説明

水中照明体

【課題】水中で光を広範囲に照射して集魚効果を高め、水中深度が深く高圧がかかる環境下でも充分使用に耐える水中照明体を提供する。
【解決手段】
複数個のLED5を基板4上にマトリクス状に取付けたLED搭載基板と、基板4上に取付けられるブロックであり、LED5を収納する複数個の収納孔8eが形成された収納ケース3とからなり、隣接する収納孔8e同士の間には側壁9が形成され、各収納孔8eは裏面側が開口し、表面側が天井部11で塞がれており、各収納孔8eの内部において、収納されたLED5と収納部の上面との間に空気室12が形成されている。収納ケース3を外カバー2に収容して、合成樹脂を塗布充填して収納ケース3を密封している。発光チップ5から発光した光は、空気室12の空気層に入るときに屈折し、屈折後の照射方向は、ほぼ前方を向くため、LED5の発光量の全てが前方を向き、海中を明るく照射することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中照明体に関するものである。さらに詳しくは、水中や海中で、集魚、その他の用途に利用できる水中照明体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中照明装置の代表的な用途である集魚灯は、その歴史が古く、大正時代の石油灯やアセチレン灯を用いた集魚灯から、昭和に入ると集魚灯は電化された電球タイプのものに代わっていった。その電球も当初はタングステンフィラメント形式の白熱灯であったが、電気/光変換効率が低く、発熱が大きく、寿命が短いなどの欠点があった。そのため、1970年代の後半から電力効率の良いハロゲンランプに取って代わるようになった。このハロゲンランプは白熱灯の一種であるが、球内に不活性ガスとともにハロゲン元素またはハロゲン化合物を封入することにより、ランプ寿命を大幅に延ばすとともに光束の減衰を少なくしたものであった。さらに1980年に入るとより更に光力の大きいメタルハライド灯が主流を占めるようになり、今日に至っている。
【0003】
図9はメタルハライド灯を集魚灯に用いた魚法を示している。100は、魚船Sから海中に吊り降ろされたメタルハライド灯である。海中に降ろす深度は魚の生息域に合わせ、100m〜200m位であり、メタルハライド灯100の光照射半径は50〜80m位である。メタルハライド灯は、蛍光灯や水銀灯と同じ放電灯の一種であり、点光源であるために光は全方向に放射される。
このメタルハライド灯につき、有効放射率について考えてみると、通常、巻き網漁業による操業海域は水深150m〜300mで行われる。主たる漁獲物であるアジ、サバは通常、100m以下の海域付近に生息する。現在使用されているメタルハライド灯は、点光源のため全方向の光が放射されるが、全メタルハライド灯100の上部方向に魚はほとんど集まらず、下部のみに魚が集まってくる。この魚の習性を考えると、その上方に照射する光は不要であり、現状では、必要な光の倍以上を放射していることになる。
【0004】
また、メタルハライド灯は電力消費量が多くその電力を供給するための船内エンジンの燃料消費が莫大であり、それが漁業の収支を圧迫し、地球温暖化等の環境破壊の原因ともなっている。さらに、メタルハライド灯は熱の放射量も多く海中温度を高めプランクトン等の海中の生態系を破壊しているという指摘もある。
【0005】
ところで、消費電力が少なく発熱量を少なくできる発光器としてLED(発光ダイオード)が知られており、LEDを用いた水中照明装置も存在している。
そのような公知技術の一例として特開2001−357703(特許文献1)がある。この従来例は、浴槽内の水中に光を照射できるLEDによる発光部を凹レンズで覆ったものである。この凹レンズは広い範囲にLEDからの光を照射させることができるが、光が拡散すると、明度が低くなるので、集魚用には適さない。あくまでも浴槽などの演出用でしかない。
【0006】
他の従来技術としては、特開2003−178602(特許文献2)がある。これは水中用の投光器であり、円筒容器状に形成された本体部と、短円筒容器状に形成された前面カバーとがヒートシンクを介して一体的に結合されている。そして、前面カバーは透明な樹脂で形成されてレンズとして構成されており、前面カバー内の灯室は、シールリングにより内部の液密性が保持されている。また、灯室の内部には円板状をして複数個のLEDを実装したLED基板が内装され、それぞれ発光したときの光はレンズである前面カバーを透過して照射されるようになっている。
しかし、この前面カバーは、ガラスカバーであり、光を拡散したり収束させる機能はないものである。
【0007】
【特許文献1】特開2001−357703号
