説明

水中構造物の補強部材と補強方法

【課題】水中構造物の杭同士を水中で補強体によって連結することで桟橋全体の剛性を上げて水中構造物の耐荷力を向上させるための施工性に優れた工法を提供すること
【解決手段】水中の地盤に杭によって支持された水中構造物の杭と杭とを連結する補強用ストラット部材であって、ストラット部材はストラット1とその両端部に連結された杭連結部材2とからなり、ストラット1は複数の管状ストラット要素が入れ子状となったストラットの長さが調節可能な多重管構造であり、ストラットの両端部には回動軸となる支点材(A)8が設けられ、杭連結部材2は杭連結5と杭連結材6とがヒンジ結合されて杭連結材6が開閉可能な蓋体を構成し、蓋体を閉じたときに杭連結材5と杭連結材6とが杭の周囲を包囲するようになっており、杭連結材5の外側壁にはストラットの支点材8の軸受となる支点材が設けられて、支点材8を軸支するようになっている補強用ストラット部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の桟橋等の水中構造物、特に上部構造体が複数の杭によって支持された杭式桟橋等を補強するための補強部材と補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾や漁港においては船舶を係留するために各種の桟橋等の水中構造物が設けられている。これらの水中構造物は水底地盤に打ち込まれて水面より上に突出した複数の杭を脚柱とする下部構造物と、これらの杭で支持され水面より上に敷設された床板等からなる上部構造物とから構成される。
上記の下部構造物である杭は一般に、海底あるいは湖底といった地盤に複数本の杭群を鉛直方向あるいは斜め方向に打ち込んで構築される。また、上記の上部構造物は一般に、これら杭群の上端部に梁を複数本架設し、これら梁群の間に床板を張り渡して構築される。
【0003】
ところで、既設水中構造物については、以下に記載する理由から水中構造物を補強する必要がある。
・腐食による杭の減厚による水中構造物の耐力の低下
・上載加重の増大への対応
・耐震性能の向上
特に、過去に設置された杭式桟橋等の水中構造物の多くは、近年、想定されるようになった大地震に耐えるための設計はなされておらず、将来、大地震によって水中構造物が損傷を受ける可能性が高く、そのような事態に至ると社会機能に大きな影響を与えることになる。また、地震後における社会機能の迅速な回復のために水中構造物は人員及び物資の輸送において非常に重要な機能を果たす。
このため、今後発生が予想される大地震に対する対策として、既設の杭式桟橋等の水中構造物を耐震補強する必要性が高まっている。
そして、上記の補強のための施工方法として従来から多くの提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、既設桟橋を補強するための補強材をユニット化し、これを予め製作しておいて施工現場において杭の間に取り付けることによって現場工期の最短化をはかるようにすることが記載されている。この補強ユニットは矩形枠状のフレームと、そのフレーに設けたブレースと、そのブレースとフレームとの間に設けたダンパー8とから構成されている。
【0005】
特許文献2には、桟橋の杭の補強に供するストラット部材にフロータを取り付けて水面に浮かぶようにしておき、このストラット部材を杭群の間まで曳航し、ついで杭群の上下方向所定部位においてストラット部材の両端同士を各々結合する補強工法が記載されている。また、特許文献2にはストラット部材を入れ子状にして伸縮可能とすることについても記載がある。
【0006】
特許文献3には、脚柱により床組を支持した桟橋において、脚柱間に斜材としての制震ブレースを設けることにより脚柱に作用する最大曲げモーメントを低減して脚柱の負担を軽減するとともに、必要な脚柱径を小さくすることが記載されている。
【0007】
特許文献4には、各杭に鞘管を設置し、鞘管に突設した中空の連結管を隣接した杭に設置された鞘管における中空の連結管と接合することによって補強用水平部材を形成することが記載されている。
しかしながら、上記のいずれの方法も補強部材を現地杭にアジャストさせる観点からみると施工性が良いとは言えず、また、斜め杭に対する適用の点では十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−217952号公報
【特許文献2】特開2008−223384号公報
【特許文献3】特開平11−269845号公報
