説明

水中で剥離する層状複水酸化物を使用した防錆皮膜組成物およびそれを用いた防錆処理金属材料

【課題】優れた防錆効果を発現する新規な防錆皮膜組成物およびそれを用いた防錆処理金属材料を提供する。
【解決手段】一般式:〔M2+1−x3+(OH)〕〔G・yHO〕
(式中、M2+はMg,Fe,Zn,Cu又はCoから選ばれた2価金属イオン、M3+はAl,Fe,CrまたはInから選ばれた3価金属イオン、0.2≦x≦0.33,Gは炭素数5までの飽和脂肪族モノカルボン酸のCa,Mg,Zn,Ni,Cu,Co,Mn,Al,Fe、CrまたはCe塩、yは0より大きい実数である。)で示される水中で剥離する層状複水酸化物を使用する防錆皮膜組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中および/または水を含有する水溶性溶剤中で層間剥離を起こすことができる層状複水酸化物を水および/または水を含有する水溶性溶剤に加えて得られるナノシート分散ゾルを、防錆皮膜組成物として使用すると優れた防錆性を発現させることができることを見出したもので、その新規防錆皮膜組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物は、一般式:〔M2+1−x3+(OH)x+〔An−x/n・yHO〕x−からなっており、プラスに荷電した基本層[M2+1−X3+(OH)]の層間に内包されたアニオン及び結晶水などを中間層に内包する層状化合物であり、電気的には中性を保っている。
【0003】
上記層状複水酸化物における基本層中の2価金属としては、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等が知られており、3価金属としては、Al、Fe、Cr、In等が知られている。また、層間に内包される物質としては、OH、F、Cl、NO、CO2−、V10286−、Fe(CN)4−、CHCOO等のアニオンが知られているが、アニオン以外でも内包させることができる。
【0004】
層状複水酸化物は、通常は化学合成されるが、天然の鉱物としても産出し、ハイドロタルサイト類と呼ばれている。特性としては、例えば特開平11−148029号公報にClの捕捉剤として、防錆塗料中に防錆顔料と併用する技術が開示されており、特開2004−351452号公報にカルボン酸等の有機酸を層間にインターカレートした複合材料が金属のプレス加工等塑性加工前の処理剤として使用される技術が開示されている。しかし、何れの場合も層状複水酸化物が剥離、分散しナノシート分散ゾルを形成するとの記述はない。
【特許文献1】特開平11−148029号公報
【特許文献2】特開2004−351452号公報
【0005】
一方、粘土鉱物における剥離現象は以前から知られているが、層状複水酸化物の剥離現象に関する報告は少ない。この理由としては、一般的に層状複水酸化物の基本層の電荷密度が大きく、基本層と中間層との静電引力が強い為、両層が交互に積み重なる力が強く、剥離現象が起こりにくいことが考えられる。
【0006】
ただし、剥離現象が全く起こらないわけではなく、例えば、特開2004−189671号公報には層状複水酸化物の層間に芳香族アミノカルボン酸のアニオンを内包した層状複水酸化物は、アルコール等の極性溶媒にて剥離現象が起きることが知られているが、防錆等への応用に関する記述はない。
【特許文献3】特開2004−189671号公報
【0007】
また、その他の層状化合物の剥離現象については、特開平10−259023号公報に層状チタン酸粉末をアミン水溶液により剥離した後、加熱して薄片状酸化チタンを合成する方法が開示されており、特開2003−138145号公報には膨潤しナノシート化した層状チタン酸を合成樹脂に配合し樹脂の機械的強度を向上させるとの技術が開示されているが、何れも単独皮膜での防錆特性を目的としたものではない。
【特許文献4】特開平10−259023号公報
【特許文献5】特開2003−138145号公報
【0008】
そこで本発明者は、すでに上記課題を解決すべく検討した結果、中間層に特定の脂肪族カルボン酸金属塩を内包させることにより得られる層状複水酸化物が、容易に水媒体中で剥離を起こすことを見出し特許出願(特願2004−370532号)を行っている。
【特許文献6】特願2004−370532号
【0009】
一方、防錆皮膜組成物としては、従来から鉛系、クロム系等の防錆顔料を配合した防錆塗料が一般的に広く金属材料の防錆に使用されてきたが、近年は環境面あるいは安全面等から有害な鉛化合物や6価クロムを含まないリン酸塩系防錆顔料の使用が増加してきた。
