説明

水中油型乳化油脂乳化物

【課題】リン酸塩等の安定剤を使用しなくても安定剤を用いた通常の起泡性クリーム、還元濃縮乳と同等以上の品質を有し、水中油型乳化油脂組成物の製造ラインでの蛋白質の凝集物の生成や焦げ付きを起しがたい水中油型乳化油脂組成物を提供する。
【解決手段】油脂35〜60重量%、無脂乳固形分0.5〜10重量%含む水中油型組成物であって、水中油型組成物全体中、乳化剤0.15〜0.8重量%、有機酸塩0.005〜0.5重量%を含有し、且つ乳化剤として水中油型組成物全体中、有機酸モノグリセリドを0.01〜0.5重量%含むことを特徴とする水中油型乳化油脂組成物を用いて、起泡性クリームや還元濃縮乳を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性クリーム、還元濃縮乳等に使用される水中油型組成物に関する。詳しくは、原液安定性、製菓性、フレッシュ感等食品として必要な食味特性を有し、リン酸塩を使用しない水中油型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ、シュークリーム、アイスクリーム等のデコレーションや、菓子パン等のトッピング、フィリング用に使用される起泡性クリームや、コーヒー用ホワイトナーなどのコーヒー用クリーム、またパン生地、カスタードクリーム、ホワイトソース等に加工練り込み用として使用される還元濃縮乳類は、重合リン酸塩などの安定剤を巧みに組み合わせて製造するのが公知である。
【0003】
これらの安定剤を添加する目的は、クリームの原液安定性(クリームの可塑化防止)の向上、ホイップ時の物性(ホイップ時間、オーバーラン)安定化、調理、製菓時の加熱による乳化破壊の防止、水中油型組成物製造時におけるタンパク質の熱変性による凝集物や焦げ付きの低減などである。しかし、これらの安定剤を添加することは、クリームのえぐ味、嫌味、渋味、の原因となるため、風味や健康上などの点から考えるとかえってマイナス効果しか持たないものである。
【0004】
一方、リン酸塩やクエン酸塩等の安定剤を使用せず特定量のカゼイネート、卵黄油を用いる試みが提案されている(特許文献1)が、原液安定性、ホイップ物性を調整するための安定剤として、多量のカゼイネートと卵黄油(卵黄レシチン)を必須成分として使用しなければならないため、せっかくのフレッシュな乳風味を損なう問題があるのが実情であった。
【0005】
また、糖類と有機酸塩及び炭酸塩を併用し、油脂と糖類の比率及びpHを、特定の範囲に調整する方法を提案しているが(特許文献2)多量の糖類を使用することが必須となるため、チルドタイプの洋菓子に使用される甘味度の低いホイップクリーム類には、不向きである。また、濃縮乳においても、含糖が必須のため用途範囲の狭いものしか得られないと言う問題があった。
【0006】
また、本出願人らによって有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体を用いた油脂乳化組成物を提案しているが(特許文献3)、当該特許は、油脂乳化組成物の豊かな乳風味、呈味、コク味を提供することを目的とするものであって、有機酸塩を併用することによる効果を開示したものではない。
【0007】
一方、昨今の消費者意識が「安心、安全、健康」指向、天然指向へ傾倒しつつある事から、より添加物を削減した物が求められる傾向にある。その中でも、リン酸塩、重合リン酸塩の削減要望が高い事は、言うまでもない。
【0008】
すなわち、リン酸塩などの安定剤を使用しなくても、安定剤を用いた通常の起泡性クリーム、還元濃縮乳と同等以上の安定した品質で水中油型乳化油脂組成物の製造ラインで蛋白質の焦げ付き等のない水中油型組成物は得られていないのが実状である。
【特許文献1】特許第3267903号公報
【特許文献2】特開2001−346516号公報
【特許文献3】特許第3103481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、リン酸塩等の安定剤を使用しなくても安定剤を用いた通常の起泡性クリーム、還元濃縮乳と同等以上の品質を有し、水中油型組成物の製造ラインでの蛋白質の凝集物の生成や焦げ付きを起しがたい水中油型乳化油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、有機酸モノグリセライドと有機酸塩を特定量使用することにより、従来必須成分として添加されてきたリン酸塩を使用しなくても、安定剤を用いた通常の起泡性クリーム、還元濃縮乳と同等以上に安定した品質で水中油型組成物の製造ラインで蛋白質の焦げ付き等のない水中油型乳化油脂組成物が得られる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の第一は、油脂35〜60重量%、無脂乳固形分0.5〜10重量%含む水中油型組成物であって、水中油型組成物全体中、乳化剤0.15〜0.8重量%、有機酸塩0.005〜0.5重量%を含有し、且つ乳化剤として水中油型組成物全体中、有機酸モノグリセリドを0.01〜0.5重量%含むことを特徴とする水中油型乳化油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、有機酸モノグリセリドがコハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、及び酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記記載の水中油型乳化油脂組成物に関する。