【特許文献2】特開2003−178602号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、水中で光を必要な範囲に照射して集魚効果を高めることができ、水中深度が深く高圧がかかる環境下でも充分使用に耐える水中照明体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の水中照明体は、複数個のLEDを基板上にマトリクス状に取付けたLED搭載基板と、前記基板上に取付けられるブロックであり、前記LEDを収納する複数個の収納孔がマトリクス状に形成された収納ケースとからなり、前記収納ケースにおける各収納孔は、その内径が前記LEDの外径と同じか、わずかに大きい程度であり、かつ各収納孔は裏面側が開口し、表面側が天井部で塞がれており、各収納孔の内部において、収納されたLEDと該収納部の上面との間に空気室が形成されていることを特徴とする。
第2発明の水中照明体は、第1発明において、前記収納ケースを皿状の外カバーに収容しており、前記収納ケースの上面と前記外カバーの内面に合成樹脂を塗布充填して、前記収納ケースを密封したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、各LEDは、収納ケース内の各収納孔内に保持されるから、マトリクス状に配置された多数のLEDが全て前方を向くことにより、各LEDの発する光は前方へのみ向けられる。また、前記収納孔の内部において、空気室が形成されているから、発光チップから発光した光は、空気層に入るときに屈折するが、屈折後の照射方向は、ほぼ前方を向くことになる。このため、LEDの発光量の全てが前方を向き、拡散しないので、海中を明るく照射することができる。
第2発明によれば、収納ケースと外カバーとの間に合成樹脂を充填して隙間が生じない。このため、耐圧性も向上しつつ、海水の浸入を完全に防止できるので、電気系統がショートすることはない。しかも、各LEDは、剛性部材である収納ケースと外カバーにより二重に保護されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(水中照明体の構造)
図1は本発明の一実施形態に係る水中照明体1の断面図である。図2は図1の水中照明体1の要部断面図である。図3は図1の水中照明体1の斜視図である。
図3に示すように、水中照明体1は外カバー2と収納ケース3(点線図示)を有するが、水中照明体1は、図1に示すように、大きくは三つの部材から構成されている。すなわち、外カバー2と収納ケース3と基板4に多数のLED5が固定されたLED搭載基板とからなる。
【0012】
上記の三つの部材を、図1および図2に基づき説明する。
まず、基板4は、公知のプリント基板、すなわちガラス繊維やエポキシ樹脂等の非通電性材質からなる適当な大きさの基板である。この基板4には、多数のLED5が縦と横に整列されて、かつ適当な間隔をあけて取付けられている。したがって、基板4の表面には、多数のLED5がマトリクス状に配置されている。なお、各LED5の足は、基板4に設けた銅製回路の孔に挿入されて互いに接続され、かつ導電コード7eに接続されている。このLED5は、集魚効果が高いことで知られている青色光を発光するLEDである。
【0013】
前記収納ケース3は、六面立方体のブロックであり、耐衝撃性と、透明性を有し剛性の高い材料、例えば、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂で作成されている。この収納ケース3の裏面からは、天井部11に向けて多数の収納孔8eが穿孔されている。この収納孔8eの穿孔位置は、前記LED5の縦横の配列位置と同じであり、収納孔8eの数はLED5の数と同じである。したがって、収納孔8eもマトリクス状に形成されている。
前記収納孔8eの内径はLED5の外径と、同じかわずかに大きい程度であり、隣接する収納孔8e,8e同士の間には、側壁9eが形成されている。
そして、収納孔8eの深さhは、LED5の高さより大きいが、収納ケース3の高さより小さくなっており、この結果、各収納孔8eの上面には天井部11が形成されている。
【0014】
前記外カバー2は、概ね皿状の部材であり、耐衝撃性に富み透明性が高く剛性の高い材料であるポリカーボネート樹脂から作成されている。この外カバー2は碗部21と、その周縁のフランジ部22を備えており、碗部21の内部中央には、適当な仕切り部材23で凹所24が形成されている。
前記収納ケース3は、仕切り部材23で画定された凹所24内に嵌合するようになっている。
【0015】
上記の水中照明体1を組立てる際は、基板4上の各LED5を収納ケース3の各収納孔8e内に嵌合するように組合せる。そして、外カバー2の内面にエポキシ樹脂30を厚めに塗布し、収納ケース3の上面を外カバー2の内面に向けて圧着する。これにより、先に塗布していたエポキシ樹脂30で収納ケース3の天面が外カバー2の内面に接着される。そして、さらに収納ケース3の周囲と外カバー2(あるいはその仕切り部材23)との間の隙間にエポキシ樹脂30を充填し、かつ基板4の底面にも厚く塗布する。このようにして、エポキシ樹脂30が固形化すると、外カバー2内に収納ケース3が固定されて、水中照明体1が完成する。
