説明

水の可視光分解用アノード電極及びその製造方法、並びに水の可視光分解装置

【課題】低いバイアスで光アノード電流を与え、長波長域の可視光を利用することのできる、新規の水の可視光分解用アノード電極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水の可視光分解用アノード電極として、硝酸クロム水溶液中でナノポーラス酸化チタン電極をカソード分極することによりナノポーラス酸化チタン電極にクロムを電着して得られた電極を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー分野や環境分野において水を酸素と水素に分解するために用いられる水の可視光分解用アノード電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光で水を酸素と水素に分解することのできる電極は、これまでほとんど知られていなかったが、最近、TaON電極が水の可視光分解の光アノードとして動作することが報告された(非特許文献1)。しかし、このTaON電極では、酸素発生に基づく光アノード電流を得るために、−0.0V vs Ag/AgClのバイアスが必要であり、利用できる可視光も540nm以下に限定されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 11828-11829
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、低いバイアスで光アノード電流を与え、長波長域の可視光を利用することのできる、新規の水の可視光分解用アノード電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水の可視光分解用アノード電極は、硝酸クロム水溶液中で酸化チタン電極をカソード分極することにより酸化チタン電極にクロムを電着して得られたことを特徴とする。
【0006】
また、前記酸化チタン電極は、ナノポーラス酸化チタン電極であることを特徴とする。
【0007】
本発明の水の可視光分解用アノード電極の製造方法は、硝酸クロム水溶液中で酸化チタン電極をカソード分極することにより酸化チタン電極にクロムを電着することを特徴とする。
【0008】
また、前記酸化チタン電極は、ナノポーラス酸化チタン電極であることを特徴とする。
【0009】
本発明の水の可視光分解装置は、本発明の水の可視光分解用アノード電極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水の可視光分解用アノード電極及び水の可視光分解装置によれば、−0.6V vs Ag/AgClのバイアスで光アノード電流を与え、590nm以下の可視光を利用できる。
【0011】
本発明の水の可視光分解用アノード電極の製造方法によれば、安価な硝酸クロムと酸化チタンを利用して、かつ簡便な電気化学的手法を用いて、−0.6V vs Ag/AgClのバイアスで光アノード電流を与え、590nm以下の可視光を利用できる水の可視光分解用アノード電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1における可視光照射を繰り返したときの水の可視光分解用アノード電極のボルタモグラムを示す。
【図2】実施例1における水の可視光分解用アノード電極の入射光電流変換効率(IPCE)の作用スペクトルを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水の可視光分解用アノード電極は、硝酸クロム水溶液中で酸化チタン電極をカソード分極することにより酸化チタン電極にクロムを電着して得られたものである。また、本発明の水の可視光分解用アノード電極の製造方法は、硝酸クロム水溶液中で酸化チタン電極をカソード分極することにより酸化チタン電極にクロムを電着するものである。また、本発明の水の可視光分解装置は、上記の水の可視光分解用アノード電極を備えたものである。なお、以下の説明において、本発明の水の可視光分解用アノード電極をクロム電着酸化チタン電極という。
【0014】
ここで、酸化チタン電極としては、例えば、ITO基板上に酸化チタン層を形成して作成した電極を用いることができる。また、酸化チタン電極としては、比表面積が大きいことから、微細な多孔質構造を有するナノポーラス酸化チタン電極が好適に用いられる。なお、ナノポーラス酸化チタン電極は、粒径が30〜40nmで、酸化チタン層の厚さが7〜10μmのものが最も好適に用いられる。
【0015】
また、酸化チタン電極をカソード分極する際に、酸化チタン電極を浸漬する硝酸クロム水溶液の濃度は、100〜200mMとするのが好ましく、さらには130〜160mMとするのが好ましい。
【0016】
