説明

水中油型乳化物

【課題】レトルト処理等の加圧加熱処理後でも乳化安定性に優れ、舌触りと乳風味の良好な加工食品を得ることができる、乳風味を付与するために使用される水中油型乳化物を得ること。
【解決手段】乳蛋白質を0.1〜5質量%、乳脂を5〜50質量%含有する水中油型乳化物であって、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油由来の油脂を乳脂100質量部に対し20〜400質量部含有し、かつラウリン系油脂を油相中に20〜45質量%含有することを特徴とする水中油型乳化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品に乳風味を付与するために使用される水中油型乳化物に関し、詳しくは、レトルト処理等の加圧加熱処理後でも乳化安定性に優れ、舌触りと乳風味の良好な加工食品を得ることができる、水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳風味はさまざまな食品素材や飲料の風味と相性が良く、全体にコクやまろやかさを持たせる効果もあるため、乳や乳製品は幅広く加工食品に利用されている。乳に含まれる成分としては乳蛋白質や乳糖等の無脂乳固形分、乳脂、水分が挙げられるが、良好な乳風味を得るためには特に乳蛋白質と乳脂が必要であるとされている。加工食品に乳風味を付与する際には、生乳や牛乳を添加する方法、バター、クリーム等の乳脂主体の乳製品を添加する方法、脱脂粉乳、乳蛋白質等の乳蛋白質主体の乳製品を添加する方法、あるいはこれらを組み合わせる方法等が行われている。そして加工食品の製造過程での安定性の点で、これらの乳製品は水中油型乳化物で使用されることが一般的である。
【0003】
しかし、乳脂を含有する水中油型乳化物は一般に乳化安定性が悪いため、特に油分含量が高い場合や冷蔵条件下での保管の場合、油脂の分離や凝集が生じ、また舌触りの悪いものとなりやすいという問題がある。
また、乳蛋白質はある程度の乳化性を示すため、乳脂含有水中油型乳化物に乳蛋白質を使用することで、上記問題をある程度解決することができる。
しかし、該水中油型乳化物を100℃を超えるような高温での殺菌工程を通した場合や、とくに、該水中油型乳化物を使用した加工食品がレトルト処理等の加圧加熱処理を行う場合、とりわけ加工食品が水中油型乳化物である場合に顕著であるが、油分含量や保管温度にかかわらず、油脂の分離や凝集、あるいは乳蛋白質の熱変性が生じ、舌触りの悪いものとなりやすいという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するための方法として、水中油型乳化物に特定の乳化剤を使用する方法(例えば特許文献1)、乳蛋白質を特定比で使用する方法(例えば特許文献2)、特定の乳蛋白質や水溶性乳成分と糖アルコールを併用する方法(例えば特許文献3)が開示されている。しかし、特許文献1の方法では、水中油型乳化物や該水中油型乳化物を使用した加工食品に乳のコク味が不足する問題に加え、乳化剤により乳風味が阻害される問題があり、特許文献2や特許文献3に記載の方法では、水中油型乳化物を使用した加工食品を加圧加熱処理した場合に油分分離やざらが発生し舌触りの悪いものになりやすいという問題があり、とくに特許文献3に記載の方法では、得られる加工食品の色調が淡化し、美味しそうにみえなくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−341933号公報
【特許文献2】特開2009−278896号公報
【特許文献3】特開2000−139343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって本発明の目的は、加工食品に乳風味を付与するために使用される乳脂と乳蛋白質を含有する水中油型乳化物であって、レトルト処理等の加圧加熱処理後でも乳化安定性に優れ、舌触りと乳風味の良好な加工食品を得ることができる、水中油型乳化物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決すべく種々検討した結果、乳蛋白質や乳脂を含有していても、パーム油の特定の分別油に由来する油脂とラウリン系油脂を一定の割合で併用した水中油型乳化物は上記課題を解決できることを見出した。本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は乳蛋白質を0.1〜5質量%、乳脂を5〜50質量%含有する水中油型乳化物であって、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油由来の油脂を乳脂100質量部に対し20〜400質量部含有し、かつラウリン系油脂を油相中に20〜45質量%含有することを特徴とする水中油型乳化物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水中油型乳化物を使用した加工食品は、レトルト処理等の加圧加熱処理を行った場合でも乳化安定性に優れ、舌触りと乳風味の良好な加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明の水中油型乳化物について、好ましい実施形態に基づき、詳細に説明する。
まず、本発明で使用する油脂について説明する。
本発明の水中油型乳化物では、乳脂を水中油型乳化物基準で5〜50質量%含有する。その含有量は好ましくは7〜40質量%、さらに好ましくは8〜30質量%である。乳脂が5質量%未満であると乳風味の乏しいものとなってしまい、50質量%を超えると水中油型乳化物の油分含量が高い場合や冷蔵条件下での保管の場合に乳化安定性が悪化し、さらには、水中油型乳化物を使用した加工食品がレトルト処理等の加圧加熱処理を行う場合、加圧加熱処理後の乳化安定性が悪くなる。
【0010】
