説明

水の潜熱を利用した熱交換器及びそれを用いた空調機

【課題】
消費電力が少なく、水の気化効率を向上させ、排出空気に水を含まず、かつ、冷媒回路等を必要とせず、保守も容易な水の潜熱を利用した熱交換器、およびそれを用いた空調機を提供する。
【解決手段】
水の気化により冷却する冷却層と該冷却層と熱交換する熱交換層からなり、冷却層は水が供給され一時貯留する貯留層と、空気が供給され排出される空気流通層からなり、両層の間には水蒸気だけを通過させる透湿防水素材による透湿層によって区画され、水の気化によって供給された空気を冷却するとともに、熱交換層は冷却された空気流通層と金属板を介して気密に隣接して設けられ、層内は外気を熱交換して冷却しながら通過させて給気する水の潜熱を利用した熱交換器、及びこれを利用した空調機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水が気化する時に生じる潜熱を利用して冷却する熱交換器、及び、その熱交換器を組み込んだ空調機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夏期に水ミストを噴霧して周囲の温度を下げることはよく行われることである。この水の潜熱冷却を利用した空調機は、消費電力を大量に使用することもなく、エコにも合致するので特許文献1に見られるように既に多く開発されているが、この特許文献1の技術は水に濡らした無端マットに吸入空気を通過させ、通過の際に温度が低下した排出空気を、さらに通常の空調機の冷却コイルに供給するものである。
この場合、空気の状態の挙動を図1の空気線図で説明すると、符合aの点線のように供給空気の温度が下がるが絶対湿度が高くなり、夏場の冷房空調には適さない。
【0003】
そこで、湿度を押さえて温度だけを下げてエンタルピーを減少させた空調機も特許文献2に見られるように提案されている。この特許文献2に見られるのは、散水器により水を散水して温度を下げた雰霧気中に第1熱交換器を配置し、この第1熱交換器での冷えた冷媒を冷媒回路によって第2熱交換器に供給し、冷えた冷媒が供給された第2熱交換器を冷却し、第2熱交換器を通過する対象空気を冷却する。この場合の空気の状態の挙動を図1で説明すると、符合bの実線のように供給空気の温度が下がるが湿度が同じ程度で推移する。
なお、特許文献1に示されるような冷却装置が、気化による潜熱放出が大量に可能となるので、夏期の冷却の補助冷却熱源として有効であることも、特許文献3に開示されているが、ミスト中の排水処理が厄介になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−74767号公報
【特許文献2】特開2002−22291号公報
【特許文献3】特開2009−162422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の従来技術は、散水器の散水では気化効率が低いという問題点があり、このために排出空気に水が大量に含まれ、これを処理するために再度循環させる等の処理手段が必要となるといた問題点や、第1熱交換器と第2熱交換器を連結するために冷媒回路が必要となるといった問題点があった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、消費電力の少ない熱交換器及び空調機であって、水の気化効率を向上させ効率よく潜熱を利用して冷却可能な熱交換機であって、排出空気に水をあまり含まず、かつ、冷媒回路等の必要とせず、保守も容易な水の潜熱を利用した熱交換器、およびそれを用いた空調機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、水の潜熱を利用した熱交換器であって、水の気化により冷却する冷却層と該冷却層と熱交換する熱交換層からなり、前記冷却層は水が供給され一時貯留する貯留層と、空気が供給され排出される空気流通層からなり、両層の間には水蒸気だけを通過させる透湿防水素材による透湿層によって区画され、水の気化によって前記供給された空気を冷却するとともに、前記熱交換層は冷却された前記空気流通層と金属板を介して気密に隣接して設けられ、層内は外気を熱交換