説明

水の光還元体及びその製造方法

【課題】本発明は、従来に比べ水素生成効率を向上させると共に簡単に製造することができる水の光還元体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明に係る水の光還元体1は、基体2の表面に超臨界流体又は亜臨界流体の発泡作用により多数の外部連通路3が形成されているので、外部連通路3の内面を含めると表面積が格段に大きくなり、基体に含有される光励起有機半導体4が外部から照射する光を受けて活性化する効率が格段に向上する。そして、外部連通路3の内面に水還元触媒5を付着させているので、光が照射される光励起有機半導体4に近接して水還元触媒5が配置され、光励起有機半導体4から水還元触媒5への電子の移動が容易となり、水素生成効率を格段に高めることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを吸収して水中のプロトンを還元して水素を発生することができる水の光還元体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽からの光エネルギーの利用方法としては、太陽電池による電気エネルギーへの変換と光化学反応を用いた水素の生成が挙げられる。水素の生成には、光触媒である二酸化チタンを用いた方法が研究されてきているが、二酸化チタンは紫外線領域の光しか吸収しないため、光エネルギーに対する水素の生成効率が十分ではなかった。
【0003】
そこで、可視光領域の光を吸収する光励起有機半導体を用いて水素の生成効率を高めることが検討されている。例えば、特許文献1には、二酸化チタン薄膜の膜面に可視光吸収色素としてルテニウム錯体を担持した光触媒電極膜を有する水素生成装置が記載されており、可視光を吸収して光励起した色素から電子移動を受けた光触媒である二酸化チタンが活性化されて水素生成を行なうことができるため水素の生成効率を向上させることができる。
【0004】
また、特許文献2では、ガラス基板等の支持体からなる支持体層と、白金触媒等の水還元触媒からなる水還元触媒層と、ポルフィリン誘導体やルテニウムビピリジン誘導体等からなる色素層とを具備した水光還元体が記載されている。特許文献2に記載された水光還元体は、可視光領域の光を吸収して励起する色素から電子伝達剤に電子を渡し、電子を受けて還元状態となった電子伝達剤が水還元触媒に電子を渡し、電子を受けて活性化した水還元触媒が水中のプロトン(H)を還元して水素を生成するようになっている。
【0005】
特許文献3には、超臨界流体若しくは亜臨界流体と金属前駆体とからなる前駆体流体中にポリマーを配置して前駆体流体をポリマーに浸透させた後、発泡させて、気孔表面に金属が分散担持された金属担持体ポリマー多孔体を製造する点が記載されている。
【特許文献1】特開2002−356301号公報
【特許文献2】特開平9−173840号公報
【特許文献3】特開2004−315559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2では、可視光領域の光を吸収して水素生成が行なえる点で光触媒のみ用いて水素生成を行なう場合よりも水素生成効率が向上するが、触媒層の表面に可視光領域の光を吸収して励起する色素を付着させているだけなので、水素生成が行なわれる領域は限定されており、水素生成効率を向上させるには限界がある。
【0007】
特許文献3には、金属担持ポリマー多孔体が記載されており、触媒の担持についても言及されているが、光による水素生成に関する記載はない。
【0008】
そこで、本発明は、従来に比べ水素生成効率を向上させると共に簡単に製造することができる水の光還元体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水の光還元体は、高分子材料内に光励起有機半導体を分散して含有するとともに発泡作用により多数の外部連通路が表面に形成された基体と、前記外部連通路内に分散された水還元触媒とを有することを特徴とする。さらに、前記基体は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリメタクリル酸メチルの中から選択される高分子材料からなることを特徴とする。さらに、前記光励起有機半導体は、ポルフィリン誘導体、ルテニウムビピリジン錯体誘導体、フタロシアニン誘導体、アクリジンイエロウ、プロフラビンの中から選択される有機半導体であることを特徴とする。