説明

水中油型乳化物用油脂及び該水中油型乳化物用油脂を含有する水中油型乳化物

【課題】
ホイップクリーム等用の水中油型乳化物に配合した時に、乳化安定性が優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での食感、耐熱保形性、離水耐性が優れた水中油型乳化物用の油脂を提供すること。
また、前記水中油型乳化物用油脂を含有し、乳化安定性及びホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での食感、耐熱保形性、離水耐性が優れたホイップクリーム等用の水中油型乳化物を提供すること。
【解決手段】
10℃におけるSFCが17〜50%、20℃におけるSFCが4〜30%、30℃におけるSFCが3〜10%の油脂であり、該油脂30質量部に対して、液状油70質量部を混合して得られる混合油を、60℃から25℃に静置しても、固液分離することなく、均一に結晶化することを特徴とする水中油型乳化物用油脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイップクリーム等用の水中油型乳化物に用いる油脂に関するものである。
また、本発明は、乳化安定性が優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での質感、口溶け、耐熱保形性、離水耐性が優れた水中油型乳化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、専門店だけでなく、コンビニエンスストア等でも洋生菓子を取り扱う場合が急増している。このため、ホイップクリーム等に用いる水中油型乳化物には、作業環境や輸送中の温度上昇等に対する耐性が今まで以上に求められている。また、水中油型乳化物を起泡させたホイップクリームについても、美味しさはもちろんのこと、品温等の微妙な保存環境変化への耐性が今まで以上に求められている。
【0003】
ホイップクリーム等に用いる水中油型乳化物には、風味の点で他に類するものがない程優れているため、天然の生クリームが用いられていた。しかしながら、天然の生クリームは、取り扱い面での難点があった。詳しくは、天然の生クリームは、ホイップ前の乳液状態では、品温の上昇や輸送中の振動によって、いわゆるボテと呼ばれる急激な粘度の上昇や固化が起こり易く、安定性が悪かった。また、天然の生クリームは、起泡時には最適ホイップの終点幅が狭く、ホイップクリームの保形性も充分とは言えないものであった。さらに、天然の生クリームは、価格的にも比較的高価なものであった。
このため、比較的低価格で、入手し易く、品質も比較的安定している、乳脂肪に植物性油脂を配合したコンパウンドタイプの水中油型乳化物や純植物性油脂を配合した水中油型乳化物が考案されてきた。
【0004】
水中油型乳化物に用いる植物性油脂としては、生クリームの口溶けに似た固体脂含量(以下SFCとする)カーブを有する油脂が使用されることもあるが、このような油脂では、耐熱保形性と口溶けを両立することが難しかった。
造花性、耐熱保形性、離水耐性の改良のために、融点の高い油脂を配合する方法が採られることもあるが、結果として口溶けの悪化を招くことにもなり、やはり、口溶けと耐熱保形性の両立は困難であった。
また、口溶けと耐熱保形性を両立させるために、SFCカーブのシャープな硬化ヤシ油、硬化パーム核油等のラウリン系油脂の使用が試みられてきた。しかしながら、SFCカーブのシャープな硬化ヤシ油、硬化パーム核油等のラウリン系油脂は、多量に配合すると、乳化液の耐振性や耐熱性(ヒートショック耐性)が低下し、ボテが生じたり、ホイップ後にクリームが経時的に硬くなる現象(シマリ現象)が発生し易かったりと、ホイップクリーム用油脂への使用には制限があった。
【0005】
ホイップクリームとしたときの口溶けと耐熱保形性を両立するために、使用する植物性油脂については、更に幾つかの試みがなされている。例えば、ラウリン系油脂とSUS型トリグリセリドを併用すること(特許文献1参照)や特定のSFCを満たす分別パーム硬化油を使用することにより(特許文献2参照)、口溶けと耐熱保形性を両立する方法が開示されている。しかしながら、ホイップクリームへの品質要求レベルが上がる中、何れの方法もまだ十分に満足し得るものとは言えなかった。また、特定の混酸基グリセリドを用いた検討も行なわれているが(特許文献3参照)、エステル交換後、溶剤分別により、所定の油脂調製をするなど、製造コストが高く、実際的なプロセスとは言えなかった。
【0006】
よって、ホイップクリーム等に用いる水中油型乳化物に配合した時に、乳化安定性があり、また、ホイップした時には、起泡性、耐熱保形性、離水耐性、オイルオフ耐性、作業性等に優れ、かつ、良好な口溶けと質感が得られる水中油型乳化物用の油脂が求められていた。
