説明

水中航走体の位置較正方法

【課題】 音響測位可能な領域が小さくても精度よく位置較正できるようにする。
【解決手段】 音響測位実施可能領域23に、円周状位置検出用経路24を設定する。水中航走体6を、自身で計測する慣性航法位置25に基づいて円周状位置検出用経路24に沿って航走させながら、支援船側より音響測位を行う。次いで、水中航走体6が最も東寄りに位置するときの音響測位位置26の経度成分の代表値27と、慣性航法位置25の経度成分の代表値29から経度方向に関する偏差δxを求め、水中航走体6が最も南寄りに位置するときの音響測位位置26の緯度成分の代表値28と、慣性航法位置25の緯度成分の代表値30から緯度方向の偏差δyを求める。その後、各偏差δx,δyにより水中航走体6が自身で測位する慣性航法位置25を較正させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性航法により水中航走体自身で測位される位置を較正するために用いる水中航走体の位置較正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底(湖底)や水中における種々の調査等を行うための手段の1つとして、自律航走する無人の水中航走体が使用されている。
【0003】
この種の水中航走体は、地球座標上の緯度及び経度と、海面からの深度とからなる該水中航走体の位置を計測し、その計測された位置を基に、予め与えられた経路を航走するようにしてある。この際、水中航走体の地球座標上の緯度と経度を測位する方法としては、一般的に、音響測位と、慣性航法による測位の2つの測位方法が併用されている。
【0004】
上記音響測位は、たとえば、水中航走体用の支援船(母船)に、音響測位装置において水中に音波を送信し反射波を受信するアレイ状の送受波器(トランシーバ)を装備し、水中航走体に、音響測位装置におけるトランスポンダを装備して、上記支援船の送受波器よりパルス波を発信し、水中航走体のトランスポンダがこのパルス波を受信すると、その時点で直ちに返信用のパルス波を返信するようにしたものとしてある。したがって、この返信用のパルス波を上記支援船の送受波器で受けて検出する。これにより、上記支援船の送受波器よりパルス波を発信してから返信用のパルス波が該送受波器で検出されるまでの経過時間に、水中の音速をかけ、その1/2の値を求めて上記支援船から水中航走体までの距離を検出すると共に、上記アレイ状としてある送受波器により上記返信用のパルス波の到来する方向を検出することで、上記支援船の送受波器に対する上記水中航走体の相対的な位置を計測するようにしたものである。
【0005】
更に、上記支援船には、GPS等の海上測位システム、及び、該支援船のロール、ピッチ、ヨーを計測する姿勢計測装置が装備してあり、上記のように支援船の送受波器と水中航走体のトランスポンダとの間でパルス波の送受信を行うときに、上記海上測位システムにより支援船の地球座標上における位置(緯度、経度及び海底からの高度)を計測すると共に、上記姿勢計測装置により支援船の姿勢変化(ロール、ピッチ、ヨー)を計測することで、該支援船に装備してある上記音響測位装置の送受波器を原点とした支援船固定座標系(以下、送受波器座標系と記す。)の、地球座標系における位置と姿勢を求めて、上記送受波器座標系での上記水中航走体の位置を地球座標系における位置に変換することで、上記水中航走体の地球座標上における位置(緯度、経度及び海底からの高度)を計測できるようにしてある。
【0006】
一方、上記慣性航法による測位は、水中航走体に、該水中航走体のロール、ピッチ、ヨーと、該水中航走体に作用する加速度を検出できるようにしてある慣性航法装置を搭載して、上記支援船の地球座標上における緯度と経度を基に与えられる上記水中航走体の航走を開始した始点の位置・速度情報に、上記慣性航法装置により検出される水中航走体の加速度を2階積分することで得た航走距離(移動量)の情報を足し合わせることにより、水中航走体の地球座標上における緯度と経度を、該水中航走体自身で計測するようにしたものである。
【0007】
なお、水中航走体は、通常、ドップラー式の対地速度計を装備して、該水中航走体が海底(湖底)近くを航走するときには、上記対地速度計により対地速度を検出することで、該水中航走体の航走距離(移動量)を精度よく検出できるようにしてある。しかし、上記ドップラー式の対地速度計は、海底の近くでしか使用できない。そのために、水中航走体を深深度で運用する場合は、支援船より海中に投入された水中航走体を海底近くに到達させるまでは、上記慣性航法、又は、該慣性航法に更に対水速度を考慮した慣性航法による測位を行いながら自律航走させる必要がある。
