説明

水中環境再生構造体

【課題】藻類着生誘発物質を長期間に亘り適量流出させることで、磯焼け状態の海域において無節サンゴモの群落が優占しないように藻類を繁茂させて藻場を広範囲に再生させる。
【解決手段】藻類に対して付着・育成効果を発揮する藻類着生誘発物質を混練してなるコンクリートブロック製の水中環境再生構造体であって、藻類着生誘発物質は、アミノ酸及び/又は核酸の1種又は2種以上から選ばれた物質であり、コンクリートブロックの組成物中に3wt%乃至20wt%配合されている。又、コンクリートブロックは3本以上の脚体を有する。これにより、無節サンゴモの群落が優占しないように藻類を繁茂させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中環境再生構造体に関するものであり、特に、磯焼け状態の海域から藻場を再生するために使用されるコンクリートブロック製の水中環境再生構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、日本の沿岸海域においては、浅海域に生えているコンブやワカメ、その他多くの種類の海藻が減少し、サンゴモ(石灰藻)が海底の岩の表面を覆い尽くして磯焼け状態になることが知られている。海域が磯焼け状態になると、海藻や貝類などの漁獲に被害を与えるだけでなく、炭酸ガス濃度への影響、生物多様性の減少、水質の悪化など海の環境保全の面でも悪影響を及ぼす。
【0003】
磯焼け状態は直接的には海中林の喪失により起こる。この海中林の喪失の原因としては、第一に水温の上昇及び海中の貧栄養化、第二にウニや魚類の摂餌圧の増大、第三に生活・産業廃水による海中の照度低下が挙げられる。
【0004】
次に、磯焼け現象のメカニズムについて説明すると、先ず、上記海中林の喪失により、藻類の上位捕食者であるウニが大量に発生し、該上位捕食者の摂餌圧によって藻類の繁茂が妨げられる。特に、磯焼け現象が生じやすい海域では、当該海域を優占する無節サンゴモによってジブロモメタンが分泌され、該ジブロモメタンによりウニの幼生の着定、変態が短時間で高率に誘起される。その結果、ウニが大量に発生して藻場が衰退するため、海中林の喪失に起因する磯焼け現象の発生が更に促進されることとなる。
【0005】
従来、上記磯焼け現象を防止する技術としては、無節サンゴモへの太陽光を遮光して藻場を造成する技術、或いは、海藻の生殖細胞や栄養源をスポアバックや人工種苗に収納・付着させて、該スポアバックや人工種苗を目的領域に大量に設置して大型藻類を育成する技術などが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−238588号公報。
【非特許文献2】水産工学、Fisheries Engineering Vol.42 No.2 pp.171〜177,2005
【非特許文献3】「磯焼け対策ガイドライン」全国漁港魚場協会編、2007年7月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の従来技術は、無節サンゴモへの太陽光を広い領域で遮光するために、装置全体が大掛かりになるとともに設置場所が限定され、藻場の再生を広範囲に行い難いという欠点がある。更に、太陽光の遮断量により無節サンゴのみならず他の有益な藻類も枯死させる欠点がある。
【0008】
又、非特許文献2,3の従来技術は、海藻の生殖細胞や栄養源が収納・付着されたスポアバックや人工種苗を海中に設置して使用するとき、前記生殖細胞や栄養源が水流や波によって基質から離脱し易い。従って、海藻の生殖細胞や栄養源が基質から早期に剥がれて流失するため、藻類の付着・育成効果を長期間に亘って維持できないという問題があった。
【0009】
本発明は上記課題を克服し、磯焼け状態の海域から藻類を効率よく繁茂させて藻場を広範囲に再生させるために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために提案された物質であり、請求項1記載の発明は、藻類に対して付着・育成効果を発揮する藻類着生誘発物質を混練してなるコンクリートブロック製の水中環境再生構造体であって、前記藻類着生誘発物質がアミノ酸及び/又は核酸の1種又は2種以上から選ばれた物質であり、且つ、前記コンクリートブロックの組成物中に前記藻類着生誘発物質が3wt%乃至20wt%配合されていることを特徴とする水中環境再生構造体を提供する。
