説明

水中における二酸化炭素濃度の測定装置及び方法

【課題】pH指示薬の劣化に基づく測定精度の低下を補正することができる水中の二酸化炭素濃度測定装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素濃度測定装置1は、等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を測定し、変化率ΔA0が予め定めた低下率以上低下すると、pH指示薬溶液が劣化したものと判定する劣化判定部31を備える。pH値演算部27は、劣化判定部31がpH指示薬溶液の劣化を判定した後は、等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を用いて劣化分を補正する補正pH演算式を用いてpH指示薬溶液のpH値を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定セル内に充填されたpH指示薬溶液の吸光度に基づいて水中の二酸化炭素濃度を測定する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特表平08-505218号「海水中に溶解した二酸化炭素濃度の測定方法および測定装置」(特許文献1)には、吸光スペクトル中から吸収ピークの波長λM、染料が吸収しない波長λB、染料の等吸収点に近い波長λIの3つを測定し、二酸化炭素濃度を吸収ピークの波長λMの1波長のみで測定し、染料が吸収しないλBで補正を行い、そして等吸収点に近い波長λIにおける測定を元に、指示薬の安定性の評価を行う技術が開示されている。
【0003】
また特表2002-514758号「光学的化学検出のためのシステム及び方法」(特許文献2)は、第1及び第2出力光の強度を測定して分析対象物(二酸化炭素:CO2)の濃度を決定している。
【0004】
さらに本願発明者等が発表したJournal of Oceanography, Vol.62,pp71 to 81,2006に「Simultaneous Vertical Measurements of In Situ pH and CO2 in the Sea Using Spectrophotometric Profilers」と題する論文(非特許文献1)に示された海中の二酸化炭素濃度の測定方法では、次のようにして濃度を測定する。ここでpH指示薬溶液は、pHが変わると色が変わり、最終的に二酸化炭素濃度が水中の二酸化炭素濃度と等しくなり、且つH2Lと表されたときに、
【化5】

【0005】
の平衡が成立するものである。まずpH指示薬溶液に吸収される光の吸収スペクトルを測定する。次に、吸収スペクトルから、pH指示薬溶液中のHL-の濃度に相当する第1の最大吸収波長λ1における第1の吸光度A1と、pHを決定するL2-の濃度に相当する第2の最大吸収波長λ2における第2の吸光度A2と、pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長における等吸収点吸光度A0と、光の吸収を持たない波長λbの非吸収吸光度Abを求める。そして第1の吸光度A1と非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、第2の吸光度A2と非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、pH指示薬溶液のpH値を演算する基本pH演算式によりpH指示薬溶液のpH値を演算する。最後に、pH値から水中の二酸化炭素濃度を求める。
【特許文献1】特表平08-505218号
【特許文献2】特表2002-514758号
【非特許文献1】Journal of Oceanography, Vol.62,pp71 to 81,2006、「Simultaneous Vertical Measurements of In Situ pH and CO2 in the Sea Using Spectrophotometric Profilers」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された技術のように、染料が吸収しないλBで補正を行ったとしても、検出器ノイズの影響を受けやすい問題がある。またこの技術は、測定に、必ず標準物質が必要となる相対測定である。また染料であるpH指示薬のチモールブルーは、λMにおける酸性形態の吸光度が無視し得るほどわずかであるとの説明から、ピーク波長λMの1波長のみでの測定可能となっているものと認められる。しかし、pH指示薬の塩基性型と酸性型のスペクトルが重なる指示薬においては、測定が不可能であり、この技術では使用する指示薬が限定される。さらに、この技術では、等吸収点に近い波長における測定を元に、指示薬の安定性の評価を行っている。しかしながら劣化した指示薬が吸収ピークの波長における吸光度に及ぼす影響までは考慮していない。指示薬が分解して新たにできた物質が吸収ピークの波長λMにおいて光の吸収を持ち、無視できない状況になった場合は、λMだけでの測定では補正することが難しい。また、電圧降下によって光が弱くなった場合には、吸収ピークの大きい波長λMの1波長のみで測定すると、光の減衰が大きくなるので測定値が不安定になる。さらに特許文献1中には、「較正カーブの実験点の分布は1%」と記載されており、繰り返し測定する際の精度が悪いという問題もある。
【0007】
また特許文献2に記載の技術では、第1及び第2の出力光の強度を測定して分析対象物の濃度を決定している。しかし測定する光は、励起光であり、理論的に吸光度を測定する場合の測定精度よりも精度が1桁程度悪くなる。
【0008】
これら従来の問題を解消するために、非特許文献1に記載の二酸化炭素濃度の測定技術では、前述の第1の吸光度A1と非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、前述の第2の吸光度A2と非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、pH指示薬溶液のpH値を演算する基本pH演算式によりpH指示薬溶液のpH値を演算することとした。
【0009】
しかしながら非特許文献1に記載の技術では、特に、pH指示薬溶液の劣化を考慮していなかった。そのため紫外線が測定セル内のpH指示薬溶液内に入射してpH指示薬が劣化し、測定精度が落ちる問題があった。
【0010】
本発明の目的は、pH指示薬の劣化に基づく測定精度の低下を補正することができる水中の二酸化炭素濃度測定装置及び方法を提供することにある。
【0011】
上記目的に加えて、本発明の他の目的は、劣化以外の原因で測定精度が悪くなる場合にアラーム信号を発生する水中の二酸化炭素濃度測定装置及び方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、pH指示薬の劣化を確実に検出することができる水中の二酸化炭素濃度測定装置及び方法を提供することにある。
【0013】
上記目的に加えて、本発明の他の目的は、pH指示薬の使用量を低減することができる二酸化炭酸濃度測定装置を提供することにある。
【0014】
上記目的に加えて、本発明の他の目的は、構造が簡単な二酸化炭酸濃度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明における水中の二酸化炭素濃度測定装置及び方法では、水中に浸漬されたときに二酸化炭素は透過するが水は通さない二酸化炭素透過部を備えた測定セルを用いる。この測定セル内には、pHが変わると色が変わり、最終的に二酸化炭素濃度が水中の二酸化炭素濃度と等しくなるpH指示薬溶液を充填する。ここでpH指示薬溶液とは、pH指示薬と溶媒とを混合したものである。またpH指示薬溶液は、H2Lと表されたときに、
【化6】