【0008】
ところが、上記水中航走体が自身で測位を行うための慣性航法による測位は、上述したように、水中航走体に作用する加速度を2階積分して求まる上記水中航走体の航走距離(移動量)に基づいて、該水中航走体の位置を計測するという計測原理上、上記水中航走体の加速度を検出するために用いる検出器の精度に依存して生じる加速度の検出誤差や、姿勢の検出誤差のための位置誤差が時間の経過と共に累積する。そのために、水中航走体の慣性航法による自律航走を長時間行うと、該慣性航法に基づいて水中航走体が自身で測位している地球座標上の緯度及び経度と、実際の水中航走体の地球座標上の緯度及び経度にずれが生じてしまうため、上記慣性航法による測位のみでは、該水中航走体を、予め与えられた経路に沿って長時間航走させることが困難になる。
【0009】
そのため、上記水中航走体においては、慣性航法による位置誤差が運用で要求される位置誤差よりも大きくなった場合には、水中航走体が慣性航法により自身で測位している地球座標上の緯度及び経度について較正を行って、実際に水中航走体が存在している地球座標上の緯度及び経度とのずれを解消させる必要が生じる。
【0010】
特に、水中航走体を深深度で運用する場合は、支援船より海中に投入された水中航走体が慣性航法による自律航走により海底近くまで潜航して、ドップラー式の対地速度計による海底との対地速度の検出が可能になった後に、慣性航法により該水中航走体が自身で測位している地球座標上の緯度及び経度について較正を行うことが必須とされる。
【0011】
この種の水中航走体が慣性航法により水中航走体自身で測位した緯度及び経度の較正方法としては、図5に示す如く、水中航走体(図示せず)を、交差する2つの直線状の位置修正用経路として、慣性航法による測位に基づいて該水中航走体自身で判断した或る等緯度線に沿う緯度検出経路1と、或る等経度線に沿う経度検出経路2に沿ってそれぞれある程度の時間航走させて、上記緯度検出経路1に沿う航走時と、経度検出経路2に沿う航走時に、図示しない支援船側で音響測位による上記水中航走体の測位をそれぞれ複数回行い、音響測位で得られた図5に黒丸で示す如き上記水中航走体の位置3のデータを基に、水中航走体の緯度検出経路1に沿う航走時に得られた位置計測データの緯度成分のみを平均した平均緯度線4を求めて、該平均緯度線4と上記緯度検出経路1との偏差(差分)δLATを求める。
【0012】
更に、上記音響測位で得られた上記水中航走体の位置3のデータを基に、水中航走体の経度検出経路2に沿う航走時に得られた位置計測データの経度成分のみを平均した平均経度線5を求めて、該平均経度線5と上記経度検出経路2との偏差(差分)δLONを求める。
【0013】
次いで、上記緯度方向及び経度方向の偏差δLAT及びδLONを、上記図示しない支援船より水中航走体へ音響通信により与えて、水中航走体が慣性航法により自身で判断している地球座標上の緯度及び経度を、上記緯度方向及び経度方向の偏差δLAT及びδLONを用いてそれぞれ較正させるようにする手法が従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0014】
なお、上記水中航走体の深度の計測は、一般的に、該水中航走体に装備された深度計を用いるようにしてあり、その検出の際、積分計算を行うことはないため、時間の経過に伴って誤差が累積する虞はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−313087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところが、特許文献1に示された手法では、交差する2つの直線状の位置修正用経路として、等緯度線に沿う緯度検出経路1と、等経度線に沿う経度検出経路2に沿って航走を行わせながら支援船側より音響測位を行う必要があるため、上記交差する2つの直線状の緯度検出経路1及び経度検出経路2の全長に亘り上記音響測位を良好に実施することが可能な広いスペースが必要となる。
【0017】
しかし、水中航走体を水槽内で運用する場合や、狭い海域で運用する場合、更には、音響測位装置の有効範囲に制限がある場合は、上記のような交差する2本の直線状の位置修正用経路の全体に亘り音響測位が良好に実施可能な広いスペースを確保するのが難しくなる可能性がある。
【0018】
