説明

水中油型乳化油脂組成物またはその製造法

【課題】 本発明は、風味豊かで(味が強く、においが強い)、フレッシュ感がある水中油型乳化油脂組成物、更にはその新規製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 蒸気加熱工程(1)と間接冷却工程(2)を含み、水分調整のための蒸発冷却工程を含まないことを特徴とする水中油型乳化油脂組成物の製造方法、更には、蒸気加熱工程(1)での到達温度が、125℃〜150℃であることを特徴とする前記水中油型乳化油脂組成物の製造方法、また、これにより得られる水中油型乳化油脂組成物を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化油脂組成物の殺菌方法、製造方法、更にはこれにより得られる水中油型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキなどのトッピングに使用されるホイップクリームや、パン菓子などに練り込み用途で使用される人工濃縮乳などのような水中油型乳化油脂組成物の製造方法は、通常、原料調整工程、加熱殺菌工程、冷却工程、充填工程の4工程を有している。
【0003】
この内、加熱殺菌工程、特に賞味期限の長い製品を製造するための加熱殺菌方法としては、食品に直接蒸気を作用させる蒸気直接加熱殺菌が多用されている(特許文献1)。この殺菌方法は、短時間で高温に加熱できることから、製品が受ける加熱によるダメージ(風味劣化等)が少なく、フレッシュ感が多い製品が製造可能となる。一方、この方法は蒸気を直接作用させるため、加熱量に応じて系中の水分増加が起こることが多く、加熱殺菌工程の後に設置されたフラッシュタンクにおいて真空引きし、蒸発冷却するのが通常であった。しかし、フラッシュタンクでの真空引きにより、水分と共に原材料の香気成分や高揮発性成分が除去されるため、製品の風味が薄っぺらくなってしまう問題があった。
【特許文献1】特開平2−35038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、風味豊かで(味が強く、においが強い)、フレッシュ感がある水中油型乳化油脂組成物、更にはその新規製造方法、殺菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、蒸気加熱工程と間接冷却工程を含み、水分調整のための蒸発冷却工程を含まないことを特徴とする水中油型乳化油脂組成物の製造方法を提供した。これによれば、蒸発冷却での香気成分や高揮発性成分の減少を防止し、風味豊かな(味が強く、においが強い)、フレッシュ感がある水中油型乳化油脂組成物を提供することが可能となる。
【0006】
さらに、蒸気加熱工程での到達温度が、125℃〜150℃であることを特徴とする前記の水中油型乳化油脂組成物の製造方法を提供した。
【0007】
さらに、高周速の回転式乳化機による乳化工程が含まれることを特徴とする前記の水中油型乳化油脂組成物の製造方法を提供した。これによれば、仕込み時に水分調整したエマルションが不安定になりやすい水中油型乳化油脂組成物であっても、安定なエマルションの風味豊かな(味が強く、においが強い)、フレッシュ感がある水中油型乳化油脂組成物を提供することが可能となる。
【0008】
さらに、蒸気加熱工程に供する水中油型乳化油脂組成物の温度が75℃以上であることを特徴とする前記の水中油型乳化油脂組成物の製造方法を提供した。これによれば、蒸気による加熱温度幅を小さくすることができ、その分、増加水分量を抑制できる。しかも、蒸気加熱以外の加熱方法では加熱によるダメージが通常大きくなるが、その蒸気加熱以外の加熱方法を低温域の加熱に使用することで、加熱によるダメージをも防ぐことが可能となる。その結果、仕込み時での水分調整を容易におこなうことができ、安定なエマルションの風味豊かな(味が強く、においが強い)、フレッシュ感がある水中油型乳化油脂組成物を提供することが可能となる。
【0009】