【0010】
また、鋼材の一次防錆処理方法としては、6価クロムを含むクロメート処理やリン酸亜鉛、リン酸鉄等のリン酸塩処理も行われており、鋼材の短期保管時の防錆、あるいはその後に塗装される塗料との密着性向上、防錆性向上のために広く使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、すでに水溶液中で容易に層剥離が行われる剥離型複水酸化物の開発に成功しており、本発明は、この剥離型複水酸化物を新規な防錆皮膜組成物として応用できることを見出したものである。
【0012】
従来の防錆塗料あるいはリン酸塩処理により形成される防錆皮膜は、通常ミクロンメーター(μm)オーダーの膜厚であり、それよりも薄い膜厚では著しく防錆性能が低下する問題があった。また、一方クロメート処理では、膜厚は上記よりも薄いものの、有害な6価クロムを原料としておりその有害性から、その代替え処理方法の開発が強く望まれていた。
【0013】
さらに、新しい防錆技術として、金属酸化物ナノ微粒子をアクリル樹脂等に加えることにより、透明性が高い防錆皮膜を得る方法が提案されており、マグネシウム合金等の特定の基材に良いとされているが、ナノ微粒子での単独皮膜形成については言及がなく、また幅広い金属素材に対する効果についても言及されていない。
【非特許文献1】「ナノ粒子の金属酸化物含有皮膜による透明防錆処理剤と防錆効果」 工業材料、2004年10月号(Vol.52、No10)、P36−39。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討した結果、すでに見出している水中で剥離する層状複水酸化物を、水および/または水を含有する水溶性溶媒中で層間剥離させることにより得られるナノシート分散ゾルを、防錆皮膜組成物として金属表面に処理することにより、優れた防錆効果を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、層間に脂肪族カルボン酸金属塩を取り込んだ、2価金属と3価金属とからなる層状複水酸化物は、水および/または水を含有する水溶性溶剤中で高い膨潤性を示しながら層間剥離が生じ、高粘性のコロイド溶液となる。
【0016】
水溶性溶剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類等があげられ、およびそれらの混合溶剤を含む。
【0017】
なお、ナノシート分散ゾルの元となる水中で剥離する層状複水酸化物を合成する場合、水中で層状複水酸化物に脂肪族カルボン酸金属塩を反応させた反応液を、そのままあるいは遠心分離し、その固形分を、通常は80℃〜120℃の乾燥機中で水分をドライアップして製造されるが、80℃以下の温度でも乾燥時間が長くなるが問題なく製造できる。また、高温側では350℃を超える温度では、ナノシートを形成させるために使用している脂肪族カルボン酸の有機官能基の分解が始まるので好ましくない。
【0018】
さらに、凍結乾燥法により合成した場合は、理由は明確でないが水中での剥離時間が短くなることが確認されており、効率的にナノシート分散ゾルを得るのに適している。
【0019】
本ナノシート分散ゾルは、コロイド溶液として、層状複水酸化物の骨格成分がナノシートとなって分散していると考えられる。たとえば、1%の水分散コロイド溶液50mlを100mlのガラスビーカーに入れ、側面から可視光(波長650nmの赤色レーザーポインター使用)を照射すると、光路が光るチンダル現象を示し、コロイド状態であることが分かる。
【0020】
上記の様にして得たナノシート分散ゾルは、透明あるいは半透明の水溶液状態のため、通常単独で各種金属材料を容易に被覆することができるので、その被覆方法としては、スプレー塗装、ディッピング塗装、刷毛塗り塗装、スピンコート法、あるいは電着塗装等(本発明のナノシート分散ゾル中に存在するナノシートの表面電荷は、プラスでありマイナス極に電着される:カチオン電着)何れの方法も適用可能である。
【0021】
また、本ナノシート分散ゾルは、中性あるいはアルカリ性を示すため金属素材を腐食することなく効果的な皮膜を形成できるため、被覆できる金属素材としては、鉄および鋼材、アルミ系素材、亜鉛メッキ等の亜鉛系素材、マグネシウム系素材、あるいはこれらの合金系素材であるジュラルミン、マグネシウム合金等に使用できる。さらに、鋼板の表面処理として行われるリン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理等のリン酸塩処理表面にも適用可能である。
【0022】
