説明

水中構造物の補強方法、及び該方法を実施するためのピストンシリンダ装置

【課題】二液混合型の水中硬化型樹脂を十分に混練してFRP板等に隙間無く接着させることにより、水中構造物の補強効果を高める。
【解決手段】第1工程S1及び第2工程S2においては、水中硬化型樹脂の主剤と硬化剤をシリンダ内に入れ、ピストンを駆動して吐出口から柱状の形状で押し出す。これにより、主剤と硬化剤とは短時間で十分に混練されて、水中硬化型樹脂の接着能力が最大限に引き出されることとなる。そして、第3工程S3においては、該柱状に押し出されたもの(混練物)を略板状に配列し、ローラーで押圧して表面を平滑にする。さらに、該平滑にした水中硬化型樹脂層をFRP板に積層し(S4)、該FRP板を水中構造物に貼り付ける(S5)。これにより、水中硬化型樹脂層をFRP板や水中構造物の表面に隙間無く密着させることができ、FRP板の水中構造物への接着強度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の繊維強化プラスチックを水中硬化型樹脂により水中構造物に貼り付けて該水中構造物を補強する水中構造物の補強方法、及び該方法を実施するためのピストンシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中にあるコンクリート構造物(例えば、橋脚等。本明細書において「水中構造物」とする)に繊維強化プラスチックを貼り付けて該水中構造物を補強する方法については種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
図7は、水中構造物の補強方法の従来の一例を示す斜視図であり、符号200は、水中構造物を示し、符号201は、該水中構造物200の表面に塗布された水中硬化型樹脂を示し、符号202は、該水中硬化型樹脂201に埋め込まれた格子状の繊維強化プラスチック部材を示す。なお、この水中硬化型樹脂201の接着強度を十分に発揮させるには、繊維強化プラスチック部材202を水中構造物200の側に強く押し付けて、該水中硬化型樹脂201と該繊維強化プラスチック部材202との間、及び該水中硬化型樹脂201と前記水中構造物200との間から水を排除してそれらを密着させる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−155509号公報
【特許文献2】特開2007−9482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の水中硬化型樹脂の粘度が非常に高いことから、水中硬化型樹脂の主剤と硬化剤とを混練することが困難であり、混練に時間が掛かってしまったり、混練が不十分で水中硬化型樹脂の接着能力を十分に引き出せなかったりするという問題があった。また、水中構造物の補強をより強固なものとするには、図7に示すような接着面積が狭い格子状の繊維強化プラスチック部材ではなく接着面積が広い板状の繊維強化プラスチック部材を水中構造物に接着すべきであるが、水中硬化型樹脂はその粘度が非常に高いために該繊維強化プラスチック部材や該水中構造物と広い面積で隙間無く接触させることが難しく、該繊維強化プラスチック部材や該水中構造物との間に水が残留して接着力が減少してしまい、補強効果を十分に発揮させることができないという問題があった。
【0006】
本発明は、上述の問題を解消することのできる水中構造物の補強方法、及び該方法を実施するためのピストンシリンダ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、図4に例示するものであって、水中にあるコンクリート構造物(以下、「水中構造物」とする)(3)に水中硬化型樹脂により板状の繊維強化プラスチック(以下、「FRP板」とする)(4)を貼り付けて該水中構造物(3)を補強する、水中構造物の補強方法において、
図2に例示するように、水中硬化型樹脂の主剤(A)と硬化剤(B)とをシリンダ(10)内に入れた状態でピストン(11)を駆動して該シリンダ(10)の吐出口(10a)から柱状に押し出すことにより、該主剤(A)と該硬化剤(B)とを混練してなる混練物(D1)を形成する第1工程(図1のS1参照)と、
