説明

水不溶性色材の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置

【課題】微細かつ均一な粒子径を有するビルドアップ顔料の分散液において、高い耐光性とともに、顔料微粒子の不用意な凝集を防ぎ低粘度で良好な分散性を維持し、特に、顔料の色再現域を広い範囲で調整可能とし、かつ、印画物において低濃度域から高濃度域に至るまで色味の変化を抑え、所望の色味としうる水不溶性色材の分散体及びこの製造方法、これ用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】少なくとも2種の顔料を含んでなる水不溶性色材の粒子を、分散剤とともに、水を含む媒体に分散させた分散体であって、前記水不溶性色材が結晶構造を有し、可視光領域の吸光度ピーク値を1としたときの光散乱強度が30000cps以下である分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水不溶性色材の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、高速記録が可能であり、描画パターンの自由度が高く、記録時の騒音が少ない。また、低コストで画像記録が可能であり、さらにはカラー記録が容易である等の利点がある。そのため今日においては急速に普及しさらに発展しつつある。この記録液として従来、水溶性染料を水性媒体に溶解させた染料インクが広く用いられてきた。しかし、染料インクは印刷物の耐水性や耐候性に劣るため、これを改善しうる顔料インクが検討されている。
【0003】
ところで顔料インクは、通常水に不溶性の顔料を水性媒体に分散して得られる。そして一般的には、顔料および各種界面活性剤や水溶性高分子などを分散剤として、それらを単独あるいは併用して水性溶媒に添加し、サンドミル、ビーズミル、ボールミルなどの分散機を使用して粉砕し、顔料粒子径を微細化する方法が採用されている(特許文献1、2参照)。また、着色力や耐候性の向上を考慮し顔料を固溶体化することが提案されている(特許文献3参照)。その他、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶媒中に、有機顔料と高分子分散剤、または分散剤として高分子化合物を溶解させた後、この溶液と水とを混合させ顔料分散液を調製する方法(以下、前記方法をビルドアップ法と記述する。)、またそこに用いられる所定の高分子化合物等の検討がなされている(特許文献4〜7参照)。しかし、ビルドアップ法により作製される顔料粒子分散液においては、粒子形成が非常に急峻に起こるため、粒子の結晶型の制御、若しくは結晶子径の調整が難しい。微細化された顔料粒子において、高い耐光性を得るためには、前記顔料粒子が光に対して安定な結晶型且つ高い結晶性を有することが望まれ、例えばその手段として、顔料粒子又はその分散対体に対して加熱処理等の手段を用いることが開示されている(特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−57044号公報
【特許文献2】特開2006−328262号公報
【特許文献3】特開昭60−35055号公報
【特許文献4】特開2003−26972号公報
【特許文献5】特開2004−43776号公報
【特許文献6】特開2006−342316号公報
【特許文献7】特開2007−119586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らは、前述したサンドミル、ビーズミル、ボールミルなどの分散機を使用して粉砕し、顔料粒子径を微細化する方法により調製した顔料インクでは短波長(高エネルギー)側に光の副吸収が生じてしまい、印画物におけるインクの高濃度化にともない色味が変化することがあることを見出した。そのため、印画物の濃淡をインクの付与量で調整したり、インクの濃度または厚み等で調節したりする印刷方式、例えば印画物の濃淡をインクの打滴量等で調節するインクジェット記録方式においては、印画物の低濃度域と高濃度域とで色味に差が生じ、特に高濃度域において刷り見本(色見本)との間の色差が顕著になってしまうことがある。また、上記の刷り見本(色見本)の規格は各国で異なるため、単一顔料種でこれら各国の色規格に近い色域を再現することが難しい。
【0006】
また、本発明者らは、前述したビルドアップ法により調整された顔料微粒子分散液において、高い耐光性を得るためには、微粒子形成時、あるいは微粒子形成後の加熱処理等の手段では不十分な場合があることを見出した。さらに、ビルドアップ法により調製した分散液については分散安定性の向上が求められる。また、記録液等に用いる場合には分散液を高濃度化した場合でも低粘度が維持されることが求められる。
【0007】
本発明は、微細かつ均一な粒子径を有するビルドアップ顔料の分散液において、高い耐光性とともに、顔料微粒子の不用意な凝集を防ぎ低粘度で良好な分散性を維持し、顔料の色再現域を広い範囲で調整可能とし、かつ、印画物において低濃度域から高濃度域に至るまで色味の変化を抑え、所望の色味としうる水不溶性色材の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)少なくとも2種の顔料を含んでなる水不溶性色材の粒子を、分散剤とともに、水を含む媒体に分散させた分散体であって、前記水不溶性色材が結晶構造を有し、可視光領域の吸光度ピーク値を1としたときの光散乱強度が30000cps以下であることを特徴とする分散体。
(2)前記粒子の平均粒子径が5〜50nmであることを特徴とする(1)に記載の分散体。
(3)少なくとも2種以上の顔料を含んでなる水不溶性色材の粒子を、分散剤とともに、媒体に分散させた分散体であって、前記粒子の平均粒子径が5〜50nmであり、かつ、前記水不溶性色材が、結晶構造を有することを特徴とする分散体。
(4)前記粒子の平均粒子径が5〜40nmであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の分散体。
(5)前記水不溶性色材が、少なくとも2種以上の顔料からなる固溶体顔料である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の分散体。
(6)前記水不溶性色材が、無置換キナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン、及び6,13−ジヒドロキナクリドンから選ばれる少なくとも2種の有機顔料の固溶体である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の分散体。
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の分散体を用いて作製される記録液であって、前記水不溶性色材を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
(8)前記記録液がインクジェット用記録液である(7)に記載の記録液。
(9)(8)に記載のインクジェット用記録液を用いたインクセット。
(10)(7)もしくは(8)に記載の記録液、又は(9)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物であって、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物。
(11)(7)もしくは(8)に記載の記録液、又は(9)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
(12)(7)もしくは(8)に記載の記録液、又は(9)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。
(13)(1)水不溶性色材と分散剤とを、アルカリ存在下の非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解させた溶液とする工程、(2)該溶液と水系溶媒とを混合して、前記水不溶性色材の粒子及び分散剤を、水を含む媒体中に分散させた分散体を得る工程、(3)前記水不溶性色材の粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし、該軟凝集体を前記分散体から分離する工程、(4)前記軟凝集体をエステル系溶媒もしくはケトン系溶媒でろ過洗浄する工程、及び(5)前記軟凝集体の凝集を解き再分散媒体に再分散する工程を有することを特徴とする水不溶性色材を含有している分散体の製造方法。
(14)前記再分散媒体を水を含む媒体とし、前記再分散後の分散体を水分散体とすることを特徴とする(13)に記載の分散体の製造方法。
(15)前記分散剤が前記エステル系溶媒又はケトン系溶媒に可溶もしくは分散可能である高分子化合物であることを特徴とする(13)又は(14)のいずれかに記載の分散体の製造方法。
(16)(13)〜(15)のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする分散体。
(17)(16)に記載の分散体を用いた記録液。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分散体は、水不溶性色材の粒子がナノメートルサイズにまで微細化されていても、その凝集が抑えられ低粘度で良好な分散性が維持される。また、本発明の分散体は高い耐光性を示し、単一の顔料種ないしは単に複数の顔料種を混合したのでは得られない色再現域の発色を有するものとすることができる。さらに本発明の分散体は、インクジェト記録方式等、印画物の濃淡をインクの打滴量で調整する場合や、記録液の濃度又は厚み等で調整する手段を含む印刷方式を用いる場合の印画物の低濃度域と高濃度域における色味の差を低減することができるという優れた作用効果を奏する。
さらにまた、本発明の製造方法によれば上記の優れた特性を有する分散体を効率良くかつ純度良く製造することができる。