して冷却しながら通過させて給気することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の水の潜熱を利用した熱交換器を、空調機の冷却コイルの上流に配置して、外気を予め冷却する補助冷却器として用いることを特徴とする水の潜熱を利用した空調機である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の熱交換器の発明によれば、費用が安い水の潜熱(気化熱)を用いることによって消費電力の少ない冷房用の熱交換器となり、加湿することもなく、快適な冷房の空調環境を省エネで実現することができ、また、透湿防水素材による透湿層を用いることによって、水の気化効率を著しく向上させることができ、排出空気はほぼ水蒸気だけとなるので、大規模な排水処理は必要がない。さらに、熱交換層は直接冷却層に接しているので別途冷媒回路等の必要とせず、保守も容易となる。
また、請求項2の発明によれば、請求項1の熱交換器を空調機の補助冷却熱源として用いれば、空調機本体の能力が小さくても夏場の冷房が十分可能となり、全体として省エネの空調機とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】従来例と本発明の作動を説明する空気線図、
【図2】図2(a)は、本発明の実施例の水の潜熱を利用した熱交換器の斜視図、図2(b)はその平面図、
【図3】図2(b)のX−X線での断面部分拡大図、
【図4】本発明の実施例の熱交換器の実験結果のグラフの図、
【図5】本発明の実施例の熱交換器を通常の空調機に応用したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水の潜熱を利用した熱交換器及びそれを用いた空調機の実施例を図2から図4を参照して説明する。
本実施例の水の潜熱を利用した熱交換器1は、図2(a)の斜視図、図2(b)の平面図に示すように、扁平の冷却層2と扁平の熱交換層3とが交互に積層されている。すなわち、この冷却された冷却層2の全体はアルミ薄板で断面矩形の扁平の気密の通路であり、それに隣接し直交する熱交換層3も全体はアルミ薄板で断面矩形の扁平の気密の通路である。
この図2(b)のX−X線での断面拡大図を図3に示して説明すると、冷却層2は上下前後は金属薄板のアルミ薄板21で区画され、左側には供給空気入口22が設けられ通常は空気を取り入れ、右側には排出空気出口23が設けられ排気する構成になっている。
【0010】
そして、冷却層2の空気通路27には潜熱冷却用空気Aが通過し、熱交換層3の空気通路31には空調対象空気Bである外気OAが通過して給気SAとして排出される。
なお、図2(a)で潜熱冷却用空気Aの為の複数の供給空気入口22を、ダクトで集めて一つのダクト供給口221とする構成を点線で示しており、同様に、反対側の潜熱冷却用空気Aの為の複数の排出空気出口23をダクトで集めて一つのダクト出口231とする構成を点線で示している。また、外気OAや還気RA等の空調対象空気(外気OA)Bの為の複数の外気入口32をダクトで集めて一つのダクト入口321とする構成を1点線で示しており、同様に、反対側の冷房された空調対象空気Bの為の複数の給気口33をダクトで集めて一つのダクト出口331とする構成を1点線で示している。
【0011】
冷却層2は上下の二層になっており、冷却層2の中間には透湿防水素材による透湿層24で区切られ、透湿層24を中間位置に保持する耐腐食性であるステンレス製の金網25で底部を支えている。この冷却層2内の透湿層24の上部には、水が供給され一時貯留する貯留層26が設けられ、この貯留層26には適宜の構成で給水タンク41及び給水管4に接続されていて、常時、貯留層26に水が供給されている。
なお、本実施例では透湿層24が水平であるため、冷却層2の中間位置に保持するために金網25を用いたが、冷却層2と熱交換層3を垂直に配置すれば、必ずしも必要ではない。また、金網25は保持する機能があればよいので、金属でなくても合成樹脂の保持部材でもよい。
また、透湿層24の下部には、空気通路27が形成されており、上述したように、供給空気入口22から外気OAを取り入れ、排出空気出口23より送風機(図示せず)によって排気する。