【0011】
上記藻類着生誘発物質の種類としてはアミノ酸及び/又は核酸の1種又は2種以上が選ばれる。例えばアミノ酸としてはアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、シスチン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等があげられる。また、核酸としてはイノシン、グアニン、アデノシン、ウリジン、チミジン等が挙げられる。
【0012】
上記水中環境再生構造体が藻類に対し高い付着・育成効果を発揮する要件は、第一に、著効性のある藻類着生誘発物質が、コンクリートブロック組成物中に大量に混練されることである。第二に、前記藻類着生誘発物質を効率よく水中に流出させるために、前記コンクリートブロック組成物が微細構造若しくは多孔質構造を有することである。第三に、コンクリートブロック組成物が水流や波力に耐え得る十分な強度を有することである。
【0013】
混練形のコンクリートブロック組成物中に配合した藻類着生誘発物質は、周囲環境の水中に徐々に放出することにより、藻類に対して顕著な付着・育成効果が発揮される。この場合、原理上、藻類着生誘発物質の流出量は、設置条件などに応じて適正範囲に設定されるが、許容可能な高濃度で藻類着生誘発物質をコンクリートブロック組成中に配合する必要がある。
【0014】
本発明においてアミノ酸及び/又は核酸の形態は特に制限されず、純粋な単体若しくは混合物でもよく、また、発酵廃液のように当該アミノ酸及び/又は核酸を含有する液状若しくは半流動状の物質でもよい。さらに、タンパク質やペプチド、DNAやRNAなどのように、アミノ酸や核酸を含有している高分子物質も採択できるが、前記藻類着生誘発物質は、水中環境への効率的な流出を長期間に亘り維持でき、且つ、コンクリートブロックの強度を十分保持できることが要求される。
【0015】
前記コンクリートブロック組成物に対するアミノ酸及び/又は核酸の配合量は、多いほど水中環境への流出量が十分確保されるが、該配合量の下限は前記組成物中の3wt%以上、好ましくは5wt%以上であればよく、これにより藻類に対し顕著な付着・育成効果が発揮される。一方、アミノ酸及び/又は核酸の配合量が必要以上に過剰になると、その分だけアミノ酸及び/又は核酸が無駄に消費され、しかも、コンクリートブロックの強度に影響を与える虞がある。依って、アミノ酸及び/又は核酸の配合量の上限は、前記組成物中の20wt%以下好ましくは15wt%以下に設定する。
【0016】
さらに、上記コンクリートブロック製の水中環境再生構造体は、コンクリートブロック組成物に所望の特性を付与すべく他の添加剤を適宜添加することができる。そのような添加剤としてAE剤や減水剤が挙げられる。
【0017】
請求項1記載の発明によれば、アミノ酸及び/又は核酸の1種又は2種以上から選ばれてなる藻類着生誘発物質が、上記コンクリートブロックの組成物中に3wt%乃至20wt%配合されているので、コンクリートブロックの所要強度を確保しつつ藻類の付着・育成効果が促進される。そのため、磯焼け現象の発生メカニズムにおいて、無節サンゴモの群落が優占しないように藻類が繁茂することとなる。
【0018】
請求項2記載の発明は、上記藻類着生誘発物質がアルギニンであることを特徴とする請求項1記載の水中環境再生構造体を提供する。
【0019】
この構成によれば、藻類着生誘発物質としてアルギニン(塩基性アミノ酸)を採択することにより、コンクリートブロックの表面からアルギニンが有意に流出するので、安定した藻類の付着・育成効果が期待される。
【0020】
請求項3記載の発明は、上記コンクリートブロックは少なくとも3本以上の脚体を有することを特徴とする請求項1記載の水中環境再生構造体を提供する。
この構成によれば、コンクリートブロックは3本以上の脚体を有するので、水と接触するコンクリートブロックの表面積が増大し、藻類着生誘発物質がコンクリートブロック表面から水中に滲み出る量が多くなる。
【0021】
請求項4記載の発明は、上記コンクリートブロックの脚体が、該脚体の長さ方向に沿って設けられている複数本の稜線部と、該稜線部の間に各々設けられている平面部とを有して多面柱に形成されていることを特徴とする請求項3記載の水中環境再生構造体を提供する。
