説明

水中電波暗室及び電磁ノイズ計測方法

【課題】電磁ノイズの遮蔽を良好に行なうことができて計測精度の高い信頼性を得ることができると共に、場所の確保が容易で利便性が良く、しかも安価な水中電波暗室を提供する。
【解決手段】多面体容器状の耐圧性の暗室本体2の内周面を電磁波吸収体3により覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの電磁ノイズの影響を受けることを減少させた水中電波暗室及び電磁ノイズ計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁両立性、すなわち電気・電子機器から発せられる電磁ノイズが他のどのような機器、システムに対しても影響を与えず、又、他の機器、システムからの電磁ノイズを受けても電子・電気機器が支障なく作動する耐性を試験する際に、供試体である電気・電子機器を収納する電波暗室が従来から使用されている。
【0003】
而して、斯かる電波暗室は、従来は電磁ノイズの少ない山中(丹沢等)に設置されるか、或は市街地に暗室を設けて、暗室建屋の壁面、天井面を電磁波吸収体で覆い、電磁ノイズのレベルを減少させるようにしている。又、電波暗室の先行技術文献としては、例えば、特許文献1〜4等がある。
【特許文献1】特開2001−244686号公報
【特許文献2】特開2002−57487号公報
【特許文献3】特開2005−347524号公報
【特許文献4】特開2007−27274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波暗室を山中に設置する場合は、場所の確保が困難であると共に、交通の利便性が悪い。又、電波暗室を市街地に設置した際には、電柱、埋設送電線、電車、工場等、強電界の電磁ノイズを避けることが困難であり、完全に電磁ノイズを遮蔽できる電波暗室が得られ難い。本願発明者等は、市街地に従来周知構造の電波暗室を設置して完全に遮蔽し、全ての電源を落として外部からどの程度の定常的な電磁ノイズが電波暗室内に入り込むか、計測を行なった。その計測結果は図3〜図5に示されている。図3〜図5において、横軸は周波数(Hz)、縦軸は電磁ノイズの強度(dBμV/m)であり、又、イは電磁ノイズ、ロはNB(ナローバンド)において国際規格で許容される電磁ノイズの閾値、ハはBB(ブロードバンド)において国際規格で許容される電磁ノイズの尖頭値(ピーク値)、ニはBB(ブロードバンド)において国際規格で許容される電磁ノイズの準尖頭値(QP値)である。なお、図3〜図5のグラフは夫々異なる日の異なる時刻に計測したものである。
【0005】
図3〜図5のグラフから、電波暗室を用いることにより、全体の外来電磁ノイズはかなり低減できるが、完全に無くすことはできない。又、電気・電子機器が車載機器のように誤動作を完全に防止する必要がある場合には、自己放射電磁ノイズや外来電磁ノイズに対する高い耐性を要求されると共に、閾値に対する要求が高いため、外来電磁ノイズを更に低減し計測精度を高くする必要がある。更に、電波暗室外の環境の違いにより、日によって電磁ノイズの測定結果が異なるため、斯かる電波暗室の場合には電磁両立性に関する計測精度について高い信頼性を得ることはできない。
【0006】
更に山中に設置した場合でも市街地に設置した場合でも、暗室の建屋設備が高価となる。又、特許文献1〜4の電波暗室でも前記したと同様の問題がある。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、外来電磁ノイズの遮蔽を良好に行なうことができて計測精度の高い信頼性を得ることができると共に、場所の確保が容易で利便性が良く、しかも安価な水中電波暗室及び電磁ノイズ計測方法を提供することを目的としてなしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水中電波暗室は、耐水圧性の暗室本体の内周面を電磁波吸収体により覆ったことを特徴とするものである。暗室本体は多面体容器状とすることが好ましい。
【0009】
本発明では、水中電波暗室を水中に沈下させて水中電波室に収納した供試体の電磁ノイズを計測することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水中電波暗室及び電磁ノイズ計測方法によれば、下記のごとき種々の優れた効果を奏し得る。
I)水は、大地接地(アース)状態にあり、且つ水中電波暗室全体を包囲しているため、シールドとなり、又、空中から水面に向って放射された電磁ノイズの多くは、水面で反射されて水中に入射されず、更に、水中に入射しても急速に減衰して水中電波暗室に到達することを大幅に抑制され、その結果、良好な水中電波暗室を実現できる。
II)供試体から発した電磁ノイズの一部は、電磁波吸収体にぶつかり吸収されるため、電磁波吸収体から供試体に向かい電磁ノイズが放射されることはなく、従って、供試体の発する電磁ノイズを正確に計測でき、計測精度が高く信頼性が良好となる。
III)電磁ノイズが電磁波吸収体に吸収されると熱が発生して電磁波吸収体の温度が上昇するが、暗室本体は水中に浸漬されているため、熱が暗室本体から水中に伝わり、冷却され、従って、暗室本体内は一定温度に保持される結果、供試体は、電磁波吸収体や暗室本体の温度による影響を受けることもない。