さらに、前記水還元触媒は、白金、イリジウム、ニッケル、金、銀、銅、パラジウム、ロジウムの中から選択される水還元触媒であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る水素発生装置は、上記の水の光還元体に電子伝達剤の溶解した水溶液中で光を照射して水素を発生させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る水の光還元体の製造方法は、光励起有機半導体及び高分子材料が溶解した溶液から基体を成形する成形工程と、水還元触媒に還元される有機錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体を前記基体に含浸させる含浸工程と、含浸した前記有機錯体を水還元触媒に還元する還元工程と、含浸した前記超臨界流体又は前記亜臨界流体を発泡させて前記基体の表面に多数の外部連通路を形成するとともに前記水還元触媒が前記外部連通路の内面に残留して付着する発泡工程とを備えることを特徴とする。さらに、前記超臨界流体又は前記亜臨界流体として二酸化炭素を用いることを特徴とする。さらに、前記含浸工程において、二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体を圧力5〜30MPa及び温度300〜500Kの条件に設定することを特徴とする。さらに、前記超臨界流体又は前記亜臨界流体は、前記基体への浸透を促進する添加剤を含むことを特徴とする。さらに、前記添加剤は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2‐プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンの中から選択される添加剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る水の光還元体は、基体の表面に発泡作用により多数の外部連通路が形成されているので、外部連通路の内面を含めると表面積が格段に大きくなり、基体に含有される光励起有機半導体が外部から照射する光を受けて活性化する効率が格段に向上する。特に、超臨界流体又は亜臨界流体の発泡作用により形成される空隙はほぼ均一な微細なセル構造(直径約3μm)をしており、こうしたセル構造を連続させて外部と連通する外部連通路を形成しているので、外部から入射する光は外部連通路内で乱反射を繰り返して拡散するようになり、基体内の光励起有機半導体が光を受ける領域を拡大することができる。
【0013】
そして、外部連通路内に水還元触媒を分散させているので、光が照射される光励起有機半導体に近接して水還元触媒が配置され、光励起有機半導体から水還元触媒への電子の移動が容易となり、水素生成効率を格段に高めることが可能となる。そのため、本発明に係る水素発生装置は、電子伝達剤の溶解した水溶液中の本発明に係る水の光還元体に対して光を照射することで、活性化した光励起有機半導体から水溶液中の電子伝達剤が電子を受け取り水還元触媒に電子を移動させて活性化させ、プロトンを水素に還元して発生させるといった一連の化学反応を促進させることができる。
【0014】
また、本発明に係る水の光還元体の製造方法は、光励起有機半導体及び高分子材料が溶解した溶液から基体を成形し、光励起有機半導体を含有した基体に水還元触媒に還元される有機錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体を含浸させ、含浸した超臨界流体又は亜臨界流体を発泡させて前記基体の表面に多数の外部連通路を形成するとともに水還元触媒が外部連通路の内面に残留して付着するので、多数の外部連通路を簡単に形成することができ、またその内面に水還元触媒を満遍なく付着させることができる。したがって、本発明に係る製造方法を用いることで、水素生成効率の向上した水の光還元体を容易に製造することが可能となる。
【0015】
そして、二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体を用いることで、製造に際して環境に与える影響が小さくでき、また、圧力5〜30MPa及び温度300〜500Kの条件に設定すれば、外部連通路の形成に好ましい発泡作用を基体に対して与えることができる。また、超臨界流体又は亜臨界流体が基体への浸透を促進する添加剤を含むことで、含浸工程においてより多くの超臨界流体又は亜臨界流体を基体に対して含浸できるようになり、外部連通路形成のための発泡作用を効率的に行なうことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明に係る水の光還元体の実施形態に関する一部拡大断面模式図である。水の光還元体1は、基体2の表面に超臨界流体又は亜臨界流体の発泡作用により多数の外部連通路3が形成されている。そして、基体2内には多数の光励起有機半導体4(四角印で表示)が分散含有されており、外部連通路3内には多数の水還元触媒5(丸印で表示)が分散している。この場合、外部連通路3の内面に水還元触媒が付着して分散したり、外部連通路3内に流入した溶液内に分散していてもよい。
