバメンブレン層は、親水性が向上し、かつ/または水フラックスが改善され、ナノファイバメンブレン層は本明細書に記載した使用により一層適したものになるであろう。さらに、利点として引張強さの増大および/または熱安定性の向上および/または耐加水分解性を持ち得る。
【0054】
表面の親水性および疎水性は、それぞれASTM D7334−08により、液体、例えば水によって形成されるアドバンス接触角(advanced contact angle)により決定することができる。表面、例えばナノファイバメンブレン層の水とのアドバンス接触角が、少なくとも90°であれば、その表面は疎水性であると考えられる。表面、例えばナノファイバメンブレン層の水とのアドバンス接触角が、90°未満であれば、その表面は、本明細書においては、親水性と定義する。ナノファイバメンブレン層は親水性であることが好ましく、ナノファイバメンブレン層の、ASTM D7334−08により水を用いて測定される接触角が80°未満、例えば70°未満、例えば60°未満、例えば50°未満、例えば45°未満であることがより好ましい。
【0055】
本発明のメンブレン層のナノファイバを作るポリマー組成物は、半結晶性ポリアミドの他に少なくとも1種の成分を含むことが適切である。
【0056】
ナノファイバの製造に使用される、選択した高分子材料を含むポリマー溶液には、添加剤を含有させることができる。適切な添加剤としては、表面張力剤もしくは界面活性剤、例えばペルフルオロアクリジン、架橋剤、粘度調節剤、例えば超分枝状ポリアミドポリマー、電解質、抗微生物添加剤、接着性向上剤、例えば無水マレイン酸グラフト化ゴムもしくはポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレート基材との接着性を向上させるための他の添加剤、例えばナノチューブまたはナノクレイなどのナノ粒子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。電解質の例としては、水溶性金属塩、例えば金属アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および亜鉛塩、LiCl、HCOOK(ギ酸カリウム)、CaCl、ZnCl、KI、NaIなどが挙げられる。電解質はポリマー溶液の全重量に対して、0〜2重量%の範囲で含有させることが好ましい。水溶性の塩は製造したナノファイバから水とともに抽出することができ、これにより、微孔性ナノファイバを得ることができる。
【0057】
ポリマー組成物は熱安定剤を含むことが好ましい。その効果は、本発明のメンブレン中のナノファイバの熱安定性が、既に非常に高いものの、さらに高くなることである。
【0058】
熱安定性は、試験試料(例えば、ナノファイバメンブレン層、メンブレン構造体または支持層)を加熱炉中で高温に加熱し、時間を経た後に試料の引張強さを測定することにより測定される。
【0059】
ポリマー組成物は他の成分を含んでもよいが、半結晶性ポリアミドは、組成物の全重量に対して、少なくとも60重量%含まれていることが好ましく、少なくとも85重量%含まれていることがより好ましい。
【0060】
本発明のナノファイバメンブレン層は、移動する基材上へ、前記C/N比が最大でも5.5の半結晶性ポリアミドを溶解させて含むポリマー溶液を電界紡糸する工程を含み、場合により、そのポリマー溶液中に1種以上の他の成分も溶解または分散されていてもよい方法により製造することができる。このような方法においては、ポリマー溶液が電界中に導入され、前記電界の影響を受けてナノファイバが形成される。このようにして形成されたナノファイバは、通常、基材上に堆積する。半連続的に電界紡糸プロセスを実施し、可動基材を使用することにより、ナノファイバが堆積した半連続層が形成される。電界紡糸プロセスには、当業者に知られた方法、マルチノズル装置(典型的には、一連のノズルを備えたスピナレット)を使用するマルチノズル電界紡糸法、ノズルフリー装置(例えば、NanospiderTM装置)を使用するノズルフリー電界紡糸法、またはバブル紡糸法など、適切な技術であれば任意のものを適用してもよい。マルチノズル紡糸法は、任意選択により、電気ブロー法と同様に、ノズル周りへの強制空気流と組み合わせてもよい。