説明

水中油型乳化化粧料

【課題】
多くの溶媒に難溶であるため、化粧料又は皮膚外用剤に配合が困難であるアルキルグリセリルエーテルをローションや美容液のような低粘度製剤に、抗炎症効果や美白作用などの薬理効果を発揮できる程度の濃度で安定に含有した水中油型乳化化粧料を提供する。
【解決手段】
(a)アルキルグリセリルエーテル、(b)高級脂肪酸とその塩、(c)常温で液体の油性成分、(d)疎水化処理した水溶性セルロース誘導体および(e)陰イオン性界面活性剤を必須成分として含有し、さらには各成分を特定比率で混合することや、平均粒子径が200nm以下かつ、粘度2000mPa・s以下とすることで、より優れた安定性を有する低粘度製剤状の水中油型乳化化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルキルグリセリルエーテル、高級脂肪酸及びその塩、常温で液状の油性成分、疎水化処理した水溶性セルロース誘導体、陰イオン性界面活性剤を必須成分として含有する水中油型乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルグリセリルエーテルは、一般に炭素数16〜18の直鎖及び/又は分岐のアルキル基を持つアルコールとグリセリンまたはジグリセリンのエーテル化合物であり、化粧料や皮膚外用剤に添加すると保湿性に富んだ被膜を形成する。アルキルグリセリルエーテルの中で、サメ肝油に含まれるキミルアルコール(ヘキサデシルグリセリルエーテル)、セラキルアルコール(オレイルグリセリルエーテル)、バチルアルコール(オクタデシルグリセリルエーテル)は、傷の回復効果の促進や抗炎症作用、美白作用などの薬理効果が認められている(非特許文献1及び2、特許文献1)。アルキルグリセリルエーテルの中でもキミルアルコールやバチルアルコールは特に強い薬理効果を示すが、様々な溶剤との相溶性が著しく悪く、結晶が析出してしまうなど製剤の安定性に問題があった。更に、これらをローションなどの低粘度製剤に薬理効果を発揮する程度の高濃度で配合することは結晶析出のため、安定な製品を得ることは極めて困難であるのが現状である。
【0003】
従来、常温で固体の高級アルコールであるステアリルアルコールやベヘニルアルコールを高級脂肪酸で安定化した例はあるが、アルキルグリセリルエーテルを高級脂肪酸で安定化した例は報告されていない(特許文献2及び3)。他にアルキルグリセリルエーテルの安定化に関する技術がいくつか報告されているが、いずれの報告も薬理効果を発揮するための報告はない。
【0004】
また、安定化剤として一般的に水溶性高分子、特にアルキル基を修飾し、疎水化した高分子が多く用いられており、アルキル変性水溶性セルロース誘導体と常温で固形状の高級アルコールを含有する乳化組成物が報告されているが(特許文献4)、アルキルグリセリルエーテルを低粘度製剤において安定に配合した例はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Arch.Intern.Pharmacodyn.,173,56(1968)
【非特許文献2】Clin.Chim.Acta,3,253(1958)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−63140号公報
【特許文献2】特開平6−271421号公報
【特許文献3】特開平10−259114号公報
【特許文献4】特開平9−87130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は実質的に抗炎症効果や美白作用などの薬理効果を発揮できる程度の濃度に配合したアルキルグリセリルエーテルを、低粘度の水中油型乳化化粧料において安定に配合する手法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの実状に鑑み、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、アルキルグリセリルエーテルと高級脂肪酸、疎水化処理した水溶性セルロース誘導体、陰イオン性界面活性剤を特定比率で混合した場合、アルキルグリセリルエーテルを低粘度の水中油型乳化化粧料中に安定に配合可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明は結晶化しやすく製剤化が困難なアルキルグリセリルエーテルを、陰イオン性界面活性剤と疎水化処理した水溶性高分子を用いることで、従来では困難であった抗炎症効果や美白作用を十分示す程度の高濃度に配合した水中油型乳化化粧料が調製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用される成分(a)のキミルアルコール、バチルアルコール、セラキルアルコールより選ばれる1種又は2種以上からなるアルキルグリセリルエーテルは、キミルアルコール(ヘキサデシルグリセリルエーテル)、セラキルアルコール(オレイルグリセリルエーテル)、バチルアルコール(オクタデシルグリセリルエーテル)を指し、市販されているものを使用することができる。例えば、日光ケミカルズ株式会社のNIKKOLバチルアルコール100またはNIKKOLバチルアルコールEX、NIKKOLキミルアルコール100がある。好ましい配合量としては0.01〜7.0質量%、より好ましくは0.01〜5.0質量%である。
【0011】
本発明で使用される成分(b)の炭素数12〜22の高級脂肪酸及びその塩は、単独でも2種以上を混合して用いても良い。具体例としては、ラウリン酸及びその塩、ミリスチン酸及びその塩、パルミチン酸及びその塩、ステアリン酸及びその塩、アラキジン酸及びその塩、ベヘン酸及びその塩がある。中でもステアリン酸及びその塩、ベヘン酸及びその塩が好適であり、好ましい配合量としては0.01〜3.0質量%、より好ましくは0.01〜2.0質量%である。
【0012】