上記の乳脂としては、乳脂そのもののほか、乳脂を含有する調製脂、生乳、生乳から脱脂粉乳を除いて得られるクリーム、無塩バター、加塩バター及び発酵バター等の乳脂含有油脂が挙げられる。これらは1種で又は2種以上を混合して使用することができ、また一般に市販されているものを使用することができる。なお、後述のエステル交換油脂の原料として乳脂を使用した場合は、上記乳脂含有量に算入しないものとする。
【0011】
本発明ではヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油由来の油脂を乳脂100質量部に対し20〜400質量部含有し、好ましくは30〜300質量部、さらに好ましくは40〜250質量部となるように含有する。20質量部未満であると本発明の効果が得られず、水中油型乳化物を使用した加工食品がレトルト処理等の加圧加熱処理を行う場合、加圧加熱処理後の乳化安定性が劣ったものとなり、舌触りも損ないやすく、400質量部を超えると乳風味の劣ったものとなってしまう。
【0012】
本発明でいうパーム分別軟部油由来の油脂とは、パーム分別軟部油のほか、さらに分別、硬化して得られる油脂や、該パーム分別軟部油を70質量%以上含有する油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂も含むものとし、そのヨウ素価は52〜70のものである。本発明では、上記パーム分別軟部油由来の油脂のうち1種又は2種以上を組み合わせることができるが、パーム分別軟部油を70質量%以上含有する油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を使用することが、より水中油型乳化物の乳化安定性を高めることができる点で好ましい。
【0013】
上記パーム分別軟部油は、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法によって、パーム油を分別した際に得られる低融点部である。上記パーム分別軟部油としては、ヨウ素価が52〜70のパームオレインであることが、高温処理した際の乳化安定性をより高めるために必要であり、ヨウ素価60〜70のパームスーパーオレインを使用することがさらに好ましい。
【0014】
上記エステル交換反応は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよいが、ランダムエステル交換反応であることが好ましい。
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes) 属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus) 属、ムコール(Mucor) 属、ペニシリウム(Penicillium) 属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂あるいはケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0015】
さらに、本発明の水中油型乳化物は、ラウリン系油脂を油相基準で20〜45質量%含有する。ラウリン系油脂とは、油脂を構成する脂肪酸のうちラウリン酸含有率が40質量%を超えるような油脂の総称である。具体的なラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、これらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。ラウリン系油脂が油相基準で20質量%よりも少ないと水中油型乳化物を使用した加工食品が良好な舌触りとならず、また45質量%を超えると、得られる水中油型乳化物の油分含量が高い場合や冷蔵条件下での保管の場合に乳化安定性が悪化し、さらには、水中油型乳化物を使用した加工食品がレトルト処理等の加圧加熱処理を行う場合、加圧加熱処理後の乳化安定性が悪くなる。
【0016】
本発明において使用することのできるその他の油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、サル脂、牛脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、更に、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる(ただし、パーム分別軟部油を除く)。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
また、本発明の水中油型乳化物は、トランス酸を実質的に含有しないことが好ましい。ここでいう「トランス酸を実質的に含有しない」とは、トランス酸含量が、本発明の水中油型乳化物に含まれている油脂の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2.5質量%未満であることを意味する。
【0018】
水素添加は油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない水中油型乳化物、即ち実質的にトランス酸を含まない水中油型乳化物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。
【0019】
本発明では、水中油型乳化物に使用する油脂として、それぞれ実質的にトランス酸を含有しない油脂を使用することで、水素添加油脂を使用せずとも良好なコンシステンシーを有し、トランス酸を実質的に含有しない水中油型乳化物を簡単に得ることができる。
【0020】
本発明の水中油型乳化物における上記油脂を含めた油分の含有量は、好ましくは15〜80質量%、さらに好ましくは20〜48質量%、もっとも好ましくは20〜45質量%である。該油脂の含有量が15質量%未満ではコクのない乳風味の乏しいものとなりやすく、また、80質量%超では、水中油型乳化物を使用した加工食品の油性感が強くなり、やはり乳風味を損ないやすい等の問題が生じる。