そこで、本発明は、音響測位を良好に実施可能な広い領域を確保するのが困難な場合であっても、水中航走体が慣性航法に基づいて自身で計測している位置(慣性航法位置)の較正を精度よく実施できるようにするための水中航走体の位置較正方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、或る2つの特定方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路を設定し、水中航走体が慣性航法により自身で測位する慣性航法位置に基づいて上記位置検出用経路に沿って走行するときに、支援船側より音響測位を行い、次いで、上記位置検出用経路を航走する水中航走体の上記2つの特定方向のうちの一方の特定方向に関する速度成分が変化する個所について得られた音響測位位置について、上記一方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求めると共に、上記2つの特定方向のうちの他方の特定方向に関する速度成分が変化する個所について得られた音響測位位置について、上記他方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求め、更に、上記2つの特定方向のうちの一方の特定方向に関する速度成分が変化する個所における慣性航法位置について、上記一方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求めると共に、上記2つの特定方向のうちの他方の特定方向に関する速度成分が変化する個所における慣性航法位置について、上記他方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求め、上記一方の特定方向に関する音響測位位置の代表値に対する慣性航法位置の代表値の偏差と、上記他方の特定方向に関する音響測位位置の代表値に対する慣性航法位置の代表値の偏差を求めて、該各偏差により、上記水中航走体が自身で測位する慣性航法位置を較正させるようにする。
【0020】
又、上記構成において、或る2つの特定方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路を、南北方向のいずれか一方と、東西方向のいずれか一方に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路とするようにする。
【0021】
更に、上記各構成において、或る2つの特定方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路を、円周状位置検出用経路とするようにする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水中航走体の位置較正方法によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)或る2つの特定方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路を設定し、水中航走体が慣性航法により自身で測位する慣性航法位置に基づいて上記位置検出用経路に沿って走行するときに、支援船側より音響測位を行い、次いで、上記位置検出用経路を航走する水中航走体の上記2つの特定方向のうちの一方の特定方向に関する速度成分が変化する個所について得られた音響測位位置について、上記一方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求めると共に、上記2つの特定方向のうちの他方の特定方向に関する速度成分が変化する個所について得られた音響測位位置について、上記他方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求め、更に、上記2つの特定方向のうちの一方の特定方向に関する速度成分が変化する個所における慣性航法位置について、上記一方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求めると共に、上記2つの特定方向のうちの他方の特定方向に関する速度成分が変化する個所における慣性航法位置について、上記他方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求め、上記一方の特定方向に関する音響測位位置の代表値に対する慣性航法位置の代表値の偏差と、上記他方の特定方向に関する音響測位位置の代表値に対する慣性航法位置の代表値の偏差を求めて、該各偏差により、上記水中航走体が自身で測位する慣性航法位置を較正させるようにしてあるので、水中航走体が自身で検出している慣性航法位置について、上記支援船側より音響測位することで得られる水中航走体の音響測位位置に基づく較正を実施できる。
