説明

水不溶性の積層可食フィルム及びその製造方法

【課題】水不溶性であり、かつ強度を向上させた積層可食性フィルムを提供する。
【解決手段】二枚の可食性フィルムが積層されて成る水に対して不溶性の可食フィルムが、酸性領域で可溶な多糖類から成る酸性フィルムとアルカリ領域で可溶な多糖類から成るアルカリ性フィルムとが積層されて成る積層フィルムであって、酸性フィルムとアルカリ性フィルムとの層間で、フィルムに配合されている酸性成分とアルカリ成分とが反応して中和されて、積層フィルムが水に対して不溶性である積層可食性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水不溶性の積層可食フィルム及びその製造方法に関し、更に詳細には二枚の可食性フィルムが積層されて成る水に対して不溶性の積層可食フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二枚の可食性フィルムが積層されて成る積層可食フィルムについては、例えば下記特許文献1に提案されている。
かかる特許文献1には、カチオン性ポリマーを含む水溶性層と、アニオン性ポリマーを含む水溶性層とを含む多層独立型フィルム組成物であって、多層独立型フィルム組成物が個々の水溶性層のいずれよりも水に対する遅い速度で溶解又は分散するものが提案されている。
【特許文献1】特表2007−526294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前掲の特許文献1に記載された可食フィルムは、口腔内の唾液等でゆっくり溶解又は分解するため、可食フィルムで形成したカプセル内に口腔内の治療薬等を充填しておくことによって、治療薬等をその活性が発揮するまで口腔内に留めておくことができる。
しかし、かかる従来の可食フィルムは、水に溶解又は分散するため、水分の多い食品と接触する用途、例えば醤油等の調味液を蓄える調味液容器や弁当内に詰められる食品を仕切る仕切り(バラン)等の耐水性を要求されるフィルム製品用には、不適当である。
一方、調味液容器やバランは、弁当等を食した後に、ごみとして排出される。しかも、かかる調味液容器やバランの殆どはプラスチック製であり、地中に埋めても分解しないため、環境汚染の原因ともなる。
このため、調味液容器やバラン等の食品と共に使用されるフィルム製品として、耐水性を有し、且つ可食できるフィルム製品が望まれている。
そこで、本発明は、耐水性の乏しい従来の積層可食性フィルムの課題を解決し、耐水性と可食性とを呈する水不溶性の積層可食フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0005】
本発明は、二枚の可食性フィルムが積層されて成る水に対して不溶性の可食フィルムが、酸性領域で可溶な多糖類から成る酸性フィルムとアルカリ領域で可溶な多糖類から成るアルカリ性フィルムとが積層されて成る積層フィルムであって、前記酸性フィルムとアルカリ性フィルムとの層間で、前記フィルムに配合されている酸性成分とアルカリ成分とが反応して中和されて、前記積層フィルムが水に対して不溶性であることを特徴とする水不溶性の積層可食フィルムにある。
更に、本発明は、二枚の可食性フィルムが積層されて成る水に対して不溶性の可食フィルムを製造する際に、酸性領域で可溶な多糖類が溶解されている酸性成膜溶液と、アルカリ領域で可溶な多糖類が溶解されているアルカリ成膜溶液とを用い、前記成膜溶液の一方を流延して形成した可食フィルムに、他方の成膜溶液を流延して可食フィルムを直接積層して積層フィルムとし、その際に、前記積層フィルムを水に対して不溶性とするように、両フィルムの層間で酸性成膜溶液に含有する酸性成分とアルカリ性成膜溶液に含有するアルカリ成分とを反応させて中和することを特徴とする水不溶性の積層可食フィルムの製造方法でもある。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る水不溶性の積層可食フィルムは、酸性可食フィルムとアルカリ性可食フィルムとの層間で、酸性成分とアルカリ成分とを反応させて中和することによって、両フィルムを積層して得た積層可食フィルムを水に対して不溶性にでき、且つ積層フィルムの強度を向上できる。
その結果、得られた積層可食フィルムによって形成した調味液容器やバランは、食品と一緒に食することができる。また、かかる調味液容器やバランがごみとして排出されても土中で分解されるため、環境汚染の原因物質となり難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る積層可食フィルムは、カチオン性材料から成るカチオン性フィルムとアニオン性材料から成るアニオン性フィルムとが積層されているものである。
