説明

水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体

【課題】高い親水性を有するとともに過酷な水環境下でも優れた耐水性を有するポリビニルアルコール繊維集合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコールと、酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする繊維集合体であって、酸無水物基を有するポリマーが1分子あたり、ポリビニルアルコールの複数のポリマー分子と結合し、平均繊維径が10μm以下で、沸騰水中に30分浸漬後の重量減複数の少率が4%以下である水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールは、環境への負荷が少なく生体にもやさしい水溶性の合成ポリマーであり、その特徴を生かして様々な分野で原材料や添加剤などとして工業的に使用されている。そして、親水機能は保持したまま耐水性が求められる場合には、種々の耐水化方法が考案され、例えば、繊維形状のポリビニルアルコールにおいては次のような方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、2個のアルデヒド基によるアセタール化方法が記載されている。この方法によると十分な耐水性を付与することが出来るが、架橋剤として使用するアルデヒド類は反応性が高いことから、それらの取扱いには注意と熟練が必要であり、また未反応のアルデヒド類が環境中に放出された場合の環境への悪影響が懸念されてきている。
【0004】
また特許文献2には、α−ヒドロキシ酸を添加して紡糸後、熱処理する方法が記載されている。熱処理温度は添加剤が溶解する温度以上と記載され、具体的には180℃の高温で熱処理されている。しかしこのような高温処理をおこなうとエネルギーコストがかさみ、製造コストが高くなる一因となる。
【0005】
また非特許文献1では、熱処理法、あるいはアルデヒド類、メチロール化合物、活性化ビニル化合物、エステル、ジイソシアネート、無機系架橋剤などによる架橋反応法、さらには放射線や紫外線による不溶化など、一般的な不溶化方法が記載されている。しかし、エステルによる架橋反応法において、非特許文献2では、エステル型橋かけ結合を形成した不溶性ポリビニルアルコール繊維を得るために熱処理をするだけでは充分な耐熱水性を付与することはできないと記載されている。このため実際にはポリビニルアルコールとビニルメチルエーテル−マレイン酸共重合体の混合液を湿式紡糸して熱処理を施し、さらに架橋剤溶液に浸漬した後に加熱処理をおこなってホルマール化をおこない、それによって耐熱水性が付与されると記述されている。
【特許文献1】特公昭29−6145号公報
【特許文献2】特開2004−316022号公報
【非特許文献1】長野浩一等著、「ポバール」、(株)高分子刊行会出版、1989年、p.256−261
【非特許文献2】川上博等著、「ポリビニルアルコールと他の水溶性高分子との混合紡糸に関する研究」、繊維学会誌、17巻、1961年、p.325
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2の方法は、非常に過酷な条件においても耐熱水性を有する不溶性ポリビニルアルコール繊維は得られるものの、エステルによる架橋反応、さらにはホルマール化反応を必要とするため製造工程が複雑で多段階となり、また環境に配慮した安全対策も必要となるなど、得られる不溶性ポリビニルアルコール繊維は非常に高価な繊維となる。
【0007】
また付与された耐熱水性については、糸の収縮率で表されているのみであり、ホルマール化反応後はもちろん、エステルによる架橋反応後のポリビニルアルコール繊維に対して、熱水浸漬後の具体的な重量減少率は記載されていない。すなわち、非特許文献2では、耐熱水性を示す具体的なデータは示されていない。
【0008】
本発明は、水中での過酷な条件に曝されても繊維集合体の重量減少が抑えられた水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体と、それを製造するための安価で簡便な方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、ポリビニルアルコールに特定のポリマーを所定量で混ぜて得られた溶液を紡糸原液とすることで、上記の問題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明の第一は、ポリビニルアルコールと酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする繊維集合体であって、酸無水物基を有するポリマーに含まれる反応性官能基のモル比が、ポリビニルアルコールの活性水素に対して0.02以上であり、該反応性官能基がポリビニルアルコールの活性水素と架橋反応することにより、酸無水物基を有するポリマーとポリビニルアルコールとが結合していることを特徴とする水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体を要旨とするものであり、好ましくは、沸騰水に30分間浸漬した後の重量減少率が、4%以下であるものであり、さらに好ましくは、繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径が、10μm以下であるものである。