さらに、前記水中油型乳化油脂組成物の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする水中油型乳化油脂組成物を提供した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の殺菌方法に従えば、風味豊かで(味が強く、においが強い)、フレッシュ感がある水中油型乳化油脂組成物を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の水中油型乳化油脂組成物は、通常、油脂を主成分とする油相と、水を主成分とする水相とからなり、水中に油滴が分散した形態であり、牛乳や生クリームといった天然由来の水中油型乳化油脂組成物や、人工の水中油型乳化油脂組成物も含む。水相又は油相中には、各種成分を含有していてもよい。各種成分としては、例えば、蛋白原料、乳化剤、糖類、安定剤・増粘剤、無機塩類などが挙げられ、それらを必要に応じて添加できる。
【0012】
前記油脂としては、食用であれば特に限定されないが、例えば、大豆油、綿実油、コーン油、サフラワー油、ヒマワリ種子油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、ゴマ油、カポック油、落花生油、米糠油、胡麻油、月見草油、シア脂、サル脂、カカオ脂、マンゴー核油、イリッペ脂などの各種植物油脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油などの各種動物油脂および、それらの分別、硬化、エステル交換等の処理をして得られる加工油脂、さらには市販のバター、マーガリン、またはショートニングあるいはハードバター等が挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。
【0013】
前記蛋白原料としては、特に限定されないが、牛乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、加糖練乳、無糖練乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルク、バターミルクパウダー、ホエー、ホエーパウダー、カゼイン、カゼインナトリウム、脂肪球皮膜タンパク、α−ラクトアルブミンやβ−ラクトグロブリン、血清アルブミン、生クリーム等の乳由来の蛋白質、更には卵蛋白質、大豆蛋白質、小麦蛋白質等の乳以外の蛋白質等を使用することができる。卵蛋白質としては、液状あるいは乾燥された卵黄、卵白、全卵及びこれらより分離される単一(単純)蛋白質、例えばオボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド、オボグロブリン、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質等がある。大豆蛋白質としては、豆乳、脱脂大豆粉、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白、脱脂豆乳粉末、大豆蛋白加水分解物等がある。小麦蛋白質としては、グリアジン、グルテニン、プロラミン、グルテリン等がある。また、その他動物性及び植物性蛋白質等の蛋白質も使用できる。これらの蛋白質は、目的に応じ少なくとも1種用いることができる。
【0014】
前記乳化剤としては、特に限定されないが、大豆レシチン、卵黄レシチン、または、それらの酵素分解物、脂肪酸とグリセリンのエステル及びその誘導体(グリセリン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等を挙げることができる。これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0015】
前記糖類としては、特に限定されないが、ブドウ糖、果糖、マンノース、キシロース、ショ糖、乳糖、麦芽糖、マルトース、トレハロース、マルトトリオース、オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、乳果オリゴ糖、パラチノースオリゴ糖、異性化液糖、ショ糖結合水飴、酵素糖化水飴、還元乳糖、還元澱粉糖化物、還元糖ポリデキストロース、澱粉加水分解物、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、オリゴ糖アルコール、ラフィノース、ラクチュロース、ステビア、アスパルテーム等の糖類が挙げられる。これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0016】