本発明で使用される成分(c)の常温で液状の油性成分としては、スクワラン、流動パラフィンなどの炭化水素類、オリーブ油、マカデミアンナッツ油、ホホバ油などの植物油、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソオクタン酸グリセリル、ミリスチン酸イソプロピル、イソオクタン酸セチル、パルミチン酸イソオクチルなどのエステル類、ジメチルシリコーン、フェニルメチルシリコーン、シクロメチコンなどのシリコーン類などがある。中でも流動パラフィン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリルを用いることが好ましい。好ましい配合量としては0.01〜14.0質量%、より好ましくは0.01〜10.0質量%である。
【0013】
本発明で使用される成分(d)の疎水化処理した水溶性セルロースの誘導体は、特開平3−12401号に記載されている方法により製造することができる。疎水化処理した水溶性セルロースとしては、メチルセルロースやプロピルセルロースなど炭素数1〜3のアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロースなど炭素数2〜4のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースなど炭素数2〜4のヒドロキシアルキル及び炭素数1〜3のアルキルセルロース類からなるヒドロキシアルキルセルロース類より任意に選択することが出来る。アルキルグリシジルエーテルとしては炭素数6〜26のアルキル基を有するもので、例えばステアリルグリシジルエーテル、パルミチルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、カプリルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、ドコシルグリシジルエーテル、リグノセリルグリシジルエーテル、セロチルグリシジルエーテルなどで変性した水溶性セルロース誘導体であれば、特に制限はなく使用できるが、好ましくは疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロースの誘導体である。さらに、一般に市販されているものを使用することもでき、例えば、大同化成工業株式会社製のサンジェロースなどがある。好ましい配合量としては0.01〜2.0質量%、より好ましくは0.01〜1.0質量%である。
【0014】
本発明で使用される成分(e)の陰イオン性界面活性剤は、具体例としてはアシル乳酸塩、アシルタウリン塩、アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホン酸塩などがあるが、好ましくはアシルアミノ酸塩であり、更に好ましくはアシルグルタミン酸塩である。好ましい配合量としては、0.01〜3.0質量%、より好ましくは0.01〜2.0質量%である。
【0015】
さらに、本発明のアルキルグリセリルエーテルを含有する水中油型乳化化粧料は、(a)〜(e)成分と水のみで構成されてもよく、あるいは本発明の効果を損なわない範囲において一般に化粧品や皮膚外用剤に使用される、活性成分、保湿成分、抗菌成分、粘度調整剤、色素、香料などを併用することができる。
【0016】
活性成分としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、エラグ酸、ルシノールなどの美白剤、アミノ酸などのNMF成分、水溶性コラーゲン、エラスチン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、セラミドなどの肌荒れ防止剤、レチノール、ビタミンA酸などの抗老化剤や各種ビタミン類やその誘導体などがある。
【0017】
保湿成分としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0018】
本発明のアルキルグリセリルエーテルを含有する水中油型乳化化粧料は、以上に示した成分を混合して得られるが、好ましくは混合液を強力なせん断力をかけられる超音波乳化機や高圧ホモジナイザーなどの乳化機で処理することにより、より安定なものが得られる。すなわち、このような機械を用いることで製剤の透明性や安定性をより向上させることが出来る。また乳化時の温度は配合成分が溶解される温度以上の温度で行うことが望ましい。
【0019】
本発明のアルキルグリセリルエーテルを含有する水中油型乳化化粧料は、ベックマン・コールター株式会社製のサブミクロン粒度分布測定装置(コールターN4 PLUS)を使用して乳化滴の平均粒子径(質量平均)を測定することができる。本発明品の平均粒径は、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは150nm以下である。200nm以上ではクリーミングや分離、結晶析出を生じる場合があり、十分な経時安定性を確保することが出来ない場合がある。さらに、本発明品の粘度は、B型粘度計を使用して25℃で測定でき、2000mPa・s以下の低粘度な水中油型乳化化粧料がより好ましいものとして挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示しながら本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また以下に示す質量%とは、組成物全体に対する質量%のことである。
【実施例1】
【0021】
(1)アルキルグリセリルエーテル配合ローションの調製
下記の表1および表2に示す乳化化粧料を調製した。表中の成分(a)アルキルグリセリルエーテル及び成分(b)炭素数12〜22の高級脂肪酸およびその塩を80℃で加温溶解した後、ホモミキサーで混合し、さらに高圧ホモジナイザーで処理した。その後、常温まで冷却し、目的の乳化化粧料を得た。
(2)アルキルグリセリルエーテル配合ローションの安定性評価
乳化化粧料を調製直後に、コールターN4 PLUSを用いて粒子径を測定し、B型粘度計を用いて粘度を測定した。調製直後に明らかなクリーミングや分離及び結晶析出が観察された場合は観察不可とした。また、5℃と45℃の恒温槽に1か月間静置し、粘度の測定及び、外観を目視にて観察した。5℃に静置した乳化化粧料は顕微鏡を用いて、アルキルグリセリルエーテルの結晶析出の有無を観察した。45℃に静置した乳化化粧料はクリーミングや分離の有無を目視観察により判断した。
○:結晶および外観の変化が認められず
×:結晶又は、分離・クリーミングが認められた