【0016】
図1のように組立てられた状態で、各LED5は、剛性部材である収納ケース3と外カバー2により二重に保護されている。そして、収納ケース3と外カバー2は、共に耐衝撃性の高い樹脂で作成されており、剛性が非常に高いので、外圧とくに水中での耐圧力に強く、水深200m位までの使用が可能となる。
また、収納ケース3の周囲と基板4の裏面上にもエポキシ樹脂30を充填し、外カバー2との間に隙間が生じないようにしている。このため、耐圧性も向上しつつ、海水の浸入を完全に防止できるので、電気系統がショートすることはない。
【0017】
また、前記各LED5は、収納ケース3内の各収納孔8e内において、側壁9eと接触した状態で保持されることから、全てのLED5が必ず前方へ向けられる。そして、マトリクス状に配置された多数のLED5が全て前方を向くことにより、各LED5の発する光は前方へのみ向けられることになり、深海のように暗い所でも明るく照射することができることとなる。
【0018】
図2に示すように、各LED5は、発光チップ51の上面をドーム状の樹脂カバー52で覆われており、発光チップ51の下には足53が付いている。この足53は既述のごとく基板4に設けられた銅製回路4Cの孔を貫いており、この足53によって、LED5が基板4に固定されている。
前記収納孔8eの内部においては、樹脂カバー52の頂部と天井部11との間には空気室12が形成されており、その内部には空気が入っている。この空気室12の内部は、既述のごとく、エポキシ樹脂30で被覆され密封されているので、海水が浸入することもなく、内圧が高くなることもない。
そして、発光チップ51から発光した光は、樹脂カバー52から出て空気層に入るときに屈折するが、樹脂カバー52がドーム状であることにより、屈折後の照射方向は、ほぼ前方を向くことになる。このため、LED5の発光量の全てが前方を向き、拡散しないので、海中を明るく照射することができる。
【0019】
上記の構成であるから水中照明体1は、それ自体が耐水圧性、耐衝撃性を有している。
また、この水中照明体1は、充分な光照射能力を有しているので、海中での集魚は最適である。
【0020】
つぎに、本発明の水中照明体1を用いて構成した水中照明装置Aを説明する。
図4は水中照明装置Aの斜め上方からみた斜視図である。図5は図4の水中照明装置Aの下からみた斜視図である。図6は図4の水中照明装置Aの平面図である。図7は(A)図は取付フレームと水中照明体1の取付構造を示す側面図、(B)図は同正面図である。
【0021】
図4〜図6において、6は水中照明装置Aの外側剛体フレームである。この外側剛体フレーム6は略円筒状のフレームである。この「略円筒状」とは円筒形のほか、多角形で円筒の近い形状も含むものである、図示の外側剛体フレーム6は12面体の筒状部材を構成するよう12本の縦棒61を円周上に等間隔に配置し、各縦棒61を3本の環状棒62,63,64で固定している。この外側剛体フレーム6は、強度部材であり、漁労中に変形しないだけの充分高い剛性を備えている。
【0022】
上端の環状棒62と中間の環状棒63の間は、直径が同じ等径部6Aであり、中間の環状棒63と下端の環状棒64との間は、下端に向って外径が縮小していくテーパ筒部6Bである。上端の環状棒62には吊環65が結合されている。下端の環状棒64は等径部6Aの環状棒62,63よりは内径が小さくなっているが、下端には充分大きな開口を確保できるだけの内径を有している。
【0023】
前記吊環65に、漁船から繰出されるロープ等を係合すれば、ウインチや牽引機、ローラ等の機械装置で水中照明装置Aを海中に降下させたり引き揚げたりできる。また、その際に、水中照明装置Aの底端は大きく開口しているので、引き揚げ時には海水が抜け落ちるので、引き揚げ重量が軽く扱いが容易である。
【0024】
前記外側剛体フレーム6の内側には、取付フレーム7が設けられている。この取付フレーム7は、パイプ製や板製など任意の構造、形状を援用でき、後述する水中照明体1を取付けることができればよい。そして、この取付フレーム7は等径筒部6Aとテーパ筒部6Bの双方の内側に設けられる。
【0025】
図7に示すように、前記取付フレーム7の外表面には、複数個の水中照明体1が発光面を外側に向けて取付けられている。水中照明体1の取付数は、等径筒部6Aでは上下3段であるが、これに限らず、2段以下でも4段以上でもよい。また、テーパ筒部6Bでは1段であるが、2段以上であってもよい。そして、水中照明体1の数が多いほど照度が明るくなる。また、多面体の数も図示では、12面体であるが、11面以下でもよく、13面以上であってもよい。そして、面体数が多いほど、全周方向にまんべんなく光を照射することができる。
