説明

水中の有機酸回収方法

【課題】有機酸を低濃度で含有する水溶液から有機酸を回収する経済的な方法を提供する。
【解決手段】式(1)


(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜20のアルキル基を表し、R3は水素原子またはメチル基を表す。)
で示されるアミンと炭素数10〜50のアルコールを含む液を抽出剤として用いることを特徴とする、有機酸を含む水からの有機酸の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸などの有機酸を微量に含有する水溶液から低エネルギーコストで有機酸を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機酸が溶解した水溶液から有機酸を回収する方法としては、一般的には蒸留による回収方法が挙げられる。しかし、有機酸含有水溶液中の有機酸が低濃度である場合は、蒸留により有機物を回収するには多くのエネルギーを要し、回収コストが見合わないことが多い。多くの場合、水よりも有機酸のほうが高沸点であり、蒸留により分離するには大量の水を気化させる必要があり、これに多大のエネルギーを要するからである。
【0003】
有機酸含有水溶液からアミンと有機溶剤の混合液を用いて有機酸を抽出する方法は、かなり検討されている(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1)。これらの多くはアミンとして三級アミンを用い、溶剤として炭素数8以下のアルコールを用いている。確かに、これらの組み合わせでは有機物の抽出率が高くなる。ただし、この場合アルコールが水に溶解する。炭素数8のアルコールも少し溶解する。溶解するということはそれだけ失われるということであり、外部より追加しなければならない。この量が少量であっても、回収すべき有機物が希薄であれば、回収の意味がなくなる。
【0004】
アミンと溶剤の混合液により抽出した有機酸を回収する方法については、特許文献2に酸/アミン複合体をアルコールで抽出し、酸とアルコールからエステルを形成する方法が開示されている。ただし、エステルは最終生成物ではなく、さらに水素化、エステル交換、加水分解などの処理を行うとしており、かなり複雑である。
【0005】
また、特許文献3には、有機酸を含有する水溶液からアミンと石油系炭化水素の混合物により有機酸を抽出し、加熱蒸留またはNa、Mg、NH3等の含有液との接触により回収することが開示されている。具体的な抽出方法は示されていないが、抽出率は50%程度であり、抽出平衡とすればあまり高くない。加熱蒸留については、物性値から分離可能としているが、具体的な結果は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第19747791号明細書
【特許文献2】特表2007−522136号公報
【特許文献3】特公昭62−21561号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ind.Eng.Chem.Res.1990,29,1319
【非特許文献2】Ind.Eng.Chem.Res.2002,41,2745
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有機酸を低濃度で含有する水溶液から有機酸を回収する経済的な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、炭素数10〜20のアルキル基を2つ有するアミンを炭素数10以上のアルコールと混合または溶解させた液を抽出剤として用いることにより、該アミンおよびアルコールが上記有機酸を含有する水溶液にほとんど溶出すること無く、上記有機酸を効率よく抽出でき、かつ抽出した有機酸は蒸留などの一般的な方法で回収が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[12]に関する。
[1] 式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜20のアルキル基を表し、R3は水素原子またはメチル基を表す。)
で示されるアミンを含む液を抽出剤として用いることを特徴とする、有機酸を含む水からの有機酸の回収方法。
[2] 式(1)で示されるアミンを含む抽出剤がさらに炭素数10〜50のアルコールを含むものである前記[1]に記載の有機酸の回収方法。
[3] 有機酸を含む水と前記抽出剤とを接触させ、水中から有機酸をアミン塩として前記抽出剤へ抽出し、得られた抽出液を分解蒸留することにより、低沸成分として有機酸を回収する前記[1]または[2]に記載の有機酸の回収方法。
[4] 0〜150℃の温度で抽出を行う前記[3]に記載の有機酸の回収方法。
[5] 前記分解蒸留を、120℃以下で行う主に水を溜去する1段目の蒸留と、130℃以上で行う主に有機酸を溜去する2段目の蒸留との2段階で行う前記[3]に記載の有機酸の回収方法。
[6] 前記蒸留を、圧力0.02MPa以下の減圧下で行う前記[3]〜[5]のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