【特許文献4】特開2008−297815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、既設水中構造物の杭同士を水中で補強体によって連結することで桟橋全体の剛性を上げて水中構造物の耐荷力を向上させるための施工性に優れた工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、補強体をストラット部材から構成し、該ストラット部材をストラットと、ストラットの両端部に連結された杭連結部材とからなるものとし、ストラットは複数の管状ストラット要素が入れ子状となっている多重管構造を有していてストラットの長さが調節可能となっており、かつストラットの両端部に回動軸となる支点材(A)を水平方向に設けたものとし、杭連結部材を杭連結材(A)と杭連結材(B)とがヒンジ結合されてなり、杭連結部材は杭連結材(A)と杭連結材(B)とがヒンジ結合されてなり、杭連結材(B)は開閉可能な蓋体を構成しており、蓋体を閉じたときに杭連結材(A)と杭連結材(B)とが杭の周囲を包囲するようにし、杭連結材(A)の外側壁にストラットの支点材(A)の軸受となる支点材(B)が設けて支点材(A)を軸支するようにし、このストラット部材を補強体として用いることによって上記課題を解決することができることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下に記載するとおりの補強用ストラット部材及びこれを用いた補強工法である。
【0011】
(1)水中の地盤に下端部が埋設された複数の杭と、前記複数の杭によって支持された上部構造体とを有する水中構造物の補強を行うために杭と杭とを連結する補強用ストラット部材であって、
ストラット部材は、ストラットと、ストラットの両端部に連結された杭連結部材とからなり、
ストラットは複数の管状ストラット要素が入れ子状となっている多重管構造を有していてストラットの長さが調節可能となっており、かつストラットの両端部には回動軸となる支点材(A)が水平方向に設けられており、
杭連結部材は杭連結材(A)と杭連結材(B)とがヒンジ結合されてなり、杭連結材(B)は開閉可能な蓋体を構成しており、蓋体を閉じたときに杭連結材(A)と杭連結材(B)とが杭の周囲を包囲するようになっており、
杭連結材(A)の外側壁には前記ストラットの支点材(A)の軸受となる支点材(B)が設けられて、支点材(A)を軸支するようになっている
ことを特徴とする補強用ストラット部材。
(2)前記管状ストラット要素がストラットの周方向に回動可能であることを特徴とする(1)に記載の補強用ストラット部材。
(3)ストラット部材が二つ以上のストラットと三つ以上の杭連結部材とからなり、
全てのストラットがいずれかの杭連結部材に連結されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の補強用ストラット部材。
(4)少なくとも一つの杭連結部材の杭連結材(A)の外側壁の一方の側に支点材(B)が上下二段以上に設けられており、上下二段以上に設けられた支点材(B)のそれぞれに複数本のストラットのそれぞれの端部に設けられた支点材(A)が軸支されている
ことを特徴とする(3)に記載の補強用ストラット部材。
(5)少なくとも一つの杭連結部材の杭連結材(A)の外側壁の一方の側及びその反対側に支点材(B)が一段又は上下二段以上に設けられており、これらの支点材(B)のそれぞれに複数本のストラットのそれぞれの端部に設けられた支点材(A)が軸支されている
ことを特徴とする(3)に記載の補強用ストラット部材。
(6)ストラット(A)の内周面及び/又はストラット(B)の外周面、杭連結材(A)及び杭連結材(B)の杭と対向する面、支点材(B)が支点材(A)と対向する面に、グラウトのずれ止め用のアンカー部材が設けられていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
(7)ストラット部材にストラット部材を所定の杭まで誘導するためのワイヤを設けたことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
(8)浮力部材を有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
(9)前記浮力部材がストラット部材に内蔵されているか又は外付けされていることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
(10)前記浮力部材が液体を注入可能な容器であり、液体の注入量によって浮力を調節できるようになっていることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載のストラット部材を補強体として用いて、水中の地盤に下端部が埋設された複数の杭と、前記複数の杭によって支持された上部構造体とを有する水中構造物を補強する補強工法であって、
ストラット部材を取り付けようとする二つの杭の位置にストラット部材を誘導する工程、
ストラット部材のストラットの長さを調整する工程、
