説明

水中成分定量用サンプリング装置、およびサンプリング方法

【課題】極めて低い濃度の不純物まで定量することでき、かつ分析操作中に外部からの汚染を少なくして測定精度を高めることができ、しかも簡単な操作で実施できる水中成分定量用サンプリング装置、およびサンプリング方法を提供する。
【解決手段】水中成分定量用サンプリング装置は、水主配管から分岐されたサンプリングラインに流量調整バルブ、マニホールドを接続し、マニホールドの下流側には、少なくとも一つの流量調整器と複数の固相抽出カートリッジ、さらに必要によりフィルターホルダーが接続される。固相抽出カートリッジには、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、あるいはキレート機能のある樹脂が充填され、フィルターホルダーにはフィルターが取付けられる。サンプリング方法は、この装置に水を流して水中の特定成分を濃縮固定させることにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中成分定量用サンプリング装置およびサンプリング方法、特に純水あるいは超純水中の微量成分を定量するための水中成分定量用サンプリング装置およびサンプリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子工業、医薬品工業などで使用される純水あるいは超純水(以降、区別することなく単に「純水」と記す)は、各種陽イオン、陰イオン、固形物など不純物が極めて少ないことが要求され、最近ではそれら不純物がますます低濃度であることが要求されるようになってきた。これとともにそのように極めて低い不純物濃度を、精度高く、かつ容易に測定できるようにする純水のサンプリング装置、サンプリング方法、測定方法が求められるようになった。
【0003】
純水中の不純物濃度は、極めて低いので純水をそのまま分析しても通常の機器では測定限界以下となってしまい、実質測定することができない。そこで純水をサンプリングして濃縮するといった操作が必要となるが、サンプリングや濃縮の段階で外部から不純物が混入することがあれば、純水本来の不純物濃度が信頼できなくなる。そこで、不純物濃度が極めて低い純水を対象としたサンプリング装置、サンプリング方法、測定方法が提案されている。
【0004】
サンプリング装置あるいは方法に関しては、純水をサンプリング容器内に収容した後、液体窒素で該容器を凍結させる方法〔特許文献1参照〕、採取容器を外部から出入可能にした採水室を設け、該採水室には装置内に設けた送風ファン、エアフィルターを経由して装置内を循環する空気を送るようにした採取装置〔特許文献2参照〕などの提案がある。
【0005】
希薄イオン濃度の測定方法では、試料水を陽イオン交換機能、陰イオン交換機能またはキレート機能を有する多孔質膜と接触させて、多孔性膜に水中イオンを吸着させ、次いで多孔質膜に吸着されたイオンを再生液で脱着してそのイオンを測定する方法〔特許文献3参照〕、多孔質膜に水を所定量通過させて水中不純物を捕捉させ、捕捉した不純物を溶離して水中不純物量を算出する操作を所定のタイミングで繰り返し行うモニター方法〔特許文献4参照〕、水中不純物を多孔性膜に捕捉させ、溶離操作をせずに直接表面分析装置で多孔性膜上の不純物量を測定する方法〔特許文献5参照〕などがあり、これらを一つにまとめて、陽イオン濃縮カラム、陰イオン濃縮カラム、カラムからのイオン溶離液供給機構、各カラムへの試料水と溶離液の切換機構、溶離液の電気伝導度を測定する電気伝導度計を有する水質モニター〔特許文献6、特許文献7参照〕の提案がある。
【0006】
【特許文献1】特開平5−223706号公報
【特許文献2】特開平8−145983号公報
【特許文献3】特開平5−45351号公報
【特許文献4】特開2001−153854号公報
【特許文献5】特開2001−153855号公報
【特許文献6】特開平8−166377号公報
【特許文献7】特開平8−166378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、純水に対する厳しい品質要求がある中で、これに応えて水中不純物量はこれ迄以上に低くなって、超低濃度の不純物を測定するためには試料水の濃縮倍率を一層高くする必要が出てきた。濃縮倍率を上げるには、試料水の量を多くしなくてはならず、測定精度を高めるとともに、不純物の混入がない確実な濃縮方法、さらに操作の煩雑性をなくすことが求められている。
【0008】
かかる観点から、本発明の目的は、極めて低い濃度の不純物まで定量することできるように不純物を濃縮固定化し、かつ定量分析の操作中に外部からの汚染を少なくして測定精度を高めることができ、しかも簡単な操作で実施できる水中成分定量用サンプリング装置、およびサンプリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく本発明請求項1は水中成分定量用サンプリング装置に係り、水主配管から分岐されたサンプリングラインにマニホールドが接続され、マニホールドの下流側には、少なくとも一つの流量調整器と複数の固相抽出カートリッジが接続されることからなっている。
