説明

水中油型乳化組成物

【課題】連続相が水相である水中油型乳化組成物は、べたつき感が少なく使用感が良好であるため、医薬品・医薬部外品・化粧品分野等においてクリーム、ローション剤等の剤形の外用剤として広く利用されているが、連続相が水相で粘性が低いため乳化が不安定化しやすく、経時的に油相と水相の分離が生じ易いため、水中油型乳化組成物の乳化を安定化させるための新たな技術の提供。
【解決手段】従来より錠剤等の固形製剤においてその崩壊性を高めるために使用されている超崩壊剤クロスポビドン(1‐ビニル‐2‐ピロリドンの架橋重合物)を含有する水中油型乳化組成物、該クロスポビドンを含有する水中油型乳化組成物の乳化安定化剤、及び該クロスポビドンを水中油型乳化組成物に含有せしめる工程を含む、水中油型乳化組成物の乳化安定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離の抑制された水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
連続相が水相である水中油型乳化組成物は、油性成分を主体とする油脂性軟膏や連続相が油相である油中水型乳化組成物と異なりべたつき感が少なく使用感が良好であるため、例えば医薬品・医薬部外品・化粧品分野等においてクリーム、ローション剤等の剤形の外用剤として広く利用されている。しかしながら、連続相が水相で粘性が低いため乳化が不安定化しやすく、経時的に油相と水相の分離が生じ易い。そのため、増粘剤を配合することで連続相である水相の粘性を向上させることにより、乳化を安定化させることが一般的になされている。しかしながら、粘性の過度の向上はべたつき感等の原因となり、水中油型乳化組成物の利点の一つである良好な使用感を損なうことになりかねない。そのため、水中油型乳化組成物の乳化を安定化させる新たな技術の提供が望まれている状況にある。
【0003】
ところで、クロスポビドン、カルメロース、クロスカルメロース、カルボキシメチルスターチ等を初めとする超崩壊剤(super disintegrant)は、優れた膨潤性を有し、錠剤等の固形製剤の崩壊性を高めるために使用されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、これらの超崩壊剤が、非固形製剤である水中油型乳化組成物の乳化に対してどのような作用をするかについては、これまでに全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−505074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水中油型乳化組成物の乳化を安定化させる新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み鋭意研究した結果、驚くべきことに、従来より錠剤等の固形製剤においてその崩壊性を高めるために使用されてきた超崩壊剤が、非固形製剤である水中油型乳化組成物の乳化を安定化して経時的な分離、特に高温環境下における分離を抑制する作用を有し、これを用いれば外観安定性が良好な水中油型乳化組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、超崩壊剤、より好適にはクロスポビドン、カルメロース、クロスカルメロース、カルボキシメチルスターチ及びそれらの塩よりなる群から選択される1種以上の超崩壊剤を含有する水中油型乳化組成物を提供するものである。
また、本発明は、超崩壊剤、より好適にはクロスポビドン、カルメロース、クロスカルメロース、カルボキシメチルスターチ及びそれらの塩よりなる群から選択される1種以上の超崩壊剤を含有する、水中油型乳化組成物の乳化安定化剤を提供するものである。
さらに、本発明は、超崩壊剤、より好適にはクロスポビドン、カルメロース、クロスカルメロース、カルボキシメチルスターチ及びそれらの塩よりなる群から選択される1種以上の超崩壊剤を水中油型乳化組成物に含有せしめる工程を含む、水中油型乳化組成物の乳化安定化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、経時的な分離、特に高温環境下における分離が生じにくく、外観安定性が良好な水中油型乳化組成物を提供することができる。また、本発明によれば、過度に粘性を向上させなくとも経時的な分離を抑制することができるので、本発明の水中油型乳化組成物を外用剤として使用した場合、べたつき感が少なく使用感が良好である。
また、本発明の乳化安定化剤及び乳化安定化方法を用いれば、水中油型乳化組成物の乳化を安定化し、経時的な分離、特に高温環境下における分離が生じにくい、外観安定性が良好な水中油型乳化組成物を得ることができる。また、本発明によれば、過度に粘性を向上させなくとも乳化を安定化し、経時的な分離を抑制することができるので、本発明の乳化安定化剤及び乳化安定化方法を用いて得られる水中油型乳化組成物を外用剤として使用した場合、べたつき感が少なく使用感が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「超崩壊剤」は、水中で膨潤する崩壊剤であり、錠剤等の固形製剤の崩壊性を高めるために使用されている。なお、本発明は当該推察に何ら拘泥されるものではないが、超崩壊剤はいずれも高い膨潤性を有することから、水中油型乳化組成物に配合した際に水相の水を吸収して大きく膨潤し、膨潤した超崩壊剤が水相にて橋かけ構造ないしは類似の高次構造を形成し、その間隙に油相(油滴)が分散されることで、分離が抑制されるのではないかと推察される。上記のとおり、超崩壊剤はこれまでその高い膨潤性で固形製剤を内部から破裂せしめ崩壊性を高めるために使用され、いわば固形製剤の形態・形状を不安定化させるために使用されてきた成分であり、係る成分が非固形製剤である水中油型乳化組成物において乳化の安定化に寄与するとは、全く予測し得ないものである。