古典的な電界紡糸法は、米国特許第4,127,706号明細書に記載されており、参照することにより本明細書に組み込まれる。そのような方法では、ノズルまたはフリーに存在する液体からの溶液に高電圧を印加すると、テーラーコーン(Tayler cone)が形成される。そのようなテーラーコーンを形成するには、電圧は、通常、少なくとも2.5kVでなければならない。電圧は50kVまたは60kVの高さであってもよく、例えば65kVと、より高くてもよい。適切には、電圧は少なくとも10kVであり、好ましくは少なくとも20kVであり、より特別には少なくとも30kVである。テーラーコーンを形成するのに十分に高い電圧を、高電圧ともいう。
【0061】
通常、そのような電界紡糸法は、マルチノズル装置を使用するマルチノズル電界紡糸法か、ノズルフリー装置を使用するノズルフリー電界紡糸のいずれかであり、
− 高電圧を印加する工程
− ポリマーと溶媒を含むポリマー溶液をマルチノズル装置またはノズルフリー装置に供給し、高電圧の影響下、荷電ジェット流に変換する工程
− ジェット流を基材に堆積させるか、またはコレクターで捕集する工程、および
− ジェット流中の前記ポリマーを固化させ、それによりナノファイバを形成する工程を含む。
【0062】
ある特定の実施形態では、本発明は電界紡糸法によりナノファイバを製造する方法であって、
− 一連の紡糸ノズルを含むスピナレットとコレクターの間、または独立した電極とコレクターの間に、高電圧を印加する工程
− ポリマーと溶媒を含むポリマー溶液の流れをスピナレットに供給し
− それによって、ポリマー溶液を紡糸ノズルを通してスピナレットから導出させ、高電圧の影響下、荷電ジェット流に変換し、
− それによって、ヘット(het)流が、コレクターまたは支持層に堆積もしくは捕集され、
− それによって、ジェット流中のポリマーを、コレクターまたは支持層に堆積もしくは捕集される前、またはその間に固化し、それによりナノファイバを形成する工程
を含む方法に関する。
【0063】
ナノファイバを製造後、ナノファイバに、後延伸、洗浄、液体による湿潤化、乾燥、硬化、アニーリングおよび/または後圧縮を施してもよい。本発明のメンブレン構造体を使用する水ろ過の妨げになるおそれのある残留溶媒を除去するために、ナノファイバを乾燥させることは有利であり得る。
【0064】
電界紡糸工程は、その後に堆積層にカレンダー加工またはアニーリング加工を施す1つまたは複数の工程を組み合わせることが適切である。
【0065】
好ましい実施形態では、アニーリング工程が適用される。高温でのメンブレン層のアニーリングは、たとえ短時間であっても、襞加工工程でのメンブレン層のパフォーマンスを著しく向上させることが観察されている。
【0066】
アニーリング工程では、ナノファイバをある一定の時間、200℃を超える温度、好ましくは220〜270℃の範囲の温度に加熱する。しかしながら、本発明のポリマー系ファイバを220〜270℃の範囲の温度で数分間加熱すれば既に、分子量は増大し、機械的特性も改善されている。アニーリングでは、メンブレン層を15分〜2時間、220〜260℃の温度に維持することが適切である。230〜250℃などのより高い温度では、アニーリング時間を15〜30分とより短くすることができ、これは半連続電界防止プロセスに好適に組み込むことができよう。
【0067】
本発明のナノファイバメンブレン層は、多層メンブレン構造体中の第2の多孔質層と好適に一体化してもよい。第2の多孔質層は、不織ウェブまたは第2のナノファイバメンブレン層からなることが有利である。
【0068】
本発明のメンブレン構造体は、適切には、少なくとも1つの支持層を含む。支持層は、例えば不織布、任意の繊維質基材、または、例えばマイクロポーラスメンブレンなどのフィルタもしくはメンブレン層など、ナノファイバメンブレン層をその上に加えることができるものであればいかなる基材であってもよい。
【0069】
支持層の坪量は、原理的にはあまり重要ではなく、例えば1〜300g/mの範囲であってよい。
【0070】
支持層の流れ細孔平均径は、少なくとも0.1μmであることが好ましく、1μm超であることが好ましい。支持層の細孔径が大きいことは、メンブレン構造体のフラックスの維持に有利である。分離能はメンブレン層により提供されるものであるため、その分離能はあまり重要ではない。