前記安定剤・増粘剤としては、特に限定されないが、プルラン、サイリウム、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、ジェランガム、グルコマンナン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンド種子多糖、カラギーナン、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、結晶セルロース、カードラン及びそれらの低分子化物、澱粉、化工澱粉、各種α化デンプン、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン等が挙げられる。これらの安定剤・増粘剤は、少なくとも1種用いることができる。
【0017】
また、前記の蛋白原料、油脂、糖類は、脂質蛋白複合体や蛋白糖複合体などのような複合体を形成して含有させてもよい。
【0018】
前記無機塩類としては、特に限定されないが、食塩、岩塩、海塩、塩化カリウム、ヘキサメタリン酸塩、第2リン酸塩、第1リン酸塩、クエン酸のアルカリ金属塩(カリウム、ナトリウム等)、ポリリン酸塩、重曹等が挙げられる。これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0019】
この他、抽出物、着香料、調味料、乳製品、酵素処理物、pH調整剤、酵素、食品保存料、日持ち向上剤、酸化防止剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー等を使用することができ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0020】
本発明の水中油型乳化油脂組成物の製造方法は、蒸気加熱工程(1)と間接冷却工程(2)を含み、水分調整のための蒸発冷却工程を含まないことを特徴としている。また、高周速の回転式乳化機による乳化工程(3)を有することが好ましく、蒸気による水分の持ち込みを抑えるためには、蒸気加熱工程の前に予備加熱工程(4)を有する方が好ましい。これら以外に原料調整工程、ホールド工程、均質化工程、熟成工程、充填工程などの工程を有していても良い。具体的な製造方法を以下に例示する。
【0021】
<蒸気加熱工程(1)>
油脂を主成分とする油相と水を主成分とする水相を調整した後、それぞれを混合してから好ましくは乳化工程(3)を通してから、蒸気加熱工程(1)に供する。蒸気加熱工程(1)の前には、間接加熱による予備加熱を行うことが好ましい。
【0022】
本発明の蒸気加熱工程(1)における蒸気加熱とは、蒸気を直接、食品に作用させることで加熱する方法である。方式としては、例えば蒸気吹き込み方式(インジェクション方式)、インフュージョン方式等があり、蒸気加熱工程(1)には少なくとも何れかの方式を用いていればよい。前者は、食品に蒸気を直接吹き込む方式であり、装置としては、例えば、スチームインジェクション(岩井機械(株))がある。後者は、蒸気雰囲気中に食品を入れ込む方式であり、装置としては、例えば、スチームインフュージョンシステム(岩井機械(株))がある。本発明の目的であるフレッシュ感を残すためには、蒸気吹き込み方式がより好ましい。それは、蒸気吹き込み方式は、インフュージョン方式と比較し、高温での保持時間を正確に制御できるため、フレッシュ感を残存させやすい傾向があるからである。
【0023】
また、蒸気加熱工程(1)において、商業的滅菌を満足させるために、その到達温度が125℃〜150℃まで加熱されていることが好ましいく、より好ましくは140〜150℃で、特に蒸気加熱工程(1)の前に予備加熱工程(4)を行う場合は、予備加熱工程(4)によって加熱された温度より高い温度に到達させることが好ましい。一方、到達温度が150℃を越えると、加熱ダメージが大きくなってしまいフレッシュ感が失われる場合がある。蒸気加熱時間は、上記温度で2〜30秒間ホールドすることが好ましい。
【0024】
<間接冷却工程(2)>
間接冷却工程(2)は、蒸気加熱工程(1)を介した後の高温状態から間接冷却で所望の温度まで冷却する工程で、クリーム等の水中油型乳化油脂組成物の製造に於いては、その結晶性の制御の点から、2〜15℃まで冷却することが好ましい。ここで間接冷却とは、冷却される対象物とそれ以外の物質との熱交換により冷却する方法であり、例えば、プレート式、チューブラー式、多管式、掻き取り式冷却方式や冷たい物質の混合などが挙げられるが、中でも熱交換能力が高い、プレート方式、多管式、掻き取り式冷却方式を用いるのが好ましい。間接冷却によれば、蒸発冷却を行う際とは異なり、香気成分や高揮発性成分が除去されにくく、風味豊かな水中油型乳化油脂組成物を提供することが容易となる。上記間接冷却は、1段階でも良いが、水中油型乳化油脂組成物の粒径を小さくしたい場合などは、1段目の間接冷却の後に2〜25MPaの条件で高圧ホモジナイザーをかけてから、好ましくは1段以上、より好ましくは2段以上の間接冷却を行う。そして、2段目以降の間接冷却工程に供される場合の水中油型乳化油脂組成物の粒径は、3.3μm以下であることが好ましい。間接冷却が終了した水中油型乳化油脂組成物は、タンクに移送される。
