説明

水中油型乳化物

【課題】水中油型乳化物は、一般に温度変化に弱く、特に酸性下での耐熱性が低いため、果汁やフルーツ、或いは酸味料等の酸味成分を加え酸性下で用いると、分離したり凝固したりする問題があった。本発明は酸性下での耐熱性に優れ、果汁やフルーツ、或いは酸味料等の酸味成分等の酸性食品に添加した場合でも耐熱安定性に優れるとともに、泡立ちが低く、ゼリー、ムース等の食品中に添加した際に気泡によって食感を低下する等の虞のない水中油型乳化物を提供する。
【解決手段】本発明の水中油型乳化物は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする。本発明乳化物は、油脂が極度硬化油を含有する混合油脂であることが好ましく、またポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、グリセリン重合度4とグリセリン重合度6とを重量比で1:1〜30の割合で含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用の水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
水と油脂と蛋白質を含む水中油型乳化物(O/W型乳化物)は、そのままケーキ生地、ゼリー、ムース等に添加したり、或いは起泡させてホイップクリームとして製菓、製パン材料として使用されている。近年このようなO/W型乳化物に果汁やフルーツ、或いは酸味料等の酸味成分を加えて加工したゼリー、ムース等が多く流通するようになり、これらは常温でかつ、6〜12カ月といった長期間の消費期限が要求されている。この為、高温での殺菌が必要とされており耐熱性に優れ、特に高温においても耐酸性に優れたO/W型乳化物が求められている。しかしながら、従来の水中油型乳化物は酸性下や高温下、特に高温酸性下では、乳化物中の蛋白質の凝集による乳化破壊が起こる問題があり、耐酸及び耐熱性を有する乳化力の強い製品が求められている。一方、近年この種の水中油型乳化物として、フルーツと混合する場合はフルーツの色が映えるよう、又、視覚的な味覚向上のために、色の白いものが好まれている。
【0003】
耐酸、耐熱性を改善するためには、蛋白質として乳清蛋白を使用することが知られており、特許文献1には、乳清蛋白質とともに、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセライドから選ばれた少なくとも1種と、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれた少なくとも1種とを含有させたO/W型乳化物が、特許文献2には、乳清蛋白、脱脂乳固形を含有し、リン酸塩およびクエン酸塩の総重量が0.01重量未満である水中油型乳化物が記載されている。また特許文献3には、コーヒー抽出液、乳成分を含むコーヒー飲料に、ポリグリセリン脂肪酸エステルとイオタカラギーナンを添加することにより、pH5.0〜6.0程度の酸性下で加熱殺菌処理した場合の乳蛋白の変性や脂肪分の分離を防止する技術が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平2−48034号公報
【特許文献2】特開2000-262236号公報
【特許文献3】特開平3−266939号公報
【0005】
しかし、特許文献1、2に記載のO/W型乳化物のように、乳清蛋白やポリグリセリン脂肪酸エステルを用いると製造時や加工時においても泡立ちが多く、この泡がO/W型乳化物製造時の製造安定性や、乳化物をゼリー、ムース等の加工食品に加工する際には食感のなめらかさの低下、ひいては加工食品の品質低下をもたらす傾向があった。具体的には乳化物製造時の仕込みで溢れたりするために仕込み量の減量や、泡立ちを抑えるために攪拌スピードを下げざるを得なくなる事による攪拌時間の延長、ひいては製造時間の延長によるコストアップが挙げられる。又、O/W型乳化物の泡立ちに因る製造ラインにおける流量不安定化は、加圧、加熱、冷却といった工程の効率の不足を招き、ひいては目的とするO/W型乳化物の物性を不安定にさせる。具体的には加圧不足及び冷却不足による乳化サイズの粗大化、加熱不足は殺菌不良による衛生問題等が挙げられる。又、泡が多いと同じ充填量であっても加工食品の体積も増え、場合によっては溢れたりする等の問題が生じる。
更に特許文献3に記載のO/W型乳化物は、コーヒー飲料のようなpH5.0〜6.0程度の弱酸性における耐熱性を改良することを目的とするものであって、多くの蛋白の等電点であるPH5以下における耐酸性及び耐熱性を改善できるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、O/W型乳化物中に特定のポリグリセリン脂肪酸エステルと、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンとを含有することにより上記従来のO/W型乳化物の有する課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、