【0010】
請求項2は水中成分定量用サンプリング装置に係り、請求項1においてマニホールドの下流側には、さらにフィルターホルダーが接続されてなっている。
【0011】
請求項3は水中成分定量用サンプリング装置に係り、請求項1の水主配管から分岐されたサンプリングラインにおいて、マニホールドの上流側にさらに流量調整バルブが設置される。
【0012】
請求項4は水中成分定量用サンプリング装置に係り、請求項1における固相抽出カートリッジが、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂およびキレート機能のある樹脂から選ばれる一種がそれぞれ充填されている。
【0013】
請求項5は水中成分定量用サンプリング方法に係り、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水中成分定量用サンプリング装置に水を流して、固相抽出カートリッジに充填された樹脂、または前記固相抽出カートリッジに充填された樹脂とフィルターホルダーに取付けられたフィルターのそれぞれに水中成分を濃縮固定することからなっている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、簡単な操作で純水中のイオン類、固形物など不純物の濃縮倍率を上げることができ、その結果極めて低い濃度のレベルまで精度高く定量できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1〜3を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。尚、以下の説明は、本発明の理解のために例示するものであり、以下の実施の形態により本発明を限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明の水中成分定量用サンプリング装置の構成を説明する概念図である。ここで、水中成分とは、純水中の不純物とされるもので、各種の陽イオン、陰イオン、固形物などである。本発明の水中成分定量用サンプリング装置は、水主配管から分岐されたサンプリングラインにマニホールドを接続し、その下流側に流量調整器と複数の固相抽出カートリッジ、および必要によりさらにフィルターホルダーが接続されている。サンプリングラインは、ポリプロピレン、ポリエチレンなどポリオレフィン類を材料として、内径が4〜5mm程度である。図1においては、水主配管からサンプリングラインを分岐させ、マニホールドの手前に流量調整バルブを設けている。この流量調整バルブは必須のものではないが、種々の操作条件を考慮して実用上便利なことがある。
【0017】
マニホールドは、一つの流入路と複数の排出路を有して、水主配管から分岐されサンプリングラインから流れる水が複数の流れに分割されるものである。マニホールドは、好ましくはポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン類を用いて製作され、その形体を示す例を図2、3に示した。
【0018】
図2は、直径約5cm、厚さ約1.5cmの平板状マニホールドの例であり、上部にある一つの流路を水の流入路として、平板状形体の内部で複数の流路を排出路(図2では5個の排出路を描いてある)に分岐している。図3は、外径約2cmの筒型状マニホールドの例であり、上部一つの流路を流入路として、それから直線的に下に通じる一つの排出路と、さらに側面に複数の流路を排出路(図3では下方に1個および側面に4個の合計5個の排出路を描いてある)としている。マニホールドには、少なくとも一つの流量調整器と複数の固相抽出カートリッジおよび必要によりさらにフィルターホルダーが接続される。流量調整バルブは、好ましくは流入路の直下の排出路に設置し、その他の排出路には固相抽出カートリッジおよび/あるいはフィルターホルダーが設置される。
【0019】
固相抽出カートリッジは、内部に陽イオン、陰イオンを固定化できる媒体が充填され、フィルターホルダーは固形物を捕捉するフィルターが取付けられる。固相抽出カートリッジとフィルターホルダーは、それぞれマニホールドの各排出路に1個づつでもよく、またマニホールドの一つの排出路に固相抽出カートリッジとフィルターホルダーを直列に並べて取付けられてもよい。このとき、フィルターホルダーを上流側にするのはもちろんのことである。固相抽出カートリッジあるいはフィルターホルダーの設置数が少なく、排出路に取り付けるものがないときは、余分の排出路には流路止めで閉じられてもよい。
【0020】
