説明

水中植生工法

【課題】 失われた生態系を効率よく修復することができる水中植生工法を提供すること。
【解決手段】 ポット11内の生育基盤材12に水生植物13を植生することにより水生植物生育体1を構成し、この水生植物生育体1を、被修復水域Bの水中生態系を修復可能に、この被修復水域Bの水中に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や湖沼、海洋等の植生技術に関し、より詳細には、水中の生態系を修復するための水中植生工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水生植物、例えば海草類が群生する藻場は、水質浄化及び生態系維持の観点から非常に重要である。しかしながら、近年、水質汚染や沿岸海域の埋立て事業の促進等によってこのような藻場の消失が著しい。
このため、人工的に代替藻場を造成するなどして回復を図っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
代替藻場を造成する場合には、次のような問題点がある。
(1)水生植物の中でも特に海草類は、水深や水温、水質などの生育するための条件がきわめてデリケートである。したがって、このような海草類を不適な環境下で育成しようとしても難しい。
(2)埋立てにより藻場が消失してしまうような場合には通常、埋立て後に、この埋立て地の護岸に沿って、代替藻場を新たに埋め立てて造成し、この代替藻場で海草類を新たに生育する方法が採用される。ところが、このような方法では、代替藻場を埋立て地の護岸に沿った海底に構成するため、埋立て地の造成工事が終了するまで、代替藻場の造成工事に取り掛かれない場合が多い。したがって、代替藻場の造成に長時間を要してしまう。
(3)また、代替藻場を埋め立てて造成する方法では、代替藻場が大掛かりな構成となるため、工費が増大してしまう。さらには、造成した代替藻場が生育環境に適さずに海草類が根付かない、あるいは生育しない場合もしばしばあり、このような場合には、代替藻場の造成工事自体が無駄になってしまうおそれがある。
【0004】
本発明は、上記したような従来の問題を解決するためになされたもので、失われた生態系を効率よく修復することができる水中植生工法を提供することを目的とする。
さらに本発明は、埋立て工事の時間的影響を受け難い水中植生工法を提供することを目的とする。
さらに本発明は、低コスト化が図れる水中植生工法を提供することを目的とする。
本発明は、上記した目的のうちの少なくとも一つを達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本願の第1の発明である水中植生工法は、ポット内の生育基盤材に水生植物を植生することにより水生植物生育体を構成し、前記水生植物生育体を、被修復水域の水中生態系を修復可能に、この被修復水域の水中に配置したことを特徴とする。
ここで、水生植物とは、海草藻類等の海洋に生息する植物や、河川や湖沼などの生息する植物を意味する。
生育基盤材とは、水生植物を生育するために根付かせるものである。すなわち、例えば、水生植物が砂泥性海草藻類の場合には、生育基盤材を砂泥とすることができ、水生植物が岩礁性海草藻類の場合には、生育基盤材を岩礁とすることができる。
被修復水域とは、生態系の修復が必要な水域、例えば、食物連鎖のバランスが崩れた水域を意味する。
【0006】
また、本願の第2の発明である水中植生工法は、ポット内の生育基盤材に水生植物を植生して水生植物生育体を構成し、前記水生植物生育体を栽培水域に配置して前記水生植物を十分に生育し、前記水生植物生育体を被修復水域に移動し、この被修復水域の水中生態系を修復可能に前記水生植物生育体を前記被修復水域の水中に配置したことを特徴とする。
ここで、飼育水域とは、水生植物を生育しやすい環境下にある水域、例えば、水生植物を生育しやすい水温や水質などを有する水域を意味する。
【0007】
また、本願の第3の発明は、前記第1または2の発明であって、前記被修復水域の水中に配置した前記水生植物生育体を浮遊させたことを特徴とする。
【0008】
また、本願の第4の発明は、前記第3の発明であって、前記被修復水域の水中に配置した前記水生植物生育体を、浮体に吊り下げて浮遊させたことを特徴とする。
【0009】
また、本願の第5の発明は、前記第4の発明であって、前記浮体に観賞用デッキを設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本願の第6の発明は、前記第1または2の発明であって、前記被修復水域の水中に配置した前記水生植物生育体を支持させたことを特徴とする。
【0011】
また、本願の第7の発明は、前記第1乃至6のいずれかの発明であって、前記水生植物生育体の前記被修復水域への配置水深を調整可能にする水深調整手段を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本願の第8の発明は、前記第1乃至7のいずれかの発明であって、前記ポットはポーラスコンクリート製であることを特徴とする。
【0013】