【0012】
熱交換層3は、冷却層2の底面、或いは上面にアルミ薄板21を隔てて、全体としてアルミ薄板21で矩形の中空の空気通路31を形成しており、外気入口32から外気OAを取り入れ、給気出口33より送風機(図示せず)によって、冷房を対象とする空間に給気SAする。
なお、本実施例では冷却量を多くするために、冷却層2と熱交換層3を交互に所定の複数(7層)を積層しているが、必要とされる冷却能力に応じて、積層数は適宜変更すれば良いが、逆に、1つの冷却層2との透湿層24の面積を広くし、それに応じて熱交換層3の接触面積を大きくして、この1つの冷却層2と1つの熱交換層の組み合わせを1ユニットだけで稼働するようにしても良い。
【0013】
[作用]
上述した構成であるので、外気OAを冷却するメカニズムを説明する。
まず、給水管4から冷却層2の上部の貯留層26に水が供給させ貯水し、その下層の空気通路27に供給空気入口22から潜熱(気化)冷却供給空気Aが供給され、比較的乾燥した空気が空気通路27を通過すると、上部の水が気化して水蒸気となって透湿層24を通過し、その水蒸気が通過空気に混入して、結果として、排出空気出口23から絶対水分量が増加し、湿度が増した潜熱(気化)冷却排出空気Aが排出される。
なお、供給空気入口22から供給される潜熱(気化)冷却供給空気Aは、室内からの還気RA、外気OA、給気出口33から対象区間に冷房供給空気(B)等から適宜選択される空気が使用される。
また、熱交換層3の外気口32からの外気OA(B)は、冷房対象空気を意味し、通常の戸外からの外気OAは勿論のこと、冷房対象であれば室内からの還気RAをも意味する。
この際、冷却層2では貯留された水の1部が、透湿層24を通過する際に水蒸気になり、気化熱が奪われるので冷却され冷却層2全体が冷却されることになる。
【0014】
この冷却された冷却層2の扁平部分の反対面は、熱交換層3の空気通路31が形成されているが、この境界の冷却されたアルミ薄板21に、熱交換層3の外気口32からの外気OA(B)が通過する際に接触して、熱交換され冷却され給気出口33から対象空間に冷房供給空気(B)が供給(B)される。
なお、本実施例では冷却層2及び熱交換層3の全体として中空枠体を構成するアルミ薄板21を使用したが、この中空枠体は熱伝導性のよいものであればよく、金属の銅薄板等を使用してもよい。また、上述したように、冷却層2及び熱交換層3は積層ではなく、1つの冷却層2と熱交換層3の組み合わせを1ユニットだけで冷却するようにしても良いことは勿論である。
【0015】
[実験結果]
本実施例では、1つの冷却層2と1つの熱交換層の組み合わせを1ユニットとすると7ユニットを積層したもので、1つの冷却層のアルミ薄板21の冷却面積は60cm×90cmであり、積層した高さは45cmとし、アルミ薄板21の厚さは5mmのものを使用した。なお、各冷却層2及び熱交換層3の熱交換部材である中空枠体は上述のようにアルミ薄板21としたが、他には銅薄板等の熱伝導率が良く、水に対して耐腐食性があれば良く、他の素材でも良い。
また、透湿層24の能力は、水量換算で29.1g/secの透湿量のものを使用し、透湿層24の厚さは0.5mm〜2mmで本実施例では1mm前後とし、貯留層26の高さは3mm〜10mmで本実施例では5mm前後と、空気通路27の高さは3mm〜10mmとし、本実施例では5mm前後とし、冷却層2の全体の高さは6mm〜20mmで本実施例では11mm前後とした。また、熱交換層3の空気通路31の高さも6mm〜20mmとし、その効果を測定した。ここで、貯留層26や空気通路27,31の高さは、あまり高くすると、気化が生じる透湿層24から離れる部分が多くなって冷却効率が悪くなり、低くしすぎると水や空気の速度が制限されるので、上記の各数値が適当であった。
【0016】
以上の実施例の構成により、実際に外気OAを冷房する冷房状態を測定し、その実測結果が図4に示すグラフである。
これを詳しく説明すると、冷却層2の空気通路27の供給空気入口22と、熱交換層3の外気口32に、温度26℃湿度40%の外気を4.4g/sec.で供給した場合に、熱交換層3の給気出口33での温度である。なお、空気通路31では顕熱交換だけであるので、空気に含まれる水量(絶対湿度)は変わらない。
