説明

水中吸音材

【課題】接着層を設けずに吸音シートを積層して、容易に優れた吸音性能を発揮できる水中吸音材を提供する。
【解決手段】内部に多数の独立気泡を有するクロロプレンゴムからなる3枚の吸音シート2a〜2cを密度ρおよび音速cで規定される固有音響インピーダンスρc=ρ×cが徐々に小さくなるように、表面層となる第3吸音シート2c、第2吸音シート2b、第1吸音シート2aの順序で積層し、かつ、第3吸音シート2cの固有音響インピーダンスρc3を水の固有音響インピーダンスρcwとほぼ一致するようにして、各吸音シート2の間には筒状のスペーサ4を配置して、吸音シート2の貫通孔7およびスペーサ4にスタットボルト6を挿通してナット5で締結し、水中に沈めて吸音シート2間に略均一の厚み4〜5mmの水の層3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中吸音材に関し、さらに詳しくは、接着層を設けずに吸音シートを積層して、優れた吸音性能を発揮できる水中吸音材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型吸音材は、複数の吸音シートを接着して積層する構造が一般的であった。しかしながら、この構造であると接着層によって吸音性能に影響が生じるために、接着層の影響をも考慮して設計をする必要があり、接着工程においては気泡の混入を防ぐために、多くの工数およびコストが必要とされた。さらに、音響水槽などの水深が浅く、水圧が低い場所で使用する場合は、接着層の吸音性能は非常に不安定であり、その影響を予測するのは困難であるという問題があった。
【0003】
一方、接着しないで例えば、締め付け具等で吸音シートどうしを密着させて積層する構造であると、吸音シートの間の空気を完全に排除することができずに空気残りが生じる。水中において、空気は反射層として作用するので、この構造では良好な吸音性能が得られないという問題があった。そのため、吸音シート間の空気残りをなくす手段として吸音シートの片面または両面に導入溝を設けて、吸音シート間の空気を導入溝から導入した水と置き換える構造が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
この提案では、この導入溝を通じて、吸音シート平面において所々にあるすき間に水を浸透させるだけで、吸音シートの全面に渡ってほぼ均一な厚み水の層が形成されるものではないため、吸音性能を悪化させる可能性がある。また、この導入溝だけでは、完全に空気を水に置き換えることが困難であり、その場合は、吸音シート間に吸水性繊維等を設ける提案がなされているが、このような介在物は、経時的に劣化するためメンテナンス性を低下させる要因となる。このように従来の技術では、接着層を設けずに容易に良好な吸音性能を得るのは困難であった。
【特許文献1】特開2000−146750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、接着層を設けずに吸音シートを積層して、容易に優れた吸音性能を発揮できる水中吸音材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の水中吸音材は、吸音シートを積層して構成される水中吸音材において、前記積層される吸音シート間に略均一の厚みの水の層を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水中吸音材によれば、吸音シートを積層し、この積層される吸音シート間に略均一の厚みの水の層を設ける構造としたので、吸音シート間に空気残りが発生せずに、空気による吸音性能の低下を防ぐことが可能となる。
【0008】
また、接着層を設けないので接着層の影響を考慮する必要もなく、吸音性能を予測し易くなり設計および製造が容易で、大幅なコストダウンを図ることができる。従来の接着による積層では不安定であった音響水槽など水圧の低い環境下でも安定して優れた吸音性能を発揮することができる。現地施工も可能であり、取り扱い性が良くなり、吸音シートの交換も容易となり、メンテナンス性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の水中吸音材を図に示した実施形態に基づいて説明する。図1に実施形態の水中吸音材1の構造概要を斜視図で示す。この水中吸音材1は、3層構造の例で、3枚の吸音シート2a〜2cが積層されて構成され、各吸音シート2の間にはそれぞれ略均一の厚みの水の層3が設けられている。
【0010】
各吸音シート2は、内部に多数の独立気泡を有して、四隅に貫通孔7が設けられている。吸音シート2の材質としては、例えばクロロプレンゴム、アクリルニトリル・ブタジエンゴム、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ポリウレタン等が挙げられる。
【0011】
この吸音シート2を製造するには、例えば上記の未加硫ゴムにマイクロバルーンを配合して混練りし、これを加硫する。加硫時の熱によってマイクロバルーンが発泡して、内部に多数の独立気泡を有する吸音シート2となる。吸音シート2の材質、マイクロバルーンの配合率等によって吸音シート2の密度ρおよび音速cをコントロールすることができる。そこで、密度ρおよび音速cで規定される固有音響インピーダンスρc=ρ×cが相違するように、それぞれの吸音シート2を製造する。
【0012】
第1吸音シート2a〜第3吸音シート2cの固有音響インピーダンスρcをそれぞれρc1〜ρc3とすると、ρc1<ρc2<ρc3となるように吸音シート2を製造し、各吸音シート2間に筒状のスペーサ4を配置してこの順序で積層し、各吸音シート2の貫通孔7およびスペーサ4にスタットボルト6を挿通してナット5で締結する。接着剤を使用しないので、特別な装置、技術が必要なく、このように極めて簡単に水中吸音材1を製造することができる。ここで、第3吸音シート2cの固有音響インピーダンスρc3を水の固有音響インピーダンスρcwとほぼ一致するようにしておく。
【0013】
この水中吸音材1の第1吸音シート2a側を水槽壁面等との固定側とし、第3吸音シート2cを表面層となるように、水中に設置すると各吸音シート2間に所定厚みの水の層3が設けられた水中吸音材1となる。尚、吸音シート2は界面活性剤で洗浄しておくと親水性が向上してさらに空気残りが発生しにくくなる。洗浄に使用する界面活性剤は、活性度が35%以上のものが好ましい。
【0014】
水の層3の厚みは、スペーサ4の高さによって調整され、好ましくは3〜6mm、特に好ましくは4〜5mmの範囲とする。3mm未満であると吸音シート2間に空気が残ることがあり、吸音性能が低下する。6mmを超えると水の層が、いわば固有音響インピーダンスρcwのシートを形成するため、吸音性能を向上させにくくなる。スペーサ4の数および配置は、水の層3の厚みを均一に確保できるように決定する。
【0015】
水中に設置された水中吸音材1に向けて音波が発せられると、まず表面層となる第3吸音シート2cでは、固有音響インピーダンスρc3が水の固有音響インピーダンスρcwと略同一となっているので、音波を反射することなく円滑に水中吸音材1の中に取り込むことができる。
【0016】
さらに音波が先に進入すると吸収層となる第2吸音シート2b、反射層となる第3吸音シート2aでは、音波のエネルギーが熱エネルギーに変換されて、徐々に減衰してゆく。第1吸音シート2aまで到達した音波はここで反射し、再び各吸音シート2で減衰するとともに、進入してくる音波と相殺されて減衰する。これにより、効果的に音波が減衰、吸収される。高周波数の音波は比較的表面層近くで減衰、吸収され、低周波数の音波は比較的深く進入して減衰、吸収される。
【0017】
吸音シート2の積層数および厚みは、特に限定されず吸音対象となる音波の周波数や要求吸音性能によって変えるようにする。
【0018】
以上の構造によれば、吸音シート2間に空気残りが発生せずに、空気による吸音性能の低下を防ぐことが可能となる。また、接着層が不要なので、設計および製造が容易になり大幅にコストダウンを図ることができるとともに、音響水槽などの水圧の低い環境下でも安定して優れた吸音性能を得ることができる。現地施工も可能となり、設置場所に応じた施工ができ、吸音シート2の交換が容易でメンテナンスの観点からも有利となる。
【0019】
吸音シート2の間に均一の厚みの水の層3を設けるには、図2に示すように、突起8を一体化した吸音シート2を製造して、これを積層してスタットボルト6およびナット5で締結するようにすると、スペーサ4が不要となる。既述したものに限られず、その他、積層した吸音シート2間を一定の間隔に維持する手段を用いることができる。
【実施例】
【0020】
内部に多数の独立気泡を有するサイズ500×500mmのクロロプレンゴムからなり、表1に示すような仕様の吸音シートを7枚製作し、各吸音シートの間隔を4mmに設定して表1に示す順に積層した。この際の積層の方法は、図1に示したように各吸音シートの間にスペーサを配置してスタットボルトとナットで締結するようにした。そして、最も外側となる第1表面層を表面として、反対側の第3反射層を音響水槽の壁面に固定して音響水槽の水中に設置した。これにより各吸音シート間には厚さ4mmの略均一の厚みの水の層が設けられ、表面から設置壁面に向かって固有音響インピーダンスρcが順に小さくなるように吸音シートが積層された水中吸音材となっている。この水中吸音材に向けて音波を発して吸音性能を測定し、その結果は図3に示すとおりであった。
【0021】
【表1】