【0011】
本発明の第二は、ポリビニルアルコールと酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする水溶液を調製し、次いでこの水溶液を紡糸原液として紡糸して繊維集合体を形成した後、熱処理を施すことを特徴とする水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体は水中で過酷な条件に曝されても、優れた水不溶性を有するため、初期の繊維集合体の形態を損なうことなく、長期に亘って必要な機能を保持することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明で用いられるポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位を10モル%以上、好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上含有する重合体であり、通常ビニルエステルやビニルエーテルの単独重合体や共重合体を加水分解(ケン化、加アルコール分解など)することによって得られる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表例として挙げられ、その他にギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられる。ビニルエーテルとしてはt−ブチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0015】
ポリビニルアルコールはケン化度が低いとPVAの結晶性が低下して水に溶解しやすくなることから、ケン化度は70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。
【0016】
本発明で用いられるポリビニルアルコールは、次の単量体単位を含んでいてもよい。これら単量体単位としては、エチレンを除くプロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などの不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18までのモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルフォン酸あるいはその酸塩あるいはその4級塩などのアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルフォン酸あるいはその塩などのメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミドなどのN−ビニルアミド類などが挙げられる。
【0017】
また、本発明で用いられるポリビニルアルコールの平均重合度(以下、重合度と略記する)としては、特に限定するものではないが、重合度が低すぎると得られる繊維の強度が低下し、また高すぎると溶媒に対する溶解性が低下して繊維集合体の生産性が低くなるため、200〜30000であるのが好ましく、300〜20000がより好ましく、500〜15000以下がさらに好ましい。なお本発明でいう「平均重合度」の測定は、JIS K6726に準じて測定された値である。
【0018】
本発明において、酸無水物基を有するポリマーは、酸無水物基が1分子中に少なくとも2個以上含まれるような重合体及び共重合体であり、例えば無水マレイン酸−エチレン共重合体、無水マレイン酸−スチレン共重合体、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体等の無水マレイン酸系ポリマー、ポリ無水アクリル酸、無水アクリル酸−スチレン共重合体等の無水アクリル酸系ポリマー、ポリ無水メタクリル酸、無水メタクリル酸−スチレン共重合体等の無水メタクリル酸系ポリマー等が挙げられる。
【0019】
酸無水物基を有するポリマーの分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、500以上で500万以下、好ましくは1000以上で200万以下、さらに好ましくは1000以上で100万以下である。分子量が500以下の場合は、充分な水不溶性を有する繊維集合体を得るためには、酸無水物基を有するポリマーを多く混合しなければならず、そのことによって繊維の形成性に悪影響を及ぼすだけでなく、形成された繊維の柔軟性が損なわれるなど繊維の物性に悪影響を及ぼすことがある。また、分子量が500万を超えると、前述のポリビニルアルコールとの均一な混合に長時間を要し、さらにポリビニルアルコールとの反応の均質化が難しくなって反応効率が低下するなどの問題が生じて、繊維形成性に悪影響を及ぼすことがある。
