説明

水中油型液晶エマルションおよび液晶エマルションの調製方法

本発明は、熱光学的マトリックスとして乳腺新生物病変の早期診断に使用するための液晶エマルションに関する。これは、サーモトロピック液晶およびポリビニルアルコールの混合物を含む。上記液晶エマルションは、サーモトロピック化合物混合物を(乾物ベースで)14重量%から48重量%、およびポリビニルアルコールを(乾物ベースで)50重量%から86重量%含む。本発明はまた、液晶エマルションを調製するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(PAW)の水溶液中のサーモトロピック液晶混合物のエマルションおよびこのエマルションを調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモトロピック液晶は、サーモトロピック中間相と呼ばれる、固晶加熱中に液晶相に変わる液晶のグループに属し、これらの結晶は、従来の液体に融解する代わりに、ある決まった温度で中間相の状態に変わり、中間相の等方化(isotropisation)、すなわち液晶の等方性液体への変化は、より高い温度でのみ起こる。液晶に依存して、温度を下げる間に様々な中間相を経る可能性がある。サーモトロピック液晶は、その温度に依存して、中間相によって反射される光の色の変化の影響に基づいた、熱光学的特性によって特徴付けられる。
【0003】
1970年代からの特許明細書によって、ホルムアルデヒドを5%から10%含むポリビニルアルコールの水溶液が連続相として用いられたエマルションが知られている。これらの明細書に記載のエマルションは、乳化プロセスおよびそれらの保管の両方において、最も重要なことには、広い表面へのこれらの適用において、安定性が低く強力かつ不快な臭気を放出することから、工業への応用に適さなかった。乳化プロセスは、回転速度が12000l/分を超えるホモジナイザーおよびこれらの冷却システムを用いることを必要とした。重大な熱光学的要件に関して、(前記方法を用いた)反復可能なエマルションを達成するのに伴う問題の結果として、工業プロセスにおいてこの方法を用いることを断念した。
【0004】
現在、適用されるカプセル化の方法は、マイクロカプセル化プロセスである。技術的用途および広告用途において妥当であるサーモトロピック液晶のマイクロカプセル化は、ヒトの眼による、色付き画像記録の光学解像度に調整された、サーモグラフィーによる(thermographed)表面の光学的連続性の確認に関する観察視野を要する医療用途のためのカプセル化方法として適切でない。光学的連続性の非存在は、液晶凝集物(マクロ粒子)を取り囲む壁の厚さに関して「カプセル」の寸法および充填密度によって生じ、医療用途の場合、特に、マトリックスとしての女性の乳癌の早期診断への適用の場合は不利である。そのため、新規な液晶エマルションの開発およびそれらの調製のための方法が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱光学的液晶マトリックスを生成するための技術的なプロセスが要求される観点から、不快な臭気を放出せず十分に安定している熱光学的に安定したエマルションの形態の液晶組成物およびかかる組成物を調製するための方法を提供することである。さらに、かかるエマルションは、調製が容易であるべきであり、粘度などの、および、分散相凝集物の平均寸法と関連する経時的なパラメータの反復性および安定性を特徴とするべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
液晶エマルションの「プロセシング」条件および物理化学的パラメータについての要求されるパラメータは、分子量および加水分解度に関して、適切な連続相の調製のために、5重量%から20重量%のPAW、0.1重量%から1.0重量%のホウ酸および1重量%から2重量%のノノキシノール−5(エトキシル化ノニルフェノール、約5分子のエチレンオキシドをノニルフェノールに付加した生成物)を含む水−アセトン−アルコール溶液の形態の、ポリビニルアルコールを用いることにより得ることが可能であるということを見出した。乾物ベースにおける連続相に関する分散相含有量は、14重量%から48重量%の範囲で含まれるべきである。さらに、安定したエマルションの形成の容易さおよび反復性は、連続相溶液の条件およびコンディショニング時間に強く依存することが判明した。
【0007】
本発明による使用に特に都合がよいポリビニルアルコールは、分子量50000から130000、加水分解度83モル%から98モル%を有する。本発明によるエマルションは、好都合には、4重量%から19重量%のポリビニルアルコールを含む。分散化剤として、少量の、好ましくは1重量%から2重量%の界面活性剤(ノノキシノール−5)と併用した、エマルション中のポリビニルアルコールの主な機能は、増粘剤として作用することであると考えられる。エマルション適用後の相中のポリビニルアルコールの機能は、皮膜形成剤および部分的にはカプセル化剤(partially encapsulating agent)として作用することである。
【0008】
マトリックスとしての、女性の乳癌の早期診断への適用の目的では、油相(液晶相)の液滴径は、好都合には、5μm未満、好ましくは4μm未満であるべきであり、特に好ましくは、液滴径は、1から2μmであるべきである。一方では、エマルションの粘度は、好都合には、5000mPa・sを超えるべきでなく、好ましくは、4500mPa・s未満であるべきである。特に好ましくは、エマルションは、4000から4500mPa・sの粘度を有するべきである。
【0009】