【0018】
基体2に超臨界流体又は亜臨界流体を含浸させて発泡させると基体2内に多数の気泡が発生して空隙が形成されるが、こうした空隙を連続させるように発泡条件を設定することで、外部連通路3が形成されるようになる。発泡条件としては、後述するように、超臨界流体又は亜臨界流体に含まれる浸透を促進する添加剤の選択、含浸時の温度設定、含浸後の湯浴温度設定といったものが挙げられる。超臨界流体又は亜臨界流体の発泡作用による空隙はほぼ均一な微細なセル構造となるため、外部連通路3についてもほぼ均一な微細構造とすることができ、外部連通路3の内面を含めた基体2の表面積は格段に大きく設定することが可能となる。
【0019】
そして、図1の矢印で示すように、外部から照射される光は、外部連通路3内にも入射してその内面で乱反射を繰り返し、基体内部に拡散するようになる。そのため、基体2内の光励起有機半導体4が光を受ける領域が拡大し、より多くの光励起有機半導体4が活性化するようになる。また、外部連通路3内には多数の水還元触媒が分散しているので、活性化した光励起有機半導体4に近接して水還元触媒5が配置されるようになり、光励起有機半導体4から水還元触媒5への電子の移動を容易に行なうことができるようになる。
【0020】
図2は、電子伝達剤6(三角印で表示)が溶解した水溶液7中に図1に示す水の光還元体1を入れて光を照射した場合の一部拡大断面模式図である。光還元体1を水溶液7中に入れると、水溶液7が外部連通路3内に浸透していき、それに伴って電子伝達剤6も外部連通路3内に入り込むようになる。そのため、光が照射されて活性化した光励起有機半導体4から電子伝達剤6に電子が渡され、渡された電子は電子伝達剤6から水還元触媒5に渡される。こうして、光励起有機半導体4、電子伝達剤6、水還元触媒5が近接した状態となるため、一連の電子の移動がスムーズに行なうことができ、水還元触媒5の活性化により水溶液中のプロトンが還元されて水素の発生が効率よく行われるようになる。
【0021】
なお、本発明に係る水の光還元体は、高分子材料からなるためシート状、フィルム状又は繊維状といった様々な形状で用いることができ、これら以外にも柱状、板状又は球状といった様々な形状に成形してもよい。さらに、既存の成形品の表面に層状に密着させて用いるようにしてもよく、特に限定されない。
【0022】
基体の素材としては、超臨界流体又は亜臨界流体の発泡作用により空隙を形成することが可能な材料であれば用いることができ、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリメタクリル酸メチルといった高分子材料が好ましい。
【0023】
また、基体内に分散含有される光励起有機半導体としては、可視光領域の光を吸収して活性化する物質が好ましく、例えば、ポルフィリン誘導体、ルテニウムビピリジン錯体誘導体、フタロシアニン誘導体、アクリジンイエロウ、プロフラビンなどが挙げられる。光励起有機半導体の添加量としては、基体高分子重量に対して0.01%〜0.3%が好ましい。
【0024】
また、水還元触媒は、水中のプロトンを還元して水素を発生させる触媒作用を有する物質で、白金、イリジウム、ニッケル、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ロジウムビピリジン錯体誘導体、コバルトビピリジン錯体誘導体などが挙げられる。水還元触媒の添加量としては、基体高分子重量に対して1%〜10%が好ましい。
【0025】
水素発生装置に用いられる水溶液中に溶解する電子伝達剤としては、ビオロゲン、ユウロピウムイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、ロジウムビピリジン錯体誘導体、フェナントリニウムイオン等を用いることができ、さらに、水溶液中には、電子を放出した光励起有機半導体に電子を与えるドナーとして、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸、トリエタノールアミン、システイン、メルカプトエタノール、硫化水素、トリエチルアミン、グリシン誘導体、尿素誘導体、アスコルビン酸、グルコース等を添加しておくと、水素の発生に必要な光化学反応をより長く継続させることができるようになる。電子伝達剤については、水溶液重量に対して0.1μmol/L〜100μmol/L添加するとよい。また、ドナーについては、水溶液重量に対して50mmol/L〜300mmol/L添加するとよい。
【0026】