上記の各種塗装方法により金属表面に塗装された本ナノシート分散ゾルは、そのまま室温乾燥あるいは加熱処理することにより、容易に層状複水酸化物系防錆皮膜を形成することができる。
【0023】
また、室温乾燥の様に低温乾燥した皮膜は、本層状複水酸化物系材料に水中で剥離現象を起こす特性が残っているため、再度水と接触すると大部分は水に再分散するため、見かけ上膜が溶解して無くなったように見える。しかし、この様に膜が無くなったように見える塗板の表面をXPS(X線表面解析法)で測定すると、たとえばMg−Al系層状複水酸化物/酢酸Mg処理物では、Mg、Alの成分の存在が確認されるため、被塗板表面ではナノシートが強固に付着していると考えられ、後述の実施例に示すように防錆性能を示すことが分かっている。
【0024】
本発明による防錆皮膜の防錆効果は、上記の様に室温下あるいは100℃以下の低温での乾燥でも発現するが、より高度な防錆効果を発揮させるためには、熱処理がより効果的である。熱処理温度としては、100℃以上700℃以下が望ましく、より好ましくは250℃から500℃である。
【0025】
ここで言う熱処理効果としては、防錆皮膜が水と接触した場合にも、水への再分散性が無くなり、強固な耐水性皮膜に変化することを意味する。
【0026】
100℃未満の熱処理では、耐水性が不十分で、一部皮膜が再分散し、膜厚が初期よりも薄くなるため、膜厚制御が難しく、また500℃を超え700℃以下の熱処理温度では、500℃の熱処理と殆ど特性が同じため、処理にかかるエネルギーが無駄になるためである。さらに、700℃を超える温度では、ナノシートの化学構造が変化し、皮膜が脆くなり、皮膜に欠陥が生じ防錆効果が低下するためである。
【0027】
また、熱処理することにより、皮膜の硬度も向上することが分かった。なお、熱処理時間としては、被覆する膜厚にもよるが、短い場合は数秒程度でも良く、通常は焼き付け塗料に適用される1時間以内程度の時間で十分である。なお、1時間以上熱処理しても品質上の問題はない。
【0028】
また、膜厚は本ナノシート分散ゾルの濃度を変えることにより、ナノメーター(nm)サイズからマイクロメーター(μm)サイズまでコントロールすることが可能である。本ナノシート分散ゾルの濃度としては、0.01wt%〜30wt%が望ましく、より好ましくは0.05wt%〜15wt%である。
【0029】
0.01wt%以下では、皮膜を形成する有効成分であるナノシートの量が少なく、効果的な皮膜形成が出来ないためである。30wt%以上では、分散ゾルの粘度が高くなり、塗膜形成時の作業性が困難になるためである。
【0030】
通常5wt%以下の濃度レベルでは、0.1μm(100nm)以下の薄膜として得られる。なお、この薄膜は既存の電磁式膜厚計では測定できないため、走査型電子顕微鏡写真等から判断している。
【発明の効果】
【0031】
本ナノシート分散ゾルを使用した皮膜は、強固な皮膜を形成するため、鉄、鋼材、アルミ素材、亜鉛素材等各種の金属材料に対して優れた防錆性を示す。特に、単独膜では透明性が優れているため、下地を隠蔽しない。また、通常塗料等に使用される顔料、フィラー等を加えることにより、着色性、隠蔽性、膜強度等の付与も可能である。
【0032】
ナノシート分散ゾルにより形成した層状複水酸化物系皮膜がなぜ優れた防錆効果を示すのかは必ずしも明らかではないが、ナノシートが被塗装物の表面に積層し効果的に表面を被覆しているものと考えられる。すなわち、外部からの水分、酸素あるいは塩素イオン等の腐食成分の金属表面への進入を抑制しているものと推定される。さらに皮膜がアルカリ性に保持されることによるアルカリ防食の効果も考えられる。
【0033】
さらに、本皮膜は、透明であることから、下地が見える特徴があり、一次防錆皮膜として使用する場合、金属基材に直接記入されているような記録を隠蔽する恐れがない。また、無色であるため上に塗料を塗り重ねる場合にも、上塗り塗料の色への影響がない特徴がある。
【0034】
例えば、1μmの膜厚にした皮膜サンプルを、400nm〜750nm領域での可視光透過率を分光光度計にて測定したところ、その透過率は70%以上を示しており、優れた透明性が確認できた。
【0035】
上記の様に本ナノシート分散ゾルは、単独で使用しても優れた防錆皮膜を形成するが、バインダーとして使用する方法も可能である。つまり、通常塗料に使用されている酸化チタン、ベンガラ等の無機顔料、あるいはフタロシアニンブルーなどの着色顔料、各種染料、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料、リン酸亜鉛等の防錆顔料、意匠性のためのアルミフレークやガラスフレーク等、UVカット特性付与等のために使用される微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛などの金属酸化物ナノ微粒子、および分散性等を考慮した各種表面処理顔料等が使用可能である。