【0025】
<乳化工程(3)>
乳化工程は、一般にエマルションの粒径を微細化する等の方法で、水中油型乳化油脂組成物をより安定化する工程であり、蒸気加熱工程(1)前や1段目の間接冷却の後に設定することが好ましい。本発明の乳化工程においては各種乳化機を使用することが可能であるが、蒸気加熱工程(1)前には、高周速の回転式乳化機(周速が25m/秒以上の回転能力を有する乳化機)を使用することが好ましい。例えば、フィルミックス(プライミクス(株))、キャビトロン(キャビトロン社)、インライン型高せん断分散装置(IKA社)、ハイシェアミキサー(CHARLES ROSS&SON社)、クレアミックス(エム・テクニック(株))などが使用できる。特に本発明の、蒸気加熱工程(1)と間接冷却工程(2)を含み、水分調整のための蒸発冷却工程を含まない水中油型乳化油脂組成物の製造方法では、通常行われる蒸気加熱工程(1)と蒸発冷却工程(直接冷却工程)の組み合わせによる製造方法に比べ、その水中油型乳化油脂組成物の安定性が低下しやすく、この問題を解決する為に、通常の乳化機ではなく、高周速の回転式乳化機を使用することが好ましい。
【0026】
また、前記蒸気加熱工程(1)前の高周速の回転式乳化機による乳化後には、さらに1〜20MPaの条件で高圧ホモジナイザーをかけることが好ましい。そして、前記蒸気加熱工程(1)に供される水中油型乳化油脂組成物の粒径は、3.5μm以下であることが好ましい。
【0027】
尚、この乳化工程は、タンクなどを用いてバッチ式でおこなっても、インラインによる連続式でおこなっても良く、それらの組合せであるバッチ連続式でおこなっても良い。バッチ式の場合、含気・含泡の問題を生じやすいため、脱気処理できるタンクなどを用いておこなうことや、満液にしておこなうことが考えられる。この乳化工程を用いれば、安定なエマルションの風味豊かな水中油型乳化油脂組成物を製造することが容易となる。
【0028】
<予備加熱工程(4)>
本発明の水中油型乳化油脂組成物の製造方法においては、蒸気加熱工程(1)に供する水中油型乳化油脂組成物の温度が75℃以上であることが好ましい。言い換えると、蒸気加熱工程(1)の前に、予め加熱を行う予備加熱工程(4)を有していることが好ましい。予備加熱工程(4)における加熱方式としては、加熱時に水分を増加しない方法であることが特に好ましく、この様な方法としては、プレート式、チューブラー式、多管式や掻き取り式などの間接加熱方式や、通電加熱や電磁波加熱などの内部加熱方式が例示できる。より好ましい方法を具体的に示すと、水中油型乳化油脂組成物が、予備加熱工程(4)で加熱され、蒸気加熱工程(1)で好ましくは125℃〜150℃に、より好ましくは140〜150℃に加熱され、予備加熱工程(4)からの蒸気加熱工程(1)における昇温幅が、5〜75℃となる条件が特に好ましい。
【0029】
特に、この様に蒸気加熱工程(1)に供する水中油型乳化油脂組成物の温度が75℃以上、より好ましくは85〜130℃であると、蒸気による加熱温度幅を小さくすることができ、その分、工程中の増加水分量を抑制でき、代わりに仕込み時の水分量を多くすることが可能となって、製造がより容易となる。本来、最終製品の水分量と蒸気加熱工程(1)で増加する水分量を考慮して、仕込み時の水分量を決める必要があるが、蒸気加熱工程(1)で増加する水分量が多いと仕込み時の水分量を減らさざるをえず、油分を含む水中油型乳化油脂組成物において、相対的に仕込み時の油脂濃度が上昇し、エマルションが不安定になりやすい。また、蒸気加熱以外の加熱方法を使用すると、通常加熱によるダメージが大きくなるが、その蒸気加熱以外の加熱方法を低温域の加熱に使用することで、加熱によるダメージをも防ぐことが可能となる。
【0030】
本発明の殺菌後の水中油型乳化油脂組成物は、必要により冷蔵(0〜15℃)もしくは冷凍状態(−0℃以下)で保存してもよい。