該柱状に押し出された混練物(D1)をシリンダ(10)内に入れた状態でピストン(11)を駆動して該シリンダ(10)の吐出口(10a)から柱状に押し出すことにより、前記主剤(A)と前記硬化剤(B)とをより一層混練してなる混練物(D2)を形成する第2工程(図1のS2参照)と、
図3に例示するように、該第2工程(S2)にて柱状に押し出された混練物(D2)をローラー(20,21)で押圧することにより板状の水中硬化型樹脂層(D3)を形成する第3工程(図1のS3参照)と、
図3に例示するように、該水中硬化型樹脂層(D3)を前記FRP板(4)に積層する第4工程(図1のS4参照)と、
図4に例示するように、該水中硬化型樹脂層(D3)が前記水中構造物(3)に接触した状態で前記FRP板(4)を該水中構造物(3)に押し付けることにより、該FRP板(4)を該水中構造物(3)に貼り付ける第5工程(図1のS5参照)と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記第3工程(S3)が、
前記第2工程(S2)にて柱状に押し出された混練物(D2)を複数本並べて略板状に配置する工程(図1のS31参照)と、
該略板状に配置された複数本の混練物(D2)をローラー(20,21)で押圧することにより、その表面を略平滑にする工程(図1のS32参照)と、
からなることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記第5工程(S5)が、前記水中硬化型樹脂層(D3)の厚さが減少するように前記FRP板(4)を押し付ける工程であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、前記水中構造物(3)の表面であって前記FRP板(4)を貼り付ける部分をウォータージェットにより粗面化する工程(図1のS11参照)を、前記第5工程(S5)を実施するまでに実施し、
前記FRP板(4)の表面を粗面化する工程(図1のS10参照)を、前記第4工程(S4)を実施するまでに実施し、
前記第5工程(S5)による前記FRP板(4)の前記水中構造物(3)への押し付けを、前記水中硬化型樹脂が硬化する前から硬化した後まで継続して行い、
前記FRP板(4)の前記水中構造物(3)への押し付けにより前記FRP板(4)からはみ出た水中硬化型樹脂を除去する工程(図1のS6参照)を、該はみ出た水中硬化型樹脂が硬化するまでに行うことを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発明において、前記第2工程(S2)にて使用する前記吐出口の開口面積が、前記第1工程(S1)にて使用する前記吐出口の開口面積よりも小さいことを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、図5に例示するものであって、隔壁(103)で仕切られて形成された第1シリンダ(101)及び第2シリンダ(102)と、
該隔壁(103)に対向した状態で往復動可能となるように前記第1シリンダ(101)内に配置された第1ピストン(104)と、
該隔壁(103)に対向した状態で往復動可能となるように前記第2シリンダ(102)内に配置された第2ピストン(105)と、
を備え、
前記隔壁(103)には、該第1シリンダ(101)と該第2シリンダ(102)とを連通する開口である吐出口(103a)が形成されたことを特徴とするピストンシリンダ装置に関する。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の発明において、前記隔壁(103)が、着脱可能に構成されていて、開口面積及び/又は開口形状が異なる吐出口を有する他の隔壁に交換可能であることを特徴とする。