より好ましくは、有機酸塩がクエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記記載の水中油型乳化油脂組成物に関する。本発明の第二は、上記記載の水中油型乳化油脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、リン酸塩等の安定剤を使用しなくても安定剤を用いた通常の起泡性クリーム、還元濃縮乳と同等以上の品質を有し、水中油型乳化油脂組成物の製造ラインでの蛋白質の凝集物の生成や焦げ付きを起しがたい水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明の水中油型乳化油脂組成物は、植物性油脂、及びまたは乳脂肪からなる油脂成分と無脂乳固形分を含有し、特定の有機酸モノグリセライド、有機酸塩を必須成分として含む起泡性クリーム、還元濃縮乳などの水中油型乳化油脂組成物のことである。
【0014】
本発明に含有する油脂は、水中油型乳化油脂組成物全体中に35〜60重量%含有することが好適である。より好ましくは、40〜60重量%にて本発明の効果が得られる。35重量%より低いと、通常の乳化剤の組み合わせでも必要な乳化安定性が得られる場合がある。60重量%より多いと、油分が多すぎて転相する場合がある。本発明に使用する油脂成分としては、特に限定はなく通常に使用される食用油脂であれば問題ないが、大豆油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、乳脂肪、また、これらの分別油、硬化油、エステル交換油などが例示できる。
【0015】
本発明に使用する無脂乳固形分は、水中油型乳化油脂組成物全体中に0.5〜10重量%含有する事が好適である。0.5重量%未満では、油脂を乳化するに足り得る充分な蛋白質量が確保できないばかりか、乳の風味を付与する点でも不向きとなる場合がある。また、10重量%を越えると、製造ラインでの蛋白質の凝集や焦げ付きが発生する場合がある。無脂乳固形分の供給源としては、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、ラクトアルブミン、バターミルクパウダー、乳糖等乳より分離・単離された成分でもよいし、牛乳、生クリーム、バター、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳などの乳製品から供給されたものでもよい。
【0016】
本発明で使用する乳化剤は、食品用途に用いられているものであれば特に限定は無いが、有機酸モノグリセリドを含有している事が必須であり、乳化剤の含有量は水中油型乳化油脂組成物全体中、0.15〜0.8重量%であることが好ましい。0.15重量%未満では、充分な乳化安定性が得られない為不向きな場合があり、0.8重量%を越えると乳化剤臭が認められる場合がある。乳化安定性の補強やホイップ物性の調整の目的から、有機酸モノグリセリド以外の乳化剤も添加しており、有機酸モノグリセリド以外の乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベイト脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の合成系乳化剤、大豆レシチン、卵黄レシチンなどの乳化効果のある天然系乳化剤が例示できる。
【0017】
前記有機酸モノグリセリドは、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、及び酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また前記有機酸モノグリセリドの疎水基は、飽和脂肪酸であることが好ましく、製造時に触媒を使用、反応制御して、コハク酸モノグリセリド、及び副反応で生成するモノグリセリドを含めた総モノグリセリド含量を高めた高純度タイプが好適である。特に、界面張力低下能が2dyne/cm(1%水溶液)以上で、65℃以上の温水にも溶解可能なタイプが好ましい。有機酸モノグリセリドは、蛋白質を含む水系に溶解して使用することも可能であるが、蛋白質に均一に結合させるには、綿密な溶解条件を設定する必要がある為、好適でない。植物油脂、乳脂肪を含む油相部に溶解する事により、均一に溶解でき、しかも本発明を充分に満足する事ができる。有機酸モノグリセリドの含有量は水中油型乳化油脂組成物全体中、0.01〜0.5重量%が好ましい。0.01重量%未満では、充分な乳化安定性が得られない為不向きな場合があり、0.5重量%を越えると乳化剤臭が認められる場合がある。