【0031】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、例えば、ホイップ用クリーム、コーヒー用クリーム、調理加工済みソース(ホワイトソース、グラタンなど)用クリーム、アイスクリーム、ソフトクリーム用プレミックス、パン、菓子、デザート、ハム、ソーセージ、食肉、魚肉、練り込み用油脂、マヨネーズ、ドレッシング、チーズ様食品、フラワーペースト、フィリング、トッピング、サンド、スプレッド等の加工食品用途に用いられる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0033】
<蒸発冷却工程>
比較例1における蒸発冷却工程とは、水分調整のためであり、高温状態にある製品を減圧下にせしめることで、水分を蒸発させ、その気化熱により冷却する工程であり、特に、蒸気加熱工程(1)で増加した水分量の3/4以上の量を低減する工程を意味する。蒸発冷却工程では、陰圧制御可能な(フラッシュタンクorデアレーター)タンクを使用した。
【0034】
<官能評価>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物、プリン、ホワイトソース、パンナコッタを熟練した5人のパネラーに食べてもらい、以下の方法で点数化し、その平均点を評価点とした。水中油型乳化油脂組成物に関しては、風味の強さ、においの強さ、フレッシュ感を評価し、プリン、ホワイトソース、パンナコッタについては乳感、濃厚感について評価した。5点:強く感じる、4点:やや強く感じる、3点:やや弱く感じる、2点:弱く感じる、1点:ほとんど感じない。
【0035】
<水中油型乳化油脂組成物の粘度測定>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を、5℃で2日間保管した後、B型粘度計(型番:BM型、TOKIMEC INC社製)にて測定した。
【0036】
(実施例1) 水中油型乳化油脂組成物の作製
表1の配合と最終的に同じになるようにスチームインジェクション(蒸気加熱工程(1))での水分増加量を考慮して、水相と油相を調整し、65℃に温調・撹拌しながら予備乳化した。予備乳化液を調合タンクに投入し、均質化圧力を1.0MPaに調整したホモゲナイザーHV((株)イズミフードマシナリ社製)を用いて送液した。プレート式熱交換機(岩井機械工業(株)製)にて80℃まで予備加熱を行い(予備加熱工程(4))、スチームインジェクション(岩井機械工業(株))での加熱により140℃まで加熱した(蒸気加熱工程(1))。さらに、殺菌保持装置であるホールディングチューブにて140℃で4秒間保持し、チューブラー式熱交換機(岩井機械工業(株)製)により60℃まで冷却した後(間接冷却工程(2))、6.0MPaの均質化圧力の下で均質化処理をおこない、再び、プレート式熱交換機にて5℃まで冷却して(間接冷却工程(2))、水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物の官能評価及び保存後の粘度を評価し、その結果を表2に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
(比較例1) 水中油型乳化油脂組成物の作製
間接冷却工程(2)において、ホールディングチューブにて140℃で4秒間保持した後、チューブラー式熱交換機の代わりに蒸発冷却器(岩井機械工業(株)製)を用いて80℃まで冷却した(蒸発冷却)以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物の官能評価及び保存後の粘度を評価し、その結果を表2に示した。
【0040】
(比較例2) 水中油型乳化油脂組成物の作製
蒸気加熱工程(1)において、スチームインジェクション(岩井機械工業(株))の代わりに、予備加熱工程(4)で用いたプレート式熱交換機(岩井機械工業(株))で140℃まで加熱した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物の官能評価及び保存後の粘度を評価し、その結果を表2に示した。
【0041】
(実施例2) 水中油型乳化油脂組成物の作製
予備乳化液を調合タンクとホモジナイザーHVの間に高周速乳化機(クレアミックス(エム・テクニック(株))を設置し、回転数20000rpm(周速31m/s)にて乳化した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物の官能評価及び保存後の粘度を評価し、その結果を表2に示した。