【0016】
の平衡が成立するものである。
【0017】
本発明の装置では、pH指示薬溶液に吸収される光の吸収スペクトルを測定するスペクトル測定装置と、吸光度演算部と、pH値演算部と、二酸化炭素濃度決定部とを備えている。
【0018】
吸光度演算部は、吸収スペクトルから、pH指示薬溶液中のHL-の濃度に相当する第1の最大吸収波長λ1における第1の吸光度A1と、pH指示薬溶液中のL2-の濃度に相当する第2の最大吸収波長λ2における第2の吸光度A2と、pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長における等吸収点吸光度A0と、光の吸収を持たない波長λbの非吸収吸光度Abを演算する。またpH値演算部は、第1の吸光度A1と非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、第2の吸光度A2と非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、pH指示薬溶液のpH値を演算する基本pH演算式によりpH指示薬溶液のpH値を演算する。そして二酸化炭素濃度決定部は、pH値から水中の二酸化炭素濃度を求める。
【0019】
本発明においては、さらに等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を演算し、変化率ΔA0が予め定めた低下率以上低下すると、pH指示薬溶液が劣化したものと判定する劣化判定部を備えている。そしてpH値演算部は、劣化判定部がpH指示薬溶液の劣化を判定した後は、等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を用いて劣化分を補正する補正pH演算式を用いてpH指示薬溶液のpH値を演算する。
【0020】
本発明によれば、3つの波長(λ1、λ2、λb)における吸光度A1,A2,Abを用いて、第1の吸光度A1と非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、第2の吸光度A2と非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との吸光度比(A1−Ab)/(A2−Ab)を用いるため、温度等による測定値の変動(ドリフト)が相殺される上、pH指示薬の濃度が多少変化しても濃度変化を補正する必要がない。理論的には、標準物質を必要としない絶対測定となる。また、本発明によれば、pH指示薬の塩基性型と酸性型のスペクトルが2つのピーク波長で重なる指示薬においても測定が可能である。
【0021】
本発明で用いることができる基本pH演算式の一例は、下記の通りであり、
【数5】

【0022】
上記式において、pH指示薬をH2Lとしたときに、
【化7】

【0023】
の平衡が成立する場合において、pKaはpH指示薬の乖離定数である。またε11,ε12は第1の最大吸収波長λ1におけるHL-とL2-のモル吸光係数である。またε21,ε22は第2の最大吸収波長λ2におけるHL-とL2-のモル吸光係数である。
【0024】
また上記pH演算式に対する補正pH演算式としては、下記の式を用いることができる。
【数6】

【0025】
上記式において、ΔA0は等吸収点吸光度の変化率である。またB1及びB2は最大吸収波長λ1及びλ2における、指示薬分解物質の吸光度(指示薬が全て分解してできた物質の最大吸収波長λ1及びλ2における吸光度)である。この指示薬分解物質の吸光度B1及びB2は、pH指示薬溶液に紫外線を長時間当て、指示薬が分解していく過程で事前に測定することができる。
【0026】
上記式を用いて補正をすると、pH指示薬が劣化して分解して新たにできた指示薬分解物質が、第1及び第2の吸収ピークにおける2つの波長λ1、λ2において光の吸収を持った場合でも、事前に測定して得た指示薬分解物質の吸光度B1及びB2と等吸収点吸光度の変化率ΔA0を用いてpH測定値の補正をするので、従来よりも測定精度を高めることができる。
【0027】
また非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときには、測定セル、光源または受光素子等で異常が発生していると判断してアラーム信号を発生する第1のアラーム信号発生部をさらに備えているのが好ましい。そもそも非吸収吸光度Abは、変化するものではない。したがって非吸収吸光度Abが変化した場合には、測定セル、光源または受光素子等で異常が発生している可能性が高い。しかし温度の影響で、非吸収吸光度Abが変化することは現実にある。そこで非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときに、アラーム信号を発生すれば、アラーム信号の誤発生を防止できる。測定セルの異常とは、例えば測定セル内に気泡が入った場合である。また光源の異常とは、光源の光強度が低下した場合であり、受光素子の異常とは受光素子の感度が大幅に低下した場合等である。
【0028】
またスペクトル測定装置は、測定セルの光透過部に測定光を放射する光源と、光透過部の内部を通過した測定光を受光する受光素子と、受光素子の出力に基づいて吸収スペクトルを測定する測定部とを備えている。この場合において、光源の出力または受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときには、光源または受光素子に異常が発生していることを示すアラーム信号を発生する第2のアラーム信号発生部をさらに設けてもよい。すなわち光源の出力または受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときには、その他の機能が正常であっても、測定結果の精度は大幅に低下する。そこでこのような第2のアラーム信号発生部を設ければ、異常の原因を特定してアラームを発生させることができるので、異常発生に対する対処が容易になる。
【0029】
なお前述の劣化判定部を、第1のアラーム信号発生部及び第2のアラーム信号発生部から共にアラーム信号が入力されていないときに、pH指示薬溶液の劣化と判定するように構成すると、測定精度をさらに高めることができる。
【0030】
さらに非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときに、光源の出力または受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動していないときには、測定セル中のpH指示薬溶液に異常が発生していると判断してアラーム信号を発生する第3のアラーム信号発生部をさらに備えているのが好ましい。このような第3のアラーム信号発生部を設けると、異常の発生原因が測定セル中のpH指示薬溶液にあることを特定するアラームを発生することができるので、異常発生に対する対処が容易になる。
【0031】
発生したアラーム信号でどのような処理を実行するかは任意である。例えば、第3のアラーム信号発生部がpH指示薬溶液の異常をアラームした場合には、測定セル内のpH指示薬溶液を交換するようにすればよい。これを実現するためには、アラーム信号が発生したときに、測定セル中のpH指示薬溶液を交換する交換指令を発生する交換指令発生部と、交換指令が入力されると測定セル内のpH指示薬溶液を交換する指示薬溶液交換装置とをさらに備えればよい。なお交換指令発生部は、アラーム信号が発生したときだけでなく、pH指示薬溶液を交換する必要性があるときには、交換指令を出力する。
【0032】
光源については任意であるが、長期間にわたってバッテリだけで動作する測定装置の場合には、光源における消費電力をできるだけ低減するのが好ましい。そのため光源としては消費電力が少ない発光ダイオードを用いるのが好ましい。しかしながら1個の発光ダイオードは波長が限定されているため、測定用の光源を発光ダイオードにより構成する場合には、光源は波長の異なる複数種類の発光ダイオードが組み合わされて構成する。そして複数種類の発光ダイオードとしては、4種類の波長λ1、λ2,λ0及びλbを測定できるようにそれぞれの波長を選択すればよい。このようにすれば、消費電力の少ない発光ダイオードを用いて、必要な波長を含む光源を実現することができる。
【0033】
前述の指示薬溶液交換装置が用いられる場合には、測定セル及び指示薬溶液交換装置を、スペクトル測定装置により測定を行っている際には、二酸化炭素透過部を通ってpH指示薬溶液を循環させるpH指示薬循環路を形成し、交換指令が入力されると、pH指示薬循環路内のpH指示薬溶液をpH指示薬循環路から排出して、pH指示薬循環路を新たなpH指示薬溶液で満たすように構成することができる。このようにpH指示薬循環路を設けると、測定セル内の二酸化炭素透過部にpH指示薬溶液を繰り返し通過させることができるので、二酸化炭素透過部の長さを短くすることができて、しかも測定のために必要なpH指示薬溶液の量を少なくすることができる。
【0034】
測定セルは、pH指示薬循環路内に配置された二酸化炭素透過部と、光が透過する光透過部と、循環ポンプとを備えたものを用いることができる。また指示薬溶液交換装置は、pH指示薬溶液補給路とpH指示薬循環路との接続部に配置された第1の切換バルブと、pH指示薬溶液排出路とpH指示薬循環路との接続部に配置された第2の切換バルブとを備えたものを用いることができる。この場合、指示薬溶液交換装置は、測定時にpH指示薬溶液補給路及びpH指示薬溶液排出路をpH指示薬循環路から切り離してpH指示薬循環路を閉状態とし、交換指令が入力されると、pH指示薬溶液補給路及びpH指示薬溶液排出路をpH指示薬循環路に接続してpH指示薬循環路を一時的に開状態にした後閉状態に戻すように、第1及び第2の切換バルブを切り換えるように構成する。ここで「閉状態」とは、pH指示薬循環路が閉じた循環路を構成して、指示薬がpH指示薬循環路内を循環できる状態を意味する。また「開状態」とは、pH指示薬循環路がpH指示薬溶液補給路及びpH指示薬溶液排出路に接続されて、pH指示薬循環路内にある指示薬がpH指示薬溶液排出路から排出されて、pH指示薬循環路内にpH指示薬溶液補給路から新しい指示薬を充填できる状態を意味する。上記構造の指示薬溶液交換装置は、第1及び第2の切換バルブだけで、pH指示薬循環路を「閉状態」と「開状態」にすることができるので、指示薬の循環及び交換を簡単な構造で実現できる。
【0035】
また少なくとも第1及び第2の切換バルブ並びに循環ポンプを一枚の絶縁樹脂基板上に実装し、絶縁樹脂基板内にpH指示薬溶液補給路、pH指示薬溶液排出路及びpH指示薬循環路の少なくとも一部を穿孔により形成するのが好ましい。このような構造を採用すると、pH指示薬溶液補給路、pH指示薬溶液排出路及びpH指示薬循環路を形成する場合に必要となる配管の本数を減らすことができるだけでなく、測定装置の構造を簡単にすることができる。
【0036】
本発明の二酸化炭素濃度の測定方法では、H2Lと表されたときに、
【化8】