【0018】
本発明で使用できる有機酸塩としては、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム等を例示でき、これらの群から選ばれる少なくとも1種以上の有機酸塩使用することにより目的を達成できる。有機酸塩は水中油型乳化油脂組成物全体中、0.005〜0.5重量%を含む事が好ましい。有機酸塩が0.005重量%未満では、蛋白質の溶解性に劣る為、製造ラインでの蛋白質の凝集や焦げ付き易い傾向になり不向きな場合がある。また、0.5重量%を越えると、せっかくの乳風味を損なう傾向になる為不適となる場合がある。
【0019】
また本発明の水中油型乳化油脂組成物には、増粘多糖類、デキストリン、澱粉、香料、調味料など食品用途の水中油型組成物に一般的に使用されるものであれば、何ら制限無く使用することができる。
【0020】
本発明の水中油型乳化油脂組成物の製造例を以下に例示する。本発明の水中油型乳化油脂組成物を製造する方法は、混合油脂に特定の有機酸モノグリセリドとその他油溶性の乳化剤、香料等を溶解した油相部と、特定の有機酸塩とその他水溶性乳化剤、無脂乳固形分、その他水溶性原材料を溶解した水相部を60℃前後で乳化させる。次に、従来の公知の方法に準じて製造可能であるが、好ましくは、高温短時間殺菌、滅菌装置を使用して製造する。たとえば、起泡性水中油型乳化油脂組成物の乳化液に蒸気を直接混入させ、140〜150℃で4秒程度の滅菌を行ったのち、過剰の水分を減圧フラッシュさせた後、ホモジナイザーによる均質化後、冷却して容器に充填される。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0022】
<滅菌処理時の焦げ付き度合いの評価>
実施例及び比較例で調整した予備乳化液100kgを連続的に直接蒸気式滅菌装置に送液し滅菌、均質化、冷却を行い水中油型乳化油脂組成物を作成した。この際、直接蒸気式滅菌器入口圧力を継続的に観察し、焦げ付きによる配管閉塞状態を直接蒸気式滅菌器入口圧力の上昇により観察した。
【0023】
<原液安定性(粘度)評価>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物の粘度を3日間静置した後、B型粘度計(型番:BM型、TOKIMEC INC社製)にて粘度を測定した。
【0024】
<原液安定性(ボテ時間)評価>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を20℃において2時間放置後、攪拌し、可塑化(ボテ)が起こるまでの時間を測定し、ボテ時間とした。
【0025】
<風味評価>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を5Qミキサー(型番:N−50、ホバート社製)にてホイップし、パネラー5人により官能評価を行い、平均的に評価した。官能評価の基準は以下の通りであった。良好:自然な風味で通常品と同等レベル、不良:異味、異臭などがあり商品化不向きなレベル。
【0026】
(実施例1)
表1の配合に従い、硬化ナタネ油(融点:33℃)30重量部、パーム分別硬化油(融点:30℃)15重量部から成る油相部を60℃に加温し、0.1重量部のコハク酸モノグリセリド(商品名:ポエムB−30、理研ビタミン社製、主成分:コハク酸モノグリセリド55重量%、モノグリセリド30重量%)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスター PS−5S、阪本薬品工業社製)0.2重量部、大豆レシチン(商品名:大豆レシチン、味の素社製)0.1重量部を添加、溶解した。一方、60℃まで加温した水49重量部に、クエン酸ナトリウム0.05重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスター MO−5S、阪本薬品工業社製)0.15重量部、ショ糖脂肪酸エステル(商品名:エステルF110、第一工業製薬社製)0.15重量部、脱脂粉乳4.5重量部、ホエイパウダー(WPC80)0.5重量部、香料0.25重量部を溶解し、先の油相部と混合し、総量100kgの予備乳化液を調整した。この乳化液を142℃にて直接蒸気式滅菌を行い、均質化器により70MPaにて均質化を行い5℃まで冷却して水中油型乳化油脂組成物を得た。乳化液を処理する際の直接蒸気式滅菌器入口圧力を経時的に観察したところ、初期値0.3MPaであった圧力は全く変化が見られず、蛋白の焦げ付きによる配管閉塞が発生していないことを確認した。得られた水中油型乳化油脂組成物の粘度を3日後測定したところ、80cpsと低粘度であり、20℃において2時間放置後攪拌による可塑化(ボテ)が20分間以上起こらない乳化化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。さらに、5Qミキサーにてホイップしたところ、キメがよく、シッカリした硬さのある良質なホイップドクリームで、風味にも優れたものであった。上記結果は、表1にまとめた。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例2)