予想外に、本発明によるエマルション組成物およびそれらの調製の方法を用いることによって、油相の液滴径およびエマルション粘度などのパラメータに関する上記要件を満たす液晶エマルションが得られることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明はまた、液晶エマルションを調製するための方法に関する。本発明によるエマルションは、好都合には、中間相から等方相に移行する温度に近い温度のサーモトロピック液晶(油相)の混合物を、好都合には油相の温度より5から10℃低い温度の、ポリビニルアルコール、水、エチルアルコール、アセトン、乳化剤およびホウ酸を含む水相に、勢いよく注ぐことによって調製される。混合を、好都合には、回転速度500から5000l/分で撹拌機を用いて行う。要求されるサイズの液晶凝集物の液滴を得るために、プレエマルション(pre−emulsion)の塊を、好都合には、1から15分間混合する。室温まで冷却してから、エマルションは、日光の直接作用に曝露されない場所において密封容器に入れて保管すべきである。エマルションは、好都合には、1から10日間で利用され、好ましくは、2から8日間で利用され、最も好ましくは4から6日間で利用される。
【0011】
水相を得るために、ポリビニルアルコールを、好ましくは温度22±2℃で、溶解したホウ酸を含む水性アルコール溶液に加える。混合物を、ポリビニルアルコールの良好な分散液が得られるまで混合する。次いで、混合物の温度を、連続的に混合しながら、約80から85℃まで上昇させ、ポリビニルアルコールが完全に溶解するまで、混合物をこの温度に維持する。次に、溶液を40℃の温度まで冷却し、アセトンおよび乳化剤を加え、全体を混合して塊のホモジナイズを完了する。室温まで冷却してから、得られた塊を29T番のふるいに通し、次いで、密封容器に移し、好都合には10から15日間、好ましくは15から30日間、最も好ましくは30から60日間20℃以上の温度で室内に置く。
【0012】
エマルションの調製に用いる原料および組成物の特性
油相:
組成:好ましくは、22.0℃から48.0℃の温度範囲で、適切な重量比でペラルゴン酸コレステリル、炭酸コレステリルオレイル、プロピオン酸コレステリル、塩化コレステリルおよび4,4’−ジペンチルアゾキシベンゼンを含む、混合物を構成する化合物のとりわけ純度と相関関係にある、中間相の範囲を有するサーモトロピック液晶の混合物。
【0013】
特性:指示された中間相の範囲のための可視スペクトル範囲内の熱光学的感受性(色の応答)の任意の範囲;25℃の温度での密度は、好ましくは0.98g/cmであり;25℃の温度での粘度は、好ましくは75から93mPa・sである。
【0014】
水相:
組成:伝導度が好ましくは10μSより低い脱塩水;好ましくは分析的に純粋なアセトン;無水エチルアルコール;好ましくは分析的に純粋なホウ酸、好ましくは含水量が1%より低いノノキシノール−5。
【0015】
特性:好ましくは25℃の温度で測定された密度1.004g/cmおよび好ましくは粘度6300mPa・sを有する溶媒中のポリビニルアルコール溶液の形態の、安定した流動学的パラメータを有する均質で透明な塊。
【0016】
個別の相および最終の液晶エマルションの物理的特性を、以下の測定装置を用いて測定した。密度を、Zehner S/Nの比重びんで測定した。粘度を、粘度計Brookfield RVTタイプを用いて測定した。エマルション中の油相の液滴径を測定するため、光子相関分光器(5ミリワットの出力のHe−Neレーザーを装備した、MalvernのZeta−Master 4)を用いた。液滴径を、走査電子顕微鏡BS−301/Teslaタイプを用いることによりエマルションの適用される層を含むフィルムの横断面を試験することにより最終製品においてやはり確認した。
【実施例1】
【0017】
水相(連続相)の調製
ポリビニルアルコール28.2gを、22±2℃の温度で脱塩水90.5g、エチルアルコール75.2gおよびホウ酸1.18gを含む溶液に加えた。混合物を、機械式撹拌機RD50Dタイプを用いて混合してポリビニルアルコールの良好な分散液を得、次いで、さらに混合し、混合物の温度を約80から85℃まで上昇させ、混合物を、ポリビニルアルコールが完全に溶解するまでこの温度で維持した。次に、溶液を、40℃の温度に冷却し、アセトン37.6gおよびノノキシノール−5 2.35gを加え、得られた混合物を、均質な塊(235g)になるまで混合した。室温まで冷却してから、得られた塊を、29T番のふるいに通し、密封容器に移し、約20℃の温度で22日間室内に置いた。
【0018】
油相の調製(分散相)
ペラルゴン酸コレステリル、炭酸コレステリルオレイル、プロピオン酸コレステリル、塩化コレステリルおよび4,4’−ジペンチルアゾキシベンゼンを約70℃の温度で適切な重量比で混合して、油相15gを得た。
【0019】
液晶エマルションの調製
サーモトロピック液晶(油相、15g)の混合物を、約60℃の温度の水相(連続相、235g)中に勢いよく注いだ。全体を、回転速度680 l/分で機械式撹拌機RD50Dタイプを用いて7分間混合して、25℃の温度で粘度4200mPa・s、25℃の温度で密度1.002g/cmおよび油相の平均液滴径3.1μmの白色の液晶エマルション250gを得た。
【実施例2】
【0020】
液晶エマルションを、表1に挙げた量の成分を用いて実施例1に記載されている手順に従うことにより調製した。
【0021】
【表1】

【0022】
その結果、25℃の温度で粘度4250mPa・s、25℃の温度で密度1.003g/cmおよび油相の平均液滴径2.8μmの白色の液晶エマルションを得た。
【実施例3】
【0023】
液晶エマルションを、表2に挙げた量の成分を用いて実施例1に記載されている手順に従うことにより調製した。
【0024】
【表2】

【0025】
その結果、25℃の温度で粘度4350mPa・s、25℃の温度で密度1.005g/cmおよび油相の平均液滴径2.4μmの白色の液晶エマルションを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)水、エチルアルコール、アセトン、ポリビニルアルコール、分散化剤およびホウ酸を含む連続相(水相)、
