説明

水トリー発生試験方法並びに水トリー発生試験用試験片およびその製造方法

【課題】水中で使用する絶縁ケーブルに発生する水トリーを試験的に再現する。
【解決手段】水トリー発生試験方法の試験片製作工程は、突部41bが形成された第1型部材41を設置する工程と、第1型部材41と共にXLPEが流入可能な流入空間45を形成する第2型部材42を設置する工程と、加熱されたXLPEを流入空間45内に流入させる工程と、流入空間内にあるXLPEを所定温度で所定時間放置して硬化させて第1樹脂層を形成する工程と、第1樹脂層から第1型部材41等を取り外す工程と、電極側表面上に、突部41bの先端と所定の間隙を保つように電極部を形成する工程と、第1樹脂層および第2樹脂層で電極部を挟み込む工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高分子材料に水トリーを発生させる水トリー発生試験方法と、水トリー発生試験方法、並びにその試験用の試験片製造方法およびその製造方法で製造された試験片に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に配置可能なケーブルは、伝導体である銅線を高分子材料等からなる絶縁部で覆われているものがある。ここで、高分子材料には、例えば架橋ポリエチレン(Cross -Linked Polyethylene、以下、XLPEと称す。)等の熱硬化性樹脂が用いられることが多い。
【0003】
水中に配置される絶縁ケーブルは、インバータ電圧(交流電圧)等を伝播するために用いられているものがある。このような絶縁ケーブルは、インバータサージを含む交流電圧を作用させた状態で数年間使用すると、XLPE等の絶縁部に水トリーが発生する可能性がある。水トリーとは、絶縁材料が長時間にわたって水が共存する状態で電界が作用したときに、絶縁体中に生じる絶縁劣化現象で最終的に絶縁破壊を誘発する現象である。
【0004】
水トリーの診断方法は、電力系統を停電させて避雷器および電力ケーブルの絶縁診断を行うための絶縁診断システム等が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、水中に配置する絶縁ケーブルに用いる絶縁部に用いる材料やその構造を設計するには、予め水トリーの発生状況等を把握する必要がある。このために、水トリーを短時間に試験的に発生させる、すなわち再現させるための試験を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−151576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水トリーを発生させるためには、水電極法等が用いられる。この水電極法は、試験片となるXLPEの平板に複数の電極穴を形成して、この試験片を液中に浸漬させて、各電極穴の付近に比較的高い電界を発生させる。これにより、各電極穴の周辺のXLPEに水トリーを再現させることができる。
【0008】
各電極穴は、通常、複数の突部を有する型部材をXLPEの板材に押し込んで形成させている。このように形成された各電極穴は、形状にばらつきが生じることが多い。各電極穴それぞれの周辺に発生させた水トリーを評価するときに、形状ばらつきの要因を取り除く必要がある。このため、この形状ばらつきが、水トリーの評価を複雑にしている。
【0009】
また、突部を押し込む動作は、各電極穴周辺のXLPEの分子構造を破壊する。このため、各電極穴周辺のXLPEの分子構造は、XLPEにかかるその他の部位の分子構造と異なるものになる。このような方法で電極穴が製作された試験片では、XLPEを用いた絶縁ケーブルに発生する水トリーを忠実には再現していない可能性が高い。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、実際に液中で使用する絶縁ケーブルに発生する水トリーにより近い状態の水トリーを再現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る水トリー発生試験方法は、高分子材料に電極部が埋設された平板状の試験片が浸漬可能な水槽部と、前記水槽部の外に配置されて前記電極部に電界を作用可能な電界発生装置と、を有する水トリー発生装置を用いて、前記試験片に水トリーを発生させる水トリー発生試験方法において、前記試験片は、一方の平坦な表面からその表面に垂直に且つ底部に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された穴が複数形成されて、且つ前記電極部が前記各穴それぞれの穴底と所定の穴深さ方向距離を保つように形成されて、当該水トリー発生試験方法は、前記試験片を製作する試験片製作工程と、前記試験片製作工程の後に、前記試験片を前記水槽部に浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程の後に、前記電極部に電界を作用させて、前記電極部と前記穴