説明

水中摺動部材、及び水中摺動部材の製造方法、並びに水力機械

【課題】水中環境において長時間使用した場合においても、機械特性が経時的に劣化するのを抑制する。
【解決手段】実施形態の水中摺動部材は、水中で使用する水中摺動部材であって、第1の金属材料からなる基材11と、前記基材11に接合され、第2の金属材料からなる多孔質構造の中間層12と、少なくとも前記中間層12の多孔質構造の空孔内に一部が溶融して充填された腐食防止層122と、少なくとも前記腐食防止層122上に形成され、樹脂材料からなる摺動層13を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水中摺動部材、及び水中摺動部材の製造方法、並びに水力機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水力発電機の摺動部材は油で潤滑されているが、油の流出による河川汚染の環境問題から水潤滑軸受の適用が要求されている。
【0003】
水潤滑軸受の摺動部材は、金属材料からなる基材と、この基材上に接合され、金属材料からなる多孔質構造の中間層と、この中間層上に形成された樹脂材料からなる摺動層とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−29256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摺動部材の中間層は、金属材料からなる複数の球状部材が基材の主面上に、この主面と結合するようにして形成され、多孔質構造を構成している。複数の球状部材によって構成される多孔質構造の空孔の形状は異方である。
【0006】
摺動層の樹脂材料を空孔内に充填させる場合、空孔内の隅々まで充填するのは困難であり、空孔内に樹脂材料が充填されない部分がすき間として残留する場合がある。
【0007】
水中環境においては、中間層の多孔質構造の空孔内に樹脂材料が充填されない部分(すき間)があると、すき間に水が入り込むようになって、すき間を起点として腐食が生じるようになる(すき間腐食)。すき間腐食により、摺動部材(軸受部材)を水中で長時間使用した場合には、機械特性が経時的に劣化する問題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、水中環境において長時間使用した場合においても、機械特性が経時的に劣化するのを抑制することができる水中摺動部材、及び水中摺動部材の製造方法、並びに水力機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の水中摺動部材は、水中で使用する水中摺動部材であって、第1の金属材料からなる基材と、前記基材に接合され、第2の金属材料からなる多孔質構造の中間層と、少なくとも前記中間層の多孔質構造の空孔内に一部が溶融して充填された腐食防止層と、少なくとも前記腐食防止層上に形成され、樹脂材料からなる摺動層を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態における水中摺動部材の概略構成を示す外観図である。
【図2】第1の実施形態における水中摺動部材の概略構成を示す断面図である。
【図3】第1の実施形態における水中摺動部材の製造方法における工程図である。
【図4】第1の実施形態における水中摺動部材の製造方法における工程図である。
【図5】第1の実施形態における水中摺動部材の製造方法における工程図である。
【図6】第1の実施形態における水中摺動部材の製造方法における工程図である。
【図7】第2の実施形態における水中摺動部材の概略構成を示す断面図である。
【図8】第2の実施形態における水中摺動部材の製造方法における工程図である。
【図9】第2の実施形態における水中摺動部材の製造方法における工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態における水中摺動部材の概略構成を示す外観図であり、図2は、本実施形態における水中摺動部材の概略構成を示す断面図である。
【0012】
図1及び図2に示すように、本実施形態の水中摺動部材(以下、「摺動部材」と略す場合がある)10は、第1の金属材料からなる基材11と、この基材11上に接合され、第2の金属材料からなる多孔質構造の中間層12と、少なくとも中間層12の多孔質構造の空孔内に一部が溶融して充填された腐食防止層122と、少なくとも腐食防止層122上に形成され、樹脂材料からなる摺動層13とを有している。
【0013】