b)サーモトロピック液晶の混合物を含む分散相(油相)
からなることを特徴とする、水中油型液晶エマルション。
【請求項2】
5重量%から20重量%の量でポリビニルアルコールを含む前記連続相を含むことを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項3】
1重量%から2重量%の量で分散化剤を含む前記連続相を含むことを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項4】
0.1重量%から1.0重量%の量でホウ酸を含む前記連続相を含むことを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項5】
前記サーモトロピック化合物混合物を(乾物ベースで)14重量%から48重量%、およびポリビニルアルコールを(乾物ベースで)50重量%から86重量%含むことを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項6】
分子量50000から130000および加水分解度83モル%から98モル%のポリビニルアルコールを含むことを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項7】
ペラルゴン酸コレステリル、炭酸コレステリルオレイル、プロピオン酸コレステリル、塩化コレステリルおよび4,4’−ジペンチルアゾキシベンゼンからなる群から選択されるサーモトロピック化合物の混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項8】
分散化剤としてノノキシノール−5を含むことを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項9】
前記油相(液晶相)の液滴径が、5μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項10】
前記油相(液晶相)の液滴径が、4μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項11】
前記油相(液晶相)の液滴径が、1から2μmであることを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項12】
エマルション粘度が、5000mPa・s未満であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項13】
エマルション粘度が、4500mPa・s未満であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項14】
エマルション粘度が、4000から4500mPa・sであることを特徴とする、請求項1に記載の液晶エマルション。
【請求項15】
a)サーモトロピック液晶を混合することにより油相を調製するステップと;
b)ポリビニルアルコールを、溶解したホウ酸を含む水性アルコール溶液に加え、ポリビニルアルコールが完全に溶解するまで混合物を混合および加熱し、次いで、得られた溶液を冷却し、アセトンおよび乳化剤を加え、全体を混合して均質な塊を得、室温まで冷却してから、得られた塊を29T番のふるいに通し、これを密封容器に移し、10から60日間20℃以上の温度で室内に置くことにより水相を調製するステップと;
c)前記サーモトロピック液晶の混合物を、前記水相に勢いよく注ぎ、全体を、回転速度500から5000 l/分で撹拌機を用いて1から15分間混合して液晶エマルションを得るステップを含むことを特徴とする、液晶エマルションを調製するための方法。
【請求項16】
ステップb)において、前記混合物を約80から85℃の温度まで加熱することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップb)において、得られた溶液を、40℃の温度まで冷却することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
ステップc)において、前記サーモトロピック液晶の混合物を、約60から65℃の温度で前記水相に注ぐことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記水相を、前記乳化プロセスに用いる前に10から15日間コンディショニングすることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記水相を、前記乳化プロセスに用いる前に15から30日間コンディショニングすることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記水相を、前記乳化プロセスに用いる前に30から60日間コンディショニングすることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記水相および前記油相を撹拌するために、低速回転撹拌機を用いることを特徴とする、請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2013−518167(P2013−518167A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551113(P2012−551113)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/PL2011/050004
【国際公開番号】WO2011/093733
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(512197294)
【氏名又は名称原語表記】BRASTER S.A.
【住所又は居所原語表記】Ul.Cichy Ogrod 7,Szeligi,05−850 Ozarow Mazowiecki,Poland
【Fターム(参考)】