ストラット部材の両端部に設けられた杭連結部材の杭連結材(A)と杭連結材(B)とによって前記二つの杭を包囲する工程、
及び
ストラット(A)とストラット(B)との間、支点材(A)と支点材(B)との間、及び杭と杭連結部材との間にグラウトを施工して一体化させる工程
を有することを特徴とする補強工法。
(12)浮力部材を有するストラット部材を水面に浮かべて、ストラット部材を誘導するための複数本のワイヤをストラット部材に取り付けて、ワイヤを操作することによりストラット部材を所定の位置に誘導することを特徴とする(11)に記載の補強工法。
(13)浮力部材に液体を注入して補強用ストラット部材の一方の端部又は両端部の杭連結部材を所定の深さまで沈降させて杭連結部材を杭に固定することを特徴とする(11)又は(12)に記載の補強工法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の工法は、水中構造物を新設することなく補強が可能であり、供用中の水中構造物の作業への影響が少ない。また、補強体は浮力を利用しながらワイヤリング操作で杭に取り付けるため大型作業船を必要とせず施工が容易であり、岸壁の供用停止期間を極めて短くすることができる。
また、補強体の結合をグラウトとずれ止めを使用して行い、ボルトを使用しないため作業が容易でかつ急速施工が可能である。
更に、杭連結部材に支点材を設けたことで、自由な角度のストラットで補強することができる。また、鉛直性の悪い杭でも取り付けが容易となり、斜杭の水中構造物の補強も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】補強用ストラット部材の一例を示す図である。
【図2】グラウトのずれ止めの例を示す図である。
【図3】グラウト施工後における杭連結材(A)と杭連結材(B)とが対向する部分の径方向の横断面図(a)と軸方向断面図(b)である。
【図4】補強用ストラット部材の他の例を示す図である。
【図5】補強用ストラット部材の他の例を示す図である。
【図6】補強用ストラット部材の他の例を示す図である。
【図7】補強用ストラット部材の取り付け作業の様子を示す図である。
【図8】補強用ストラット部材を斜杭間に取り付けた様子を示す図である。
【図9】補強用ストラット部材を斜杭間に取り付けた様子を示す図である。
【図10】ストラット部材を所定の位置に誘導する前の状態を示す図である。
【図11】ストラット部材を所定の位置に誘導した後の状態を示す図である。
【図12】杭連結部材が杭を包囲した状態を示す図である。
【図13】ストラット部材の一方の杭連結部材を所定の深さまで沈降させた様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本発明の補強用ストラット部材を示す
ストラット部材はストラット1とストラットの両端部に連結されている杭連結部材2とから成っている。
ストラットは複数の管状ストラット要素が入れ子状となっている多重管構造を有している。
ストラットを構成する管状ストラット要素の数は要求される伸縮長さに応じて二つ又は三つ以上とすることができ、また、円管状でも角管状でも良い。但し、円管状とする方が加工コスト及び強度の点からみて好ましい。また、管状ストラット要素の少なくとも1つを周方向に回動可能とすることにより、杭連結部材の動きの自由度が増すため施工性が良くなる。
図1に示したものではストラットは管状ストラット要素であるストラット(A)3とこのストラット(A)3内に摺動自在に配置されている管状ストラット要素であるストラット(B)4とから構成された二重管構造となっている。
ストラット(A)3の一方の端部には回転軸となる支点材(A)8が設けられており、同様にストラット(B)4の一方の端部にも回転軸となる支点材(A)8が設けられている。
【0015】
ストラット(A)の内面とストラット(B)の外面とには所定の間隔が設けられて、グラウトを注入施工するための空間が形成されており、この空間にグラウトを注入してストラット(A)とストラット(B)とを一体化することができる。また、注入されたグラウトの漏れを止めるために図示するようなグラウトシール10が設けられる。
【0016】
杭連結部材2は杭11を包囲することができる径を有する管状体を二分割したような形状を有するものであり、杭連結材(A)5と杭連結材(B)6とからなり、夫々の端部同士がヒンジ7によって結合されてなり、ヒンジ7を開けた状態で杭11に取り付け、ヒンジを閉じることによって杭を包囲するようになっている。
杭連結材(A)5の外側壁には前記ストラットの支点材(A)8の軸受となる支点材(B)9が設けられており、この支点材(B)9で支点材(A)8を軸支することによって、ストラット1が支点材(A)8を支点として回動することが可能となっている。
【0017】