次に、光還元体の製造工程について説明する。まず、高分子材料及び光励起有機導体を溶解した溶液を用いて基体を成形する成形工程を行う。高分子材料及び光励起有機導体を溶解させるには、材料に応じて適当な有機溶媒を選択して溶解させ、基体成形後有機溶媒を蒸発させるようにすれば、容易に成形することができる。成形方法としては、用途に応じて従来より用いられている高分子材料の成形方法を使用すればよく、特に限定されない。
【0027】
図3は、成形された基体を発泡させる一連の工程を例示している。成形された基体に対して、水還元触媒に還元される有機錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体を含浸させる含浸工程を行う。含浸させる超臨界流体又は亜臨界流体としては、特に制限されないが、好ましくは空気、Ar、Br2、CO、CO2、Cl2、F2、H2、HBr、HCl、HF、H2O、H2S、He、Kr、N2、NH3、Ne、O2、SO2、SO3、Xe、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチレン、プロピレン、1,3-ブタジエン、アセチレン、CCl4、CHCl3、CH2Cl2、メチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルエーテル、ホルムアルデヒド、エチルメチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、チオフェン、ピリジンといったものが挙げられる。より好ましくは、空気、CO、CO2、H2O、N2、NH3、O2、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、エチレン、プロピレン、アセチレン、CHCl3、CH2Cl2、エチルエーテル、エチルメチルケトン、ベンゼン、トルエン、ピリジンといったものが挙げられる。さらに好ましくは、CO2、H2Oが挙げられる。CO2は、臨界温度及び臨界圧力が低いため超臨界状態が得やすく、無毒、難燃性、無腐食性といった利点があり、高分子材料への含浸量が多く含浸速度も速いため、特に好ましい。なお、これらの超臨界流体又は亜臨界流体は、単独で用いてもよいし、複数で混合して用いてもよい。
【0028】
超臨界流体は、各流体毎に超臨界条件が異なり、例えば、CO2は、臨界温度304K、臨界圧力7.4MPaで超臨界流体となり、H2Oは、臨界温度647K、臨界圧力22.1MPaで超臨界となる。一方、亜臨界流体についても各流体毎に亜臨界条件は異なっているが、一般に臨界温度よりも約10K程度低い温度で臨界圧力程度の圧力状態で亜臨界状態となる。したがって、基体に対して超臨界流体又は亜臨界流体を超臨界条件又は亜臨界条件以上に設定して含浸させるようにすればよいが、次の発泡工程において外部連通路を形成するための適度な発泡を行なうためには、含浸圧力、含浸温度及び含浸時間を調整する必要がある。こうした含浸条件は、基体に用いる高分子材料や使用する超臨界流体又は亜臨界流体により好ましい条件は異なるが、一般に、含浸温度を超臨界温度以上650K以下、含浸圧力を超臨界圧力以上30MPa以下、含浸時間を5分間〜1時間にすればよい。例えば、CO2の場合、好ましい含浸温度は300〜500K、好ましい含浸圧力は5〜30MPa、好ましい含浸時間は5分間〜1時間である。特に、含浸温度は、基体に用いる高分子材料の流動性を変化させるため、発泡による空隙のサイズを変更させることができる。含浸温度が高くなると、高分子材料の流動性が高まり発泡による空隙のサイズは小さくなり、含浸温度が低くなると、空隙のサイズは大きくなる。そのため、含浸温度を高分子材料に合せて調整することで、外部連通路のサイズを調整することができる。
【0029】
また、超臨界流体又は亜臨界流体が基体に対して浸透するのを促進するために添加剤を超臨界流体又は亜臨界流体に添加してもよい。こうした添加剤は、基体に使用される高分子材料と超臨界流体又は亜臨界流体との親和性を高めることで基体内の超臨界流体又は亜臨界流体の含浸量を増加させることができ、さらに、発泡処理後に基体表面に表面緻密層が形成されるのを抑止する作用効果を発揮する。そのため、超臨界流体又は亜臨界流体の含浸量の増加により基体内の空隙率が向上するとともに、表面緻密層の形成が抑止されることで、外部連通路が外部に開放されて外部からの光の入射や水溶液の浸透を妨げることがなくなる。
【0030】
