説明

水に分散可能なナノ粒子及びナノ粒子分散液の製造方法

【課題】水分散液から乾燥しても、凝集、溶着を起こさず、水に再分散が可能で、水分散性の良好なナノ微粒子を提供する。
【解決手段】ナノ粒子の水分散コーティング剤に用いる両親媒性化合物として、コーティング状態で溶解せず、ゲル−液晶相転移温度が室温より高く、水の沸点より低いものを用い、ナノ粒子に、該両親媒性物質及び水を加えた後、前記相転移温度以上に加熱しながら攪拌混合することにより、ナノ粒子表面に安定な結晶性の両親媒性化合物からなる皮膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散可能なナノ粒子、その水性分散液、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの炭素材料、金属、金属酸化物、金属硫化物などは、その微細な内部構造に基づく、サイズ特異的な蛍光などの特殊な機能の発現が知られている。また、光の波長より小さな粒径を持つ粒子を分散したものは透明になる。このような特徴を有するナノ粒子の水分散液は、インク、化粧品、医療分野をはじめ幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
ナノ粒子の水分散液の調製法は、安定剤、分散剤共存下で原料物質溶液から化学反応によりナノ粒子を発生させる方法が良く知られている。また、事前に調製したナノ粒子を何らかの手法で水分散させる方法もある。
特に後者の手法でナノ粒子の水分散液を作成ためには、通常は高度に凝集して二次粒子となっているナノ粒子を、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、アルティマイザーなどの機器を用いて解砕し、その後、ナノ粒子表面を改質して水への親和性を向上させるという二つの技術要素が必要である。
【0004】
このナノ粒子表面の改質については、粒子の化学組成によっていくつかの手法がある。
たとえば、カーボンナノチューブやカーボンナノホーンをはじめとする元来疎水性である炭素材料ナノ粒子については、化学反応により、その表面に親水性官能基であるカルボキシル基などを直接発現させる方法がある(特許文献1)。また、界面活性剤を水分散コーティング剤としてコーティングすることによって水分散させることも可能である(特許文献2)。
一方、シリカ、酸化チタンなどの金属を組成に含む無機ナノ粒子の場合、金属と結合可能な官能基と親水性の両方を有する分散剤を用いる方法や(特許文献3)、はじめにナノ粒子表面を疎水処理した後に、高分子の非イオン性界面活性剤でコーティングする方法がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−95624号公報
【特許文献2】特開2008−230935号公報
【特許文献3】特開2007−25445号公報
【特許文献4】特開平7−247119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高分子の非イオン性界面活性剤を、水分散コーティング剤として用いる場合、前処理としてナノ粒子表面に低分子を用いて有機溶媒中で疎水処理を行なうなど、多数かつ煩雑な工程を必要とする。
一方、低分子量の水分散コーティング剤を用いて作成したナノ粒子分散液は、乾燥すると、ナノ粒子が凝集、溶着を起こす。凝集、溶着したナノ粒子は水への再分散が困難であるか、あるいは当初の分散状態と異なった状態になることがある。
ナノ粒子の輸送、保管を考えると、乾燥固体の方が重量、容量の点で有利であるが、以上の背景から、水分散コーティング剤を用いて作成したナノ粒子は乾燥させず、分散液の状態で取り扱う必要があった。
また、現存の水分散コーティング剤は、粒子表面に対して個別に設計され、さらにそのコーティング法もコアとなる粒子ごとに異なり、汎用性が高くないという問題もある。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであって、水分散液から乾燥しても、凝集、溶着を起こさず、水に再分散が可能で、水分散性の良好な微粒子を得ることを目的とするものである。また、本発明の別の目的は、種々のコア粒子をもつ水分散性ナノ粒子を、安価、かつ汎用性の高い低分子コーティング剤を用いて、簡便に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ナノ粒子の分散液を乾燥するとナノ粒子同士の凝集、溶着を起こすのは、この低分子量の水分散コーティング剤が、室温付近で液晶もしくは溶解状態であるものが多く、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムは室温では水に溶解状態であり、そのために、乾燥の際に容易に分散剤同士の融合が起きるためであると考えられる。
水分散コーティング剤として用いる低分子両親媒性化合物は、親水基A、疎水基Bの両方を分子内に持ち、一般式A−Bで表される化合物であるが、本発明者等がこの問題を解決すべく検討した結果、乾燥による凝集、溶着を抑制するためには、該両親媒性化合物として、コーティング状態で溶解せず、ゲル−液晶相転移温度が室温より高く、水の沸点より低いものを用い、凝集したナノ粒子に、該両親媒性化合物及び水を加えた後、その相転移温度以上に加熱しながら解砕・混合することにより、ナノ粒子表面に安定な結晶性の両親媒性化合物からなる皮膜を形成することができることを見いだした。