【0014】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1,2,4及び5に係る発明によれば、粘度が高い水中硬化型樹脂であっても、前記第1及び第2工程によってシリンダの吐出口から柱状に押し出すことで十分に混練することができる。その結果、該水中硬化型樹脂の接着能力を最大限に引き出すことができ、前記FRP板を前記水中構造物に強固に接着してその補強を行うことができる。また、ピストンを移動させるだけで水中硬化型樹脂の混練ができ、混練の時間が短縮化される。さらに、本発明によれば、前記水中硬化型樹脂をまず柱状に成形して厚さを略均一とし、その後、ローラーで押圧することで板状に成形するという方法を採っているので、厚さが不均一な固まりをいきなりローラーで押圧する場合に比べて水中硬化型樹脂層の表面及び裏面を平滑にできる。したがって、水を残留させることなく該水中硬化型樹脂層を前記FRP板の表面(略平滑な表面)や前記水中構造物の表面(略平滑な表面)に密着させることができ、該FRP板の該水中構造物への接着を強固なものとして、補強効果を十分に発揮させることができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、水中硬化型樹脂層と水中構造物との間や、該水中硬化型樹脂層とFRP板との間から水を排除することができ、該水中硬化型樹脂層の接着強度を高めることができる。
【0017】
請求項6及び7に係る発明によれば、粘度が高い水中硬化型樹脂であっても吐出口から柱状に押し出すことで十分に混練することができる。その結果、該水中硬化型樹脂の接着能力を最大限に引き出すことができ、FRP板を水中構造物に強固に接着してその補強を行うことができる。また、二液混合型の水中硬化型樹脂の一般的な可使時間は30分程度と短いが、本装置を用いれば、材料(つまり、主剤と硬化剤との混練物)をシリンダ内から取り出さなくても前記第1ピストンと前記第2ピストンの駆動を切り替えるだけで混練を繰り返すことができ、混練作業を短時間で終了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明に係る水中構造物の補強方法の手順の一例を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、第1工程及び第2工程を実施する様子の一例を示す部分断面図である。
【図3】図3は、第3工程及び第4工程を実施する様子の一例を示す側面図である。
【図4】図4は、第5工程を実施する様子の一例を示す斜視図である。
【図5】図5は、第1工程及び第2工程を実施する様子の他の例を示す部分断面図である。
【図6】図6は、第3工程を実施するためのローラー装置の構造の一例を示す正面図である。
【図7】図7は、水中構造物の補強方法の従来の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1乃至図6に沿って、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明に係る水中構造物の補強方法は、二液混合型の水中硬化型樹脂を使って水中構造物(水中にあるコンクリート構造物の意であって、例えば橋脚等。以下同じ。)の表面に板状の繊維強化プラスチック(例えば、アラミド繊維強化プラスチック。本明細書において「FRP板」とする)を貼り付けて該水中構造物を補強する方法である。また、本発明に係る水中構造物の補強方法は、少なくとも次の工程を備えている。すなわち、
・ 図2に例示するように、前記水中硬化型樹脂の主剤Aと硬化剤Bとをシリンダ10内に入れた状態でピストン11を駆動して該シリンダ10の吐出口10aから該主剤Aと該硬化剤Bとを柱状に押し出すことにより、該主剤Aと該硬化剤Bとを混練してなる混練物(柱状の1次混練物)D1を形成する第1工程(図1のS1参照)
・ 該第1工程S1にて柱状に押し出された混練物D1を再びシリンダ10内に入れ、その状態でピストン11を駆動して該シリンダ10の吐出口10aから柱状に押し出すことにより、前記主剤Aと前記硬化剤Bとをより一層混練してなる混練物(柱状の2次混練物)D2を形成する第2工程(図1のS2参照)
・ 図3に例示するように、該第2工程S2にて柱状に押し出された混練物D2をローラー20,21で押圧することにより該混練物D2の表面を平滑にして、板状の水中硬化型樹脂層D3を形成する第3工程(図1のS3参照)
・ 該水中硬化型樹脂層D3を前記FRP板4に積層する第4工程(図3、及び図1のS4参照)