【0037】
の平衡が成立するpH指示薬溶液に吸収される光の吸収スペクトルを測定する。そして吸収スペクトルから、pH指示薬溶液中のHL-の濃度に相当する第1の最大吸収波長λ1における第1の吸光度A1と、pH指示薬溶液中のL2-の濃度に相当する第2の最大吸収波長λ2における第2の吸光度A2と、pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長における等吸収点吸光度A0と、光の吸収を持たない波長λbの非吸収吸光度Abを求める。そして第1の吸光度A1と非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、第2の吸光度A2と非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、pH指示薬溶液のpH値を演算する基本pH演算式によりpH指示薬溶液のpH値を演算する。そしてpH値から水中の二酸化炭素濃度を求める。この場合において、本発明の水中における二酸化炭素濃度の測定方法においては、等吸収点吸光度A0の変化量を測定し、等吸収点吸光度A0が初期値を基準として予め定めた低下率以上低下すると、pH指示薬溶液が劣化したものと判定する。そしてpH指示薬溶液の劣化を判定した後は、等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を用いて劣化分を補正する補正pH演算式を用いてpH指示薬溶液のpH値を演算する。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、pH指示薬が劣化して分解し、新たにできた物質が、第1及び第2の吸収ピークにおける2つの波長λ1、λ2において光の吸収を持った場合でも、等吸収点吸光度の変化率ΔA0を用いてpH測定値の補正をすることができるので、従来よりも測定精度を高めることができる。また、本発明によれば、pH指示薬の塩基性型と酸性型のスペクトルが2つのピーク波長で重なる指示薬においても測定が可能になる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下図面を参照して、本発明の水中の二酸化炭素濃度測定装置及び方法の実施の形態の一例を説明する。図1は、本発明の方法を実施する二酸化炭素濃度測定装置1の実施の形態の一例の構成を示すブロックである。この装置1は、バッテリBを電源として動作するものであり、水中(海水及び淡水の両方を含む)に浸漬されたときに二酸化炭素は透過するが水は通さない二酸化単相透過部3Aを備えた測定セル3を備えている。測定セル3は、さらに測定光が通過する光透過部3Bを備えている。二酸化炭素透過部3Aとしては、ガス交換膜としての機能を有する、例えばAFテフロンチューブ(商標)を用いることができる。二酸化炭素透過部3Aと光透過部3Bとは、pH指示薬循環路3C内に配置されている。この測定セル内3には、pHが変わると色が変わり、最終的に二酸化炭素濃度が水中の二酸化炭素濃度と等しくなるpH指示薬溶液が充填されている。ここでpH指示薬溶液とは、pH指示薬と溶媒とを混合したものである。本発明で用いるpH指示薬溶液は、チモールブルーやブロモクレゾールパープルのように、H2Lと表されたときに、
【化9】