ストラット(A)の内周面及び/又はストラット(B)の外周面に図2に示すようなグラウトのずれ止め用のアンカー部材を設けることによってグラウトのずれを防ぐことができる。
図2(a)はストラット壁面にスタッドを設けたものであり、図2(b)はストラット壁面に棒鋼を溶接で固定したものであり、図2(c)はストラット壁面に溶接ビードを形成したものである。
【0018】
支点材(A)と支点材(B)との間にグラウトを注入することにより杭連結部材とストラットとを一体化することができる。また、杭連結材(A)及び杭連結材(B)の杭と対向する面、支点材(B)が支点材(A)と対向する面にグラウトのずれ止め用のアンカー部材を設けることによってグラウトのずれを防ぐことができる。
【0019】
杭11と杭連結部材2との間の隙間にもグラウトを注入して杭11と杭連結部材2とを一体化する。注入されたグラウトの漏れを止めるために図示するようなグラウトシール10を杭連結部材2の内側壁上端部及び内側壁下端部に設ける。
杭連結材(A)及び杭連結材(B)の杭と対向する面にグラウトのずれ止め用のアンカー部材を設けることによってグラウトのずれを防ぐことができる。
杭連結材(A)と杭連結材(B)の間をグラウトで一体化するための構造を図3に示す。図3(a)はグラウト施工後における杭連結材(A)と杭連結材(B)とが対向する部分の径方向の横断面図であり、図3(b)は軸方向の縦断面図である。
杭連結材(A)5には長手方向に複数のアンカースタッド21を立設した支え板22が設けられ、杭連結材(B)6には杭連結材(B)を閉合したときに杭連結材(A)のアンカースタッド21が干渉しないようにするためのスリット24を設けた支圧プレート23が設けられている。仮止めボルト26は杭連結材(B)6の閉合状態を維持するためのものである。
このような構造とすることにより、杭連結材同士の引張りに対してはグラウトを介してアンカースタッド−支圧プレート間の支圧力で抵抗し、圧縮力に対しては連結材内のグラウトで抵抗する。
【0020】
ストラット部材の他の態様としては図4に示すようにストラット部材が二本のストラットを有するようにしたものをあげることができる。
この態様では、ストラット部材を二本のストラットと三つの杭連結部材とから構成し、一つの杭連結部材の杭連結材(A)の外側壁にはストラットの支点材(A)の軸受となる支点材(B)が上下二段に設けられており、上下二段に設けられた支点材(B)の夫々が二本のストラットのそれぞれの支点材(A)を軸支し、他の二つの杭連結材の杭連結材(A)の外側壁には前記ストラットの支点材(A)の軸受となる支点材(B)が一つ設けられており、夫々の支点材(A)が二本のストラットの支点材(A)のそれぞれを支点材(B)によって軸支するものである。
このように一つの杭連結部材を二つのストラットが共用することで部品数を減らすことができる。
【0021】
図5はストラット部材の他の態様を示す図である。
この態様では、ストラット部材を三本のストラットと4つの杭連結部材とから構成している。
杭11bに取り付けられた杭連結部材2bの外側壁の一方の側にはストラットの支点材(A)の軸受となる支点材(B)を一段に設け、この支点材(B)によって一本のストラットのストラット(A)に設けた支点材(A)を軸支している。そして、このストラットの他端の支点材(A)は杭11aに取り付けられた杭連結部材2aの外側壁に設けられた支点材(B)によって軸支されている。
また、杭連結部材2bの外側壁の反対側には支点材(B)を上下二段に設けて、この支点材(B)によって二本のストラットのそれぞれの支点材(A)を軸支している。そして、この二本のストラットの他端の支点材(A)は、杭11cに取り付けられた杭連結部材2c1及び2c2の支点材(B)によって軸支されている。
【0022】
図6はストラット部材の他の態様を示す図である。
この態様では、ストラット部材を四本のストラットと5つの杭連結部材とから構成し、中央の杭11bに取り付けた二つの杭連結部材のうち、上側にある杭連結部材2b1の外側壁の一方の側に支点材(B)9を上下二段に設けて、この二つの支点材(B)9によって二本のストラットのストラット(B)4の支点材(A)を軸支し、前記二本のストラットのストラット(A)3に設けられた支点材(A)は杭11cに取り付けられた杭連結材2c1及び2c2の支点材(B)によって軸支されている。
また、杭連結部材2b1の外側壁の反対側に支点材(B)9を一段に設け、この支点材Bによって一本のストラットのストラット(A)の支点材(A)を軸支するようにしている。
また、杭11aに取り付けられた杭連結部材2aの外側壁には支点材(B)9が二段に設けられ、この支点材(B)によって二本のストラットのストラット(B)の支点材(A)が軸支されており、この二本のストラットのうち、一本は杭11bに設けた杭連結部材2b1の支点材(B)に、他の一本は杭連結部材2b2の支点材(B)によって軸支されている。