・ 該水中硬化型樹脂層D3が前記水中構造物3に接触した状態で前記FRP板4を該水中構造物3に押し付けることにより、該FRP板4を該水中構造物3に貼り付ける第5工程(図4、及び図1のS5参照)
【0021】
本発明によれば、粘度が高い水中硬化型樹脂であっても、前記第1及び第2工程S1,S2によってシリンダ10の吐出口10aから柱状に押し出すことで十分に混練することができる。その結果、該水中硬化型樹脂の接着能力を最大限に引き出すことができ、前記FRP板4を前記水中構造物3に強固に接着してその補強を行うことができる。また、ピストン11を移動させるだけで水中硬化型樹脂の混練ができ、混練の時間が短縮化される。さらに、本発明によれば、前記水中硬化型樹脂をまず柱状に成形して厚さを略均一とし、その後、ローラー20,21で押圧することで板状に成形するという方法を採っているので、厚さが不均一な固まりをいきなりローラーで押圧する場合に比べて水中硬化型樹脂層D3の表面及び裏面を平滑にできる。したがって、水を残留させることなく該水中硬化型樹脂層D3を前記FRP板4の表面(略平滑な表面)や前記水中構造物3の表面(略平滑な表面)に密着させることができ、該FRP板4の該水中構造物3への接着を強固なものとして、補強効果を十分に発揮させることができる。
【0022】
ここで、前記第1工程S1及び前記第2工程S2において柱状の混練物を形成する装置(以下、「ピストンシリンダ装置」とする)としては流体圧(例えば、油圧)で駆動するものを用いると良い。なお、図2に示すピストンシリンダ装置(混練装置)1は、吐出口10aを有するシリンダ10と、該吐出口10aに対向した状態で摺動可能となるように該シリンダ10内に配置されたピストン11と、を備えていて、前記水中硬化型樹脂の主剤Aと硬化剤Bとをシリンダ10内に入れた状態でピストン11を駆動すると、該主剤Aと該硬化剤Bとは前記吐出口10aから柱状に押し出されながら混練されることとなる。また、図2に例示するピストンシリンダ装置1においては前記吐出口10aは複数形成されているが、吐出口が1つのものを本発明の範囲から除外するものでは無い。
【0023】
一方、この第1工程S1及び第2工程S2においては、図5に例示するようなピストンシリンダ装置(混練装置)100を使用するようにしても良い。該ピストンシリンダ装置100は、
・ 隔壁103で仕切られて形成された(つまり、隔壁103で仕切られることによりそれぞれにシリンダ室が形成されてなる)第1シリンダ101及び第2シリンダ102と、
・ 該隔壁103に対向した状態で往復動可能となるように前記第1シリンダ101内に配置された第1ピストン104と、
・ 該隔壁103に対向した状態で往復動可能となるように前記第2シリンダ102内に配置された第2ピストン105と、
を備えており、該隔壁103には、該第1シリンダ101と該第2シリンダ102とを連通する開口(本明細書において「吐出口」とする)103aが形成されている。いま、前記水中硬化型樹脂の主剤Aと硬化剤Bとを前記第1シリンダ101内に入れて前記第1ピストン104を駆動すると、それら(つまり、主剤Aと硬化剤B)は前記吐出口103aから柱状に押し出されて混練物D1が形成される。そして、該第1ピストン104の駆動を止めた後に前記第2ピストン105を駆動すると、前記第2シリンダ102内に柱状に押し出された混練物D1は吐出口103aを通って前記第1シリンダ101内に柱状に押し出され、該押し出される際により一層混練されることとなる。この装置を用いれば、粘度が高い水中硬化型樹脂であっても前記吐出口103aから柱状に押し出すことで十分に混練することができる。その結果、該水中硬化型樹脂の接着能力を最大限に引き出すことができ、前記FRP板4を前記水中構造物3に強固に接着してその補強を行うことができる。また、二液混合型の水中硬化型樹脂の一般的な可使時間は30分程度と短いが、本装置を用いれば、材料(つまり、主剤Aと硬化剤Bとの混練物)をシリンダ101又は102内から取り出さなくても前記第1ピストン104と前記第2ピストン105の駆動を切り替えるだけで混練を繰り返すことができ、混練作業を短時間で終了させることができる。なお、図5に例示するピストンシリンダ装置100においては前記吐出口103aが複数形成されているが、吐出口が1つのものを本発明の範囲から除外するものでは無い。