なお、本発明の水中油型乳化物に、油脂を含有する副原料を使用した場合は、上記油脂の含有量には、それらの副原料に含まれる油脂分も含めるものとする。
【0021】
次に、本発明で含有する乳蛋白質について述べる。
本発明の水中油型乳化物は乳蛋白質を0.1〜5質量%含有するものであり、好ましくは0.3〜4.0質量%、さらに好ましくは0.5〜3.5質量%である。乳蛋白質の含有量が0.1質量%未満では良好な乳風味が得られず、また5質量%を超えると経時的に蛋白質の凝集が起こりやすくなる。
【0022】
上記乳蛋白質としては、ホエイ蛋白質、カゼイン蛋白質等が挙げられ、ホエイ蛋白質のみ、カゼイン蛋白質のみ、カゼイン蛋白質とホエイ蛋白質との併用のいずれでもよいが、ホエイ蛋白質とカゼイン蛋白質とを併用するのが好ましい。
【0023】
上記カゼイン蛋白質としては、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼインの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材であるアルカリカゼイン(カゼイネート)、酸カゼイン等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
上記ホエイ蛋白質としては、ラクトアルブミン、βラクトグロブリン、血清アルブミン、免疫グロブリン、プロテオースペプトンの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材として、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
上記カゼイン蛋白質及び上記ホエイ蛋白質の両方を含有する食品素材として、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂れん乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、サワークリ―ム、醗酵乳等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
本発明の水中油型乳化物では必要に応じて、その他の成分を含有させることができる。
上記その他の成分としては、乳化剤、安定剤、糖類、乳清ミネラル、穀類、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、食塩、岩塩、海塩、卵製品、果汁、ジャム、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品等の呈味成分、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、グリシン、しらこたん白抽出物、ポリリジン、エタノール等の保存料、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、酸化防止剤、pH調整剤、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、卵蛋白質、小麦蛋白質、その他動物性及び植物性蛋白質等が挙げられる。
【0027】
上記乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられる。これらの乳化剤は単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明の水中油型乳化物において上記乳化剤の含有量は、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、最も好ましくは0.6質量%以下である。
【0028】
上記安定剤としては、リン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、有機酸塩類(クエン酸塩、酒石酸塩等)、無機塩類(炭酸塩等)、グァーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、澱粉、化工澱粉、結晶セルロース、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン等の安定剤が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。但し、カルシウム封鎖剤は用いないほうが好ましい。尚、ここでいうカルシウム封鎖剤としては、例えば、リン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、有機酸塩類(クエン酸塩、酒石酸塩等)、無機塩類(炭酸塩等)等が挙げられる。
本発明の水中油型乳化物において上記安定剤の含有量は、好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、最も好ましくは0.05質量%以下である。
【0029】
上記糖類としては、特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム等の糖類が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0030】
次に、本発明の水中油型乳化物の製造方法を説明する。
本発明の水中油型乳化物は、油脂及び油性成分を混合した油性相と、水及び水性成分を混合した水性相を乳化することにより得ることができる。
【0031】
具体的には、まず水性相及び油性相を用意する。次に上記の水性相及び/又は油性相に乳蛋白質、乳脂を含有する成分を添加、混合する。
次いで、上記水性相と上記油性相とを水中油型に乳化する。
さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置により圧力0〜100MPaの範囲で均質化してもよい。