また、本願の第9の発明は、前記第1乃至8のいずれかの発明であって、前記水生植物は、アマモ等の砂泥性海草類であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水中植生工法は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果のうちの少なくとも一つを得ることができる。
(1)水生植物生育体を、ポット内の生育基盤材に水生植物を植生して構成することにより軽微なものとしたため、被修復水域の中でも生育に比較的適した水深に配置することが容易となる。したがって、水生植物が被修復水域で生育することにより被修復水域の水中生態系を修復する。
(2)水生植物生育体を栽培水域に配置して水生植物を生育した後に、この栽培水域で十分な栄養を得た水生植物を被修復水域に配置したので、被修復水域の不適な生育環境下にも水生植物が耐えられやすくなる。したがって、被修復水域の失われた生態系を効率よく修復することが可能となる。
(2)水生植物生育体の被修復水域への配置形態が、浮遊方式あるいは係留方式または支持方式による簡易な構成であるため、被修復水域が埋立て予定地周辺であっても、この埋立て地の造成前に、水生植物生育体を被修復水域に配置することができる。
(4)水生植物生育体が軽微なものあるため、栽培水域から被修復水域への移動、及び被修復水域への配置が容易である。したがって、従来の代替藻場の造成と比較して施工費用を大幅に低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0016】
<1>水生植物生育体
水生植物生育体としての藻場1は、図1に示すように、ポット11と、このポット11内に入れた生育基盤材としての砂泥12と、砂泥12に植生した水生植物としての砂泥性海草類、例えばアマモ13と、から構成する。
ポット11は、ポーラスコンクリートで形成する。ポット11をポーラスコンクリート製とすることにより、軽量が図られるとともに、水や空気等の通路を有しているため、アマモ13が生育しやすい環境を造ることができる。また、ポット11は、軽量化を図るために、例えば、金属製の枠体の内側にやし殻マットを張って構成することもできる。ポット11は、アマモ13の量により大きさを任意に設定することができるが、運搬可能な大きさとする。なお、ポット11の側壁の上側には、必要に応じて塵流入防止用の網(図示せず)を張ってもよい。
アマモ13は、直接的に泥砂12に植栽してもよく、種子の状態で泥砂12内に蒔いてもよい。
【0017】
<2>水生植物生育体の栽培水域への配置
このような藻場1を、図2に示すように、栽培水域Aに配置する。藻場1の栽培水域Aへの配置は、例えば、水底に固定した支持部材2に取り付ける形態とすることができる。水生植物がアマモ13の場合には、水深数十cm乃至数m、より具体的には1〜2mとなるように藻場1を配置することができる。あるいは、藻場1を上下動可能に支持部材2に取り付けることにより、アマモ13の生育長に応じて、藻場1の水深調整ができるように構成してもよい。
ここで、水生植物が岩礁性または砂泥性海草類の場合には、栽培水域とは、例えば、水温5〜30度、COD(化学的酸素要求量)値1.7mg・l-1以下の海水中と定義することができる。このような水域に藻場1を配置することにより、アマモ13が十分に育つこととなる。また、水生植物がアマモ13の場合には、栽培水域Aで数十cm以上、例えば1〜2mに育成することが好ましい。
【0018】
<3>水生植物生育体の被修復水域への配置
栽培水域Aでアマモ13を十分に生育したら、藻場1を被修復水域Bへと移動する。そして、例えば、一つまたは複数の浮体3に吊り下げて浮遊させた状態で、すなわち水底から離れた状態で、被修復水域Bの水中に配置する。このような構成により、潮の干満に関わらず、藻場1をほぼ一定の水深に保つことができる。
水生植物がアマモ13の場合には、水深数十cm乃至数m、より具体的には2〜3mとなるように藻場1を浮体3に吊り下げることが好ましいが、ここでは、藻場1と浮体2とをつなぐ吊下げ材4(水深調整手段)を長さ調整可能に構成し、アマモ13の生育長に応じて、藻場1の水深調整ができるように構成してもよい。
また、藻場1は、潮に流されないように、縄等の係留手段5によって水底や護岸などに係留させて配置することができる。
なお、藻場1は、被修復水域Bの水質状況に応じて被修復水域Bに1つまたは複数配置する。
ここで、水生植物が岩礁性または砂泥性海草類の場合には、被修復水域Bとは、例えば、COD値が1.7mg・l-1よりも大きい値と定義することができる。十分に生育させたアマモ13を、被修復水域Bに配置することにより、この水域のCOD値を1.7mg・l-1以下とすることができ、藻場1を海洋生物の生息地として機能させ、被修復水域Bの失われた生態系を修復して水質を浄化することが可能となる。
【0019】
藻場1が軽微で運搬性に優れることにより、例えば、被修復水域Bに配置した藻場1の水深を任意に変更したり、底質(ここでは生育基盤材としての砂泥12の質)を任意に変更して藻場1を被修復水域Bに配置したりすることが容易であるため、アマモ13の生育に適した水深や底質など、生育条件を調査することも可能である。