【0024】
ところで、図1に示すフローチャート図では、前記第1工程S1を1回実施し、前記第2工程S2を1回実施して、水中硬化型樹脂を混練する工程を合計2回実施するようになっているが、もちろんこれに限られるものではなく、3回以上実施するようにしても良い。つまり、第2工程S2にて得た柱状の混練物D2を再びピストンシリンダ装置に入れて再混練及び柱状化を行い、その工程を複数回繰り返すようにしても良い。
【0025】
なお、前記第2工程S2にて使用する前記吐出口の開口面積が、前記第1工程S1にて使用する前記吐出口の開口面積よりも小さくなるようにすると良く、上述のように水中硬化型樹脂の混練及び柱状化を3回以上行う場合には、吐出口の開口面積が次第に小さくなるようにすると良い。そのためには、吐出口の開口面積が異なる複数のピストンシリンダ装置を用意しておいて工程に応じて使い分けていくか、吐出口の開口面積を変更できる構造のピストンシリンダ装置(1つのピストンシリンダ装置)を用意しておいて該開口面積を適宜変更するようにすると良い。例えば、図5に例示するピストンシリンダ装置100の場合には隔壁103が着脱可能となるように構成しておいて、
・ 開口面積が異なる吐出口を有する他の隔壁(不図示)に交換可能としたり、
・ 開口面積及び開口形状の両方が異なる他の隔壁(不図示)に交換可能としたり、
・ 開口形状が異なる他の隔壁(不図示)に交換可能としたり、
するようにすると良い。
【0026】
一方、前記第3工程S3においては、図3及び図6に例示するローラー装置2を使用すると良い。なお、図中の符号20,21は、ローラーを示し、図3中の符号22,23は、該ローラー20,21を回転自在に支持するローラー支持部を示し、図6中の符号24は、一方のローラー21に連結されていて該ローラー21を回転するためのハンドルを示す。そして、この第3工程S3は、
・ 前記第2工程S2にて柱状に押し出された混練物D2を複数本並べて略板状に配置する工程(図3、及び図1のS31参照)と、
・ 該略板状に配置された複数本の混練物D2をローラー20,21で押圧することにより、その表面を略平滑にする工程(図3、及び図1のS32参照)と、
により実施すると良い。
【0027】
さらに、前記第5工程S5においては、前記水中硬化型樹脂層D3の厚さが減少するように前記FRP板4を押し付けるようにすると良い。例えば、該押し付けによって水中硬化型樹脂層D3の厚さが3mm程度から1mm程度となるようにすると良い。そのようにした場合には、前記水中硬化型樹脂層D3と前記水中構造物3との間や、該水中硬化型樹脂層D3と前記FRP板4との間から水を排除することができ、該水中硬化型樹脂層D3の接着強度を高めることができる。なお、図4は、水中構造物としての橋脚3に前記FRP板4を貼り付ける様子の一例を示す斜視図であるが、このような橋脚3に前記FRP板4を貼り付けるような場合は、該FRP板4の上から該橋脚3に鋼板(不図示)を巻き付け、該鋼板をボルトやゴムなどで締め付けるようにすると良い。
【0028】
ところで、図1のS11に示すように、前記水中構造物3の表面(具体的には、前記FRP板4を貼り付ける部分)をウォータージェット(又はショットブラスト)により粗面化する工程を実施すると良い。該工程は、前記FRP板4を貼り付けるまで(つまり、前記第5工程S5を実施するまで)に実施すると良い。そのようにした場合には、前記水中硬化型樹脂層D3の該水中構造物3への接着力が増し、前記FRP板4を該水中構造物3へ強固に接着することができる。
【0029】
また、図1のS10に示すように、前記FRP板4の表面を粗面化する工程を、前記第4工程S4を実施するまで(つまり、前記水中硬化型樹脂層D3を前記FRP板4に積層するまで)に行うようにすると良い。そのようにした場合には、前記水中硬化型樹脂層D3の該FRP板4への接着力が増し、前記FRP板4を該水中構造物3へ強固に接着することができる。なお、前記FRP板4の表面を粗面化する方法としては以下の方法を挙げることができる。
・ 粒子を含む樹脂を前記FRP板4の表面に塗布する方法、及び