(2)更に、上記水中航走体の慣性航法位置の較正を行うための該水中航走体の音響測位は、或る2つの特定方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化するように設定した位置検出用経路に沿って水中航走体を航走させながら行うのみでよいため、互いに交差する2つの直線状の経路に沿って水中航走体を航走させた状態で音響測位を行う場合に比して、音響測位を行うために水中航走体を航走させる領域を、大幅に削減することができる。
(3)したがって、水中航走体を水槽内で運用する場合や、狭い海域で運用する場合、更には、音響測位装置の有効範囲に制限がある場合等、音響測位を良好に実施可能な広い領域を確保するのが困難な場合であっても、水中航走体が自身で計測している慣性航法位置の較正を精度よく実施することが可能になる。
(4)更に、上記水中航走体を運用目的に応じた所定のコースに沿って航走させるための運用領域内に、音響測位が良好に実施可能な領域と、音響測位が良好に行えない領域が存在していても、上記音響測位が良好に実施可能な領域に上記位置検出用経路を設定することにより、上記運用領域内で運用目的に応じた所定のコースに沿って航走させる水中航走体を、定期的に上記音響測位が良好に実施可能な領域へ戻して上記位置検出用経路に沿って航走させることにより、上記水中航走体について、自身で計測する慣性航法位置の較正を定期的に且つ容易に行わせることができる。よって、上記水中航走体を、上記運用領域の所定のコースに沿って航走させて、その運用目的に沿って正しく運用することができる。
(5)更には、水中航走体を本来の目的とする航走経路とは異なる慣性航法位置の較正のためだけに航走させる距離の短縮化を図ることができて、上記慣性航法位置の較正を行うための水中航走体の消費エネルギーを削減する効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の水中航走体の位置較正方法の実施の一形態を示す概要図である。
【図2】図1の位置較正方法の実施に用いる水中航走体とその支援船のシステム構成の概要を示す図である。
【図3】本発明の実施の他の形態として、水中航走体の位置検出用経路の別の例を示すものである。
【図4】本発明の実施の更に他の形態として、水中航走体の位置検出用経路の更に別の例を示すもので、(イ)は音響測位可能領域に設定した東方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化するように設定した位置検出用経路を水中航走体が通過する状態を、(ロ)は音響測位可能領域に設定した南方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化するように設定した位置検出用経路を水中航走体が通過する状態をそれぞれ示す図である。
【図5】従来提案されている水中航走体の慣性航法による測位位置の較正方法の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0025】
図1及び図2は本発明の水中航走体の位置較正方法の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0026】
ここで、先ず、本発明の水中航走体の位置較正方法の実施に用いる装置の構成について説明すると、図2に示すように、水中航走体6用の支援船7側に、海上に浮かぶ該支援船7の地球座標上の位置(緯度及び経度)を計測するためのGPS等の海上測位システム9と、該支援船7のロール、ピッチ、ヨーを計測する姿勢計測装置10を接続した水中航走体6用の船上管制装置8を設け、該船上管制装置8に、音響測位装置における親機となる水中に音波を送信し反射波を受信するアレイ式の送受波器(トランシーバ)11と、水中航走体6と音響通信を行うための音響通信装置12を接続する。13は上記船上管制装置8の入力部、14は上記船上管制装置8の表示部である。
【0027】
一方、水中航走体6には、慣性航法装置16と、深度計17と、ドップラー式の対地速度計18を接続した水中航走体制御装置15を設けると共に、該水中航走体制御装置15に、上記支援船7の音響測位装置の送受波器11より発信されるパルス波を受信すると直ちに返信用のパルス波を返信するトランスポンダ19と、上記支援船7の音響通信装置12と相互に音響通信を行うための音響通信装置20を装備してなる構成とする。21は上記水中航走体制御装置15に接続したGPS等の海上測位システムであり、上記水中航走体6が海面に浮上しているときには上記海上測位システム21によって自身で地球座標上の位置(緯度及び経度)を計測することができるようにしてある。
【0028】