【0040】
の平衡が成立するものである。pH指示薬循環路3C中には循環ポンプPと指示薬溶液交換装置5とが配置されている。循環ポンプPは、図示しないポンプ制御装置によって駆動され、例えば6時間間隔で動作して、水中から二酸化炭素透過部3Aを通ってpH指示薬溶液中に入った二酸化炭素を含んだpH指示薬溶液を光透過部3Bへと運んでいる。指示薬溶液交換装置5は、交換指令発生部7から後述する交換指令が入力されると、pH指示薬循環路3C内のpH指示薬溶液をpH指示薬溶液タンク9内の未使用のpH指示薬溶液と交換する。なお交換指令発生部7は、測定回数が予め定めた回数に達すると、定期的に交換指令を出力するように構成してもよい。
【0041】
また二酸化炭素測定装置1は、pH指示薬溶液に吸収される光の吸収スペクトルを測定するスペクトル測定装置11を備えている。スペクトル測定装置11は、光源13と、光ファイバからなる第1及び第2の光通路15及び17と、分光光度計を構成する受光素子19と、測定部21とを備えている。光源13の種類は任意である。しかしながら、長期間にわたってバッテリBだけで動作する本実施の形態の二酸化炭素測定装置1の場合には、光源13における消費電力をできるだけ低減する必要がある。そこで本実施の形態では、光源13として、消費電力が少ない発光ダイオードを用いている。しかしながら1個の発光ダイオードは波長が限定される。そのため測定用の光源13は波長の異なる複数種類の発光ダイオードが組み合わされて構成されている。図2は、光源の一例の発光ダイオードの配置を示している。図2に示した光源13では、パラボラ型の反射板DFに7個の発光ダイオードD1〜D7が設けられている。反射板DFは、発光ダイオードD1〜D7から放射された光を収束させるように反射面の形状が定められている。7つの発光ダイオードD1〜D7のうち、3つの発光ダイオードD1〜D3は、白色の発光ダイオードであり、2つの発光ダイオードD4及びD5は、赤色の発光ダイオードであり、発光ダイオードD6は緑色の発光ダイオードであり、発光ダイオードD7は青色の発光ダイオードである。これらの発光ダイオードは、400nm〜700nmの範囲における対応する波長の光を放射する。これらの発光ダイオードD1〜D7の波長は、後述する4つの波長λ1、λ2,λ0及びλbを測定できるようにそれぞれの波長が選択されている。図示していないが、反射板DFの前方(光の放射方向)には、曇りガラスの板が置かれ、発光ダイオードD1〜D7から放射された光は、曇りガラスで混合されて光ファイバからなる光通路15(図1)へと入射される。光通路15に入った光は、測定セル3の光透過部3Bに入射され、光透過部3B内のpH指示薬溶液内を通って光ファイバからなる光通路17に入射し、CCD等からなる受光素子19へと導かれる。測定セル3の光透過部3Bに入射された光の一部は、pH指示薬溶液内の物質により吸光される。その結果、分光光度計を構成する受光素子19で受光された光の吸収スペクトルを測定部21で分析することにより、吸光する物質の吸光度を求めることができる。そこで二酸化炭素測定装置1は、スペクトル測定装置11の測定結果を処理する測定結果処理部23を備えている。測定結果処理部23は、吸光度演算部25と、pH値演算部27と、二酸化炭素濃度決定部29と、劣化判定部31と、第1乃至第3のアラーム信号発生部33,35及び37とを備えている。
【0042】
ここで測定結果処理部23において行う水中の二酸化炭素を測定する原理について説明する。図3は、以下の説明で使用するpH指示薬の吸収スペクトルの例を示す図である。図3の横軸は波長であり、縦軸は吸光度を示している。図3においては曲線C1乃至C4は、pHが異なるpH指示薬溶液の吸収スペクトルをそれぞれ示している。二酸化炭素が水に溶けると酸性になることを利用して二酸化炭素濃度を測定する。測定セル3の二酸化炭素透過部3Aを透過して循環路3C内に入った二酸化炭素は、pH指示薬溶液中に溶けて酸性となる。そこで二酸化炭素が溶けたpH指示薬溶液の色を測定することにより、そのpHが分かり、そのpHから二酸化炭酸濃度を求める。pHを求めるときは、pH指示薬の色、すなわちpH指示薬が持つ光の吸収スペクトルの中から2つの最大吸収波長すなわち第1及び第2の最大吸収波長(図3におけるλ1及びλ2)における吸光度(どれくらい、その波長の光を吸収しているか)を測定する。一般的にpH指示薬が持つ2つの最大吸収波長は、440nm〜580nm付近にある。この2波長における吸光度の比から、後に詳しく説明する計算式を用いてpHを計算する。なお本実施の形態では、第1及び第2の最大吸収波長λ1及びλ2の他に、pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長λ0と、光の吸収を持たない波長λbとを利用する。そのために本実施の形態で用いる光源13は、光の吸光が無くなる(吸光度が0になる)670nmよりも長い波長まで照射できる必要がある。
【0043】
吸光度は、光を吸収しない状態(pH指示薬のない状態)の光の強さを基準として、光がpH指示薬を通ったときにどのくらい光が減衰したかを示す値である。光源から出る光の第1及び第2の最大吸収波長λ1及びλ2付近の光量が少ない場合には、光がpH指示薬に吸収されて減衰したときに、さらにその付近の波長の光量が少なくなり、相対的に光の出力に対する測定機器のノイズが大きくなって測定精度が落ちることになる。また光の強さが急激に変化している波長領域では、分光光度計を構成する受光素子19の1つの受光素子部が受け持つ波長幅Δxの中で光量の差Δfがあるため、振動や温度変化によるわずかなΔxの変化によってΔf/Δxが変化しやすくなって測定精度が落ちる原因となる。そこで前述の光源13では、複数種類の発光ダイオードを用いて、必要な波長の範囲の光を含み且つ、第1及び第2の最大吸収波長付近に必要十分な光量を確保できる光源を用意している。
【0044】
図1に戻って、吸光度演算部25は、スペクトル測定装置11の測定部21で測定した吸収スペクトルから、pH指示薬溶液中のHL-の濃度に相当する第1の最大吸収波長λ1における第1の吸光度A1と、pH指示薬溶液中のL2-濃度に相当する第2の最大吸収波長λ2における第2の吸光度A2と、pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長λ0における等吸収点吸光度A0と、光の吸収を持たない波長λbの非吸収吸光度Abを演算する。そしてpH値演算部27は、第1の吸光度A1と非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、第2の吸光度Aと非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、pH指示薬溶液のpH値を演算する下記の基本pH演算式によりpH指示薬溶液のpH値を演算する。
【0045】
基本pH演算式の一例は、下記の通りである。
【数7】

【0046】
上記式は、pH指示薬をH2Lとしたときに、
【化10】

【0047】
の平衡が成立することを前提とする。Hはプロトンで、Lは塩基イオンである。この場合において、pKaはpH指示薬の乖離定数である。またε11,ε12は第1の最大吸収波長λ1におけるHL-とL2-のモル吸光係数である。そしてε21,ε22は第2の最大吸収波長λにおけるHL-とL2-のモル吸光係数である。pH演算部27には、使用するpH指示薬に応じて、予めpKaの定数、ε11,ε12,ε21及びε22の係数が記憶されている。また上記式を用いた演算は、マイクロコンピュータを用いて実行される。そして二酸化炭素濃度決定部29は、予め使用するpH指示薬溶液と溶解されている二酸化炭素濃度との関係を測定して求めたデータテーブルを参照して、pH値から水中の二酸化炭素濃度を求める。二酸化炭素濃度決定部29が決定した二酸化炭素濃度は、内蔵するメモリ内に保存される。そして定期的に、メモリに記憶した二酸化炭素濃度のデータは、送信装置39から監視センターに送信される。
【0048】
本実施の形態では、劣化判定部31が、さらに等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を測定する。そして劣化判定部31は、吸収点吸光度A0が初期値を基準として予め定めた変化率以上低下すると、pH指示薬溶液が劣化したものと判定する。吸収点吸光度Aは、pH指示薬の濃度が変わると変化するので、変化率ΔA0を見ることにより、劣化状態が判断できる。前述の初期値は測定を開始した初期の等吸収点吸光度A0の値をメモリに記憶しておく。そして所定時間間隔(例えば6時間間隔)で周期的に測定を繰り返していく過程で、初期値に対する吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を演算する。具体例では、初期値に対して1%以上吸収点吸光度A0の変化率ΔA0が低下した場合には、pH指示薬溶液が劣化したものと判定することができる。なおこの基準は、使用するpH指示薬によって異なり、また使用環境の温度によっても異なる。本実施の形態では、さらに判定精度を高めるために、後述する第1のアラーム信号発生部33及び第2のアラーム信号発生部35の両方からアラーム信号が出されていない場合のみ、劣化判定部31はpH指示薬溶液が劣化したと判定する。
【0049】
pH値演算部27は、劣化判定部31がpH指示薬溶液の劣化を判定した後は、等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を用いて劣化分を補正する下記の補正pH演算式を用いてpH指示薬溶液のpH値を演算する。
【数8】