この樹脂材料は、機械特性向上の観点からカーボン繊維等の導電性のある充填材を含有している。なお、図1において、参照符号15で示す部材は、摺動部材10が摺動する部材である軸を示し、これによって、本実施形態における摺動部材10は軸受として機能する。
【0014】
中間層12は、第2の金属材料からなる複数の球状部材121が基材11の主面11A上に、この主面11Aと結合するようにして形成され、多孔質構造を構成している。なお、複数の球状部材121の基材11の主面11Aに対する結合は、例えば以下に説明するろう材を用いる方法(ろう付け接合法)あるいは固相拡散接合法によって行うことができる。球状部材121は、一部又は全部が繊維状部材であってもよい。
【0015】
図1及び図2から明らかなように、複数の球状部材121によって構成される多孔質構造の第1の空孔121Aの形状は異方である。摺動層13の樹脂材料を第1の空孔121A中に充填させる場合、第1の空孔121Aの隅々まで充填するのは困難であり、第1の空孔121A内に樹脂材料が充填されない部分がすき間として残留する場合がある。
【0016】
腐食防止層122は、基材11の主面11A及び複数の球状部材121の表面を覆うように形成されている。腐食防止層122は、樹脂材料よりも融点が低い材料の場合は、第1の空孔121Aの摺動層13の樹脂材料が充填されない部分(すき間)に入り込み、すき間を充填する。
【0017】
摺動層13は、腐食防止層122上に形成され、その一部が中間層12の第1の空孔121Aを腐食防止層122で被覆後の第2の空孔122A内に入り込み、第2の空孔122Aに充填される。
【0018】
本実施形態の水中摺動部材は、基材11の主面11A及び複数の球状部材121の表面を覆うようにして腐食防止層122を形成するようにしているので、摺動層13の樹脂材料がカーボン繊維等の導電性のある充填材を含む場合であっても、水中環境において軸15から摺動部材10を通して軸受基材に流れる腐食電流を遮断することができ、軸の腐食を防止することができる。
【0019】
また、水中環境において中間層12の多孔質構造の第1の空孔121A内に樹脂材料が充填されない部分(すき間)があると、すき間に水が入り込むようになって、すき間を起点として腐食が生じるようになる(すき間腐食)。
【0020】
しかしながら、本実施形態においては、基材11の主面11A及び複数の球状部材121の表面を覆うようにして腐食防止層122を形成するようにしているので、上述のようなすき間を抑制することができ、これによってすき間腐食を抑制し、摺動部材10(軸受部材)を水中で長時間使用した場合においても、機械特性が経時的に劣化するのを抑制することができる。
【0021】
このように本実施形態によれば、摺動部材10を水中で長時間使用した場合においても、軸15から摺動部材10を通して軸受基材に流れる腐食電流を遮断することで軸の腐食を防止することができるとともに、長期に亘って高い機械特性を呈することができる。
【0022】
基材11は耐食性及び機械特性に優れた、鉄及びクロムからなるステンレス鋼、鉄、クロム、及びニッケルからなるステンレス鋼、並びに鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、マンガン、シリコン、ニオブ及びチタンからなるステンレス鋼から構成することができる。
【0023】
中間層12を構成する球状部材121も同じく耐食性及び機械特性に優れた、鉄及びクロムからなるステンレス鋼、鉄、クロム、及びニッケルからなるステンレス鋼、並びに鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、マンガン、シリコン、ニオブ及びチタンからなるステンレス鋼から構成することができる。
【0024】
腐食防止層122は、電気的絶縁性を有していれば如何なる材料から構成してもよいが、以下に説明する製造方法に起因して融点の低いフッ素樹脂、特にはパーフルオロエチレン樹脂(融点300〜310℃)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロエチレン共重合体(融点260℃)から構成することが好ましい。なお、これらの樹脂及び共重合体には、必要に応じて樹脂系、セラミックス系、金属系の充填材、例えばウィスカーや繊維、粒子状の充填材を含有させることができる。
【0025】