図4に示すように、この実験結果から温度26℃湿度40%前後の空気が温度21℃湿度58%前後まで冷却されたことが判る。なお、空気通路31では加湿されていないので絶対湿度は変わらない。
このように、本実施例の熱交換器1自体で十分に冷房目的の空調機としても機能する。
【0017】
[応用例]
以上のように、本発明の実施例の熱交換器は、基本的には水の供給だけで、冷房が可能であるので省エネになるが、気化熱(潜熱)を活用することから、気化熱を大量に発生する夏期に効果がある。したがって、夏期にオーバーワークになりやすい空調機の補助冷却熱源として用いれば、空調機本体の能力が小さくても夏場の冷房が十分可能となる。
この場合の本実施例の熱交換器1の応用例を、図5で示して説明すると、外気OAを熱交換器1である程度冷却して、この中間での冷却供給空気SAを一般の空調機5の冷却コイル51に供給し、適正温度に空調して、送風機52により対象空調空間に給気SA1する。
この構成により、外気が高温時、特に夏期の高温時に有効に稼働し、消費電力を著しく押さえることができる。
【0018】
以上のように、本発明の実施例の水の潜熱を利用した熱交換器によれば、費用が安い水の潜熱を用いることによって消費電力の少ない熱交換器となり、加湿することもなく、快適な空調環境を省エネで実現することができ、また、透湿防水素材による透湿層を用いることによって、水の気化効率を著しく向上させることができ、排出空気はほぼ水蒸気だけとなるので、大規模な排水処理は必要がなく、さらに、熱交換層は直接冷却層に接しているので、従来技術のように別途に冷媒回路等を必要とせず、付属部品も少なく保守も容易となる。
【0019】
なお、本発明の特徴を損なうものでなければ、上記の実施例に限定されるものでないことは勿論であり、例えば、本実施例では冷却層2の空気通路27の送風方向と、熱交換層3と空気通路31の送風方向を直交させたが、複数のダクトを用いて平行する送風方向にしてもよい。また、各冷却層2及び熱交換層3の熱交換部材である中空枠体はアルミや銅としたが、熱伝導率が良く、水に対して耐腐食性があれば他の素材でもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0020】
A・・潜熱冷却用空気、B・・空調対象空気
1・・熱交換器、
2・・冷却層、21・・アルミ薄板、22・・供給空気入口、
221・・ダクト供給口、
23・・排出空気出口、231・・ダクト出口、24・・透湿層、
25・・金網、26・・貯留層、
27・・空気通路
3・・熱交換層、31・・空気通路、32・・外気入口、321・・ダクト入口、
33・・給気出口、331・・ダクト出口、
4・・給水管、41・・給水タンク
5・・空調機、51・・冷却コイル、52・・送風機、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の気化により冷却する冷却層と該冷却層と熱交換する熱交換層からなり、
前記冷却層は水が供給され一時貯留する貯留層と、空気が供給され排出される空気流通層からなり、両層の間には水蒸気だけを通過させる透湿防水素材による透湿層によって区画され、水の気化によって前記供給された空気を冷却するとともに、
前記熱交換層は冷却された前記空気流通層と金属板を介して気密に隣接して設けられ、層内は外気を熱交換して冷却しながら通過させて給気することを特徴とする水の潜熱を利用した熱交換器。
【請求項2】
請求項1の熱交換器を、空調機の冷却コイルの上流に配置して、外気を予め冷却する補助冷却器として用いることを特徴とする水の潜熱を利用した空調機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−159237(P2012−159237A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19277(P2011−19277)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(504027657)株式会社イーズ (12)
【Fターム(参考)】