【0050】
上記式において、B1及びB2は最大吸収波長λ1及びλ2における、指示薬分解物質の吸光度(指示薬が全て分解したときの値)である。このB1及びB2は、事前に指示薬に紫外線を長時間当て、指示薬が分解していく過程で求めておくことになる。第1の吸光度A1及び第2の吸光度A2が、指示薬の劣化によりA1´及びA2´に変化したとすると、A1´=A1−B1、2´=A2−B2の関係が成立する。この関係は図4に示す通りである。上記式に中において、(1−ΔA0)B2と(1−ΔA0)B1とが指示薬分解物質の分解分に相当する。上記式を用いると、pH指示薬が劣化して分解して新たにできた物質が、第1及び第2の吸収ピークにおける2つの波長λ1、λ2において光の吸収を持った場合でも、等吸収点吸光度の変化率ΔA0を用いてpH測定値の補正をすることができるので、従来よりも測定精度を高めることができる。
【0051】
下記の表1は、上記式を用いて補正を行うことが有効であることを確認するために行った計算結果を示している。下記の計算結果では、上記式補正pH演算式中のB1を0.03とし、B2を0.01とし、pKa及びεはpH指示薬(チモールブルー)の値を使用している。
【表1】

【0052】
上記例では、pH指示薬溶液中の二酸化炭素濃度が一定(pHが一定)であるとの条件を前提としている。補正がない吸光度A1、A2(実測値)は、指示薬分解物質が吸収波長λ1、λ2において光の吸収を持つので、pH指示薬の吸光度に指示薬分解物質の吸光度が加えられた実測値となる。そのため、指示薬の分解が進むにつれ(ΔA0の値が小さくなるにつれ)、A1/A2の値は、分解前の値よりも小さくなる。補正式では、指示薬分解物質の吸光度B1,B2に基づく分解分を差し引くので、指示薬が分解してもA1、A2双方が同じ割合で減少するため、たとえ指示薬が50%分解しても(ΔA0の値が0.5になっても)pHの値は変わらなかった。実測値(補正がない値)と補正値がどれくらい異なるかを、上記表の1番右のカラムの「差」の欄に示す。試験に用いた二酸化炭素測定装置は、0.001pHの分解能を持つので、10%の分解から(ΔA0の値が0.1になったとき)すでに検知可能なほどの差が存在する。例えば30%分解時のpH差は0.012となり、この値は二酸化炭素に換算すると10μatm以上の差となり、装置の測定精度の5倍以上となる。したがって上記式を用いて補正をすることが、装置の測定精度の維持に有効であることが分かる。上記演算式及び補正式を用いると、pH指示薬の塩基性L2-とHL-のスペクトルが2つのピーク波長で重なる(同じになる)指示薬においても測定が可能である。
【0053】
下記の表2は、pH指示薬の塩基性L2-とHL-のスペクトルが2つのピーク波長で重なる(同じになる)指示薬においても、上記式を用いて補正を行うことが有効であることを確認するために行った計算結果を示している。下記表2の計算結果では、補正pH演算式中のB1を0.08とし、B2を0.05とし、pKa及びεはpH指示薬(ブロモクレゾールパープル)の値を使用している。
【表2】

