説明

水中油型乳化日焼け止め化粧料

【課題】 紫外線吸収剤を高配合して十分な紫外線防御効果を有し、なおかつ使用性も良好な低粘度の水中油型日焼け止め化粧料を提供する。
【解決手段】 (A)アルキルリン酸塩、及び(B)紫外線吸収剤を含有し、高せん断処理により数平均粒径が130nm未満の油滴を有する水中油型乳化物からなり、当該乳化物の30℃における粘度が20mPa・s以下であることを特徴とする水中油型乳化日焼け止め化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線防御効果が高く、なおかつ安定性及び使用性にも優れた、低粘度の日焼け止め化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
日焼け止め化粧料には、十分な紫外線防止効果、安全性、使用感、耐水性、耐移り性等の様々な条件を満たすことが求められ、乳化タイプ、ローションタイプ、オイルタイプ、ジェルタイプ、エアゾールタイプといった形態の製品が知られている。
乳化タイプの中でも、水中油型乳化物は、油相(分散相)中に少量から多量の紫外線吸収剤を配合することが出来るため低SPFから高SPF製品までの製剤化が可能であり、みずみずしくさっぱりとした使用感が得られることから、日焼け止め化粧料の基剤として広く用いられている。
【0003】
しかしながら、水中油型乳化物は耐水性に劣るという問題があり、例えば特許文献1では、ホスフェート界面活性剤とスルホポリエステルとを組み合わせることによりホスフェート界面活性剤の配合量を減らし、その結果、耐水性を向上させたことが記載されている。
【0004】
一方、日焼け止め化粧料においては、有機紫外線吸収剤に加えて、微粒子酸化チタンや微粒子酸化亜鉛などの無機紫外線散乱剤を配合して紫外線防御能を付与することが広く行われている。しかし、微粒子酸化チタンや微粒子酸化亜鉛などの無機紫外線遮蔽性粉体を多量に配合すると、仕上がりが白っぽくなったり、きしみ感や粉っぽさを生じることがあった。
【0005】
特許文献2には、無機の日光遮蔽剤、特定のアニオン性乳化剤、及び油成分を含んでなる日光遮蔽組成物が記載され、このような組み合わせを用いることにより高いSPFを保持しながら無機日光遮蔽剤の配合量を減少させ、使用性が改善されたことが記載されている。
【0006】
ところが、高いSPFを維持するために紫外線吸収剤を高配合(例えば5質量%以上)した水中油型乳化物の粘度を低下させた場合、分離・沈降などを生じる安定性の問題があることが明らかになった。また、紫外線吸収剤及び界面活性剤を配合しているため、油っぽさやべたつきといった使用性の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−536948号公報
【特許文献2】特表2002−515851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって本発明における課題は、紫外線吸収剤を高配合して十分な紫外線防御効果を有し、なおかつ使用性も良好な低粘度の水中油型日焼け止め化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の界面活性剤及び紫外線吸収剤を含む原料を高せん断機器を用いて乳化してナノエマルジョンとすることにより、低粘度であっても安定で使用性に優れ、なおかつ十分な紫外線防御力を有する化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、
(A)アルキルリン酸塩、及び
(B)紫外線吸収剤を含有し、高せん断処理により数平均粒径が130nm未満の油滴を有する水中油型乳化物からなり、当該乳化物の30℃における粘度が20mPa・s以下であることを特徴とする水中油型乳化日焼け止め化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る日焼け止め化粧料は低粘度の水中油型乳化物からなり、塗布時にみずみずしい感触を与えるのみならず、べたつきや油っぽさが無く使用感に優れている。また、十分な紫外線防御効果を得る量の紫外線吸収剤を配合しているにも関わらず安定性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の化粧料は、アルキルリン酸塩(成分A)を必須成分として含有する。本発明で用いられるアルキルリン酸塩は、アニオン性界面活性剤として従来から知られているものでよく、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、あるいはトリアルキルリン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム等)塩を含む。本発明においては、アルキルリン酸カリウム塩、特にセチルリン酸カリウムを用いるのが好ましい。
【0013】
本発明の化粧料におけるアルキルリン酸塩の配合量は、好ましくは0.2〜2.1質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%である。配合量が0.2質量%未満であると安定な乳化物が得られない場合があり、2.1質量%を越えて配合すると、べたつき等の使用性の問題を生ずる場合がある。
【0014】
本発明の化粧料の他の必須成分は紫外線吸収剤(成分B)である。本発明で用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、好ましくは常温で液状の有機紫外線吸収剤である。
常温で液状の有機紫外線吸収剤としては、従来から化粧料等に配合されているものでよい。具体例として、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オクトクリレン、エチルヘキシルトリアジン、t−ブチルメトキシジベンゾイルメタン等を挙げることができ、これらから適宜選択される1種又は2種以上を配合するのが好ましい。
【0015】
本発明の化粧料における紫外線吸収剤の配合量は、好ましくは4〜15質量%、より好ましくは6〜10質量%である。配合量が4質量%未満であると十分な紫外線防御能(SPF)が得られず15質量%を越えて配合すると肌に塗布した際にべたつきを生じるといった問題を生ずることがある。
【0016】
本発明の化粧料は日焼け止め化粧料であり、前記の紫外線吸収剤(成分B)に加えて、本願発明の効果を損なわない範囲で、常温で固体の有機紫外線吸収剤を含有していてもよい。固体有機紫外線吸収剤の例としては、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(化学名:2,4−ビス−{[4−(2−エチルヘキシルオキシ)2−ヒドロキシ]−フェニル}−6−(4−メトキシフェニル)−(1,3,5)−トリアジン))、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール(化学名:2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)フェノール])等が挙げられる。ただし、これらの配合によって化粧料の使用性等に問題を生ずる場合には、常温で固体の有機紫外線吸収剤を配合しないのが好ましい。
【0017】
本発明の化粧料は、上記必須成分及び任意の固体紫外線吸収剤及び/又は無機紫外線散乱剤の他に、化粧料、特に日焼け止め化粧料に通常配合されうる成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。具体的には、油分、キレート剤、中和剤、pH調整剤、酸化防止剤、抗菌剤、各種薬剤などが挙げられる。
【0018】
更に本発明の化粧料は、前記アルキルリン酸塩(成分A)を含む水相成分と、前記紫外線吸収剤(成分B)を含む油相成分とを、各々必要に応じて加熱することにより溶解混合し、高せん断処理により水相中に油相を均質分散させて、数平均粒径が130nm未満の油滴を有する水中油型乳化物としたことを特徴としている。
【0019】
本明細書における「高せん断処理」とは、特に限定されるものではないが、少なくとも40MPa、好ましくは55MPaという高い剪断力をかけて均質分散(ホモジナイズ)する処理を意味する。
このような高せん断処理は、例えば、SPX Corporation APV社製の15MR、セレンディップ社製のナノジナイザーLPN60、三和エンジニアリング社製のホモゲナイザーH−20等の市販の装置を用いて実施することができる。
【0020】
前記のような高せん断処理を施すことにより、本発明の化粧料を構成する乳化物中の油滴は、130nm未満の数平均粒径を持つ。この数平均粒径は、ゼータサイザー(例えば、濃厚系粒径アナライザー FPR−1000;大塚電子社製)で測定した粒度分布から計算することができる。このような微細粒子状で油相を分散させたことにより、本発明の化粧料は極めて安定なものとすることができた。
【0021】
また、本発明の化粧料は、その乳化物の30℃における粘度が20mPa・s(B型粘度計)以下であることも特徴としている。日焼け止め化粧料において、このような低粘度とした例は、これまでに殆ど知られていない。本発明の化粧料は、化粧水のような低粘度で透明な製剤としたことによって、使用感が優しく爽やかである。従って、本発明の化粧料は、例えばディスペンサーに入れてミスト状に噴霧して使用する日焼け止め化粧料の形態で提供するのに最適である。
【実施例】
【0022】
以下に具体例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例等における配合量は特に断らない限り質量%を示す。
下記表1に掲げる組成の水中油型乳化組成物(実施例及び比較例)を調製し、以下の各項目ついて評価した。評価結果を表1に併せて示す。
【0023】
1.乳化安定性
組成物を室温又は高温(50℃)に1ヶ月放置し、目視観察により評価した。
○:油浮きやクリーミングが観察されない。
×:油浮きやクリーミングが観察された。
2.乳化粒子
組成物の粒度分布をゼータタイザー(濃厚系粒径アナライザー FPR−1000)で測定し、その平均粒子径を計算した。
3.使用感(べたつき)
各組成物を女性パネル(N=20)の腕や顔部に塗布してもらい、なじみ際のべたつき具合を以下の基準で評価した。
○:16名以上がべたつかないと評価した。
△:6名〜15名がべたつかないと評価した。
×:べたつかないと評価したのが5名以下。
4.使用感(透明性)
各組成物をミスト容器に充填し、女性パネル(N=20)の腕や顔部に塗布してもらい、透明性を以下の基準で評価した。
○:16名以上が透明と評価した。
△:6名〜15名が透明と評価した。
×:透明と評価したのが5名以下。
5.乳化粒子安定性(凝集性)
組成物を室温又は冷温(0℃以下)に1ヶ月放置し、目視観察により評価した。
○:凝集や沈殿物が観察されない。
×:凝集や沈殿物が観察された。
【0024】
【表1】