さらに本発明の画像形成方法及び画像形成装置によれば、上記のすぐれ記録液による画像形成を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の分散体において水不溶性色材を構成する有機顔料としては、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0011】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43、もしくはC.I.ピグメントレッド194等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、もしくはC.I.ピグメントレッド209のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントオレンジ48、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントバイオレット32、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、もしくはC.I.ピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー128)、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントイエロー219、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー83、もしくはC.I.ピグメントイエロー188等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントオレンジ64、もしくはC.I.ピグメントレッド247等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダンスレン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー138等のキノフタロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー213等のキノキサリンジオン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー129、もしくはC.I.ピグメントイエロー150等の金属錯体アゾ化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン37、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー75、もしくはC.I.ピグメントブルー15(15:1、15:6等を含む)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56、もしくはC.I.ピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、もしくはC.I.ピグメントレッド170等のナフトールAS化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントオレンジ66等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40、もしくはC.I.ピグメントレッド216等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。
【0012】
本発明の分散体において水不溶性色材の粒子には2種以上の有機顔料成分が含まれる。分散体中の水不溶性色材の含有量は特に限定されず、インクとしての利用を考慮したとき例えば0.01〜30質量%であることが好ましく、1.0〜20質量%であることがより好ましく、1.1〜15%であることが最も好ましい。
【0013】
本発明における分散体は高濃度であっても色味の変化が小さく、且つ分散体の低粘度が維持される。例えば記録液として用いる場合、記録液に使用できる添加剤の種類や添加量の自由度が増すため、上記の範囲で好適に用いることができる。
【0014】
2種以上の有機顔料の組合せとしては特に限定はされないが、例えばアゾ化合物顔料どうし、ジケトピロロピロール化合物顔料どうしのように顔料化合物種が同一である、換言すれば類似の化合物骨格を有する組合せが好ましく、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントイエロー128とC.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー128とC.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントイエロー128とC.I.ピグメントオレンジ13等の組み合わせが好ましい。また、2種以上の有機顔料成分としては、用いる1種の有機顔料の最大吸収波長(λmax)が10〜200nm異なる有機顔料を1種以上含有させることが好ましく、前記最大吸収波長(λmax)が10〜100nm異なる有機顔料を1種以上含有させることが特に好ましい。なお本発明における顔料の吸収波長は、粒子を形成した状態における吸収波長、すなわち媒体に塗布したり練りこんだりした状態における吸収波長を意味し、アルカリや酸などの特殊な媒体に溶解した溶液状態の吸収波長ではない。
【0015】
主成分有機顔料の最大吸収波長(λmax)の値は特に限定されないが可視光領域に最大吸収波長を有するものを用いることが着色用途において実際的であり、例えば、300〜750nmに最大吸収波長を有するものを用いることが好ましい。
【0016】
上記の2種以上の顔料において、各顔料の含有量は特に限定されないが、2種の顔料の質量比としていうと、0.5:9.5〜9.5:0.5とすることが好ましく、1:9〜9:1とすることがより好ましく、単一顔料種と異なる色域の色味を得るためには2:8〜8:2とすることがさらに好ましい。0.5:9.5〜9.5:0.5の範囲外であっても分散体を作製することができるが、単一顔料種が示す色とほとんど変わらなくなる。3種の顔料を用いた場合、顔料全量に対していずれの顔料も5〜90質量%とすることが好ましく、10〜80質量%とすることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の分散体は、好ましくは、(1)水不溶性色材と分散剤とを、アルカリ存在下の非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解させた溶液とする工程、(2)該溶液と水系媒体とを混合して、前記水不溶性色材の粒子及び分散剤を、水を含む媒体中に分散させた分散体を得る工程、(3)前記水不溶性色材の粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし、該軟凝集体を前記分散体から分離する工程、(4)前記軟凝集体をエステル系溶媒もしくはケトン系溶媒でろ過洗浄する工程、及び(5)前記軟凝集体の凝集を解き再分散媒体に再分散する工程により作製することができる。
【0018】
本発明に用いられる非プロトン性溶剤としては、アルカリ存在下で有機顔料および高分子化合物を溶解させるもので、いかなるものでも使用可能である。また、水に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましく用いられ、さらには水に対して自由に混合するものが好ましい。
【0019】
具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶剤として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン又はアセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましい。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
上記非プロトン性溶剤の使用割合は特に限定されないが、顔料のより良好な溶解状態と、所望とする微粒子径の形成の容易性、更に水性分散体の色濃度をより良好なものとするために、顔料1質量部に対して2〜500質量部、さらには5〜100質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0020】
上記非プロトン性溶剤に含有させるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの無機塩基、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシドなどの有機塩基を用いることができ、なかでも無機塩基を用いることが好ましい。含有させるアルカリの量は特に限定されないが、無機塩基の場合、顔料に対して1.0〜30モル当量であることが好ましく、2.0〜25モル当量であることがより好ましく、3〜20モル当量であることが特に好ましい。有機塩基の場合は、顔料に対して1.0〜100モル当量であることが好ましく、5.0〜100モル当量であることがより好ましく、20〜100モル当量であることが特に好ましい。
【0021】
本発明において、水系溶媒とは、水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合などに用いることが好ましい。有機溶媒として例えば、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であることが好ましく、含イオウ系溶媒であることがより好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)であることが特に好ましい。酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒、またはスルホン酸系溶媒であることが好ましく、スルホン酸系溶媒であることがより好ましく、メタンスルホン酸であることが特に好ましい。なお、水系溶媒には必要に応じて無機化合物塩や後述する分散剤等を溶解させてもよい。
【0022】
このとき水不溶性色材を均一に溶解した溶液と水系溶媒とを混合する実施態様は特に限定されない。例えば、水系溶媒を撹拌しておきそこに水不溶性色材の溶液を添加する実施態様、該溶液及び水系溶媒をそれぞれ長さのある流路に同一の長手方向に送りこみ、その流路を通過する間に両液を接触させ有機顔料微粒子を析出させる実施態様等が挙げられる。前者(撹拌混合する実施態様)については、特に水系溶媒中に供給管等を導入しそこから水不溶性色材の溶液を添加する液中添加による実施態様が好ましい。さらに具体的には、国際公開WO2006/121018号パンフレットの段落0036〜0047に記載の装置を用いて液中添加を行うことができる。後者(流路を用いて両者を混合する実施態様)については、例えば、特開2005−307154号公報の段落0049〜52及び図1〜図4、特願2006−78637号公報の段落0044〜0050に記載のマイクロリアクターを用いることができる。
【0023】
水不溶性色材の粒子を析出生成させる際の条件に特に制限はなく、常圧から亜臨界、超臨界条件の範囲を選択できる。常圧での温度は−30〜100℃が好ましく、−10〜60℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。水不溶性色材の溶液と水系溶媒との混合比は体積比で1/50〜2/3が好ましく、1/40〜1/2がより好ましく、1/20〜3/8が特に好ましい。粒子を析出させたときの混合液中の粒子濃度は特に制限されないが、溶媒1000mlに対して水不溶性色材の粒子が10〜40000mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜30000mgの範囲であり、特に好ましくは50〜25000mgの範囲である。
【0024】
本発明において用いる分散剤としては、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶剤に可溶であって、水不溶性色材と前記分散剤を溶解した溶液と水系溶媒とを混合した際に、水系溶媒中で顔料含有粒子を形成することで分散効果を得ることができるものが適宜使用可能である。好ましくは、界面活性剤もしくは高分子化合物であって、その親水性部分がカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基及びアルキレンオキサイドのうちの1種以上を用いて構成されているものが利用される。さらに好ましくは、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶剤に有機顔料と共に安定に溶解するものがよい。分散剤の親水性部分が第一、第二、第三級のアミノ基、第四級アンモニウム基など上記以外のものから選ばれるもののみで構成されている場合はアルカリを含む有機顔料の水性分散体において十分ではあるが分散安定化の程度が相対的に低くなる場合がある。また、従来の顔料分散法では、媒体中で分散状態にある顔料表面と効率良く接触可能な分散剤を選択するなどの工夫が必要があるが、本発明においては、分散剤と顔料がともに溶解状態で媒体中に存在し、これらの間での所望とする作用が容易に得られるので、従来の顔料分散法におるような顔料表面への接触効率に基づく分散剤の制限がなく、広範な分散剤を使用することができる。