摺動層13は所定の樹脂材料から構成することができ、例えば四フッ化エチレン樹脂(融点327℃)、パーフルオロエチレン系樹脂(融点300〜310℃)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂(融点260℃)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(融点334℃)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(融点280℃)などを使用することができる。四フッ化エチレン樹脂などのフッ素系樹脂は摩擦係数が低いが、機械特性が若干低い。一方、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの樹脂は摩擦係数は高いが、機械特性も高い。したがって、摺動層13、すなわち摺動部材10に対して要求される特性を適宜考慮して、最適な材料を選択する必要がある。
【0026】
但し、本実施形態で示すように、摺動部材10を軸受部材として使用する場合において、摺動部材10の機械特性は基材11によってある程度担保されているので、摺動層13は主として摩擦係数が低く、摺動特性に優れることが好ましい。したがって、上述した材料の中でもフッ素系樹脂、特に四フッ化エチレン樹脂が好ましい。なお、これらの樹脂材料は、機械特性向上の観点からウィスカーや繊維、粒子等の充填材を含有させている。
【0027】
樹脂材料に含有させる充填材は、炭素及びグラファイトの少なくとも一方を含む繊維及び粒子からなる充填材、さらには、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム及び酸化亜鉛の少なくとも一種のウィスカー、繊維及び粒子からなる追加の充填材を含む。これらの充填材は、特に、摺動する相手部材がステンレス鋼等からなる場合において、相手部材を摩耗させたり、損傷させたりすることなく、高い耐摩耗性を有することができる。
【0028】
次に、本実施形態の摺動部材10の製造方法について説明する。図3〜図6は、摺動部材10の製造方法の一例を示す工程図である。なお、図3〜図6は、図2に示す摺動部材10の断面図に関連させて、摺動部材10の製造過程における各工程の状態を示したものである。
【0029】
最初に、図3に示すように、金型17を準備し、この金型17内に基材11を配置し、基材11の主面11A上に図示しないろう材を塗布する。次いで、基材11の主面11A上に、複数の球状部材121を所定のピッチで配置するとともに、基材11及び球状部材121、並びにろう材を減圧雰囲気下、加熱してろう材を溶融させ、その後、冷却することによって、複数の球状部材121を基材11の主面11A上にろう材を介して結合する(ろう付け接合法)。
【0030】
なお、ろう材を用いる代わりに、固相拡散接合法により、複数の球状部材121を基材11の主面11Aに対して直接結合させることもできる。
【0031】
次いで、フッ素樹脂等の原料粉末をあらかじめ有機溶媒中に溶解あるいは分散させて溶液あるいは分散液を得、この溶液あるいは分散液に複数の球状部材121を結合した基材11を含浸させながら、この溶液あるいは分散液を基材11の主面11A及び複数の球状部材121の表面に塗布及び乾燥することによって、上記原料粉末を基材11の主面11A及び複数の球状部材121上に付着させる。その後、上記原料粉末を加熱して溶融処理させることによって腐食防止層122を形成する。
【0032】
なお、原料粉末の加熱溶融処理は、以下に説明する摺動層13を形成する際の焼成の工程において同時に行うことができる。この場合、腐食防止層122を形成する場合の工程を別途設ける必要がないので、摺動部材10の製造工程を簡略化することができる。
【0033】
次いで、図4に示すように、摺動層13の原料粉末である四フッ化エチレン樹脂等の原料粉末13Xを、複数の球状部材121を内包した腐食防止層122上に分散配置させるとともに、分散配置した原料粉末13X上に不織布16及び圧力伝達媒体18を配置する。なお、不織布16及び圧力伝達媒体18は、後に上パンチを用いて圧縮成型した際に、当該上パンチの離型性を向上させるためのものであり、このような観点から、圧力伝達媒体18としては、摩擦係数の低いフッ素系樹脂、特には四フッ化エチレン樹脂の粉末から構成することが好ましい。
【0034】
なお、この工程において、原料粉末13Xの一部は腐食防止層122で被覆後の多孔質構造の第2の空孔122Aに充填されるようになる。
【0035】
次いで、図5に示すように、不織布16及び圧力伝達媒体18を介し、上パンチ19を用いて原料粉末13Xを圧縮成型するとともに、所定の温度で加熱して原料粉末13Xを焼成させ、摺動層13を形成する。なお、上述したように、図5に示す工程において、原料粉末Xを焼成する際に併せて腐食防止層122の原料粉末を加熱溶融処理させ、当該腐食防止層122を形成することもできる。