【0036】
上記の様に通常使用されている各種顔料が使用できるが、防錆特性を調べた結果、特に防錆顔料と金属酸化物ナノ微粒子の使用により、本発明のナノシート分散ゾル系皮膜の防錆性が向上することが分かった。
【0037】
防錆顔料としては、通常塗料に使用されているリン酸塩系、亜リン酸塩系、モリブデン酸塩系、クロム酸塩系などが使用できるが、特に、リン酸系防錆顔料であるリン酸亜鉛、あるいはトリポリリン酸アルミニウム系防錆顔料を加えると防錆効果がより向上することが分かった。
【0038】
また、金属酸化物ナノ微粒子として、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、微粒子シリカ、微粒子酸化セリウムなどが使用できるが、特に微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛および微粒子シリカにおいて、防錆効果の向上が認められた。この金属酸化物ナノ微粒子が、なぜ防錆効果に寄与するのかは明確ではないが、本発明のナノシートと同レベルの微粒子として、稠密な皮膜形成に寄与しているのではないかと推定される。
【0039】
なお、この金属酸化物ナノ微粒子としては、粉体で使用する場合、分散しにくい場合があるので、チタニアゾル、アルミナゾル、シリカゾルなどのゾル状態での使用が便利である。
【0040】
ただし、ゾルの場合、分散安定化等のためpHが酸性サイドからアルカリサイドまで様々な商品が開発されているが、本目的にはナノシート分散ゾルを溶解させる強酸性ゾルは好ましくなく、通常pH=5以上のゾルであれば使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明で用いる層状複水酸化物の金属(M)としては、2価あるいは3価の金属が好ましい。2価の金属としては、Mg、Ca、Zn、Co、Ni、Cu、Mn、Fe等を用いることができる。これらの中でMg、Znが好ましく、さらにMgが最も好ましい。
【0042】
3価の金属としては、Ce、Al、Fe、Cr、Co、In等を用いることができる。これらの中でCe、Alが好ましく、さらにAlが最も好ましい。すなわち、本発明で用いる層状複水酸化物においては、2価の金属がMgで3価の金属がAlである組み合せが最も好ましい。これらの金属は1種を用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0043】
そして、本発明の層状複水酸化物において用いる飽和脂肪族モノカルボン酸塩(G)としては、脂肪酸炭素数が5までのものを用いることができる。特に炭素数2、すなわち酢酸金属塩が最も好ましい。
【0044】
また、金属塩としては2価あるいは3価の金属が好ましい。2価金属としてMg、Ca、Zn、Co、Ni、Cu、Mn、Fe等を用いることができる。これらの中でMg、Znが好ましく、さらにMgが最も好ましい。
【0045】
3価金属としては、Ce、Al、Fe、Cr、Co、In等を用いることができる。これらの中でCe、Alが好ましく、さらにAlが最も好ましい。これらの飽和脂肪族モノカルボン酸塩は1種を用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0046】
層状複水酸化物を用いた有機無機複合体の製造方法には、共沈法、イオン交換法、再構築法などがあり、本発明のナノシート分散ゾルを形成する層状複水酸化物は、それらいずれの製造方法であっても製造可能であるが再構築法による製造方法がもっとも好ましい。
【0047】
共沈法では、まず脂肪族カルボン酸金属塩水溶液を調整する。この水溶液に対して、例えばMg(NOのような2価金属の塩と、Al(NOのような3価金属の塩との混合水溶液を滴下する。滴下中は、pH6〜10に調整し、その後熟成して、固体生成物を分離することにより中間層に脂肪族カルボン酸金属塩が内包された層状複水酸化物を得ることができる。
【0048】
イオン交換法では、まず、脂肪族カルボン酸金属塩水溶液を調整し、これに対して中間層にOH、Cl、CO、等のアニオンを内包した層状複水酸化物を加え熟成した後、固体生成物を分離すると中間層に脂肪族カルボン酸金属塩を含むアニオンが内包された層状複水酸化物を得ることができる。
【0049】