浸透を促進する添加剤としては、空気、Ar、Br2、CO、CO2、Cl2、F2、H2、HBr、HCl、HF、H2O、H2S、He、Kr、N2、NH3、Ne、O2、SO2、SO3、Xe、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチレン、プロピレン、1,3-ブタジエン、アセチレン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2‐プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、アセトン、CCl4、CHCl3、CH2Cl2、メチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルエーテル、ホルムアルデヒド、エチルメチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、チオフェン、ピリジンといったものが挙げられ、超臨界流体又は亜臨界流体に使用するもの以外のもので、基体に用いる高分子材料の種類に応じて選択すればよい。より好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2‐プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンといったものが挙げられる。添加剤の添加量は、超臨界流体に対して1%〜6%が好ましい。
【0031】
水還元触媒に還元される有機錯体は、超臨界流体又は亜臨界流体に溶解しやすく良好な分散状態を実現できるものがよく、こうしたものを用いることで基体内に浸透する超臨界流体又は亜臨界流体とともに基体内部に分散して十分浸透させることができる。有機錯体としては、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトネート、テトラメチルゲルマニウム、テトラプロピルゲルマニウム、銅ビス(6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−22−ジメチル−35−オクタンジオネート)、銅ヘキサフルオロアセチルアセトネート、ジドデシルジメチルアンモニウム、1,1−ジメチルフェロセン、ペンタカルボニル鉄、ヘキサカルボニルタングステン、トリイソブチルアルミニウム、(1,5−シクロオクタジエン)ジメチル白金、銀アセチルアセトネート、(1,5−シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銀、アルミニウムトリエトキシド、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエニル)ニッケル、銅シクロヘキサンブチレート、フェロセン(別名:ジシクロペンタジエニル鉄)、チタニウムメトキシド、白金アセチルアセトネート、ビス(アセチルアセトネート)パラジウム、ドデカカルボニル鉄、鉄(III)アセチルアセトネート、デカカルボニルジマンガン、銅(II)トリフルオロアセチルアセトネート、酢酸パラジウム(II)、銅(II)アセチルアセトネート、ニッケル(II)2−エチルヘキサノエート、ニッケル(II)フタロシアニンといったものが挙げられる。より好ましくは、(1,5−シクロオクタジエン)ジメチル白金が挙げられる。有機錯体の添加量は、基体高分子重量に対して1%〜10%が好ましい。
【0032】
有機錯体を超臨界流体又は亜臨界流体に溶解させて基体に含浸させるには、例えば、図3(a)に示すように、耐圧容器10内に基体M及び有機錯体Cを入れておき、図3(b)に示すように耐圧容器10内に超臨界流体(又は亜臨界流体)Sを導入して充満させて含浸条件(含浸温度、含浸圧力)を設定するようにすればよい。この場合に、適当な撹拌手段により超臨界流体Sを撹拌して有機錯体Cの溶解を促進してもよい。また、予め別の耐圧容器で超臨界流体Sに有機錯体Cを溶解させておき、基体Mを入れた耐圧容器10内に導入するようにしてもよい。含浸工程により図3(I)に模式的に示すように、基体M内に超臨界流体S及び有機錯体Cが導入される。
【0033】
次に、こうして基体M内に含浸して導入された有機錯体Cを還元して水還元触媒Rとする還元工程が行われる。還元工程では、有機錯体Cとして熱変性により還元されるものを用いることで、適当な含浸温度の設定により含浸工程の間に還元が行われるようにすることができる。
【0034】
次に、含浸した超臨界流体Sを発泡させて基体Mの表面に多数の外部連通路を形成するとともに水還元触媒Rが外部連通路の内面に残留して付着する発泡工程を行う。図3(c)に示すように、発泡工程では、温度を維持した状態で急速に大気圧まで減圧することで基体内に気泡Bを発生させて発泡核を形成する。この際に、上述した含浸温度条件により発泡サイズを変化させることができる。図3(II)に模式的に示すように、大気圧まで減圧することで気泡Bが基体M内で発生するようになる。そして、図3(d)に示すように、浴槽11内の温水12に気泡Bが発生した基体Mを浸漬して温水加熱により発泡核である気泡Bを成長させて超臨界流体Sを蒸発・放出させることで、外部連通路が形成される。図3(III)に模式的に示すように、超臨界流体Sが放出されると、基体M内に浸透した水還元触媒Rはそのまま残留して外部連通路の内面に付着した状態となる。