かかるカチオン性フィルムは、水溶性の可食フィルムである。このカチオン性フィルムを形成するカチオン性材料としては、例えば、キトサン、ゼラチン、カチオン化グアーガム、カチオン化セルロース誘導体、カチオン化デンプン誘導体及び金属塩を挙げることができる。
また、かかるカチオン性フィルムと併用されるアニオン性フィルムは、水溶性の可食フィルムである。このアニオン性フィルムを形成するアニオン性材料としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム、セルロース誘導体、デンプン誘導体を挙げることができる。
この様な、水溶性カチオン性フィルムと水溶性アニオン性フィルムとを積層した積層フィルムは、水に対して不溶性とすることができる。水溶性カチオン性フィルムと水溶性アニオン性フィルムとの層間でカチオン性材料とアニオン性材料とが反応したことによる。
得られた積層フィルムは、水に対して不溶性であると共に、沸騰水中でも、その形状を保持できる耐熱性を有することができる。
【0008】
かかる積層可食フィルムを製造する際には、カチオン性材料を含有する成膜溶液と、アニオン性材料を含有する成膜溶液とを用いる。
この成膜溶液は、カチオン性材料又はアニオン性材料を水に溶解して得ることができる。溶解の際に、水を所定温度(90℃以下)に加温してカチオン性材料又はアニオン性材料を溶解してもよい。
得られた両成膜溶液の一方を、支持板上に流延して得た膜を所定温度に加熱して乾燥を施して水溶性可食フィルムとした後、得られた水溶性可食フィルム上に、他方の成膜溶液を流延して水溶性可食フィルムを成膜することによって、両水溶性可食フィルムを直接積層した積層フィルムを得ることができる。
かかる積層フィルムを得る際に、両水溶性可食フィルムの層間でカチオン性材料とアニオン性材料とが反応し、積層フィルムを水不溶性とすることができる。得られた水不溶性の積層フィルムには、必要に応じて乾燥を施すことができる。
【0009】
この様な、両水溶性可食フィルムの層間でのカチオン性材料とアニオン性材料との反応は、支持板を所望温度に加熱することによって迅速に進行でき、支持板の加熱温度としては特に制限はないが、90℃程度までとすることが好ましい。
更に、かかる積層フィルムの成膜の際に、成膜溶液の一方を流延して形成した水溶性可食フィルムに電荷を印加しつつ、他方の成膜溶液を流延して水溶性可食フィルムを形成することによって、カチオン性材料とアニオン性材料との反応効率を更に向上でき、得られた積層フィルムの強度の向上を図ることができる。
この成膜溶液の一方を流延して形成した水溶性可食フィルムへの電荷の印加は、支持体として金属製の支持板を用い、支持板に直流電流を印加することによって行うことができ
る。支持板に印加する直流電流は、5〜200mAとすることができ、特に50〜100mAとすることが好ましい。
【0010】
これまでは、カチオン性材料から成るカチオン性フィルムとアニオン性材料から成るアニオン性フィルムとが積層された水不溶性可食フィルムについて説明してきたが、酸性領域で可溶な多糖類から成る酸性フィルムとアルカリ領域で可溶な多糖類から成るアルカリ性フィルムとが積層された水不溶性可食フィルムであってもよい。
かかる酸性領域で可溶な多糖類から成る酸性フィルムは、水溶性の可食フィルムである。この酸性フィルムを形成する酸性領域で可溶な多糖類としては、例えば、キトサン及びその誘導体を挙げることができる。これらの多糖類は、酸性領域で可溶であるため、酸成分として酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、塩酸が添加されている。
また、かかる酸性フィルムと併用される、アルカリ領域で可溶な多糖類から成るアルカリ性フィルムは、水溶性の可食フィルムである。このアルカリ性フィルムを形成するアルカリ領域で可溶な多糖類としては、例えば、カードランを挙げることができる。これらの多糖類は、アルカリ性領域で可溶であるため、アルカリ成分としてNaOH、KOHが添加されている。
この様な、水溶性酸性フィルムと水溶性アルカリ性フィルムとを積層した積層フィルムは、水に対して不溶性とすることができる。水溶性酸性フィルムと水溶性アルカリ性フィルムとの層間で酸成分とアルカリ成分とが反応して中和され、多糖類成分が析出したことによる。