【0023】
図7は補強用ストラット部材の取り付け作業の様子を示す図である。
図7(b)は杭連結部材を杭(11)に取り付けて杭連結材(B)6を閉合する様子を示している。図7(a)は杭連結部材と杭との隙間にグラウトを注入した状態を示している。
図7(c)は補強用ストラット部材を浮かせた状態で取り付けた状態を示しており、図7(d)は一方の杭連結部材を所定の深さまで沈降させた状態を示している。
【0024】
補強しようとする杭同士はそれらが互いに平行となるように施工しても施工後の杭は鉛直性が悪いため必ずしも平行ではなく、また、一般的には斜めに構築されている杭も多い。
このような鉛直性が悪いか斜めになっている杭を補強するには本発明のようなストラットが杭連結材(A)の支点材(B)によって軸支されているストラット部材が好適である。
本発明のストラット部材を斜杭に適用した場合の実施形態を図8に示す。
図8に示すように、本発明におけるストラットの支点材8は杭連結材の支点材によって軸支されており、ストラットはこの支点材(A)8を回転軸として回転可能であるため、杭連結部材2は斜杭11’を容易に包囲することができる。
【0025】
本発明のストラット部材の別の態様を図9に示す。
図9に示したストラット部材はストラットを3つのストラット要素から構成したものであり、ストラットを二つの要素から構成したものに比べてその長さを更に延長できるようにしたものである。
例えば斜杭同士の補強にストラット部材を用いるとき、ストラット部材を水面から補強位置へ移動(沈設)させると下に行くほど杭間隔が広くなるため、ストラット長さを更に長くする必要がある。このため、図示したようにストラットを三重管構造として、杭間隔に追従できるようにする。
【0026】
次にストラット部材を杭に取り付ける方法の作業手順について説明する。
図10はストラット部材を所定の位置に誘導している状態を示したものであり、図10(a)は正面図、図10(b)は平面図である。ストラット部材は浮力部材(図示せず)によって水面に浮かんだ状態にある。
【0027】
浮力部材としてはストラット部材に浮力を付与するものであれば制限されない。浮力部材はストラット部材に内蔵していても良いし、外付けしてもよい。内蔵する場合とは、例えばストラットの内部空間を利用する場合を挙げることができる。ストラットは管状であるためストラットを水密とすることにより浮力を生じさせることができる。
【0028】
図10(b)に示すように、ストラット部材にはストラット部材を所定の位置に誘導するための4本のワイヤWが設けられている。このワイヤを適宜の杭に掛け回してワイヤを引っ張ることにより目的の杭の位置にストラット部材を誘導し、杭連結材(A)内に杭を収容することができる。
【0029】
図11はストラット部材を所定の位置に誘導した後の状態を示す図であり、ワイヤ操作によって所定の杭まで誘導されたストラット部材の杭連結材(A)の凹部内に杭が収容される。
その後、図12に示すように杭連結材(A)にヒンジ結合された杭連結材(B)を閉合して杭連結部材によって杭を包囲する。
【0030】
また、場合によっては浮力部材に液体(水、海水等)を注入して図13に示すようにストラット部材の一方の端部の杭連結部材を所定の深さまで沈降させてもよい。この場合、ストラット(B)が摺動してストラットが所定の長さとなる。また、両方の杭連結部材をそれぞれ沈降させてもよい。
【0031】
以上の作業が終了したのち、ストラット部材と杭とを一体化させるために、ストラット(A)とストラット(B)との間、支点材(A)と支点材(B)との間、及び杭と杭連結部材との間にグラウトを注入して固化させることにより、補強作業が終了する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の補強工法によれば、作業が容易でかつ急速施工が可能であるため、供用中の桟橋等の水中構造物の作業への影響が少なく、また、補強体は浮力を利用しながらワイヤ操作で杭に取り付けるため大型作業船を必要とせず施工が容易であるので、杭式桟橋等の水中構造物の補強工法として好適である。
【符号の説明】
【0033】
1 ストラット
2 杭連結部材
3 ストラット(A)
4 ストラット(B)
5 杭連結材(A)
6 杭連結材(B)
7 ヒンジ
8 支点材(A)
9 支点材(B)
10 グラウトシール
11 杭
12 ウインチ
21 アンカースタッド
22 支え板
23 支圧プレート
24 スリット
25 グラウト
26 仮止めボルト
W ワイヤ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の地盤に下端部が埋設された複数の杭と、前記複数の杭によって支持された上部構造体とを有する水中構造物の補強を行うために杭と杭とを連結する補強用ストラット部材であって、