表1の配合に従い、コーン硬化油(融点:35℃)5重量部、コーン油(融点:30℃)50重量部から成る油相部を60℃に加温し、0.1重量部のコハク酸モノグリセリド(商品名:ポエムB−30、理研ビタミン社製)、大豆レシチン(商品名:大豆レシチン、味の素社製)0.1重量部を添加、溶解した。一方、60℃まで加温した水44重量部に、クエン酸ナトリウム0.05重量部、脱脂粉乳0.75重量部を溶解し、先の油相部と混合し、総量100kgの予備乳化液を調整した。この乳化液を142℃にて直接蒸気式滅菌を行い、均質化器により50MPaにて均質化を行い5℃まで冷却して水中油型乳化油脂組成物を得た。乳化液を処理する際の直接蒸気式滅菌器入口圧力を経時的に観察したところ、初期値0.3MPaであった圧力は全く変化が見られず、蛋白の焦げ付きによる配管閉塞が発生していないことを確認した。得られた水中油型乳化油脂組成物の粘度を3日後測定したところ、120cpsと低粘度であり、またボテ時間が20分間以上起こらない乳化化安定性の高い、風味の良い水中油型乳化油脂組成物であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0029】
(実施例3)
表1の配合に従い、硬化ヤシ油(融点:32℃)20重量部、パーム分別硬化油(融点:30℃)15重量部から成る油相部を60℃に加温し、0.1重量部のコハク酸モノグリセリド(商品名:ポエムB−30、理研ビタミン社製)、大豆レシチン(商品名:大豆レシチン、味の素社製)0.3重量部を添加、溶解した。一方、60℃まで加温した水54重量部に、クエン酸ナトリウム0.05重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスター MO−5S、阪本薬品工業社製)0.2重量部、ショ糖脂肪酸エステル(商品名:エステルF110、第一工業製薬社製)0.10重量部、脱脂粉乳10重量部、香料0.25重量部を溶解し、先の油相部と混合し、総量100kgの予備乳化液を調整した。この乳化液を142℃にて直接蒸気式滅菌を行い、均質化器により90MPaにて均質化を行い5℃まで冷却して水中油型乳化物を得た。乳化液を処理する際の直接蒸気式滅菌器入口圧力を経時的に観察したところ、初期値0.3MPaであった圧力は全く変化が見られず、蛋白の焦げ付きによる配管閉塞が発生していないことを確認した。得られた水中油型乳化物の粘度を3日後測定したところ、50cpsと低粘度であり、またボテ時間が20分間以上起こらない乳化化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。さらに、5Qミキサーにてホイップしたところ、オーバーランが高く、キメがよく、シッカリした硬さが有り、風味にも優れた良質なホイップドクリームが得られた。上記結果は、表1にまとめた。
【0030】
(実施例4)
実施例1の油相部ポリグリセリン脂肪酸エステルの全量をコハク酸モノグリセリドに置き換えた以外は、実施例1と同様に操作して水中油型乳化油脂組成物を得た。乳化液を処理する際の直接蒸気式滅菌器入口圧力を経時的に観察したところ、初期値0.3MPaであった圧力は全く変化が見られず、蛋白の焦げ付きによる配管閉塞が発生していないことを確認した。得られた水中油型乳化油脂組成物の粘度を3日後測定したところ、95cpsと低粘度であり、またボテ時間が20分間以上起こらない乳化化安定性の高い水中油型乳化物であった。さらに、5Qミキサーにてホイップしたところ、ややホイップ時間が長く、オーバーランが高いクリームとなったが、キメがよく良質なホイップドクリームで、風味にも優れたものであった。上記結果は、表1にまとめた。
【0031】
(比較例1)
実施例1のコハク酸モノグリセリド全量を油相部のポリグリセリン脂肪酸エステルに置き換えた以外は、実施例1と同様に操作して水中油型乳化油脂組成物を得た。乳化液を処理する際の直接蒸気式滅菌器の乳化液入口圧力を経時的に観察したところ、約80kgを処理したころから入口圧力がやや上昇、作成した乳液液の処理が終了した時には、0.32MPaまで圧力が上昇し、蛋白の焦げ付きによる配管閉塞が僅か発生していることを確認した。得られた水中油型乳化物の粘度を3日後測定したところ、275cpsと粘度が高くなった。また実施例1と同様にしてボテ時間を確認したところ5分で可塑化し、乳化安定性に欠ける水中油型乳化油脂組成物であった。さらに、5Qミキサーにてホイップしたところ、ホイップ終点での硬さが硬すぎて造花性の悪いホイップドクリームであった。上記結果は、表1にまとめた。