【0020】
また酸無水物基を有するポリマーが反応性官能基として有する1分子中の酸無水物基の数は、2個以上であれば本発明の目的を達することができるが、1分子中の酸無水物基の数が少ないとポリビニルアルコールの活性水素との反応に長時間を要し、また反応条件が穏やかであると十分に反応が進まず、所望する耐水性が得られないことがある。このため1分子中の酸無水物基を有するモノマーユニットの数は、ポリマー形成を維持できる範囲で多いほど好ましく、例えば5以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。
【0021】
本発明の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体は、上記したポリビニルアルコールと、酸無水物基を有するポリマーとを主成分として含むものであり、両者の含有割合は、酸無水物基を有するポリマーに含まれる反応性官能基が、ポリビニルアルコールの活性水素に対して0.02モル比以上となるように酸無水物基を有するポリマーを含有させることが必要であり、好ましくは0.03モル比以上である。なお本発明でいう反応性官能基とは、ポリビニルアルコールの活性水素と反応する酸無水物基を意味する。
【0022】
酸無水物基を有するポリマーの量が前記した量より少ない場合には、後述する水不溶性が劣ることとなり、場合によっては沸騰水に浸漬することによって繊維集合体の形態が損なわれることとなる。一方、酸無水物基を有するポリマーの量が多いほどポリビニルアルコール繊維集合体の水不溶性は高まり、沸騰水に30分間浸漬した後の重量減少率は限りなく0%に近づくが、実際上0%になることはない。むしろ酸無水物基を有するポリマーの混合量が多くなりすぎると、水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体の製造に支障を来たしたり、かえって水不溶性が低下することもあり、酸無水物基を有するポリマーの含有量はおのずと制限される。このため、該ポリマーの分子量にも影響を受けるが、ポリビニルアルコールの量と同量が上限である。
【0023】
本発明の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体は、前記の2成分以外には、両成分の架橋反応を妨げないか、あるいは遅延させない化合物、さらには不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体の製造に障害とならない化合物であれば含んでいてもよい。そのようなものとして例えば、架橋反応を促進する化合物や繊維形成性の補助剤などがある。
【0024】
不溶化反応を促進する化合物としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、クエン酸、乳酸などの酸が挙げられる。また繊維形成性の補助剤としては界面活性剤やキレート剤などが挙げられる。
【0025】
本発明の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体は、ポリビニルアルコールの活性水素が、酸無水物基を有するポリマーの反応性官能基と架橋反応することによって強固な架橋点を形成し、これら強固な架橋点が、好ましくは、酸無水物基を有するポリマーの1分子あたり、ポリビニルアルコールの複数のポリマー分子との間で形成されているものである。
【0026】
このような両ポリマー間での多数の強固な架橋点形成によって、ポリビニルアルコール繊維集合体は、沸騰水に対しても高い耐水性を有することとなる。
【0027】
なお、ポリビニルアルコールの活性水素とは、水酸基、一級アミノ基、二級アミノ基、チオール基などの反応性に富む官能基の活性水素を意味する。
【0028】
本発明の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径は、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。平均繊維径の下限は特に限定しないが、小さくなると繊維の強度も弱くなる傾向にあり、取扱い性を考慮して1nm程度が下限である。平均繊維径が10μmを超えると、ポリビニルアルコール繊維集合体の柔軟性が低下して、加工成形性や取扱い性の面で問題となる。
【0029】
本発明における繊維径は、不織布の電子顕微鏡写真から測定して得られる繊維の短軸断面における直径を意味し、短軸断面形状が非円形である場合は短軸断面と同じ面積を持つ円の直径を繊維径とする。そして幾つかの繊維径を平均化したものを平均繊維径とする。
【0030】
本発明の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体は、高い水不溶性を有するものである。本発明における「水不溶性」とは、水に対する溶解され難さを示す性質であって、具体的には、沸騰水に浸漬する前後での重量減少率(%)で表している。重量減少率(%)は、予め試料を24時間真空乾燥を行い、絶対乾燥重量を測定し、次いで試料を大気圧下で沸騰水中に30分間浸漬した後取り出し、水で水洗後、充分に水分を除いて真空化で24時間乾燥を行い、以下の式により算出する。