【0009】
さらに、本発明者らが検討したところ、このような特徴を持つ水分散コーティング剤の分子構造として、Aの親水部は、単糖や複糖もしくは、オリゴペプチド、PEOなどで、好ましくは単糖もしくはアミノ酸3個以下のペプチドで、より好ましくは単糖ではグルコース、アミノ酸はグリシンであり、また、Bの疎水部については飽和、不飽和のアルキルまたは芳香族やその他の元素を含んでも良いが、好ましくは炭素鎖が10から24の飽和もしくは不飽和の脂肪族であることが判明した。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ゲル−液晶相転移温度が室温より高く、かつ水の沸点より低い両親媒性化合物からなる結晶性物質で被覆された易分散性ナノ粒子。
[2]前記両親媒性化合物が、下記一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の不飽和炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質であることを特徴とする上記[1]の易分散性ナノ粒子。
[3]前記両親媒性化合物が、下記一般式(2)
CO(NH−CHR−CO)OH (2)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
又は、下記一般式(3)
H(NH−CHR−CO)NHR (3)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
で表わされるペプチド脂質であることを特徴とする上記[1]の易分散性ナノ粒子。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの易分散性ナノ粒子が、水中に分散されてなるナノ粒子水分散液。
[5]ナノ粒子を水中に分散させるための分散剤であって、ゲル−液晶相転移温度が室温より高く、かつ水の沸点より低い両親媒性化合物からなる結晶性物質を有効成分とするナノ粒子用分散剤。
[6]前記両親媒性化合物が、下記一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の不飽和炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質であることを特徴とする上記[5]のナノ粒子用分散剤。
[7]前記両親媒性化合物が、下記一般式(2)
CO(NH−CHR−CO)OH (2)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
又は、下記一般式(3)
H(NH−CHR−CO)NHR (3)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
で表わされるペプチド脂質であることを特徴とする上記[5]のナノ粒子用分散剤。
[8]ナノ粒子に、上記[5]〜[7]のいずれかのナノ粒子用分散剤及び水を加えた後、前記相転移温度以上に加熱しながら解砕・混合することを特徴とするナノ粒子分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の易分散性ナノ粒子は、コアとして炭素材料としてカーボンナノホーン、金属を組成に含む材料として酸化亜鉛(ZnO)、マグネタイト(Fe)、二酸化チタンと広範で汎用性が高い。また、カーボンナノホーンについては20g/Lと極めて高濃度でカーボンナノホーンを分散することができる。動的光散乱測定では、いずれのナノ粒子の場合も、本発明の操作前と操作後では粒径が減少しており、二次粒子の解砕と、コーティングによる水分散性の向上が一つの工程で、かつ短時間で達成される。これまでのコーティングよるナノ粒子水分散液の作成は途中に有機溶媒の使用を含む多段階の操作が必要なものも多かったのに対して、本発明によれば、1工程で、かつ使用する媒体が水のみであるためコスト的にも有利である。また、本発明により作成された易分散性ナノ粒子は、乾燥して、再分散できるため、保存、輸送時には省スペース、軽量化が可能となり、大きなアドバンテージが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の概念図
【図2】実施例3で得られたナノ粒子の水分散液の光学顕微鏡像(左側:明視野、右側:蛍光)
【図3】実施例3で得られたナノ粒子水分散液を凍結乾燥した試料の透過型電子顕微鏡像
【図4】実施例4で得られたナノ粒子水分散液を凍結乾燥した試料の走査型電子顕微鏡像
【図5】実施例5で得られたナノ粒子水分散液を凍結乾燥した試料の走査型電子顕微鏡像
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明を説明するための概念図である。
図に示すように、本発明のナノ粒子は、結晶性両親媒性化合物で被覆されて、水分散可能とされていることを特徴とする。
本発明において、水分散コーティング剤として用いる両親媒性化合物は、親水基Aと疎水基Bの両方を分子内に持ち、一般式A−Bで表される化合物である。分散液から乾燥したナノ粒子が凝集、溶着を起こすのは、この化合物が、媒体中、室温で液晶もしくは溶解状態だからである。本発明においては、乾燥による凝集、溶着を抑制するため、該両親媒性化合物として、コーティング状態で溶解せず、ゲル−液晶相転移温度が室温より高く、かつ水の沸点より低いものを用いる。