【0022】
この構成によれば、コンクリートブロックの各脚体が多面体の柱形状に形成されているので、水と接触するコンクリートブロックの表面積がさらに増大し、コンクリートブロック表面から水中に滲み出る藻類着生誘発物質の量が一層多くなる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1記載の発明は、藻類着生誘物質による藻類の付着・育成効果により、無節サンゴモが優占することを防止しつつ、藻類を効率よく繁茂させることができ、以って、ウニの摂餌圧を低減させて磯焼け状態の海域から藻場を広範囲に再生させることができる。又、従来技術の如く装置が大掛かりになることもなく、無節サンゴのみを有効に枯死させることができる。
【0024】
請求項2記載の発明は、コンクリートブロック組成物中に配合したアルギニンが有意に適量ずつ水中環境に流出するので、請求項1記載の発明の効果に加えて、顕著な藻類の付着・育成効果が安定して得られ、また、該アルギニンを高配合しても、コンクリートブロックの所要強度を十分確保することができる。従って、強度を低下させることなく多孔質のコンクリートブロックが得られるので、優れた藻類付着・育成効果を有する水中環境再生構造体を容易に得ることができる。
【0025】
請求項3記載の発明は、多孔質のコンクリートブロックにおける水と接触する表面積が多くなるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、コンクリートブロック全体から水中に滲み出る藻類着生誘発物質の量が多くなる。また、多数の脚体を設けて多くの表面積を確保できるので、顕著な藻類の付着・育成効果を維持しつつ、コンクリートブロック肉厚を薄くして水中環境再生構造体の軽量化が図れる。
【0026】
請求項4記載の発明は、多孔質のコンクリートブロックにおける水と接触する表面積が更に広くなるので、請求項3記載の発明の効果に加えて、コンクリートブロック全体から水中に滲み出る藻類着生誘発物質の量が一層多くなり、また、コンクリートブロック肉厚を更に薄くして水中環境再生構造体の一層の軽量化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を一実施形態として示す消波ブロックの正面図。
【図2】同上消波ブロックの背面図。
【図3】同上消波ブロックの右側面図。
【図4】同上消波ブロックの左側面図。
【図5】同上消波ブロックの平面図。
【図6】同上消波ブロックの底面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は磯焼け状態の海域から藻類を効率よく繁茂させて藻場を広範囲に再生させるという目的を達成するために、藻類に対して付着・育成効果を発揮する藻類着生誘発物質を混練してなるコンクリートブロック製の水中環境再生構造体であって、前記藻類着生誘発物質がアミノ酸及び/又は核酸の1種又は2種以上から選ばれた物質であり、且つ、前記コンクリートブロックの組成物中に前記藻類着生誘発物質が3wt%乃至20wt%配合されていることにより実現した。
【0029】
以下、本発明の好適な実施態様例を添付図面を参照して説明する。図1乃至図6は本発明を適用した水中環境再生構造体を示すもので、コンクリートブロックとして消波ブロックを一例としている。同図において、消波ブロック1は、同一形状をした4個の脚体2a,2b,2c,2dを有するコンクリート成形品であり、例えば型枠(図示せず)にコンクリートを流し込んで一体に成形される。また、成形時、各脚体2a,2b,2c,2dは、その各基端部3a,3a,3a,3aを互いに結合させるとともに、各脚体2a,2b,2c,2dの軸線4,4,4,4を該消波ブロック1の中心O(重心)に合致させて、該4個の脚体2a,2b,2c,2dが中心Oから略120°間隔で放射状に延設された状態にして形成される。
【0030】
なお、上記の成形処理では、例えば砂利、セメント、水からなる基準混練物(以下、「生コンクリート」という)を混練する時に、藻類着生誘発物質としてアミノ酸又は核酸に代表される藻類着生誘発物質が該生コンクリート内に、該生コンクリートの全体比で3wt%乃至20wt%添加されている。該藻類着生誘発物質が混練された生コンクリートは、これを前記型枠に流し込んで固化させることで、所定のブロック形状に成形される。