【0025】
具体的に界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0026】
高分子分散剤として、具体的にはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられ、中でもポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。
【0027】
また、その他分散剤として使用する高分子化合物として、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、アルケニルスルホン酸、ビニルアミン、アリルアミン、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルホスホン酸、ビニルピロリドン、アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つはカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基、アルキレンオキサイドのいずれかになる官能基を有する単量体)から構成されるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの変性物、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0028】
更に詳しく説明すると、本発明における高分子化合物は親水性基部位と疎水性部位から構成されていることが好ましく、親水性モノマー成分と疎水性モノマー成分とを共重合させた共重合体を用いることが好ましい。疎水性モノマー成分のみからなる重合体である高分子化合物を用いる場合には水不溶性色材に良好な分散安定性を付与することが困難なことがある。なお、親水性とは水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質であり、疎水性とは水に対する親和性が小さく水に溶解しにくい性質である。
【0029】
例えば、疎水性モノマー成分としては、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水性ユニットを構造単位にして有するモノマー成分が挙げられる。水不溶性色材に高い分散安定性を付与する観点からはスチレンやt−ブチルメタクリレートなどの疎水性モノマーを繰り返し単位として有するブロックセグメントが好ましいが、疎水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0030】
また、親水性モノマー成分としては、前述したカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基、アルキレンオキサイド等の官能基を有する構造等の親水性ユニットを単位構造として含有するモノマー成分が挙げられる。具体的には、アクリル酸やメタクリル酸、或いはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩、またポリエチレングリコールマクロモノマー、又はビニルアルコールや2−ヒドロキシルエチルメタクリレート等が挙げられるが、親水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0031】
前記共重合体についてはブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体などのいずれの形態を有する共重合体でも良いが、特にブロック共重合体やグラフト共重合体を用いる場合には、水不溶性色材に良好な分散性を付与しやすいため好ましい。
【0032】
また、その他の分散剤として用いられる高分子化合物としては、アルブミン、ゼラチン、ロジン、シェラック、デンプン、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ等の天然高分子化合物、およびこれらの変性物も好ましく使用することが出来る。また、これらの分散剤は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。上記分散剤の使用割合は特に限定されるものではないが、有機顔料1質量部に対して0.05質量部以上、非プロトン性有機溶剤100質量部に対して50質量部以下の範囲で用いるのが好ましい。分散剤が非プロトン性有機溶剤100質量部に対して50質量部より多い場合は分散剤を完全に溶解させるのが困難な場合があり、有機顔料1質量部に対して0.05質量部より少ない場合は、十分な分散効果を得ることが難しい場合がある。
【0033】
本発明の分散体においては、後述するインクとして用いるときの耐候性の向上を考慮するとき、上述した分散剤を好適に使用することができるが、耐候性を向上し、且つ分散体を高濃度化した場合でも低粘度を維持する観点から、後述する洗浄処理に用いられる特定の有機溶媒に対して可溶もしくは分散可能である高分子分散剤、または高分子化合物を用いることが特に好ましい。この高分子分散剤、または高分子化合物の分子量は特に限定されないが質量平均量が500〜1000000であることが好ましく、1000〜1000000であることがより好ましい。500未満の場合は分子量が小さく、1000000を超えると高分子鎖間の絡まりが大きくなりすぎ、分散剤としての機能を発揮しにくくなるため、良好な分散状態を保てない場合がある。なお、本発明において単に分子量というときには質量平均分子量を意味し、また質量平均分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリスチレン換算の平均分子量である。なお本発明において「分散体」とは、所定の微粒子が分散した組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。
【0034】
上記分散剤を水不溶性色材を溶解した溶液中に含有させる量は、顔料の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、1〜500質量部の範囲であることがより好ましく、10〜250質量部の範囲であることが特に好ましい。この量が少なすぎると有機顔料微粒子の分散安定性が向上しないことがある。本発明の分散体に含まれる上記分散剤の量は特に限定されないが、顔料100質量部に対して10〜1000質量部であることが実際的である。
【0035】
〔透過型電子顕微鏡観察による平均粒径〕
本発明において、分散体に含まれる水不溶性色材は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により粒子の形状を観察し、平均粒径を以下のようにして算出することができる。水溶性色材の微粒子を含む分散体をカーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈し、これを載せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍で撮影した画像から粒子300個の径を測定して平均値を求める。この際、上記のように分散体を前記Cu200メッシュ上で乾燥させるため、前記分散体中に水不溶性色材が良好に分散した状態であっても、乾燥の過程で水不溶性色材粒子が見かけ上凝集してしまい、正確な粒子径が判別しにくい場合がある。このような場合には、重なっていない独立した粒子300個の径を測定して平均値を求める。また、水不溶性色材が球状でない場合は、粒子の長径(粒子の最も長い径)を測定する。
【0036】
本発明においては、その一実施態様において、水不溶性色材の粒子の平均粒径は5〜50nmである。とくに透過型電子顕微鏡観察(TEM観察)により算出した水不溶性色材の平均粒子径が、5〜50nmであることが好ましく、5〜45nmであることがより好ましく、5〜40nmであることが分散体の透明性、分散体中での分散安定性、及び耐光性の両立の観点から特に好ましい。この平均粒径が小さすぎると、分散体中の安定な分散状態を長期間保つことが難しい場合があり、また良好な耐光性が得られない場合がある。一方で、大きすぎると、分散体の透明性が得られない場合がある。本発明において水不溶性色材の粒子は2種以上の顔料を含むが、顔料のみからなるものであっても、顔料以外の化合物が含まれていてもよい。このとき、2種以上の顔料の固溶体が粒子を構成していることが好ましい。ただし、粒子中に結晶構造を有する部分と結晶構造を有さない部分が混在していてもよい。また、顔料及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して粒子をなしていてもよい。
【0037】
また、本発明の水不溶性色材は、樹脂微粒子や無機微粒子に含まれていてもよい。このとき、本発明の水不溶性色材の色味を損なわないため、前記樹脂微粒子及び無機微粒子は非着色成分であることが好ましい。前記樹脂微粒子及び無機微粒子の平均粒子径は6〜200nmであることが好ましく、インクジェット用記録液として用いる場合には良好な吐出安定性を得る観点から6〜150nmであることがさらに好ましく、6〜100nmであることが特に好ましい。
【0038】
〔動的光散乱法による平均粒径〕
本発明において、水不溶性色材の分散状態は動的散乱法により評価することもでき、これにより平均粒径を算出することができる。その原理は次のとおりである。粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は、液中で並進・回転等のブラウン運動により、その位置・方位を時々刻々と変えている。したがって、これらの粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光を検出すると、ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強度の時間の揺らぎを観測することで、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ、さらには粒子の大きさを知ることができる。
【0039】
この原理を用いて、水不溶性色材の平均粒径の測定を行い、その測定値がTEM観察で得られた平均粒径に近い場合には、液中の粒子が単分散していること(粒子同士が接合したり凝集したりしていないこと)を意味する。すなわち、分散媒中において各粒子は互いに間隔をあけて分散しており、単独で独立して動くことができる状態にある。
【0040】
本発明によれば、分散媒中の水不溶性色材に対して行った動的光散乱法による算術平均粒径が、TEM観察による平均粒径に対してそれほど違わないレベルの平均粒径を示すことがわかった。すなわち、分散媒中で本発明の水不溶色材が単分散した状態が実現できることが確認された。分散媒中の動的光散乱法による算術平均粒径は、50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが特に好ましい。このように平均粒径の好ましい範囲は前記したTEM観察のそれとは大きくは異ならない。本発明においては、特に断らない限り、単に平均粒径というときTEMにより測定した平均粒径をいう。