【0010】
本発明においては、超崩壊剤として固形製剤の崩壊性の向上に使用される、水中での膨潤性を有する成分であれば特に限定されず用いることができ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができるが、分離抑制効果の観点から、水中で膨潤して容量が乾燥時の約2倍もしくはそれ以上、より好ましくは約20倍もしくはそれ以上増加する超崩壊剤が好ましい。
本発明に用いられる超崩壊剤の具体例としては、カルメロース又はその塩、クロスカルメロース又はその塩等のセルロースエーテル系超崩壊剤;クロスポビドン、カルボキシメチルスターチ又はその塩等の非セルロースエーテル系超崩壊剤が挙げられ、分離抑制効果の観点から、クロスポビドン、カルメロース、クロスカルメロース、カルボキシメチルスターチ及びそれらの塩よりなる群から選択される1種以上の超崩壊剤が好ましい。
【0011】
本発明に用いられる超崩壊剤としては、市販品を用いることができる。また、本発明の水中油型乳化組成物における超崩壊剤の含有量は特に制限されず、使用する超崩壊剤の種類に応じて分離抑制効果の観点から適宜決定し得るが、分離抑制効果の観点から、本発明の水中油型乳化組成物全質量に対し乾燥時の質量で合計して0.01〜10質量%が好ましく、0.02〜5質量%がより好ましく、0.03〜3質量%が特に好ましい。
【0012】
「クロスポビドン」は1‐ビニル‐2‐ピロリドン(ポビドン)の架橋重合物である。本発明に用いられるクロスポビドンは特に限定されず、分子量等の異なるいずれのクロスポビドンを使用してもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明においては、分離抑制効果の観点から、医薬品添加物規格2003に記載のクロスポビドンが特に好ましい。
【0013】
本発明に用いられるクロスポビドンとしては、市販品を用いることができ、具体的には例えば、ポリプラスドン(五協産業(株)製)、コリドンCL(BASFジャパン(株)製)、ポリプラスドンXL、XL−10、INF−10(以上、アイエスビー・ジャパン(株)製)等が挙げられる。本発明においては、分離抑制効果の観点から、ポリプラスドンXL(アイエスビー・ジャパン(株)製)が好ましい。
【0014】
本発明の水中油型乳化組成物におけるクロスポビドンの含有量は特に制限されないが、分離抑制効果の観点から、本発明の水中油型乳化組成物全質量に対し乾燥時の質量で0.01〜3質量%が好ましく、0.02〜2質量%がより好ましく、0.03〜1質量%が特に好ましい。
【0015】
「カルメロース」はセルロースの多価カルボキシメチルエーテルである。
本発明においては、カルメロースそのもののほか、カルメロースの塩を使用してもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる(以下、カルメロース及びその塩をまとめて「カルメロース類」と表記する。)。なお、「カルメロースの塩」としては、カルメロースの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等)が挙げられる。
本発明においては、分子量、塩の種類等の異なるいずれのカルメロース類を使用してもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明においては、分離抑制効果の観点から、カルメロースのカルシウム塩(カルメロースカルシウム)が好ましく、第十五改正 日本薬局方に記載のカルメロースカルシウムが特に好ましい。
【0016】
本発明に用いられるカルメロース類としては、市販品を用いることができ、具体的には例えば、NS−300(五徳薬品(株)製)、CMCダイセル(ダイセル化学工業(株)製)、TPT(五徳薬品(株)製)、キッコレート(ニチリン化学工業(株)製)、サンローズ(日本製紙ケミカル(株)製)、セロゲン(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)、ECG−505(五徳薬品(株)製)等が挙げられる。本発明においては、分離抑制効果の観点から、ECG−505(五徳薬品(株)製)が好ましい。
【0017】
本発明の水中油型乳化組成物におけるカルメロース類の含有量は特に制限されないが、分離抑制効果の観点から、本発明の水中油型乳化組成物全質量に対しカルメロースのフリー体に換算して乾燥時の質量で合計して0.01〜6質量%が好ましく、0.02〜2質量%がより好ましく、0.03〜1質量%が特に好ましい。
【0018】
「クロスカルメロース」はカルメロースの架橋重合物である。
本発明においては、クロスカルメロースそのもののほか、クロスカルメロースの塩を使用してもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる(以下、クロスカルメロース及びその塩をまとめて「クロスカルメロース類」と表記する。)。なお、「クロスカルメロースの塩」としては、クロスカルメロースの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等)が挙げられる。