【0032】
(比較例2)
実施例1のクエン酸ソーダを水に置き換えた以外は、実施例1と同様に操作して水中油型乳化油脂組成物を得た。乳化液を処理する際の直接蒸気式滅菌器の乳化液入口圧力を経時的に観察したところ、約60kgを処理したころから入口圧力がやや上昇、作成した乳化液の処理が終了した時には、0.36MPaまで圧力が上昇し、蛋白の焦げ付きによる配管閉塞がやや発生していることを確認した。得られた水中油型乳化油脂組成物の粘度を3日後測定したところ、90cpsと粘度は低い傾向であった。また実施例1と同様にして、ボテ時間を確認したところ12分で可塑化し、乳化安定性にやや欠ける水中油型乳化油脂組成物であった。さらに、5Qミキサーにてホイップしたところ、ホイップ終点での硬さが僅か硬く造花性、キメに劣るホイップドクリームであった。上記結果は、表1にまとめた。
【0033】
(比較例3)
実施例2のコーン硬化油(融点:35℃)15重量部とし、水を34重量部とした以外は、全て実施例2と同様に操作して水中油型乳化油脂組成物を得た。乳化液を処理する際の直接蒸気式滅菌器入口圧力を経時的に観察したところ、総油分が多いため初期値が0.38MPaとやや高かったが、圧力は全く変化が見られず、蛋白の焦げ付きによる配管閉塞が発生していないことを確認した。得られた水中油型乳化物の粘度を3日後測定したところ、980cpsと極めて粘度が高くなり乳化化安定性の低い水中油型乳化油脂組成物であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0034】
(比較例4)
実施例1のコハク酸モノグリセリドを0.6重量部とし、水を48.5重量部とした以外は、実施例1と同様に操作して水中油型乳化物を得た。乳化液を処理する際の直接蒸気式滅菌器入口圧力を経時的に観察したところ、初期値0.3MPaであった圧力は全く変化が見られず、蛋白の焦げ付きによる配管閉塞が発生していないことを確認した。得られた水中油型乳化油脂組成物の粘度を3日後測定したところ、180cpsとやや粘度が高くなった。また実施例1と同様にしてボテ時間を測定したところ、20分間以上可塑化が起こらない乳化化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であったが、乳化剤のえぐ味、渋味が感じるものであった。上記結果は、表1にまとめた。
【0035】
(比較例5)
実施例1のクエン酸ナトリウムを0.6重量部とし、水を48.45重量部とした以外は、実施例1と同様に操作して水中油型乳化油脂組成物を得た。乳化液を処理する際の蛋白の焦げ付きによる配管閉塞が発生していないことを確認した。得られた水中油型乳化物の粘度を3日後測定したところ、100cpsであった。また実施例1と同様にしてボテ時間を測定したところ、20分間以上可塑化が起こらない乳化化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であったが、有機酸塩独特のえぐ味、渋味を感じるものであった。上記結果は、表1にまとめた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂35〜60重量%、無脂乳固形分0.5〜10重量%含む水中油型組成物であって、水中油型組成物全体中、乳化剤0.15〜0.8重量%、有機酸塩0.005〜0.5重量%を含有し、且つ乳化剤として水中油型組成物全体中、有機酸モノグリセリドを0.01〜0.5重量%含むことを特徴とする水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
有機酸モノグリセリドがコハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、及び酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
有機酸塩がクエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の水中油型乳化油脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−121921(P2006−121921A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311417(P2004−311417)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】