【0041】
なお、分散媒中において粒子が完全に単分散していても測定誤差等により、TEM観察の平均粒径と動的光散乱法による平均粒径とに違いが生ずる場合がある。例えば測定時の溶液の濃度は測定装置の性能・散乱光検出方式に適していることが必要であり、光の透過量が十分に確保される濃度で行わないと誤差が発生する。またナノオーダーの粒子の測定の場合には得られる信号強度が微弱なため、ゴミや埃の影響が強く出て誤差の原因となるので、サンプルの前処理や測定環境の清浄度に気を付ける必要がある。ナノオーダーの粒子測定には、散乱光強度を稼ぐためにレーザー光源は発信出力が100mW以上のものが適する。
【0042】
また、本発明において分散体中に分散している水不溶性色材の粒径は単分散であることが好ましい。単分散であることにより、粒径が大きい粒子の光散乱等の影響が軽減できるほか、例えば分散体を用いて印字、記録等で凝集体形成する際には形成する凝集体の充填形態の制御等に有利である。分散体の分散性を評価する指標としては、例えば動的光散乱法で得られる算術平均粒径において、粒子の粒径分布関数
dG=f(D)xdD(Gは粒子数、Dは一次粒径を表す)
の積分式における、全粒子数の90個数%を占める粒子の粒径(D90)と10固数%を占める粒子の粒径(D10)との差を用いることができる。本発明においては、前記D90とD10の差が45nm以下であることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜20nmであることが特に好ましい。なおこの方法は、前述した透過型電子顕微鏡により観察される粒子径を用いて作製する粒径分布曲線でも適用することができる。
【0043】
また、もう1つの分散性を示す指標の例としては、動的散乱法により得られる体積平均粒径(Mv)及び個数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)を用いることもできる。本発明の分散体は前記Mv/Mnの値が1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。
【0044】
〔結晶子径の定義〕
結晶子径の測定及び算出については得に限定はされないが、本発明において、「結晶構造を有する」とは、分散体に含まれる水不溶性色材について粉末X線回折分析を行ったときに、下記(i)及び(ii)のいずれでもないことをいう。
(i)非晶質特有のハローが観測されるとき。
(ii)下記に述べる測定方法で得られるによって決定される結晶子径が20Å未満であるかアモルファス状態であると推定されるとき。
【0045】
本発明において、結晶子径は次のようにして、測定及び算出される。
まず、Cu−Kα1線を用いたX線回折解析を行う。その後、2θ=4deg〜70degの範囲において、最大強度を示すピークか、あるいは近接するピークと分離可能な十分に大きな強度を示すピークの半値幅を測定し、下記のSherrerの式により、結晶子径を算出する:
D=K×λ/(β×cosθ) … Scherrerの式
[D :結晶子径(Å、結晶子の大きさ)、λ:測定X線波長(Å)、β:結晶の大きさによる回折線の広がり(ラジアン)、θ:回折線のブラッグ角(ラジアン)、K:定数(βとDの定数で異なる)]
【0046】
一般に、βに半値幅β 1/2 を用いる場合、K=0.9となることが知られている。またCu−Kα1線の波長は、1.54050Åであるので、本発明における結晶子径Dは次式に基づいて計算される:
D=0.9×1.54050/(β 1/2 ×cosθ)
【0047】
ここで、測定で得られたスペクトルのピークがブロードで、前記ピークの半値幅が判別できない場合は、結晶子径が20Å未満(微結晶状態)であるかまたはアモルファス状態(非晶質)であると推定される。
【0048】
本発明の分散体において、水不溶性色材は結晶構造を有するが、この結晶子径は20Å以上500Å以下であることが好ましく、20Å以上400Å未満であることがより好ましく、耐光性と透明性との両立の観点から、20Å以上350Å未満であることが特に好ましい。また、分散体の透明性を維持し、且つ高い耐光性を得るためには、前記水不溶性色材の粒子径と同程度の結晶子径を有することが特に好ましい。
【0049】
本発明の分散体は、水不溶性色材を含有している粒子が水を含んでいる媒体に対して分散している分散体であって、その一実施態様において、該分散体の可視光領域(例えば380〜700nm程度)の光の吸光度ピーク値を1としたときの光散乱強度が30,000cps以下である。このことは、可視光領域の光の吸光度ピークが1となる程度に水不溶性色材を含んでいるにも関らず、その光散乱強度が30,000cps以下と極めて低いことを意味しているものである。この光散乱強度が低いと、前記分散体、またはこの分散体を用いた記録液において高い透明性が視認できる。従来の顔料インクにおいては、可視光領域の光の吸光度ピークが1のときの光散乱強度は、例えばインク中の色材粒子の平均粒径がいずれも150nm程度であった場合には、150,000〜250,000cps程度であり、このことから目視による透明性の高さが理解される。
【0050】
本発明においては、空気や酸素などの気体を粒子析出時に共存させてもよく、例えばそれらを酸化剤として用いることができる。共存させる態様は特に限定されず、気体を水不溶性色材の溶液及び/又は水性媒体にあらかじめ溶解させる、あるいは上記両液とは別に上記の気体を導入して接触させてもよい。
【0051】
本発明の分散体においては、以下に具体的に述べるように、水不溶性色材の粒子を析出させた混合液を酸処理し、好ましくは凝集体の形成に酸を添加して処理し、粒子の凝集体を形成させることが好ましい。酸を用いた処理は、好ましくは、粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、粒子を凝集させることができる。
【0052】
ここで用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっているものを凝集させて、スラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであれば、いかなるものでも使用できる。さらに好ましくは、アルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は粒子が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた顔料粒子の水性分散液は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することができる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。
【0053】
ここで得られた凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような乾燥法により、微粉末として用いることもできる。
【0054】
また、本発明の水分散体において、水不溶性色材は結晶構造を有するが、この結晶構造を形成するために、前記粒子の軟凝集体を有機溶媒と接触させることが好ましい。この有機溶媒としては、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、芳香族系溶媒、脂肪族系溶媒が好ましく、エステル系溶媒、ケトン系溶媒がより好ましく、エステル系溶媒が特に好ましい。
【0055】
エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、乳酸エチル、2−(1−メトキシ)プロピルアセテートなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−ブタノールなどが挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。脂肪族系溶媒としては、例えばn−ヘキサン、シクロヘキサンなどが挙げられる。酢酸エチル、アセトン、乳酸エチルが好ましく、中でも、アセトン及び乳酸エチルが特に好ましい。
【0056】
上記有機溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば顔料100質量部に対して0.01〜10000質量部を使用することが好ましい。本発明の水分散体に含まれる上記有機溶媒の量は特に限定されないが、0.0001〜1質量%であることが実際的である。
【0057】
得られた凝集体を上記の有機溶媒に接触させる方法は特に限定されないが、接触させた後に凝集体と有機溶媒を分離できる方法が好ましい。また、分離の際に、有機溶媒が液状のまま分離できる方法が好ましく、例えばフィルター濾過などが好ましい。
【0058】
理由は定かではないが、本発明においては上記の有機溶媒による接触処理を行うことにより、分散体に含まれる水不溶性色材粒子の粒子径を増大させることなく、結晶子径を増大させることができる。すなわち、粒子の析出時の一次粒子径を維持したまま、水不溶性色材粒子の結晶性を高めることができる。さらには、後述する再分散処理において、粒子の析出時の一次粒子径を維持したまま水等に再分散することが可能であり、高い分散安定性も維持される。また、上記の処理を行うことにより、凝集体の再分散体を高濃度化した場合でも低粘度が維持できる。さらにはインクジェット用記録液として用いた場合に、良好な吐出性を有する。これらの作用は、分散体を上記の有機溶媒に接触させ、その後分離することにより、分散体に含まれる過剰な分散剤を遊離させ除去したために発現されたものと推測される。
【0059】
この際、本発明の分散体における水不溶性色材粒子の表面付近にある分散剤は水不溶性色材粒子に強く固定されているため、前記水不溶性色材粒子の粒子径が増大することがなく、後述する再分散処理後であっても粒子の析出時の一次粒子径を保ちつつ、高い分散安定性が維持される。
【0060】
本発明の分散体においては、さらに凝集体を再分散することが好ましい。この再分散処理としてアルカリ処理を挙げることができる。すなわち、酸を用いて凝集させた粒子をアルカリで中和し、粒子の析出時の一次粒子径で水等に再分散させることが好ましい。すでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ないコンクベースを得ることができる。ここで使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるもので、いかなるものでも使用できる。具体的にはアミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニアが挙げられる。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
上記のアルカリの使用量は、凝集した粒子を水に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンタ用インクなどの用途に用いる場合は各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12、さらに好ましくは7〜11の範囲になる量を使用するのがよい。
【0062】