本発明においては、分子量、塩の種類等の異なるいずれのクロスカルメロース類を使用してもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明においては、分離抑制効果の観点から、クロスカルメロースのナトリウム塩(クロスカルメロースナトリウム)が好ましく、第十五改正 日本薬局方に記載のクロスカルメロースナトリウムが特に好ましい。
【0019】
本発明に用いられるクロスカルメロース類としては、市販品を用いることができ、具体的には例えば、Ac−Di−Sol(旭化成ケミカルズ(株)製)、Primellose(DMV−Fonterra Excipients製)、アクジゾル(五協産業(株)製)、キッコレート(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)、キッコレートND−2HS(ニチリン化学工業(株)製)等が挙げられる。本発明においては、分離抑制効果の観点から、キッコレートND−2HS(ニチリン化学工業(株)製)が好ましい。
【0020】
本発明の水中油型乳化組成物におけるクロスカルメロース類の含有量は特に制限されないが、分離抑制効果の観点から、本発明の水中油型乳化組成物全質量に対しクロスカルメロースのフリー体に換算して乾燥時の質量で合計して0.01〜3質量%が好ましく、0.02〜2質量%がより好ましく、0.03〜1質量%が特に好ましい。
【0021】
「カルボキシメチルスターチ」はデンプンのカルボキシメチルエーテルである。
本発明においては、カルボキシメチルスターチそのもののほか、カルボキシメチルスターチの塩を使用してもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる(以下、カルボキシメチルスターチ及びその塩をまとめて「カルボキシメチルスターチ類」と表記する。)。なお、「カルボキシメチルスターチの塩」としては、カルボキシメチルスターチの薬学上許容される塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム等のアルカリ土類金属塩等)が挙げられる。
本発明においては、分子量、塩の種類等の異なるいずれのカルボキシメチルスターチ類を使用してもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明においては、分離抑制効果の観点から、カルボキシメチルスターチのナトリウム塩(カルボキシメチルスターチナトリウム)が好ましく、医薬品添加物規格2003に記載のカルボキシメチルスターチナトリウムが特に好ましい。
【0022】
本発明に用いられるカルボキシメチルスターチ類としては、市販品を用いることができ、具体的には例えば、GLYCOLYS(ロケットジャパン(株)製)、Primojel(DMV−Fonterra Excipients製)、エキスプロタブ(木村産業(株)製)等が挙げられる。本発明においては、分離抑制効果の観点から、エキスプロタブ(木村産業(株)製)が好ましい。
【0023】
本発明の水中油型乳化組成物におけるカルボキシメチルスターチ類の含有量は特に制限されないが、分離抑制効果の観点から、本発明の水中油型乳化組成物全質量に対しカルボキシメチルスターチのフリー体に換算して乾燥時の質量で合計して0.01〜3質量%が好ましく、0.02〜2質量%がより好ましく、0.03〜1質量%が特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられる超崩壊剤の好適な具体例としては、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム及びカルボキシメチルスターチナトリウムよりなる群から選択される1種以上の超崩壊剤が挙げられ、このうち、クロスポビドンが特に好ましい。
【0025】
本発明において、「水中油型乳化組成物」とは、連続相が水相である乳化剤形の総称を意味し、水中油中水等の複合乳化剤形であっても、連続相として水相が存在する限り、本発明の「水中油型乳化組成物」に包含される。
【0026】
本発明の水中油型乳化組成物の、上記成分以外の他の成分としては、油分、界面活性剤及び水等が挙げられる。
【0027】
油分としては、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の分野において通常用いられる油状の物質であれば特に限定されないが、例えば、炭化水素、油脂類、ロウ類、脂肪酸、高級アルコール、エステル油類等が挙げられ、特に炭化水素及び高級アルコールが好ましい。当該炭化水素としては、ワセリン、流動パラフィン等が挙げられ、高級アルコールとしては、セタノール、ステアリルアルコール等の炭素数12〜24のアルコール等が挙げられる。
【0028】
油分の含有量としては特に制限されないが、本発明の水中油型乳化組成物全質量に対し、0.1〜45質量%が好ましく、1〜35質量%がより好ましく、5〜30質量%が特に好ましい。
【0029】