【0035】
温水加熱は、基体の高分子材料や超臨界流体によって異なるが、超臨界流体が含浸した基体を300〜500Kの温水槽に1分間〜10分間浸漬すればよい。例えば、CO2の場合、好ましくは、340〜373Kの温水槽に1分間〜10分間浸漬するとよい。
【0036】
以上の製造方法により、超臨界流体を含浸させて発泡させることで、基体表面に多数の外部連通路を形成するとともにその内面に水還元触媒を付着させることができるので、製造工程を大幅に簡略化でき、光化学反応を生じさせる領域を従来より格段に拡大させた光還元体を容易に製造することが可能となる。
【実施例1】
【0037】
スズポルフィリン(SnTPP)及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)を有機溶媒(例、トルエン)に溶解させてガラス基板上に滴下し、室温大気圧下で有機溶媒を蒸発させ、さらに真空ポンプで膜中に残存する有機溶媒を除去して基体膜(重量0.21g、4cm×3cm×100μm)を成形した。
【0038】
成形した基体膜を高圧処理可能な耐圧容器(ISCO社製 SFE System 2200;容積10.75ミリリットル)内に入れる。超臨界流体として二酸化炭素を用いる。容器内には、予め超臨界流体の浸透を促進させるための溶剤としてエタノールを、二酸化炭素に対して5モル%となるように添加しておく。また、容器内の上部には、エタノールと接触しないように、有機白金錯体(1,5−シクロオクタジエンジメチル白金)を設置する。有機白金錯体は、基体膜の重量に対して5%の量とする。
【0039】
次に、耐圧容器内に二酸化炭素を導入して圧力25MPaまで加圧し、温度373Kで1時間加圧状態を維持する。この状態では、導入された二酸化炭素が超臨界流体となり、エタノール及び有機白金錯体と混合して有機白金錯体が溶解されて基体膜内に含浸されるようになる。その後、温度を373Kに維持した状態で急速に(約10秒間)減圧していき、容器内を大気圧まで減圧する。減圧後基体膜を耐圧容器から取り出し、直ちに363Kの湯浴に2分間浸漬する。以上の工程により光還元体を作製した。
【実施例2】
【0040】
実施例1において、耐圧容器内に溶剤であるエタノールを添加しないで、それ以外同様の製造工程で光還元体を作製した。
【実施例3】
【0041】
実施例1及び2において作製した光還元体に対して、電子伝達剤としてビオロゲンを1.78×10-3%、ドナーとして2−メルカプトエタノールを1.3%添加して溶解した水溶液中に浸漬した状態で、光源(300Wタングステンランプ)で照射して水素を発生させた。なお、比較例として、実施例1と同様に成形した基体膜(未発泡状態)に対して同様に水溶液中に浸漬して光照射を行った。
【0042】
図3及び図4は、実施例1において作製した光還元体の断面及び表面を光学顕微鏡(IK−CORRECT PCスコープ PCX−81X)により観察した写真である。また、図5及び図6は、実施例2において作製した光還元体の断面及び表面を電子顕微鏡(IK−CORRECT PCスコープ PCX−81X)により観察した写真である。これらの写真からわかるように、基体膜の内部に気泡状の多数の空隙が形成されており、外部連通路が形成されていることがわかる。また、超臨界流体にエタノールを添加した実施例1の場合には、エタノールを添加していない実施例2の場合よりも気泡状の空隙が大きく成長しており、断面図を比較すると表面の緻密層(空隙の形成されていない部分)が薄くなっていることがわかる。そのため実施例1の場合には、表面にまで貫通した大きなサイズの空隙が形成されており、外部連通路としてはより好ましいものとなっている。
【0043】
図7は、実施例3において水素発生させた場合の実験結果を示すグラフである。縦軸に発生した水素の累積量(マイクロリットル)をとり、横軸に光源による照射時間をとっている。比較例である未発泡状態の基体膜の場合には、水素の発生量は少なく数時間で水素発生がほぼ停止してしまうが、実施例1及び2の場合には、格段に多くの水素を発生させることができ、さらに20時間以上発生していることがわかる。こうした実験結果から、本発明に係る水の光還元体は、従来のものに比べて水素の生成効率が格段に向上することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る水の還元体及び水素発生装置は、燃料電池等に使用される水素の新しい供給源に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る実施形態に関する一部拡大断面模式図である。