また、粒子析出時に用いる分散剤に応じて、上記のアルカリ処理とは異なる方法を用いてもよい。例えば、先に述べた低分子分散剤や高分子分散を使用した再分散処理があげられる。また、この際には従来公知の分散処理の手段を用いてもよく、例えばサンドミル、ビーズミル、ボールミル、ディゾルバーなどの分散機や、超音波処理を使用してもよい。これらの再分散処理は前述したアルカリ処理と併用してもよい。
【0063】
また、凝集した粒子を再分散する際に、再分散用媒体として水溶性の有機溶剤を添加して、再分散しやすくすることができる。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、顔料粒子を再分散させて水性分散液とするとき、ここにおける水の量は99〜20質量%であることが好ましく、95〜30質量%とすることがより好ましい。上記の水溶性有機溶剤の量は50〜0.1質量%であることが好ましく、30〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0064】
凝集した粒子に水、上記アルカリおよび水溶性の有機溶剤を加える際には、必要に応じて撹拌、混合、分散装置を用いることができる。特に含水率の高い有機顔料のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。さらに、再分散の効率を高める目的、および不用となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0065】
本発明の記録液は、上記本発明の分散体を用い、例えば所定の高分子化合物、界面活性剤、水性溶剤等の各成分を混合し均一に溶解又は分散することにより調製することができる。本発明の記録液においては、前記水不溶性色材を0.1〜15質量%含有することが好ましい。また、調製したインクに過剰量のポリマー化合物や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析などの方法によって、それらを適宜除去し、インク組成物を再調製することができる。また本発明の記録液は単独で用いてもよいが、これとは別のインクと組み合わせて、本発明のインクセットとしてもよい。
【0066】
本発明の記録液は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、このインクジェット法により微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりすることができる。
【0067】
本発明の記録液はインクジェット用記録液とすることが好ましく、これを用いたインクセットとすることが好ましい。また、本発明の記録液又はインクセットを用いて、記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物とすることが好ましく、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物とすることが好ましい。さらに上記の記録液又はインクセットは、記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有する画像形成方法に用いることが好ましい。さらに本発明においては、上記記録液又はインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有する画像形成装置とすることができる。
【0068】
上記の優れた特性を有する本発明の分散体は、インクとしたとき例えば面積比率(面積階調)により色調濃淡を表現している現行のオフセット印刷や凸版印刷等に匹敵するほどの、高濃度・高精彩な画像記録を実現しうるものである。
【実施例】
【0069】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。また、各分散体の動的散乱法による平均粒子径はイオン交換水で希釈した後、日機装(株)のMicorotrac(Version 10.1.2−211BH)を用いて測定を行っている。このとき、各分散体の体積平均粒径Mvの他、個数平均粒径Mnの測定も行う。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)観察による平均粒径評価は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した分散体を滴下した後乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の長径を測定して平均値を平均粒径として算出した(以下、TEM観察により算出した平均粒径をTEM平均粒径と記述する。)。
【0070】
(実施例1)
C.I.ピグメントレッド122 1.45質量部、C.I.ピグメントバイオレット19 1.55質量部、ポリビニルピロリドンK25(商品名)(東京化成工業(株)社製)6質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0071】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部のイオン交換水中にシリンジを用いて速やかに投入したところ、透明で赤みがかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の動的光散乱法により求めた個数平均粒径は27.2nm(TEM平均粒径:30.2nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.23であった。
【0072】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0073】
次に、このペーストに100質量部の乳酸エチルを加え洗浄し、攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストを得た。このペーストをイオン交換水で水洗し、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて再び減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストAを得た。
【0074】
次に、このペースト3質量部にオレイン酸ナトリウム0.3質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水を加え超音波処理を行い、顔料分散液Aを得た。この顔料分散液Aの動的光散乱法による個数平均粒径は28.4nm(TEM平均粒径:30.4nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0075】
(実施例2)
実施例1で顔料をC.I.ピグメントレッド122 2.0質量部、C.I.ピグメントバイオレット19 1.0質量部に変えた以外は同様にし、顔料分10%の顔料分散液Bを得た。この顔料分散液Bの動的光散乱法による個数平均粒径は30.6nm(TEM平均粒径:31.3nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0076】
(実施例3)
実施例1で顔料をC.I.ピグメントレッド122 1.0質量部、C.I.ピグメントバイオレット19 2.0質量部に変えた以外は同様にし、顔料分10%の顔料分散液Cを得た。この顔料分散液Cの動的光散乱法による個数平均粒径は32.7nm(TEM平均粒径:33.6nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0077】
(比較例1)
C.I.ピグメントレッド122 1.45質量部、C.I.ピグメントバイオレット19 1.55質量部、分散剤としてメタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/アクリル酸=5/4/1(モル比)の共重合体(酸価60、分子量32000)の5質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0078】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部のイオン交換水中にシリンジを用いて速やかに投入したところ、透明で赤みがかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の動的光散乱法による個数平均粒径は40.2nm(TEM平均粒径:39.2nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.33であった。この分散液を内温90℃になるまで加熱し、90℃を維持したまま2時間経過した後、室温に戻した。
【0079】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0080】
次いでこのペーストに水酸化カリウムを加えたのち、イオン交換水を加えて1時間攪拌を行った。この後、顔料分10%になるようイオン交換水を加えた。更に、水酸化カリウムを加えpH9.5に調整した後、顔料分散液Dを得た。この顔料分散液Dの動的光散乱法による個数平均粒径は40.9nm(TEM平均粒径:42.4nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0081】
(比較例2)
実施例1で使用したポリビニルピロリドンを除いた以外は実施例1と同様に分散液を作製した。シリンジから顔料溶解液を注入するや否や液が赤く懸濁し、透明な分散液は得られず、沈降物が観察された。その後、この沈降物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤されたペーストを得た。このペーストを20質量部、オレイン酸ナトリウム1.3質量部、イオン交換水78.7質量部とを混合して、ビーズミルを用いて4時間分散を行い、顔料分散液Eを得た。顔料分散液Eの動的光散乱法による個数平均粒径は79.7nm(TEM平均粒径:80.8nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.67であった。2週間保存後の粒径はやや増加したが、沈降物は見られなかった。
【0082】
(比較例3)
C.I.ピグメントレッド122 20質量部、オレイン酸ナトリウム1.3質量部、イオン交換水78.7質量部を混合して、ビーズミルを用いて4時間分散を行い、顔料分散液Fを得た。顔料分散液Fの動的光散乱法による個数平均粒径は80.1nm(TEM平均粒径:79.2nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.51であった。2週間保存後の粒径はやや増加したが、沈降物は見られなかった。
【0083】
(比較例4)
C.I.ピグメントバイオレット19 20質量部、オレイン酸ナトリウム1.3質量部、イオン交換水78.7質量部を混合して、ビーズミルを用いて4時間分散を行い、顔料分散液Gを得た。顔料分散液Gの動的光散乱法による個数平均粒径は87.5nm(TEM平均粒径:84.9nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.47であった。2週間保存後の粒径はやや増加したが、沈降物は見られなかった。
【0084】
(X線回折測定)
