説明

水中ガス供給方法及びその装置

【課題】消費エネルギを低減すると共に、水の撹乱を起こさない水中ガス供給方法及びその装置を提供する。
【解決手段】耐水圧多孔管2の外周を半透過膜3で覆って水中ガス供給管4を形成し、水中ガス供給管4を水中に浸漬し、水中ガス供給管4の両端を直接又は配管5を介して大気に連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消費エネルギを低減すると共に、水の撹乱を起こさない水中ガス供給方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
青潮は、海底において有機物の分解により酸素が消費され、酸素が極端に少なくなった低層水が表層へ湧き上がることなどにより生じる。青潮の生じた海域では生物の死滅が危惧される。青潮に至らなくとも、海水が酸欠状態になると生物の活動が鈍化し、生態系の維持が困難になる。海水の酸欠状態は、岸壁下など流れの乏しい港湾の奥まった場所で生じやすい。
【0003】
海洋に限らず、河川、湖沼、人工的な水槽においても、酸欠状態になると生物の死滅が危惧される。また、酸欠状態の水塊が表層へ湧き上がると、悪臭や有毒ガスの発生が危惧される。
【0004】
従来、水中の酸欠状態防止方法として、水族館やホビー用の観賞魚水槽などにおいて、ポンプにより水中に空気を吹き込む方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2554333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のようにポンプにより水中に空気を吹き込む方法は、ポンプを運転するために常時エネルギが必要である。特に、水圧がより大きくなる海底に吹き出し口が設置される場合、ポンプの能力を大きくする必要があると共に、消費されるエネルギも増加する。また、海や湖など広範囲に実施する場合、大規模なポンプが必要になると共に、消費されるエネルギも増加する。
【0007】
また、ポンプにより水中に空気を吹き込む方法は、気泡の上昇に伴って海水の上昇流が誘発されるため、海水が撹乱されたり海底の堆積物が巻き上げられることにより、かえって海洋環境を乱してしまう懸念がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、消費エネルギを低減すると共に、水の撹乱を起こさない水中ガス供給方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の水中ガス供給方法は、水中にガスを供給する方法であって、耐水圧多孔管の外周を半透過膜で覆って水中ガス供給管を形成し、上記水中ガス供給管を水中に浸漬し、上記水中ガス供給管の両端を直接又は配管を介して大気に連通させるものである。
【0010】
上記水中ガス供給管内を強制換気させてもよい。
【0011】
また、本発明の水中ガス供給装置は、水中にガスを供給する装置であって、耐水圧多孔管の外周が半透過膜で覆われてなる水中ガス供給管を有し、上記水中ガス供給管の両端又は上記水中ガス供給管に接続された配管が水上又は陸上で大気開放されたものである。
【0012】
上記水中ガス供給管に、上記水中ガス供給管内を強制換気する送風機を接続してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は水中環境の浄化にあたり次の如き優れた効果を発揮する。
【0014】
(1)消費エネルギを低減することができる。
【0015】
(2)水の撹乱を起こさない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示す水中ガス供給装置が現場に設置された状態を示す斜視図である。
【図2】本発明に用いる水中ガス供給管の構造を示す断面付き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1に示されるように、本発明の水中ガス供給装置1は、耐水圧多孔管2(図2参照)の外周が半透過膜3で覆われてなる水中ガス供給管4を有し、水中ガス供給管4の両端又は水中ガス供給管4に接続された配管5が水上又は陸上で大気開放されたものである。
【0019】
この実施形態では、水中ガス供給管4は水底部(水底又は水底近くの水中)に設置され、水中ガス供給管4に接続された配管5が陸上で大気開放されている。
【0020】
本発明の水中ガス供給装置1は、水中ガス供給管4に、水中ガス供給管4内を強制換気する送風機6が接続されている。この実施形態では、水中ガス供給管4の一端側の配管5に、大気から空気を吸い込んで水中ガス供給管4に給気する送風機6を備えている。
【0021】
図2に示されるように、水中ガス供給管4は、耐水圧多孔管2の外周が半透過膜3で覆われたものである。
【0022】
耐水圧多孔管2は、水中ガス供給管4を設置しようとしている海底部などの目的水深において水圧で圧壊したり著しく変形したりしない程度の耐水圧性を有する構造材で構成された管であると共に、耐水圧多孔管2の内外に通じる小孔を多数有するものである。 耐水圧多孔管2は、パンチングメタル管のように金属管や樹脂管に小孔を設けて形成してもよいし、多孔質セラミックを管状にして形成してもよい。
【0023】
半透過膜3は、シリコーンゴムや四フッ化エチレン樹脂のような多孔質膜のようにガスを選択的に透過するものである(特許文献1の従来技術の欄参照)。半透過膜3は、耐水圧多孔管2の表面にコーティングするとよい。
【0024】