なお、被修復水域Bに配置した藻場1のアマモ13の生育状態があまり良くない場合には、この藻場1をいったん引き上げ、栽培水域でアマモ13を十分に生育した別の藻場1を被修復水域Bに配置することが好ましい。引き上げた藻場1は、再び生育環境の整った栽培水域Aで育成する。
【実施例2】
【0020】
以降に他の形態について説明するが、実施例1と同一の部位については同一の符号を付して説明を省略する。
【0021】
藻場1は、図3に示すように、ポット11に直接取り付けた浮体6を用いて被修復水域Bに浮遊させてもよい。そして、浮体6内の空気量を、浮体6に接続したポンプ(水深調整手段:図示せず)等で調整することによって、藻場1の水深調整ができるように構成してもよい。あるいは、水底に接続した係留手段5(水深調整手段)を長さ調整可能に構成することによって、藻場1の水深調整ができるように構成してもよい。
【実施例3】
【0022】
藻場1は、図4に示すように、浮桟橋状の浮体7に吊り下げて被修復水域Bに浮遊させてもよい。すなわち、浮体7は、人が乗れるように上部または上面に観賞用デッキ71を設けて構成してもよい。このような構成により、被修復水域Bの生態系を修復できるとともに、藻場1周辺の生態系を容易に観賞することができる。
さらに、図5に示すように、浮体6をポット11に取り付け、浮体6内の空気量を調整することによって、藻場1の水深調整ができるように、より具体的にはアマモ13が水上に出られるように構成すれば(図6も参照)、アマモ13をより観賞しやすくなる。
【実施例4】
【0023】
藻場1は、図7に示すように、浮遊方式に代えて、被修復水域Bに支持させて配置してもよい。すなわち、藻場1は、例えば、水底に打設したアンカー8に取り外し可能に固定してもよい。この場合には、アンカー8の水底面からの突出長さを調整可能に構成することにより、藻場1の水深調整ができるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の海中植生工法に用いられる水生植物生育体を示す図
【図2】本発明の海中植生工法を概略的に示す構成図
【図3】水生植物生育体を他の浮遊方式により被修復水域に配置した状態を示す図
【図4】水生植物生育体を別の浮遊方式により被修復水域に配置した状態を示す図
【図5】水生植物生育体を複数の浮遊方式の組合せにより被修復水域に配置した状態を示す図
【図6】水生植物生育体を複数の浮遊方式の組合せにより被修復水域に配置した状態を示す別の図
【図7】水生植物生育体を支持方式により被修復水域に配置した状態を示す図
【符号の説明】
【0025】
1 藻場(水生植物生育体)
3、6、7 浮体
4 吊下げ材(水深調整手段)
5 係留手段(水深調整手段)
11 ポット
12 砂泥(生育基盤材)
13 アマモ(水生植物)
71 鑑賞用デッキ
A 栽培水域
B 被修復水域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポット内の生育基盤材に水生植物を植生することにより水生植物生育体を構成し、前記水生植物生育体を、被修復水域の水中生態系を修復可能に、この被修復水域の水中に配置したことを特徴とする、
水中植生工法。
【請求項2】
ポット内の生育基盤材に水生植物を植生して水生植物生育体を構成し、
前記水生植物生育体を栽培水域に配置して前記水生植物を十分に生育し、
前記水生植物生育体を被修復水域に移動し、この被修復水域の水中生態系を修復可能に前記水生植物生育体を前記被修復水域の水中に配置したことを特徴とする、
水中植生工法。
【請求項3】
前記被修復水域の水中に配置した前記水生植物生育体を浮遊させたことを特徴とする、
請求項1または2に記載の水中植生工法。
【請求項4】
前記被修復水域の水中に配置した前記水生植物生育体を、浮体に吊り下げて浮遊させたことを特徴とする、
請求項3に記載の水中植生工法。
【請求項5】
前記浮体に観賞用デッキを設けたことを特徴とする、
請求項4に記載の水中植生工法。
【請求項6】
前記被修復水域の水中に配置した前記水生植物生育体を支持させたことを特徴とする、
請求項1または2に記載の水中植生工法。
【請求項7】
前記水生植物生育体の前記被修復水域への配置水深を調整可能にする水深調整手段を設けたことを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載の水中植生工法。
【請求項8】
前記ポットはポーラスコンクリート製であることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれかに記載の水中植生工法。
【請求項9】
前記水生植物は、アマモ等の砂泥性海草類であることを特徴とする、
請求項1乃至8のいずれかに記載の水中植生工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−136282(P2006−136282A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330734(P2004−330734)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000229128)日本ゼニスパイプ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】