以下のようにして、理学電機(株)製RINT2500を使用してX線回折測定を行った。顔料分散液A、D、F、Gをエバポレーターを用いて乾燥し、粉末A、D、F、Gをそれぞれ作製して、そのX線回折測定を行った。また、分散液F及びGを用いてC.I.ピグメントレッド122粉末1.45質量部とC.I.ピグメントバイオレット19粉末1.55質量部との混合粉末となるよう粉末MixF/Gを作製し、X線回折測定を行った。測定によりえられたそれぞれのスペクトルを図1及び図2に示す。
【0085】
図1に示したとおり、実施例1で作製した顔料分散液の粉末Aの結晶型は、C.I.ピグメントレッド122粉末F及びC.I.ピグメントバイオレット19粉末Gのいずれとも異なった。また、粉末F及びGを単に混合した粉末MixFGのスペクトルとも異なり、分散液Aの顔料微粒子がその原料2種の顔料の単なる混合物とは異なる結晶型を有することがわかる。
また、図2に示したように粉末DのスペクトルにおいてはX線回折の2θ=10deg〜40degにおいてハローが観察され、顔料粒子がアモルファス状態もしくは微結晶状態であることがわかる。
【0086】
また、実施例1で調製した顔料分散液に含まれる顔料粒子の粉末AについてX線回折測定を用いて結晶子径を算出したところ、結晶子径は151±50Åであった。このX線回折測定は銅ターゲットを使用してCu−Kα1線を用いて測定を行った。同様にして実施例2及び3で調製した顔料分散液に含まれる顔料粒子の粉末B、CについてX線回折測定を行った。結晶子径を算出したところ、結晶子径はそれぞれ198±50Å、191±50Åであった。このように実施例1〜3で調製した顔料分散液に含有される顔料粒子は結晶構造を有するものであった。
【0087】
(インク組成物の調整)
(実施例1a〜3a)
顔料分散液A〜Cをそれぞれ50質量部用い、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合してインク組成物A〜Cをそれぞれ得た。
【0088】
(比較例1a〜4a)
顔料分散液D〜Gをそれぞれ用い、イオン交換水で希釈し顔料分10質量%の濃縮液を得た。この濃縮液を50質量部、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH0.2質量部、イオン交換水32.3質量部を混合した後超音波処理し、インク組成物D〜Gをそれぞれ得た。
【0089】
〔光吸収スペクトルの評価〕
得られたインク組成物A、インク組成物F、及びインク組成物Gを光路長5μmのセルを用いて可視域の光吸収スペクトルを測定した。得られたそれぞれの光吸収スペクトルを波長域360nmから800nmの範囲での極大値を1で規格化した結果を図3に示す。
【0090】
図3に示す通り、実施例1で作製した顔料分散液から得られたインク組成物Aは比較例3で作製したジC.I.ピグメントレッド122の分散液から得られたインク組成物F、及び比較例4で作成したC.I.ピグメントバイオレット19の分散液から得られたインク組成物Gとは異なる波長領域のピークを持つスペクトルを示した。また、注目すべきことにインク組成物Aの吸収スペクトルにおいては、インク組成物F及びインク組成物Gの吸収スペクトルと比較し、高波長側の吸収、つまり黄色味成分の色域の発色に寄与する吸収が少ないことが分かる。
【0091】
〔色再現性の評価〕
次に、色再現性の評価方法の一つとして、塗工層を有するメディアに印刷し、CIEで規定するa*値及びb*値を測定した。
【0092】
具体的には、インク組成物A〜C、F、GをインクジェットプリンタPXG930(セイコーエプソン社製)に充填し、塗工層を有するメディアの一例として、Premium Glossy Photo Paper(セイコーエプソン社製)に印刷し、各記録物を得た。インクの付与量を200〜0%の間で変化させてパッチを印字した。印字物を24時間自然乾燥させ、CIEで規定するL*値、a*値、及びb*値を測定した。なお、測定にはGretag Spectrolino(商品名:Gretag社製)を用いた。得られた結果を図4に示す。
【0093】
図4からわかるように、実施例1〜3で得られた顔料分散液から作製したインク組成物A、B、Cは、それぞれ1種の顔料種で作製したインク組成物F、Gとは異なる色域の発色を示した。加えて、インク組成物A、B、Cは、印字物の高濃度域における黄色味成分(b*値)が、インク組成物F、Gのように上昇してしまうことなく、極めて低いレベルにおさえられていることがわかる。
【0094】
〔耐光性の評価〕
インク組成物Aをガラス基板上にスピンコートし、これを退色試験機にセットし、キセノンランプを照度170,000ルクスで4日間照射して耐光性の試験を行った。UVフィルタとしてTEMPAXフィルタ(商品名)(イーグルエンジニアリング社製、材質はSCHOTT社製TEMPAX(商品名)ガラス)を光源と試料の間に配置した。インク組成物Aの、照射前の吸光度(Abs.)、照射後の吸光度、吸光度の残存率(照射後の吸光度÷照射前の吸光度×100)はそれぞれ、0.384、0.328、85.4%であった。
【0095】
同様にしてインク組成物Dをガラス基板上にスピンコートし、退色試験を行った。インク組成物Dの吸光度の残存率は68.5%であった。この結果から、本発明によれば、インクの耐光性が大幅に高められることがわかる。
【0096】
(実施例4)
C.I.ピグメントイエロー128を1.0質量部、C.I.ピグメントイエロー74を2.0質量部、分散剤としてメタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/アクリル酸=5/4/1(モル比)の共重合体(酸価60、分子量32000)の5質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、赤色の顔料溶解液を得た。
【0097】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部のイオン交換水中にシリンジを用いて速やかに投入したところ、透明で黄色味がかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の個数平均粒径は28.4nm(TEM平均粒径:31.5nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.34であった。
【0098】
次いでこの顔料この顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0099】
次に、このペーストに100質量部の乳酸エチルを加え洗浄処理し、攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストを得た。このペーストをイオン交換水で水洗し、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて再び減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストHを得た。
【0100】
次いでこのペーストHに水酸化カリウムを加えたのち、イオン交換水を加えて1時間攪拌を行った。この後、顔料分10%になるようイオン交換水を加えた。更に、水酸化カリウムを加えpH9.5に調整した後、顔料分散液Hを得た。この顔料分散液Hの分散体の個数平均粒径は29.8nm(TEM平均粒径:31.6nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られず、変色もみられなかった。
【0101】
(実施例5)
C.I.ピグメントイエロー128を2.0質量部、C.I.ピグメントイエロー74を1.0質量部、ポリビニルピロリドンK25(商品名)(東京化成工業(株)社製)6質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、赤色の顔料溶解液を得た。
【0102】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部のイオン交換水中にシリンジを用いて速やかに投入したところ、透明で黄色味がかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の個数平均粒径は38.4nm(TEM平均粒径:39.1nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.25であった。
【0103】
次いでこの顔料この顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0104】
次に、このペーストに100質量部の乳酸エチルを加え洗浄処理し、攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストを得た。このペーストをイオン交換水で水洗し、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて再び減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストIを得た。
【0105】
次に、このペースト3質量部にオレイン酸ナトリウム0.3質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水を加え超音波処理を行い、顔料分散液Iを得た。この顔料分散液Iの分散体の個数平均粒径は39.8nm(TEM平均粒径:39.3nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られず、変色もみられなかった。
【0106】
(比較例5)
C.I.ピグメントイエロー128を1.0質量部、C.I.ピグメントイエロー74を2.0質量部、分散剤としてメタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/アクリル酸=5/4/1(モル比)の共重合体(酸価60、分子量32000)の5質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、赤色の顔料溶解液を得た。
【0107】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部のイオン交換水中にシリンジを用いて速やかに投入したところ、透明で黄色味がかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の個数平均粒径は38.4nm(TEM平均粒径:39.3nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.35であった。この分散体を内温90℃になるまで加熱し、90℃を維持したまま2時間経過した後、室温に戻した。
【0108】
次いでこの顔料この顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストJを得た。
【0109】
次いでこのペーストに水酸化カリウムを加えたのち、イオン交換水を加えて1時間攪拌を行った。この後、顔料分10%になるようイオン交換水を加えた。更に、水酸化カリウムを加えpH9.5に調整した後、顔料分散液Jを得た。この顔料分散液Jの分散体の個数平均粒径は42.1nm(TEM平均粒径:42.8nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0110】
(比較例6)