上記構成としてある水中航走体6とその支援船7を用いて本発明の水中航走体の位置較正方法を実施する場合は、予め、図1に示すように、水中航走体6の運用領域22における音響測位が良好に実施可能な領域(以下、音響測位実施可能領域と云う)23内に、互いに180度以外の角度配置となるよう設定した或る2つの特定方向(方位)に関して水中航走体6の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路として、たとえば、紙面上方を北とした場合に、図1に示すように上記音響測位実施可能領域23に北側より進入する水中航走体6の東方向に関する速度成分(東向きの速度成分)の符号が1回変化し、更に、南方向に関する速度成分(南向きの速度成分)の符号が1回変化する経路である円周状の位置検出用経路24を設定する。なお、この円周状位置検出用経路24は、上記水中航走体6の最小旋回半径等を考慮して所要半径の円周の周方向所要間隔の複数個所に適宜ウェイポイントを設定することにより、上記水中航走体6が該円周状位置検出用経路24に沿ってほぼ円周状に航走できるようにしてあればよい。
【0029】
その後、上記水中航走体6の水中航走体制御装置15にて、慣性航法装置16より入力される該水中航走体6の姿勢に関するデータと、対地速度計18より入力される水中航走体6の対地速度(航走体座標)のデータより変換して求めた該水中航走体6の緯度方向及び経度方向の速度データを積分して、該水中航走体6の慣性航法に基づく緯度方向と経度方向の位置(慣性航法位置)25を求めて、この慣性航法位置25の情報を基にして、上記運用領域22で運用されていた水中航走体6を、上記音響測位実施可能領域へ移動させると共に、予め設定された上記円周状位置検出用経路24に沿って航走させる。
【0030】
この際、円周状位置検出用経路24を航走する上記水中航走体6では、上記水中航走体制御装置15にて計測されている該水中航走体6の慣性航法位置25の位置データを、音響通信装置20と12間の音響通信を介して上記支援船7の船上管制装置8へ送るようにしてある。なお、音響通信が速度制限を受けることに鑑みて、上記慣性航法位置25の位置データの送信は、数秒に1回程度で行うようにしてあるものとする。
【0031】
更に、上記水中航走体6が上記円周状位置検出用経路24に沿って航走しているときに、支援船7側より上記水中航走体6の音響測位を所要の時間間隔、たとえば、数秒に一度程度の間隔で行う。
【0032】
この音響測位は、具体的には、支援船7に設けてある音響測位装置のアレイ式の送受波器11よりパルス波を発信させ、このパルス波を受信した水中航走体6のトランスポンダ19が直ちに返信する返信用のパルス波が上記支援船7の送受波器11により受信された時点で、該送受波器11よりパルス波を発信してから上記トランスポンダ19より返信された返信用のパルス波が検出されるまでに要した時間と、水中の音速とから、上記支援船7に設けた送受波器11から上記水中航走体6までの距離を求めると共に、上記アレイ式の送受波器11で受信される上記返信用のパルス波の到来する方向とから、上記支援船7の送受波器11に対する上記水中航走体6の相対位置を求めて、この相対位置の計測データを、船上管制装置8に入力させるようにする。
【0033】
同時に、上記支援船7に備えた海上測位システム9により検出される地球座標上における該支援船7の緯度及び経度の計測データと、上記姿勢計測装置10により検出される支援船7のロール、ピッチ、ヨーの姿勢計測データとを上記船上管制装置8へ入力させ、該船上管制装置8にて、上記支援船7の地球座標上での緯度及び経度の計測データ、及び、支援船7の姿勢計測データより、、該支援船7に装備してある上記送受波器11を原点とした支援船7に固定の送受波器座標系の、地球座標系における位置と姿勢を求めて、上記送受波器11に対する相対位置として該送受波器座標系で計測されている上記水中航走体6の位置を、地球座標系における位置に変換することで、上記水中航走体6の地球座標上における緯度及び経度の位置(音響測位位置)26を計測するようにする。
【0034】
ここで、上記円周状位置検出用経路24に沿って航走する水中航走体6について、該水中航走体6自身の水中航走体制御装置15で計測(測位)された後、音響通信を介して上記船上管制装置8へ送られた慣性航法位置25と、上記船上管制装置8で計測された音響測位位置26とを対比すると、図1に示すように、上記水中航走体6自身で計測される慣性航法位置25は、上記円周状位置検出用経路24にほぼ一致する(図1では図示する便宜上、慣性航法位置25を上記円周状位置検出用経路24と一致した状態が示してある)のに対し、上記音響測位位置26は、図1に二点鎖線で示すように、地球座標上でプロットすると、水中航走体6が自身で計測する慣性航法位置に累積している誤差に応じて、本来の目標航走経路である上記円周状位置検出用経路よりずれた配置となる。