【特許文献1】特開平5−219887号公報
【特許文献2】特開平10−75729号公報
【特許文献3】特開平5−276888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ホイップクリーム等用の水中油型乳化物に配合した時に、乳化安定性が優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での質感、口溶け、耐熱保形性、離水耐性が優れた水中油型乳化物となる水中油型乳化物用油脂を提供することである。
また、本発明の課題は、乳化安定性が優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での質感、口溶け、耐熱保形性、離水耐性が優れたホイップクリーム等の水中油型乳化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の物性を示す油脂を水中油型乳化物に含有させることによって、乳化安定性に優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での質感、口溶け、耐熱保形性、離水耐性に優れたホイップクリーム等用の水中油型乳化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、10℃におけるSFCが17〜50%、20℃におけるSFCが4〜30%、30℃におけるSFCが3〜10%の油脂であり、該油脂30質量部に対して、液状油70質量部を混合して得られる混合油を、60℃から25℃に静置しても、固液分離することなく、均一に結晶化することを特徴とする水中油型乳化物用油脂である。
【0010】
本発明の第2の発明は、パーム系油脂と、液状油及び/又はラウリン系油脂からなる油脂とを、質量比40:60〜80:20でエステル交換することにより得られることを特徴とする第1の発明に記載の水中油型乳化物用油脂である。
【0011】
本発明の第3の発明は、パーム系油脂と、液状油及び/又はラウリン系油脂からなる油脂とを、質量比40:60〜80:20でエステル交換することにより得られる油脂を95〜99.5質量%、融点が55〜65℃の油脂を0.5〜5質量%含有することを特徴とする第1の発明に記載の水中油型乳化物用油脂である。
【0012】
本発明の第4の発明は、前記エステル交換が、酵素を用いることを特徴とする第2の発明又は第3の発明に記載の水中油型乳化物用油脂である。
【0013】
本発明の第5の発明は、前記融点が55〜65℃の油脂が、全構成脂肪酸中のベヘン酸含量が20〜55質量%である菜種油の極度硬化油であることを特徴とする第3の発明又は第4の発明に記載の水中油型乳化物用油脂である。
【0014】
本発明の第6の発明は、第1の発明から第5の発明のいずれか1つの発明に記載の水中油型乳化物用油脂を含有することを特徴とする水中油型乳化物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乳化安定性に優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での質感、口溶け、耐熱保形性、離水耐性に優れたホイップクリーム等用の水中油型乳化物に用いる油脂が提供される。
また、本発明によれば、乳化安定性に優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での質感、口溶け、耐熱保形性、離水耐性に優れたホイップクリーム等用の水中油型乳化物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の水中油型乳化物用油脂について説明する。
本発明の水中油型乳化物用油脂は、10℃におけるSFCが17〜50%、好ましくは19〜46%、最も好ましくは21〜42%であり、20℃におけるSFCが4〜30%、好ましくは6〜26%、最も好ましくは8〜22%であり、30℃におけるSFCが3〜10%、好ましくは4〜9%である。
【0017】
10℃におけるSFCが17%より低い場合は、最適ホイップまで時間がかかり、十分に質感のあるホイップクリームも得られないため、好ましくない。10℃におけるSFCが50%より高い場合は、乳化物の耐振性が劣り、ボテ易くなるため、好ましくない。
また、20℃におけるSFCが4%より低い場合は、ホイップクリームに十分な保形性が得られないため、好ましくない。20℃におけるSFCが30%より高い場合は、ホイップクリームの口当たりが悪くなり、好ましくない。