【0025】
表1から明らかなように、高圧設備を使用して高せん断処理を施した実施例1の組成物は、透明性及び乳化安定性に優れていたが、通常のホモミキサーで乳化した比較例1−1では良好に乳化されず、透明性、安定性ともに不十分であった。また、ホモミキサ−を用いた場合は、水溶性増粘剤を添加しても安定な乳化物が得られなかった(比較例1−2)。
【0026】
下記表2及び3に掲げた組成で、実施例1と同様に高せん断処理を用いて水中油型乳化組成物を調製し、上記各項目について評価した。評価結果を各表に併せて示す。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
表2の結果から、乳化剤としてアルキルリン酸塩を用いて高せん断処理を施して製造することにより、乳化剤の量を2.1質量%まで増加させても、べたつきを生じず、31という高いSPFを達成する量の紫外線吸収剤が配合された低粘度の製剤であるにも関わらず、透明性及び安定性に優れたものとなった(実施例1〜3)。
一方、表3に見られるように、乳化剤を他のアニオン性界面活性剤に置換した場合、透明性が不十分となり、油浮きやクリーミングが生じたり、凝集や沈殿が発生するなど、安定性に劣るものとなった(比較例2−1〜3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキルリン酸塩、及び(B)紫外線吸収剤を含有し、高せん断処理により数平均粒径が130nm未満の油滴を有する水中油型乳化物からなり、当該乳化物の30℃における粘度が20mPa・s以下であることを特徴とする水中油型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項2】
前記高せん断処理が、少なくとも40MPaの剪断力をかけて均質分散させる処理であることを特徴とする、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
前記アルキルリン酸塩が、セチルリン酸カリウムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化粧料。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤が、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オクトクリレン、エチルヘキシルトリアジン、t−ブチルメトキシジベンゾイルメタンからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の化粧料。

【公開番号】特開2012−140404(P2012−140404A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251044(P2011−251044)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】