【0031】
重量減少率(%)=(浸漬前の絶対乾燥重量−浸漬後の乾燥重量)×100/(浸漬前の絶対乾燥重量)
測定に使用する試料は、シート状、チューブ状などいかなる形状でもよく、また平均繊
維径は10μm以下で有れば特に限定されないが、一般的に繊維は、繊維径が小さくなる
ほど、単位繊維重量当りの比表面積は増えて、周囲の水との接触面積が増加し、より水に
溶解しやすい環境に曝されることになる。本発明のポリビニルアルコール繊維集合体は
様々な用途での利用が期待されることを考慮すると、繊維に対して比較的厳しい条件で重
量減少を測定し評価するのが好ましく、通常は平均繊維径は50〜400nmで構成され
た繊維構造体を測定に使用する。
【0032】
本発明の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体は、上記した重量減少率が4%以下であるものが好ましく、さらに2%以下が好ましく、1%以下が最も好ましい。大気圧下で沸騰水に30分間暴露される過酷な条件でも重量減少率が4%以下であるということは、通常の室温環境下では溶解性は限りなく0%に近いということを意味するもので、このような性状を有する繊維および繊維集合体は、水に対して不溶性を有すると考えることが出来る。
【0033】
次に本発明の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体の製造方法について説明する。
【0034】
先ず、上述したポリビニルアルコールと、酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする混合水溶液を調製する。混合割合については、それぞれが所望の濃度になるのであれば、その調製方法は特に制限なく、例えばポリビニルアルコール水溶液と酸無水物基を有するポリマー水溶液を一定の比率で混合して、所定の濃度の混合水溶液を調製すればよい。混合水溶液中のポリビニルアルコールの濃度は、1〜30重量%が好ましく、3〜30重量%がさらに好ましく、5〜20重量%が最も好ましい。また酸無水物基を有するポリマーの濃度は、0.2〜35重量%が好ましく、0.5〜30重量%がさらに好ましく、1〜20重量%が最も好ましい。
【0035】
この水溶液には不溶化反応を促進する化合物や繊維形成性の補助剤などを添加してもよい。水不溶化反応を促進する化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、クエン酸、乳酸などの酸が有り、適宜選択すればよく、その添加量は繊維形成性に影響のない範囲でおこなえばよい。
【0036】
また繊維形成性の補助剤としては、界面活性剤やキレート剤などが挙げられ、界面活性剤としてはイオン系界面活性剤あるいは非イオン性界面活性剤などの中から適宜選択すればよい。例えばイオン系界面活性剤としてはミヨシ油脂社製の商品名「レバソープNL」、非イオン系界面活性剤としては第一工業製薬製の商品名「ノイゲンEA120」などが挙げられる。
【0037】
またキレート剤としてはエチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、L−アスパラギン酸−N、N−二酢酸などのアミノカルボン酸系キレート剤や、アミノトリメチレンホスホン酸、ヒドロキシエタンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などのホスホン酸系キレート剤などから適宜選択すればよい。これらの添加量は補助剤として使用するものであり、繊維形成性に影響のない範囲で選択すればよい。
【0038】
これら不溶化反応を促進する化合物や繊維形成性の補助剤は、ポリマー成分の水溶液に添加する場合、予め水に溶解した後にポリマーを添加して混合液とする場合、あるいはポリマー混合水溶液に添加する場合など何れの順序で添加してもよい。またポリマー成分の水溶液に添加する場合も、これら補助剤は何れのポリマー成分の水溶液に添加してもよいが、酸無水物基を有するポリマー水溶液の安定性を考慮して、ポリビニルアルコールの水溶液に添加するのが好ましい。
【0039】
ポリビニルアルコールと、酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする混合水溶液は、均一なポリマー混合溶液を得るために、混合後は高温を避けて1時間以上攪拌することが好ましい。該混合水溶液は、50℃以上の高温に長時間曝しておくとポリマー成分間で架橋反応が進む可能性があるため、操作性をも考慮して5℃〜30℃程度の範囲で調製するのが好ましい。
【0040】
ポリビニルアルコールと、酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする混合水溶液の調製において、混合方法は特に限定されず、一般的な溶液攪拌方法でおこなえばよい。但し、ポリマー分子を剪断する可能性が高い高速回転のブレンダーなどの使用は避けるのが好ましい。