さらに、30℃におけるSFCが3%より低い場合は、ホイップクリームに十分な耐熱性が得られないため、好ましくない。30℃におけるSFCが10%より高い場合は、得られるホイップクリームの耐熱性は上がるが、口溶けが悪くなるため、好ましくない。
【0018】
SFCの値は基準油脂分析法の「暫1−1996 固体脂含量 NMR法」に従って測定することができる。
【0019】
本発明の水中油型乳化物用油脂30質量部に対して、液状油70質量部を混合して得られる混合油は、60℃から25℃に静置されても、固液分離することなく、均一に結晶化することが好ましい。60℃から25℃に徐々に放冷されても前記混合油が、固液分離することなく、均一に結晶化すると、水中油型乳化物とした時に、運搬、保存等の環境の変化に対して、耐性を示すため、好ましい。
【0020】
上記混合油の均一結晶化の評価は、具体的には、以下のように行うことができる。本発明の水中油型乳化物用油脂を液状油と質量比3:7の割合で混合し、該混合油を内径10mmの試験管に8g採り、60℃で1時間保温した後、25℃の恒温槽に入れ24時間静置する。液状油が固液分離しているかをまず目視にて観察し、更に、1000G、5分の遠心分離処理した後、液状油が固液分離しているかを目視にて観察する。液状油は通常食用に用いるものであれば特に制限はないが、例えば、菜種油、大豆油、紅花油等が挙げられる。
【0021】
本発明の水中油型乳化物用油脂は、均一に分散、結晶化し易い油脂を得る点から、パーム系油脂と、液状油及び/又はラウリン系油脂からなる油脂とをエステル交換することにより得られる油脂であることが好ましい。
また、本発明の水中油型乳化物用油脂は、特に耐熱性の付与及び油脂結晶を均一分散させる点から、パーム系油脂と、液状油及び/またはラウリン系油脂からなる油脂とをエステル交換することにより得られる油脂と、更に、融点55〜65℃の油脂を含有することがより好ましい。
【0022】
エステル交換時のパーム系油脂と、液状油及び/又はラウリン系油脂からなる油脂の混合比は、質量比40:60〜80:20、好ましくは質量比45:55〜75:25、最も好ましくは質量比50:50〜70:30である。混合比が、上記範囲にあると、均一に分散、結晶化し易い油脂となる。
【0023】
本発明で用いるパーム系油脂としては、例えば、パーム油、パーム油を分別して得られるパームステアリン、パームオレイン等の分別油、及びこれらの硬化油等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる特に、適度な固形分を有する点で、パーム系油脂は、パーム油、パームステアリン、パーム油とパームステアリンの混合油であることが好ましい。
また、パーム系油脂のよう素価は、適度にパルミチン酸を含有する点から、30〜65であることが好ましい。
【0024】
本発明のエステル交換で用いる液状油としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、紅花油等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
特に、風味の点で、液状油は、菜種油であることが好ましい。
ここで、本発明における液状油とは25℃で流動性があり、結晶が認められないものをいう。
【0025】
本発明で用いるラウリン系油脂としては、例えば、ヤシ油、パーム核油、これらを分別して得られるパーム核オレイン、パーム核ステアリン等の分別油、及びこれらの硬化油等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
ここで、本発明におけるラウリン系油脂とは、油脂の全構成脂肪酸中のラウリン酸含量が20質量%以上の油脂のことをいう。
また、パーム核油、パーム核オレインのよう素価は、16〜26であることが好ましい。
【0026】
エステル交換時のパーム系油脂と液状油及び/又はラウリン系油脂の組み合わせによる混合比は、パーム系油脂とラウリン系油脂との組み合わせの場合、よう素価40〜48に調製したパーム系油脂60〜70質量部に対し、ラウリン系油脂を40〜30質量部混合することが好ましく、パーム油とパームステアリンの混合油65質量部に対し、パーム核オレインを35質量部混合することがより好ましい。また、パーム系油脂と液状油との組み合わせの場合、よう素価49〜56に調製したパーム系油脂60〜70質量部に対し、液状油を40〜30質量部混合することが好ましく、パーム油65質量部に対し、菜種油を35質量部混合することがより好ましい。さらに、パーム系油脂と液状油との組み合わせにおいて、よう素価50〜62に調製したパーム系油脂40〜55質量部に対し、液状油を60〜45質量部混合した混合油を用いる場合、エステル交換した後、0℃〜20℃で分別した固体脂部を用いることが好ましい。
【0027】