【0035】
以上の点に鑑みて、上記船上管制装置8では、上記円周状位置検出用経路24を航走する水中航走体6について所要の時間間隔で計測される音響測位位置26の情報を基に、上記円周状位置検出用経路24を設定する際に予め設定してある2つの特定方向である東方向と南方向に関して水中航走体6の速度成分の符号が変化する個所、具体的には、上記円周状位置検出用経路24を航走する水中航走体6が最も東に寄る個所と、最も南に寄る個所を特定する。更に、上記水中航走体6が最も東に寄る個所については、該個所を通る水中航走体6について所要の時間間隔で得られている複数の音響測位位置26のデータを基に、対応する特定方向としての東方向の成分の分布に関する代表値27、すなわち、この場合は経度成分の代表値27を求める。又、同様に、上記水中航走体6が最も南に寄る個所については、該個所を通る水中航走体6について所要の時間間隔で得られている複数の音響測位位置26のデータを基に、対応する特定方向としての南方向の成分の分布に関する代表値28、すなわち、この場合は緯度成分の代表値28を求める。
【0036】
又、上記船上管制装置8では、上記円周状位置検出用経路24を航走する水中航走体6について上記水中航走体制御装置15より音響通信を介して送られた慣性航法位置25の情報を基に、上記と同様に2つの特定方向である東方向と南方向に関して水中航走体6の速度成分の符号が変化する個所としての上記円周状位置検出用経路24を航走する水中航走体6が最も東に寄る個所、及び、最も南に寄る個所を特定する。更に、上記水中航走体6が最も東に寄る個所については、該個所を通る水中航走体6について得られている複数の慣性航法位置25のデータを基に、対応する特定方向としての東方向の成分の分布に関する代表値29、すなわち、この場合は経度成分の代表値29を求める。又、同様に、上記水中航走体6が最も南に寄る個所については、該個所を通る水中航走体6について所要の時間間隔で得られている複数の音響測位位置26のデータを基に、対応する特定方向としての南方向の成分の分布に関する代表値30、すなわち、この場合は緯度成分の代表値30を求める。
【0037】
次いで、上記船上管制装置8では、上記のようにして得られた音響測位位置26の上記2つの特定方向のうちの一方の特定方向である東方向(経度方向)に関する代表値27と、慣性航法位置25の東方向(経度方向)に関する代表値29との差分をとることで、該慣性航法位置25の上記一方の特定方向に一致する経度方向に関する偏差δxを求める。又、同様に、上記のようにして得られた音響測位位置26の上記2つの特定方向のうちの他方の特定方向である南方向(緯度方向)に関する代表値28と、慣性航法位置25の南方向(緯度方向)に関する代表値30との差分をとることで、該慣性航法位置25の上記他方の特定方向に一致する緯度方向に関する偏差δyを求める。
【0038】
上記のようにして慣性航法位置25の経度方向の偏差δx及び緯度方向の偏差δyが求まると、上記船上管制装置8は、該各偏差δx,δyのデータを音響通信装置12と20間の音響通信を介して水中航走体6の水中航走体制御装置15へ送信する。
【0039】
その後、上記水中航走体6の水中航走体制御装置15において、自身で検出している慣性航法位置25について、上記船上管制装置8より送られた経度方向の偏差δx及び緯度方向の偏差δyに基づく修正と更新を行うことで、上記水中航走体6の慣性航法位置25を構成する。
【0040】
このように、本発明の水中航走体の位置較正方法によれば、水中航走体6が自身で検出している慣性航法位置25について、上記支援船7側より音響測位することで得られる水中航走体6の音響測位位置26に基づく較正を実施できる。
【0041】
更に、上記水中航走体6の慣性航法位置25の較正を行うための該水中航走体6の音響測位は、水中航走体6の運用領域22内における音響測位実施可能領域23に設定した円周状の位置検出用経路24に沿って航走させながら行うのみでよいため、従来の互いに交差する2つの直線状の経路に沿って水中航走体を航走させた状態で音響測位を行う場合に比して、音響測位を行うために水中航走体6を航走させる領域を、大幅に削減することができる。
【0042】
したがって、本発明の水中航走体の位置較正方法は、水中航走体6を水槽内で運用する場合や、狭い海域で運用する場合、更には、支援船7に装備した送受波器11と水中航走体6に装備したトランスポンダ19からなる音響測位装置の有効範囲に制限がある場合等、音響測位を良好に実施可能な広い領域を確保するのが困難な場合であっても、水中航走体6が自身で計測している慣性航法位置の較正を精度よく実施することが可能になる。