【0036】
上記加熱温度は、原料粉末13Xを四フッ化エチレン樹脂等の低融点のフッ素系樹脂から構成する場合は、400℃以下の温度に設定する。また、腐食防止層122を図5に示す工程において、その原料粉末を上述のようにパーフルオロエチレン樹脂等とし、上記同様に400℃以下の温度で加熱することにより、原料粉末13Xの焼成と同時に加熱溶着処理することができ、目的とする腐食防止層122を形成することができる。
【0037】
なお、この工程において、原料粉末13Xは中間層12の多孔質構造の第2の空孔122A内に十分に充填される。この際、空孔内にすき間が生じたとしても、上述のように、中間層12を構成する腐食防止層122によって、第1の空孔121Aのすき間が生じるような箇所には予め腐食防止層122が形成されて、当該すき間を埋設しているので、すき間腐食の原因となるすき間の生成を抑制することができる。
【0038】
次いで、図6に示すように、上パンチ19を開放した後、不織布16及び圧力伝達媒体18を除去することによって、図1及び図2に示すような目的とする摺動部材10を得ることができる。
【0039】
上記例では、金型17内で基材11上に中間層12を形成したが、金型17外で、基材11上に中間層12を予め形成した後、図4に関連させて説明する、摺動層13を形成する段階で、基材11及び中間層12を含むアセンブリを金型17内に配置するようにすることもできる。
【0040】
なお、本実施形態の摺動部材10(軸受部材)は、例えば、水車、水車発電機、ポンプなどの水力機械における摺動部材(軸受部材)として好適に用いることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図7は、本実施形態における水中摺動部材の概略構成を示す断面図である。なお、本実施形態の水中摺動部材の外観図は、第1の実施形態における図1に示す形態と同様の構成を有する。
【0042】
図7に示すように、本実施形態の水中摺動部材(以下、「摺動部材」と略す場合がある)20は、中間層22の構成が、図2に示す第1の実施形態における中間層12の構成と異なるのみで、その他の構成については同様であるので、本実施形態において、中間層22の構造を中心に説明する。なお、図1及び図2に示す構成要素と同一あるいは類似の構成要素については、同一の参照符号を用いている。
【0043】
図7に示すように、本実施形態の摺動部材20は、第1の金属材料からなる基材11と、この基材11に接合され、第2の金属材料からなる多孔質構造の中間層22と、少なくとも中間層22の多孔質構造の空孔221A内に一部が溶融して充填された腐食防止層222と、少なくとも腐食防止層222上に形成され、樹脂材料からなる摺動層13とを有している。この樹脂材料は、機械特性向上の観点からカーボン繊維等の導電性のある充填材を含有している。なお、本実施形態における摺動部材20も、第1の実施形態における摺動部材10と同様に、軸受として機能させることができる。
【0044】
中間層22は、第2の金属材料からなり、例えば、複数のパンチングプレートのパンチ穴の少なくとも一部が連通するように積層させて、その厚さ方向に沿った断面が、例えばT字型の複数の楔型部材221が基材11の主面11A上に、この主面11Aと結合するようにして形成され、多孔質構造を構成している。腐食防止層222は、基材11の主面11A及び複数の楔型部材221の表面を覆うように形成されている。
【0045】
本実施形態の水中摺動部材は、基材11の主面11A及び複数の楔型部材221の表面を覆うようにして腐食防止層122を形成するようにしているので、摺動層13の樹脂材料がカーボン繊維等の導電性のある充填材を含む場合であっても、水中環境において軸15から摺動部材10を通して軸受基材に流れる腐食電流を遮断することができ、軸の腐食を防止することができる。
【0046】
また、水中環境において中間層22の多孔質構造の第1の空孔221A内に樹脂材料が充填されない部分(すき間)があると、すき間に水が入り込むようになって、すき間を起点として腐食が生じるようになる(すき間腐食)。
【0047】
しかしながら、本実施形態においては、基材11の主面11A及び複数の楔型部材221の表面を覆うようにして腐食防止層222を形成するようにしているので、上述のような第1のすき間を抑制することができ、これによってすき間腐食を抑制し、摺動部材20(軸受部材)を水中で長時間使用した場合においても、機械特性が経時的に劣化するのを抑制することができる。