【0014】
このような該両親媒性化合物の親水基Aは、単糖や複糖もしくは、オリゴペプチド、PEOなどで、好ましくは、単糖もしくはアミノ酸3個以下のペプチドで、より好ましくは、単糖ではグルコース、アミノ酸はグリシンである。
また、疎水基Bは、飽和、不飽和のアルキルまたは芳香族やその他の元素を含んでも良いが、好ましくは炭素鎖が10から24の飽和もしくは不飽和の脂肪族である。また直鎖型だけでなく分岐していても良いが、一般的にはアルキル鎖は炭素数が多く、かつ直鎖型で相転移点が高くなる傾向がある。
【0015】
また、分子構造内にアミドなど分子間相互作用を引き起こす官能基を有し、これが隣接する両親媒性化合物と水素結合などを介して安定な結晶性の分子膜を形成するものがよく、具体的には、特開2008−30185号公報、特開2008−31152号公報等において、有機ナノチューブの原料として用いられるところの、下記一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の不飽和炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質、又は下記一般式(2)
CO(NH−CHR−CO)OH (2)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
で表わされるペプチド脂質、又は下記一般式(3)
H(NH−CHR−CO)NHR (3)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
で表わされるペプチド脂質があげられ、好ましく用いられる。
【0016】
本発明者らは、上記の特許公開公報に記載されているように、上記のN−グリコシド型糖脂質又はペプチド脂質を、有機溶媒中で自己集合させることによって、無水有機ナノチューブを簡便かつ大量に製造できることを見いだしたが、その後の検討の結果、これらのN−グリコシド型糖脂質又はペプチド脂質は、両親媒性化合物であって、かつ、ゲル−液晶相転移温度が室温より高く、かつ水の沸点より低いものであるため、ナノ微粒子の水分散剤として有用であることが判明したものである。
【0017】
本発明において用いられる両親媒性化合物は、上述の特徴を有する2種類以上を併用しても良く、両親媒性化合物に混合して分子膜を形成するその他の化合物が共存しても良い。
【0018】
一方、本発明において、コアとなる粒子は、水の沸点や、コーティングする両親媒性化合物の相転移温度の条件で溶融、分解しないものであれば良い。好ましくはカーボンナノホーンなどの炭素を主たる組成に持つナノ粒子、またはマグネタイト、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、シリカなどの金属酸化物、硫化カドミウムなど金属カルコゲン化物、硫酸バリウムなどの塩などである。
【0019】
コアとなるナノ粒子は凝集して二次粒子を作っていることが多いが、本発明のナノ粒子の製造方法は、凝集している二次粒子の解砕と、両親媒性化合物の相点移転以上での加熱を同時に行なうことを特徴とするものである。
すなわち、加熱により、その相転移温度より高温となり、液晶状態となった両親媒性化合物が、解砕されたナノ粒子をコアとしてコーティングされ、その後、冷却により、両親媒性化合物が、その親水基を外表面側に配向した安定な結晶性の皮膜を形成し、水分散性ナノ粒子ができる。
【0020】
この二つのプロセスを同時に行なう手段としてはアルティマイザー、超音波ホモジナイザー、ボールミルなどが挙げられるが、より好ましくはアルティマイザー、超音波ホモジナイザーである。
アルティマイザーの場合、チャンバー内で発生する熱により処理液温度が水分散コーティング剤の相転移温度より高温となり、液晶状態となった水分散コーティング剤が解砕されたナノ粒子をコアとしてコーティングする。
また、超音波ホモジナイザーの場合、超音波照射による発熱が十分でないときには処理液温が水分散コーティング剤の相転移点より高くなるように外部からの加熱し、液晶状態となった水分散コーティング剤が超音波により解砕されたナノ粒子をコアとしてコーティングする。
本発明において、コアとなる粒子と両親媒性化合物の重量比は1:0.1〜1:10の間である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
〈使用した分散剤〉
本実施例では、両親媒性化合物として、1−アミノグルコピラノシドとオレイン酸がアミド結合により連結した次式で表される化合物(両親媒性化合物1とする。)
【化1】

及び、グリシルグリシンとミリスチン酸がアミド結合により連結した次式で表される化合物(両親媒性化合物2とする。)
【化2】

を用いた。
なお、両親媒性化合物1及び両親媒性化合物2は、水中でのゲル−液晶相転移温度が、それぞれ68℃及び54℃で、いずれも室温で安定な結晶状態である。
を用いた。
また、比較例として、市販のTween80(非イオン性界面活性剤)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS、アニオン性界面活性剤)を用いた。