【0054】
上記表2の例でも、表1の場合と同様に、pH指示薬溶液中の二酸化炭素濃度が一定(pHが一定)であるとの条件を前提としている。補正がない吸光度A1、A2(実測値)は、指示薬分解物質が吸収波長λ1、λ2において光の吸収を持つので、pH指示薬の吸光度に指示薬分解物質の吸光度が加えられた実測値となる。そのため、指示薬の分解が進むにつれ(ΔA0の値が小さくなるにつれ)、A1/A2の値は、分解前の値よりも小さくなる。補正式では、指示薬分解物質の吸光度B1,B2に基づく分解分を差し引くので、指示薬が分解してもA1、A2双方が同じ割合で減少するため、たとえ指示薬が50%分解しても(ΔA0の値が0.5になっても)pHの値は変わらなかった。実測値(補正がない値)と補正値がどれくらい異なるかを、上記表2の1番右のカラムの「差」の欄に示す。
【0055】
図1に示すように、本実施の形態では、非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときには、測定セル3、光源13または受光素子19等で異常が発生していると判断してアラーム信号を発生する第1のアラーム信号発生部33をさらに備えている。そもそも非吸収吸光度Abは、変化するものではない。したがって非吸収吸光度Abが変化した場合には、測定セル3、光源13または受光素子19等で異常が発生している可能性が高い。しかし温度の影響で、非吸収吸光度Abが変化することは現実にある。そこで非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上(具体的には、例えば1%以上)低下しているときに、アラーム信号を発生すれば、アラーム信号の誤発生を防止できる。ここで測定セル3の異常とは、例えば測定セル3内の光透過部3Bに気泡が入っている場合や、また水が混入する場合である。また光源13の異常とは、光源13の電源の故障により電圧が低下する場合や、断線が発生して、光強度(光量)が低下した場合である。受光素子19の異常とは受光素子の感度が大幅に低下した場合等である。
【0056】
また本実施の形態では、光源13の出力または受光素子19の出力が初期値(使用開始前に測定装置を検査している段階で測定した値)を基準にして予め定めた変動率(数%:例えば1〜3%)以上変動(低下)しているときには、光源13または受光素子19に異常が発生していることを示すアラーム信号を発生する第2のアラーム信号発生部35をさらに備えている。すなわち光源13の出力または受光素子19の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときには、その他の機能が正常であっても、測定結果の精度は大幅に低下する。そこでこのような第2のアラーム信号発生部35を設ければ、異常の原因を特定してアラームを発生させることができるので、異常発生に対する対処が容易になる。
【0057】
さらに非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率(例えば1%)以上変動しているときに、光源13の出力または受光素子19の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率(数%:例えば1〜3%)以上低下していないときには、測定セル中のpH指示薬溶液に異常が発生していると判断してアラーム信号を発生する第3のアラーム信号発生部37をさらに備えている。このような第3のアラーム信号発生部37を設けると、異常の発生原因が測定セル3中のpH指示薬溶液にあることを特定するアラーム信号を発生することができるので、異常発生に対する対処が容易になる。
【0058】
発生したアラーム信号でどのような処理を実行するかは任意である。例えば、第3のアラーム信号発生部37がpH指示薬溶液の異常をアラームした場合には、測定セル3内のpH指示薬溶液を交換するようにすればよい。これを実現するためには、第3のアラーム信号発生部37が発生したアラーム信号を交換指令発生部7に入力する。このようにすると交換指令発生部7は、測定セル3中のpH指示薬溶液を交換する交換指令を指示薬溶液交換装置5に出力し、指示薬溶液交換装置5は交換指令が入力されると、測定セル3内のpH指示薬溶液を交換する動作を行う。なお交換作業が開始されたときまたは終了したときに、第1乃至第3のアラーム信号発生部33,35及び37をリセットする。また劣化判定部31をリセットして、pH値演算部27で使用する演算式を基本pH演算式に戻すことが行われる。
【0059】
第1及び第2のアラーム信号発生部33及び35が、単独でアラーム信号を発生した場合には、送信装置39にアラーム信号が送られる。送信装置39は、アラーム信号を受信すると、アラームの内容を含めた情報を遠隔地にある監視センターへと送信する。監視センターでは、アラームの内容を見て、送信されてくるデータの使用中止を決定したり、修理のための手配を行う。
【0060】
図5は、本発明の方法を図1の測定装置において実施する場合にコンピュータを用いるときに使用するプログラムの一回の測定における劣化の判定とアラーム信号の発生に関する部分のアルゴリズムを示すフローチャートである。ステップST1では、pH指示薬溶液に吸収される光の吸収スペクトルを測定する。そして吸収スペクトルから、pH指示薬溶液中のHL-の濃度に相当する第1の最大吸収波長λ1における第1の吸光度A1と、pH指示薬溶液中のL2-の濃度に相当する第2の最大吸収波長λ2における第2の吸光度A2と、pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長における等吸収点吸光度A0と、光の吸収を持たない波長λbの非吸収吸光度Abを求める。そして第1の吸光度A1と非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、第2の吸光度A2と非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、pH指示薬溶液のpH値を演算する基本pH演算式によりpH指示薬溶液のpH値を演算する。
【0061】
そしてステップST2では、等吸収点吸光度A0が増加しているか否かを判定する。等吸収点吸光度A0が増加することは、光源異常や気泡の混入等が発生しない限り生じることはないので、Yesの場合には、ステップST3へと進んで異常アラームを発生する。等吸収点吸光度A0が増加していない場合にはステップST4へと進む。ステップST4では、初期値に対する等吸収点吸光度A0の変動率を演算する。具体例では、初期値に対して1%以上等吸収点吸光度A0が低下していない場合には、ステップST5へと進んで、基本pH演算式でpHを決定した後、そのpHに基づいて二酸化炭素濃度を演算する。そしてその結果をメモリに保存して終了する。ステップST4で、初期値に対して1%以上等吸収点吸光度A0が低下していることを判定すると、ステップST6へと進んで、非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率(1%)以上変動(変動)しているか否かが判定される。変動している場合には、ステップST7へと進んで光源13の光量が大幅に変化(数%以上変化)しているか否かが判定される。なお光源13の出力の大幅な変化は、受光素子19の出力の変化によって判断してもよい。ステップST7で、受光素子の光源13の光量が大幅に変化(数%以上変化)していない場合には、ステップST8においてpH指示薬溶液中に気泡が入っているとか、pH指示薬溶液の劣化が使用するのに不適切なほどに進行している等の異常が発生していると判断する。この判断がなされると、交換指令発生部7へアラーム信号が出力される。その結果、測定セル3内のpH指示薬溶液が交換される。ステップST7で、光源13の異常(または受光素子の異常)が判定されるとステップST9に進んで、光源異常の報告をするアラーム信号が発生する。
【0062】
ステップST6において、非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率(1%)以上変動(低下)していないことが判定された場合には、ステップST10へと進む。ステップST10では、ステップST7と同様に、光源13の光量が大幅に変化(数%以上変化)しているか否かが判定される。そしてその判定結果がYesであれば、ステップST9へと進み、NoであればステップST11へと進む。ステップST11では、pH指示薬溶液の劣化が、pH演算において補正が必要な程度まで進んでいると判断する。そしてステップST12へと進んで、以後は補正用演算式を用いてpHの演算が実行される。そしてステップST12からステップST5へと進んで、ステップST5中の濃度決定ステップを利用して二酸化炭素濃度の決定がなされて測定が終了する。以後、この測定が所定時間間隔ごとに実行される。
【0063】
図1の実施の形態と図5に示したフローチャートでは、pH指示薬溶液の劣化を最終的に判断する前に、劣化以外の原因で等吸収点吸光度A0が変化していることを判定するので、測定精度はかなり高いものとなる。しかしながら原理的には、等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0が予め定めた低下率以上低下すると、pH指示薬溶液が劣化したものと判定してもよい。その場合には、第1乃至第3のアラーム信号発生部33,35及び37は不要である。また交換指令発生部7は、定期的に交換指令を発生するように構成すればよい。
【0064】
また上記実施の形態で用いた二種類の演算式と異なる演算式を用いる場合であっても、本発明を適用することができるのは勿論である。
【0065】
上記実施の形態によれば、様々な温度においても安定に測定できる。このことは、図6に示す測定データからも分かる。図6は、温度が変わった場合における二酸化炭素濃度の測定結果の変化を示している。温度が変わった場合においても、測定結果の変化の直線性は変わることがない。したがって相対的に見れば、様々な温度においても安定に測定できることが分かる。
【0066】
図7は、pH指示薬溶液の使用量を少なくする場合に用いる指示薬溶液の交換システムの要部の構成を示している。このシステムでは測定セル103及び指示薬溶液交換装置105を、前述のスペクトル測定装置により測定を行っている際には、二酸化炭素透過部103A、光透過部103B及び循環ポンプPを通ってpH指示薬溶液を循環させるpH指示薬循環路103Cを形成するように構成する。指示薬溶液交換装置105は、pH指示薬溶液補給路FP0とpH指示薬循環路103Cとの接続部に配置された第1の切換バルブV1と、pH指示薬溶液排出路FP6とpH指示薬循環路103Cとの接続部に配置された第2の切換バルブV2とを備えている。第1及び第2の切換バルブV1及びV2は、それぞれ三方向バルブによって構成されている。pH指示薬循環路103Cは、第1の切換バルブV1と第2の切換バルブBV2との間に位置する流路FP1と、第1の切換バルブV1と循環ポンプPとの間に位置する流路FP2、循環ポンプPと二酸化炭素透過部103Aとの間に位置する流路FP3と、二酸化炭素透過部103Aと光透過部103Bとの間に位置する流路FP4と、光透過部103Bと第2の切換バルブV2との間に位置する流路FP5とから構成されている。この例では、二酸化炭素透過部103Aを、AFテフロンチューブ(商標)によって構成する。
【0067】
指示薬溶液交換装置105は、測定時には、第1及び第2の切換バルブV1及びV2を第1の状態に切り換えて、pH指示薬溶液補給路FP0及びpH指示薬溶液排出路FP6をpH指示薬循環路103Cから切り離し、pH指示薬循環路103Cを閉状態とする。そして交換指令が入力されると、第1及び第2の切換バルブV1及びV2を第2の状態に切り換えて、pH指示薬溶液補給路FP0及びpH指示薬溶液排出路FP6をpH指示薬循環路103Cに接続してpH指示薬循環路103Cを一時的に開状態にした後、第1及び第2の切換バルブV1及びV2を第1の状態に戻し、pH指示薬循環路103Cを再び閉状態とする。
【0068】
指示薬溶液交換装置105は、第1及び第2の切換バルブV1及びV2だけで、pH指示薬循環路を「閉状態」と「開状態」にすることができるので、指示薬の循環及び交換を簡単な構造で実現できる。また交換指令が入力されていると、pH指示薬循環路103C内のpH指示薬溶液をpH指示薬循環路から排出して、pH指示薬循環路を新たなpH指示薬溶液で満たすように構成することができる。このようなpH指示薬循環路103Cを設けると、測定セル103C内の二酸化炭素透過部103AにpH指示薬溶液を繰り返し通過させることができるので、二酸化炭素透過部103Aの長さを短くすることができて、しかも測定のために必要なpH指示薬溶液の量を少なくすることができる。
【0069】
図8(A)及び(B)は、第1及び第2の切換バルブV1及びV2、循環ポンプP並びに塩分及び温度測定センサー111の主要部分を一枚の絶縁樹脂基板SB上に実装したユニット(アクリルマニホールド)の一例の平面図及び右側面図を示している。絶縁樹脂基板SBは、透明な絶縁樹脂基板により形成されている。このような絶縁樹脂基板として、本例では、アクリル基板を用いている。絶縁樹脂基板SB内にpH指示薬溶液補給路FP0、pH指示薬溶液排出路FP6及びpH指示薬循環路103Cの少なくとも一部(FP1、FP2、FP3、FP5)を穿孔により形成している。このようなユニット(アクリルマニホールド)構造を採用すると、pH指示薬溶液補給路FP0、pH指示薬溶液排出路FP6及びpH指示薬循環路103Cを形成する場合に必要となる配管の本数及びコネクタの数を減らすことができ、漏洩が発生する箇所を減らすことができて、測定装置の構造を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の方法を実施する二酸化炭素濃度測定装置の実施の形態の一例の構成を示すブロック図である。
【図2】光源の一例の発光ダイオードの配置を示す図である。
【図3】pH指示薬の吸収スペクトルの例を示す図である。
【図4】指示薬分解物質の吸光度と他の吸光度の関係の一例を示す図である。
【図5】本発明の方法を図1の測定装置において実施する場合にコンピュータを用いるときに使用するプログラムの一回の測定における劣化の判定とアラーム信号の発生に関する部分のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図6】温度が変わった場合における二酸化炭素濃度の測定結果の変化を示す図である。
【図7】pH指示薬溶液の使用量を少なくする場合に用いる指示薬溶液の交換システムの要部の構成を示す図である。
【図8】(A)及び(B)は、第1及び第2の切換バルブ、循環ポンプ並びにスペクトル測定装置の主要部分を一枚の絶縁樹脂基板上に実装したユニット(アクリルマニホールド)の一例の平面図及び右側面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 二酸化炭素濃度測定装置
3 測定セル
5 指示薬溶液交換装置
7 交換指令発生部
9 pH指示薬溶液タンク
11 スペクトル測定装置
13 光源
15 光通路
17 光通路
19 受光素子
21 測定部
23 測定結果処理部
25 吸光度演算部
27 pH値演算部
29 二酸化炭素濃度決定部
31 劣化判定部
33〜37 第1乃至第3のアラーム信号発生部
39 送信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に浸漬されたときに二酸化炭素は透過するが水は通さない二酸化炭素透過部を備えた測定セルと、
前記測定セル内に充填され、pHが変わると色が変わり、最終的に二酸化炭素濃度が前記水中の二酸化炭素濃度と等しくなり、且つH2Lと表されたときに、
【化1】