本発明の水中油型乳化物用油脂中の上記パーム系油脂と、液状油及び/又はラウリン系油脂からなる油脂とのエステル交換により得られる油脂の含量は、95〜100質量%、好ましくは95〜99.5質量%、最も好ましくは98〜99.5質量%である。含量が、上記範囲にあると、水中油型乳化物用油脂が均一分散、結晶化し易くなるため、水中油型乳化物とした時に、運搬、保存等の環境変化に対しての耐性が高まるので、より好ましい。
【0028】
本発明で用いる融点55〜65℃の油脂としては、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油、菜種極度硬化油、全構成脂肪酸中のベヘン酸含量が20〜55質量%である菜種油の極度硬化油等が挙げられる。水中油型乳化物用油脂が均一分散、結晶化し易くするためには、全構成脂肪酸中のベヘン酸含量が20〜55質量%である菜種油の極度硬化油であることが最も好ましい。
【0029】
本発明の水中油型乳化物用油脂中の融点55〜65℃の油脂の含量は、0〜5質量%、好ましくは0.5〜5質量%、最も好ましくは0.5〜2質量%である。含量が上記範囲にあると、水中油型乳化物用油脂が均一分散、結晶化し易くなるため、水中油型乳化物とした時に、運搬、保存等の環境変化に対しての耐性が高まるが、ホイップクリームの口溶けには影響しないことから、より好ましい。
【0030】
本発明における上記パーム系油脂と、液状油及び/又はラウリン系油脂からなる油脂とのエステル交換は、ナトリウムメトキシド等の無機触媒を使用した化学的なエステル交換、リパーゼ製剤等を使用した酵素によるエステル交換が挙げられる。特に、風味の点から、酵素によるエステル交換であることがより好ましい。酵素によるエステル交換で得られる油脂を使用すると、得られるホイップクリームの乳様の風味が強まり、コク感が出るため、より好ましい。
【0031】
酵素によるエステル交換は、原料となる油脂を混合して均質にした後、リパーゼ製剤を用いて行うことができる。リパーゼ製剤としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、キャンディダ(Candida)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonus)属、リゾプス(Rhizopus)属等の微生物由来、牛や豚の膵臓由来のものが挙げられ、風味の点から、リパーゼ製剤は、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ムコール(Mucor)属を用いることが好ましい。また、リパーゼ製剤は、リパーゼを粉末のまま、あるいはケイソウ土、活性炭、合成樹脂、イオン交換樹脂等の公知の担体に固定化して用いることができる。
【0032】
酵素によるエステル交換反応は、混合して均質にした原料油脂にリパーゼ製剤を加えて反応させるバッチ方式、又はリパーゼ製剤を充填した容器に混合して均質にした原料油脂を流入させて反応させるカラム方式で行うことができる。原料油脂中の水分量は、副反応としての加水分解を抑制し、かつ、ある程度のエステル交換反応速度およびリパーゼ製剤の活性を維持するために、0.005〜0.5質量%、好ましくは0.01〜0.2質量%、最も好ましくは0.02〜0.1質量%に保持することが望ましい。酵素によるエステル交換反応の反応温度は、通常、室温〜80℃に設定すればよいが、経済的に使用するには、40〜70℃が好ましく、50〜60℃が最も好ましい。
【0033】
エステル交換反応後の反応物の精製としては、一般的な油脂の精製処理である、アルカリ脱酸、活性白土や活性炭による脱色、及び減圧脱臭等を行うことができ、さらに、精製処理前後に分別処理を行うこともできる。本発明の水中油型乳化物用油脂は、未分別、未精製のエステル交換油、エステル交換油を分別して得られるエステル交換分別油、エステル交換油を精製して得られるエステル交換精製油、エステル交換油を分別及び精製して得られるエステル交換分別精製油のいずれであってもよいが、風味上精製油であることが好ましい。また、これらは2種以上を混合して用いることもできる。パーム系油脂とラウリン系油脂とをエステル交換して得られる油脂と、パーム系油脂と液状油とをエステル交換して得られる油脂を併用する場合は、各々の油脂を40:60〜60:40の質量比で混合するのが好ましい。
【0034】
本発明の水中油型乳化物について説明する。
本発明の水中油型乳化物は、油相中に本発明の水中油型乳化物用油脂を含有する。
本発明の水中油型乳化物用油脂を油相中に含有する水中油型乳化物は乳化安定性があり、ホイップした時には作業性、起泡性、外観、耐熱保形性、造花性、離水耐性、質感に優れたホイップクリームとなる。ホイップクリームは、洋菓子、パン等に用いることができる。