得られた積層フィルムは、水に対して不溶性であると共に、沸騰水中でも、その形状を保持できる耐熱性を有することができる。
【0011】
かかる積層可食フィルムを製造する際には、酸性領域で可溶な多糖類が溶解されている酸性成膜溶液と、アルカリ領域で可用な多糖類が溶解されているアルカリ性成膜溶液とを用いる。
この酸性成膜溶液は、酸性領域で可溶な多糖類を酸成分が添加された酸性水溶液に溶解して得ることができる。かかる酸性水溶液のpHは3.0〜4.0程度となるように酸成分を添加して調整する。多糖類を酸性水溶液に溶解する際に、酸性水溶液を所定温度(90℃以下)に加温してもよい。
更に、アルカリ成膜溶液は、アルカリ領域で可溶な多糖類をアルカリ成分が添加されたアルカリ性水溶液に溶解して得ることができる。かかるアルカリ性水溶液のpHは11〜
12程度となるようにアルカリ成分を添加して調整する。多糖類をアルカリ性水溶液に溶解する際に、アルカリ性水溶液を所定温度(60℃以下)に加温してもよい。
【0012】
得られた両成膜溶液の一方を、支持板上に流延して水溶性可食フィルムを成膜した後、得られた水溶性可食フィルム上に、他方の成膜溶液を流延して水溶性可食フィルムを成膜することによって、両水溶性可食フィルムを直接積層した積層フィルムを得ることができる。
かかる積層フィルムを得る際に、両水溶性可食フィルムの層間で、酸性成膜溶液中の酸成分とアルカリ成膜溶液中のアルカリ成分とが反応して中和され、両水溶性可食フィルム
中の多糖類が析出し、積層フィルムを水不溶性とすることができる。得られた水不溶性の積層フィルムには、必要に応じて乾燥を施すことができる。
この様な、両水溶性可食フィルムの層間での酸成分とアルカリ成分との中和反応は、支持板を所望温度に加熱することによって更に迅速に進行でき、支持板の加熱温度としては90℃以下とすることが好ましい。
【0013】
この様にして得られた水不溶性可食フィルムは、水に対して不溶性であるため、例えば醤油やマヨネーズ等の調味料を蓄える容器や食品を仕切るバランに用いることができる。かかる容器や食品は、食品と一緒に食することができる。更に、かかる容器やバランが残飯と一緒に排出されても、豚等の飼料に用いることができる。
また、例えかかる容器やバランが残飯と一緒にごみとして排出されても、土中で分解されるため、環境汚染の原因物質となり難い。
【実施例1】
【0014】
(1)成膜溶液の調整
(i) カチオン性材料の成膜溶液
カチオン性材料としてのキトサン[株式社キミカ製のキミツキトサン(商品名)]5gとグリセリン(坂本薬品工業株式会社製)3gとを水100gに分散し、更に酢酸2.5gを添加してキトサンを溶解させた。この溶液を80℃に保持しつつ脱泡を施して、カチオン性材料の成膜溶液(第1成膜溶液)を得た。
(ii) アニオン性材料の成膜溶液
アニオン性材料としてのアルギン酸ナトリウム[株式会社キミカ製、キミカアルギン(商品名)]5gとグリセリン3gとを水100gに分散した後、80℃に保持しつつ脱泡を施して、アニオン性材料の成膜溶液(第2成膜溶液)を得た。
(2)成膜
(i) 支持体上に、第1成膜溶液を流延して得た膜を80℃に加熱して乾燥を施して、水溶性カチオン性フィルムを得た後、水溶性カチオン性フィルム上に直接第2成膜溶液を流延して水溶性アニオン性フィルムを積層して、積層フィルムを得た。更に、得られた積層フィルムを80℃に加熱して乾燥を施した。得られた積層フィルムの厚さを35μmとした。
(ii) 80℃に加熱した金属製の支持体に、第1成膜溶液を流延して水溶性カチオン性フィルムを得た後、支持体に5〜200mAの直流電流を印加しながら水溶性カチオン性フィルム上に直接第2成膜溶液を流延して水溶性アニオン性フィルムを積層して、積層フィルムを得た。更に、得られた積層フィルムを80℃に加熱して乾燥を施した。得られた積層フィルムの厚さを35μmとした。
(3)耐水性
得られた積層フィルムについて、沸騰水中に5分間浸漬して耐水性を試験した。その結果、得られた積層フィルムは全く溶解することはなかった。
また、沸騰水に浸漬前に50mm×50mmの積層フィルムを沸騰水中に5分間浸漬した後でも、52mm×52mmであり、耐水性は充分であった。
(4)フィルム強度
得られた積層フィルムを水に1時間浸漬処理した後に、積層フィルムの強度をJIS K7127に準拠して評価を行った。このフィルム強度の測定では、積層フィルムを15mm幅にカットし、引張速度を10mm/分で測定を行った。得られた結果を図1に示す。