【0031】
アミノ酸、核酸に代表される藻類着生誘発物質が混練された生コンクリートは、特に選ばれたアミノ酸、核酸において、該生コンクリートが固まるまでの少しの間、生コンクリートの粘り気を緩くする。これにより、該生コンクリートが型枠の隅々まで入り易くなり成形を容易にする。
【0032】
一方、該生コンクリートが固まってブロック形状の成型品(消波ブロック)が得られた後は、コンクリート表面及び内部に多孔状の透きが形成されて、多孔質の消波ブロックが得られる。従って、得られた多孔質の消波ブロックは、海中に設置して使用するとき、水に触れる表面積が多くなり、かつ、水の浸透を容易にするため、消波ブロック全体から当該藻類着生誘発物質を水中環境領域に流出しやすくする。
【0033】
さらに本発明の上記消波ブロック1を用い、消波ブロック1の表面積を多くし設けた形状にすると、藻類着生誘発物質の流出をさらに多くすることができる。
【0034】
本実施例においては、消波ブロック1の表面積をさらに増やすことができるようにするために、前記4個の脚体2a,2b,2c,2dを、該脚体2a,2b,2c,2dの長さ方向に沿って設けられている6本の稜線部22,22…と、該稜線部22,22…の間に各々設けられている平面部23,23…を有するようにして、横断面が正六角形をした六面柱として形成している。また、各脚体2a,2b,2c,2dは、横断面の面積が基端部3a側から先端部3bに向かって徐々に小さくなる先細りをした六角錐状に形成するとともに、先端部3bの端面24もカットして平坦面に形成している。
【0035】
さらに、4個の脚体2a,2b,2c,2dのうちの、3個の前記脚体(図1の場合では脚体2a,2b,2c)の基端部3a,3a,3aが各々集合されている4つの各部位はそれぞれ略水平面を成し、該水平面の中央部位にはそれぞれ凹陥部5,5,5,5を設けている。該各凹陥部5,5,5,5は、不連続に離間して形成された3個の第1凹陥部5a,5a,5aと、該3個の第1凹陥部5a,5a,5aで囲まれた内側部位に設けた1個の第2凹陥部5bとからなる。
【0036】
そして、前記第1凹陥部5a,5a,5aは、3個の前記脚体(図1の場合では脚体2a,2b,2c)のうち、相互に隣接している脚体間(図1の場合では脚体2aと2b、2bと2c、2cと2a)に形成されている。なお、各第1凹陥部5a,5a,5aにそれぞれ設けられている切り欠き部6,6,6は、第1凹陥部5a,5a,5a内に入り込んだ水を外部に排出し易くする。
【0037】
他方、前記第2凹陥部5bは、3個の第1凹陥部5a,5a,5aで囲まれた内側部位に、前記第1凹陥部5aの内方に段設部を設けた状態にして、平面視角形に形成されている。また、第2凹陥部5bの底面8には、図示しない微小な縞状の凹凸が形成してある。
【0038】
このように構成された消波ブロック1は、磯焼け状態の海域であれば、例えば漁港、海岸の水中及び海底に並べて配置されるが、その際、消波ブロック1は、設置状況等により一段配列とは限らず数段配列とすることもある。
【0039】
そして、水中に設置された消波ブロック1は、水と接触しているコンクリート表面積が多く確保されているので、該消波ブロック1中に混練された藻類着生誘発物質は、該コンクリート表面から適量ずつ徐々に時間を掛けて支柱で滲み出る。その結果、長期間に亘って顕著な藻類付着・育成の効果が発揮される。
【0040】
また、上記消波ブロック1の第2凹陥部(下段)5bは、第1凹陥部5a,5a,5aよりも奥まった内側に設けられているので水が溜まり易く、該第2凹陥部5bに海藻等の胞子が捕捉されて藻類や魚介類等の多様な生息環境を形成する。さらに、消波ブロック1底面8には縞状の微小の凹凸面を設けているので、該微小の凹凸面が藻類及びアワビ等の貝類の付着を容易にする。
【実施例】
【0041】
(アルギニン添加したコンクリートブロックの強度試験)
本発明における環境活性用コンクリートブロック(消波ブロック)の強度を試験するため、表1に示すような組成に調整し、Φ12.5×25の枠に詰めたのち、28日間養生した。得られた試供体の強度試験を実施した。