ストラット部材は、ストラットと、ストラットの両端部に連結された杭連結部材とからなり、
ストラットは複数の管状ストラット要素が入れ子状となっている多重管構造を有していてストラットの長さが調節可能となっており、かつストラットの両端部には回動軸となる支点材(A)が水平方向に設けられており、
杭連結部材は杭連結材(A)と杭連結材(B)とがヒンジ結合されてなり、杭連結材(B)は開閉可能な蓋体を構成しており、蓋体を閉じたときに杭連結材(A)と杭連結材(B)とが杭の周囲を包囲するようになっており、
杭連結材(A)の外側壁には前記ストラットの支点材(A)の軸受となる支点材(B)が設けられて、支点材(A)を軸支するようになっている
ことを特徴とする補強用ストラット部材。
【請求項2】
前記管状ストラット要素がストラットの周方向に回動可能であることを特徴とする請求項1に記載の補強用ストラット部材。
【請求項3】
ストラット部材が二つ以上のストラットと三つ以上の杭連結部材とからなり、
全てのストラットがいずれかの杭連結部材に連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の補強用ストラット部材。
【請求項4】
少なくとも一つの杭連結部材の杭連結材(A)の外側壁の一方の側に支点材(B)が上下二段以上に設けられており、上下二段以上に設けられた支点材(B)のそれぞれに複数本のストラットのそれぞれの端部に設けられた支点材(A)が軸支されている
ことを特徴とする請求項3に記載の補強用ストラット部材。
【請求項5】
少なくとも一つの杭連結部材の杭連結材(A)の外側壁の一方の側及びその反対側に支点材(B)が一段又は上下二段以上に設けられており、これらの支点材(B)のそれぞれに複数本のストラットのそれぞれの端部に設けられた支点材(A)が軸支されている
ことを特徴とする請求項3に記載の補強用ストラット部材。
【請求項6】
ストラット(A)の内周面及び/又はストラット(B)の外周面、杭連結材(A)及び杭連結材(B)の杭と対向する面、支点材(B)が支点材(A)と対向する面に、グラウトのずれ止め用のアンカー部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
【請求項7】
ストラット部材にストラット部材を所定の杭まで誘導するためのワイヤを設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
【請求項8】
浮力部材を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
【請求項9】
前記浮力部材がストラット部材に内蔵されているか又は外付けされていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
【請求項10】
前記浮力部材が液体を注入可能な容器であり、液体の注入量によって浮力を調節できるようになっていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の補強用ストラット部材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のストラット部材を補強体として用いて、水中の地盤に下端部が埋設された複数の杭と、前記複数の杭によって支持された上部構造体とを有する水中構造物を補強する補強工法であって、
ストラット部材を取り付けようとする二つの杭の位置にストラット部材を誘導する工程、
ストラット部材のストラットの長さを調整する工程、
ストラット部材の両端部に設けられた杭連結部材の杭連結材(A)と杭連結材(B)とによって前記二つの杭を包囲する工程、
及び
ストラット(A)とストラット(B)との間、支点材(A)と支点材(B)との間、及び杭と杭連結部材との間にグラウトを施工して一体化させる工程
を有することを特徴とする補強工法。
【請求項12】
浮力部材を有するストラット部材を水面に浮かべて、ストラット部材を誘導するための複数本のワイヤをストラット部材に取り付けて、ワイヤを操作することによりストラット部材を所定の位置に誘導することを特徴とする請求項11に記載の補強工法。
【請求項13】
浮力部材に液体を注入して補強用ストラット部材の一方の端部又は両端部の杭連結部材を所定の深さまで沈降させて杭連結部材を杭に固定することを特徴とする請求項11又は12に記載の補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−226111(P2011−226111A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95632(P2010−95632)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】