[7] 式(1)で示されるアミンの量が水中の有機酸に対して当モル以上である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
[8] 有機酸を含む水中の有機酸の濃度が0.01〜10.0質量%である前記[1]〜[7]のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
[9] 前記抽出剤中の式(1)で示されるアミンの濃度が3〜80質量%である前記[1]〜[8]のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
[10] 前記有機酸が酢酸である前記[1]〜[9]のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
[11] 式(1)で示されるアミンのR3が水素原子である前記[1]〜[10]のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
[12] 式(1)で示されるアミンがジドデシルアミンまたはジデシルアミンである前記[1]〜[11]のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
[13] 炭素数10〜50のアルコールが2−オクチル−1−ドデカノールである前記[2]〜[12]のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、抽出剤に用いたアミンおよびアルコールが、有機酸を含有する水溶液に溶出することがほとんど無く、有機酸の水溶液から前記有機酸を経済的に効率よく抽出できる。
抽出剤中の有機酸は一般的な分離法である蒸留により回収が可能であり、有機酸水溶液を直接蒸留するよりもエネルギーコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例11で使用した抽出装置のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明では有機酸を低濃度で含有する水溶液(水層)を特定のアミンまたは当該アミンと水に不溶の溶媒(好ましくはアルコール)からなる抽出液と接触させる。特定のアミンは有機酸と塩を形成する。本発明での式(1)で示されるアミンは水に不溶であり、当該アミンと有機酸との塩も水に不溶なため、この塩は抽出液へと抽出される。抽出後の液は前記アミンおよびアルコール以外に抽出された有機酸とアミンとの塩、微量の水を含有する。この抽出液(有機層)は水層と分離される。次いで、抽出液を蒸留する。蒸留の際、有機酸とアミンとの塩はもとの有機酸とアミンとに分解される(分解蒸留)。蒸留では有機酸、水とアミン/アルコールとを分離し、有機酸を回収する。本発明で用いるアミン、アルコールは分子量が大きく、酢酸などの通常の低分子量有機酸や水よりは高沸点である。従って、蒸留では有機酸と少量の水を気化させるだけで済む。蒸留の際にはまず主に水を溜去した後、温度を上げて有機酸を溜去する2段蒸留により高純度の有機酸を効率的に回収できる。
【0014】
[有機酸]
本発明で水中から回収する対象となる有機酸としては、ある程度水に溶解する有機酸であれば特に制限はない。例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、2−メチル酪酸、ピバル酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などの不飽和カルボン酸、安息香酸、サリチル酸、ケイ皮酸、フェニルプロピオン酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのジカルボン酸、アミノ酸などが挙げられる。
これらのなかでは一価のカルボン酸が好ましく、工業的に大量に生産されており、本発明の効果の経済的側面が発揮されるという意味で酢酸が特に好ましい。
【0015】
[アミン]
本発明において、アミンとしては、式(1)で示される構造のものを使用する。
【化2】

式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜20のアルキル基を表す当該アルキル基は分岐を有していてもよいが、疎水性の面から分岐はメチル基またはエチル基が好ましい。R1およびR2のアルキル基の炭素数が10未満だとアミンの水への溶解度が大きくなり、好ましくない。炭素数が20を超えると、融点が高くなり、融点以下の温度でのアルコールへの溶解度も低くなるので、抽出温度を高くしなければならず、抽出剤の組成、抽出温度の自由度が制限される。
【0016】
具体的には、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などが挙げられ、これらは直鎖状でも分岐していてもよい。より具体的にはn−デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、2−メチルヘキサデシル基、n−オクタデシル基などが挙げられる。
1およびR2はそれぞれ同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