また、酸化チタン電極をカソード分極する際に、前処理として、硝酸クロム水溶液を定電位電解するのが好ましい。この場合、白金電極を用いて−0.8〜−0.6V vs 飽和カロメル電極(SCE)で1〜2時間定電位電解するのが好ましい。
【0017】
また、酸化チタン電極のカソード分極の条件としては、−0.8〜−0.6V vs 飽和カロメル電極(SCE)で4〜6時間とするのが好ましい。
【0018】
本発明によるクロム電着酸化チタン電極を作用極として用い、白金線を対極として用いた電解槽を構成し、クロム電着酸化チタン電極に可視光照射することにより、水を酸素と水素に分解することができる。
【0019】
将来の産業展開を考慮すれば、光化学エネルギー変換デバイスの開発には、安価で地球上に豊富な元素を利用して、かつ簡便な手法を用いることが肝要である。本発明によるクロム電着酸化チタン電極は、安価な酸化チタンと硝酸クロムから製造することができ、簡便な電気化学的手法を用いて製造することができるという利点を有する。
【0020】
以下、より具体的に、本発明の水の可視光分解用アノード電極及びその製造方法について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0021】
以下のように、クロム電着酸化チタン電極を作製した。硝酸クロムを蒸留水に溶解させ、143mMのクロム水溶液を調製した。このクロム溶液中で作用電極に白金プレート、対電極に白金ワイヤー、参照電極に飽和カロメル電極(SCE)を用い、−0.7V vs SCEで2時間定電位電解を行った。この前処理の後、作用極にナノポーラス酸化チタン電極を用いて、−0.7V vs SCEの条件で数時間カソード分極することにより、クロム電着酸化チタン電極を得た。
【0022】
図1に、可視光照射を繰り返したときのクロム電着酸化チタン電極のボルタモグラムを示す。
【0023】
光源は150Wハロゲンランプに420nm以下の光をカットするフィルターを装着したものを用い、光強度は100mW・cm−2に設定し、pH=7の0.1Mのリン酸バッファー溶液中で試験を行った。5mV・s−1で電位を掃引しながら測定し、5秒毎に光のオン/オフを行った。
【0024】
その結果、光照射時に20μA・cm−2のアノード電流が生じた。また、−0.6V vs Ag/AgCl以上の電位で光アノード電流が生じた。また、1時間の光電解を行った後、電解セル気相中で発生した水素と酸素を検出した。このように、クロム電着酸化チタン電極を光アノードとして用いて水の可視光分解が達成された。
【0025】
図2にクロム電着酸化チタン電極(ITO/TiO/Cr)を光アノードとしたときの入射光電流変換効率(IPCE)の作用スペクトルを示す。
【0026】
このとき、500Wキセノンランプを光源とし、モノクロメーターで取り出した各波長の単色光をクロム電着酸化チタン電極に照射した。また、印加電圧は−0.2V vs Ag/AgClとし、pH=7の0.1M リン酸バッファー溶液中で試験を行った。また、比較のために、Crを電着させていない酸化チタン電極(ITO/TiO)を用いて同様に試験を行った。
【0027】
Crを電着させていない酸化チタン電極(●)では400nm以上の可視光で光電流はほとんど見られなかったが、クロム電着酸化チタン電極(■)を光アノードとしたときでは、はっきりと光電流の発生が観察され、400nmにおけるIPCEは1.74%となった。また、IPCEは光の波長が増加するにしたがって減少し、600nmでほぼ0%となった。このように、クロム電着酸化チタン電極によれば、590nm以下の可視光で光電流が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸クロム水溶液中で酸化チタン電極をカソード分極することにより酸化チタン電極にクロムを電着して得られたことを特徴とする水の可視光分解用アノード電極。
【請求項2】
前記酸化チタン電極は、ナノポーラス酸化チタン電極であることを特徴とする請求項1記載の水の可視光分解用アノード電極。
【請求項3】
硝酸クロム水溶液中で酸化チタン電極をカソード分極することにより酸化チタン電極にクロムを電着することを特徴とする水の可視光分解用アノード電極の製造方法。
【請求項4】
前記酸化チタン電極は、ナノポーラス酸化チタン電極であることを特徴とする請求項3記載の水の可視光分解用アノード電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の水の可視光分解用アノード電極を備えたことを特徴とする水の可視光分解装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197469(P2012−197469A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61135(P2011−61135)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】