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられ、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0030】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、エチレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、メチルグルコシド脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド等の多価アルコール脂肪酸エステル又は多価アルコールアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンフィトスタノール、ポリオキシエチレンコレステロール、ポリオキシエチレンコレスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンエーテル;ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンメチルグルコシド脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン植物油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のエーテルエステル等が挙げられ、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。
上記ソルビタン脂肪酸エステルの具体例としては、トリオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン等が挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの具体例としては、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。
【0031】
また、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルにおける脂肪酸の炭素数は、12〜20であるのが好ましく、16〜20であるのがより好ましく、18であるのが特に好ましい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油における酸化エチレンの付加数は、5〜100であるのが好ましく、10〜60であるのがより好ましい。
【0032】
また、非イオン性界面活性剤のHLBが2〜18であるのが好ましく、3〜17であるのがより好ましい。例えば、ソルビタン脂肪酸エステルのHLBが2〜9であるのが好ましく、3〜6であるのがより好ましい。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のHLBが10〜17であるのが好ましく、12〜15であるのがより好ましい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルのHLBが9〜18であるのが好ましく、14〜17であるのがより好ましい。
【0033】
界面活性剤の含有量は特に制限されないが、本発明の水中油型乳化組成物全質量に対し、0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。
【0034】
水の含有量は特に制限されないが、本発明の水中油型乳化組成物全質量に対し、50〜95質量%が好ましく、75〜90質量%が特に好ましい。
【0035】
本発明の水中油型乳化組成物は、上記成分に加えて必要に応じて更に種々の成分を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。このような成分としては、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の分野において一般的に用いられる成分であれば特に制限されず、例えば、薬理活性成分、基剤、増粘剤、保存剤、pH調節剤、安定化剤、刺激軽減剤、防腐剤、着色剤、分散剤、香料等が挙げられる。
【0036】
薬理活性成分としては特に限定されないが、例えば、抗炎症剤、局所麻酔剤、鎮痒剤、ビタミン剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、創傷治癒剤、角質軟化剤、保湿剤、美白剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
本発明においては、湿疹や皮膚炎、かぶれ、虫さされ、かゆみ、あせも、じんましん等に伴う炎症の抑制の観点から、上記成分の中でも抗炎症剤、具体的には例えば、アクタリット、アセチルサリチル酸、アセメタシン、アラントイン、アンピロキシカム、アンフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、インドメタシンファルネシル、エトドラク、カンゾウ抽出物、カンフル、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、ケトプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、ザルトプロフェン、ジクロフェナク、スリンダク、セレコキシブ、チアプロフェン酸、テノキシカム、ナプロキセン、ピロキシカム、フェルビナク、ブフェキサマク、プラノプロフェン、フルルビプロフェン、フルルビプロフェンアキセチル、ヘパリン類似物質、ベンダザック、メフェナム酸、メディコキシブ、メロキシカム、メントール、モフェゾラク、レフェコキシブ、ロキソプロフェン、ロベンザリット、ロルノキシカム等若しくはこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等)、又はこれらの溶媒和物(水和物等)等の非ステロイド系抗炎症剤;酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