固相抽出カートリッジは、水が通されたとき水中に含まれるイオン類を捕捉することができる機能を有するものが充填され、水中の対象イオン類の種類、固形物の含有量によって複数の固相抽出カートリッジが用意される。充填物は、陽イオン交換機能のあるもの、陰イオン交換機能のあるもの、キレート機能のあるものが選ばれ、これらはイオン交換樹脂、多孔質膜などの形態で使用される。マニホールドに取付けられる固相抽出カートリッジの数は、1〜6個である。フィルターホルダーは、純水中の固形分を捕捉するものであるから微細な孔のフィルターであり、例えば逆浸透(RO)膜などが選ばれる。フィルターは、水中固形物を捕捉するものであり、捕捉物が酸により溶解して定量されるもの、塩基により溶解して定量されるものなどがあり、それぞれのフィルター用にフィルターホルダーは通常1〜3個である。
【0021】
水主配管からの分岐点とマニホールドの間に流量調整バルブ、及びマニホールドの下流に設置される流量調整バルブは、ともに各固相抽出カートリッジおよびフィルターホルダーに流れる水量を調整するものであり、前者は、マニホールドに流れる全水量を調整し、後者はさらにこれを微調整して、各固相抽出カートリッジおよびフィルターホルダーに流れる水量を最適にする。
【0022】
サンプリングライン、固相抽出カートリッジ、フィルターホルダー、流量調整バルブなど相互の接続は、確実に接続でき、かつ取外しが簡単な方式がよく、例えばルアーフィティングなどで行われる。
【0023】
次いで、上記水中成分定量用サンプリング装置を用いてのサンプリング方法を説明する。
測定対象の水を水主配管からサンプリングラインに分岐させて流し、マニホールドにより複数の固相抽出カートリッジおよびフィルターホルダーに分配する。このとき、固相抽出カートリッジおよびフィルターホルダーに流れる水量は、流量調整バルブにより行なわれる。
【0024】
水中のイオン類、固形物は、固相抽出カートリッジの充填物あるいはフィルターホルダーにより捕捉される。従って、固相抽出カートリッジの充填物は、水中イオン類を確実に捕捉する必要があり、陽イオン交換機能のある樹脂、陰イオン交換機能のある樹脂、キレート機能のある樹脂、陽イオン交換機能を有する多孔質膜、陰イオン交換機能を有する多孔質膜、キレート交換機能を有する多孔質膜などから任意に選ばれる。固相抽出カートリッジ、フィルターホルダーへの通水量は、水中のイオン類、固形物が確実に捕捉されることが重要であり、水中のイオン類、固形物の含有量、固相抽出カートリッジ充填物の捕捉能力、フィルターでの捕捉能力などにより決められるべきである。一般的には固相抽出カートリッジ、フィルターホルダーのそれぞれに、1〜200mL/分の流速で、5〜1000L程度を通過させる。
【0025】
各固相抽出カートリッジ、フィルターホルダーに流れる水の流速は、マニホールドの上流および下流に設置された流量調整バルブで調整される。また各固相抽出カートリッジ、フィルターホルダーの通水量は、固相抽出カートリッジ、フィルターホルダーの下流に受水槽(図示してない)で計量することができる。
【0026】
固相抽出カートリッジ、フィルターホルダーは、所定量の水が通過した後にマニホールドから外され、別途脱離液により吸着イオンあるいは固形物を脱離され、それぞれ定量される。ここで、使用される脱離液の種類および量、定量分析の方法は、本発明はなんら限定するものでなく、公知の方法でよい。測定項目は、例えばLi、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属、Al、Si、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ni、Pbなどの各種金属、塩化物イオン、硫酸イオンなどの陰イオンなどがある。
【実施例1】
【0027】
図1に示した水中成分定量用サンプリング装置を用い、図2の形態のマニホールドにより固相抽出カートリッジ3個、およびポリプロピレン製フィルターホルダー1個を設置して水を分配した。
固相抽出カートリッジ1には、陽イオン交換樹脂を1mL充填し、試料水を90L流した。陽イオン交換樹脂を、3M高純度硝酸水溶液5mLにて脱離した後、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)〔アジレント(Agilent)社製、「HP4500」(型番)〕で定量した。その結果を表1に示す。
固相抽出カートリッジ2には、キレート型樹脂を1mL充填し、試料水200Lを流した。キレート型樹脂を、固相抽出カートリッジ1と同じ液にて脱離した後、同じ方法にて定量した。結果を表1に併せて示す。
固相抽出カートリッジ3には、陰イオン交換樹脂を1mLを充填し、試料水90Lを流した。陰イオン交換樹脂を0.1M超高純度水酸化カリウム水溶液10mLにて脱離し、イオンクロマト(DIONEX社製 DX500(型番))で定量した。結果を表2に示す。
ポリプロピレン製フィルターホルダーには、外径25mmのフィルター〔東レ(株)製、RO膜「SUシリーズ」〕を取り付け試料水200Lを流した。フィルターを超高純度の3M硝酸水溶液に浸漬して固形物を溶解し、溶解液をICP−MSにて測定した。結果を表3に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