底との間に水トリーを発生させる電界作用工程と、を有し、前記試験片製作工程は、金属製の平板で、一方の面に垂直に且つ先端に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された突部が複数形成された第1型部材を、内部に流入空間が形成された箱状の第2型部材の内部に設置する型部材設置工程と、前記型部材設置工程の後に、所定温度に加熱された前記高分子材料を、前記流入空間内に流入させる高分子材料流入工程と、前記高分子材料流入工程の後に、前記流入空間内にある前記高分子材料を、前記所定温度を保ちながら所定時間放置して硬化させて、第1高分子材料層を形成する第1高分子材料層形成工程と、前記第1高分子材料層形成工程の後に、前記第1高分子材料層から、前記第1型部材および第2型部材を取り外す離型工程と、前記離型工程の後に、前記第1高分子材料層の第1型部材から遠い方の面上に、前記突部の先端と所定の間隙を保つように、前記電極部を形成する電極部形成工程と、前記電極部形成工程の後に、高分子材料からなる第2高分子材料層で、前記第1高分子材料層と共に前記電極部を挟み込む電極被覆工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る試験片製造方法は、水トリーを試験的に発生させる水トリー発生試験に用いる試験片を製造する方法において、前記試験片は、高分子材料に電極部が埋設された平板状で、一方の平坦な表面からその表面に垂直に且つ底部に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された穴が複数形成されて、且つ前記電極部が前記各穴それぞれの穴底と所定の穴深さ方向距離を保つように形成されて、前記水トリー発生試験の試験方法は、試験片が浸漬可能な水槽部と、この水槽部の外に配置されて前記電極部に電界を作用可能な電界発生装置と、を有する水トリー発生装置を用いる試験であって、前記試験片を前記水槽部に浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程の後に、前記電極部に電界を作用させて、前記電極部と前記穴底との間に水トリーを発生させる電界作用工程と、を有し、前記試験片の製造方法は、金属製の平板で、一方の面に垂直に且つ先端に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された突部が複数形成された第1型部材を、内部に流入空間が形成された箱状の第2型部材の内部に設置する型部材設置工程と、前記型部材設置工程の後に、所定温度に加熱された前記高分子材料を、前記流入空間内に流入させる高分子材料流入工程と、前記高分子材料流入工程の後に、前記流入空間内にある前記高分子材料を、前記所定温度を保ちながら所定時間放置して硬化させて、第1高分子材料層を形成する第1高分子材料層形成工程と、前記第1高分子材料層形成工程の後に、前記第1高分子材料層から、前記第1型部材および第2型部材を取り外す離型工程と、前記離型工程の後に、前記第1高分子材料層の第1型部材から遠い方の面上に、前記突部の先端と所定の間隙を保つように、前記電極部を形成する電極部形成工程と、前記電極部形成工程の後に、高分子材料からなる第2高分子材料層で、前記第1高分子材料層と共に前記電極部を挟み込む電極被覆工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る水トリー発生試験用試験片は、水トリー発生試験装置を用いて水トリーを試験的に発生させる水トリー発生試験方法に用いる水トリー発生試験用試験片において、前記水トリー発生試験装置は、高分子材料に電極部が埋設された平板状で、一方の平坦な表面からその表面に垂直に且つ底部に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された穴が複数形成されて、且つ前記電極部が前記各穴それぞれの穴底と所定の穴深さ方向距離を保つように形成された試験片を、浸漬可能な水槽部と、前記水槽部の外に配置されて前記電極部に電界を作用可能な電界発生装置と、を有し、前記水トリー発生試験方法は、前記試験片を前記水槽部に浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程の後に、前記電極部に電界を作用させて、前記電極部と前記穴底との間に水トリーを発生させる電界作用工程と、を有し、前記試験片は、金属製の平板で、一方の面に垂直に且つ先端に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された突部が複数形成された第1型部材を、内部に流入空間が形成された箱状の第2型部材の内部に設置する型部材設置工程と、前記型部材設置工程の後に、所定温度に加熱された前記高分子材料を、前記流入空間内に流入させる高分子材料流入工程と、前記高分子材料流入工程の後に、前記流入空間内にある前記高分子材料を、前記所定温度を保ちながら所定時間放置して硬化させて、第1高