そして、必要によりインジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式などの間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理を施してもよく、あるいは直火などの加熱調理により加熱してもよい。
【0032】
さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置により圧力0〜100MPaの範囲でさらに均質化してもよい。そして、必要により急速冷却、徐冷却などの冷却操作を施してもよい。
また、本発明の水中油型乳化物は、必要により、冷蔵若しくは冷凍状態で保存してもよい。
【0033】
このようにして得られた本発明の水中油型乳化物は、生クリームやホイップクリーム同様、ホイップしたクリーム、洋菓子用素材、コーヒーホワイトナー、アイスクリーム、及びパン練り込み等の用途にも好適に用いることができるが、本発明の水中油型乳化物は、高温加熱においても安定性が良好であることから、特にレトルト殺菌が必要な食品用として好適に用いることができる。
【0034】
レトルト殺菌とは、加圧条件下、100〜150℃で1〜90分間程度加熱殺菌する方法であり、アルミパウチ、テーブルカップ、透明パウチ、缶、チアパック等の密封容器に封入して行われる。
【0035】
次に本発明の加工食品について述べる。
本発明の加工食品は、上記本発明の水中油型乳化物を使用した食品であり、上記のように、好ましくはレトルト殺菌等の加圧加熱処理を行う加工食品である。
具体的には例えばカレー、シチュー、パスタソース等のソース類、ソーセージ、野菜加工品等の加工調理食品コーヒー、スープ、乳飲料等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
<エステル交換油脂(I)の製造>
ヨウ素価65のパーム分別軟部油にナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、0.93×kPa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、0.4×kPa以下の減圧下)を行ない、パーム分別軟部油のランダムエステル交換油脂であるエステル交換油脂Iを得た。
【0037】
[実施例1]
バター由来の乳脂20質量部、上記エステル交換油脂(I)4.6質量部、パーム核硬部油10.5質量部、キサンタンガム0.01質量部、グァーガム0.03質量部、脱脂粉乳6質量部、トータルミルクプロテイン(TMP)1質量部、モノグリセリド0.04質量部、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル0.1質量部、レシチン0.15質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.15質量部を混合し、油相とした。一方、水57.32質量部とショ糖脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、水相とした。
【0038】
上記水相と上記油相を混合・乳化し、予備乳化物を調製した。予備乳化後30MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度30MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、本発明の水中油型乳化物Aを得た。水中油型乳化物中の乳タンパク質は3.0質量%、油相中のトランス型脂肪酸の含有量は2.57質量%であった。
【0039】
次に、コーヒー抽出液(Bx値:2.5)70質量部に、重曹を適量添加しpHを6.6に調整した。続いてシュガーエステル(HLB値16)0.05質量部、カゼインナトリウム0.1質量部、上記水中油型乳化物A4質量部を混合・溶解し、さらに水を加え全量が100質量部になるように調製した。次に65℃で均質化した後、スチール缶(容量200ml)に190g入れ、121℃で20分間のレトルト殺菌処理を行い、本発明のレトルト食品であるコーヒー飲料を得た。室温(25℃)に戻した後、乳化安定性及び舌触りと乳風味について下記評価基準で評価を行った。さらに、55℃保持2週間後における乳化安定性及び舌触りと乳風味について同様に評価した。結果を[表1]に示す。
【0040】
[実施例2]
バター由来の乳脂10質量部、上記エステル交換油脂(I)16.2質量部、パーム核硬部油8.7質量部、キサンタンガム0.01質量部、グァーガム0.03質量部、脱脂粉乳6質量部、トータルミルクプロテイン(TMP)1質量部、モノグリセリド0.04質量部、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル0.1質量部、レシチン0.15質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.15質量部を混合し、油相とした。一方、水56.82質量部とショ糖脂肪酸エステル0.1質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38重量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8重量%)0.7質量部を混合し、水相とした。
【0041】
上記の油相と水相を用いたほかは実施例1と同様の製法にて本発明に係る水中油型乳化物Bを得た。水中油型乳化物中の乳タンパク質は3.0質量%、油相中のトランス型脂肪酸の含有量は1.29質量%であった。
続いて、水中油型乳化物Aに代えて水中油型乳化物Bを使用した以外は実施例1と同様にして本発明のレトルト食品であるコーヒー飲料を得た。室温(25℃)に戻した後、乳化安定性及び舌触りと乳風味について下記評価基準で評価を行った。さらに、55℃保持2週間後における乳化安定性及び舌触りと乳風味について同様に評価した。結果を[表1]に示す。
【0042】
[実施例3]