IV)電波暗室は水中に設置するため、山中に設置する場合のように場所的な制約も受けることがなく、交通等の利便性も一段と良好である。
VI)海中で使用した場合は、遊休となっている船体ドッグ、港湾倉庫地区、漁港等を有効活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1、図2は本発明を実施する形態の一例である。図中、1は水中電波暗室であって、導電性の材料、例えば鋼鉄製で、球形に近い多面体容器状の耐水圧性の暗室本体(図示例では、断面八角形状)2と暗室本体2内の内周面全体を覆うように配置された多数の電磁波吸収体3を備えている。暗室本体2には、開閉扉2aが設けられており、開閉扉2aの内面にも電波吸収体3が貼設されている。電磁波吸収体3は四角錘状で、例えばフェライトにより構成されている。暗室本体2を球形に近い多面体容器状にしたのは、水中では球形に近いほど耐圧強度が強く、又、内部に電磁波吸収体3を敷設するには、内周貼設面を平坦にする必要があるためである。暗室本体2の下部には脚4が固設されており、海底5に沈下した暗室本体2を支持し得るようになっている。
【0012】
図1中、6は暗室本体2内に収納された電気・電子機器である供試体、7は供試体6から発生する電磁ノイズを捕捉するよう、暗室本体2内に収納されたアンテナ、8は水中電波暗室1を締結される海水中に建造された構造物、9は構造物8に支持されて海面上にある海上部計測室、10は海上部計測室9に設置された電源、11はアンテナ7で捕捉された電磁ノイズを受信する計測部、12は電磁ノイズである。供試体6としてはインバータ、高周波回路等がある。
【0013】
次に、上記した実施の形態の作動を説明する。
例えば、供試体6から発せられる電磁ノイズを計測する場合は、開閉扉2aを完全に閉止した状態で、電源10から供試体6に給電を行なって供試体6を作動させ、この際、供試体6から発する電磁ノイズをアンテナ7により捕捉して計測部11へ送信し、周波数と電磁ノイズの強度を計測する。
【0014】
この際、海水は、大地接地(アース)状態にあり、且つ水中電波暗室1全体を包囲しているため、シールドとなり、又、海上から海水に向って放射された電磁ノイズ12は、海面で反射されて海中に入射されず、又、海中に入射しても急速に減衰する。このため、電磁ノイズが水中電波暗室1に到達することを大幅に抑制され、良好な水中電波暗室1を実現できる。
【0015】
供試体6から発した電磁ノイズは上記したようにアンテナ7により捕捉されるが、アンテナ7により捕捉されなかった電磁ノイズは、電磁波吸収体3にぶつかり吸収される。このため、電磁波吸収体3から供試体6に向かい電磁ノイズが放射されることはない。従って、計測部11で計測される供試体6の電磁ノイズは計測精度が高く信頼性が良好となる。
【0016】
電磁ノイズが電磁波吸収体3に吸収されると熱が発生して電磁波吸収体3の温度が上昇するが、暗室本体2は海水に浸漬されているため、熱が暗室本体2から海水に伝わり、冷却される。従って、暗室本体2内は一定温度に保持される結果、供試体6は、電磁波吸収体3や暗室本体2の温度による影響を受けることもない。
【0017】
更に、水中電波暗室1は海中に設置するため、山中に設置する場合のように場所的な制約も受けることがなく、交通等の利便性も良好であり、更に又、遊休となっている船体ドッグ、港湾倉庫地区、漁港等を有効活用することができる。
【0018】
なお、本発明の水中電波暗室は海中に設置する場合について説明したが、淡水中に設置しても実施できること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の水中電波暗室及び電磁ノイズ計測方法を説明するための概要図で、水中電波暗室が海底に沈下した状態を示す概要図である。
【図2】図1の水中電波暗室に使用する電磁波吸収体の斜視図である。
【図3】従来の市街地に設置した電波暗室で計測した電磁ノイズの一例を示すグラフである。
【図4】従来の市街地に設置した電波暗室で計測した電磁ノイズの他の例を示すグラフである。
【図5】従来の市街地に設置した電波暗室で計測した電磁ノイズの更に他の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0020】
1 水中電波暗室
2 暗室本体
3 電磁波吸収体
6 供試体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水圧性の暗室本体の内周面を電磁波吸収体により覆ったことを特徴とする水中電波暗室。
【請求項2】
暗室本体は多面体容器状である請求項1記載の水中電波暗室。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水中電波暗室を水中に沈下させて暗室本体に収納した供試体の電磁ノイズを計測することを特徴とする電磁ノイズ計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−267912(P2008−267912A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109515(P2007−109515)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】