の平衡が成立するpH指示薬溶液と、
前記pH指示薬溶液に吸収される光の吸収スペクトルを測定するスペクトル測定装置と、
前記吸収スペクトルから、前記pH指示薬溶液中の前記HL-の濃度に相当する第1の最大吸収波長λ1における第1の吸光度A1と、前記pH指示薬溶液中の前記L2-の濃度に相当する第2の最大吸収波長λ2における第2の吸光度A2と、前記pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長における等吸収点吸光度A0と、光の吸収を持たない波長λbの非吸収吸光度Abを求める吸光度演算部と、
前記第1の吸光度A1と前記非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、前記第2の吸光度A2と前記非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、前記pH指示薬溶液のpH値を演算する基本pH演算式により前記pH指示薬溶液のpH値を演算するpH値演算部と、
前記pH値から前記水中の二酸化炭素濃度を求める二酸化炭素濃度決定部とからなる水中における二酸化炭素濃度の測定装置であって、
前記等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を演算し、前記変化率ΔA0が予め定めた低下率以上低下すると、前記pH指示薬溶液が劣化したものと判定する劣化判定部をさらに備え、
前記pH値演算部は、前記劣化判定部が前記pH指示薬溶液の劣化を判定した後は、前記変化率ΔA0に基づいて劣化分を補正する補正pH演算式を用いて前記pH指示薬溶液のpH値を演算することを特徴とする水中における二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項2】
前記基本pH演算式は、下記の通りであり、
【数1】

上記式において、pKaは前記pH指示薬の乖離定数であり、ε11,ε12は第1の最大吸収波長λ1におけるHL-とL2-のモル吸光係数であり、ε21,ε22は第2の最大吸収波長λ2におけるHL-とL2-のモル吸光係数であり、
前記補正pH演算式は、下記の通りであり、
【数2】

上記式において、ΔA0は前記等吸収点吸光度の変化率であり、B1及びB2は最大吸収波長λ1及びλ2における、指示薬分解物質の吸光度である請求項1に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項3】
前記非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた低下率以上低下しているときには、異常が発生していると判断してアラームを発生する第1のアラーム信号発生部をさらに備えている請求項1または2に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項4】
前記スペクトル測定装置は、前記測定セルに測定光を放射する光源と、前記測定セルの内部を通過した前記測定光を受光する受光素子と、前記受光素子の出力に基づいて前記吸収スペクトルを測定する測定部とを備えている請求項1,2または3に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項5】
前記光源の出力または前記受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた低下率以上低下しているときに、前記光源または前記受光素子に異常が発生していることを示すアラーム信号を発生する第2のアラーム信号発生部をさらに備えている請求項4に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項6】
前記非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動していることを前提に動作するときに、前記光源の出力または前記受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動していないときには、前記測定セル中の前記pH指示薬溶液に異常が発生していると判断してアラーム信号を発生する第3のアラーム信号発生部をさらに備えている請求項4に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項7】
前記測定セル中の前記pH指示薬溶液を交換する交換指令を発生する交換指令発生部と、
前記交換指令が入力されると前記測定セル内のpH指示薬溶液を交換する指示薬溶液交換装置とをさらに備えている前記請求項1または6に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項8】
前記スペクトル測定装置は、前記測定セルに測定光を放射する光源と、前記測定セル内の光透過部を通過した前記測定光を受光する受光素子と、前記受光素子の出力に基づいて前記吸収スペクトルを測定する測定部とを備え、
前記非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときには、異常が発生していると判断してアラームを発生する第1のアラーム信号発生部と、
前記光源の出力または前記受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときに、前記光源または前記受光素子に異常が発生していることを示すアラーム信号を発生する第2のアラーム信号発生部とをさらに備え、
前記劣化判定部は、前記第1のアラーム信号発生部及び第2のアラーム信号発生部から共に前記アラーム信号が入力されていないときに、前記pH指示薬溶液の劣化と判定する請求項1に記載の二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項9】
前記光源は波長の異なる複数種類の発光ダイオードが組み合わされて構成され、且つ前記複数種類の発光ダイオードは4種類の前記波長λ1、λ2,λ0及びλbを測定できるようにそれぞれの波長が定められている請求項4に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項10】
前記測定セル及び前記指示薬溶液交換装置は、前記スペクトル測定装置により測定を行っている際には、前記二酸炭素透過部を通って前記pH指示薬溶液を循環させるpH指示薬循環路を形成し、前記交換指令が入力されると、前記pH指示薬循環路内の前記pH指示薬溶液を前記pH指示薬循環路から排出して、前記pH指示薬循環路を新たなpH指示薬溶液で満たすように構成されている請求項7に記載の二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項11】
前記測定セルは、前記pH指示薬循環路内に配置された前記二酸化炭素透過部と、前記光が透過する光透過部と、前記循環ポンプとを備えており、
前記指示薬溶液交換装置は、pH指示薬溶液補給路と前記pH指示薬循環路との接続部に配置された第1の切換バルブと、pH指示薬溶液排出路と前記pH指示薬循環路との接続部に配置された第2の切換バルブとを備え、測定時に前記pH指示薬溶液補給路及び前記pH指示薬溶液排出路を前記pH指示薬循環路から切り離して前記pH指示薬循環路を閉状態とし、前記交換指令が入力されると、前記pH指示薬溶液補給路及び前記pH指示薬溶液排出路を前記pH指示薬循環路に接続して前記pH指示薬循環路を一時的に開状態にした後閉状態に戻すように前記第1及び第2の切換バルブを切り換えることを特徴とする請求項10に記載の二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項12】
少なくとも前記第1及び第2の切換バルブ並びに前記循環ポンプが一枚の絶縁樹脂基板上に実装され、前記絶縁樹脂基板内には前記pH指示薬溶液補給路、前記pH指示薬溶液排出路及び前記pH指示薬循環路の少なくとも一部が穿孔により形成されていることを特徴とする請求項11に記載の二酸化炭素濃度の測定装置。
【請求項13】
二酸化炭素は透過するが水は通さない二酸化炭素透過部を備えた測定セルを水中に浸漬し、前記測定セルにはpHが変わると色が変わり、最終的に二酸化炭素濃度が前記水中の二酸化炭素濃度と等しくなり、且つH2Lと表されたときに、
【化2】