【0071】
支持層の水フラックスは、大気圧(1bar)での測定で、好ましくは少なくとも10,000、より好ましくは少なくとも20,000、例えば少なくとも30,000l・h−1・m−2である。これは、メンブレン層を水精製フィルタに使用する場合に有利である。
【0072】
水ろ過の用途では、支持層はまた親水性であることが好ましい。支持層は親水性材料から製造してもよいが、支持層が疎水性材料から製造されていれば、支持層に親水性コーティングを施してもよい。
空気ろ過では、支持層にPPまたはPET不織材を選択することが好ましい。
【0073】
支持層は、ASTM D7334−08を使用して水で測定した接触角が80°未満、例えば70°未満、例えば60°未満、例えば50°未満、例えば45°未満であることがより好ましい。
【0074】
不織布の例としては、例えば、メルトブロー不織布、ニードルパンチまたはスパンレース不織布、織布およびニットクロスが挙げられる。
【0075】
繊維状基材の例としては、紙;ガラス、シリカ、金属、セラミック、炭化ケイ素、炭素、硼素を含む材料の群から選択される繊維状基材;綿、ウール、麻または亜麻などの天然繊維;ビスコースまたはセルロース繊維などの人工繊維;例えばポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、クロロファイバ、ポリオレフィン、合成ゴム、ポリビニルアルコール、アラミド、フルオロファイバ、フェノールなどの合成繊維が挙げられる。
【0076】
ナノファイバメンブレン層および支持層は、互いに接触していることが好ましい。これにより、機械的支持を提供し、かつ/または、いわゆる「デッドボリューム」の量(メンブレン構造体内を流れずに内部に滞留している分離すべき液体の量)を減少させることができるからである。
【0077】
最終的には、本発明のナノファイバメンブレン、または本発明の多層メンブレン構造体は、ろ過装置、より詳しくは水または空気ろ過装置を構成する。好ましい実施形態では、メンブレン層は襞付き形状、より詳しくはアコーディオン状の形状を有する。メンブレンの襞加工には、標準的な襞加工装置および方法を使用することができる。
【0078】
そのような空気フィルタでは、C/N比が5以下の半結晶性ポリアミドをベースとする本発明のナノファイバメンブレンが、対応するC/N比が6のポリアミド6をベースとしたナノファイバメンブレンより、より良好に機能するようであった。
【0079】
空気フィルタは、本発明のナノファイバメンブレン層(任意選択的に不織基材上にコーティングされていてもよい)であって、坪量が0.01〜1.0g/m、より好ましくは0.1〜0.5g/mの範囲であり、孔隙率が60〜90%であり、かつ高分子ナノファイバの数平均径が100〜300nmであるものを含むことが好ましい。適切には、空気フィルタは、メンブレン層が襞加工されたフィルタ材料の積層体の一部を構成する粒子用空気フィルタまたは化学物質用空気フィルタである。
【0080】
水ろ過装置は、適切には、拡張可能な集水装置を含む水精製装置である。そのような装置は国際公開第09/073994A号パンフレットに記載されており、これは参照することにより本明細書に組み込まれる。メンブレン層は、本明細書では、勾配を有する多層構造体の一部を構成していることが好ましい。
【0081】
そのような水フィルタでは、C/N比が5以下の半結晶性ポリアミドをベースとする本発明のナノファイバメンブレンが、C/N比が6のポリアミド6をベースとしたナノファイバメンブレンより、より良好に機能するようであった。
【0082】
本発明のナノファイバメンブレン層であって、坪量が1〜20g/m、より好ましくは2〜10g/mの範囲であり、孔隙率が80〜95%であり、かつ高分子ナノファイバの数平均径が100〜400nmの範囲であるものを含むことが好ましい。
【0083】