【0043】
更に、上記水中航走体6の運用領域22内に、音響測位が良好に実施可能な領域と、音響測位が良好に行えない領域が存在していても、上記運用領域22内で運用目的に応じた所定のコースに沿って航走させる水中航走体6を、定期的に上記音響測位が良好に実施可能な領域23へ戻して上記円周状位置検出用経路24に沿って航走させることにより、上記運用領域22で運用される水中航走体6について、自身で計測(測位)する慣性航法位置25の較正を定期的に且つ容易に行わせることができる。よって、水中航走体6を、上記運用領域22の所定のコースに沿って航走させて、その運用目的に沿って正しく運用することができる。
【0044】
又、水中航走体6を本来の目的とする航走経路とは異なる慣性航法位置25の較正のためだけに航走させる距離の短縮化を図ることができて、上記慣性航法位置25の較正を行うための水中航走体6の消費エネルギーを削減する効果も期待できる。
【0045】
更に、上記円周状位置検出用経路24を設定するための或る2つの特定方向を、東方向と南方向としてあるので、該各方向に関して水中航走体6の速度成分の符号が変化する位置にて、それぞれ対応する特定方向の成分の代表値として、音響測位位置26の経度成分の代表値27と緯度成分の代表値28、及び、慣性航法位置の経度成分の代表値29と緯度成分の代表値30を求めることができ、このため、慣性航法位置25に関する経度方向の偏差δxと緯度方向の偏差δyを容易に求めることができて、演算処理を容易なものとすることができる。なお、この効果は、上記円周状位置検出用経路24を設定するための或る2つの特定方向を、南北方向のいずれか一方と、東西方向のいずれか一方に設定すれば、同様に得ることができる。
【0046】
更に又、位置検出用経路を円周状位置検出用経路24としてあるので、上述した各効果を得るための位置検出用経路を容易に設定することができる。
【0047】
上記においては、運用領域22内で所定のコースに沿って航走させて運用する水中航走体6を、慣性航法位置25の較正を行うためだけに本来のコースより外れて上記音響測位実施可能領域23まで移動させて円周状位置検出用経路24に沿って航走させる場合について示したが、図3に示すように、上記運用領域22内における水中航走体6の所定のコースが屈曲する部分に、2つの特定方向である、たとえば、東方向と南方向に関する水中航走体6の速度成分の符号が1回変化する部分を備えた円弧状の位置検出用経路31を設定するようにしてもよい。このようにすれば、上記運用領域22内で上記所定のコースを周回する水中航走体6が、上記音響測位実施可能領域23を通過するときに、毎回、上記水中航走体6が自身で計測(測位)している慣性航法位置25の較正を行うことができる。
【0048】
更に、図4(イ)(ロ)に示すように、上記音響測位実施可能領域23に、2つの特定方向であるたとえば東方向と南方向のうち、一方の特定方向となる東方向に関する水中航走体6の速度成分の符号が1回変化する部分を備えた円弧状の位置検出用経路32aと、他方の特定方向となる南方向に関する水中航走体6の速度成分の符号が1回変化する部分を備えた円弧状の位置検出用経路32bとを不連続な状態で設定して、図4(イ)と図4(ロ)に示すように、上記運用領域22で所定のコースに沿って航走させて運用している水中航走体6を、別々の時点で上記位置検出用経路32aと32bに沿って航走させるようにしてもよい。
【0049】
この場合は、上記運用領域22内で上記所定のコースを周回する水中航走体6が、上記音響測位実施可能領域23に設定された位置検出用経路32aに沿う航走と、位置検出用経路32bに沿う航走の双方が終了した時点で、上記水中航走体6が自身で計測(測位)している慣性航法位置25の較正を行うようにすればよい。
【0050】
上記図3及び図4(イ)(ロ)において、図1及び図2に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0051】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、音響測位実施可能領域23に、互いに180度以外の角度配置となるよう設定した或る2つの特定方向(方位)に関して水中航走体6の速度成分の符号が1回変化するように位置検出用経路を設定できれば、上記2つの特定方向は、東と南以外のいかなる方向(方位)に設定してもよく、又、上記2つの特定方向のなす角度は直角以外の角度であってもよい。更に、上記位置検出用経路に沿う水中航走体6の航走方向は、運用領域22における水中航走体6の所定のコースの配置等に応じて任意に決定してよい。