【0041】
次いで、得られた混合溶液を紡糸原液として紡糸することにより繊維化し、繊維集合体を形成する。本発明において採用できる紡糸方法としては、繊維化が可能であれば特に限定されないが、得られる繊維の平均繊径が10μm以下、好ましくは1μm以下となる紡糸方法が好ましい。そのような紡糸方法として、フラッシュ紡糸法、遠心紡糸法、静電紡糸法などが挙げられるが、比較的容易に1μm以下の平均繊維径のものを得ることができる方法として、静電紡糸法が好適である。
【0042】
静電紡糸法で水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体を作製する方法について、図1をもとにさらに説明する。先ず紡糸原液を注射用シリンジに供給し、シリンジ先端に取付けられた金属性ノズルから一定速度で押し出す。ノズル先端から対電極となるターゲットまでの距離は通常5〜20cmの範囲であればよく、またこのノズルとターゲットの間は通常3〜30kVの範囲で電圧を印加すれば、繊維の直径が10μm以下、好ましくは1μm以下の繊維からなる不織布を得ることが出来る。この場合、通常ノズル側を正極とし、ターゲット側を負極とするが、必ずしもこれにこだわることはない。
【0043】
使用するノズルの内径は、紡糸原液から繊維径が10μm以下、好ましくは1μm以下の繊維が得られるのであればいくらでもよく、通常は0.5〜1.5mm程度が好ましい。
対極のターゲットは、板状、筒状、ベルト状、網状、不織布、織編物など種々の形状を有
し、金属や炭素などからなる導電性材料、有機高分子などからなる非導電性材料などを使用できる。
【0044】
このような静電紡糸法において、ノズル部分と対極のターゲット部分を取り囲む環境は、一定の温度と湿度を維持することが均質な水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体を得るうえで好ましい。この場合の温度は紡糸原液の溶媒が気化しやすい温度範囲であればよく、操作性も考慮して15℃〜50℃程度の範囲で行なうのが現実的である。また湿度は、75%以上になると所望する性状の繊維集合体を得ることが難しくなるため、70%以下、好ましくは55%以下、さらに好ましくは40%以下で行えばよい。
【0045】
対極のターゲット上に形成された繊維集合体は、その後、熱処理を行なうことによって水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体を得ることが出来る。熱処理操作は、常圧、減圧のいずれの状態でおこなってよく、熱カレンダー法や熱風乾装置を用いる方法などがある。この場合の加熱温度と時間は、例えば100℃以上、好ましくは120℃〜180℃、さらに好ましくは120℃〜160℃で、数秒〜数時間、好ましくは5分〜1時間、さらに好ましくは10分〜45分である。これら以上の過酷な条件でおこなった場合は、水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体が変色するなど物性への影響が大きいことから避けるべきである。
【0046】
静電紡糸法で紡糸する場合、前述のノズルを用いたノズル方式の他に、金属製のローラ形状をしたローラ電極部を使用したローラー方式などがある。またローラ形状も円筒形状のみならず歯車形状、螺旋溝形状など様々な形状のものを使用することが出来る。
【0047】
本発明の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体は、熱水に対する優れた耐水性を有し、様々な形状に加工が出来ることから、水を含む液体中や気体中の微粒子あるいは有害物質を除去するための除去フィルター、吸着除去フィルターあるいは滅菌フィルターとして、またエネルギー分野におけるセパレータ材料、さらには生体化学物質や環境物質などの分析測定用フィルター材料などとして利用することが出来る。
【実施例】
【0048】
次に実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
実施例1
平均重合度1730のポリビニルアルコール(ユニチカ(製)製、ケン化度95%)を用いてpH5.3の12wt%ポリビニルアルコール水溶液(P液)と、平均重合度1250の無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体(アイエスピー社製、共重合比1:1)を含む12wt%水溶液(G液)をそれぞれ調製した。次にP液70gにG液30gと蒸留水20gを加えて均一な混合液を作製し、これを紡糸原液として、図1に示す静電紡糸装置を使って静電紡糸をおこなった。
【0050】