本発明はまた、本発明のメンブレン構造体、メンブレンカセット、または装置の、次の用途:ガス/ガスろ過のような分子の分離およびろ過、高温ガスろ過、粒子ろ過、精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過、逆浸透などの液体ろ過;廃水浄化、オイルおよび燃料ろ過;電気透析、電気的脱イオン、バッテリー(例えば、バッテリー用セパレータ)および燃料電池などの電気化学的用途;薬剤および栄養補助成分を含む制御放出の用途;パートラクション(pertraction)、パーベイパレーションおよびコンタクター用途;酵素の不動化、および加湿材、ドラッグデリバリー;(工業用)ふき取り布、外科用ガウンおよび掛け布、創傷包帯、組織工学、防護服、触媒担体、および各種コーティングのいずれかで使用するための使用に関する。
【0084】
ここで、以下の実施例により本発明を説明するが、これらに限定されるものではない。
【0085】
[材料]
PA46 ポリアミド46ポリマー、直鎖状、Mw34,000g/Mol、標準的な重合法を使用して国内のDSMで製造。
PA6 ポリアミド6ポリマー、直鎖状、Mw30,000g/Mol、両者とも標準的な重合法を使用して国内のDSMで製造。
ギ酸 工業用グレード、ギ酸95%、水5%。
【0086】
[方法]
[ナノファイバメンブレン層の形成]
マルチノズル電界紡糸装置を使用し、ギ酸/水(ギ酸85重量%)のポリマー溶液から紙基材上へ、ナノファイバメンブレンを紡糸した。紡糸距離および印加電圧を、それぞれ10cmおよび32kVに固定した。相対湿度および紡糸装置内の温度を、30%RHおよび25℃にコントロールした。ナノファイバメンブレンを保護するために、メンブレンの上に、また一枚の紙を載せた。結果を表1に示した。可能な場合には、紙基材の代わりに不織PETウェブ層(Germany、DierdorfのTwedierdorf GmbH and Co.KG製のparafilRT80)を使用した。こうして製造され、コーティングされた不織材を、製造過程で巻き取った。そのようにして製造されたメンブレン層はすべて、幅が1mであった。
【0087】
[ナノファイバのキャラクタリゼーション:ファイバ径、数平均および分布および標準偏差]
ファイバの数平均径を決定するために、ナノファイバウェブ層から、十(10)個の試料を採り、それぞれについて倍率5,000×で走査電子顕微鏡(SEM)像を撮像した。各写真で十(10)個の明瞭に識別できるナノファイバの直径を測定し記録して、全部で百(100)個の個別の測定値を得た。欠陥のあるものは含めない(すなわち、ナノファイバ塊、ポリマー滴、ナノファイバ交差部分)。ファイバ径の分布は、これら百個の個々の測定値からなる。これら百(100)個の個々の測定値から、ファイバの数平均径(d)および標準偏差(S)を計算する。
【0088】
[流れ細孔平均径]
流れ細孔平均径は、ASTM E 1294−89、「standard test method for pore size characteristics of membrane filters using automaed liquid porosimeter」に準拠し、キャピラリーフローポロシメータ(型番CFP−34RTF8A−3−6−L4、Porous Materials,Inc.(PMI)、Ithaca、N.Y.)を使用するASTM designation F316の自動バブルポイント法を使用して測定する。この目的のために、個々の試料を低表面張力流体(16dyne/cmの表面張力を有する1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロペン、または「Galwick」)で湿潤化する。各試料をホルダーに入れ、空気の差圧をかけて、試料から流体を除去する。湿潤化した流れが乾燥した流れ(湿潤化溶媒を含まない流れ)の半分になる差圧を使用し、納入業者のソフトウェアを使用して流れ細孔平均径を計算する。バブルポイントとは最大細孔径をいう。
【0089】
[ナノファイバメンブレンの空気透過性]
空気透過性は、Frazierまたは差圧空気透過性試験を指し、ASTM F778、「Standard methods for gas flow resistance testing of filtration media」により測定した。測定には、NBS装置を使用した。試料に、水柱(通常、0.5インチ)で調節し校正した差圧をかけ、その差圧で得られた、1分当たりの立方フィート(CFM)で表した空気流量を、オリフィスプレートタイプに配置された校正済みベンチュリノズルで測定した。