Cuは、陽イオン交換樹脂の固相抽出カートリッジとキレート型樹脂の固相抽出カートリッジを用いて測定した値が同じであることから、水中での存在形態が同じイオン種であることを示し、Cuイオンとしての存在形態を示している。Feは、陽イオン型樹脂による結果とキレート型による結果に差異を生じた。これは、超純水のよう非常に希薄な濃度においても、金属種の形態が単一ではなく、異形態が存することを示している。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

表1〜3の結果から、この試料水中には溶解不純物に比べて、固形不純物はさらに少ないことが認められた。
【0032】
〔比較例1〕
実施例1と同一の水について、従来方法により、クリーンルーム内において、容量250mLの専用容器に採取し、ICP−MSにて測定した。実施例1における測定項目であるLi、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pbの各元素濃度は、いずれも定量可能な濃度である1ng/L以下であることしか測定できなかった。この従来方法では、分析装置および試料採取、操作、測定などによる汚染があり、ng/Lが限界である。
【0033】
〔比較例2〕
実施例1と同一の試料水について、従来方法により、クリーンルーム内でおいて、容量250mLの専用容器に採取し、イオンクロマトにて測定した。Cl、NO、SO2−は、定量下限値である5ng/L以下であるとしか測定できなかった。この従来方法では、分析装置および試料採取、測定などのより汚染があり、ng/Lが限界である。
【実施例2】
【0034】
実施例1と同様にして、水中成分定量用サンプリング装置に固相抽出カートリッジ2個を取り付け、それぞれ陽イオン交換樹脂を1mL、およびキレート型樹脂を1mL充填した。実施例1とは別の純水を、陽イオン交換樹脂には90L、キレート型樹脂には200Lを流し、それぞれ実施例1と同様に定量した。その結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の水中成分定量用サンプリング装置、およびサンプリング方法は、純水中のイオン類、固形物など不純物の濃縮倍率を上げることができ、その結果極めて低い濃度のレベルまで精度高く定量でき、しかも操作が簡単であるので実施が容易である。これは電子産業などにおいて要求される高度な純水品質に応えられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の水中成分定量用サンプリング装置の構成を説明する概念図である。
【図2】マニホールドの例で、平板状形体マニホールドの正面透視図である。
【図3】マニホールドの例で、筒型状形体マニホールド斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1: 水主配管
2: サンプリングライン
3: 流量調整器
4: マニホールド
5: 流量調整器
6: 分配ライン
7: 固相抽出カートリッジまたはフィルターホルダー
8: 排水ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水主配管から分岐されたサンプリングラインにマニホールドが接続され、前記マニホールドの下流側には、少なくとも一つの流量調整器と複数の固相抽出カートリッジが接続されることを特徴とする水中成分定量用サンプリング装置。
【請求項2】
前記マニホールドの下流側には、さらにフィルターホルダーが接続されることを特徴とする請求項1に記載の水中成分定量用サンプリング装置。
【請求項3】
前記水主配管から分岐されたサンプリングラインにおいて、前記マニホールドの上流側にさらに流量調整バルブが設置されることを特徴とする請求項1に記載の水中成分定量用サンプリング装置。
【請求項4】
前記複数の固相抽出カートリッジが、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂およびキレート機能のある樹脂から選ばれる一種がそれぞれ充填されることを特徴とする請求項1に記載の水中成分定量用サンプリング装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水中成分定量用サンプリング装置に水を流して、前記固相抽出カートリッジに充填された樹脂、または前記固相抽出カートリッジに充填された樹脂とフィルターホルダーに取付けされたフィルターのそれぞれに水中成分を濃縮固定することを特徴とする水中成分定量用サンプリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−64591(P2006−64591A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249156(P2004−249156)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】