紡糸原液を含む注射用シリンジ先端には内径0.8mmの金属製ノズルを取り付け、16kVの電圧を印加し、ターゲットまでの距離は15cmでおこなった。この場合の紡糸環境は、温度26℃、湿度40%であった。ターゲット基板上に形成され繊維集合体(試料1)は、140℃の熱風乾燥器内で25分間熱処理をおこなった。得られた繊維集合体の表面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE―SEM)で観察した結果を図2に示す。ポリビニルアルコール繊維集合体を構成する繊維の平均直径は約150nmであることが確認された。
【0051】
実施例2
平均重合度2400のDポリマー(日本酢ビ・ポバール(株)製、ケン化度99%)を用いて11wt%Dポリマー水溶液(D液)を調製した。次にD液90gに実施例1のG液10gおよび非イオン性界面活性剤(第一工業製薬製 EA120)をDポリマーに対して0.05wt%添加して均一な混合液を調製後、これを紡糸原液として、印加電圧が12.9kV以外は実施例1と同じ装置および同じ紡糸条件で静電紡糸を行い、ターゲット基板上に繊維集合体を形成した。この場合の紡糸環境は、温度27.5℃、湿度52%であった。得られた繊維集合体は、12時間真空乾燥を行って後、50℃の熱風乾燥器に入れて30分間熱処理をおこない、得られた繊維集合体の表面を実施例1と同様にして電界放出型走査電子顕微鏡(FE―SEM)で観察した。図3の結果からポリビニルアルコール繊維集合体を構成する繊維の平均直径は約180nmであることが確認された。
【0052】
試験例1〔耐溶解性試験〕
実施例1及び2で得られたポリビニルアルコール繊維集合体について、ポリビニルアルコールの活性水素に対する酸無水物基を有するポリマーの反応性官能基のモル比と、上述した方法に従って測定した重量減少率を表1に示した。
【0053】
【表1】

比較例1
実施例1のP液95gに対してG液5gを添加した以外は、実施例1と同様におこない、熱処理後の繊維集合体を得た。平均繊維径は約150nmであることが電界放出型走査電子顕微鏡(FE―SEM)によって確認された。次に得られた繊維集合体を用いて試験例1の試験方法に従って試験を行い、重量減少率を算出した。その結果を表1に示す。
【0054】
比較例2
実施例2のG液を添加しない以外は、実施例1と同様におこない、熱処理後の繊維集合体を得た。平均繊維径は約200nmあることが電界放出型走査電子顕微鏡(FE―SEM)によって確認された。次に得られた繊維集合体を用いて試験例1の試験方法に従って試験を行い、重量減少率を算出した。その結果を表1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1で用いられた静電紡糸装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例1で得られた水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体の電界放出型走査電子顕微鏡写真(FE−SEM)である。
【図3】本発明の実施例2で得られた水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体の電界放出型走査電子顕微鏡写真(FE−SEM)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールと酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする繊維集合体であって、酸無水物基を有するポリマーに含まれる反応性官能基のモル比が、ポリビニルアルコールの活性水素に対して0.02以上であり、該反応性官能基がポリビニルアルコールの活性水素と架橋反応することにより、酸無水物基を有するポリマーとポリビニルアルコールとが結合していることを特徴とする水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体。
【請求項2】
沸騰水に30分間浸漬した後の重量減少率が、4%以下であることを特徴とする請求項1記載の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体。
【請求項3】
繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径が、10μm以下であることを特徴とすると請求項1又は2記載の水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体。
【請求項4】
ポリビニルアルコールと酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする水溶液を調製し、次いでこの水溶液を紡糸原液として紡糸して繊維集合体を形成した後、熱処理を施すことを特徴とする水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−144283(P2008−144283A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329426(P2006−329426)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】