分子材料層を形成する第1高分子材料層形成工程と、前記第1高分子材料層形成工程の後に、前記第1高分子材料層から、前記第1型部材および第2型部材を取り外す離型工程と、前記離型工程の後に、前記第1高分子材料層の第1型部材から遠い方の面上に、前記突部の先端と所定の間隙を保つように、前記電極部を形成する電極部形成工程と、前記電極部形成工程の後に、高分子材料からなる第2高分子材料層で、前記第1高分子材料層と共に前記電極部を挟み込む電極被覆工程と、を有する製造方法によって製造されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実際に液中で使用する絶縁ケーブルに発生する水トリーにより近い状態の水トリーを再現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の水トリー発生試験装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の試験片を示す概略正面図である。
【図3】図2のIII−III矢視側面図である。
【図4】図2のIV部の部分拡大正面図である。
【図5】図1の第1樹脂層を製作するための第1〜第3型部材を組み立てた状態を示す概略正面図である。
【図6】図5の調整板を示す概略斜視図である。
【図7】図5の流入空間にXLPEを充填して得た第1樹脂層の電極側表面に電極部を形成した状態を示す概略正面図である。
【図8】本発明に係る第2の実施形態の水トリー発生試験装置の構成の一部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る水トリー発生試験方法の実施形態について説明する。
【0017】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について、図1〜図7を用いて説明する。図1は、本実施形態の水トリー発生試験装置の構成を示すブロック図である。図2は、図1の試験片10を示す概略正面図である。図3は、図2のIII−III矢視側面図である。図4は、図2のIV部の部分拡大正面図である。
【0018】
図5は、図1の第1樹脂層21を製作するための第1〜第3型部材41〜43等を組み立てた状態を示す概略正面図である。図6は、図5の調整板49を示す概略斜視図である。図7は、図5の流入空間45にXLPEを充填して得た第1樹脂層21の電極側表面21cに電極部30を形成した状態を示す概略正面図である。
【0019】
先ず、本実施形態の水トリー発生試験方法で用いる水トリー試験装置の構成について説明する。この水トリー発生試験装置は、架台9aの上に固定された水槽部6と、水温調整部7と、電界発生装置1と、を有する。この装置は、水槽部6内に試験片10を浸漬させて、この試験片10に水トリーを発生させるためのものである。
【0020】
水槽部6は、内部に、例えばNaCl水溶液が注入された略直方体状の容器で、上部が開口している。また、底部に接地部9を有している。
【0021】
水温調整部7は、水槽部6の底部に配置されて、水槽部6内のNaCl水溶液を加温または冷却可能である。
【0022】
電界発生装置1は、水槽部6の外に配置されて、試験片10の内部の電極部30と第1樹脂層21に形成された電極側表面21c(後述)との間に電界を発生させるもので、ファンクションジェネレータ3およびアンプ2を有する。この電界発生装置1と、試験片10との電気的な接続等については、後で説明する。
【0023】
試験片10は、樹脂部20および電極部30を有し、高圧側リード線5aが取り付けられている。樹脂部20は、2つの樹脂層、すなわち、第1樹脂層21および第2樹脂層22からなる。これらの第1および第2樹脂層21、22は、それぞれ熱硬化性高分子材料、この例では架橋ポリエチレン(XLPE)で形成される。
【0024】
第1および第2樹脂層21、22それぞれは、外寸が150mm×100mm程度の長方形の板状で、所定の厚みを有する(図1、図2)。この例では、第1および第2樹脂層21、22は、互いにほぼ同じ形状である。
【0025】
第1樹脂層21の一方の表面(開口側表面21a)には、5個の電極穴21bが形成されている。これらの電極穴21bそれぞれは、第1樹脂層21の開口側表面21aに開口し、この開口している部位から内部に、開口側表面21aに垂直に延びるように形成される。これらの電極穴21bは、図3に示すように、開口側表面21aにかかる50mm×50mm程度の正方形の領域内に、所定の電極穴21bを中心に1個、更にその前後左右の四箇所にそれぞれ1個ずつ、合計5個形成されている。この例では、隣接する電極穴21b同士の距離は、9mm程度としている。
【0026】
これらの電極穴21bそれぞれの内面は、開口側表面21aに近い方は円筒状で、電極穴21b底に近い方は電極穴21b底がほぼ尖った略円錐状である(図4)。この例では、先端は半球状で、その曲率半径が約20μm程度に形成される。
【0027】