【0090】
[各種試料の製造]
[比較実験A]
上記の電界紡糸プロセスにより、ギ酸/水(85/15)中にポリアミド6を溶解させたポリアミド溶液から、紙フォイル上に、坪量1.9g/mのナノウェブを製造した。
【0091】
[比較実験B]
上記の電界紡糸プロセスにより、ギ酸/水(95/5)中にポリアミド6を溶解させたポリアミド溶液から、不織ポリエステル支持体上に、坪量1g/mのナノウェブを製造した。こうして製造され、コーティングされた不織材を、製造過程で巻き取った。使用した溶液は、約600mPa・sの粘度、および溶液の全重量に対して約15重量%のポリマー濃度を有していた。
【0092】
[実施例I]
ポリアミド6に代えてポリアミド4,6を使用した以外は、比較実験Aと同じ方法で、実施例Iを製造した。
【0093】
[実施例II]
溶液以外は、実施例Iと同じ方法で実施例IIを製造した。
【0094】
[実施例III]
ポリマー溶液が立体障害を有するフェノール系酸化防止剤をポリマーの重量に対して0.5重量%含む以外は、実施例IIと同じ方法で実施例IIIを製造した。
【0095】
[実施例IV]
ポリマー溶液がCuI/KI安定化剤をポリマーの重量に対して0.5重量%含む以外は、実施例IIと同じ方法で実施例IVを製造した。
【0096】
[実施例V]
ポリアミド6に代えてポリアミド4,6を使用した以外は、比較実験Bと同じ方法で実施例Vを製造した。
【0097】
ナノファイバメンブレンの主な特性と、対応する試験結果を下表に示す。
【0098】
【表1】



【0099】
ナノウェブそれ自体か、または支持層上のナノファイバメンブレンについて、襞加工性および機械特性、または水浸透性および分離効率のいずれかを試験した。
【0100】
[熱安定性メンブレン]
比較例Aと実施例IおよびIVの1.9g/m2のナノファイバメンブレンを金属フレームに固定し、温度165℃、空気雰囲気の強制循環熱対流式オーブンに入れた。メンブレンを、数回(5、10、16、20、40、80時間)、オーブン中で保管した。熱エージング期間後、金属フレームから試料を外し、2枚の紙に挟んだ。
【0101】
[ナノファイバメンブレンの引張特性]
ASTM D5035−95、「standard test method for breaking force and elongation of textile fabrics(strip method)」にしたがい、Instron Tensile testerを用いて、23℃で、引張強さおよび伸びを測定した。ASTM D5035−95とは、試料の製造のみが異なった。上で引用したASTM標準とは異なって、幅15mm、長さ80mmのメンブレン細片をマシン方向に打ち抜いた。マシン方向とは、布の長さが、その布を製造したマシンで作り出される方向を意味する。これらのメンブレン細片の破断伸びおよび引張強さを測定した。引張強さはkg/15mmで表した。関連する試験結果を表2に示す。
【0102】
【表2】



【0103】
結果は、本発明のナノファイバの性能が従来技術によるものの性能よりはるかに優れていることを明確に示している。
【0104】
[ナノファイバメンブレンのアニーリング]
比較例Aおよび実施例Iの1.9g/m2のナノファイバメンブレンを金属フレームに固定し、異なる時間(1および2時間)、窒素雰囲気の強制循環熱対流式オーブンに入れた。PA46ナノファイバでは、温度を230℃にセットした。PA6ナノファイバでは、230℃ではメンブレン材料がすぐに粉々に砕けるため、温度を180℃にセットした。アニーリング後、金属製フレームから試料を取り外し、2枚の紙の間に挟んだ。
【0105】
[動的機械的ねじり解析の測定]