【0035】
本発明の水中油型乳化物における油相中の油脂は、本発明の水中油型乳化物用油脂又は本発明の水中油型乳化物用油脂と本発明以外の油脂を混合した油脂を用いることができる。
【0036】
本発明の水中油型乳化物の油相中に配合する本発明以外の油脂は、通常クリームの製造に使用される油脂であれば特に制限はなく、例えば、乳脂、あるいは動物性油脂、植物性油脂またはそれらの硬化、分別、エステル交換等の加工を施した加工油脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる
【0037】
本発明の水中油型乳化物の油相に対する本発明の水中油型乳化物用油脂の含量は、25〜100質量%であり、好ましくは30〜100質量%であり、最も好ましくは35〜100%であることが好ましい。油相中の含量が上記範囲にあると、得られるホイップクリーム等用の水中油型乳化物が乳化安定性に優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での質感、口溶け、耐熱保形性、離水耐性に優れたものとなる。
【0038】
本発明の水中油型乳化物全量に対する本発明の水中油型乳化物用油脂の含量は、6〜47質量%であり、好ましくは8〜42質量%であり、最も好ましくは10〜37質量%である。水中油型乳化物全量に対する含量が上記範囲にあると、得られるホイップクリーム等用の水中油型乳化物が乳化安定性に優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での質感、口溶け、耐熱保形性、離水耐性に優れたものとなる。
【0039】
本発明の水中油型乳化物に配合する油脂は、融点が30〜40℃であることが
好ましく、また、水中油型乳化物全量に対するトータルの油脂含量は、20〜4
5質量%含有することが好ましく、25〜35質量%含有することがより好まし
い。本発明の水中油型乳化物に配合する油脂の融点及び水中油型乳化物全量に対
するトータルの油脂含量が上記範囲にあると、オーバーランが高くても質感のあ
るホイップクリームとなる。
【0040】
本発明の水中油型乳化物には、必要に応じて、ホイップクリーム等用の水中油型乳化物に一般に使用される各種成分を配合することができる。例えば、油相中には乳化剤等、水相中には乳化剤、乳蛋白質、増粘多糖類、全乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、カゼインナトリウム、大豆蛋白、ヘキサメタリン酸塩等の各種リン酸塩、重炭酸ソーダ、ガム類、セルロース、着香料、着色料、保存料、酸化防止剤、水等を必要に応じて適宜配合することが出来る。水中油型乳化物の水相の蛋白固形分としては、ホイップクリーム等用の水中油型乳化物全量に対して、0.5〜6.0質量%程度となるように配合することが好ましい。
【0041】
乳化剤としては、例えば、レシチン、シュガーエステル、モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等から選択された1種又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に親水性乳化剤としては、乳化力に優れる点から、シュガーエステル及び/またはポリグリセリン脂肪酸エステルの使用が好ましい。
【0042】
本発明の水中油型乳化物を製造方法は、油相に対して本発明の水中油型乳化物用油脂を、25〜100質量%、好ましくは30〜100質量%、最も好ましくは35〜100質量%含有させる以外は、従来公知のホイップクリーム等用の水中油型乳化物の製造方法に従って製造することができる。
【0043】
例えば、本発明の水中油型乳化物は、油溶性の乳化剤等を溶解させた本発明の油脂を含む油相部と、乳蛋白質、増粘多糖類、水溶性の乳化剤等を溶解させた水相部とを、予備乳化した後、均質化、殺菌もしくは滅菌、再均質化、冷却、エージングを行うことで製造することができる。なお、殺菌もしくは滅菌処理に前後して均質化処理もしくは攪拌処理することができ、均質化は前均質、後均質のどちらか一方でも、両方を組み合わせた2段均質でもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0045】
実施例1
〔パーム系油脂と、ラウリン系油脂との、エステル交換により得られる油脂の製造〕
パーム油(よう素価52)とパームステアリン(よう素価38)を38:62(質量比)で混合してパーム油とパームステアリンの混合油(よう素価43)を得て、このパーム油とパームステアリンの混合油とパーム核オレイン(よう素価21)とを65:35(質量比)で混合した混合油をムコール ミエハイ由来の固定化リパーゼ(ノボ社製リポザイムIM60)を充填したカラムに60℃、空間速度0.6で通液し、エステル交換反応油を得た。該反応油に、脱酸、脱色、及び減圧脱臭の通常の精製処理を施して、実施例1の油脂を得た。