【0048】
このように本実施形態によれば、摺動部材20を水中で長時間使用した場合においても、軸15から摺動部材20を通して軸受基材に流れる腐食電流を遮断することで軸の腐食を防止することができるとともに、長期に亘って高い機械特性を呈することができる。
【0049】
なお、その他の特徴、例えば、中間層22の楔型部材221の構成材料等は第1の実施形態における摺動部材10における球状部材121と同一であるので、説明を省略する。
【0050】
本実施形態の摺動部材20の製造方法は、基本的には、中間層22の多孔質構造が複数の球状部材121で構成される代わりに、複数の楔型部材221で構成される点で異なり、その他の点については、図3〜図6に示すような工程を経て得ることができる。
【0051】
なお、複数の楔型部材221は、複数の球状部材121のように、予め断面形状がT字型の複数の楔型部材221を準備し、これらを複数の球状部材121の代わりに用いることもできる。一方、例えば大きさの異なる複数のパンチ穴が形成された2枚の板状部材を、当該パンチ穴が重複するようにして積層することによって、複数の楔型部材221とすることもできる。
【0052】
図8及び図9は、パンチ穴が形成された2枚の板状部材を用いて複数の楔型部材221を形成する場合の一例を示す工程図である。
【0053】
図8に示すように、基板11の主面11A上に、パンチ穴221−2Aが形成された下板状部材221−2Xをろう付け等によって結合配置し、次いで、図9に示すように、パンチ穴221−1Aが形成された上板状部材221−2Xを、パンチ穴221−1Aとパンチ穴221−2Aとが一致するようにして、ろう付け等によって下板状部材221−1Xに対して結合配置する。この結果、図7に示すような楔型部材221を形成することができる。
【0054】
なお、その他の腐食防止層122や摺動層13等を形成する工程は、図3〜図6に示す工程と同じであるので、説明を省略する。
【0055】
本実施形態の摺動部材20(軸受部材)は、例えば、水車、水車発電機、ポンプなどの水力機械における摺動部材(軸受部材)として好適に用いることができる。
【0056】
上記第1の実施形態及び第2の実施形態においては、中間層12及び22の多孔質構造を構成する部材を球状及び楔型としたが、中間層12及び22の多孔質構造が摺動層13に対するアンカー効果を奏するという要件を満足すれば、上記部材の形状は特に限定されるものではない。例えば、中間層12及び22の多孔質構造の空孔は貫通していなくてもよい。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
まず、円筒形状を持つSUS316ステンレスからなる基材11の主面11AにAg−56質量%Cuろう材を塗布し、直径3mmのSUS316ステンレスからなる複数の鋼球121をその上に散布した後、1050℃、10−3Torrの真空中で加熱処理を行い、複数の鋼球121を基材11の主面11Aに結合させ、多孔質構造を形成した。
【0058】
次いで、基材11の主面11A及び複数の鋼球121の表面に、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体の樹脂粉末を溶媒に分散してなる分散液を塗布し、乾燥させるという工程を、最終的な厚さが0.5mmとなるまで繰り返し、基材11の主面11A及び複数の鋼球121の表面に上記樹脂粉末を付着させた。
【0059】
次いで、基材11及び複数の鋼球121を内包し、腐食防止層122を含む中間層12からなるアセンブリを金型17内に配置し、このアセンブリ上に30質量%炭素繊維を含有した四フッ化エチレン樹脂の原料粉末を充填した。炭素繊維は、直径7〜10μm、長さ3mmの短繊維を用いた。
【0060】
次いで、原料粉末上に厚さ0.3mmの不織布16及びPTFEからなる圧力伝達媒体(粉末)18を配置し、平面形状を有する成形パンチ19により、圧力50MPaで一方向に圧縮成形した。
【0061】
次いで、不織布16及び圧力伝達媒体18を除去した後、上記原料粉末の成型体を370℃、2時間加熱し、成型体を加熱溶融して摺動層13を形成するとともに、基材11の主面11A及び複数の鋼球121の表面に付着した樹脂粉末を加熱溶融して、当該表面に腐食防止層122を形成した。
【0062】
このようにして得た摺動部材の腐食電流の流れ具合を調べたところ、腐食電流は遮断され、すき間腐食が生じないことを確認した。