・ FRPシートに樹脂を含浸させ、該樹脂が硬化するまでに該シートの表面にフィルム(具体的には、離型フィルム)を敷設し、多数の突起が形成された押型(櫛形状の突起や、洗濯板のように複数の突条部が突出形成された物など)を自重により又は外力を加えることにより該フィルムを介して該シートに押し付け、該含浸した樹脂が硬化した後に該押型及びフィルムを除去する方法
【0030】
さらに、前記第5工程S5による前記FRP板4の前記水中構造物3への押し付けは、前記水中硬化型樹脂層D3が完全に硬化する前に止めるのではなく、該水中硬化型樹脂層D3が硬化した後まで(つまり、該水中硬化型樹脂層D3が硬化する前から硬化した後まで)継続して行うようにすると良い。そのようにした場合には、前記FRP板4はより強固に前記水中構造物3に接着されることとなる。
【0031】
またさらに、前記FRP板4の前記水中構造物3への押し付けにより前記FRP板4からはみ出た水中硬化型樹脂を除去する工程(図1のS6参照)を、前記第5工程S5において該はみ出た水中硬化型樹脂が硬化するまでに行うようにすると良い。
【0032】
なお、図4ではFRP板4を上下方向に貼り付けているが、もちろんこれに限られるものではなく、横方向に(例えば、柱状の水中構造物3に巻き付けるようにして)貼り付けても良い。
【0033】
一方、上述の水中硬化型樹脂には、変性エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂や酸化チタンや無機系充填材を成分とするもの)を主剤とし、変性ポリアミドアミン(例えば、ポリアルキレンポリアミンやレゾール重縮合物や重合脂肪酸等を成分とするもの)或いは変性脂環式ポリアミン(ポリアルキレンポリアミンやレゾール重縮合物やキシレンジアミンやビスフェノールAジグリシジルエーテル付加物等を成分とするもの)を硬化剤としたものを用いると良い。
【実施例1】
【0034】
本実施例においては、図1に示す工程を実施して橋脚(図4の符号3参照)の補強を行った。以下、各工程について説明する。
【0035】
[水中構造物表面の粗面化(図1のS11)]
本実施例においては、補強する橋脚(水中構造物)3の表面であって、FRP板4を貼り付ける部分をウォータージェットにより粗面化した。凹凸の深さ(処理深さ)は1〜2mm程度とした。
【0036】
[繊維強化プラスチックの粗面化(図1のS10)]
一方、所定量の珪砂を混ぜた樹脂をFRP板4の表面に塗布(上塗り)し、該表面を粗面化した。
【0037】
[第1工程(図1のS1)]
図2に示す油圧式ピストンシリンダ装置1のシリンダ10の中に、水中硬化型樹脂の主剤A(250g)と硬化剤B(250g)とを投入し、ピストン11を駆動した。これにより、主剤Aと硬化剤Bとは、混練されながら吐出口10aから押し出されて柱状の形状となった。
【0038】
[第2工程(図1のS2)]
前記第1工程S1にて得た柱状の混練物D1を再び同じシリンダ10に投入し、ピストン11を駆動して再び柱状の混練物D2を形成し直した。この作業を数回繰り返して、主剤Aと硬化剤Bとを十分に混練した。
【0039】
[第3工程(図1のS3)]
前記第2工程S2を数回繰り返して十分に混練した柱状の混練物D2を、図3に示すように複数本敷き並べて略板状に配置し(S31)、その表面をローラー装置2によって平滑にした(S32)。水中硬化型樹脂層D3の厚さは3mm程度であった。
【0040】
[第4工程(図1のS4)]
該水中硬化型樹脂層D3をFRP板4に積層した。
【0041】
[第5工程(図1のS5)]
前記水中硬化型樹脂層D3を橋脚3に軽く押し付けて前記FRP板4を仮固定し、剛性の高い鋼板(不図示)とボルトネジ(不図示)を使って該FRP板4に押圧力を与えた。なお、この押圧力によって前記水中硬化型樹脂層D3の厚さは1mm程度となった。そして、該FRP板4からはみ出た水中硬化型樹脂はヘラなどで除去し(図1のS6)、押圧力を作用させた状態で5〜7日間ほど水中養生して水中硬化型樹脂を完全に硬化させた(図1のS7)。
【符号の説明】
【0042】
3 コンクリート構造物(水中構造物)
4 繊維強化プラスチック(FRP板)
10 シリンダ
10a 吐出口
11 ピストン
20,21 ローラー
100 ピストンシリンダ装置
101 第1シリンダ
102 第2シリンダ