【0026】
各水中照明体1は、取付フレーム7で保持されているが、その表面は、外側剛性フレーム6の内側より内方に引込んでいる。このため漁労中に水中照明装置Aが漁船の船体と当っても水中照明体1が損傷することはない。
【0027】
既述のごとく上記の水中照明装置Aは機械装置で操作するため、重量や大きさはとくに制限されないが、余り大型化する必要もないため、概ね、直径が300〜700mm、長さが500〜1000mm位が適当である。
【0028】
(水中照明装置の利用方法)
つぎに、図8に基づき、水中照明装置Aの利点を説明する。
水中照明装置Aを魚船などの船Sから吊下げる。海中に吊り降す水深は魚獲したい魚種によって変わるが、本発明の水中照明装置Aは、耐圧性も耐水性も高いので、200mの深度でも集魚が可能である。
そして、光を照射した場合、LED5の光量は明るく、各水中照明体1は前方に向けて光を束ねて照らすので、海中を充分明るくすることができる。しかも、水中照明装置Aは、水中照明体1が側面とやや下向きに取付けられているので、光は図8に示すように側面から斜め下方に向けて照射する。したがって、魚が集まらない上方に光を照射することはないので、電力を無駄にしない。さらにLEDは、発熱しないので、照射領域の海中温度が通常より上昇しないことから、魚にストレスを与えず、このため水中照明装置Aの近くまで魚が近寄ってくる。
この現象は、長年メタルハライド灯で漁をしていた漁師も驚くほどであり、魚が集中してくるせいで、魚獲作業が極めて容易になり、少ない労力で多くの魚獲効果を達成できることとなっている。
【0029】
また、外側剛体フレーム6が水中照明体1を取付けた取付フレーム7の外側にあるので、海中から引き揚げたり海中に降ろしたりする漁労中に水中照明装置Aを船体とぶつけて損傷させることもない。また、全体的に底のない円筒形であり水圧は内外から作用してバランスするので水圧による損傷は生じにくい。さらに、底端は開口しているので、引き揚げ時には海水が抜け落ちて、引き揚げ重量が重くなることはない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る水中照明体1の断面図である。
【図2】図1の水中照明体1の要部断面図である。
【図3】図1の水中照明体1の斜視図である。
【図4】水中照明装置Aの斜め上方からみた斜視図である。
【図5】図4の水中照明装置Aの下からみた斜視図である。
【図6】図4の水中照明装置Aの平面図である。
【図7】(A)図は取付フレームと水中照明体1の取付構造を示す側面図、(B)図は同正面図である。
【図8】水中照明装置Aを集漁灯として利用する場合の説明図である。
【図9】従来のメタルハライドランプ集魚灯の使用状態説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 水中照明体
2 外カバー
3 収納ケース
4 基板
5 LED
6,8 外側剛体フレーム
7,9 取付フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のLEDを基板上にマトリクス状に取付けたLED搭載基板と、
前記基板上に取付けられるブロックであり、前記LEDを収納する複数個の収納孔がマトリクス状に形成された収納ケースとからなり、
前記収納ケースにおける各収納孔は、その内径が前記LEDの外径と同じか、わずかに大きい程度であり、かつ各収納孔は裏面側が開口し、表面側が天井部で塞がれており、
各収納孔の内部において、収納されたLEDと該収納部の上面との間に空気室が形成されている
ことを特徴とする水中照明体。
【請求項2】
前記収納ケースを皿状の外カバーに収容しており、前記収納ケースの上面と前記外カバーの内面に合成樹脂を塗布充填して、前記収納ケースを密封したものである
ことを特徴とする請求項1記載の水中照明体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−305807(P2008−305807A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213420(P2008−213420)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【分割の表示】特願2005−271389(P2005−271389)の分割
【原出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(593126019)高木綱業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】