【0052】
この場合は、上記2つの特定方向に関して水中航走体6の速度成分の符号が変化する個所について、該各個所を通る水中航走体6の音響測位位置26のデータと、慣性航法位置25のデータについて、それぞれ対応する特定方向の成分の分布に関する代表値を求めて、この音響測位位置26のデータについて求められた代表値と、慣性航法位置25のデータについて求められた代表値同士の差分で、それぞれ対応する特定方向に関する偏差を求めた後、該各偏差を用いて、水中航走体6が自身で計測(測位)している慣性航法位置25をそれぞれ対応する特定方向へ位置修正して更新することで、該水中航走体6の慣性航法位置25の較正を行うようにすればよい。
【0053】
更に、上記位置検出用経路に沿う水中航走体6の航走方向は、運用領域22における水中航走体6の所定のコースの配置等に応じて自在に設定してよい。
【0054】
慣性航法に基づいて自身の位置の計測を行いながら自律航走を継続して行うことができるようにしてある水中航走体6であれば、いかなる形式、いかなる用途の水中航走体6の慣性航法位置の較正に適用してもよい。
【0055】
支援船7に装備する海上測位システム9は、該支援船7の地球座標上における緯度と経度を所望する精度で得ることができれば、GPS以外のいかなる形式の海上測位システム9を採用してもよい。
【0056】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
6 水中航走体
7 支援船
23 音響測位実施可能領域
24 円周状位置検出用経路(位置検出用用経路)
25 慣性航法位置
26 音響測位位置
27 代表値
28 代表値
29 代表値
30 代表値
31 位置検出用経路
32a,32b 位置検出用経路
δx 偏差
δy 偏差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
或る2つの特定方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路を設定し、水中航走体が慣性航法により自身で測位する慣性航法位置に基づいて上記位置検出用経路に沿って走行するときに、支援船側より音響測位を行い、次いで、上記位置検出用経路を航走する水中航走体の上記2つの特定方向のうちの一方の特定方向に関する速度成分が変化する個所について得られた音響測位位置について、上記一方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求めると共に、上記2つの特定方向のうちの他方の特定方向に関する速度成分が変化する個所について得られた音響測位位置について、上記他方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求め、更に、上記2つの特定方向のうちの一方の特定方向に関する速度成分が変化する個所における慣性航法位置について、上記一方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求めると共に、上記2つの特定方向のうちの他方の特定方向に関する速度成分が変化する個所における慣性航法位置について、上記他方の特定方向の成分の分布に関する代表値を求め、上記一方の特定方向に関する音響測位位置の代表値に対する慣性航法位置の代表値の偏差と、上記他方の特定方向に関する音響測位位置の代表値に対する慣性航法位置の代表値の偏差を求めて、該各偏差により、上記水中航走体が自身で測位する慣性航法位置を較正させるようにすることを特徴とする水中航走体の位置較正方法。
【請求項2】
或る2つの特定方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路を、南北方向のいずれか一方と、東西方向のいずれか一方に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路とするようにする請求項1記載の水中航走体の位置較正方法。
【請求項3】
或る2つの特定方向に関して水中航走体の速度成分の符号が1回変化する位置検出用経路を、円周状位置検出用経路とする請求項1又は2記載の水中航走体の位置較正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163933(P2011−163933A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27011(P2010−27011)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】