103 隔壁
103a 吐出口
104 第1ピストン
105 第2ピストン
A 水中硬化型樹脂の主剤
B 水中硬化型樹脂の硬化剤
D1 混練物
D2 混練物
D3 水中硬化型樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中にあるコンクリート構造物(以下、「水中構造物」とする)に水中硬化型樹脂により板状の繊維強化プラスチック(以下、「FRP板」とする)を貼り付けて該水中構造物を補強する、水中構造物の補強方法において、
水中硬化型樹脂の主剤と硬化剤とをシリンダ内に入れた状態でピストンを駆動して該シリンダの吐出口から柱状に押し出すことにより、該主剤と該硬化剤とを混練してなる混練物を形成する第1工程と、
該柱状に押し出された混練物をシリンダ内に入れた状態でピストンを駆動して該シリンダの吐出口から柱状に押し出すことにより、前記主剤と前記硬化剤とをより一層混練してなる混練物を形成する第2工程と、
該第2工程にて柱状に押し出された混練物をローラーで押圧することにより板状の水中硬化型樹脂層を形成する第3工程と、
該水中硬化型樹脂層を前記FRP板に積層する第4工程と、
該水中硬化型樹脂層が前記水中構造物に接触した状態で前記FRP板を該水中構造物に押し付けることにより、該FRP板を該水中構造物に貼り付ける第5工程と、
を備えたことを特徴とする、水中構造物の補強方法。
【請求項2】
前記第3工程は、
前記第2工程にて柱状に押し出された混練物を複数本並べて略板状に配置する工程と、
該略板状に配置された複数本の混練物をローラーで押圧することにより、その表面を略平滑にする工程と、
からなることを特徴とする請求項1に記載の、水中構造物の補強方法。
【請求項3】
前記第5工程は、前記水中硬化型樹脂層の厚さが減少するように前記FRP板を押し付ける工程である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の、水中構造物の補強方法。
【請求項4】
前記水中構造物の表面であって前記FRP板を貼り付ける部分をウォータージェットにより粗面化する工程を、前記第5工程を実施するまでに実施し、
前記FRP板の表面を粗面化する工程を、前記第4工程を実施するまでに実施し、
前記第5工程による前記FRP板の前記水中構造物への押し付けを、前記水中硬化型樹脂が硬化する前から硬化した後まで継続して行い、
前記FRP板の前記水中構造物への押し付けにより前記FRP板からはみ出た水中硬化型樹脂を除去する工程を、該はみ出た水中硬化型樹脂が硬化するまでに行う、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の、水中構造物の補強方法。
【請求項5】
前記第2工程にて使用する前記吐出口の開口面積は、前記第1工程にて使用する前記吐出口の開口面積よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の、水中構造物の補強方法。
【請求項6】
隔壁で仕切られて形成された第1シリンダ及び第2シリンダと、
該隔壁に対向した状態で往復動可能となるように前記第1シリンダ内に配置された第1ピストンと、
該隔壁に対向した状態で往復動可能となるように前記第2シリンダ内に配置された第2ピストンと、
を備え、
前記隔壁には、該第1シリンダと該第2シリンダとを連通する開口である吐出口が形成された、
ことを特徴とするピストンシリンダ装置。
【請求項7】
前記隔壁は、着脱可能に構成されていて、開口面積及び/又は開口形状が異なる吐出口を有する他の隔壁に交換可能である、
ことを特徴とする請求項6に記載のピストンシリンダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−251387(P2012−251387A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126076(P2011−126076)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【出願人】(598072180)ファイベックス株式会社 (24)
【Fターム(参考)】