電極側表面21cおよび電極穴21b底の電極穴21b深さ方向の(図1および図2における左右方向)距離は、所定の値になるように調整されている。当該調整方法については、後で説明する。
【0028】
電極部30は、第1樹脂層21の一方の表面(電極側表面21c)に例えばAg等を含む導電性塗料が塗布されて形成される。この電極部30は、詳細な図示は省略するがアルミテープ等によって覆われて保護される。
【0029】
高圧側リード線5aは、電極部30およびアルミテープによって挟まれた状態で取り付けられて、電極部30に導通可能である。この高圧側リード線5aは、アンプ2の高電圧部に電気的および機械的に接続されている。また、低圧側リード線5bは、接地部9とアンプ2を電気的に接続している。
【0030】
第2樹脂層22は、電極部30、高圧側リード線5aおよびアルミテープを第1樹脂層21と共に挟み込むように、第1樹脂層21に接着される。
【0031】
ここで、試験片10を製作する手順を説明する。先ず、試験片10を製作する装置の一部について説明する。
【0032】
試験片10を製作するための装置は、3個の型部材、すなわち、第1型部材41、第2型部材42および第3型部材43を有する。
【0033】
第1型部材41は、例えばステンレス鋼等の金属製の略長方形の平板部41aと、この平板部41aの一方の表面に取り付けられた5個の突部41bと、を有する。各突部41bは、ステンレス鋼等の金属製で、当該表面に垂直に延びる。これらの突部41bは、電極穴21bに相当する。すなわち、5個の突部41bの配列は、5個の電極穴21bと同様である。
【0034】
これらの突部41bそれぞれの外周面は、表面に近い側は円筒状で、この円筒状よりも先端側は先端がほぼ尖った略円錐状である。各先端は、曲率半径が約20μm程度の半球状である。第1型部材41は、各突部41bが鉛直になるように第2型部材42の内部に設置される。
【0035】
第2型部材42は、略直方体状の箱型で、上面が開口している。この開口部の縁は、平坦に形成されている。この第2型部材42の内部は、樹脂が流入可能な流入空間45となる。
【0036】
第3型部材43は、ステンレス鋼等の金属製の略長方形の板状で、少なくとも1箇所に貫通穴43aが開いている。この貫通穴43aは、加熱されて溶融したXLPEが、流通可能である。また、この貫通穴43aは、内部のXLPEが内圧上昇によって流れ出ることが可能である。
【0037】
この第3型部材43は、第3型部材43内の流入空間45の一部(大部分)を、上方から塞ぐように、第2型部材42の開口部の縁上に、後述する調整板49を介して、固定される。貫通穴43aにXLPEが流通する状態は、後で説明する。この第3型部材43は、第1型部材41の平板部41aと互いに平行な状態で固定される。
【0038】
第1型部材41の開口部の縁には、複数の調整板49が上下に積層されている。この調整板49は、図6に示すように、長方形状の板の中央に、長方形状の長方形穴49aが形成されている。この長方形穴49aの形状は、第2型部材42の開口部の形状と同じである。
【0039】
第3型部材43は、第2型部材42の開口部の縁上に積層された調整板49の上に固定される。このとき、各調整板49の長方形穴49aそれぞれと、第2型部材42の開口部とが、貫通する状態で固定される。これらの調整板49の枚数の増減によって、第3型部材43にかかる第1型部材41に対向する面(下面)と、各突部41bの先端と、の距離の調整が可能である。
【0040】
この距離を調整することで、上述した電極側表面21cと、電極穴21b底と、の電極穴21b深さ方向距離を、調整することができる。
【0041】
以下に、これらの第1〜第3型部材41〜43等を用いて試験片10を作製する手順を説明する。
【0042】
先ず、第1型部材41を、第2型部材42の内部に収容する。このとき、第1型部材41の各突部41bが鉛直に延びるように、第1および第2型部材41、42を設置する。次に、調整板49を第2型部材42の開口部の縁上に、複数積層させる。これにより、第3型部材43の下面と、各突部41bの先端と、の距離を調整する。
【0043】
その後、第3型部材43を、調整板49の上に取り付ける。このとき、第1型部材41の各突部41bの先端と、第3型部材43の第1型部材41に対向する面との距離が所定距離になる。以上により、第1〜第3型部材41〜43の組み立てが完了する(図5)。
【0044】
次に、第3型部材43の貫通穴43aに、図示しない配管等を取り付けて、流入空間45の内部に、図5に示す破線矢印Aのように、XLPEを流し込む。このとき、XLPEは、所定の温度、例えば150℃程度に加熱されて所定の粘性を有する流体で、架橋されていない状態である。
【0045】
このXLPEは、架橋されていない状態で流入空間45に充填される。流入空間45内に充填されたXLPEは、大気圧よりも大きい圧力で保圧される。この状態で、第1〜第3型部材41〜43は、XLPEが流入された状態で、所定時間、例えば数時間程度保持される。このとき、XLPEは、架橋反応が促進されて、固化される。固化されたXLPEは、上述の第1樹脂層21となる。