3は水素原子またはメチル基である。R3の炭素数が2以上になると有機酸の抽出効率が悪くなるので、好ましくない。
【0017】
式(1)で示されるアミンは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を一緒に用いてもよい。
式(1)で示されるアミンとしては、ジドデシルアミン、ジデシルアミンが好ましい。
式(1)で示されるアミンは、水中から回収する対象となる有機酸に対して当モル以上使用することが好ましい。
【0018】
本発明によって有機酸が抽出除去された後の水溶液(それでも多少の有機酸を含有している)を排水として活性汚泥処理する場合に、この排水にアミン化合物が溶出していると、アミン化合物は一般に難分解性で阻害性もあるため好ましくない。また、排水にアミン化合物およびアルコールが溶出すれば、それはそのままロスすることになり、さらに水溶液中の全有機体炭素(TOC)濃度も上昇させる。従って、本発明のアミンおよびアルコールは水への溶解度がなるべく小さいことが要求される。
【0019】
[抽出溶媒]
前記アミンが液体の場合、当該アミンを単独で用いると、アミンは水中の有機酸と塩を形成すると共に過剰のアミンは当該塩の溶媒(抽出液)としても作用し、水層から有機酸のアミン塩を抽出することとなる。しかし、当該アミンとは別に水に不溶の抽出溶媒を用いた方が抽出剤としてのアミンの量を少なくすることができ、アミンの処理やコストの面で有利となる。
【0020】
抽出溶媒は水にほとんど溶解せず、前記アミンを溶解あるいは微分散できるものであれば特に制限はない。トルエン、キシレンなどの芳香族有機溶媒、n−ヘキサンなどの炭化水素系溶媒やテトラヒドロフラン(THF)、ジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒やアルコールも使用可能である。ただし、本発明のアミンとの相互作用があり、疎水性と親水性のバランスから、水への溶解少なく、有機酸の抽出効率がよくなることから炭素数10以上のアルコールが好ましい。
【0021】
[アルコール]
前記アミンは、炭素数10以上のアルコールと混合または溶解して用いることが好ましい。炭素数10以上のアルコールに特に制限はないが、本アルコールの水への溶解を極力抑制するために、疎水性の強いアルコールが好ましい。具体的には水酸基を一つ有し、それ以外には親水性の基を持たないものが好ましく、特に炭素数10〜50、好ましくは13〜30の直鎖または分岐鎖構造の一価の飽和アルコールもしくは芳香環を有する一価のアルコールが好ましい。
【0022】
直鎖アルキル構造を有する飽和アルコールとしては、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、1−オクタデカノール、1−ノナデカノール、1−エイコサノール、1−ヘンエイコサノール、1−ドコサノール、1−テトラコサノール、1−ヘキサコサノールなどが挙げられる。
【0023】
分岐鎖構造を有する飽和アルコールとしては、2−オクチル−1−ドデカノールなどが挙げられる。また不飽和アルコールとしては、trans−2−ドデセノール、trans−2−トリデセン−1−オール、trans−9−オクタデセノール、オレイルアルコール、cis,cis−9,12−オクタデカジエン−1−オール、cis−13−ドコセノールなどが挙げられる。
芳香環を有するアルコールとしては、ジフェニルカルビノールなどが挙げられる。
【0024】
これらのアルコールの中でも、疎水性が強く、融点が低いために扱いやすい2−オクチル−1−ドデカノールが特に好ましい。
これら炭素数が10以上のアルコールは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば炭素数10未満のアルコールが混入してもよい。
前記アミンとアルコールとを混合または溶解した液中のアミン濃度は3〜80質量%以上が好ましく、5〜70質量%がより好ましい。アミン濃度が低いと抽出率が低く、高いと高価なアミンの使用量が多くなり、経済性が成り立たなくなる。
【0025】
[水中の有機酸濃度]
一般に有機酸は水より沸点が高いので、有機酸の水溶液から有機酸と水の分離を一般的な分離法である蒸留による場合には、水を蒸留塔の塔頂より溜出させなければならない。そのため、有機酸濃度が低い場合にはエネルギー的に不利になる。本発明の場合には、抽出液から有機酸、少量の水を低沸点成分として蒸留分離すればよいので、このような場合に特に有効である。回収対象となる水中の有機酸濃度は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。有機酸の濃度の下限値は特に制限はないが、経済的見地から0.01〜10.0質量%に適用するのが効果的である。
【0026】
[抽出操作]
有機酸が溶解している水(水層)と前記アミンを含む抽出液(有機層)は公知の方法で接触させ、有機酸をアミン塩として有機層へ抽出した後、有機層と水層とを分離する。
抽出方法としては、振とう、攪撹拌、ラインミキサーを用いる方法、向流接触法などが挙げられる。
【0027】