【図2】本発明に係る実施形態に関する一部拡大断面模式図である。
【図3】本発明に係る実施形態に関する製造工程の一例を示す説明図である。
【図4】実施例1の光還元体の断面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【図5】実施例1の光還元体の表面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【図6】実施例2の光還元体の断面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【図7】実施例2の光還元体の表面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【図8】実施例1及び2と比較例に関する水素発生量の推移を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 光還元体
2 基体
3 外部連通路
4 光励起有機半導体
5 水還元触媒
6 電子伝達剤
7 水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料内に光励起有機半導体を分散して含有するとともに発泡作用により多数の外部連通路が表面に形成された基体と、前記外部連通路内に分散された水還元触媒とを有することを特徴とする水の光還元体。
【請求項2】
前記基体は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリメタクリル酸メチルの中から選択される高分子材料からなることを特徴とする請求項1に記載の水の光還元体。
【請求項3】
前記光励起有機半導体は、ポルフィリン誘導体、ルテニウムビピリジン錯体誘導体、フタロシアニン誘導体、アクリジンイエロウ、プロフラビンの中から選択される有機半導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水の光還元体。
【請求項4】
前記水還元触媒は、白金、イリジウム、ニッケル、金、銀、銅、パラジウム、ロジウムの中から選択される水還元触媒であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水の光還元体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の水の光還元体に電子伝達剤の溶解した水溶液中で光を照射して水素を発生させることを特徴とする水素発生装置。
【請求項6】
光励起有機半導体及び高分子材料が溶解した溶液から基体を成形する成形工程と、水還元触媒に還元される有機錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体を前記基体に含浸させる含浸工程と、含浸した前記有機錯体を水還元触媒に還元する還元工程と、含浸した前記超臨界流体又は前記亜臨界流体を発泡させて前記基体の表面に多数の外部連通路を形成するとともに前記水還元触媒が前記外部連通路の内面に残留して付着する発泡工程とを備えることを特徴とする水の光還元体の製造方法。
【請求項7】
前記超臨界流体又は前記亜臨界流体として二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記含浸工程において、二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体を圧力5〜30MPa及び温度300〜500Kの条件に設定することを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記超臨界流体又は前記亜臨界流体は、前記基体への浸透を促進する添加剤を含むことを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記添加剤は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2‐プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンの中から選択される添加剤であることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−305542(P2006−305542A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166205(P2005−166205)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】