【0042】
(実施例3) 水中油型乳化油脂組成物の作製
予備加熱工程(4)において、プレート式熱交換機(岩井機械工業(株)製)での予備加熱を110℃まで加熱した以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物の官能評価及び保存後の粘度を評価し、その結果を表2に示した。
【0043】
(実施例4) 水中油型乳化油脂組成物の作製
予備乳化液を調合タンクとホモジナイザーHVの間に高周速乳化機(クレアミックス(エム・テクニック(株))を設置し、回転数20000rpm(周速31m/s)にて乳化した以外は、実施例3と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物の官能評価及び保存後の粘度を評価し、その結果を表2に示した。
【0044】
表2より分かるように、実施例1〜4で得られた水中油型乳化油脂組成物は、比較例1〜2と比較して、味・におい共に強く風味豊かでフレッシュ感のあるものであった。また、2日後の粘度では、実施例1のものは、商品レベルは満たすものの、少し乳化状態が芳しくなく、粘度が高い結果となったが、高周速乳化機の使用や予備加熱温度を上昇させることで、それを改善することができていることがわかった。
【0045】
(実施例5) 水中油型乳化油脂組成物及びプリンの作製
表3の配合と最終的に同じになるようにスチームインジェクション(蒸気加熱工程(1))での水分増加量を考慮して、水相と油相を調整し、65℃に温調・撹拌しながら予備乳化した。予備乳化液を調合タンクに投入し、均質化圧力を5.0MPaに調整したホモゲナイザーHV((株)イズミフードマシナリ社製)を用いて送液した。プレート式熱交換機(岩井機械工業(株)製)にて80℃まで予備加熱を行い(予備加熱工程(4))、スチームインジェクション(岩井機械工業(株))での加熱により140℃まで加熱した(蒸気加熱工程(1))。さらに、殺菌保持装置であるホールディングチューブにて140℃で4秒間保持し、チューブラー式熱交換機(岩井機械工業(株)製)により60℃まで冷却した後(間接冷却工程(2))、15.0MPaの均質化圧力の下で均質化処理をおこない、再び、プレート式熱交換機にて5℃まで冷却して(間接冷却工程(2))、水中油型乳化油脂組成物を得た(表4)。
【0046】
得られた水中油型乳化油脂組成物を用いて、表5の配合で、下記の通りの常法に従い、プリンを作製した。即ち、グラニュー糖と全卵を混ぜ撹拌した後、上記で得た水中油型乳化油脂組成物、水、バニラエッセンスを添加し撹拌後、プリンカップに移し、アルミホイルで覆って150℃、35分湯煎焼きした。その後、アルミホイルを外して150℃で5分湯煎焼きしてプリンを得、その官能評価結果は、表5に示した。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
(比較例3) 水中油型乳化油脂組成物及びプリンの作製
間接冷却工程(2)において、ホールディングチューブにて140℃で4秒間保持した後、チューブラー式熱交換機の代わりに蒸発冷却器(岩井機械工業(株)製)を用いて80℃まで冷却した以外は、実施例5と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た(表4)。得られた水中油型乳化油脂組成物を用いて、実施例5と同様にしてプリンを得、その官能評価結果は、表5に示した。
【0051】
表5から明らかなように、実施例5は、比較例3と比較して、乳感、濃厚感共に豊かなものであった。
【0052】
(実施例6) 水中油型乳化油脂組成物及びホワイトソースの作製
表6の配合とした以外は、実施例5と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た(表7)。得られた水中油型乳化油脂組成物を用いて、表8の配合で、下記の通りの常法に従い、ホワイトソースを作製した。即ち、ホワイトルーを木ベラで伸ばした後、上記で得た水中油型乳化油脂組成物を加え十分に伸ばし、コンソメ、チーズ、レモン果汁、水の順番で材料を添加し、品温が85℃になるまで加熱を続けてホワイトソースを得、その官能評価結果は、表8に示した。
【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
(比較例4) 水中油型乳化油脂組成物及びホワイトソースの作製