本発明で用いるアミン、アルコールは分子量が大きいため、低温では固体状態であるものもある。抽出時の温度が低すぎると使用するアミンおよび/またはアルコールが固体となり、抽出操作ができない場合がある。逆に温度が高すぎると抽出できる有機酸の割合が少なくなる傾向にある。従って、温度範囲は0〜150℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。
抽出後の水層と有機層は公知の方法で2層に分離することができる。連続抽出塔で分離してもよく、静置型の分離槽を使用してもよい。有機酸が抽出された有機層は蒸留工程へ送られ、有機酸、水分、アミン、抽出溶媒(アルコール)を分離する。
【0028】
[蒸留条件操作]
有機層(水溶液に含まれる有機酸を抽出したアミンまたはアミンとアルコールとを混合または溶解させた液)から有機酸を回収する方法には特に制限はない。
なかでも有機酸を容易に有価物として回収する方法としては、蒸留が挙げられる。蒸留であれば、有機酸が水溶液に含まれていた状態から化学反応したり、塩を形成したりすることなくそのままの有機酸の状態で回収できる。必要に応じて減圧下で蒸留してもよい。蒸留で回収する場合の温度、圧力は有機酸が蒸留で溜出回収できる条件であれば特に制限はない。
【0029】
本発明で用いるアミン、アルコールは分子量が大きく、酢酸などの通常の低分子量有機酸や水よりは高沸点である。従って、蒸留操作では先に有機酸と少量の水を低沸成分として溜去させることができる。蒸留の際にはまず主に水を溜去した後、さらに温度を上げて有機酸を溜去するという2段蒸留が高純度の有機酸を効率的に回収できる。
【0030】
蒸留塔の操作条件としては、塔底温度120℃以下の溜出分と130℃以上の溜出分を別々に取るのがよい。そうすれば120℃以下では主に水などが溜分として得られ、130℃以上では主に有機酸が溜分として得られる。よりきれいに水と有機酸を分取するためには減圧下で蒸留するのが好ましい。その圧力は、0.02MPa以下が好ましく、0.01MPa以下がより好ましい。
これは有機酸が酢酸の場合、すなわち水と酢酸という沸点の差が大きくない場合にも適用できる。なぜなら、水はアミンとの相互作用がほとんどないが、有機酸はアミンとの相互作用のため溜出温度が高くなっているためと考えられる。さらに、減圧下で行えば水はより低温で溜出するようになるが、有機酸の溜出温度はほとんど変わらず、沸点差が大きくなったような状態になると考えられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの記載により何らの制限を受けるものではない。
【0032】
[水層中の有機酸の分析方法]
水層中の有機酸は水素炎イオン化型検出器を備えたガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法により定量した。分析試料は水層の一部を精秤し、内部標準物質として1,4−ジオキサンを加えることにより調製した。
【0033】
ガスクロマトグラフィーの測定条件:
キャピラリーカラム:Agilent Technologies 社製DB−WAX(長さ30m、内径0.32mm、膜圧0.25μm)
カラム温度:初期温度70℃から10℃/minの速度で220℃まで昇温
注入口温度:300℃
検出器温度:300℃
スプリット分析:スプリット比1:20
キャリアーガス流量(He):0.5mL/min
【0034】
[水層中の有機酸の回収率]
水層中の有機酸の回収率は下式により求めた。
【数1】

なお、アミンとアルコールの溶解(混合)液層(有機層)についても水層と同様にして分析し、水層の分析結果の妥当性を確認している。
【0035】
実施例1:
ジドデシルアミン(東京化成工業株式会社製)0.035gを2−オクチル−1−ドデカノール(商品名カルコール200GD;花王株式会社製):0.50gと混合して得た抽出液に、1質量%酢酸水溶液0.60gを加え、激しく200回振り混ぜた。その後静置すると、2層に分離したので、上層(有機層)と下層(水層)を分け取り、それぞれ成分分析を行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は67%であり、水層中にジドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0036】
実施例2:
ジドデシルアミンの使用量を0.088gにした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は97%であり、水層中にジドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0037】
比較例1:
ジドデシルアミンの代わりにジオクチルアミン(東京化成工業株式会社製)0.041gを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は93%であった。また、このときの水層へ溶出したジオクチルアミンは1800質量ppmで2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0038】
比較例2:
ジドデシルアミンの代わりにドデシルアミン(東京化成工業株式会社製)0.019gを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、液がエマルション化し、2層分離せず、回収できなかった。
【0039】
比較例3:
ジドデシルアミンの代わりにトリドデシルアミン(東京化成工業株式会社製)0.052gを使用した以外は、実施例1と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は38%であり、水層中にトリドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0040】
比較例4:
ジドデシルアミンの代わりにトリドデシルアミン0.052gを使用し、2−オクチル−1−ドデカノールの代わりにデカン(東京化成工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は3%であり、水層中にトリドデシルアミンおよびデカンは観測されなかった。
【0041】
比較例5:
ジドデシルアミンの代わりにジフェニルアミン(東京化成工業株式会社製)0.017gを使用した以外は、実施例1と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は1%であり、水層中にジフェニルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0042】
実施例3:
ジドデシルアミンを0.32gと2−オクチル−1−ドデカノールを8.0gとを混合し、60℃まで加熱し、透明で均一な液にした後、室温まで放冷した。その混合液に1質量%酢酸水溶液10gを加え、激しく200回振り混ぜた。その後静置すると、2層に分離したので、上層(有機層)と下層(水層)を分け取り、それぞれ成分分析を行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は56%であり、水層中にジドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0043】
実施例4:
ジドデシルアミン1.1gと2−オクチル−1−ドデカノール7.3gを使用した以外は実施例3と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は98%であり、水層中にジドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0044】
実施例5:
ジドデシルアミン1.1gと2−オクチル−1−ドデカノール7.3gとを混合し、60℃まで加熱し、透明で均一な液にした後、室温まで放冷した。その混合液に1質量%酢酸水溶液10gを加え、80℃に加熱し、5分間振とうした。その後静置しながら放冷すると、2層に分離したので、上層(有機層)と下層(水層)を分け取り、それぞれ成分分析を行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は83%であり、水層中にジドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0045】
実施例6:
ジドデシルアミン2.7gと2−オクチル−1−ドデカノール5.6gとを混合し、60℃まで加熱し、透明で均一な液にした後、室温まで冷却し、固化させた。その混合物に1質量%酢酸水溶液10gを加え、80℃に加熱し、混合物を融解させ、80℃に加熱したまま、5分間振とうした。その後静置しながら放冷すると、2層に分離し、上層は再び固化した。そこで、下層(水層)を取り出し、成分分析を行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は95%であり、水層中にジドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0046】
実施例7:
ジドデシルアミン5.4gを使用し、2−オクチル−1−ドデカノールを2.8g使用した以外は実施例6と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は95%であり、水層中にジドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0047】
実施例8:
ジドデシルアミン8.1gを使用し、2−オクチル−1−ドデカノールを使用しなかった以外は実施例6と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は89%であり、水層中にジドデシルアミンは観測されなかった。
【0048】
実施例9:
ファーミンD86(商品名,花王株式会社製;(C14〜C18)ジアルキルアミン)2.6gと2-オクチル−1−ドデカノール5.6gとを混合し、70℃まで加熱し、透明で均一な液にした後、室温まで冷却し、固化させた。その混合物に1質量%酢酸水溶液10gを加え、80℃に加熱し、混合物を融解させ、80℃に加熱したまま、5分間振とうした。その後静置しながら放冷すると、2層に分離し、上層は再び固化した。そこで、下層(水層)を取り出し、成分分析を行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は84%であり、水層中にファーミンD86および2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0049】