図1に示す様に、金属製の支持体に直流電流を印加して成膜して得られた積層フィルムの強度は、直流電流を印加することなく成膜して得られた積層フィルムよりも高強度である。特に、50〜100mAの直流電流を印加して得られた積層フィルムの強度は、直流電流を印加することなく得られた積層フィルムの強度の2〜2.5倍とすることができる。
ところで、印加する直流電流値が200mAとしたとき、得られた積層フィルムの強度が、直流電流を印加することなく得た積層フィルムの強度よりは高いが、直流電流値を100mAとして得られた積層フィルムの強度よりも低下している。
この現象は、水の電気分解によるガスがフィルム間に溜まって、積層フィルムの強度低下が惹起されたものと考えられる。
【実施例2】
【0015】
実施例1で得られた積層フィルムについて、インピーダンスを測定した。インピーダンスの測定は、ケミカルインピーダンスメータ(日置電気株式会社製3532-80)を用いて交流4端子法を採用した。また、測定電極には、白金板及び白金線を使用し、測定環境は温度20℃で湿度75%とした。
得られた結果を図2に示す。印加する直流電流値が増加するに従って積層フィルムのインピーダンスが低下している。このことは、カチオン性材料のキトサンとアニオン性材料のアルギン酸ナトリウムとの反応性が、直流電流を印加することによって高まっていることを示す。
このことは、キトサンとアルギン酸ナトリウムとがイオンコンプレックスを形成したとき、カウンターイオンは高分子側鎖のイオン基の影響を受け難くなり、イオン電導度は増加する(抵抗値は減少する)と考えられるからである。
【実施例3】
【0016】
(1)成膜溶液の調整
(i) カチオン性材料の成膜溶液
カチオン性材料としての塩化カルシウム(CaCl2)1g、寒天[伊那食品工業株式会社製、UP-37(商品名)]6g及びグリセリン2gを水100gに分散した。この溶液を80℃に保持しつつ脱泡を施して、カチオン性材料の成膜溶液(第1成膜溶液)を得た。
(ii) アニオン性材料の成膜溶液
アニオン性材料としてのアルギン酸ナトリウム[株式会社キミカ製、キミカアルギン(商品名)]5gとグリセリン3gとを水100gに分散した後、80℃に保持しつつ脱泡を施して、アニオン性材料の成膜溶液(第2成膜溶液)を得た。
(2)成膜
(i) 支持体上に第1成膜溶液を流延して得た膜を80℃に加熱して乾燥を施して、水溶性カチオン性フィルムを得た後、水溶性カチオン性フィルム上に直接第2成膜溶液を流延して水溶性アニオン性フィルムを積層して、積層フィルムを得た。更に、得られた積層フィルムを80℃に加熱して乾燥を施した。得られた積層フィルムの厚さを35μmとした。
(ii) 80℃に加熱すると共に、5〜200mAの直流電流を印加している金属製の支持体に、第1成膜溶液を流延して水溶性カチオン性フィルムを得た後、水溶性カチオン性フィルム上に直接第2成膜溶液を流延して水溶性アニオン性フィルムを積層して、積層フィルムを得た。更に、得られた積層フィルムを80℃に加熱して乾燥を施した。得られた積層フィルムの厚さを35μmとした。
(3)耐水性
得られた積層フィルムについて、沸騰水中に5分間浸漬して耐水性を試験した。その結果、得られた積層フィルムは全く溶解することはなかった。
また、沸騰水に浸漬前に50mm×50mmの積層フィルムを沸騰水中に5分間浸漬した後でも、51mm×51mmであり、耐水性は充分であった。
(4)フィルム強度
得られた積層フィルムを水に1時間浸漬処理した後に、積層フィルムの強度をJIS K7127に準拠して評価を行った。このフィルム強度の測定では、積層フィルムを15mm幅にカットし、引張速度を10mm/分で測定を行った。得られた結果を図3に示す。
図3に示す様に、金属製の支持体に直流電流を印加して成膜して得られた積層フィルムの強度は、直流電流を印加することなく成膜して得られた積層フィルムよりも高強度である。特に、50〜100mAの直流電流を印加して得られた積層フィルムの強度は、直流電流を印加することなく得られた積層フィルムの強度の1.4〜1.5倍とすることができる。
また、得られた乾燥状態の積層フィルムについても同様に強度を求めた結果を図4に示す。図4に示す様に、金属製の支持体に直流電流を印加して成膜して得られた積層フィルムの強度は、直流電流を印加することなく成膜して得られた積層フィルムよりも高強度である。
【実施例4】
【0017】
(1)成膜溶液の調整
(i) 酸性成膜溶液