【0046】
実施例2
〔パーム系油脂と、液状油又はラウリン系油脂からなる油脂との、エステル交換により得られる油脂と、融点55〜65℃の油脂を含有する油脂の製造〕
パームオレイン(よう素価57)と菜種油とを50:50(質量比)で混合した混合油に、アルカリゲネス エスピー由来のリパーゼ(名糖産業(株)製、リパーゼPL)を混合油に対して0.06質量%添加し、60℃で20時間ゆるやかに攪拌しながらエステル交換反応を行った。酵素除去後の該反応油を5〜8℃で分別し、その固体脂部分に、脱酸、脱色、及び減圧脱臭の通常の精製処理を施して、エステル交換分別精製油(IEA)を得た。
次に、パーム油(よう素価52)とパームステアリン(よう素価38)を54:46で混合してパーム油とパームステアリンの混合油(よう素価46)を得て、このパーム油とパームステアリンの混合油とパーム核オレイン(よう素価21)とを65:35(質量比)で混合した混合油に、アルカリゲネス エスピー由来のリパーゼ(名糖産業(株)製、リパーゼPL)を混合油に対して0.06質量%添加し、60℃で20時間ゆるやかに攪拌しながらエステル交換反応を行った。酵素除去後の該反応油に、脱酸、脱色、及び減圧脱臭の通常の精製処理を施して、エステル交換精製油(IEB)を得た。
IEA、IEB、及び、菜種油の極度硬化油(全構成脂肪酸中のベヘン酸含量45質量%)を49.5:49.5:1(質量比)で混合し、実施例2の油脂を得た。
【0047】
実施例3
〔パーム系油脂と、液状油とのエステル交換により得られる油脂と、融点55〜65℃の油脂を含有する油脂の製造〕
パーム油(よう素価52)と菜種油とを65:35(質量比)で混合した混合油に、アルカリゲネス エスピー由来のリパーゼ(名糖産業(株)製、リパーゼQL)を混合油に対して0.03質量%添加し、60℃で20時間ゆるやかに攪拌しながらエステル交換反応を行った。酵素除去後の該反応油に、脱酸、脱色、及び減圧脱臭の通常の精製処理を施して、エステル交換精製油を得た。
エステル交換精製油と菜種油の極度硬化油(全構成脂肪酸中のベヘン酸含量45質量%)を98:2(質量比)で混合し、実施例3の油脂を得た。
【0048】
実施例4
〔パーム系油脂と、液状油とのエステル交換により得られる油脂と、融点55〜65℃の油脂を含有する油脂の製造〕
パーム油(よう素価52)と菜種油とを65:35(質量比)で混合し、脱気乾燥後、混合油に対して0.1質量%のナトリウムメトキシドを添加し、100℃で15分エステル交換反応を行った。該反応油に、湯洗い、脱酸、脱色、及び減圧脱臭の通常の精製処理を施して、エステル交換精製油を得た。
エステル交換精製油と菜種油の極度硬化油(全構成脂肪酸中のベヘン酸含量45質量%)を98:2(質量比)で混合し、実施例4の油脂を得た。
【0049】
比較例1
〔比較例1の油脂の製造〕
パームステアリン(よう素価36)、及びパーム核オレイン(よう素価21)を65:35(質量比)で混合した混合油をムコール ミエハイ由来の固定化リパーゼ(ノボ社製リポザイムIM60)を充填したカラムに60℃、空間速度0.6で通液してエステル交換反応油を得た。該反応油に、脱酸、脱色、及び減圧脱臭の通常の精製処理を施して、比較例1の油脂を得た。
【0050】
比較例2
〔比較例2の油脂の製造〕
パーム油(よう素価52)と菜種油とを45:55(質量比)で混合した混合油に、アルカリゲネス エスピー由来のリパーゼ(名糖産業(株)製、リパーゼQL)を混合油に対して0.3質量%添加し、60℃で5時間ゆるやかに攪拌しながらエステル交換反応を行った。酵素除去後の該反応油に、脱酸、脱色、及び減圧脱臭の通常の精製処理を施して、エステル交換精製油を得た。
エステル交換精製油と菜種油の極度硬化油(全構成脂肪酸中のベヘン酸含量45質量%)を98:2(質量比)で混合し、比較例2の油脂を得た。
【0051】
〔SFC値の測定〕
実施例1〜4の油脂、比較例1、2の油脂、菜種硬化油(融点34℃)及び大豆硬化油(融点34℃)のSFC値を基準油脂分析法の「暫1−1996 固体脂含量 NMR法」に従って測定した。結果を表1及び表2に示す。
表1及び2から分かるように、実施例1〜4の油脂及び大豆硬化油(融点34℃)のSFC値は、10℃で17〜50%、かつ20℃で4〜30%、かつ30℃で3〜10%の範囲内であった。一方、表2から分かるように、比較例1、2の油脂及び菜種硬化油(融点34℃)のSFC値は、10℃で17〜50%、かつ20℃で4〜30%、かつ30℃で3〜10%の範囲には入らなかった。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