実施例10:
ジドデシルアミン0.081gと2−オクチル−1−ドデカノール8.3gを使用した以外は実施例3と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は30%であり、水層中にジドデシルアミンおよび2−オクチル−1−ドデカノールは観測されなかった。
【0050】
実施例11:
図1に示す装置を用い、水層として1質量%酢酸水溶液、油層として32質量%のジデシルメチルアミンを含有する2−オクチル−1−ドデカノール溶液を用い、2液を連続の対向流で流し、酢酸の抽出を行った。なお、図1に示す反応管(充填剤充填部;内径10mm、長さ300mm)のジャケット部には80℃の温水を流し、2液が対向流で流れる部分にはマックマーホン(McMahon)型充填物を充填した。2液の流速は1.0ml/minで同じであり、滞留時間は10分である。得られた水層と油層、それぞれの成分分析をガスクロマトグラフにより行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は40%であった。また、このときの水層へ溶出したジデシルメチルアミンは50質量ppmで2−オクチル−1−ドデカノールは検出されなかった。
【0051】
実施例12:
ジデシルメチルアミンの代わりにジドデシルアミンを使用し、その濃度を13質量%にした以外は、実施例11と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は63%であり、水層中のジドデシルアミンは10質量ppmで2−オクチル−1−ドデカノールは検出されなかった。
【0052】
実施例13:
ジデシルメチルアミンの代わりにジドデシルメチルアミンを使用し、その濃度を13質量%にした以外は、実施例11と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は30%であり、水層中のジドデシルメチルアミンは20質量ppmで2−オクチル−1−ドデカノールは検出されなかった。
【0053】
実施例14:
2−オクチル−1−ドデカノールの代わりに1−オクタノールを使用した以外は、実施例11と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は77%であった。また、このときの水層へ溶出したジデシルメチルアミンは10質量ppmで1−オクタノールは500質量ppmであった。
1−オクタノールをアルコールに用いると酢酸抽出率は高くなるが、1−オクタノールが水層に溶け出す量が多い。そのためTOC低減効果を小さくし、1−オクタノールもロスするので、それだけコストもかかる。
【0054】
比較例6:
ジドデシルアミンの代わりにジオクチルアミンを使用した以外は、実施例11と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は71%であり、水層中にジオクチルアミンは1500質量ppmで2−オクチル−1−ドデカノールは検出されなかった。
酢酸の抽出率は高いが、ジオクチルアミンの水層への溶出が見られた。
【0055】
比較例7:
ジデシルメチルアミンの代わりにジメチルオクタデシルアミンを使用した以外は、実施例11と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は28%であり、水層中にジメチルオクタデシルアミンは15000質量ppmで2−オクチル−1−ドデカノールは7000質量ppmであった。
ジメチルオクタデシルアミンと2−オクチル−1−ドデカノールが大量に水層へ溶出した。
【0056】
比較例8:
ジデシルメチルアミンの代わりにトリオクチルアミンを使用した以外は、実施例11と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は17%であり、水層中にトリオクチルアミンは10質量ppmで2−オクチル−1−ドデカノールは検出されなかった。
【0057】
比較例9:
油層にアミンを含まない2−オクチル−1−ドデカノールを使用した以外は、実施例11と同じように行った。その結果、水層中の有機酸の回収率は8%であり、水層中に2−オクチル−1−ドデカノールは検出されなかった。
【0058】
実施例1〜14および比較例1〜9の結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0059】
実施例15:
実施例11の抽出操作を6時間継続し、得られた抽出液(約300ml)を500mlの丸底フラスコに入れ、上部に冷却管と連結したト字型の連結管を備えた一般的な蒸留装置で蒸留を試みた。5.3kPaの減圧下で徐々に浴の温度を上昇していった。その結果、フラスコ内温度が80〜110℃の間に液の溜出がみられたが、その後なくなった。更に温度を上げていくと140〜180℃の間で液の溜出がみられた。