ASTM D5026にしたがい、RSA―III(Rheometrics Solids Analyser III)と呼ばれるRheometrics社の装置により、周波数1Hzで、ひずみスイープおよび温度スイープを使用して、動的機械的測定を行った。2枚の紙の間に挟んだナノファイバメンブレンから、寸法2mm×40mmの試料細片を打ち抜いた。測定の前に、ナノファイバメンブレン試料から紙を部分的に剥ぎ取り、試料をRSAの上側のクランプに取り付けた。上側クランプに装着後、残りの紙を取り除き、ナノファイバメンブレンを下側クランプにも取り付けた。クランプ間の距離は25mmであった。ナノファイバメンブレンの厚さを、校正したHeidenhain厚さ計で測定した。ひずみスイープを室温23℃で、0.01〜10%のひずみ領域で測定した。これらの測定の間に、ひずみの関数として貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E”)およびタンジェントデルタ(tanδ)を求めた。温度スイープは−130℃〜250℃の温度範囲にわたって、5℃/分の加熱速度で測定した。測定中に、温度の関数として貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E”)およびタンジェントデルタ(tanδ)を測定した。アニーリングしていないナノファイバメンブレンの値に対し、すなわち実験開始時(時間0)の値を100%として、140℃の貯蔵弾性率を表3に示す。
【0106】
【表3】



【0107】
結果は、本発明のナノファイバメンブレンの性能が、従来技術によるものの性能よりはるかに優れていることを明確に示している。より詳しくは、実施例Iのナノファイバメンブレンでは、アニーリングを行うと、ファイバ処理温度がはるかに高くても、特性が顕著に増大するのに対し、比較実験Aのナノファイバメンブレンのそれはむしろ幾分減少した。
【0108】
[取り扱い時/試験時/加工時における損傷ナノファイバメンブレン]
比較実験Bおよび実施例Vでは、ポリエステル不織基材上にコーティングされたナノファイバメンブレン層を製造し、巻き取った。製造後、コーティングしたメンブレンを試験し、メンブレン中の欠陥/穴の可能性があるものを検査した。
【0109】
コーティングしたメンブレンの幅方向に、互いに等距離離れた15の1mm2の領域について、欠陥/穴の可能性があるものをSEMにより検査した。比較実験B(約23箇所)に比べ、本発明の実施例Vではほんの僅かな数の穴が観察されただけであった(約5箇所)。
【0110】
[模擬襞加工試験]
以下の手順により、比較実験Bおよび実施例Vのウェブに襞加工を施した。襞加工試験は、襞深さ30mmの、鋸歯構造の2枚刃からなる実験室装置により実施し、メンブレンに襞を付けた。幅10cmのメンブレンシートを装置に入れ、襞加工し、取り出し、そして襞付きのパッケージの上に1kgの重しを載せて160℃のオーブンに入れた。30分後、襞付きメンブレンを取り出し、襞の鮮明さと均一性、剥離、分離および他の損傷について検査した。比較実験Bの襞付きメンブレンは重大な欠陥を示すが、実施例Vは非常に良好な性能を示した。
【0111】
[水透過性試験]
特定の膜間圧力に調節するために、加圧した空気と組み合わせたメンブレン上の水柱を使用して、実施例Iの直径40mmのメンブレンについて水フラックスを試験した。全ての実験は23℃の清浄な水を使用して行った。特定のメンブレン表面について、一定量の水を排出する所要時間を記録することにより、膜間に加えた圧力に対する水の流量[l/m2h]を得る。実験は、膜間圧力20、50、および100mbarで実施した。得られた曲線の傾きが水フラックスと考えられる。このようにして測定された実施例Iの水フラックスは、12,500l/m/h/barであった。
【0112】
清浄水の水フラックスとは別に、標準汚染水の流量についても60分間測定した。
【0113】
実施例Iの結果を、PA46層をコーティングしたマイクロポーラスポリエチレン層(LydallからSolyporという商品名で入手可能)(比較実験CおよびD)と比較する。結果を、前記標準汚染水1Lをろ過するのに必要な時間として表4に示す。
【0114】
[細菌分離効率]
メンブレンの細菌分離効率を測定するために、水フラックス測定試験の標準汚染水を使用した。標準汚染物質を、10,000個/mlの好気性細菌、100ml当たり8000個の大腸菌(E−coli)、および100ml当たり100,000個のエンテロッキ(Enterocci)で構成した。製造後、汚染物質を冷蔵庫で保管し、細菌の顕著な増殖を避けるために、製造後2日以内にのみ使用した。
【0115】