間接冷却工程(2)において、ホールディングチューブにて140℃で4秒間保持した後、チューブラー式熱交換機の代わりに蒸発冷却器(岩井機械工業(株)製)を用いて80℃まで冷却した以外は、実施例6と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た(表7)。得られた水中油型乳化油脂組成物を用いて、実施例6と同様にしてホワイトソースを得、その官能評価結果は、表8に示した。
【0057】
表8から明らかなように、実施例6のホワイトソースは、比較例4のホワイトソースと比較して、乳感、濃厚感共に豊かなものであった。
【0058】
(実施例7) 水中油型乳化油脂組成物及びパンナコッタの作製
フレッシュクリーム(47%)を65℃に温調した。その後、均質化圧力を0.5MPaに調整したホモゲナイザーHV((株)イズミフードマシナリ社製)を用いて送液した。プレート式熱交換機(岩井機械工業(株)製)にて80℃まで予備加熱を行い(予備加熱工程(4))、スチームインジェクション(岩井機械工業(株))での加熱により140℃まで加熱した(蒸気加熱工程(1))。さらに、殺菌保持装置であるホールディングチューブにて140℃で4秒間保持し、プレート式熱交換機(岩井機械工業(株)製)により60℃まで冷却した後(間接冷却工程(2))、1.0MPaの均質化圧力の下で均質化処理をおこない、再び、プレート式熱交換機にて5℃まで冷却して(間接冷却工程(2))、水中油型乳化油脂組成物を得た(表9)。得られた水中油型乳化油脂組成物を用いて、表10の配合で、下記の通りの常法に従い、パンナコッタを作製した。即ち、上記で得た水中油型乳化油脂組成物、牛乳に、はちみつを添加し加温した。それからゼラチンを加え溶解させた後、バニラエッセンスを加え、冷蔵庫で冷やし固め、パンナコッタを得、その官能評価結果は、表10に示した。
【0059】
【表9】

【0060】
【表10】

【0061】
(比較例5) 水中油型乳化油脂組成物及びパンナコッタの作製
間接冷却工程(2)において、ホールディングチューブにて140℃で4秒間保持した後、チューブラー式熱交換機の代わりに蒸発冷却器(岩井機械工業(株)製)を用いて80℃まで冷却した。その後、実施例7と水分が同じになるように水分調整を行った以外は、実施例7と同様にして水中油型乳化油脂組成物を得た(表9)。得られた水中油型乳化油脂組成物を用いて、実施例7と同様にしてパンナコッタを得、その官能評価結果は、表10に示した。
【0062】
表10から明らかなように、実施例7は、比較例5と比較して、乳感、濃厚感共に豊かなものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気加熱工程(1)と間接冷却工程(2)を含み、水分調整のための蒸発冷却工程を含まないことを特徴とする水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項2】
蒸気加熱工程(1)での到達温度が、125℃〜150℃であることを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項3】
蒸気加熱工程(1)での加熱方式が、蒸気吹き込み方式及び/又はインフュージョン方式であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項4】
間接冷却工程(2)での冷却方式が、プレート式、チューブラー式、多管式、或いは、掻き取り式冷却方式から選ばれる1以上の冷却方式であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項5】
高周速の回転式乳化機による乳化工程(3)が含まれることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項6】
蒸気加熱工程(1)に供する水中油型乳化油脂組成物の温度が75℃以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法を用いて製造された水中油型乳化油脂組成物。

【公開番号】特開2009−17874(P2009−17874A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150675(P2008−150675)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】