【0046】
その後、第1樹脂層21から、第1〜第3型部材41〜43を取り外す、すなわち、離型する。第1〜第3型部材41〜43を離型させた後に、離型された第1樹脂層21の電極側表面21cに、導電性塗料を塗布する。その後に、塗布された導電性塗料に高圧側リード線5aを接触させる。この状態で、導電性塗料が塗布された領域の全てと、導電性塗料に接触している部分の係る高圧側リード線5aと、を覆うように、電極側表面21cに図示しないアルミテープを貼付する。これにより、電極部30が形成される(図7)。
【0047】
その後、第2樹脂層22を、第1樹脂層21の電極側表面21cに貼り付ける。その結果、導電性塗料が塗布された部位および高圧側リード線5aの一部を含む電極部30が、第1および第2樹脂層21、22によって挟まれる状態になる。以上の手順により、図2に示す試験片10の製作が完了する。
【0048】
続いて、上記手順で製作した試験片10を用いて、この試験片10に水トリーを発生させる手順について説明する。
【0049】
先ず、上述した手順により製作された試験片10の高圧側リード線5aを、アンプ2に電気的および機械的に接続する(図1)。
【0050】
次に、NaCl水溶液が入った水槽部6に、試験片10を浸漬させる。この状態で、ファンクションジェネレータ3によって、所定の周波数の電圧を、電極部30に印加する。この電圧は、アンプ2により調整される。これにより、電極部30には、所定の電圧が印加される。
【0051】
また、絶縁ケーブルが実際に配置される水中温度になるように、水温調整部7等で水槽部6内の温度を調整する。このとき、温度計8等でNaCl水溶液の温度を計測する。
【0052】
電極部30に数日間電圧を印加することによって、試験片10の電極穴21bの穴底と、電極部30との間に、水トリーが発生する。
【0053】
本実施形態の試験片10は、XLPEの板材の表面に第1型部材41の突部41bを所定の力で押し込んで電極穴21bを形成したものに比べて、電極穴21bの内面形状が、突部41bの外周形状をより正確に転写される。これは、XLPEが加熱されて溶融したような状態で、突部41bの周辺に流れ込んだ後に、内部の架橋反応が進んで固化することで成形しているためである。
【0054】
また、上述したように、第1型部材41の突部41bを板材に押し込んで電極穴21bを形成した場合、電極穴21bの周辺のXLPEの分子構造と、それ以外の部位の分子構造とでは、異なるものになる。これは、第1型部材41の突部41bを板材に押し込んで電極穴21bを成形するときに、XLPEの分子構造を破壊しながら形成しているからである。
【0055】
これに対して、本実施形態の試験片10は、上述のように形成しているため、電極穴21b周辺およびそれ以外の部位それぞれの分子構造が、互いに同じになるように形成される。このため、水トリーを発生させる部位、すなわち、電極穴21b周辺のXLPEの状態は、例えば水中で用いられる絶縁ケーブルのXLPEとほぼ同じ状態に保たれている。
【0056】
その結果、当該試験で発生させる水トリーは、実際に水中に配置されるXLPEケーブル等に発生する水トリーに、より近似したものになる。
【0057】
以上の説明からわかるように本実施形態によれば、実際に液中で使用する絶縁ケーブルに発生する水トリーに近い状態の水トリーを、再現することが可能になる。このため、より高精度に水トリーの評価を行うことができる。
【0058】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について、図8を用いて説明する。図8は、本実施形態の水トリー発生試験装置の構成の一部を示すブロック図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態(図1〜図7)の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0059】
本実施形態の水トリー発生試験方法に用いる試験装置は、第1樹脂層21の開口側表面21aの一部で且つ5個の電極穴21bの全てを覆うように、側面水槽部51が取り付けられている。この側面水槽部51は、第1樹脂層21に対向する面が開口している。また、上面に液体、この例では、NaCl水溶液を注ぐために注口51aが形成されている。側面水槽部51の開口部の縁と開口側表面21aとの間は、シール材によって液漏れを抑制している。
【0060】
また、この試験装置は、第2樹脂層22側にも、側面水槽部51が取り付けられている。すなわち、当該試験装置は、試験片10が2個の側面水槽部51によって挟み込まれるように構成されている。
【0061】
図1の例で説明したように、試験片10全体を水槽部6内のNaCl水溶液中に浸漬させると、第1および第2樹脂層21、22の間のシール性が保たれない、すなわち所定の接着力が保たれない場合、または、試験期間が長期間に渡る場合に、第1および第2樹脂層21、22の間の界面から液体が入り込む可能性がある。その界面から液体が流入すると、水トリー発生試験を行うことができなくなる。