【0022】
(実施例1:アルティマイザーを用いた、カーボンナノホーンをコアとするナノ粒子の作成)
カーボンナノホーン(ダリア状に集合した集合体を一次粒子として、その径が約100nm)を1000mg、上記両親媒性化合物1を1000mg、はかり取り、蒸留水2Lを加えた。この混合物をホモジナイザーで30分撹拌した後、アルティマイザー(スギノマシンHJP25005)に投入し、圧力245MPaで100パスし、両親媒性化合物でコーティングされたナノ粒子の水分散液を得た。
動的光散乱ではパス数の増大ともに粒径の減少が観察され、100パスで一次粒径の粒子サイズとなった(80〜90nm)。このナノ粒子水分散液はその後1週間以上沈殿を生じず、安定な分散状態を保った。
さらにこのナノ粒子を凍結乾燥後、水に再分散したところ、若干粒径が上がるもの(90〜120nm)、ナノ粒子の良好な分散液が得られた。
【0023】
(比較例1:SDSによってコーティングされたカーボンナノホーンをコアとするナノ粒子の作成)
カーボンナノホーンを375mg、両親媒性化合物としてSDSを375mg、はかり取り、蒸留水750mLを加えた。この混合物をホモジナイザーで30分撹拌した後、アルティマイザーに投入し、圧力245MPaで100パスし、SDSでコーティングされたナノ粒子の水分散液を得た。
動的光散乱では1パス以降、数の増大による粒径の変化は観察されなかった。100パスで一次粒径の粒子サイズ(90〜100nm)となった。このナノ粒子水分散液はその後1週間以上沈殿を生じず、安定な分散状態を保った。
さらにこのナノ粒子を乾燥後、水に再分散したところ、濃縮による溶着は見られず、若干粒径が上がるもの(120〜130nm)、ナノ粒子の良好な分散液が得られた。
【0024】
(実施例2:超音波ホモジナイザーを用いた、カーボンナノホーンをコアとするナノ粒子の作成)
カーボンナノホーンを6.3mg、上記両親媒性化合物1を6.3mg、量り取り、蒸留水50mLを加えた。この混合物をホモジナイザーで30分撹拌した後、液温が80℃を保つように加熱しながらプローブ式超音波発生装置による超音波照射をおこない(120W)、両親媒性化合物でコーティングされたナノ粒子の水分散液を得た。
動的光散乱では60分照射後に、一次粒径の粒子サイズ(90〜110nm)となり、その後の粒径変化は認められなかった。このナノ粒子水分散液はその後1週間以上沈殿を生じず、安定な分散状態を保った。
さらにこのナノ粒子を凍結乾燥後、水に再分散したところ、若干粒径が上がるもの(130〜150nm)、ナノ粒子の良好な分散液が得られた。
【0025】
(実施例3:カーボンナノホーンをコアとして蛍光を示すナノ粒子の作成)
カーボンナノホーンを100mg、下記の式(化3)で示される蛍光物質を30mg、上記両親媒性化合物1を100g、量り取り、蒸留水1Lを加えた。この混合物をホモジナイザーで30分撹拌した後、アルティマイザーに投入し、圧力245MPaで100パスし、両親媒性化合物でコーティングされたナノ粒子の水分散液を得た。
【化3】

このナノ粒子の水分散液の光学顕微鏡観察において、明視野観察で粒子が観察された箇所について励起波長488nmで蛍光観察を行なうと、蛍光物質でおよび両親媒性化合物によってコーティングされたナノ粒子が蛍光を発していることが確認された(図2)。
また、このナノ粒子の水分散液を凍結乾燥した試料について透過型電子顕微鏡観察をおこなったところ、カーボンナノホーン1次粒子に相当するサイズ、形状の粒子が観測され、コーティングによって1次粒子のサイズ、形状が変化しないことが確認された(図3)。
【0026】
(実施例4:マグネタイトをコアとするナノ粒子の作成)
マグネタイト(一次粒径20〜20nm)を250mg、上記両親媒化合物1を250mg、量り取り、蒸留水1Lを加えた。この混合物をホモジナイザーで30分撹拌した後、アルティマイザーに投入し、圧力245MPaで100パスし、両親媒性化合物でコーティングされたナノ粒子の水分散液を得た。動的光散乱ではパス数の増大ともに粒径の減少が観察され、25パスで一次粒径の粒子サイズ(25nm)となり、それ以上のパス数では逆に粒子サイズが増大した。このナノ粒子水分散液はその後1週間以上沈殿を生じず、安定な分散状態を保った。
このナノ粒子の水分散液を凍結乾燥した試料について透過型電子顕微鏡観察をおこなったところ、マグネタイト1次粒子に相当するサイズ、形状の粒子が観測され、コーティングによって1次粒子のサイズ、形状が変化しないことが確認された(図4)。
【0027】
(実施例5:酸化亜鉛をコアとするナノ粒子の作成)
酸化亜鉛(一次粒径50〜70nm)250mg、両親媒化合物50mgをはかりとり、蒸留水1Lを加えた。この混合物をホモジナイザーで30分撹拌した後、アルティマイザーに投入し、圧力245MPaで100パスし、両親媒性化合物でコーティングされたナノ粒子の水分散液を得た。動的光散乱ではパス数の増大ともに粒径の減少が観察され、50パスで一次粒径の粒子サイズ(50nm)となり、それ以上のパス数では逆に粒子サイズが増大した。このナノ粒子水分散液はその後1週間以上沈殿を生じず、安定な分散状態を保った。
このナノ粒子の水分散液を凍結乾燥した試料について透過型電子顕微鏡観察をおこなったところ、酸化亜鉛1次粒子に相当するサイズ、形状の粒子が観測され、コーティングによって1次粒子のサイズ、形状が変化しないことが確認された(図5)。