バター由来の乳脂16質量部、上記エステル交換油脂(I)6.4質量部、パーム核硬部油9.8質量部、大豆油を2.8質量部、キサンタンガム0.01質量部、グァーガム0.03質量部、脱脂粉乳6質量部、トータルミルクプロテイン(TMP)1質量部、モノグリセリド0.04質量部、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル0.1質量部、レシチン0.15質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.15重量部を混合し、油相とした。一方、水57.42質量部とショ糖脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、水相とした。
【0043】
上記の油相と水相を用いたほかは実施例1と同様の製法にて本発明に係る水中油型乳化物Cを得た。水中油型乳化物中の乳タンパク質は3.0質量%、油相中のトランス型脂肪酸の含有量は2.38質量%であった。
続いて、水中油型乳化物Aに代えて水中油型乳化物Cを使用した以外は実施例1と同様にして本発明のレトルト食品であるコーヒー飲料を得た。室温(25℃)に戻した後、乳化安定性及び舌触りと乳風味について下記評価基準で評価を行った。さらに、55℃保持2週間後における乳化安定性及び舌触りと乳風味について同様に評価した。結果を[表1]に示す。
【0044】
[実施例4]
バター由来の乳脂12.5質量部、上記エステル交換油脂(I)6.4質量部、パーム核油5.3質量部、ヤシ油8.1質量部、大豆油を2.8質量部、キサンタンガム0.01質量部、グァーガム0.03質量部、脱脂粉乳6質量部、トータルミルクプロテイン(TMP)1質量部、モノグリセリド0.04質量部、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル0.1質量部、レシチン0.15質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.15重量部を混合し、油相とした。一方、水57.42質量部とショ糖脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、水相とした。
【0045】
上記の油相と水相を用いたほかは実施例1と同様の製法にて本発明に係る水中油型乳化物Dを得た。水中油型乳化物中の乳タンパク質は3.0質量%、油相中のトランス型脂肪酸の含有量は1.92質量%であった。
続いて、水中油型乳化物Aに代えて水中油型乳化物Dを使用した以外は実施例1と同様にして本発明のレトルト食品であるコーヒー飲料を得た。室温(25℃)に戻した後、乳化安定性及び舌触りと乳風味について下記評価基準で評価を行った。さらに、55℃保持2週間後における乳化安定性及び舌触りと乳風味について同様に評価した。結果を[表1]に示す。
【0046】
[比較例]
バター由来の乳脂10.0質量部、パーム分別中部油24.9質量部、キサンタンガム0.01質量部、グァーガム0.03質量部、脱脂粉乳6質量部、トータルミルクプロテイン(TMP)1質量部、モノグリセリド0.04質量部、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル0.1質量部、レシチン0.15質量部、及びソルビタン脂肪酸エステル0.15重量部を混合し、油相とした。一方、水57.52質量部とショ糖脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、水相とした。
【0047】
上記の油相と水相を用いたほかは実施例1と同様の製法にて比較例に係る水中油型乳化物Eを得た。水中油型乳化物中の乳タンパク質は3.0質量%、油相中のトランス型脂肪酸の含有量は1.29質量%であった。
続いて、水中油型乳化物Aに代えて水中油型乳化物Eを使用した以外は実施例1と同様にしてコーヒー飲料を得た。室温(25℃)に戻した後、乳化安定性及び舌触りと乳風味について下記評価基準で評価を行った。さらに、55℃保持2週間後における乳化安定性及び舌触りと乳風味について同様に評価した。結果を[表1]に示す。
【0048】
<レトルト耐性試験 評価基準>
・乳化安定性
◎ 乳化が非常に良好で、凝集物も見られない
○ 乳化が良好で、凝集物もほぼ見られない
△ 一部油脂の分離があり、凝集物も認められる
× 油脂の分離があり、多量の凝集物が生じている
【0049】
・舌触り
○ 滑らかで良好
× ざらつきが認められる
【0050】
・乳風味
◎ 非常に乳風味が良い
○ 乳風味が良い
△ 乳風味が悪い
× 非常に乳風味が悪い
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳蛋白質を0.1〜5質量%、乳脂を5〜50質量%含有する水中油型乳化物であって、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油由来の油脂を乳脂100質量部に対し20〜400質量部含有し、かつラウリン系油脂を油相中に20〜45質量%含有することを特徴とする水中油型乳化物。
【請求項2】
上記パーム分別軟部油由来の油脂が、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含有する油脂配合物をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂である、請求項1記載の水中油型乳化物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水中油型乳化物を使用した加工食品。
【請求項4】
請求項3記載の加工食品がレトルト食品である食品。

【公開番号】特開2012−231756(P2012−231756A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103606(P2011−103606)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】