【0062】
これに対して本実施形態の試験装置では、第1の実施形態と同様の効果を得ると共に、第1および第2樹脂層21、22の間の界面から液体が流入することを抑制できる。
【0063】
[その他の実施形態]
上記実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0064】
上記実施形態では、試験片10に電極穴21bを5個形成しているが、これに限らない。少なくとも1個形成してあればよい。
【0065】
また、試験片10の電極部30は、第1樹脂層21の電極側表面21cに導電性塗料を塗布することによって形成されているが、これに限らない。導電性塗料が塗布された薄板を電極側表面21cに貼付してもよい。
【0066】
また、本実施形態では、高分子材料に熱硬化性樹脂の1つであるXLPEを用いているが、これに限らない。他の熱硬化性の高分子材料を用いてもよい。また、熱可塑性高分子材料を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…電界発生装置、2…アンプ、3…ファンクションジェネレータ、5a…高圧側リード線、5b…低圧側リード線、6…水槽部、7…水温調整部、8…温度計、9…接地部、9a…架台、10…試験片、20…樹脂部、21…第1樹脂層、21a…開口側表面、21b…電極穴、21c…電極側表面、22…第2樹脂層、30…電極部、41…第1型部材、41a…平板部、41b…突部、42…第2型部材、43…第3型部材、43a…貫通穴、45…流入空間、49…調整板、49a…長方形穴、51…側面水槽部、51a…注口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料に電極部が埋設された平板状の試験片が浸漬可能な水槽部と、前記水槽部の外に配置されて前記電極部に電界を作用可能な電界発生装置と、を有する水トリー発生装置を用いて、前記試験片に水トリーを発生させる水トリー発生試験方法において、
前記試験片は、一方の平坦な表面からその表面に垂直に且つ底部に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された穴が複数形成されて、且つ前記電極部が前記各穴それぞれの穴底と所定の穴深さ方向距離を保つように形成されて、
当該水トリー発生試験方法は、
前記試験片を製作する試験片製作工程と、
前記試験片製作工程の後に、前記試験片を前記水槽部に浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程の後に、前記電極部に電界を作用させて、前記電極部と前記穴底との間に水トリーを発生させる電界作用工程と、
を有し、
前記試験片製作工程は、
金属製の平板で、一方の面に垂直に且つ先端に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された突部が複数形成された第1型部材を、内部に流入空間が形成された箱状の第2型部材の内部に設置する型部材設置工程と、
前記型部材設置工程の後に、所定温度に加熱された前記高分子材料を、前記流入空間内に流入させる高分子材料流入工程と、
前記高分子材料流入工程の後に、前記流入空間内にある前記高分子材料を、前記所定温度を保ちながら所定時間放置して硬化させて、第1高分子材料層を形成する第1高分子材料層形成工程と、
前記第1高分子材料層形成工程の後に、前記第1高分子材料層から、前記第1型部材および第2型部材を取り外す離型工程と、
前記離型工程の後に、前記第1高分子材料層の第1型部材から遠い方の面上に、前記突部の先端と所定の間隙を保つように、前記電極部を形成する電極部形成工程と、
前記電極部形成工程の後に、高分子材料からなる第2高分子材料層で、前記第1高分子材料層と共に前記電極部を挟み込む電極被覆工程と、
を有することを特徴とする水トリー発生試験方法。
【請求項2】
前記高分子材料流入工程の前に、少なくとも1箇所に貫通穴が形成された板状の第3型部材を、前記第2型部材に取り付けて、前記流入空間を塞ぐ第3型部材設置工程を有し、
前記高分子材料流入工程は、前記貫通穴から前記高分子材料を流入する工程を含むこと、
を特徴とする請求項1に記載の水トリー発生試験方法。
【請求項3】
前記第3型部材設置工程は、前記突部の先端と、前記電極部との距離を、所定の範囲に調整する調整工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の水トリー発生試験方法。
【請求項4】
前記電極形成工程は、前記第1高分子材料層の表面に、導電性塗料を塗布する工程を含むこと、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の水トリー発生試験方法。
【請求項5】