再構築法では、まず脂肪族カルボン酸金属塩水溶液を調整し、これに対して予め400℃以上800℃未満の温度下で1時間以上加熱後、冷却を行った炭酸型複水酸化物熱分解物を加える。撹拌または振とうした後、固体生成物を分離し、目的とする層状複水酸化物を得ることができる。なお、酸性脂肪族カルボン酸溶液を用い反応を行った場合、層状複水酸化物の成分である2価金属及び3価金属が一部溶出し、結果として脂肪族カルボン酸の金属塩として反応し、層状複水酸化物を得ることもできる。
【0050】
上記で得られた層状複水酸化物を、水および/または水を含む水溶性極性溶媒に加え、混合又は撹拌などを行う事により、防錆性の優れた被膜を形成することができる層状複水酸化物のナノシート分散体ゾルを得ることができる。その際、常温下で容易にゾル化できるが、100℃以下の温度で行っても良い。
【0051】
(ナノシート分散体ゾルを、バインダーとして使用する場合)
上述した様に、ナノシート分散ゾルは、単独使用するのみならず顔料、フィラーなどの成分を加えて、着色、隠蔽性付与、防錆性の向上などの効果を高めることができる。添加できる成分としては、特に制約はないが、強酸性物質は素材の層状複水酸化物を溶解させる可能性があるため望ましくない。特に、リン酸亜鉛、あるいはトリポリリン酸アルミニウム系防錆顔料であるK−ホワイト105(テイカ(株)製)を加えることにより防錆性がより向上することが分かった。
【0052】
さらに、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、微粒子シリカ等の超微粒子金属酸化物粉体にも防錆性向上効果が認められた。なお、超微粒子の使用に当たってはチタニアゾル、シリカゾル等のゾル体は分散が容易であるためより好ましい。
【0053】
以下に、具体的な実施例を示し、本発明の効果を説明するが、本実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
水中で剥離する層状複水酸化物の合成−1
酢酸マグネシウム0.28mol/L水溶液へ、予め700℃温度下において20時間熱処理を行ったMg−Al系層状複水酸化物(協和化学社製炭酸型複水酸化物DHT−6)を0.28molを加える。15時間室温にて撹拌後、得られた固体生成物(ゲル状)を遠心分離にて分離後、そのまま90℃乾燥機にて10時間乾燥し、その後粉砕することにより生成物1を得た。
【0055】
水中で剥離する層状複水酸化物の合成−2
酢酸マグネシウムを酢酸セリウムに変更する以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物2を得た。
【0056】
水中で剥離する層状複水酸化物の合成−3
酢酸亜鉛0.28mol/L水溶液へ、予め600℃温度下において20時間熱処理を行ったZn−Al系層状複水酸化物を0.28molを加える。15時間室温にて撹拌後、得られた反応液をそのまま100℃乾燥機にて20時間乾燥し、その後粉砕することにより生成物3を得た。
【0057】
防錆皮膜組成物(a)の作成
合成−1で得た生成物1の粉体を、室温下でイオン交換水に所定量加えて得たナノシート分散ゾルを防錆皮膜組成物(a)として使用した。

【0058】
防錆皮膜組成物(b)の作成
合成−2で得た生成物2の粉体を、50℃のイオン交換水に所定量加えて得たナノシート分散ゾルを防錆皮膜組成物(b)として使用した。
【0059】
防錆皮膜組成物(c)の作成
合成−3で得た生成物3の粉体を、室温下でイオン交換水/エタノール=0.7/0.3(wt比)に所定量加えて得たナノシート分散ゾルを防錆皮膜組成物(c)として使用した。なお、本ナノシート分散ゾルは、若干白濁状態を示し、ナノシートが一部凝集していることが推測された。
【0060】
防錆皮膜組成物(d)、(e)の作成
合成−1で得た生成物1の粉体を、室温下でイオン交換水に所定量加え、ナノシート分散ゾルの10wt%液の調整を行い、それをバインダー成分として下記の配合により防錆皮膜組成物(d)および(e)を得た。
【0061】
【表1】

【0062】
防錆皮膜組成物(f)、(g)、(h)の作成
合成−1で得た生成物1の粉体を、室温下でイオン交換水に所定量加え、ナノシート分散ゾルの5wt%液の調整を行い、それをバインダー成分として下記の配合により防錆皮膜組成物(f)、(g)および(h)を得た。
【0063】
【表2】

【0064】
実施例1〜14は、防錆皮膜組成物(a)〜(h)を用いて、表3に示した条件で作成した。なお、試験用被塗板は、脱脂処理軟鋼板SPCC−SB(JIS G3141)および脱脂処理亜鉛メッキ板SGCCを使用した。塗装には、ディッピング、バーコーターおよび電着(直流10V、3分。対極ステンレス板)により実施した。