ろ過試験前の標準汚染水およびろ液水の細菌コロニーの濃度を定量するために、IdexxのQuanti DiscTMによる細菌計数試験を採用した。4mlの検査すべき水をQuanti−Discに入れた。その後、これらのディスクを、水中に残留する細菌コロニーを成長させるために、36℃のインキュベータに44時間入れた。UV光により、活性な(UV光下でアップライティン(uplightin)する)領域の数を数えた。標準Quanti−Discデータシート(ISO標準6222による)を使用すれば、活性領域の数は、1ml当たりの活性細菌コロニーの最確数(MPN/ml)に変換することができる。上記の解析によれば、標準汚染水では150MPN/mlであった。
【0116】
実施例の試験用メンブレンには、PA46層でコーティングしたマイクロポーラスポリエチレン層(Lydall社からSolyporの商品名で入手可能)を使用した。結果を表4に示す。
【0117】
【表4】



【0118】
結果は、本発明の実施例Iのメンブレンは、非常に少ない細菌数と共に、高い水フラックスを示し、一方、比較実験では同一圧力で同等のフラックスを示すものの、細菌数ははるかに多く(比較実験C、層の厚さが極めて薄い)、フラックスを減少させる犠牲を払った、CE−Cより厚さが厚いCE−Dのメンブレンでも、依然相当の細菌数を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坪量が0.01〜50g/m2で、孔隙率が60〜95%のナノファイバメンブレン層であって、数平均径が50〜600nmで、かつC/N比が5.5以下の半結晶性ポリアミドを含むポリマー組成物からなる高分子ナノファイバから作られたナノウェブを含むナノファイバメンブレン層。
【請求項2】
前記坪量が0.01〜1.0g/m2、好ましくは0.1〜1.0g/m2の範囲である、請求項1に記載のナノファイバメンブレン層。
【請求項3】
前記坪量が1〜20g/m2、好ましくは2〜20g/m2である、請求項1に記載のナノファイバメンブレン層。
【請求項4】
前記数平均径が80〜300nm、好ましくは100〜200nmの範囲である、請求項1に記載のナノファイバメンブレン層。
【請求項5】
前記層が、流れ細孔平均径が0.01〜2μmの範囲の細孔を有する、請求項1に記載のナノファイバメンブレン層。
【請求項6】
前記C/N比が4.5〜5.5の範囲である、請求項1に記載のナノファイバメンブレン層。
【請求項7】
前記半結晶性ポリアミドが、少なくとも260℃、好ましくは少なくとも280℃の溶融温度を有する、請求項1に記載のナノファイバメンブレン層。
【請求項8】
前記半結晶性ポリアミドが、少なくとも80J/gの溶融エンタルピーを有する、請求項1に記載のナノファイバメンブレン層。
【請求項9】
請求項1〜xに記載のナノファイバメンブレン層の製造方法であって、
a.移動する基材上へ、C/N比が5.5以下の半結晶性ポリアミドを溶解させて含むポリマー溶液を電界紡糸し、それによって堆積したナノファイバからなる半連続層を形成する工程
b.および前記堆積層をアニーリング工程に供する工程
を含む方法。
【請求項10】
請求項1に記載のナノファイバメンブレン層からなる第1の層と第2の多孔質層とを含む多層メンブレン構造体。
【請求項11】
前記第2の多孔質層が不織ウェブまたは第2のナノファイバメンブレン層からなる請求項8に記載の多層メンブレン構造体。
【請求項12】
任意選択により多層メンブレン構造体の層として含まれていてもよい、請求項1に記載のナノファイバメンブレンを含む水または空気ろ過装置。
【請求項13】
前記ナノファイバメンブレンが襞形状を有する請求項12に記載の水または空気ろ過装置。

【公表番号】特表2012−532755(P2012−532755A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520042(P2012−520042)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060235
【国際公開番号】WO2011/015439
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】