キトサン[株式社キミカ製のキミツキトサン(商品名)]5g及びグリセリン3gを水100gに溶解した後、酢酸2.5gを添加してキトサンを溶解して、pH3.5の酸性成膜溶液を得た。この溶液を80℃に保持しつつ脱泡を施して、酸性成膜溶液(第1成膜溶液)を得た。
(ii) アルカリ成膜溶液
カードラン[キリンフードテック株式会社、カードラン(商品名)]5g及びグリセリン3gを水100gに分散した後、NaOHを添加してカードランを溶解して、pH12のアルカリ成膜溶液を得た。この溶液を室温にて保持しつつ脱泡を施して、アルカリ成膜溶液(第2成膜溶液)を得た。
(2)成膜
支持体上に第1成膜溶液を流延して得た膜を60℃に加熱して乾燥を施して水溶性酸性フィルムを得た後、水溶性酸性フィルム上に直接第2成膜溶液を流延して水溶性アルカリ性フィルムを積層して、積層フィルムを得た。更に、得られた積層フィルムを60℃に加熱して乾燥を施した。得られた積層フィルムの厚さを35μmとした。
(3)耐水性
得られた積層フィルムについて、沸騰水中に5分間浸漬して耐水性を試験した。その結果、得られた積層フィルムは全く溶解することはなかった。
また、沸騰水に浸漬前に50mm×50mmの積層フィルムを沸騰水中に5分間浸漬した後でも、50mm×50mmであり、耐水性は充分であった。
【実施例5】
【0018】
(1)実施例1、実施例3及び実施例4で得られた積層フィルムの各々を、50mm×100mmにカットした後、カットフィルムを二つ折りにしてからヒートシールして袋状容器に成型した。
得られた袋状容器内に、醤油又はマヨネーズ10mlを充填した後、入口をシールした。この状態で37℃で1ヵ月保存したところ、充填した醤油又はマヨネーズに何等の変化も認められず、袋状容器にも何等の異常が認められなかった。
(2)また、市販の弁当に使用されているバランの代わりに、実施例1、実施例3及び実施例4で得られた積層フィルムの各々を、50mm角に切断してものを用いた。
この積層フィルムをバランに用いた弁当をレンジで加温したところ、いずれの積層フィルムも溶解することがなく、食品のセパレータとして充分に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る積層可食フィルムの一例についてのフィルム強度を示すグラフである。
【図2】図1に示す積層可食フィルムのインピーダンスの測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係る積層可食フィルムの他の例についてのフィルム強度を示すグラフである。
【図4】本発明に係る積層可食フィルムの他の例についてのフィルム強度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚の可食性フィルムが積層されて成る水に対して不溶性の可食フィルムが、酸性領域で可溶な多糖類から成る酸性フィルムとアルカリ領域で可溶な多糖類から成るアルカリ性フィルムとが積層されて成る積層フィルムであって、
前記酸性フィルムとアルカリ性フィルムとの層間で、前記フィルムに配合されている酸性成分とアルカリ成分とが反応して中和されて、前記積層フィルムが水に対して不溶性であることを特徴とする水不溶性の積層可食フィルム。
【請求項2】
二枚の可食性フィルムが積層されて成る水に対して不溶性の可食フィルムを製造する際に、
酸性領域で可溶な多糖類が溶解されている酸性成膜溶液と、アルカリ領域で可溶な多糖類が溶解されているアルカリ成膜溶液とを用い、
前記成膜溶液の一方を流延して形成した可食フィルムに、他方の成膜溶液を流延して可食フィルムを直接積層して積層フィルムとし、
その際に、前記積層フィルムを水に対して不溶性とするように、両フィルムの層間で酸性成膜溶液に含有する酸性成分とアルカリ性成膜溶液に含有するアルカリ成分とを反応させて中和することを特徴とする水不溶性の積層可食フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−99342(P2013−99342A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−2433(P2013−2433)
【出願日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【分割の表示】特願2008−316631(P2008−316631)の分割
【原出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】