前記高分子材料は、熱硬化性高分子材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の水トリー発生試験方法。
【請求項6】
前記高分子材料は、架橋ポリエチレンであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の水トリー発生試験方法。
【請求項7】
水トリーを試験的に発生させる水トリー発生試験に用いる試験片を製造する方法において、
前記試験片は、
高分子材料に電極部が埋設された平板状で、一方の平坦な表面からその表面に垂直に且つ底部に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された穴が複数形成されて、且つ前記電極部が前記各穴それぞれの穴底と所定の穴深さ方向距離を保つように形成されて、
前記水トリー発生試験の試験方法は、
試験片が浸漬可能な水槽部と、この水槽部の外に配置されて前記電極部に電界を作用可能な電界発生装置と、を有する水トリー発生装置を用いる試験であって、
前記試験片を前記水槽部に浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程の後に、前記電極部に電界を作用させて、前記電極部と前記穴底との間に水トリーを発生させる電界作用工程と、
を有し、
前記試験片の製造方法は、
金属製の平板で、一方の面に垂直に且つ先端に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された突部が複数形成された第1型部材を、内部に流入空間が形成された箱状の第2型部材の内部に設置する型部材設置工程と、
前記型部材設置工程の後に、所定温度に加熱された前記高分子材料を、前記流入空間内に流入させる高分子材料流入工程と、
前記高分子材料流入工程の後に、前記流入空間内にある前記高分子材料を、前記所定温度を保ちながら所定時間放置して硬化させて、第1高分子材料層を形成する第1高分子材料層形成工程と、
前記第1高分子材料層形成工程の後に、前記第1高分子材料層から、前記第1型部材および第2型部材を取り外す離型工程と、
前記離型工程の後に、前記第1高分子材料層の第1型部材から遠い方の面上に、前記突部の先端と所定の間隙を保つように、前記電極部を形成する電極部形成工程と、
前記電極部形成工程の後に、高分子材料からなる第2高分子材料層で、前記第1高分子材料層と共に前記電極部を挟み込む電極被覆工程と、
を有することを特徴とする試験片製造方法。
【請求項8】
水トリー発生試験装置を用いて水トリーを試験的に発生させる水トリー発生試験方法に用いる水トリー発生試験用試験片において、
前記水トリー発生試験装置は、
高分子材料に電極部が埋設された平板状で、一方の平坦な表面からその表面に垂直に且つ底部に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された穴が複数形成されて、且つ前記電極部が前記各穴それぞれの穴底と所定の穴深さ方向距離を保つように形成された試験片を、浸漬可能な水槽部と、
前記水槽部の外に配置されて前記電極部に電界を作用可能な電界発生装置と、
を有し、
前記水トリー発生試験方法は、
前記試験片を前記水槽部に浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程の後に、前記電極部に電界を作用させて、前記電極部と前記穴底との間に水トリーを発生させる電界作用工程と、
を有し、
前記試験片は、
金属製の平板で、一方の面に垂直に且つ先端に向かうにしたがって横断面が小さくなるように形成された突部が複数形成された第1型部材を、内部に流入空間が形成された箱状の第2型部材の内部に設置する型部材設置工程と、
前記型部材設置工程の後に、所定温度に加熱された前記高分子材料を、前記流入空間内に流入させる高分子材料流入工程と、
前記高分子材料流入工程の後に、前記流入空間内にある前記高分子材料を、前記所定温度を保ちながら所定時間放置して硬化させて、第1高分子材料層を形成する第1高分子材料層形成工程と、
前記第1高分子材料層形成工程の後に、前記第1高分子材料層から、前記第1型部材および第2型部材を取り外す離型工程と、
前記離型工程の後に、前記第1高分子材料層の第1型部材から遠い方の面上に、前記突部の先端と所定の間隙を保つように、前記電極部を形成する電極部形成工程と、
前記電極部形成工程の後に、高分子材料からなる第2高分子材料層で、前記第1高分子材料層と共に前記電極部を挟み込む電極被覆工程と、
を有する製造方法によって製造されていること、を特徴とする水トリー発生試験用試験片。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−103158(P2012−103158A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252836(P2010−252836)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】