、ジフルプレドナート、吉草酸酢酸ジフルコルトロン、フルオシノロンアセトニド、フルドロキシコルチド、フルオシノニド、ハルシノニド、アムシノニド、ピバル酸フルメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、酪酸クロベタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、酢酸ジフロラゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン若しくはこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等)、又はこれらの溶媒和物(水和物等)等のステロイド等の抗炎症剤の1種以上を配合するのが好ましい。
【0037】
増粘剤としては特に限定されないが、例えば、カルボキシビニルポリマー及びその塩、ポビドン、キサンタンガム、アルギン酸及びその塩、カラギーナン等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0038】
pH調節剤としては特に限定されないが、例えば、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸及びその塩、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ金属塩、水酸化アルカリ土類金属塩等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なお、本発明の水中油型乳化組成物のpHは特に制限されないが、25℃において3〜7、特に4〜5であるのが好ましい。
【0039】
本発明の水中油型乳化組成物は、連続相を水相とする乳化剤形であればその具体的剤形は特に限定されず、使用目的に応じてクリーム、ローション剤等の剤形とすることができる。本発明においては、外用剤とした際のべたつき感の少なさ、延ばしやすさ等の使用感の観点から、ローション剤が好ましい。
【0040】
本発明の水中油型乳化組成物の稠度は特に制限されず、使用目的、具体的剤形等に応じて適宜設定し得るが、外用剤とした際の使用感の観点から、0.1〜100gであるのが好ましく、0.5〜50gであるのがより好ましく、1〜25gであるのがさらに好ましく、1〜15gであるのが特に好ましい。ここで稠度は、25℃にて直径2cmの金属球を6cm/分の速度で2cm進入させた際の応力の最大値を表し、レオメーター(NRM−3002D−L:不動工業(株)製)にて測定できる。なお、本発明の水中油型乳化組成物は、稠度が上記測定条件下で1〜15gの範囲内にあるような低粘度の場合においても経時的に乳化が安定であるという優れた効果を有する。
【0041】
本発明の水中油型乳化組成物は、超崩壊剤を必須成分とし、必要に応じて他の成分を適宜配合し、公知の方法にて製造することができる。例えば、超崩壊剤が溶解あるいは膨潤した水相と、油相とをそれぞれ加熱後混合し、60〜90℃等の加熱条件下で乳化したのち、冷却することにより製造することができる。なお、本発明の水中油型乳化組成物の製造方法としては、分離抑制効果の観点から、超崩壊剤を水相に配合するのが好ましい。
【0042】
本発明の水中油型乳化組成物は、後記実施例に示すように、良好な外観安定性を有する。特に、本発明の水中油型乳化組成物は、高温環境下、具体的には35℃以上、好ましくは40℃〜80℃における経時的な分離を抑制することができる。本発明の水中油型乳化組成物は、係る良好な外観安定性に基づいて、医薬品、医薬部外品、化粧品、健康食品等の各種飲食品等として好適に用いることができる。
なお、本発明の水中油型乳化組成物の使用方法は特に限定されず、使用目的に応じて内服、外用等の手段により使用することができるが、外用により使用するのが好ましい。本発明によれば、過度に粘性を向上させなくとも水中油型乳化組成物の乳化を安定化して経時的な分離を抑制することができるので、外用剤として皮膚等に適用した場合におけるべたつき感等を抑制することができ、良好な使用感を得ることができるという優れた効果を有する。
【0043】
本発明の乳化安定化剤は、上記超崩壊剤、好ましくはクロスポビドン、カルメロース、クロスカルメロース、カルボキシメチルスターチ及びそれらの塩よりなる群から選択される1種以上の超崩壊剤、より好ましくはクロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム及びカルボキシメチルスターチナトリウムよりなる群から選択される1種以上の超崩壊剤、特に好ましくはクロスポビドンを有効成分とするものであり、当該有効成分をそのまま単独で用いることもできるが、一般的に用いられる基剤等の他の成分を含んでもよい。
【0044】
本発明の乳化安定化剤における、超崩壊剤の使用量、添加方法等は前記の水中油型乳化組成物の場合と同様である。
【0045】
本発明の乳化安定化方法は、上記超崩壊剤、好ましくはクロスポビドン、カルメロース、クロスカルメロース、カルボキシメチルスターチ及びそれらの塩よりなる群から選択される1種の超崩壊剤、より好ましくはクロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム及びカルボキシメチルスターチナトリウムよりなる群から選択される1種以上の超崩壊剤、特に好ましくはクロスポビドンを水中油型乳化組成物に含有せしめる工程を含む。
【0046】