【表1】


【表2】

【実施例2】
【0022】
美白ローション
(A)キミルアルコール 2.0%
バチルアルコール 0.5%
パルミチン酸 0.1%
ステアリン酸 0.3%
ベヘン酸 0.2%
流動パラフィン 3.0%
(B)ステアロイルグルタミン酸ナトリウム 0.3%
アルギニン 0.2%
グリセリン 3.0%
ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル 0.1%
防腐剤 適量
イオン交換水 残量
調製方法:AおよびBをそれぞれ80℃まで加温し、均一溶解後ホモミキサーで予備乳化する。その後、温度を保ったまま高圧ホモジナイザーで処理し攪拌しながら常温まで冷却し、調製終了とする。
粒子径 :119.0nm
粘度 :560mPa・s
安定性 :室温、5℃、45℃の恒温槽に1ヶ月静置したところ、結晶析出やクリーミングはなく、外観変化は確認されなかった。
【実施例3】
【0023】
美白美容液
(A)キミルアルコール 3.0%
ステアリン酸 0.7%
ベヘン酸 0.7%
トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 4.0%
(B)ステアロイルグルタミン酸ナトリウム 0.5%
アルギニン 0.4%
グリセリン 5.0%
ヒドロキシプロピルメチルセルロースドコシロキシエーテル 1.0%
キサンタンガム 0.02%
防腐剤 適量
イオン交換水 残量
調製方法:AおよびBをそれぞれ80℃まで加温し、均一溶解後ホモミキサーで予備乳化する。その後、温度を保ったまま高圧ホモジナイザーで処理し攪拌しながら常温まで冷却し、調製終了とする。
粒子径 :92.4nm
粘度 :1690mPa・s
安定性 :室温、5℃、45℃の恒温槽に1ヶ月静置したところ、結晶析出やクリーミングはなく、外観変化は確認されなかった。
【実施例4】
【0024】
ヘアケアローション
(A)セラキルアルコール 0.3%
バチルアルコール 1.0%
パルミチン酸 0.2%
ベヘン酸 0.4%
オレフィンオリゴマー 3.0%
(B)ラウロイルグルタミン酸ナトリウム 0.3%
ステアロイルグルタミン酸ナトリウム 0.5%
アルギニン 0.3%
ベヘナミドプロピルジメチルアミン 0.1%
1,3−ブチレングリコール 4.0%
ヒドロキシプロピルメチルセルロースラウロキシエーテル 1.0%
キサンタンガム 0.01%
防腐剤 適量
イオン交換水 残量
調製方法:AおよびBをそれぞれ80℃まで加温し、均一溶解後ホモミキサーで予備乳化する。その後、温度を保ったまま高圧ホモジナイザーで処理し攪拌しながら常温まで冷却し、調製終了とする。
粒子径 :104.2nm
粘度 :880mPa・s
安定性 :室温、5℃、45℃の恒温槽に1ヶ月静置したところ、結晶析出やクリーミングはなく、外観変化は確認されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(a)〜(e)を必須成分として含有することを特徴とする水中油型乳化化粧料。
(a)キミルアルコール、バチルアルコール、セラキルアルコールより選ばれる1種又は2種以上からなるアルキルグリセリルエーテル
(b)炭素数12〜22の高級脂肪酸及びその塩
(c)常温で液状の油性成分
(d)疎水化処理した水溶性セルロース誘導体
(e)陰イオン性界面活性剤
【請求項2】
成分(a)を0.01〜7.0質量%、成分(b)を0.01〜3.0質量%、成分(c)を0.01〜14.0質量%、成分(d)を0.01〜2.0質量%、成分(e)を0.01〜3.0質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項3】
25℃における粘度が2000mPa・s以下の低粘度製剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項4】
乳化滴の平均粒子径が200nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項5】
成分(d)の疎水化処理した水溶性セルロース誘導体が、不飽和結合を含んでいても良い炭素数6〜22の直鎖、および/または分岐のアルキル基を持つアルキル化多糖類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項6】
成分(e)の陰イオン性界面活性剤が、アシルグルタミン酸塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水中油型乳化化粧料。

【公開番号】特開2012−140385(P2012−140385A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−932(P2011−932)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000226437)日光ケミカルズ株式会社 (60)
【出願人】(000228729)日本サーファクタント工業株式会社 (44)
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【Fターム(参考)】