【0042】
【表1】

【0043】
※1:対セメント重量に対する添加率、※2:呼び強度
その結果アルギニンを対セメント重量に対して7wt%添加してもそのコンクリートブロックの圧縮強度を低下させないことが明らかになった。
【0044】
(アルギニンを添加したコンクリートブロックの密度等の試験)
次に、表2に示すような組成で試供体を調製し、Φ12.5×25の枠に詰めたのち、7日間養生した。得られた試供体の密度等を調べた。その結果を表2に示す
【0045】
【表2】

【0046】
※1:対セメント重量に対する添加率
その結果、アルギニンを添加したものはコンクリートブロック密度の値が小さく、また空気量、スランプ値が高い傾向にあることが判明した。このことからアルギニンを添加したコンクリートブロックは、多孔質の構造を有することが判る。
【0047】
(海中での沈設実験)
(実験方法)アミノ酸混和のコンクリートブロックは、例えばアルギニンを生コンクリートに3wt%乃至20wt%混和させて製作した。尚、強度試験結果から本発明のコンクリートブロックは構造体材料としても十分使用できることが判明した。以下、大阪府小島漁港で行った実証実験を一例として説明する。この漁港の海域は、大阪湾の南の出入り口に位置し、海底に十分な光が届き、藻場が広がる磯焼け状態の海域である。
【0048】
2009年6月に、アミノ酸混和コンクリートブロックAC(上記実施例5の組成物)と普通コンクリートブロックOC(上記比較例2の組成物)の2種類の供試体を海底(DL-3.5m)に沈設し、以後、毎月1回、水質、生物調査、付着藻類量などを測定した。
【0049】
(実験結果)コンクリート表面に付着する微細藻類については、普通コンクリートブロックOCもアミノ酸混和コンクリートブロックACも、コンクリート表面上での成長速度が大きく現存量も多かった。表3は、コンクリート表面上の大型藻の被覆率(%)を示す。
【0050】
【表3】

【0051】
大型藻類については、表3に示すように、ブロック設置直後からアミノ酸混和コンクリートブロックACの方が普通コンクリートブロックOCよりも緑藻綱の被覆率が大きく、その傾向は約1年間継続した。一方、ホンダワラ類については、普通コンクリートブロックOCの方がアミノ酸混和コンクリートブロックACよりも被覆率が大きかった。これはアミノ酸混和コンクリートブロックACでは、海藻の定着時期にアオサがコンクリート表面を覆うために、ホンダワラ類が定着する機会を失ったことに原因があると思われる。
【0052】
その他、藻場の縮小、消失と関連があると報告される無節サンゴモ類については、普通コンクリートブロックOCでは、ブロック設置後半年経過から無節サンゴモ類が出現し、更に1年半後には無節サンゴモ類の被覆率が85%にも達した。しかし、アミノ酸混和コンクリートブロックACでは無節サンゴモ類の出現時期は遅く、それ以後も、無節サンゴモ類が増加する傾向は見られなかった。以上より、アミノ酸混和コンクリートブロックACには微細、大型藻類の定着、成長を促進すること、並びに無節サンゴモ類の生育に適さない要素があることが判明した。
【0053】
又、普通コンクリートブロックOC及びアミノ酸混和コンクリートブロックACの表面上には、ナマコ等の堆積物食性生物、ゴカイ等の懸濁物食性生物、アワビ、サザエ等の付着藻類食性生物、及びサカナ、タコ等の肉食性・雑食性生物が出現したが、出現する生物の種類に関しては、表4に示すように、生物の出現種の組成などに大きな違いは見られなかったものの、普通コンクリートブロックOCの方がアミノ酸混和コンクリートブロックACよりも懸濁物食生物が多くなる傾向が観察された。
【0054】
上記の実験による藻類付着・育成効果は、アミノ酸を3wt%以上混和すれば確認されたが、この場合、アミノ酸に代えて核酸を混和したコンクリートブロックについても、アミノ酸混和コンクリートブロックと同様に、顕著な藻類付着・育成効果が確認された。
【0055】
【表4】

【0056】