そこで、80〜110℃の間の溜出液と140〜180℃の間の溜出液を別々に採取し、それぞれを分析した。前者は液量が1.4gで酢酸は2.1質量%しか含まれておらず、ほとんどが水であった。後者は液量が1.1gで90質量%が酢酸であった。よって、抽出液中の酢酸の52%が140〜180℃の間の溜出液として濃度90質量%で回収できた。
【0060】
比較例10:
比較例9で示されたように、本発明のアミンを含まない抽出液では酢酸の回収率は低い。そこで実施例15との比較実験を行うため、実施例15と同程度の酢酸および水を含有する2−オクチル−1−ドデカノールを有機層の模擬液として作製し、蒸留実験を行った。
500mlの丸底フラスコに2−オクチル−1−ドデカノール375gを入れ、酢酸4.5gと水13.5gを混合した液を加えた。その後、撹拌しながら80℃で1時間加熱した。上層(2−オクチル−1−ドデカノール層)には、1.1質量%の水と1.0質量%の酢酸を含むことが分かった。
得られた上層液を模擬液とし、実施例15と同様にして蒸留した。フラスコ内温度が70℃付近から溜出液が得られ始め、徐々に温度を上げていくと180℃まで切れ目なく溜出液は得られた。得られた溜出液は6.5gで、酢酸を38質量%含み、それ以外はほとんど水であった。よって、上層液中の酢酸の66%が濃度38質量%で得られており、酢酸回収率は同程度であるが、水も一緒に溜出し、液中の酢酸濃度は低かった。また模擬液での実験であり、アミンを含まない場合は抽出工程での酢酸抽出率が低く、本比較例で用いたような高濃度の酢酸抽出液にはならない。
【符号の説明】
【0061】
1 抽出装置
2 反応管
3 ジャケット部
4a 油層導入部
4b 油層排出部
5a 水層導入部
5b 水層排出部
6 充填物
7a 温水導入部
7b 温水排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜20のアルキル基を表し、R3は水素原子またはメチル基を表す。)
で示されるアミンを含む液を抽出剤として用いることを特徴とする、有機酸を含む水からの有機酸の回収方法。
【請求項2】
式(1)で示されるアミンを含む抽出剤がさらに炭素数10〜50のアルコールを含むものである請求項1に記載の有機酸の回収方法。
【請求項3】
有機酸を含む水と前記抽出剤とを接触させ、水中から有機酸をアミン塩として前記抽出剤へ抽出し、得られた抽出液を分解蒸留することにより、低沸成分として有機酸を回収する請求項1または2に記載の有機酸の回収方法。
【請求項4】
0〜150℃の温度で抽出を行う請求項3に記載の有機酸の回収方法。
【請求項5】
前記分解蒸留を、120℃以下で行う主に水を溜去する1段目の蒸留と、130℃以上で行う主に有機酸を溜去する2段目の蒸留との2段階で行う請求項3に記載の有機酸の回収方法。
【請求項6】
前記蒸留を、圧力0.02MPa以下の減圧下で行う請求項3〜5のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
【請求項7】
式(1)で示されるアミンの量が水中の有機酸に対して当モル以上である請求項1〜6のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
【請求項8】
有機酸を含む水中の有機酸の濃度が0.01〜10.0質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
【請求項9】
前記抽出剤中の式(1)で示されるアミンの濃度が3〜80質量%である請求項1〜8のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
【請求項10】
前記有機酸が酢酸である請求項1〜9のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
【請求項11】
式(1)で示されるアミンのR3が水素原子である請求項1〜10のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
【請求項12】
式(1)で示されるアミンがジドデシルアミンまたはジデシルアミンである請求項1〜11のいずれかに記載の有機酸の回収方法。
【請求項13】
炭素数10〜50のアルコールが2−オクチル−1−ドデカノールである請求項2〜12のいずれかに記載の有機酸の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−148740(P2011−148740A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12109(P2010−12109)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究(グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発<有害な化学物質を削減できる、又は使わない革新的プロセス及び化学品の開発、及び廃棄物、副生成物を削減できる革新的プロセス及び化学品の開発 革新的アクア、固定化触媒プロセス技術開発>に係るもの)に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】