【0022】
2500Hz〜6000Hzの周波数について、吸音性能の指標となるER性能(エコーリダクション性能)が15〜20(dB)となり、この範囲の低周波数においても優れた吸音性能を有することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の水中吸音材の構造概要を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の水中吸音材の構造の他の例を示す正面図である。
【図3】本発明の実施形態の水中吸音材の音波吸収性能の評価結果を示すグラフ説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 水中吸音材
2、2a〜2c 吸音シート
3 水の層
4 スペーサ
5 ナット
6 スタットボルト
7 貫通孔
8 突起


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音シートを積層して構成される水中吸音材において、前記積層されるそれぞれの吸音シート間に略均一の厚みの水の層を設けたことを特徴とする水中吸音材。
【請求項2】
前記吸音シートと一体化した介在物、または分離した介在物を前記吸音シート間に配置して前記水の層を設けた請求項1に記載の水中吸音材。
【請求項3】
前記水の層の厚みを3〜6mmとした請求項1または2に記載の水中吸音材。
【請求項4】
前記吸音シートが内部に多数の独立気泡を有する請求項1〜3のいずれかに記載の水中吸音材。
【請求項5】
前記吸音シートを表面側から固有音響インピーダンスの大きい順に積層した請求項1〜4のいずれかに記載の水中吸音材。
【請求項6】
前記積層される吸音シートの最も外側で表面層となる吸音シートは、その固有音響インピーダンスを水の固有音響インピーダンスと略同一とした請求項1〜5のいずれかに記載の水中吸音材。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−178266(P2006−178266A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372903(P2004−372903)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】