C.I.ピグメントイエロー128を1.0質量部、C.I.ピグメントイエロー74を2.0質量部、分散剤としてメタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/アクリル酸=5/4/1(モル比)の共重合体(酸価60、分子量32000)の5質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を加え、前記顔料を溶解し、赤紫色の顔料溶解液を得た。
【0111】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部のイオン交換水中にシリンジを用いて速やかに投入したところ、透明で黄色味がかった顔料分散体Kが得られた。この顔料分散体Kの個数平均粒径は33.7nm(TEM平均粒径:35.1nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.38であった。この分散体を内温90℃になるまで加熱し、90℃を維持したまま2時間経過した後、室温に戻した。この顔料分散体は1週間の静置後、目視で変色が確認された。
【0112】
(X線回折測定)
以下のX線回折測定には理学電機(株)製RINT2500を使用した。
【0113】
分散体のペーストH、I、及びJをエバポレーターを用いて乾燥して、それぞれ粉末とし、理学電機(株)製RINT2500を用いてX線回折測定を行った。その結果、ペーストHにおいては含まれる顔料粒子の結晶径が208±50Å、ペーストIにおいては232±50Å、ぺーストJのスペクトルにおいては2θ=4deg〜70degにおいてハローが観察された。このように実施例4及び5で調製した顔料分散液に含有される顔料微粒子は結晶構造を有していた。
【0114】
(インク組成物の調整)
顔料分散液H50質量部、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH0.2質量部、イオン交換水32.3質量部を混合してインク組成物Hを得た。同様にし顔料分散液I、及び顔料分散液Jを用いてインク組成物I、及びインク組成物Jを得た。
【0115】
(耐光性の評価)
インク組成物Hをガラス基板上にスピンコートしたものを退色試験機にセットし、キセノンランプを照度170,000ルクスで4日間照射して耐光性の試験を行った。UVフィルタとしてTEMPAXフィルタ(商品名)(イーグルエンジニアリング社製、材質はSCHOTT社製TEMPAX(商品名)ガラス)を光源と試料の間に配置した。インク組成物Hの、吸光度の残存率(照射後の吸光度(Abs.)÷照射前の吸光度(Abs.)×100)は82.1%であった。
【0116】
同様にして評価したインク組成物Iの吸光度の残存率は84.9%、インク組成物Jの吸光度の残存率は63.8%であった。この結果より本発明の分散体により調製したインク組成物I及びJは極めて高い耐光性を示すことが分かる。
【0117】
〔散乱強度試験〕
実施例1〜5で得られた顔料含有粒子の分散体A〜C、H、及びI、および比較例1、2、及び5で得られた顔料分散体D、E、及びJについて散乱強度測定を行った。この際、各顔料分散体は可視光領域の吸光度ピーク値が1となる濃度に希釈した後、1.0μmのメンブレンフィルターで濾過して測定を行った。散乱強度は、FPAR−1000(大塚電子社製)で、NDフィルタを使用せずに行った3分の測定の平均cpsを用いた。なお、同様の測定法で粒子径が88nmのポリスチレン微粒子の水性分散体(濃度0.0163%)の散乱強度を測定したところ71792cpsであった。得られた散乱強度の結果を、TEM平均粒子径と併せて表1に示す。
【0118】
〔表1〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
分散液試料 散乱強度 TEM平均粒子径
[cps] [nm]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A(実施例1) 7791 30.4
B(実施例2) 7875 31.3
C(実施例3) 8113 33.6
D(比較例1) 7890 42.4
E(比較例2) 38922 80.8
H(実施例4) 7897 31.6
I(実施例5) 9645 39.3
J(比較例5) 9901 42.8
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
表1から分かるように、実施例1〜5で得られた分散体の可視光領域の吸光度ピーク値を1としたときの光散乱強度は30000cps以下であった。
【0119】
〔透明性の評価〕
実施例1〜5で得られた顔料分散体を用いたインク組成物A〜C、H、及びI、および比較例1、2、及び5で得られた顔料分散体を用いたインク組成物D、E、及びJの透明性を、下記の基準に則り目視にて評価した。また、前記インク組成物を厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:PPL/レーザープリンター用ゼロックスフィルム OHP FILM,富士ゼロックス社製)上にバーコーターで塗工し、乾燥させ印画物を作製した後、印画部の透明性を下記の基準に則り目視にて評価した。
2:良好
1:不良
評価結果を表2に示す。
【0120】
〔表2〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物 インク組成物の透明性 印画部の透明性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A(実施例1) 2 2
B(実施例2) 2 2
C(実施例3) 2 2
D(比較例1) 2 2
E(比較例2) 1 1
H(実施例4) 2 2
I(実施例5) 2 2
J(比較例5) 2 2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0121】
表1及び表2から分かるように、前記散乱強度が30000cps以下の分散液から作製したインク組成物、及び該インク組成物を用いた印画物は非常に高い透明性を有することがわかる。
【0122】
〔分散液の粘度測定〕
実施例1で作製した顔料分10%の顔料分散液Aの粘度を山一電機社製の振動式VM−100A−L型(商品名)により25℃にて測定した。また、同様に顔料分10%の顔料分散液B〜D及びH〜Jの粘度を測定した。0.8〜4.0mPa・sを3、4.1〜10.0mPa・sを2、10.0mPa・sより高粘度のものを1として評価した。評価結果を表3に示す。
【0123】
〔表3〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−
分散液試料 粘度
−−−−−−−−−−−−−−−−−
A(実施例1) 3
B(実施例2) 3
C(実施例3) 3
D(比較例1) 1
H(実施例4) 2
I(実施例5) 3
J(比較例5) 1
−−−−−−−−−−−−−−−−
【0124】
上記表3から分かるように、実施例の顔料分散液は高濃度であっても粘度が低いことがわかる。
【0125】
〔吐出性の評価〕
上記作製したインク組成物A〜D、及びH〜Jをインクジェットプリンター(PX−G930、エプソン(株)製)のカートリッジに詰め、インクジェットペーパー(写真用紙<光沢>エプソン(株)製)にベタ画像(反射濃度が1.0)を全面に印字して、白スジの発生数を計測し、下記の基準に則り吐出性の評価を行った。
【0126】
3:印字面全体で全く未印字部である白スジが発生していない
2:僅かに白スジの発生は認められるが、実用上許容範囲にある
1:印字面全体に亘り白スジが多発し、実用上不可の品質である
評価結果を表4に示す。
【0127】
〔表4〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物 吐出性
−−−−−−−−−−−−−−−−−
A(実施例1) 3
B(実施例2) 3
C(実施例3) 3
D(比較例1) 1
H(実施例4) 2
I(実施例5) 3
J(比較例5) 1
−−−−−−−−−−−−−−−−
【0128】
上記表4から分かるように、実施例の顔料分散液を用いて作製したインク組成物は吐出性に優れることがわかる。
【0129】
(実施例6)
実施例1においてポリビニルピロリドンをスチレン/メタクリル酸=8/2(モル比)の共重合体(酸価40、分子量6000)5質量部に変えた以外は同様にして濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0130】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部のイオン交換水中にシリンジを用いて速やかに投入したところ、透明で赤みがかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の個数平均粒径は32.6nm(TEM平均粒径:34.1nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.33であった。
【0131】
次いでこの顔料この顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0132】
次に、このペーストに100質量部のアセトンを加え、攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料粉末aを得た。
【0133】
(実施例7)
実施例6において顔料をC.I.ピグメントレッド122を2.0質量部、C.I.ピグメントバイオレット19を1.0質量部に変えた以外は同様にして透明で赤味がかった顔料分散体を得た。この顔料分散体の個数平均粒径は35.7nm(TEM平均粒径:37.7nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.35であった。この後、実施例6と同様にし、顔料粉末bを得た。
【0134】
(比較例7)
実施例1においてポリビニルピロリドンをスチレン/メタクリル酸=8/2(モル比)の共重合体(酸価40、分子量6000)5質量部に変えた以外は同様にして濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0135】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部のイオン交換水中にシリンジを用いて速やかに投入したところ、透明で赤みがかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の個数平均粒径は32.4nm(TEM平均粒径:35.2nm)であり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.35であった。この分散液を内温90℃になるまで加熱し、90℃を維持したまま2時間経過した後、室温に戻した。
【0136】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料ペーストcを得た。
【0137】
(比較例8)
比較例2と同様に顔料ペーストを作製し、顔料ペーストdとした。
【0138】
(X線回折測定)
以下のX線回折測定には理学電機(株)製RINT2500を使用した。
【0139】
上記顔料粉末a及びbを、理学電機(株)製RINT2500(商品名)を用いてX線回折測定を行った。上記顔料ペーストc及びdをエバポレーターを用いて乾燥し粉末とし、X線回折測定を行った。結晶子径を算出したところ、顔料粉末aは248±50Å、顔料粉末bは233±50Å、顔料ぺーストc及びdはそれぞれ2θ=4deg〜70degのスペクトルにおいてハローが観察された。このように実施例6及び7で作製した顔料粉末の粒子は結晶構造を有していた。また、X線回折測定において、顔料粉末a及びbはC.I.ピグメントレッド122粉末とC.I.ピグメントバイオイオレット19粉末のスペクトル、及びこれらの混合物のスペクトルとも異なるスペクトル形状を示した。