図2の水中ガス供給管4は、断面が円形であるが、角型やその他の任意形状でも水中にガスを供給することができる。また、図2の水中ガス供給管4は、直線状に伸びているが、曲線状であっても、屈曲部を有してもよく、任意の方向に曲がっていても水中にガスを供給することができる。
【0025】
次に、図1の水中ガス供給装置1の動作を説明する。
【0026】
水中ガス供給管4は、例えば、岸壁Gに近い浅海域の海底部Bに設置する。水中ガス供給管4の両端に接続された配管5は、それぞれ海底部Bに這わせて岸壁Gに、岸壁Gに沿わせて立ち上げ、配管5の両端を岸壁G上まで延ばし、大気に開放する。一方の配管5に送風機6を取り付ける。
【0027】
これにより、海底部Bに設置された水中ガス供給管4には、配管5を介して大気圧の空気が通じていることになる。水中ガス供給管4では、空気が半透過膜3を介して海水と接する。このとき、海底部Bにおける水圧は半透過膜3を内側で支える耐水圧多孔管2が受け持ち、水中ガス供給管4内は大気圧である。
【0028】
一般に知られているように、水中に含まれている気体の分圧は、水深に関わりなく、大気圧相当である。海底部B周辺の海水中に十分に酸素が溶け込んでいれば、海水中の酸素の分圧は大気圧相当であり、水中ガス供給管4内外の酸素分圧が均衡するので、半透過膜3を通しての水中ガス供給管4の内部から外部への酸素の供給は発生しない。
【0029】
海水が酸欠状態となると海水中の酸素の分圧が大気圧より低下するため、大気圧である水中ガス供給管4内から半透過膜3を通して酸素が海水中に供給され、酸素が海底部B周辺の海水に溶け込む。
【0030】
水中ガス供給管4内は、送風機6により強制換気されているので、常に、酸素の分圧が大気圧相当に維持される。このため、海底部B周辺の海水中の酸素の分圧は大気圧相当になって平衡するまで、水中ガス供給管4内から半透過膜3を通して酸素が海水中に供給され続ける。この結果、岸壁Gの近くなど流れの乏しい港湾の奥まった場所で生じている海水の酸欠状態が解消されるので、生態系が維持され、海水の浄化に寄与する。
【0031】
本発明によれば、耐水圧多孔管2が水中で水圧に耐えて形状を維持するので、水中ガス供給管4内が大気と通じる。大気圧である水中ガス供給管4内を換気するための送風機6には、従来の水中に空気を吹き込む方法のように大型・強力なポンプは不要であると共に、送風機6を運転するために消費されるエネルギも顕著に低減できる。
【0032】
なお、水中ガス供給管4の両端が大気と通じているので、強制換気を行わずとも、拡散や自然の空気流で水中ガス供給管4が換気されることが期待できる。この場合、送風機6は不要であり、エネルギを全く消費しない。
【0033】
本発明によれば、半透過膜3を通して酸素が海水中に溶け込むことで酸素が海水中に供給され、従来の水中に空気を吹き込む方法のように気泡が上昇しないので、水中に上昇流が発生しない。このように、水の撹乱を起こさないので、堆積物の巻き上げによる汚濁が発生しない。
【0034】
また、図1の実施形態では、水中ガス供給管4を海底部Bに設置し、配管5を海底部Bに這わせて岸壁Gまで敷設しているので、港湾を利用する船舶の障害になることがない。
【0035】
本発明は、図1の実施形態に限定されない。例えば、本発明は、水族館やホビー用の観賞魚水槽、養魚場などにも適用できる。また、堀や池など市街地や公園の水場や水路にも適用できる。
【0036】
図1の実施形態では、水中ガス供給管4に配管5を接続して配管5の端部を陸上に配置したが、水中ガス供給管4自体の端部を陸上に配置してもよい。また、水中ガス供給管4自体の端部又は配管5の端部は、陸上ではなく、水上でもよい。
【0037】
図1の実施形態では、水中ガス供給管4を海底部Bに設置したが、水中ガス供給管4は水中(水底から水面までの任意水深)でもよい。また、水中ガス供給管4の断面形状は円管以外でもよい。
【0038】
水中ガス供給管4を浮体から水中に吊り下げてもよい。この場合、陸から遠く離れた場所でも、配管5を陸上まで敷設する必要がなくなる。
【0039】
図1の実施形態では、酸欠状態の海水に酸素を供給するようにしたが、供給する気体は酸素に限らず炭酸ガスなど、ガスならなんでもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 水中ガス供給装置
2 耐水圧多孔管
3 半透過膜
4 水中ガス供給管
5 配管
6 送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中にガスを供給する方法であって、耐水圧多孔管の外周を半透過膜で覆って水中ガス供給管を形成し、上記水中ガス供給管を水中に浸漬し、上記水中ガス供給管の両端を直接又は配管を介して大気に連通させることを特徴とする水中ガス供給方法。
【請求項2】
上記水中ガス供給管内を強制換気させることを特徴とする請求項1記載の水中ガス供給方法。
【請求項3】
水中にガスを供給する装置であって、耐水圧多孔管の外周が半透過膜で覆われてなる水中ガス供給管を有し、上記水中ガス供給管の両端又は上記水中ガス供給管に接続された配管が水上又は陸上で大気開放されたことを特徴とする水中ガス供給装置。
【請求項4】
上記水中ガス供給管に、上記水中ガス供給管内を強制換気する送風機を接続したことを特徴とする請求項3記載の水中ガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−20087(P2011−20087A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169218(P2009−169218)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】