〔固液分離評価〕
実施例1〜4の油脂、比較例1、2の油脂、菜種硬化油(融点34℃)及び大豆硬化油(融点34℃)の各30質量部に対して、菜種油70質量部を混合し、該混合油を内径10mmの試験管に8g採り、60℃で1時間保温した後、25℃の恒温槽に入れて24時間静置し、固液分離の状態を目視にて確認した。更に、25℃の恒温槽で24時間静置した混合油を、1000Gで5分間遠心分離し、固液分離の状態を観察し、目視にて確認した。結果を表3及び表4に示した。
表3及び表4からも分かるように、実施例1〜4の油脂及び比較例1は、24時間静置後及び遠心分離後のいずれも固液分離は認められず、均一に結晶化していた。一方、表4からも分かるように、比較例2の油脂、菜種硬化油(融点34℃)及び大豆硬化油(融点34℃)は、固液分離していた。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
〔水中油型乳化物の評価方法〕
水中油型乳化物の乳化安定性、ホイップ時間、オーバーラン、造花性、耐熱保形性、食感を調べるために、以下に示す方法で評価を行った。
1)乳化安定性:
ホイップ前の水中油型乳化物を20℃で2時間インキュベートし、
その後、攪拌を加えた時のボテ発生までの時間を測定した。ボテ発生ま
での時間が長いほど、乳化安定性が高いことを示す。
2)ホイップ時間:
(1)実施例5、6及び比較例3の水中油型乳化物
5kgの水中油型乳化物に対して外比で8質量%のグラニュー糖
を添加し、20コートの縦型ホイップ機を用いて回転数700回転/分
で、ホイップした時の最適ホイップ状態になるまでの時間を測定した。
(2)実施例7〜10及び比較例4〜7の水中油型乳化物
900gの水中油型乳化物に対して外比で8質量%のグラニュー
糖を添加し、卓上ホバートミキサーを用いて回転数125回転/分で、
ホイップした時の最適ホイップ状態になるまでの時間を測定した。
最適ホイップ状態になるまでの時間が短い方が一般的に作業効率が良いこと
を示す。
3)オーバーラン:
以下に示す式から、ホイップクリームの増加体積の割合を算出した。オ
ーバーランの値が大きいほど、起泡性が良好であることを示す。
計算式 オーバーラン(%)
=[(定容積の水中油型乳化物質量−定容積の起泡後の
水中油型乳化物質量)/(定容積の起泡後の
水中油型乳化物質量)]×100
4)造花性:
起泡させたホイップクリームを絞り袋で造花した際の作業性を評価した。
以下に示した評価基準により、好ましい順に5点満点で評価した。
評価基準
5点・・・最も好ましい
4点・・・好ましい
3点・・・普通
2点・・・やや好ましくない
1点・・・好ましくない
5)耐熱保形性:
起泡させたホイップクリームを絞り袋で造花したものを、20℃の恒温
槽中で24時間放置し、ホイップクリームの離水の程度、保形状態を目
視にて評価した。
6)外観:
起泡させたホイップクリームのキメ(組織状態)、絞り目、ツヤ等の見
た目の好ましさを、10名のパネラーにより、総合して評価した。
以下に示した評価基準により、好ましい順に各人5点満点の合計50点
満点で評価した。
評価基準
5点・・・最も好ましい
4点・・・好ましい
3点・・・普通
2点・・・やや好ましくない
1点・・・好ましくない

7)食感:
起泡させたホイップクリームの口溶け、質感、舌触り、風味等の口に含
んだ時の物性の好ましさを、10名のパネラーにより、総合して評価し
た。
以下に示した評価基準により、好ましい順に各人5点満点の合計50点
満点で評価した。
評価基準
5点・・・最も好ましい
4点・・・好ましい
3点・・・普通
2点・・・やや好ましくない
1点・・・好ましくない
【0058】
実施例5〜10、比較例3〜7
〔水中油型乳化物の製造〕
表5〜7に示す配合の水中油型乳化物を、以下の方法で製造した。
表5〜7の配合比に従って予め油脂を混合し、この混合油にレシチン及びステアリン酸モノグリセリドを加えて溶解し、70℃に保温することで、油相を得た。また、水を量りとり、73℃の温水恒温槽中で攪拌しながら、脱脂粉乳、シュガーエステル(HLB11)及びメタリン酸ナトリウムを投入し、68℃まで加温することで、水相を得た。次に、温度が68℃に達するとともに油相を水相に投入し、ホモミキサーで15分間予備乳化した後、50kg/cmの圧力でホモジナイザーに通し、均質化処理した。さらに、均質化処理後、UHT滅菌処理を行い、再度20kg/cmの圧力で均質化処理をした。最後に、均質化処理後の乳化物を10℃まで冷却した後、5℃の冷蔵庫に入れて24時間エージングを行い、水中油型乳化物を得た。