【0028】
(実施例6:超音波ホモジナイザーを用いて作成した酸化チタンをコアとするナノ粒子の作成)
石原産業製酸化チタンST−01(平均粒径5nm)、ST−21(平均粒径23nm)、ST−41(平均粒径154nm)を、それぞれ10mg、両親媒性化合物として、両親媒性化合物1、及び両親媒性化合物2、比較例として、Tween80、SDS)を10mg、量り取り、蒸留水40mLを加えた。この混合物をプローブ式超音波発生装置による超音波照射をおこなった(120W)。この際、液温が60℃C以上になるのを確認し、その後、室温まで放冷し、両親媒性化合物でコーティングされたナノ粒子の水分散液を得た。
動的光散乱ではSDSの場合を除き、超音波照射10分以後の大きな粒径変化は認められなかった。さらにこのナノ粒子を凍結乾燥後、水に再分散し、この分散液について動的光散乱による粒径測定を行なった。
以下に結果を示す。
【0029】
【表1】

【表2】

【表3】

【0030】
上記の表から明らかなように、本発明の両親媒性化合物1及び2を用いた場合、ナノ微粒子は、2週間程度で沈殿するものの、振とうすると再び分散するのに対して、Tween80やSDSの沈殿物は大きな凝集体となっており、振とうしてもすぐに沈殿する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
炭素材料ナノ粒子はインク、DDS材料としての応用が期待されている一方、単体では極めて水分散性が悪い。本発明により、水に良く分散し、かつ乾燥、再分散可能にすることで、有機溶媒フリーなインク、またDDS材料としての応用研究が大いに進む可能性がある。また、金属酸化物や金属硫化物ナノ粒子は、量子ドット、DDS、磁気医療やバイオセンサ材料として有望であり、容易に水分散を可能にすることで材料光学、医療分野で大きくこれらの粒子の適用範囲を広げると期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル−液晶相転移温度が室温より高く、かつ水の沸点より低い両親媒性化合物からなる結晶性物質で被覆された易分散性ナノ粒子。
【請求項2】
前記両親媒性化合物が、下記一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の不飽和炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質であることを特徴とする請求項1に記載の易分散性ナノ粒子。
【請求項3】
前記両親媒性化合物が、下記一般式(2)
CO(NH−CHR−CO)OH (2)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
又は、下記一般式(3)
H(NH−CHR−CO)NHR (3)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
で表わされるペプチド脂質であることを特徴とする請求項1に記載の易分散性ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の易分散性ナノ粒子が、水中に分散されてなるナノ粒子水分散液。
【請求項5】
ナノ粒子を水中に分散させるための分散剤であって、ゲル−液晶相転移温度が室温より高く、かつ水の沸点より低い両親媒性化合物からなる結晶性物質を有効成分とするナノ粒子用分散剤。
【請求項6】
前記両親媒性化合物が、下記一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の不飽和炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質であることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子用分散剤。
【請求項7】
前記両親媒性化合物が、下記一般式(2)
CO(NH−CHR−CO)OH (2)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
又は、下記一般式(3)
H(NH−CHR−CO)NHR (3)
(式中、Rは炭素数10〜24の炭化水素基、Rはアミノ酸側鎖、mは1〜3の整数を表す。)
で表わされるペプチド脂質であることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子用分散剤。
【請求項8】
ナノ粒子に、請求項5〜7のいずれか1項に記載のナノ粒子用分散剤及び水を加えた後、前記相転移温度以上に加熱しながら攪拌混合することを特徴とするナノ粒子分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−36760(P2011−36760A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184487(P2009−184487)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人科学技術振興機構委託研究「超分子ナノチューブアーキテクトニクスとナノバイオ応用」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】