本発明において、超崩壊剤を水中油型乳化組成物に「含有せしめる」とは、水中油型乳化組成物が上記超崩壊剤を含有している状態を直接的に又は間接的に作り出すことを意味する。従って、水中油型乳化組成物に上記超崩壊剤を直接配合せしめることのほか、水中油型乳化組成物に配合した成分の変化等により結果的に水中油型乳化組成物が上記超崩壊剤を含有する状態になる場合も、本発明の乳化安定化方法に包含される。
【0047】
本発明の乳化安定化方法における、超崩壊剤の使用量、添加方法等は前記の水中油型乳化組成物の場合と同様である。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔例1〕
ワセリン5.0g、軽質流動パラフィン2.5g、セタノール0.25g、ステアリルアルコール0.25g、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(50E.O.)(ニッコールHCO−50:日本サーファクタント工業(株)製)0.5g、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)(ニッコールTS−10:日本サーファクタント工業(株)製)0.5g、セスキオレイン酸ソルビタン(ニッコールSO−15:日本サーファクタント工業(株)製)1.0gを75℃で加熱溶解し、油相を得た。
精製水(最終製剤全量が100gとなる量)にヘパリン類似物質0.3g、カルボキシビニルポリマー0.3g、クロスポビドン(ポリプラスドンXL:アイエスビー・ジャパン(株)製)0.1g及び最終製剤のpHが4.5となるようにpH調節剤(クエン酸及び水酸化ナトリウム)を溶解し、75℃に加熱し、水相を得た。
油相と水相を混合し、75℃にて乳化させた。乳化後、室温まで冷却させて水中油型のローション剤を得た。
【0050】
〔例2及び3〕
例1のクロスポビドンのかわりにカルメロースカルシウム(ECG−505:五徳薬品(株)製)0.1g(例2)、又はクロスカルメロースナトリウム(キッコレートND−2HS:ニチリン化学工業(株)製)0.1g(例3)を用いたほかは、例1と同様に調製し、ローション剤を得た。
【0051】
〔例4〕
例1のクロスポビドンを無配合としたほかは、例1と同様に調製し、ローション剤を得た。
〔例5〜7〕
例1のクロスポビドンのかわりにポビドン(K−30:BASF製)0.1g(例5)、キサンタンガム(ケルトロール:三晶(株)製)0.1g(例6)、又はアルギン酸ナトリウム(I−3:キミカ(株)製)0.1g(例7)を用いたほかは、例1と同様に調製し、ローション剤を得た。
【0052】
〔試験例1〕
例1〜7のローション剤について、調製直後の稠度、及び高温・長期間保存後の分離の有無を評価した。
稠度は、レオメーター(NRM−3002D−L:不動工業(株)製)を用いて、25℃にて直径2cmの金属球を6cm/分の速度で2cm進入させた際の応力の最大値として測定した。
分離の有無は、ローション剤をガラス瓶(2K瓶)に充填し、製造直後及び40℃で2、4、6ヶ月保存後の分離の有無を目視により評価した。分離が認められないものを○、分離が生じたものを×とした。
結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
超崩壊剤を含有しないローション剤(例4)、超崩壊剤の代わりにポビドン(例5)、キサンタンガム(例6)、アルギン酸ナトリウム(例7)をそれぞれ含有するローション剤においてはいずれも40℃で4ヶ月以上保存した場合に分離が生じた。一方、超崩壊剤であるクロスポビドン(例1)、カルメロースカルシウム(例2)、クロスカルメロースナトリウム(例3)をそれぞれ含有するローション剤は、稠度が比較例のローション剤と同程度であるにも関わらず特異的に分離が抑制されていた。このことから、係る分離の抑制は、単なるローション剤の粘性の向上に基づくものではなく、クロスポビドン、カルメロース、クロスカルメロース等の超崩壊剤を配合したことに基づく効果であることが明らかとなった。なお、例1〜3のローション剤を薄く伸ばして顕微鏡下で観察したところ、細かい油滴がほぼ均一に分散されている状態が確認された。
さらに、例1〜3のローション剤を皮膚に塗布したところ、べたつき感がなく、水中油型乳化組成物特有のさっぱり感を有し、使用感が良好であった。
【0055】
以上の試験結果より、超崩壊剤が、水中油型乳化組成物の経時的な分離、特に高温環境下における分離を抑制し、これを用いれば外観安定性の良好な製剤を得ることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、経時的な分離、特に高温環境下において分離が生じにくく、外観安定性が良好な水中油型乳化組成物を提供でき、医薬品・医薬部外品・化粧品・飲食品産業等において利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスポビドンを含有する水中油型乳化組成物。
【請求項2】
クロスポビドンを含有する、水中油型乳化組成物の乳化安定化剤。
【請求項3】
クロスポビドンを水中油型乳化組成物に含有せしめる工程を含む、水中油型乳化組成物の乳化安定化方法。

【公開番号】特開2010−254627(P2010−254627A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107361(P2009−107361)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】