【0140】
〔顔料ペーストの作製〕
上記顔料粉末aに対して、中和に必要な量のテトラメチルヒドロキシドを少量添加し、新日本石油(株)製の5号ソルベント(以下、溶剤と表記する)を少量加え、スーパーミキサーARE−250(シンキー(株)製)で混練した後、顔料ペーストaを得た。同様にして顔料粉末Bを用い顔料ペーストbを得た。また、顔料ペーストc及びdに対して、それぞれ、中和に必要な量のテトラメチルヒドロキシド及び溶剤を少量加え、スーパーミキサーARE−250(シンキー(株)製)で混練した後、ここで使用する顔料ペーストc及びdを得た。
【0141】
(樹脂ワニスの作製)
ロジン変性フェノール樹脂(日立化成ポリマー(株)製、テスポール1355)をアマニ油と5号ソルベントの混合溶剤中に加熱溶解し、樹脂ワニスA(樹脂濃度55質量%)を得た。また、ロジン変性フェノール樹脂(日立化成ポリマー(株)製、テスポール1304)をアマニ油と5号ソルベントの混合溶剤中に加熱溶解し、樹脂ワニスB(樹脂濃度55質量%)を得た。
【0142】
(顔料分散用樹脂の作製)
冷却管、水分分離管、温度計、窒素導入管を備えたセパラブルフラスコに12−ヒドロキシステアリン酸100部、キシレン10部、テトラ−n−ブチルチタネート0.1部の混合物を入れ、180〜200℃で6時間加熱撹拌した。このとき窒素気流下に生成する水を水分分離管に分離しながら行った。次いでキシレンを減圧留去して質量平均分子量4,000、酸価30の淡褐色重合物であるカルボキシル基を有するポリエステル樹脂(以下、顔料分散用樹脂と表記する)を得た。
【0143】
(インク組成物)
以下に示す処方によりインクベース1〜4を作製した。なお、最初に顔料ペーストa〜dにそれぞれ溶剤を加え超音波処理を十分に行った後に他の成分を加え攪拌し、3本ロールにて練肉を行った。
【0144】
(インクベースの処方)
単位(質量部)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
成分 ベース1 ベース2 ベース3 ベース4
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
顔料ペーストa 40
顔料ペーストb 40
顔料ペーストc 40
顔料ペーストd 40
顔料分散用樹脂 8 8 8 8
樹脂ワニスA 42 42 42 42
溶剤 10 10 10 10
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0145】
これを用いて以下の配合によりインク組成物1〜4を調製した。なお、インクベース1がインク組成物1に、同様にインクベース2〜4がインク組成物2〜4に対応する。
【0146】
(インクの処方)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
成分 部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インクベース 40
樹脂ワニスB 50
ワックス 5
溶剤 5
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0147】
上記の処方において、ワックスとしては、シャムロック社製のポリエチレンワックスコンパウンドを用いた。樹脂ワニスBは、ロジン変性フェノール樹脂(日立化成ポリマー(株)製、テスポール1304)とアマニ油と前記溶剤とを混合し、過熱溶解したもの(樹脂濃度55質量%)を用いた。
【0148】
またインク組成物調製の際には溶剤を上記インクベースに加え、十分に超音波処理をした後に他の成分を加え攪拌し、最終的に顔料分15%になるように溶剤をさらに加え、インク組成物を調製した。
【0149】
〔平均粒子径の評価〕
インク組成物1〜4に含まれる顔料粒子のTEM平均粒子径を算出した。
【0150】
〔透明性の評価〕
インク組成物1〜4を厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート上にバーコーターで塗工し、乾燥させた後、透明性を目視で評価した。
2:良好
1:不良
【0151】
〔耐光性の評価〕
インク組成物1〜4をPremium Glossy Photo Paper(セイコーエプソン社製)にバーコーターで塗工し、乾燥させた後、初期反射濃度(I)を測定した。その後キセノンランプを照度170,000ルクスで4日間照射し、再び反射濃度(I)を測定した。I/I(%)の比を計算し以下のごとく評価した。
【0152】
3:95%〜100%
2:90%以上〜95%未満
1:90%未満
【0153】
各評価結果を表5に示す。
【0154】
[表5]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料 TEM平均粒径[nm] 透明性 耐光性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物1(実施例6) 35.9 2 3
インク組成物2(実施例7) 37.8 2 3
インク組成物3(比較例7) 37.2 2 1
インク組成物4(比較例8) 90.4 1 2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0155】
表5から分かるようにインク組成物1及び2を用いた本発明の印画物は高濃度であっても透明性に優れ、且つ耐光性に優れる。
【0156】
上記の結果より、本発明の分散体に含まれる水不溶性色材の粒子がナノメートルサイズに微細化されていても優れた耐光性を有し、1種の顔料を単独で用いた場合又は2種以上を単に混合した場合とは異なる結晶型を有し、単1の顔料種とは異なる色再現域の発色を示すことがわかる。さらに、本発明の分散体によれば高濃度であっても低粘度を維持することができ、インクとして好適に用いうる。また本発明の分散体は、インクジェト記録方式等、印画物の濃淡をインクの打滴量で調整する場合や、記録液の濃度、又は厚み等で調整する手段を含む印刷方式を用いる場合の印画物の低濃度域と高濃度域における色味の差が低減された記録液とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】実施例及び比較例で得られた顔料粒子の粉末のX線回折チャートである。
【図2】実施例及び比較例で得られた顔料粒子の粉末のX線回折チャートである。
【図3】実施例及び比較例で得られた顔料分散液の吸収スペクトルである。
【図4】実施例及び比較例で得られたインク組成物のCIEで規定するa*値及びb*値の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種の顔料を含んでなる水不溶性色材の粒子を、分散剤とともに、水を含む媒体に分散させた分散体であって、前記水不溶性色材が結晶構造を有し、可視光領域の吸光度ピーク値を1としたときの光散乱強度が30000cps以下であることを特徴とする分散体。
【請求項2】
前記粒子の平均粒子径が5〜50nmであることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
少なくとも2種以上の顔料を含んでなる水不溶性色材の粒子を、分散剤とともに、媒体に分散させた分散体であって、前記粒子の平均粒子径が5〜50nmであり、かつ、前記水不溶性色材が結晶構造を有することを特徴とする分散体。
【請求項4】
前記粒子の平均粒子径が5〜40nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散体。
【請求項5】
前記水不溶性色材が、少なくとも2種以上の顔料からなる固溶体顔料である請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散体。
【請求項6】
前記水不溶性色材が、無置換キナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン、及び6,13−ジヒドロキナクリドンから選ばれる少なくとも2種の有機顔料の固溶体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の分散体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の分散体を用いて作製される記録液であって、前記水不溶性色材を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
【請求項8】
前記記録液がインクジェット用記録液である請求項7に記載の記録液。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェット用記録液を用いたインクセット。
【請求項10】
請求項7もしくは8に記載の記録液、又は請求項9に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物であって、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物。
【請求項11】
請求項7もしくは8に記載の記録液、又は請求項9に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項12】
請求項7もしくは8に記載の記録液、又は請求項9に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項13】
(1)水不溶性色材と分散剤とを、アルカリ存在下の非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解させた溶液とする工程、(2)該溶液と水系溶媒とを混合して、前記水不溶性色材の粒子及び分散剤を、水を含む媒体中に分散させた分散体を得る工程、(3)前記水不溶性色材の粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし、該軟凝集体を前記分散体から分離する工程、(4)前記軟凝集体をエステル系溶媒もしくはケトン系溶媒でろ過洗浄する工程、及び(5)前記軟凝集体の凝集を解き再分散媒体に再分散する工程を有することを特徴とする水不溶性色材を含有している分散体の製造方法。
【請求項14】
前記再分散媒体を水を含む媒体とし、前記再分散後の分散体を水分散体とすることを特徴とする請求項13に記載の分散体の製造方法。
【請求項15】
前記分散剤が前記エステル系溶媒又はケトン系溶媒に可溶もしくは分散可能である高分子化合物であることを特徴とする請求項13又は14のいずれかに記載の分散体の製造方法。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする分散体。
【請求項17】
請求項16に記載の分散体を用いた記録液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−108197(P2009−108197A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282263(P2007−282263)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】