叙上の如く本発明に係る水中環境再生構造体は、藻類に対して付着・育成効果を発揮する藻類着生誘発物質を混練してなるコンクリートブロックにより形成され、該コンクリートブロックの組成物中に、アミノ酸及び/又は核酸の1種又は2種以上から選ばれた藻類着生誘発物質が3wt%乃至20wt%配合されているので、磯焼け発生のメカニズムにおいて無節サンゴモの群落が優占することを防止しつつ、藻類を効率よく繁茂させることができる。したがって、ウニの摂餌圧を低減させて、磯焼け状態の海域から藻場を広範囲に再生させることができ、この場合、従来技術の如く装置が大掛かりになることもなく、無節サンゴのみを有効に枯死させることができる。
コンクリートブロックに混練された藻類着生誘発物質は、該コンクリートブロック表面から適量ずつ徐々に滲み出るので、該藻類着生誘発物が効率良く徐々に流出し、以て、藻の付着・育成の効果を長期間に亘って維持することができる。
【0057】
上記藻類着生誘発物質としてアルギニンを採択した場合は、該アルギニンを高濃度に配合しても、コンクリートブロックの強度を十分確保でき、かつ、非配合のコンクリートブロックに比較して該ブロック構造体の比重が小さくなる。このことは、アルギニンを含有するコンクリートブロック組成物は多孔質特性が一層高くなり、水中でのアルギニンが容易に流出するようになる。
【0058】
実施例では、上記コンクリートブロックは多数本の脚体を有し、且つ、各脚体が、該脚体の長さ方向に沿って設けられている複数本の稜線部と、該稜線部の間に各々設けられている平面部とを有する多面柱に形成されているので、水と接触するコンクリートブロックの表面積が増大する。従って、多孔質のコンクリートブロックの内部に水が染み込みやすくなり、この染み込んだ水を通して内部の藻類着生誘発物質がコンクリート表面から徐々に滲み出るようになる。そのため、コンクリートブロック全体から水中に滲み出る藻類着生誘発物質の量を多くすることができる。
【0059】
また、多数本の脚体は表面積を有するので、優れた藻類付着・育成効果を維持しつつ、コンクリートブロック自体の肉厚を全体的に薄く形成して、水中環境再生構造体の軽量化を図ることができる。
【0060】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変された物質に及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明の実施例では消波ブロックに適用した場合について説明したが、消波ブロックに限ることなく、一般的なコンクリートブロックにも応用できる。
【符号の説明】
【0062】
1 コンクリートブロック
2a,2b,2c,2d 脚体
3a 基端部
3b 先端部
4 軸線
5 凹陥部
5a 第1凹陥部
5b 第2凹陥部
6 切り欠き部
8 底面
10 コンクリートブロック
11 貯留部
12 管状連結部
22 稜線部
23 平面部
24 端面
O 中心(重心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類に対して付着・育成効果を発揮する藻類着生誘発物質を混練してなるコンクリートブロック製の水中環境再生構造体であって、前記藻類着生誘発物質がアミノ酸及び/又は核酸の1種又は2種以上から選ばれた物質であり、且つ、前記コンクリートブロックの組成物中に前記藻類着生誘発物質が3wt%乃至20wt%配合されていることを特徴とする水中環境再生構造体。
【請求項2】
上記藻類着生誘発物質がアルギニンであることを特徴とする請求項1記載の水中環境再生構造体。
【請求項3】
上記コンクリートブロックが少なくとも3本以上の脚体を有することを特徴とする請求項1記載の水中環境再生構造体。
【請求項4】
上記コンクリートブロックの上記脚体が、該脚体の長さ方向に沿って設けられた複数本の稜線部と、該稜線部の間に各々設けられた平面部とを有して多面柱に形成されていることを特徴とする請求項3記載の水中環境再生構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−191892(P2012−191892A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58569(P2011−58569)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000226356)日建工学株式会社 (24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】