【0065】
【表3】

【比較例1】
【0066】
市販のMg−Al系層状複水酸化物(協和化学社製炭酸型複水酸化物DHT−6)を防錆皮膜組成物として実施例4と同様の条件で軟鋼板上に処理した。
【比較例2】
【0067】
リン酸亜鉛処理との防錆性比較のため、市販のリン酸亜鉛処理板(ボンデ処理鋼板#144:日本テストパネル社製)をそのまま使用した。
【0068】
[評価方法]
防錆試験1
機内温度35℃に保った塩水噴霧試験機に入れ、5%塩化ナトリウム水溶液を1kg/cmで8時間および24時間噴霧し、試験板の錆の発生を観察した。
【0069】
防錆試験2
機内温度20℃、相対湿度80%に保った恒温恒湿機に入れ、24時間後の試験板の錆の発生を観察した。
【0070】
[評価結果]
評価結果を表4に示した。表4から明らかなように、本発明にもとづく実施例の防錆性の効果が確認された。実施例7における20℃乾燥皮膜に関しては、水への再分散性が残っており、過酷な防錆試験方法である通常の塩水噴霧試験(防錆試験1)では見かけ上、悪くなっているが、穏和な条件で行った防錆試験2では、明らかな防錆効果が確認された。
【0071】
【表4】

【0072】
また、実施例10〜14の様に、ナノシート分散ゾルをバインダーとして使用し、防錆顔料等を併用したシステムでは、いずれの評価においても優れた防錆性が確認できた。
【0073】
比較例1は、皮膜が形成されなかったため、防錆効果は全く認められなかった。また比較例2には、防錆効果が認められたが、本発明の実施例は、それと同等以上の防錆性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明における水中で剥離する層状複水酸化物防錆皮膜組成物は、単独でナノレベルの透明な防錆薄膜を形成し、あるいは防錆顔料、金属酸化物超微粒子等を併用することも可能であることから、各種の金属材料に対する被覆材料として使用できる。特に、ナノシートが皮膜の主体であるため、ナノ薄膜として金属材料の一次防錆処理剤としても利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:〔M2+1−x3+(OH)〕〔G・yHO〕
(式中、M2+はMg,Fe,Zn,Cu又はCoから選ばれた2価金属イオン、M3+はAl,Fe,CrまたはInから選ばれた3価金属イオン、0.2≦x≦0.33,Gは炭素数5までの飽和脂肪族モノカルボン酸のCa,Mg,Zn,Ni,Cu,Co,Mn,Al,Fe、CrまたはCe塩、yは0より大きい実数である。)で示される水中で剥離する層状複水酸化物を使用する防錆皮膜組成物。
【請求項2】
2+がMg2+またはZn2+であり、M3+がAl3+であり、Gが酢酸のMg、CeまたはZn塩である請求項1の層状複水酸化物を使用する防錆皮膜組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2の層状複水酸物を水および/または水を含有する水溶性溶剤に加え、水および/または水を含有する水溶性溶剤中で層状複水酸化物を剥離、分散させてゾル化(以下、「ナノシート分散ゾル」という。)することを特徴とする防錆皮膜組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3の方法により得られるナノシート分散ゾルを使用する防錆皮膜組成物。
【請求項5】
請求項3の方法により得られるナノシート分散ゾルに、防錆顔料または/および微粒子顔料等の粉体顔料成分を加えることを特徴とする防錆皮膜組成物。
【請求項6】
請求項5における防錆顔料が、リン酸亜鉛またはトリポリリン酸アルミニウム系などのリン酸系防錆顔料であることを特徴とする防錆皮膜組成物。
【請求項7】
請求項5における微粒子顔料が、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化セリウム等の平均粒子径が0.1μm以下の金属酸化物であることを特徴とする防錆皮膜組成物。
【請求項8】
請求項4ないし請求項5のいずれかにおける防錆皮膜組成物を、金属素材に塗装後、100〜700℃で加熱することを特徴とする防錆皮膜処理金属材料。

【公開番号】特開2006−274385(P2006−274385A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97503(P2005−97503)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】