【0063】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、水中環境において長時間使用した場合においても、機械特性が経時的に劣化するのを抑制することができる。
【0064】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10 水中摺動部材(軸受部材)
11 基材
11A 基材の主面
12、22 中間層
121 球状部材
122 腐食防止層
13 摺動層
15 軸
20 水中摺動部材(軸受部材)
221 楔型部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中で使用する水中摺動部材であって、
第1の金属材料からなる基材と、
前記基材に接合され、第2の金属材料からなる多孔質構造の中間層と、
少なくとも前記中間層の多孔質構造の空孔内に一部が溶融して充填された腐食防止層と、
少なくとも前記腐食防止層上に形成され、樹脂材料からなる摺動層と、
を備えることを特徴とする水中摺動部材。
【請求項2】
前記基材の前記第1の金属材料は、鉄及びクロムからなるステンレス鋼、鉄、クロム、及びニッケルからなるステンレス鋼、並びに鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、マンガン、シリコン、ニオブ及びチタンからなるステンレス鋼の少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載の水中摺動部材。
【請求項3】
前記中間層の前記第2の金属材料は、鉄及びクロムからなるステンレス鋼、鉄、クロム、及びニッケルからなるステンレス鋼、並びに鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、マンガン、シリコン、ニオブ及びチタンからなるステンレス鋼の少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水中摺動部材。
【請求項4】
前記腐食防止層は、フッ素樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の水中摺動部材。
【請求項5】
前記摺動層を構成する前記樹脂材料は、四フッ化エチレン樹脂を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の水中摺動部材。
【請求項6】
前記摺動層は、炭素及びグラファイトの少なくとも一方を含む繊維及び粒子からなる充填材を含むことを特徴とする、請求項5に記載の水中摺動部材。
【請求項7】
前記摺動層は、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム及び酸化亜鉛の少なくとも一種のウィスカー、繊維及び粒子からなる追加の充填材を含むことを特徴とする、請求項5又は6に記載の水中摺動部材。
【請求項8】
水中で使用する水中摺動部材の製造方法であって、
第1の金属材料からなる基材に第2の金属材料からなる多孔質構造の中間層を結合させる工程と、
少なくとも前記中間層の多孔質構造の空孔内に一部が溶融して充填された腐食防止層を形成する工程と、
少なくとも前記腐食防止層上に樹脂材料からなる摺動層を形成する工程と、
を備えることを特徴とする水中摺動部材の製造方法。
【請求項9】
前記腐食防止層は、原料粉末を少なくとも前記中間層上にあらかじめ分散させた混合粉末を含浸させながら成形した後、加熱して溶融処理することを特徴とする、請求項8記載の水中摺動部材の製造方法。
【請求項10】
前記摺動層は、前記樹脂材料の粉末を前記腐食防止層上に分散配置させた後、圧縮成型及び焼成させることによって形成することを特徴とする、請求項8又は9に記載の水中摺動部材の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一に記載の水中摺動部材を含むことを特徴とする、水中軸受部材。
【請求項12】
請求項11に記載の水中摺動部材を含むことを特徴とする、水力機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−52675(P2013−52675A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165761(P2012−165761)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(390014568)東芝プラントシステム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】