なお、実施例7〜10及び比較例4〜7の水中油型乳化物は、均質化処理後、UHT滅菌処理の代わりに、ウオーターバスで85℃殺菌を行った。
【0059】
【表5】








【0060】
【表6】








【0061】
【表7】








【0062】
実施例5〜10、比較例3〜7
〔水中油型乳化物の評価結果〕
実施例5〜10及び比較例3〜7の水中油型乳化物の乳化安定性と水中油型乳化物を起泡させたホイップクリームのホイップ時間、オーバーラン、造花性、耐熱保形性、食感を上記評価方法により評価した。評価結果を表8〜10に示す。
実施例5、6の水中油型乳化物及び水中油型乳化物を起泡させたホイップクリームは、一般的な菜種硬化油、ヤシ硬化油の配合である比較例3と比べ、ほとんどの評価項目でトータル的に優れたものであった。
実施例7〜10の水中油型乳化物を起泡させたホイップクリームは低油分(33%)で、オーバーラン値が170以上と高いにもかかわらず、一般的な大豆硬化油、ヤシ硬化油の配合である比較例4と比較してコシのある質感に優れたクリームであり口溶けと相乗して食感が良い評価であった。
本発明のSFCの範囲を越える比較例1の油脂を使用したホイップクリームは、大豆硬化油との配合では、クリームがややゆるく、メリハリに乏しい食感となり(比較例5)、また、ヤシ油との配合では、食感は改善されるが外観が少し荒れた感じとなり(比較例6)、実施例7〜10の水中油型乳化物を起泡させたホイップクリームと比較して、好ましくなかった。また、SFCが本発明のSFC範囲より低い比較例2の油脂を使用したクリームの場合、クリームの保形性を良好に維持できなかった(比較例7)。
また、酵素でエステル交換した実施例1〜3の油脂を使用した実施例7〜9の水中油型乳化物を起泡させたホイップクリームは、化学触媒でエステル交換した実施例4の油脂を使用した実施例10の水中油型乳化物を起泡させたホイップクリームと比較し、クリームの物理的性質は同等であるが、風味的に好まれるものであった。



【0063】
【表8】

【0064】
【表9】

【0065】
【表10】




【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水中油型乳化物用油脂は、乳化安定性が優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での食感、耐熱保形性、離水耐性が優れたホイップクリーム等用の水中油型乳化物用の油脂として使用できる。
また、本発明の水中油型乳化物用油脂を使用すれば、乳化安定性が優れ、かつ、ホイップした時の作業性、起泡性、外観、低油分での食感、耐熱保形性、離水耐性が優れたホイップクリーム等用の水中油型乳化物を製造することができる。






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
10℃におけるSFCが17〜50%、20℃におけるSFCが4〜30%、30℃におけるSFCが3〜10%の油脂であり、該油脂30質量部に対して、液状油70質量部を混合して得られる混合油を、60℃から25℃に静置しても、固液分離することなく、均一に結晶化することを特徴とする水中油型乳化物用油脂。
【請求項2】
パーム系油脂と、液状油及び/又はラウリン系油脂からなる油脂とを、質量比40:60〜80:20でエステル交換することにより得られることを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化物用油脂。
【請求項3】
パーム系油脂と、液状油及び/又はラウリン系油脂からなる油脂とを、質量比40:60〜80:20でエステル交換することにより得られる油脂を95〜99.5質量%、融点が55〜65℃の油脂を0.5〜5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化物用油脂。
【請求項4】
前記エステル交換が、酵素を用いることを特徴とする請求項2又は3に記載の水中油型乳化物用油脂。
【請求項5】
前記融点が55〜65℃の油脂が、全構成脂肪酸中のベヘン酸含量が20〜55質量%である菜種油の極度硬化油であることを特徴とする請求項3又は4に記載の水中油型乳化物用油脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水中油型乳化物用油脂を含有することを特徴とする水中油型乳化物。




【公開番号】特開2006−254805(P2006−254805A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77463(P2005−77463)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】