(1)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物、
(2)油脂が極度硬化油を含有する混合油脂である上記(1)の水中油型乳化物、
(3)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが、グリセリン重合度4とグリセリン重合度6とを重量比で1:1〜30の割合で含有する上記(1)又は(2)の水中油型乳化物、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水中油型乳化物は耐酸性、酸性下での耐熱性に優れ、pH3〜5付近の酸性条件下や、酸性下で加熱しても乳化状態が安定していて分離や凝固することがなく、白度も良好である。また加工時の泡立ちが少ないので加工耐性も良く、加工食品のライン生産に好適に用いる事が出来る。また製品加工時の泡立ちが抑制されるため、ゼリー等の加工食品の食感が向上し、滑らかになる。さらに、通常のホイップクリームに本発明の水中油型乳化物を添加してから、pH調製或いはフルーツ等の酸味を付与してホイップすることにより、pH3〜5位のフルーツ味等の酸味を有しながら、しまり(酸による乳蛋白の凝集)を抑制した柔らかなホイップクリームを作ることができる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水中油型乳化物に使用される油脂としては、例えばナタネ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ラード、バター等の動植物油脂や、これら動植物油脂の硬化油、分別油、エステル交換油等の加工油脂が挙げられる。これらは単独或いは2種以上を混合して用いることができる。特に、融点25〜45℃、沃素価80以下、更には10℃におけるSFC90以上を油脂中に3%以下の範囲で含まれていると良い。
【0010】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、グリセリンの重合度が2〜12のポリグリセリンと、リシノレイン酸を3〜6分子縮合させたものをエステル化して得ることが出来る。市販品としては、サンソフト818H、818DG、818SX(太陽化学)、SYグリスターCR310、CR500、CRED(阪本薬品)が挙げられ、単独で用いることもできるが、特にグリセリン重合度が4と6のものを含有することが好ましく、グリセリン重合度4とグリセリン重合度6との割合が、重量比で1:1〜30であると乳化安定性と耐酸性が向上するので好ましい。
【0011】
ショ糖脂肪酸エステルはショ糖と脂肪酸のエステルで、ショ糖が8個の水酸基を持つので、8個の脂肪酸とエステル化する事が出来る。特にモノエステル1%以下のショ糖脂肪酸エステルを0.1〜1.5重量%とモノエステル50%以上のショ糖脂肪酸エステルを0.1〜3.0重量%含有することが好ましく、油球の内面及び界面双方からの安定性が向上して、油球の合一や、クリ-ミング(油球の浮上)抑制効果が得られ、乳化性が良い水中油型乳化物となる。脂肪酸としてはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、べヘン酸等が挙げられる。
【0012】
カラギーナンとしては、原藻から熱水抽出して得た水溶液に塩化カリウムを加えて分画されたκ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン等が挙げられるが、中でも硫酸基が17〜23が好ましく、特にι-カラギーナンが本発明のO/W型乳化物製造時の乳化安定性及び酸性下における乳化安定性が良好となるため好ましい。
【0013】
本発明のO/W型乳化物は、上記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、カラギーナンを、乳化物中にそれぞれ0.01〜3重量%、0.1〜3重量%、0.01〜1重量%含有していることが好ましい。また、O/W型乳化物における油脂と水との割合は20〜50:80〜50が好ましい。上記好ましい量を下回ると本発明の所期の効果が得にくく、又、上回ると転相を生じたり、凝集が強まって逆に乳化が不安定となる虞がある。
【0014】
本発明のO/W型乳化物は、油脂が極度硬化油を含有する混合油脂であると、乳化安定や製品白度が向上して好ましい。極度硬化油としては菜種、パーム、パーム核、牛脂由来等、もしくはそれらのエステル交換油が挙げられるが、特に融点が40〜50℃のものが口溶けが良く好ましい。極度硬化油は全油脂中の3重量%以下で用いると好ましい。
【0015】