の平衡が成立するpH指示薬溶液を入れ、
前記pH指示薬溶液に吸収される光の吸収スペクトルを測定し、
前記吸収スペクトルから、前記pH指示薬溶液中のHL-の濃度に相当する第1の最大吸収波長λ1における第1の吸光度A1と、前記pH指示薬溶液中の前記L2-に相当する第2の最大吸収波長λ2における第2の吸光度A2と、前記pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長における等吸収点吸光度A0と、光の吸収を持たない波長λbの非吸収吸光度Abを求め、
前記第1の吸光度A1と前記非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、前記第2の吸光度A2と前記非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、前記pH指示薬溶液のpH値を演算する基本pH演算式により前記pH指示薬溶液のpH値を演算し、
前記pH値から前記水中の二酸化炭素濃度を求める水中における二酸化炭素濃度の測定方法であって、
前記等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を演算し、前記変化率ΔA0が予め定めた低下率以上低下すると、前記pH指示薬溶液が劣化したものと判定し、前記pH指示薬溶液の劣化を判定した後は、前記等吸収点吸光度A0の前記変化率ΔA0を用いて劣化分を補正する補正pH演算式を用いて前記pH指示薬溶液のpH値を演算することを特徴とする水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項14】
前記基本pH演算式は、下記の通りであり、
【数3】

上記式において、前記pH指示薬をH2Lとしたときに、
【化3】

の平衡が成立する場合において、pKaは前記pH指示薬の乖離定数であり、ε11,ε12は第1の最大吸収波長λ1におけるHL-とL2-のモル吸光係数であり、ε21,ε22は第2の最大吸収波長λ2におけるHL-とL2-のモル吸光係数であり、
前記補正pH演算式は、下記の通りであり、
【数4】

上記式において、ΔA0は等吸収点における吸光度の変化率であり、B1及びB2は最大吸収波長λ1及びλ2における、指示薬分解物質の吸光度である請求項13に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項15】
前記非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときには、異常が発生していると判断してアラーム信号を発生する請求項13または14に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項16】
前記測定セルの光透過部に光を照射する光源と、前記光透過部内を透過した前記光を受光する受光素子を備え、
前記光源の出力または前記受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときに、前記光源または前記受光素子に異常が発生していることを示すアラーム信号を発生する請求項13に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項17】
前記測定セルに光を照射する光源と、前記測定セル内と透過した前記光を受光する受光素子を備え、
前記非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しているときに、前記光源の出力または前記受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動していないときには、前記測定セル中の前記pH指示薬溶液に異常が発生していると判断してアラーム信号を発生する請求項13に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項18】
前記アラーム信号が発生すると、前記測定セル中の前記pH指示薬溶液を交換する指令を発生する請求項17に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項19】
前記アラーム信号が発生すると、二酸化炭素濃度の測定を中止する請求項16または17に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項20】
前記測定セルの前記光透過部に光を照射する光源と、前記光透過部を透過した前記光を受光する受光素子を備え、
前記非吸収吸光度Abが初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動しておらず、しかも前記光源の出力または前記受光素子の出力が初期値を基準にして予め定めた変動率以上変動していないときに、前記等吸収点吸光度A0が初期値を基準として変動率以上変動すると、前記pH指示薬溶液が劣化したものと判定する請求項13に記載の水中における二酸化炭素濃度の測定方法。
【請求項21】
二酸化炭素は透過するが水は通さない二酸化炭素透過部を備えた測定セルを水中に浸漬し、前記測定セルにはpHが変わると色が変わり、最終的に二酸化炭素濃度が前記水中の二酸化炭素濃度と等しくなり、且つH2Lと表されたときに、
【化4】

の平衡が成立するpH指示薬溶液を入れ、
前記pH指示薬溶液に吸収される光の吸収スペクトルを測定し、
前記吸収スペクトルから、前記pH指示薬溶液中の前記HL-の濃度に相当する第1の最大吸収波長λ1における第1の吸光度A1と、前記pH指示薬溶液中の前記L2-濃度に相当する第2の最大吸収波長λ2における第2の吸光度A2と、前記pH指示薬溶液中のpHが変化しても吸光度が変化しない等吸収点の波長における等吸収点吸光度A0と、光の吸収を持たない波長λbの非吸収吸光度Abを求め、
前記第1の吸光度A1と前記非吸収吸光度Abとの差(A1−Ab)と、前記第2の吸光度A2と前記非吸収吸光度Abとの差(A2−Ab)との比(A1−Ab)/(A2−Ab)に基づいて、前記pH指示薬溶液のpH値を演算する基本演算式により前記pH指示薬溶液のpH値を演算し、
演算により求めた前記pH値から前記水中の二酸化炭素濃度を求める水中における二酸化炭素濃度の測定方法であって、
前記等吸収点吸光度A0の変化率ΔA0を演算し、前記変化率ΔA0が予め定めた低下率以上低下すると、前記pH指示薬溶液が劣化したものと判定することを特徴とする水中における二酸化炭素濃度の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−198488(P2009−198488A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289353(P2008−289353)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度地球観測技術等調査研究委託事業「二酸化炭素センサーの開発と観測基盤構築」
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【Fターム(参考)】