本発明の水中油型乳化に使用する水としては、例えば水道水、活性炭処理水、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。
【0016】
本発明の水中油型乳化物には、必要に応じて全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー、脱塩ホエーパウダー、バターミルクパウダー等の乳蛋白を始め、大豆蛋白等、その他の食品蛋白等も添加することが出来る。これらは単独又は2種以上を混合して用いることが出来る。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。尚、実施例、比較例中の%は重量%を意味する。
【0018】
実施例1〜5、比較例1〜3
表1に示す配合組成に従って、下記(1)〜(7)の手順にて水中油型乳化物を調整した。
(1)水相に油相を混合
(2)60〜70℃で10〜20分間にて予備乳化
(3)粒径を5μm以下に均質化
(4)145±5℃、4〜6秒間殺菌
(5)粒径を2μm以下に均質化
(6)プレートクーラーにて10℃以下に冷却
(7)5℃まで24時間以上エージング
【0019】
【表1】

【0020】
※1:太陽化学(サンラクトN12)
※2:阪本薬品工業(CR310) グリセリン重合度4
※3:阪本薬品工業(CR500) グリセリン重合度6
※4:阪本薬品工業(MSW750)
※5:三菱化学フーズ(S270)
※6:三菱化学フーズ(S1670)
※7:三栄源エフ・エフ・アイ(CSI−1)
【0021】
上記のようにして調整した水中油型乳化物について、下記評価を行った結果を表2に示す。
【0022】
1.泡立ちテスト
直径22cmの円筒型容器に水中油型乳化物2kgを入れ、液面より10cmの高さから毎分10Lの流量で落下、循環させて発生した泡の高さを測定した。
【0023】
2.耐酸耐熱テスト
1Lのトールビーカーに水中油型乳化物を20%に精製水にて希釈してクエン酸、クエン酸3NaにてpH3及び4に調整、85℃にて30分加熱後、分離状態を確認し、以下の基準で評価した。
分離状態の評価基準
◎:分離無し。
○:分離が10mm未満。
△:分離が10〜50mm。
×:分離が50mmを超える。
【0024】
3.ゼリーテスト
水中油型乳化物15重量部に、液糖20重量部、グラニュー糖5重量部、クエン酸0.3重量部、クエン酸三ナトリウム0.1重量部、水59.6重量部を配合し、85℃で30分殺菌を行った後、冷却してゼリーを作成し、食感及び白度の評価を行った。ゼリーの食感は以下の基準で10人のパネラーが評価し、白度は日本電色工業株式会社製白度計(VGS−1001DP)にて測定した。
ゼリーの食感評価基準
◎:10人中、8人以上が滑らかであると評価した。
○:10人中、5人〜7人が滑らかであると評価した。
△:10人中、3人〜4人が滑らかであると評価した。
×:10人中、8人以上がざらつきがあると評価した。
【0025】
4.酸性ホイップクリームテスト
通常のホイップクリームと、上記水中油型乳化物とを重量比で通常のホイップクリーム:水中油型乳化物=8:2で配合し、50%クエン酸溶液でpH4に調整後、下記のホイップ条件でホイップして得た酸性ホイップクリームを、下記方法で評価した。尚、通常のホイップクリームとしては、ミヨシ油脂株式会社製のホイップドール200(商品名:油分45%、乳脂10%、水分50%)を用いた。
ホイップ条件:
ホバートミキサー使用
サンプル量1kg
グラニュー糖外掛け10%。
評価方法:
ホイップクリームを酸性にした時のしまりをレオメーター(山電製:荷重300g、20mm球プランジャー、針入距離20mm)にて測定後、10人のパネラーにより官能評価(食感、口溶け)を行い、以下のように評価した。
酸性ホイップクリームの官能評価:
◎:10人中、8人以上が口溶け良好且つ、滑らかであると評価した。
○:10人中、5人〜7人が口溶け良好且つ、滑らかであると評価した。
△:10人中、3人〜4人が口溶け良好且つ、滑らかであると評価した。
×:10人中、8人以上が口溶け悪く、ざらつきがあると評価した。
【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物。
【請求項2】
油脂が極度硬化油を含有する混合油脂である請求項1記載の水中油型乳化物。
【請求項3】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが、グリセリン重合度4とグリセリン重合度6とを重量比で1:1〜30の割合で含有する請求項1又は2記載の水中油型乳化物。

【公開番号】特開2008−154469(P2008−154469A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344115(P2006−344115)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】